弁護士法人ITJ法律事務所

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       主   文
一 原告aは被告村山工場第二製造部圧造課において就労すべき義務のないことを
確認する。
二 原告bは被告村山工場第一製造部第一組立課において就労すべき義務のないこ
とを確認する。
三 原告cは被告村山工場第一製造部第二組立課において就労すべき義務のないこ
とを確認する。
四 原告dは被告村山工場第二製造部第一車体課において就労すべき義務のないこ
とを確認する。
五 原告eは被告村山工場第二製造部圧造課において就労すべき義務のないことを
確認する。
六 原告fは被告村山工場第二製造部第二車体課において就労すべき義務のないこ
とを確認する。
七 原告gは被告村山工場第二製造部第一車体課において就労すべき義務のないこ
とを確認する。
八 原告らのその余の請求を棄却する。
九 訴訟費用はこれを三分し、その一を原告らの、その余を被告の各負担とする。
       事   実
第一 当事者の求めた裁判
一 原告ら
1 原告らが被告村山工場を就労場所とする機械工の地位にあることを確認する。
2 被告は原告ら各自に対し、各金三六〇万円及び右各金員に対する昭和六〇年八
月一日以降完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。
3 訴訟費用は被告の負担とする。
4 第2項につき仮執行の宣言
二 被告
(本案前の答弁)
1 本件訴はいずれもこれを却下する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
(本案の答弁)
1 原告らの請求はいずれもこれを棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
第二 当事者の主張
一 請求の原因
1(当事者)
(一)被告は、肩書地に本社を、東京都内の荻窪、三鷹、村山をはじめとして全国
九か所に工場をもち、昭和五六年六月時点で従業員数約六万五〇〇名を擁する乗用
車、トラツク等の製造販売を業とする株式会社である。被告は、昭和四一年八月プ
リンス自動車工業株式会社(以下「プリンス自工」という。)を吸収合併したもの
で、プリンス自工の前身は富士精密工業株式会社(以下「富士精密」という。)で
ある。
(二)原告aは、同三三年四月一日、富士精密に機械工として雇われ、同五六年六
月三〇日まで機械工として就労してきたのであるが、同日当時被告村山工場第三製
造部第二車軸課の機械工の地位にあつたもので、被告の従業員で組織する総評全国
金属労働組合日産自動車支部(以下「全金支部」という。)の組合員である。
(三)原告bは、同二八年四月一日、富士精密に機械工として雇われ、同五六年九
月三〇日まで機械工として就労してきたのであるが同日当時被告村山工場第三製造
部第二車軸課の機械工の地位にあつたもので、全金支部の組合員である。
(四)原告cは、同三一年四月一日富士精密に機械工として雇われ、同五六年九月
三〇日まで機械工として就労してきたのであるが、同日当時被告村山工場第三製造
部第一車軸課の機械工の地位にあつたもので、全金支部の組合員である。
(五)原告dは、同三七年三月プリンス自工に機械工として雇われ、同五六年九月
三〇日まで機械工として就労してきたのであるが、同日当時被告村山工場第三製造
部第一車軸課の機械工の地位にあつたもので、全金支部の組合員である。
(六)原告eは、同二八年四月一日富士精密に機械工として雇われ、同五六年一一
月三〇日まで機械工として就労してきたのであるが、同日当時被告村山工場第三製
造部第一車軸課の機械工の地位にあつたもので、全金支部の組合員である。
(七)原告fは、同二八年二月一六日富士精密に機械工として雇われ、同五六年一
二月三一日まで機械工として就労してきたのであるが、同日当時被告村山工場第三
製造部第一車軸課の機械工の地位にあつたもので、全金支部の組合員である。
(八)原告gは、同三九年四月一三日プリンス自工に機械工として雇われ、同五七
年二月二八日まで機械工として就労してきたのであるが、同四二年九月以降は被告
村山工場第三製造部第二車軸課の機械工の地位にあつたもので、全金支部の組合員
である。
2(配置転換の意思表示)
(一)被告は、同五六年六月三〇日、原告aに対し、村山工場第三製造部第二車軸
課長hを通じ口頭で、同年七月一日付をもつて、同工場第二製造部圧造課勤務を命
ずる旨の配置転換の意思表示をなした。
(二)被告は、同年九月三〇日、原告b、同c及び同dに対し、原告bに対しては
右hを通じ、原告c及び同dに対しては同工場第三製造部第一車軸課長iを通じて
いずれも書面で、同年一〇月一日付をもつて、原告bに対しては同工場第一製造部
第一組立課勤務を命ずる旨の、原告cに対しては同工場第一製造部第二組立課勤務
を命ずる旨の、原告dに対しては同工場第二製造部第一車体課勤務を命ずる旨の配
置転換の意思表示をそれぞれなした。
(三)被告は、同年一一月三〇日、原告eに対し、右iを通じ口頭で、同年一二月
一日付をもつて、同工場第二製造部圧造課勤務を命ずる旨の配置転換の意思表示を
なした。
(四)被告は、同年一二月一五日、原告fに対し、右iを通じ口頭で、同五七年一
月一日付をもつて、同工場第二製造部第二車体課勤務を命ずる旨の配置転換の意思
表示をなした。
(五)被告は、同五七年二月二六日、原告gに対し、右hを通じ口頭で、同年三月
一日付をもつて、同工場第二製造部第一車体課勤務を命ずる旨の配置転換の意思表
示をなした(以下、被告の原告らに対する右配置転換の意思表示を「本件配転」と
いう。)。
3(雇用契約違反による本件配転の無効)
(一)(1) 原告aは、中学卒業の際富士精密による機械工募集の求人申込みに
応募し同三三年四月一日機械工として富士精密に採用され、同年七月一日から同四
二年八月三一日まで荻窪工場工作一課に、同年九月一日から同四三年九月ころまで
村山工場機関組立課に、同年一〇月ころから同五〇年八月ころまで同工場機関課
に、同年九月ころから本件配転に至るまで同工場第三製造部第二車軸課にそれぞれ
所属し、自動車のエンジン及びミツシヨンの歯車の機械加工作業、歯切盤・研削盤
の機械作業、シリンダーヘツドのラツピングマシンの機械作業、クランクシヤフト
の研削盤等の機械作業、デフケースの自動旋盤・研削盤等の機械作業に従事する機
械工として就労してきた(但し、同四二年九月一日から同四三年三月末日までの間
の車体課コンベアー作業の応援を除く。)。
(2) 原告bは、中学卒業の際富士精密による機械工募集の申人申込みに応募し
同二八年四月一日機械工として富士精密に採用され、荻窪工場作業一課に配属され
課名は変わつたが一貫して同一職場に所属し、同四一年一一月ころから本件配転に
至るまで村山工場第三製造部第二車軸課に所属し、クランクシヤフト及びドライブ
シヤフトの旋盤加工研削加工作業、ナツクルスピンドルの旋盤加工作業、キヤリア
のキヤツプのフライス盤加工作業等の機械作業に従事する機械工として就労してき
た(但し、約一か月間の組立課コンベア作業の応援を除く。)。
(3) 原告cは、中学卒業の際富士精密による機械工募集の求人申込みに応募し
同三一年四月一日機械工として富士精密に採用され、同年六月荻窪工場工作一課に
配属され、課名は変わつたが一貫して同一職場に所属し、同四三年一〇月ころから
村山工場機関課に、同五〇年九月から本件配転に至るまで同工場第三製造部第一車
軸課にそれぞれ所属し、ミツシヨンギアの旋盤加工作業、同ボール盤加工作業、同
フライス盤加工作業、同歯切盤加工作業、シリンダーブロツクのフライス盤加工作
業、ハイホイドギアの旋盤加工作業等の機械作業に従事する機械工として就労して
きた(但し、同四二年九月一日から同四三年三月末までの間の車体課サブ作業の応
援を除く。)。
(4) 原告dは、中学卒業後しばらくしてプリンス自工による機械工募集の求人
申込みに応募し同三七年三月機械工としてプリンス自工に採用され、荻窪工場シヤ
シー課に、同三八年八月ころ同工場ミツシヨン課に、同四一年九月ころ再び同工場
シヤシー課に、同年一一月ころから本件配転に至るまで村山工場第三製造部第一車
軸課にそれぞれ所属し、クラウンギアの歯切盤加工作業、ミツシヨンギアの研削盤
加工作業、キヤリアのキヤツプのフライス盤及びボール盤加工作業等に従事する機
械工として就労してきた(但し、同五五年一二月一一日から同五六年二月六日まで
の間の第一車体課コンベア作業の応援を除く。)。
(5) 原告eは、中学卒業の際富士精密による機械工募集の求人申込みに応募し
同二八年四月一日機械工として富士精密に採用され、同年七月一日から同四一年一
一月ころまで荻窪工場工作課に、同月ころから本件配転に至るまで村山工場第三製
造部第一車軸課にそれぞれ所属し、荻窪工場においてはクラツチハウジング、シリ
ンダーヘツド等のフライス盤加工作業、ボール盤加工作業、リングギアの歯切盤機
械作業、村山工場においてはアクスルセンター専用機械作業、スピンドルナツクル
のブローチ盤、ボーリング盤、ボール盤、フライス盤機械作業等に従事する機械工
として就労してきた。
(6) 原告fは、東京都中央公共職業補導所修了の際富士精密による機械工募集
