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平成26年6月4日判決言渡同日原本交付裁判所書記官
平成24年(ワ)第16647号特許権侵害差止等請求事件
口頭弁論終結日平成26年3月14日
判決
埼玉県富士見市<以下略>
原告武田レツグウエアー株式会社
同訴訟代理人弁護士大久保朝猛
同吉川大介
同前川香
同補佐人弁理士田代攻治
大阪府松原市<以下略>
被告コーマ株式会社
同訴訟代理人弁護士阪本政敬
同中川美佐
同阪本敬幸
同訴訟代理人弁理士伊藤晃
同前田厚司
主文
1原告の請求をいずれも棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
1被告は,別紙被告方法説明書記載の方法を使用してはならない。
2被告は,別紙被告物件目録記載の製品を製造し,販売し,譲渡し,貸し渡し,
輸出し,又は譲渡若しくは貸渡しの申し出をしてはならない。
3被告は,別紙被告物件目録記載の製品,半製品(別紙被告製品構造説明書
〔原告〕記載の構造を具備しているが製品として完成するに至らないもの)を
廃棄せよ。
4被告は,原告に対し,3億1680万円及びうち192万円に対する平成1
7年1月1日から,うち832万円に対する平成18年1月1日から,うち1
792万円に対する平成19年1月1日から,うち2304万円に対する平成
20年1月1日から,うち3264万円に対する平成21年1月1日から,う
ち4480万円に対する平成22年1月1日から,うち6080万円に対する
平成23年1月1日から,うち7040万円に対する平成24年1月1日から,
うち2816万円に対する24年7月10日から各支払済みまで年5分の割合
による金員を支払え。
第2事案の概要
本件は,「くつ下の製造方法」との名称の特許権(以下「本件特許権1」と
いう。)及び「くつ下」との名称の特許権(以下「本件特許権2」という。)
の各特許権者である原告が,別紙被告方法説明書記載の方法(以下「被告方
法」という。)の使用は本件特許権1を,別紙被告物件目録記載の製品(以下
「被告製品」という。)の製造,販売等は本件特許権2を各侵害するものであ
ると主張し,被告に対し,①特許法100条1項,2項に基づき,被告方法の
使用及び被告製品の製造,販売等の差止め並びに被告製品及びその半製品(別
紙被告製品構造説明書〔原告〕記載の構造を具備しているが製品として完成す
るに至らないもの)の廃棄を求めるとともに,②主位的には本件特許権1・2
の侵害による不法行為責任に基づく損害賠償として合計3億1680万円(特
許法102条3項に基づく損害額2億8800万円及び弁護士等費用2880
万円)の,予備的には不当利得返還請求(民法703条,704条)として2
億8800万円の支払(附帯請求として,うち192万円に対する平成17年
1月1日から,うち832万円に対する平成18年1月1日から,うち179
2万円に対する平成19年1月1日から,うち2304万円に対する平成20
年1月1日から,うち3264万円に対する平成21年1月1日から,うち4
480万円に対する平成22年1月1日から,うち6080万円に対する平成
23年1月1日から,うち7040万円に対する平成24年1月1日から,う
ち2816万円に対する24年7月10日から各支払済みまで民法所定の年5
分の割合による遅延損害金の支払)を求める事案である。
1前提事実等(争いのない事実以外は,証拠等を末尾に記載する。)
(1)当事者等
ア原告は,靴下の製造,販売等を目的とする株式会社である。
イ被告は,一般メリヤス製品の製造及び加工の引受け並びに販売等を目的
とする株式会社である。
(2)本件特許権
原告は,次の内容の本件特許権1及び2を有している(甲1,6)(以下,
本件特許権1及び2に係る特許を「本件特許1」,「本件特許2」とい
う。)。
ア本件特許権1
特許番号特許第2895473号
発明の名称くつ下の製造方法
出願日平成10年4月30日
優先権主張日平成9年5月6日
出願番号特願平10-120756号
登録日平成11年3月5日
イ本件特許権2
特許番号特許第3316189号
発明の名称くつ下
出願日平成10年4月30日
優先権主張日平成9年5月6日
出願番号特願平10-320874号
登録日平成14年6月7日
(3)本件特許1について
ア原告は,本件特許1について被告が請求した特許無効審判(無効第20
13-800065)において,本件特許1の請求項1の記載等の訂正を
請求し,平成25年12月19日,特許庁において,「請求のとおり訂正
を認める。本件審判の請求は成り立たない。」との内容の審決がされ(甲
50),上記審決は確定した(争いがない)。
イ原告は,被告方法が上記訂正後の本件特許1の請求項1記載の発明(以
