弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決中上告人の不法行為に基づく損害賠償の請求を排斥した部分を破
棄する。
     右部分に関する事件を大阪高等裁判所に差し戻す。
     原判決中その余の部分に関する上告を棄却する。
     前項の部分に関する上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人中塚正信の上告理由第一点前段および第二点について。
 原判決中所論引用の説示は、訴外DがE株式会社(訴訟被承継人)のためにする
ことを表示して上告人から本件硼砂を借り受けたが、同人は、真実右借受をする代
理権を有していなかつた旨判示していること、明らかである。所論は、原判決の趣
旨を正解しないで所論の違法があるごとく論難するものであつて、採用できない。
 同第一点後段および第三点について。
 原審は、原判決挙示の証拠により、本件硼砂の借受は、Dの代理権の範囲に属し
ない事項であると認定したものである。右認定は正当であり、所論のような理由不
備、経験則違背の違法は認められない。所論は採用できない。
 同第四点について。
 (一)、E株式会社が従来上告人に商品を売却するにあたり、社名を記載し社印
を押捺した契約書を取り交わした旨の原審の認定は、原判決挙示の証拠に照らし、
是認できる。
 (二)、原審が、従前の取引において、契約書が作成された例を援き、本件硼砂
の消費貸借については契約書を作成しなかつた事実を判示したのは、上告人が本件
硼砂の消費貸借につき従前同様にとることをうべかりし慎重な心組みを欠如したこ
とをもつて上告人の有過失の一つの理由とした趣旨に解される。右原審の判断は正
当であり、仮りに売買取引については、契約書が国の貿易管理の必要上作成提出を
要求されるものであるとしても、そのことは、右判断の正当性を左右するものでは
ない。右原審の判断は、所論のような非難を容れる余地はないといわなければなら
ない。
 (三)、E株式会社がDを社員として雇用し、従来から自己の代理人として上告
人に対する硼砂の販売をさせてきたという所論の事実中、Dが代理人として関与し
たとある部分は、原審の認定しないところであり、仮りに右事実があるとしても、
いまだ、民法一〇九条所定の代理権を与えた旨の表示に該当するとは解されない。
されば、E株式会社が上告人に対しDに代理権を与えた旨の表示をしたとの事実を
認め得ないとした原審の認定は、不当といえない(所論引用の判例は、事実関係を
異にし本件に適切でない)。
 所論は何れも採用できない。
 同第五点について。
 民法一一〇条の適用上、相手方が越権代理人に権限ありと信ずるにつき過失があ
る場合には、正当の理由がないと解するを相当とする。原審が確定した事実関係の
もとにおいては、Dに本件硼砂借受の代理権ありと信ずべき正当の理由はないとし
た原審の判断は首肯できる。所論は採用できない(所論は引用の判例を正解しない
ものである)。
 同第六点について。
 原審は、上告人の不法行為に基づく損害賠償の請求について、「Dは、被控訴会
社(E株式会社を指す)の本店輸入部に勤務し外国から硼砂その他の薬品類を輸入
し、これを国内に販売する業務を担当し、国内において他から商品の借受をなすが
如き行為は、その担当する職務に関連して通常行われる行為ではなく、被控訴会社
において従前国内の商社から硼砂その他の商品の借受をなした事例のなかつたこと
は、前認定のとおりであるから、同人が控訴会社から被控訴会社の借受名義の下に
本件硼砂の交付を受けた行為は、被控訴会社の事業の執行につきなされたものと認
めることができない」と判示し、請求を排斥したことは、所論のとおりである。
 おもうに、E株式会社は貿易商事を営む会社であり、硼砂その他の薬品類を海外
から輸入してこれを国内に販売する業務を目的とするものであることは、原審の確
定したところである。したがつて、硼砂を内国会社から消費貸借の方法によつて借
り受けることは、右会社本来の業務にあたらないとはいえ、借り受けた硼砂がひと
たび会社に取得されれば一の商品として会社の自由な処分に委ねられ、本来の業務
たる国内向け販売の具にも供されることは、特段の事情がないかぎり、これを認め
ざるをえない。とすれば、硼砂借受行為は、E株式会社の事業の範囲に属しないと
は断定できない。
 のみならず、Dは、E株式会社の社員として硼砂その他の薬品類の輸入ならびに
国内への販売の部門を担当していたことは、原審の確定したところである。したが
つて、硼砂借受行為は、もとよりDの正規の分掌職務ではないけれども、DがE株
式会社において硼砂その他の薬品類を扱う地位を有していたればこそ私利を図る意
図をたくみに陰蔽しつつ、会社の名を藉りて本件硼砂を借り受けることができたこ
とは、原判決全体から窺知できなくない。してみると、前段に説示したところとあ
いまつて、Dの本件硼砂借受行為がE株式会社の業務の執行に付きなされた行為で
ないとは、にわかに即断できないといわなければならない。されば、原審は、単に
E株式会社において「従前国内の商社から硼砂その他の商品の借受をなした事例の
なかつた」か否か、およびDが「国内において他から商品の借受をなすが如き行為
は、その担当する職務に関連して通常行われる行為ではな」かつたか否かを判断す
るだけでなく、進んで、同人の行為が使用者であるE株式会社の事業の範囲に属す
るか否か、また、上述のような同人の会社における地位・行為の実情を具体的に審
究し、もつて、該行為が民法七一五条にいう「業務ノ執行ニ付キ」なされたものか
否かを判断すべきであつたにかかわらず、冒頭に引用したような理由によつて該行
為がE株式会社の業務の執行に付きなされた行為にあたらないとし、同会社の損害
賠償責任を否定したのは、法律の解釈適用を誤つたか、理由不備の違法あるもので
あつて、この点の論旨は理由があり、右の部分に関する原判決は破棄を免れない。
 よつて、民事訴訟法四〇七条、三九六条、三八四条、九五条、八九条に従い、裁
判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    石   坂   修   一
            裁判官    河   村   又   介
            裁判官    垂   水   克   己
            裁判官    五 鬼 上   堅   磐

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