の求人申込みに応募し、同二八年二月一六日機械工として富士精密に採用され、同
四二年八月三一日まで荻窪工場作業課に、同年九月一日から本件配転に至るまで村
山工場第三製造部第一車軸課にそれぞれ所属し、二サイクルエンジン、シリンダー
ブロツク、ミツシヨンケース、同オートマチツク、リアーアクスルシヤフト、シリ
ンダーヘツド等のボール盤、旋盤雉フライス盤、ボーリング盤、歯切盤及びGF倣
い旋盤による加工作業に従事する機械工として就労してきた。
(7) 原告gは、プリンス自工による機械経験工募集の新聞求人申込みに応募
し、同三九年四月一三日機械経験工(経験年数一五年)としてプリンス自工に採用
され、同四二年八月三一日まで荻窪工場エンジン課及び同工場ミツシヨン課に、同
年九月一日から本件配転に至るまで村山工場機関課及び同工場第三製造部第二車軸
課にそれぞれ所属し、荻窪工場においてはシリンダーブロツク、シリンダーヘツド
等のフライス盤加工作業、ボール盤加工作業雉ミツシヨンギアの旋盤機械作業、村
山工場においてはコネクチングロツドの研削盤作業、リヤーアクスルシヤフトの多
軸ボール盤、研削盤、GF倣い旋盤、高周波焼入れ作業に従事する機械工として就
労してきた。
(二) 右のとおり、原告a、b、c、e及びfと富士精密との間並びに原告d及
びgとプリンス自工との間の各雇用契約は、入社時において労働者の従事する職務
(職種)が機械工と明確に合意されているのであるから、このよな場合、使用者が
職種変更を伴う配置転換を行うには当該労働者の同意を得なければならず、右同意
を得ることなく職種変更を伴う配置転換をなすことはできないものというべきであ
る。しかるに、被告は原告らの同意なくして原告らを機械工以外の職務に従事させ
る旨の本件配転をなしたのであるから、本件配転は雇用契約違反としてその効力を
生じない。
(三) 仮に、原告らの入社時における雇用契約において原告らが従事する職務が
機械工であると明確に合意されていなかつたとしても、原告らはいずれも入社以来
本件配転に至るまで一貫して機械工として就労してきており、被告も異議なく原告
らの機械工としての就労を受け入れてきたものであるから、少なくとも本件配転時
までには原告らが村山工場の機械工として就労することが原告らと被告との間の雇
用契約の内容になつたものというべきである。しかるに、被告は原告らの同意なく
して本件配転をなしたのであるから、本件配転は雇用契約違反としてその効力を生
じない。
4 (労働協約ないし労使慣行違反による本件配転の無効)
(一) 全金支部と富士精密、プリンス自工及び被告との間には、使用者が組合員
を配置転換や応援をさせる場合には、全金支部と協議し、当該組合員の同意を得な
ければ、その人事権を行使しない旨の合意がなされており、右合意は同四二年八月
二九日付の覚書以外は文書化されなかつたが、全金支部と被告との間の「労働者の
待遇に関する基準」の口頭による合意として労働協約の性格を有する。したがつ
て、全金支部との協議並びに原告らの同意を得るという手続を経ることなくしてな
された本件配転は、労組法一六条の労働協約の規範的効力に違反するものとしてそ
の効力を生じない。
(二) 仮に、全金支部と被告との間の右合意が労組法上労働協約として認められ
ないか、もしくは規範的効力を認められないとしても、全金支部と被告との間に
は、職種変更を伴う配置転換のように労働者に重大な労働条件の変更を生ずる人事
権を行使する際には、全金支部と協議しかつ当該組合員個人の同意を得てこれを実
施する旨の労使慣行が確立し、これが被告における規範として確立している。した
がつて、右手続を経ることなくしてなされた本件配転は、労使慣行違反としてその
効力を生じない。
5 (不当労働行為による本件配転の無効)
 原告らはいずれも全金支部の組合員であるところ、被告は、同四一年八月プリン
ス自工を吸収合併した後、全金支部の活動を嫌悪し、その組織を弱体化させるた
め、被告に協調的な多数派である日産労組に所属する組合員と全金支部所属の組合
員とを、賃金、仕事内容、昇給、昇格等の労働条件の面においてのみならず、組合
事務所、組合掲示板の貸与等の便宜供与並びに団体交渉実施の面においても、こと
ごとく差別して処遇してきた。原告らに対する本件配転も、右一連の差別処遇の中
の一つとして永年にわたつて機械工としての技能、経験を積んできた原告らを、村
山工場もしくは荻窪工場の機械職場に容易に配転しえたにもかかわらず、敢えて肉
体的にも精神的にも大きな苦痛を伴う過酷なコンベアライン作業等に一方的に配転
したものである。右のとおり、本件配転は、全金支部の組織を弱体化させ、かつ全
金支部所属の原告らに対し日産労組に所属する組合員と差別して処遇する意思の下
になされた行為であつて労組法七条一号、三号に該当する不当労働行為としてその
効力を生じない。
6 (配転命令権濫用による本件配転の無効)
 本件配転は、被告が、原告らが就労する機械工場を他所へ移転する必要がないの
に敢えて移転し、かつ、職種転換を伴う配転についてはこれを回避するためできる
限りの努力をなすべき義務があるのにこれを尽さず、さらには人選にあたつて原告
らの永年にわたる機械工としての技能、経験を一切考慮することなく専ら原告らに
苦痛を与えることを目的としてなした配転命令権濫用の配転命令であつて無効であ
る。
 すなわち
(一) 工場移転の必要性はない。
 被告は、サニー関係のFF化並びにFF部品生産工場の栃木、横浜移転により村
山工場で七一名の機械工が余剰となつたと主張するが、FF機械工場を村山工場敷
地内に建築することは可能であり、敢えて栃木、横浜工場へ移す必要性はなかつ
た。
(二) 職種転換配転回避務を尽くしていない。
 例えFF機械工場を栃木等へ移転し、村山工場のサニー関係の製造部門を廃止す
るにしても、外注に出しているローレル、フオークリフト車軸部品の内製化、日産
厚木部品で加工しているマーチ車軸部品の機械加工、工場内の他の機械職場の増
員、退職者の補充等村山工場内で七一名の機械工の職場を確保することは容易であ
るのに、被告はかかる努力を尽くさなかつた。
(三) 人選の合理性を欠いている。
 原告らは前述のとおり入社以来機械工として永年の間技能を研き経験を積んでき
たのであるから、配転をなす場合においてはその技能、経験を十分考慮し村山工場
内において機械工の職場が残存する場合においてはでき得る限り機械職場に就労さ
せるべきものである。しかるところ、村山工場においては、スカイライン及びロー
レルのシヤシー部品の機械加工工程、フオークリフトの機械加工工程があり、右以
外にも工務部工具管理課及び工務課に計四五名位の機械職場と工機工場第三工機部
製作課に数十名の機械職場がある。しかるに被告は、永年にわたつて機械工として
の技能、経験を積んできた原告らを、その技能、経験を一切考慮することなく、一
方的に肉体的にも精神的にも大きな苦痛を伴うラインコンベア作業等に職種変更し
た。
 原告らの個別の事情は、以下のとおりである。
(1) 原告a
 原告aは、入社以来本件配転に至るまで二三年もの間一貫して自動旋盤、研削盤
等の工作機械を使用して機械加工作業に従事してきた熟練工である。しかるに原告
aは、本件配転によつて、村山工場第二製造部圧造課に配転され、ローレル関係の
プレス工の仕事に従事している。右プレス工の仕事はベルトコンベアに追いかけら
れる単純作業であつて、原告aは自己の持つ技術的能力の発揮を否定され、精神
的、肉体的苦痛は極めて強いものがある。
(2) 原告b
 原告bは、入社以来本件配転に至るまで一貫して機械工として旋盤、研磨盤、フ
ライス盤、ボール盤、ブローチ盤等の工作機械を使用した機械加工作業に従事して
きた熟練工である。しかるに、原告bは、本件配転によつて、村山工場第一製造部
第一組立課に配転され、スカイライン、ローレルのタイヤ及びステアリングケージ
取付けのコンベアライン作業に従事している。右の仕事は、何ら技術的熟練を必要
とせず、ただ体力のみを要求される作業であつて、原告bは、同五六年一〇月一二
日に労務災害によつて左手首切創、右手首打撲の傷害を負つたうえ、同月末ころよ
り右肘、右腕、右肩、右肩甲部等に痛みを覚えるようになり、同年一一月二四日頚
肩腕障害と診断され、同日以降同年一二月末まで休業を余儀なくされたため、同五
七年一月以降プロペラシヤフトボルト差し等の単純な軽作業に従事している。な
お、原告bは、右傷病につき業務上災害の認定を受けた。
(3) 原告c
 原告cは、入社以来本件配転に至るまで一貫して機械工として旋盤、ボール盤、
フライス盤、歯切盤等の工作機械を使用した機械加工作業に従事してきた熟練工で
ある。しかるに、原告cは、本件配転によつて、村山工場第一製造部第二組立課に
配転され、スカイラインのガソリン給油のコンベアライン作業に従事している。右
の仕事は全くの単純作業であつて、原告cは本件配転直後から鼻に痛みを覚えて鼻
血が出るようになり、体重は当初の一週間で二.五キログラム、一か月で六キログ
ラム減少し、食欲がなくなり慢性的に足腰の痛みを覚えるようになつた。
(4) 原告d
 原告dは、入社以来本件配転に至るまで一貫して機械工として旋盤、ボール盤、
