弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
         理    由
 弁護人牧野芳夫同福田力之助の上告趣意は添附別紙に記載の通りである。
 第一点について。
 しかし判示事実は、原判決挙示の証拠を綜合すれば優にこれを認定しえ、その問
何等矛盾がないのみならず、本件のように、数種の証拠を綜合して事実を認定する
場合には、そのうち、如何なる証拠によつて如何なる事実を認定したかを特に明か
にする必要はない。しかも原審の公判調書を検討してみると、A(Dとあるは誤記
であることは明白である)以外の証人については、全然訊問の請求がないのである
から、原審としては、勿論これらの証人を訊問する義務はないし、又裁判所が日本
国憲法の施行に伴う刑事訴訟法の応急的措置に関する法律第十二条の供述者又は作
成者の訊問を請求する権利のあることを被告人に知らせる義務もないのであるから、
これを知らせなかつたからといつて、直ちに右の訊問請求の機会を与えなかつたと
非難することはできない。要するに、原判決には論旨の主張するような理由不備又
は理由齟齬の違法はない。
 第二点について。
 原判決引用の診断書は被害者Aの受傷の診断治療に当つた医師Bが、後日に至つ
て、先きに診断した結果を記載したものであることは所論の通りであるが、これが
ために、右診断書の証拠能力を否定することは全く理由がないし、受附印や提出先
の記載のないのは診断書の性質上むしろ当然である。しかも原判決は右診断書の記
載の外被害者Aの判示に符合する原審公判廷の供述等を綜合して判示事実全部を認
定しているのであるから論旨は理由がない。
 第三点について。
 衆議院議員選挙法第百十五条第二号にいわゆる演説の妨害とは、その目的意図の
如何を問わず、事実上、演説することが不可能な状態に陥らしめることによつて成
立するのであつて、判示Aの演説の継続が不可能になつたのは、被告人とAとの口
論にその端を発したものであるとはいえ、結局は、被告人のAに対する暴行によつ
て招来されたものであるから、被告人として固よりその罪責を免かれることはでき
ない。論旨は理由がない。
 第四点について、
 証人Dとあるのは証人Aの誤記であることは原判決自体に徴し明白であるから論
旨は採るに足りない。
 第五点について。
 証人Dとあるのは証人Aの誤記であることは前記の通りであるから、右A証人の
証言は虚無であるとの前提に立つ論旨は理由がない。
 よつて刑事訴訟法第四四六条により主文の通り判決する。
 右は裁判官全員の一致した意見である。
 検察官 十蔵寺宗雄関与
  昭和二三年六月二九日
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    長 谷 川   太 一 郎
            裁判官    井   上       登
            裁判官    島           保
            裁判官    河   村   又   介
 裁判官庄野理一は差支の為署名捺印することができない。
         裁判長裁判官    長 谷 川   太 一 郎

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