歯切盤、フライス盤等の工作機械を使用した機械加工作業に従事してきた熟練工で
ある。しかるに、原告dは、本件配転によつて、村山工場第二製造部第一車体課に
配転され、ローレルのサンダー掛けのコンベアライン作業に従事している。右の仕
事は全く熟練を必要としない単純作業であつて、原告dは、本件配転直後から食欲
が落ち手指がしびれるようになり、同五六年一〇月一九日から同月二二日までと同
月二六日午後から同月三〇日まで休業を余儀なくされ、その後指、手首、腕、肩と
痛みが拡がりかつ慢性的になり、握力が落ち、茶碗を落すこともしばしばあるとい
う状態である。
(5) 原告e
 原告eは、入社以来本件配転に至るまで一貫して機械工としてフライス盤、ボー
ル盤、歯切盤等の工作機械を使用した機械加工作業に従事してきた熟練工であり、
本件配転前には被告が重要保安部品に指定しているナツクル・スピンドルの加工作
業に従事していた。しかるに、原告eは、本件配転によつて、村山工場第二製造部
圧造課に配転され、プレスのコンベアライン作業に従事している。右の仕事は、コ
ンベアによつて流れてくる鉄板を型に入れ両手でボタンのスイツチを押すことと加
工された品物を台車に積む仕事で、全く熟練を必要としない単純作業である。原告
eは、本件配転直後から手首、肩、足腰の疲労が激しく、耳に異常音を生ずるに至
つている。
(6) 原告f
 原告fは、入社以来本件配転に至るまで一貫して機械工としてボール盤、フライ
ス盤、ボーリング盤、歯切盤、GF倣い旋盤等の工作機械を使用した機械加工作業
に従事してきた熟練工であり、本件配転前には被告が重要保安部品に指定している
リヤーアクスルシヤフトの加工作業に従事していた。しかるに、原告fは、本件配
転によつて、村山工場第二製造部第二車体課に配転され、コンベアライン上での鉄
板投入作業に従事し、同五七年九月一三日以降はエツクス・ガンによる鉄板のスポ
ツト溶接作業に従事している。右の仕事はいずれも全く熟練を要しない単純作業で
あつて、原告fは、現在毎朝両手の五本の指を一本ずつ起こさなければならないほ
どの指の筋肉の硬直化に苦しんでいる。
(7) 原告g
 原告gは、入社以来本件配転に至るまで一貫して機械工としてフライス盤、ボー
ル盤、旋盤、研削盤、多軸ボール盤、GF倣い旋盤、高周波焼入れ機等の工作機械
を使用した機械加工作業に従事してきた熟練工であつて、本件配転前には被告が重
要保安部品に指定しているアクスルシヤフトの加工作業に従事していた。しかる
に、原告gは、本件配転によつて、村山工場第二製造部第一車体課に配転され、コ
ンベアライン上での車体ピラー溶接後の作業に従事している。右の仕事は全く熟練
を必要としない単純作業であつて、原告gは高血圧が持続し、腰痛、肩こり、疲
労、手足のしびれ、むくみ等の異常を生じ、毎月の定休日以外の日にも休養のため
休暇をとらざるを得ない状態で、同五七年五月中旬ころからは頭痛が持続するよう
になつている。
7 (不法行為)
 原告らに対する本件配転は、前述のとおり、専ら原告らに苦痛を与える目的を以
つてなされた不当労働行為であり、これにより原告らは永年にわたつて就労してき
た機械工としての職場を奪われるものであるから原告らに対する不法行為をも構成
する。原告らは本件配転以降永年働き慣れた機械工の仕事を奪われ、肉体的にも精
神的にも大きな苦痛を伴うコンベアライン作業等に従事させられている。この苦痛
による損害を金銭に換算すれば原告ら各自につき月額金一〇万円が相当である。
8 よつて、原告らは被告に対し、本件配転が無効であるから、原告らが被告村山
工場を就労場所とする機械工の地位にあることの確認を求めるとともに、原告ら各
自右不法行為に基づく損害金のうち同五七年八月一日から同六〇年七月末日までの
分合計金三六〇万円及び右金員に対する不法行為の後である同年八月一日以降完済
に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
二 本案前の答弁の理由
 本訴における原告らの請求の趣旨第1項は、村山工場を就労場所とする機械工の
地位にあることの確認を求めるものであるところ、これは被告村山工場に原告らが
就労することのできる機械工の仕事が存在することを前提要件とするものである。
しかるところ、村山工場には右のような仕事は存在しないのであるから、本訴は訴
の利益を欠き却下を免れない。
三 請求の原因に対する認否
1 請求の原因1(一)の事実は認める。
2 同1の(二)ないし(八)のうち原告らが機械工として採用されたことは否認
し、その余の事実は認める。
3 同2の事実は認める。
4(一)(1) 同3(一)(1)のうち、原告aがその主張のような経過で富士
精密に採用(但し、機械工として採用されたことは除く。)され、本件配転に至る
までその主張のような課に所属し、機械工として就労してきたことは認めるが、原
告aが従事していた具体的作業内容は不知、その余の事実は否認する。原告aは技
能員として採用されたものである。
(2) 同3(一)(2)のうち、原告bがその主張のような経過で富士精密に採
用(但し、機械工として採用されたことは除く。)され、本件配転に至るまでその
主張のような課に所属し(但し、村山工場に配属されたのは同四二年一月であ
る。)、機械工として就労してきたことは認めるが、原告bの具体的作業内容は不
知、その余の事実は否認する。原告bは技能員として採用されたものである。
(3) 同3(一)(3)のうち、原告cがその主張のような経過で富士精密に採
用(但し、機械工として採用されたことは除く。)され、本件配転に至るまでその
主張のような課に所属し(但し、荻窪工場工作一課に配属されたのは同三一年九月
である。)、機械工として就労してきたことは認めるが、原告cの具体的作業内容
は不知、その余の事実は否認する。原告cは技能員として採用されたものである。
(4) 同3(一)(4)のうち、原告dがその主張のような経過でプリンス自工
に採用(但し、機械工として採用されたことは除く。)され、本件配転に至るまで
その主張のような課に所属し(但し、村山工場第三製造部第一車軸課に配属された
のは同四二年一月である。)、機械工として就労してきたことは認めるが、原告d
の具体的作業内容は不知、その余の事実は否認する。原告dは技能員として採用さ
れたものである。
(5) 同3(一)(5)のうち、原告eがその主張のような経過で富士精密に採
用(但し、機械工として採用されたことは除く。)され、本件配転に至るまでその
主張のような課に所属し(但し、荻窪工場工作課に配属していたのは同二八年四月
一日から同四一年一二月末日まで、村山工場第三製造部第一車軸課に配属されたの
は同四二年一月一日からである。)、機械工として就労してきたことは認めるが、
原告eの具体的作業内容は不知、その余の事実は否認する。原告eは技能員として
採用されたものである。
(6) 同3(一)(6)のうち、原告fがその主張のような経過で富士精密に採
用(但し、機械工として採用されたことは除く。)され、本件配転に至るまでその
主張のような課に所属し、機械工として就労してきたことは認めるが、原告fの具
体的作業内容は不知、その余の事実は否認する。原告fは技能員として採用された
ものである。
(7) 同3(一)(7)のうち、原告gがその主張のような経過でプリンス自工
に採用(但し、機械工として採用されたことは除く。)され、本件配転に至るまで
その主張のような課に所属し、機械工として就労してきたことは認めるが、原告g
の具体的作業内不知、その余の事実は否認する。原告gは技能員として採用された
ものである。
(二) 同3(二)は争う。
 被告における原告らの担当職務は被告において決定、命令し、原告らはこれに服
することになつている。このことは富士精密、プリンス自工及び被告を通じて何ら
異なることはない。被告が原告らに対し職種変更を業務命令で行つたのは被告従業
員規則四八条の「1、業務上必要があるときは、従業員に対し、転勤、転属、出
向、駐在又は応援を命じることができる。2、前項に定める異動のほかに、業務上
の必要があるときは、従業員に対し職種変更又は勤務地変更を命じることができ
る。3、従業員は、正当な事由がなければ第一項及び第二項の命令を拒むことがで
きない。」との定めに基づくものである。
(三) 同3(三)のうち、原告らが入社以来本件配属に至るまで機械工として就
労してきたこと、被告が異議なく原告らの機械工としての就労を受け入れてきたこ
とは認めるが、その余は争う。
5(一) 同4(一)のうち、昭和四二年八月二九日付の覚書が存在することは認
めるが、その余の事実は否認する。右覚書は、その記載文言からも明らかなよう
に、単に応援が終了した後は職場に復帰させることを謳つているに過ぎない。
(二) 同4(二)の事実は否認する。全金支部は被告に対し同五六年六月一一日
付要求書第四項で「やむを得ず職務転換する場合には、事前に当支部に提案し、支
部及び本人の同意を得ること。」を要求している。これは原告らが主張するような
労働契約、労働協約及び労使慣行が存在しないことの何よりの証拠である。
6 同5の事実のうち原告らが全金支部組合員であること及び被告が昭和四一年八
月プリンス自工を吸収合併したことは認めるが、その余の事実のは否認する。
7(一) 同6の冒頭の事実並びに(一)及び(二)の事実はすべて否認する。
 工場移転の必要性は後述するが、原告ら就労の機械職場が栃木工場に移る以上原
告らを配転せざるを得ないのであるが、村山工場内の他の機械職場には他の機械工
が就労しているから同工場内で原告らを機械工に配転できる余地はない。
むしろ、被告は、解雇を避けるため原告らを含め同職場の機械工の配転を行つたの
である。
(二) 同6(三)の冒頭の事実のうち原告らが機械工として就労していたこと及
び村山工場に原告ら主張の機械職場のあることは認めるが、その余の事実は否認す
る。
 原告ら主張の職場には他の機械工が就労しておりこれを排して原告らを配置する
ことはできないことは前述のとおりである。また、原告らと同じ機械工であつた者
が原告らと同じ職種に配転になつているのであつて原告らのみを機械工として残置
せしむべき理由もない。
(三) 同6(三)(1)のうち、原告aが機械加工作業に従事してきたこと、同
原告が本件配転後プレスの仕事に従事していることは認めるが、その余の事実は否
認する。
(四) 同6(三)(2)のうち、原告bが機械加工作業に従事してきたこと、同
原告が本件配転後タイヤ及びステアリングケージ取付け並びにプロペラシヤフトボ
ルト差し等の仕事に従事していること、同原告がその主張の傷病につき業務上災害
の認定を受けたことは認めるが、その余の事実は否認する。
(五) 同6(三)(3)のうち、原告cが機械加工作業に従事してきたこと、同
原告が本件配転後ガソリン給油の仕事に従事していることは認めるが、同原告の配
転後の健康状態は不知、その余の事実は否認する。
(六) 同6(三)(4)のうち、原告dが機械加工作業に従事してきたこと、同
原告が本件配転後サンダー掛けの仕事に従事していること、同原告がその主張の日
に休業したことは認めるが、その余の事実は否認する。
(七) 同6(三)(5)のうち、原告eが機械加工作業に従事し、重要保安部品
であるナツクル・スピンドルの加工作業を行つていたこと、同原告が本件配転後プ
レスの仕事に従事していること、右の仕事がその主張のような作業手順によつて行
われることは認めるが、同原告の配転後の健康状態は不知、その余の事実は否認す
る。
(八) 同6(三)(6)のうち、原告fが機械加工作業に従事し、重要保安部品
であるリヤーアクスルシヤフトの加工作業を行つていたこと、同原告が本件配転後
鉄板投入、スポツト溶接の仕事に従事していることは認めるが、同原告の配転後の
健康状態は不知、その余の事実は否認する。
(九) 同6(三)(7)のうち、原告gが機械加工作業に従事し、重要保安部品
であるアクスルシヤフトの加工作業を行つていたこと、同原告が本件配転後車体ピ
ラー溶接後作業に従事していることは認めるが、同原告の配転後の健康状態は不
知、その余の事実は否認する。
8 同7の事実は否認する。
四 被告の主張
 被告が本件配転をなすに至つた経緯は、以下のとおりである。
1 本件配転当時被告村山工場は、総務部、工務部、検査部、第一ないし第三製造
部により組織され、第一製造部は自動車の塗装及び艤装の工程を、第二製造部は自
動車のプレス及び組立の工程をそれぞれ担当し、第三製造部は自動車の艤装工程に
使用される車軸を製造する第一、第二車軸課、熱処理課及びフオークリフト課から
構成されていた。なお、当時村山工場で製造していた自動車の車種はローレル及び
スカイラインであつたが、第一、第二車軸課及び熱処理課においてはサニー、バイ
オレツト、オースター及び小型トラツクの車軸をも製造していた。
2 被告は、昭和五五年、サニー、バイオレツト及びオースターの車軸機構を後輪
駆動(以下「FR」という。)から前輪駆動(以下「FF」という。)に変更する
こととし、右三車種のFF化に当つて、従来のFR車の製造を中止するとともに、
中止の翌日からFF車を製造する方法をとることにした。そしてFF化の時期につ
いては、国内向バイオレツト、オースターは同五六年五月、国内向サニーは同年一
〇月、輸出向バイオレツト、オースターは同年七月、輸出向サニーは同年一二月と
した。
3 そこで被告においては右三車種のFF化に伴い工場の整備、人員の再配置等の
検討をなしたが、第一、第二製造部において担当している前記プレス、組立、塗装
及び艤装の各工程は、FR車用の設備を若干改造すればFR車製造中止の翌日から
FF車の製造工程に使用することが可能であつたが、右艤装工程で取り付けられる
車軸については、FF化によつてその機構が著しく異なることとなり、FF車の車
軸部品を製造するため機械を新たに用意し、そのため建家を確保する必要があつ
た。しかも、FR車製造中止の翌日からFF車を製造するためには、切替日の六か
月前からFF車用車軸の製造部署を準備し、一か月前から車軸部品の製造を開始し
なければならず、結局七か月間はFR車用車軸とFF車用車軸を併行して製造しな
ければならないことになつた。
4 ところで、FF車の車軸は、エンジンに近い前輪を駆動させるため、FR車よ
り部品の点数が少なくなり、FF化によつて車軸の製造を担当する機械工、溶接工
及び機械組立工の約半数が余剰人員となる。被告としては右余剰人員を解雇しなけ
れならないのであるが、被告は、右解雇を回避するため、当時新たに製造を開始す
ることにしていたマーチを村山工場において製造し、これに要するプレス、組立、
塗装及び艤装の各工程の要員約八〇〇名をFF化によつて生ずる余剰人員をもつて
充てることを計画した。
5 しかしながら、村山工場においてマーチを製造することになると車軸工場のス
ペースがなくなるため、被告は、サニーの車軸製造を栃木工場に移管することにし
たが、そうなれば村山工場において右車軸の製造を担当していた従業員三五五名
(機械工一四二名、溶接工一〇〇名、機械組立工一一三名)が仕事を失う結果にな
るが、その人員はマーチの製造工程の要員に充当し、さらに、村山工場における小
型トラツク用車軸の製造を中止し、右車軸の製造を担当していた従業員一四〇名
(機械工八二名、機械組立工五八名)をもマーチの製造工程の要員に充当すること
とした。しかしなおマーチの製造工程に約三〇〇名の要員が不足するが、村山工場
における主要な製造車種であるローレル及びスカイラインが売れ行き不振のため仕
事が閑散であつたので、不足分は同工場の現有在籍人員でやりくりすることになつ
た。
6 被告は、右の計画に従つて、栃木工場において同五六年九月サニーのFF車国
内向の車軸製造を、同年一一月同輸出向の車軸製造をそれぞれ開始し、同年一〇月
から同五七年三月にかけて村山工場におけるサニー、バイオレツト及びオースター
のFR車の車軸製造を中止した。
7 被告は、以上のような理由から、同五六年六月一日以降同五七年三月一六日ま
での間、別表記載のとおり合計四九五名の配置転換を行つたもので、本件配転はこ
の一部である。
 ただ被告は、本件配転に当り、原告らの経歴、技能等の特性、配転先の適否等を
考慮することなく、原告らを適宜余裕のある職場に充当した。
8 以上のとおり本件配転は、被告の製造する自動車の三車種のFF化に伴い村山
工場の担当業務を大幅に変更したことによるものであつて、就業規則四八条二項及
び三項の「会社は業務上必要があるときは従業員に対し職種変更又は勤務地変更を
命ずることができる。従業員は正当な事由がなければ右命令を拒むことはできな
い。」との規定に基づいてなされたものであり、正当な業務命令である。
五 被告の主張に対する認否
1 被告の主張1の事実は認める。
2 同2ないし7の各事実は否認する。
 本件配転は、車格の異なる車種の導入によつて村山工場の生産体制の平均化と車
軸部品の生産を栃木工場へ集中することによつて収益の向上を狙つたもの、すなわ
ち会社の利益の増大だけを判断基準としたものである。FF化によつて仕事がなく
なつたので解雇を避けるため配転したのではなく、マーチの生産人員を創出確保す
るため機械工の仕事をなくしたに過ぎない。本件配転は、会社の利潤追求のみを目
的として労働者にだけ犠牲を押しつける典型的かつ大規模な「合理化」であつて、
決して「余つた人を救うため」のものではない。
3 同8のうち被告主張の就業規則が存在することは認めるが、その余の事実は否
認する。
第三 証拠(省略)
       理   由
一 被告の本案前の答弁について
 被告は、被告村山工場には原告らが就労することのできる機械工の仕事が存在し
ないのであるから、本件訴は訴の利益を欠き却下を免れない旨主張する。確かに原
告らは、本訴請求の趣旨においては被告村山工場を就労場所とする機械工の地位に
あることの確認を求めるとしているのであるが、請求の原因においては雇用契約違
反、労働協約違反、不当労働行為ないしは配転命令権の濫用等により本件配転が無
効である旨主張しているところからすれば、原告らがそれぞれの配転を命ぜられた
先での就労義務の存在しないことの確認を求めている趣旨を含むものと理解できる
から、たとえ被告主張どおり被告村山工場において原告らが就労できる機械工の仕
事が存在しなくとも、本件訴が訴の利益を欠くということにはならない。したがつ
て、被告の本案前の答弁は理由がない。
二 そこで、地位確認請求の本案について判断する。
1 請求の原因1(一)及び同1(二)ないし(八)のうち原告らが機械工として
採用されたことを除くその余の事実並びに同2の事実は当事者間に争いがない。
2 雇用契約違反の主張について
(一)(1)原告aが中学卒業の際富士精密による機械工募集の求人申込みに応募
して昭和三三年四月一日富士精密に採用されたこと、同原告が同年七月一日から同
四二年八月三一日まで荻窪工場工作一課に、同年九月一日から同四三年九月ころま
で村山工場機関組立課に、同年一〇月ころから同五〇年八月ころまで同工場機関課
に、同年九月から本件配転に至るまで同工場第三製造部第二車軸課にそれぞれ所属
し、機械工として就労していたことは当事者間に争いがない。
(2) 原本の存在並びに成立に争いのない甲第一号証、原告a本人尋問の結果に
より真正に成立したものと認められる同第一四号証の一ないし一二、及び原告a本
人尋問の結課によると以下の事実を認めることができる。すなわち、
(イ)原告aは、同三三年中学卒業と同時に父の知合いの町工場に機械工として就
職することになつていたが、中学の担任教諭から「どうせ機械工をやるなら大きな
会社に入つた方がいいだろう。」と勧められ、富士精密荻窪工場において機械工を
募集している旨紹介されてこれに応募したところ、採用されるに至つた。
(ロ)原告aは、同年四月一日以降三か月間機械工としての教育を受けた後、同年
七月一日本採用となつて荻窪工場工作一課に配属され、歯切盤、ターレツト旋盤及
び研削盤等を使用して機械加工作業に従事していた。
(ハ)原告aは、同四二年当時、自動車の変速機の機械加工の仕事に従事していた
が、被告は、右の業務を吉原工場に移管し、原告aはじめ四名を村山工場機関組立
課に配置転換し機械組立工の仕事に従事させることを提案した。そこで原告aの所
属する全金支部は、原告aらは機械工であるから組立工に職種変更することには同
意できないとして会社と折衝した結果、同年八月二九日被告との間で「機関組立課
への転勤者については車体課応援終了後機械工職に就かせる。」との覚書を取り交
した。そこで原告aは同年九月一日村山工場機関組立課に配置換えとなりラツプ盤
の仕事に従事していたが、同四三年一〇月ころ右覚書に基づいて同工場機関課に配
置換えとなつて研削盤を使用してクランクシヤフトを加工する機械工としての仕事
に従事した。
(ニ)その後原告aは、同五〇年九月、同工場第三製造部第二車軸課に配置換えと
なり、本件配転に至るまで、機械工として自動旋盤、研削盤及びトランスフアーマ
シン等を使用して自動車のデフケースを加工する仕事に従事した。
 以上の事実を認めることができ、右認定を覆えすに足る証拠はない。
(二)(1)原告bが中学卒業の際富士精密による機械工募集の求人申込みに応募
し、同二八年四月一日同社に採用されたこと、同原告が荻窪工場工作一課に配属さ
れ、課名は変わつたが一貫して同一職場に所属し、機械工として就労していたこと
は当事者間に争いがない。
(2) 原告b本人尋問の結課により真正に成立したものと認められる甲第一五号
証の二、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる乙第八号証、及び原
告b本人尋問の結果によると以下の事実を認めることができる。すなわち、
(イ)原告bは、同二八年三鷹市立三鷹中学を卒業するに当り、将来機械工になり
たいとの希望を持つていたところ、富士精密荻窪工場で機械工を募集していること
を知つてこれに応募し、同社に採用されるに至つた。
(ロ)原告bは、同年四月一日以降三か月間機械工としての教育を受けた後、同年
七月一日本採用となつて荻窪工場工作一課に配属され、旋盤、ボール盤、フライス
盤及び研磨盤等を使用してクランクシヤフト、トランスミツシヨンあるいは車軸部
品等を機械加工する等の機械工たる仕事に従事していた。
(ハ)その後同原告の所属していた職場が職場ごと村山工場に移転することになつ
たため、原告bは、同四二年一月ころ、村山工場第三製造部第一車軸課に配置換え
になつたものの、同四五年九月一日から同年一〇月九日までと同四九年二、三月に
組立の仕事の応援に出た以外は、機械工として従前同様工作機械を使用して機械加
工をする仕事に従事していた。
(ニ)さらに原告bは、同五三年三月、同原告が従事していたトラツクの車軸部品
を加工する仕事が外注に出されることになつたため、同工場第三製造部第二車軸課
に配置換えとなり、本件配転に至るまで工作機械を使用してサニーの車軸部品を機
械加工する機械工たる仕事に従事していた。
 以上の事実を認めることができ、右認定を覆えすに足る証拠はない。
(三)(1)原告cが中学卒業の際富士精密による機械工募集の求人申込みに応募
し、同三一年四月一日同社に採用されたこと、同原告が荻窪工場工作一課に配属さ
れ、課名は変わつたが一貫して同一職場に所属し、同四三年一〇月ころから村山工
場機関課に、同五〇年九月から同工場第三製造部第一車軸課にそれぞれ所属し、機
械工として就労してきたことは当事者間に争いがない。
(2) 前掲甲第一号証、成立に争いのない同第二二号証の一ないし四、同乙第一
〇号証、及び原告c本人尋問の結果によると以下の事実を認めることができる。す
なわち、
(イ)原告cは、同三一年三月杉並区立井草中学を卒業するに際し、中学の担任教
諭から富士精密で機械工を募集しているので応募してみないかと勧められ、たまた
ま同原告の兄jが同社に機械工として勤務していたこともあつてこれに応募したと
ころ、採用されるに至つた。
(ロ)原告cは、同年四月一日以降三か月間機械工として教育を受けた後、同年七
月一日本採用となつて荻窪工場工作一課に配属され、機械工として旋盤、ボール
盤、フライス盤及び歯切盤等を使用して機械加工作業に従事した。
(ハ)原告cは、同四二年当時、自動車の変速機の機械加工の仕事に従事していた
が、前記(一)(2)(ハ)認定のとおり、原告cの所属する全金支部が同年八月
二九日会社との間に覚書を取り交したので、原告cは同年九月一日以降同四三年三
月末日までの間車体課に出向いてサブ作業の応援をしたが再び機械工に戻りボール
盤の仕事に従事していた。その後原告cは、同年一〇月ころ右の職場がなくなつた
ため、前記覚書に基づいて同工場機関課に配置換えとなつてボール盤、フライス盤
を使用してシリンダーブロツクを加工する仕事に従事していた。
(ニ)原告cは、同五〇年九月右の職場が九州工場に移されたため、村山工場第三
製造部第一車軸課に配置換えとなり、本件配転に至るまで機械工として倣い旋盤及
びNC旋盤を使用し機械加工に従事していた。
 以上の事実を認めることができ、右認定を覆えすに足る証拠はない。
(四)(1)原告dが中学卒業後しばらくしてプリンス自工による機械工募集の求
人申込みに応募し、同三七年三月同社に採用されたこと、同原告が入社後荻窪工場
シヤシー課に、同三八年八月ころ同工場ミツシヨン課に、同四一年九月ころ再び同
工場シヤシー課に、その後村山工場第三製造部第一車軸課にそれぞれ配属されて機
械工として就労してきたことは当事者間に争いがない。
(2) 前掲乙第八号証、成立に争いのない甲第二六号証、原告d本人尋問の結果
により真正に成立したものと認められる甲第二七号証の一ないし三、及び原告d本
人尋問の結果によれば、以下の事実を認めることができる。すなわち、
(イ)原告dは、同三六年三月中学を卒業し、同年四月から日野鋳造所に雇われ鋳
造に従事していたが、仕事がおもしろくなく、友人から機械工になつたらどうかと
勧められていたところ、同年一〇月二日付朝日新聞に掲載されたプリンス自工の従
業員募集の広告に「職種 機械工、仕上工、組立工、その他」とあるのを見てこれ
に応募した。同原告は同三七年二月末ころプリンス自工の採用試験を受けて合格
し、同年三月二三日入社したが、面接試験の際試験担当者に対し機械工になりたい
と希望を述べた。
(ロ)原告dは、プリンス自工入社後機械工として荻窪工場シヤシー課に配属され
歯切盤等を使用してギアの機械加工を行つていたが、同三八年八月同工場ミツシヨ
ン課に配置換えとなり研削盤等を使用してギアの機械加工をなし、同四一年九月再
度工場シヤシー課に配置換えとなって旋盤、ボール盤、フライス盤及びトランスフ
ァーマシン等を使用してトラツクのキヤリア及びキヤツプを機械加工する機械工と
しての仕事に従事していた。
(ハ)原告dは、同年一一月ころ右の職場が村山工場に移されることになつたた
め、村山工場第三製造部第一車軸課に配置換えとなつて、従前同様トラツクのキヤ
リア及びキヤツプの機械加工をするようになり、同五一年一月同課のフロントアク
スル組立に短期間応援に出た以外は、本件配転に至るまで前記機械工たる仕事に従
事していた。
 以上の事実を認めることができ、右認定を覆えすに足る証拠はない。
(五)(1)原告eが中学卒業の際富士精密による機械工募集の求人申込みに応募
して同二八年四月一日同社に採用されたこと、同原告が入社後荻窪工場工作課に、
その後村山工場第三製造部第一車軸課にそれぞれ配属され、機械工として就労して
きたことは当事者間に争いがない。
(2) 前掲甲第二二号証の二、成立に争いのない乙第一二号証、原告e本人尋問
の結果により真正に成立したものと認められる甲第三四号証、及び原告e本人尋問
の結果によると、以下の事実を認めることができる。すなわち、
(イ)原告eは、同二八年三月杉並区立東田中学を卒業するに際し、富士精密で機
械工をしている友人から話を聞いて機械工に憧れ同社の機械工募集に応募したとこ
ろ、採用された。
(ロ)原告eは、同年四月一日以降三か月間機械工としての教育を受けた後、同年
七月一日本採用となつて荻窪工場工作課に配属され、爾後ボール盤、フライス盤及
び歯切盤を使用して機械加工作業に従事していた。
(ハ)原告eは、同四一年一二月右職場の村山工場への移管とともに村山工場第三
製造部第一車軸課に配置換えとなり、同四八年一二月から同四九年一月までと同五
二年六月二七日から同年八月末までの間組立の仕事に応援に出た以外は、本件配転
に至るまで前述の工作機械を使用してトラツクのナツクル及びセンター部分の部品
を機械加工する機械工としての仕事に従事し、重要保安部品の機械加工に携わるこ
ともあつた。
 以上の事実を認めることができ、右認定を覆えすに足る証拠はない。
(六)(1)原告fが東京都中央公共職業補導所修了の際富士精密による機械工募
集に応募し、同二八年二月一六日同社に採用されたこと、同原告が同日以降同四二
年八月三一日まで荻窪工場工作課に、同年九月一日から本件配転に至るまで村山工
場第三製造部第一車軸課にそれぞれ配属され、機械工として就労してきたことは当
事者間に争いがない。
(2) 原告f本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第三九、
第四〇号証、及び原告f本人尋問の結果によると、以下の事実を認めることができ
る。すなわち、
(イ)原告fは、同二八年二月ころ東京都中央公共職業補導所仕上げ科(旋盤を除
く工作機械の取扱いを習得するコース)を修了するに際し、富士精密の機械工募集
に応募したところ、採用された。
(ロ)原告fは、同年二月一六日荻窪工場工作課に配属され、ホーニングマシン、
ボール盤、ボーリングマシン、ロータリーフライス、旋盤等を使用してシリンダ
ー、ミツシヨンケース等を機械加工する仕事に従事した。
(ハ)原告fは、同四二年九月一日、村山工場第三製造部第一車軸課に配置換えと
なり、その後本件配転に至るまで機械工としてシリンダーブロツク等のロータリー
フライス盤、トランスフアマシンによる機械加工に従事し、この間重要保安部品で
あるリアアクスルシヤフトをフライス盤、GF倣い旋盤で機械加工することにも携
わつた。
 以上の事実を認めることができ、右認定を覆えすに足る証拠はない。
(七)(1)原告gがプリンス自工による機械経験工募集に応募し同三九年四月一
三日機械経験工として同社に採用されたこと、同原告が同日から同四二年八月三一
日まで荻窪工場エンジン課及びミツシヨン課に、同年九月一日から本件配転に至る
まで村山工場機関課及び第三製造部第二車軸課にそれぞれ配属され、機械工として
就労してきたことは当事者間に争いがない。
(2) 成立に争いのない甲第一八号証の一、二、及び原告g本人尋問の結果によ
れば、以下の事実を認めることができる。すなわち、
(イ)原告gは、中学卒業後町工場で旋盤等工作機械を取り扱つていたが、同三九
年三月一五日付読売新聞に掲載されたプリンス自工の従業員募集の広告に「職種 
機械・組立・仕上・熱処理」とあるのを見てこれに応募し、同年四月初めころ面接
試験を受けた。なお原告gは、面接試験の際試験担当者に対し機械工の経験がある
ので機械工になりたい旨希望を述べた。
(ロ)原告gは、同年四月一三日プリンス自工に採用され、荻窪工場エンジン課に
配属されてラジアルボール盤、フライス盤を使用してシリンダーヘツドを機械加工
していたが、エンジン課の職場が村山工場に移ることになつたため、同年一〇月荻
窪工場ミツシヨン課に配置換えとなり、同課で旋盤によるギアの機械加工をするよ
うになつた。
(ハ)ところが同四二年九月一日ミツシヨン課の職場が吉原工場に移つたため、原
告gは、同日村山工場機関課に配置換えとなり、ボール盤等でコネクチングロツト
を機械加工する仕事に従事した。そしてさらに原告gは同四八年六月ころ同工場第
三製造部第二車軸課に配置換えとなり爾後本件配転に至るまで機械工として研削
盤、GF倣い旋盤を使用してアクスルシヤフトを機械加工する仕事に従事した。
 以上の事実を認めることができ、右認定を覆えすに足る証拠はない。
(八)以上認定の事実によると、原告a、同b、同c及び同eは中学校を卒業する
際、また、原告fは職業補導所を修了する際、それぞれ機械工として就職すること
を希望していたところ、富士精密が機械工を募集していることを知りこれに応募
し、試験に合格した後原告a、同b、同c、同eは三か月の機械工訓練を経て本採
用となり、原告fは直ちに本採用となつていずれも機械職場に配置され、原告dは
中学校卒業後鋳造所で働き、原告gも中学校卒業後旋盤工として働いていたが機械
工を希望していたところ、プリンス自工が機械工を募集していることを知りこれに
応募し採用試験合格後直ちに機械職場に配置されたものであること、さらに入社後
も本件配転を命ぜられるまでの間原告aは二三年三月、同bは二八年六月、同cは
二五年六月、同dは一九年六月、同eは二八年八月、同fは二八年一〇月、同gは
一七年一〇月いずれも機械工として継続して就労してきた(但し、右の間社命によ
り機械職場以外の職場に応援に出向いた期間は原告aが一年、同bが数か月、同c
が七か月、同dがごく短期間である。)ことが明らかであり、証人kの証言によつ
て真正に成立したものと認める乙第三号証の一、二によると、被告村山工場では職
種として機械加工、車軸組立、車輛組立、メツキ、プレス、溶接、フオークリフト
組立、塗装、車体溶接、中間熱処理、車軸実験、フオークリフト実験等が存するこ
と、証人lの証言によつて真正に成立したものと認める乙第一九、第二〇号証の各
二によると被告では職種の名称として「機械工」を使用していることが認められる
から、以上の事実を綜合すると、原告らが被告に吸収合併される以前の富士精密又
はプリンス自工と締結し被告に承継された雇用契約においては、機械工をその職種
として特定したものであつたと認めることができる。
 もつとも被告は、原告らを機械工としてではなく「技能員」として採用したもの
と主張し、前掲証人lの供述中には右主張に副う部分が存するけれども、原告d本
人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、被告において「技能員」なる用語を使用
し始めたのは昭和四一年ころからであつて、原告らが雇用契約を締結した富士精
密、プリンス自工においては職種としてかかる用語は使用されていなかったことが
認められるのであり、仮に、原告らの採用時に現に被告村山工場にある前記十数種
の職種が存在したとした場合、同じ「技能」といつてもその内容に大きな差がある
から、原告らとしては、機械工として応募したにも拘らず採用にあたつて如何なる
職種に就くかが決められず採用後に会社の一方的裁量によつて組立工、溶接工、塗
装工或は熱処理工等として就労せしめられるとするならば入社しなかつたであろう
ことは前記入社に至る経緯に照らし容易に推測し得るところであつて、原告らが十
数種の職種を包括した「技能員」なる職種として採用されたとする前掲証人lの供
述部分は到底措信できず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。
(九)以上説示のとおり原告らと被告との間の雇用契約においては機械工をその職
種に特定されているものであるから、被告が原告らを他の職種に就労せしめること
は雇用契約内容の変更にあたり原告らの同意を得る必要があるところ、被告の就業
規則四八条二項に、「会社は業務上の必要があるときは従業員に対し職種変更又は
勤務地変更を命じることができる」、同三項に、「従業員は正当な事由がなければ
右命令を拒むことはできない」趣旨の規定の存することは当事者間に争いがないか
ら、原告らは職種変更につき事前に包括的同意を与えているものと解せざるを得な
い。
 もつとも原告らは、右就業規則の存在を認めながらなおかつ原告らの同意を要す
る旨主張しているところからすると、使用者の雇用人に対する配転命令権を否定す
る考え(いわゆる配転命令否認説)に立脚しているように受け取れるのであるが、
配転命令は、使用者と雇用人との間の雇用契約に依拠し使用者が取得する権利とし
て肯定さるべきものであり、就業規則は、その法的性質論は措くとして法的効力を
もつことは労基法九三条の規定するところであるから、被告において前示の就業規
則を定めていることは取りも直さず原告ら従業員において被告の業務上の必要性の
存在及び従業員の正当事由の不存在を合理的制約として職種の変更に包括的同意を
与えているものと解されるのである。
(一〇)したがつて、本件配転が雇用契約に違反して無効であるとの原告らの主張
は採用することができない。
3 労働協約ないし労使慣行違反の主張について
 原告らは、被告と全金支部との間には、職種変更を伴う配置転換のように労働者
に重大な労働条件の変更を生ぜしめる人事権を行使する際には、被告は全金支部と
協議しかつ当該組合員個人の同意を得てこれを実施する旨の労働協約ないし労使慣
行が存在するところ、本件配転に当つては右のような手続を経ていないから、本件
配転は右の労働協約ないし労使慣行に違反し無効である旨主張し、証人mの供述中
には右主張に副う部分があるけれども、右供述部分は後記証拠と対比してたやすく
措信できず他に右主張事実を認めるに足る的確な証拠はない。かえつて、原本の存
在並びにその成立に争いのない甲第二号証によれば、全金支部は同五六年六月一一
日付で被告に対し、やむを得ず職種転換をする場合には、事前に当支部に提案し、
支部及び本人の同意を得ることを要求しているが、右の点につき労働協約ないしは
労使慣行の存在を主張していないことから推せば、被告と全金支部との間には本件
配転当時原告ら主張のような労働協約ないし労使慣行が存在しなかつたことが窺え
るのである。
 したがって、本件配転が労働協約ないし労使慣行に違反し無効であるとの原告ら
の主張は、その余の点について判断するまでもなく失当たるを免れない。
4 不当労働行為の主張について
 原告らがいずれも全金支部の組合員であることは前述のとおりであるところ、原
告らは、本件配転が全金支部の組織を弱体化させ、かつ全金支部所属の原告らに対
し日産労組に所属する組合員と差別処遇する意思の下になされた不当労働行為であ
つて無効である旨主張する。
 確かに原本の存在並びにその成立に争いのない甲第五号証によると、被告が昭和
四一年八月一九日に全金組合員六名に対してした配転命令が東京都地方労働委員会
(以下「都労委」という。)によつて不当労働行為であると認定されたこと、成立
に争いのない甲第四三号証によると、都労委は同四一年七月一六日、被告に対し管
理職が、全金支部組合員に対し同組合の支持を弱めるような言動をなすことを放置
してはならないとの救済命令を発したこと、成立に争いのない甲第八、第九号証に
よると、都労委は、昭和五一年ころ被告が全金支部に対し組合事務所及び掲示板の
貸与を拒否したことを不当労働行為にあたると認定し、裁判所も右認定を支持した
こと、成立に争いのない甲第四七号証によると、都労委は、同五八年六月二一日、
被告に対し全金支部組合員を職務上孤立的取扱いをすることにより支配介入しては
ならない旨の救済命令を発したことがそれぞれ認められるので、これらの事実を綜
合すると、被告は原告らの所属する全金支部ないしはその組合員を快く思つていな
いことはこれを窺知することができる。
 しかしながら本件配転は、後述するように、被告が、乗用車のFF化実施に則し
従来村山工場にあつた車軸製造部門を栃木工場等に移管し、村山工場において小型
乗用車マーチを製造するようになつたため、被告が同五六年六月一日以降同五七年
三月一六日までの間、全金支部の組合員はもとより従業員の大多数が加盟する日産
労組員をも含めて、別表記載のとおり、配置転換を行つた中の一部分であつて、同
表によつて明らかなように、原告らと同じ機械職場よりコンベアライン作業への配
転者は全金支部組合員以外の者が圧倒的多数を占めている事実に鑑みると、特に原
告らの配転のみを被告の不当差別意思に基づく行為と断ずることはできない。
 よつて本件配転が不当労働行為にあたるとする原告らの主張は採用することがで
きない。
5 配転命令権濫用の主張について
 原告らと被告との間の雇用契約は、職種を機械工と特定してなされたものである
が、「被告は業務上必要がある場合は職種の変更を命ずることができる。従業員は
正当な事由がなければこれを拒否することができない」との就業規則により原告ら
において被告の配転命令権に合理的範囲の制約を課しながらも事前の包括的同意を
与えたことは前叙のとおりである。
 而して一般的には、労働者にとつては就労すべき業務すなわち職種は就労の場所
とともに重要な労働条件であり、これを変更するときは労働者の生活上の権利に重
大な影響を与えることになるから、配転命令の要件たる業務上の必要性は配転によ
つて被ることのあるべき労働者の生活上の不利益との比較衡量において判断さるべ
きであり、労働者の拒否事由としての正当事由もまた右と相表裏するものとして同
一観点に立つて考慮すべきものであつて、被告の利益に比し従業員の被る不利益が
著しいというような利益衡量が権衡を失する場合においては権利の濫用として配転
は無効となるものといわなければならない。
 そこで本件配転を被告の経営上の必要性及び人選の合理性の両面から検討を加え
ることにする。
(一)被告の経営上の必要性について
(1)被告の主張1の事実は当事者間に争いがない。
(2) 成立に争いのない乙第一三号証、前掲乙第三号証の一、証人nの証言によ
つて真正に成立したものと認められる乙第一四号証の一、二、第一六号証及び前掲
証人k、同l、証人nの各証言によると、以下の事実を認めることができる。すな
わち、
(イ)被告は、世界の自動車業界の趨勢が車両の小型化と駆動方式のFF化にあつ
たため、その動向に対応して自社で生産する自動車の大部分をFF化する計画を立
て、昭和五五年四月、当時村山工場において車軸部分を製造していたサニー、バイ
オレツト及びオースターをFF化することにした。そしてFF化の時期については
国内向バイオレツト、オースターは同五六年五月、輸出向バイオレツト、オースタ
ーは同年七月、国内向サニーは同年一〇月、輸出向サニーは同年一二月から同五七
年三月までとした。
(ロ)ところで、自動車の駆動方式をFRからFFに転換するにはとくに車軸製造
部門において大幅な設備の変更を必要とし、しかも一定の時期にFF化を行うには
七か月間はFR用車軸部品とFF用車軸部品を併行して製造する必要があり、その
ためには村山工場のスペースでは不足することが判明した。そこで被告は、スカイ
ライン、ローレル用の車軸部品の製造を除いた車軸部品(小型トラツクの車軸部品
を含む。)の製造を栃木工場及び横浜工場に移すことにした。
(ハ)しかして被告は、右車軸部品の製造を栃木工場等へ移管した後の対策として
村山工場においてローレル、スカイラインとは車格が異なりかつ輸出にも振り向け
ることのできる新規小型車マーチを生産し、これによってローレル、スカイライン
とマーチという車格及びモデルチエンジの時期の異なる車両の生産を組み合わせ、
もつて村山工場の生産体制を平均化し、従業員の雇用及び勤務体制の安定化をはか
るべく計画した。
(ニ)而して被告は、村山工場においてマーチの生産を開始するに当つて、新たに
必要とする人員約八〇〇名を、サニー、バイオレット、オースターの車軸部品の製
造を他工場に移管することによって余剰となった三五五名(機械工一四二名、溶接
工一〇〇名、機械組立工一一三名)と小型トラックの車軸製造を他工場に移管する
ことによって余剰となった一四〇名(機械工八二名、機械組立工五八名)、合計四
九五名をもって充当し、なお不足する約三〇〇名については、当時ローレル、スカ
イラインの販売実績が不振であったところから、右ローレル、スカイラインの生産
要員をもつて充当することとした。
(ホ)被告は、右のような計画に基づいて、同五六年六月一日以降同五七年三月一
六日までの間に、村山工場第三製造部所属の車軸製造に従事していた従業員の大部
分を同工場第一、第二製造部に配転し、原告らに対する本件配転も右の計画の一部
として行われた。
 以上の事実を認めることができ、右認定を覆えすに足る証拠はない。
(二)人選の合理性について
(1)原告aは、前記二の2の(一)において認定したとおり、同三三年四月一日
に富士精密に入社以来本件配転に至るまで二三年三か月の間機械工として機械加工
作業に従事してきたもので、機械加工の熟練工ということができる。しかるとこ
ろ、原告a本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第一三号証、
第一四号証の一三、及び同原告本人尋問の結果を綜合すると、原告aが本件配転に
よつて就労すべく命ぜられたローレル関係のプレス工の仕事は、ベルトコンベアに
よつて運ばれてくる鉄板をプレス機械の型の中に入れたうえ両手押ボタンでプレス
機械を作動させるという作業を一時間に三五〇ないし六〇〇回の割合で繰り返す単
純反覆作業であること、したがつて右の作業は同原告が従前従事していた機械工の
仕事と全く異質の仕事であつて同原告が有していた機械工としての技能、経験を生
かす余地がほとんどないことを認めることができ、これを覆えすに足る証拠はな
い。
(2)原告bは、前記二の2の(二)において認定したとおり、同二八年四月一日
富士精密に入社以来本件配転に至るまで二八年六か月の間機械工として機械加工作
業に従事してきたもので、機械加工の熟練工ということができる。しかるところ、
原告b本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第一五号証の一、
及び同原告本人尋問の結果を綜合すると、原告bが本件配転によつて就労すべく命
ぜられたスカイライン、ローレル関係のタイヤ及びステアリングケージ取付けの仕
事は、ベルトコンベアによつて二分間に一台の割合で運ばれてくる乗用車について
その片側の前後輪に重量が一二ないし一九・五キログラムあるタイヤを取り付けた
うえインパクトレンチ、トルクレンチを用いてボルト、ナツト等を締めつける作業
であること、したがつて右の仕事は熟練を要せず体力のみを要求される作業である
ことを認めることができ、これを覆えすに足る証拠はない。
(3)原告cは、前記二の2の(三)において認定したとおり、同三一年四月一日
富士精密に入社以来本件配転に至るまで二五年六か月の間機械工として機械加工作
業に従事してきたもので機械加工の熟練工ということができる。しかるところ、成
立に争いのない甲第二三号証の一、二、及び原告c本人尋問の結果を綜合すると、
原告cが本件配転によつて就労すべく命ぜられたスカイライン関係のガソリン給油
の仕事は、ベルトコンベアによつて二分間に一台の割合で運ばれてくる乗用車につ
いて静電防止用の作業靴を履いてパワステオイル、トルコンオイル、ガソリン及び
不凍液を注入したうえバルブ及びプレートを取り付ける熟練を要しない単純な作業
であることを認めることができ、これを覆えすに足る証拠はない。
(4)原告dは、前記二の2の(四)において認定したとおり、同三七年四月一日
プリンス自工に入社以来本件配転に至るまで一九年六か月の間機械工として機械加
工作業に従事してきたもので、機械加工の熟練工ということができる。しかるとこ
ろ、成立に争いのない甲第三〇号証、原告d本人尋問の結果により真正に成立した
ものと認められる甲第二八号証の一、二、及び同原告本人尋問の結果を綜合する
と、原告dが本件配転によつて就労すべく命ぜられたローレル関係のサンダー掛け
の仕事は、防塵面、前掛け、安全靴等を着用して、ベルトコンベアによつて三分三
〇秒に一台の割合で運ばれてくる乗用車について車体のブレージング溶接部をグラ
インダー及びサンダーを用いて削る熟練を要しない単純作業であるうえ、粉塵等が
発生して作業環境が悪いため月額四八〇〇円の特殊作業手当が支給されることを認
めることができ、これを覆えすに足る証拠はない。
(5)原告eは、前記二の2の(五)において認定したとおり、同二八年四月一日
富士精密に入社以来本件配転に至るまで二八年八か月の間機械工として機械加工作
業に従事してきたもので、機械加工の熟練工ということができる。しかるところ、
前掲甲第一四号証の一三、及び原告e本人尋問の結果を綜合すると、原告eが本件
配転によつて就労すべく命ぜられたプレスのコンベアラインの仕事は、コンベアに
よつて運ばれてくる鉄板をプレス機械の型に入れたうえ両手押ボタンでプレス機械
を作動させるという作業を繰り返す単純反覆作業であること、したがつて右の作業
は同原告が従前従事していた機械工の仕事と全く異質の仕事であつて同原告が有し
ていた機械工としての技能、経験を生かす余地がほとんどないことを認めることが
でき、これを覆えすに足る証拠はない。
(6)原告fは、前記二の2の(六)において認定したとおり、同二八年二月一六
日富士精密に入社以来本件配転に至るまで二八年一〇か月の間機械工として機械加
工作業に従事してきたもので機械加工の熟練工ということができる。しかるとこ
ろ、原告f本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第四一、第四
二号証の各一、二、及び同原告本人尋問の結果を綜合すると、原告fが本件配転に
より就労すべく命ぜられた鉄板投入作業は、ローレル、スカイラインの床部分にな
る重さ一八キログラムの鉄板パネルを三人一組になって組み合わせる作業であり、
同原告が同五七年九月一三日以降従事すべく命ぜられたマーチのリヤフロアに鉄板
をスポツト溶接する仕事は、重さ約八キログラムの鉄板を所定の位置まで運搬した
うえポータブルスポツト、エツクスガンを使用して右鉄板をスポツト溶接する作業
を繰り返すものであること、したがつて右の仕事はいずれも熟練を要しない単純重
筋作業であることを認めることができ、これを覆えすに足る証拠はない。
(7)原告gは、前記二の2の(七)において認定したとおり、同三九年四月一三
日機械経験工としてプリンス自工に入社以来本件配転に至るまで一七年一〇か月の
間機機工として機械加工作業に従事してきたもので、機械加工の熟練工ということ
ができる。しかるところ、原告g本人尋問によれば、原告gが本件配転によつて就
労すべく命ぜられた車体ピラー溶接後の作業は、ベルトコンベアによつて一分三〇
秒ないし一分五〇秒に一台の割合で運ばれてくるスカイラインの車体の溶接部分を
グラインダー及びサンダーを用いて平らにする作業を繰り返す熟練を要しない単純
作業であることを認めることができ、これを覆えすに足る証拠はない。
(三)以上認定の事実によると、本件配転は、従来村山工場でしていた自動車の車
軸部品の製造部門を栃木工場等へ移転し、新たに村山工場で新車種マーチを生産す
ることにしたことに基づく村山工場内の人員再配置計画によるものであるところ、
被告がかかる工場整備計画を立てた理由は、世界自動車業界の車軸小型化、駆動装
置のFF化に対応するためのものであつたことは窺知するに十分であり、国の内外
において競争の激しい自動車産業界にその地位を占める被告としては経営上必要な
処置であつたと認めることができる。
 しかしながら、原告らの配転については、原告らが従事していた車軸部品製造部
門の栃木工場等への移転に伴う職場の消滅により配転自体はやむを得ないものとし
ても、証人lの証言及び同証人の証言によつて真正に成立したものと認められる乙
第一九号証の一、第二〇号証に一によれば、村山工場においては昭和五七年四月一
日現在、工務部工務課に一五名、同部工具管理課に一三名、第三製造部機械課に一
〇四名及び第三工機部第五工機製作課に六八名、計二〇〇名の機械工が在籍し、さ
らに同日現在原告らの通勤可能圏内である荻窪工場の総務部施設課に一一名、宇宙
航空事業部製作課に七〇名、計八一名、同三鷹工場の繊維機械事業部製作課に二四
名の機械工が在籍していることが認められるところからすると、原告らに対し配転
命令の出された昭和五六年六月以降同五七年二月までの間においても右とほぼ同様
の機械工配置状況であったと推認できるから、被告としては原告らを配転する場合
においては、原告らの機械工としての経歴、技能を十分に斟酌し、前示村山、荻窪
及び三鷹の各工場内の他の機械職場に従事する機械工の経歴、技能をも考慮してこ
れらの者との関連において他の機械職場に配置することが可能か否かを検討し、例
え他の機械職場への配置が不可能とされる場合でも本人の意向を聴きでき得る限り
その技能を生かせる職場に配置するなど原告らの利益についても十分配慮するの
が、配転命令権を行使する被告のとるべき必要な措置といわなければならない。し
かるに被告は、原告らの配転にあたりその経歴、技能等の個人の特性や配転先への
適応性等前叙の如き事情を一切考慮することなく適当に他の職種に配転したと自認
するのであり、しかも原告らの配転先は前記認定事実によつて明らかなように原告
らの永年に亘る経験、蓄積した技能を生かし得ず、単純で身体に厳しく、機械職場
に比し労働条件の劣悪な職場であるから、被告のした本件配転は、人選の合理性を
欠くものとして配転命令権の濫用にあたり無効といわざるを得ない。
三 次に不法行為を理由とする損害賠償請求について判断する。
 原告らは、被告の原告らに対する本件配転は、原告らに苦痛を与えることを目的
としてなした不当労働行為であり、原告らの機械工職の剥奪の結果を生じさせる不
法行為である旨主張する。
 しかしながら、以上に説示したとおり、本件配転は権利の濫用として無効といわ
ざるを得ないものの、これを不当労働行為とすることはできないところであり、ま
た本件配転が被告において原告らに苦痛を与える目的を以つてなされたものと認め
得べき証拠は存しない。
 したがつて、原告らの被告に対する不法行為に基づく損害賠償請求は、その余の
点について判断するまでもなく理由がない。
四 結論
 以上のとおり、原告らの請求原因は、本件配転が権利の濫用として無効であると
いう限度で理由があり、その余は理由がないというべきである。而して、原告らの
請求の趣旨第1項は、「原告らが被告村山工場を就労場所とする機械工の地位にあ
ることを確認する。」というものであるが、配転命令の効力を争う訴訟において、
勤務場所を配転命令前の旧職場とする雇用契約上の地位確認を求める請求はいわば
旧職場で就労すべき権利を有することの確認を求める請求と同一であるというべき
ところ、労働者から使用者に対する就労請求権を認めることができない以上右のよ
うな請求権の存在確認請求は許されないから、このような場合、右請求を配転命令
後の新職場における就労義務の存在しないことの確認を求める請求を包含している
ものと解されるときはその趣旨を含むものとして取扱うのが相当である。しかし
て、原告らの右請求の趣旨は請求原因事実からみて右のような趣旨をも包含してい
ると解されるから、原告らの地位確認請求に関しては主文第一ないし第七項掲記の
限度でこれを認容し、右限度を超える請求及び損害賠償請求はいずれも失当として
棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条本文、九三条一項
本文を適用して、主文のとおり判決する。
(別表)
〈06637-001〉
〈06637-002〉

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