下「本件発明1」という。)の技術的範囲に属する旨の主張をしない(第
10回弁論準備手続調書,当裁判所に顕著)。
ウ原告は,本訴第10回弁論準備手続期日において,被告が同意するなら
ば本件特許1に係る訴えを取り下げる旨述べたが,被告が同取下げに同意
しない旨を明確にしたため,結局,原告は,本件特許1に係る訴えを取り
下げなかった(第10回弁論準備手続調書,当裁判所に顕著)。
(4)本件特許2について
平成23年12月22日発行に係る審決公報末尾記載の訂正明細書によっ
て訂正された本件特許2に係る明細書(以下,上記訂正明細書を「本件明細
書」といい,上記訂正明細書及び訂正前明細書を本判決末尾に添付する。)
の「特許請求の範囲」における請求項1の記載は,次のとおりである(甲
8)。
「丸編機によって筒編して得たくつ下が,その爪先部における最先端位置
が親指側に偏って位置する非対称形であって,該くつ下の爪先部の形状が,
親指が他の指よりも太い人の足の形状に近似するように,前記爪先部の小指
側よりも親指側の厚みを増加する厚み増加用編立部分が,前記爪先部の先端
部で且つ親指側に偏って編み込まれ,且つ前記厚み増加用編立部分の親指側
の面積が拡大するように,前記厚み増加用編立部分を爪先部の親指側の側面
から前記爪先部の先端を上に向けて見たとき,厚み増加用編立部分の端縁が
V字状に形成されていることを特徴とするくつ下。」
(5)本件発明の構成要件の分説
本件特許2の請求項1記載の発明(以下「本件発明2」という。)を構成
要件に分説すると,次のとおりである。
A丸編機によって筒編して得たくつ下が,その爪先部における最先端位置
が親指側に偏って位置する非対称形であって,
B該くつ下の爪先部の形状が,親指が他の指よりも太い人の足の形状に近
似するように,前記爪先部の小指側よりも親指側の厚みを増加する厚み増
加用編立部分が,前記爪先部の先端部で且つ親指側に偏って編み込まれ,
C且つ前記厚み増加用編立部分の親指側の面積が拡大するように,前記厚
み増加用編立部分を爪先部の親指側の側面から前記爪先部の先端を上に向
けて見たとき,厚み増加用編立部分の端縁がV字状に形成されている
Dことを特徴とするくつ下。
(6)被告の行為等
ア被告は,被告製品を製造,販売していた。被告物件目録5ないし7,1
8ないし20の製品については現在も販売している。
イ被告製品は本件発明2の構成要件A,Dを充足する。
なお,被告製品の構成について,原告は別紙被告製品構造説明書(原
告)のとおりであると主張し,被告は別紙被告製品構造説明書(被告)の
とおりであると主張している。
2争点
(1)被告製品が本件発明2の技術的範囲に属するか。
ア構成要件Bの充足性(争点1-1)
イ構成要件Cの充足性(争点1-2)
(2)本件特許2は特許無効審判により無効にされるべきものか。
ア乙11号証に基づく進歩性欠如の成否(争点2-1)
イ乙2号証に基づく進歩性欠如の成否(争点2-2)
ウ記載要件違反の有無(争点2-3)
(3)損害額又は利得額(争点3)
第3争点に対する当事者の主張
1争点1-1(構成要件Bの充足性)
(原告の主張)
(1)構成要件Bの解釈
本件発明2に係るくつ下の爪先部は,正逆反転編により針数が左右両側で
増加,減少するよう編み立てられる中で,爪先先端位置を挟んで,親指側に
のみ,更なる増加・減少部分(別紙図C改のJH1MG部分。以下「編立増
加部分」という。)が増加して編み立てられている。この編立増加部分を含
んで編み立てられる領域(別紙図C改のJKラインからMK’ラインの間の
領域)が「厚み増加用編立部分」である。厚み増加用編立部分が,編立増加
部分を含む全コースを指すことは,本件明細書の図1(a),(c)の斜線
部分の記載からも明らかである。
「厚み増加用編立部分」において,甲部側と足裏側を縫合する際に,親指
側に編立増加部分が介在することにより,この部分が三次元状に立体的に立
ち上がり,親指側の厚みを増加する膨らみが形成され,I字状に縫合される
小指側に対して親指側の膨らみが増し,編立増加部分による編立面積の増加
と相俟って,従来技術に係るくつ下(左右対称形のくつ下又は左右非対称形
であるが編立増加部分がないくつ下)に対して,親指が他の指よりも太い人
の足の形状により近似したくつ下の提供が可能となる。構成要件B(「該く
つ下の爪先部の形状が,親指が他の指よりも太い人の足の形状に近似するよ
うに,前記爪先部の小指側よりも親指側の厚みを増加する厚み増加用編立部
分が,前記爪先部の先端部で且つ親指側に偏って編み込まれ,」)は,この
ような構成を意味するものである。
(2)被告製品における当てはめ
ア被告製品において,被告製品構造説明書(原告)添付の図D(以下「原
告展開図」という。)の斜線部分(HEGC及びE’H’C’G’)は編
立増加部分であり,当該編立増加部分が親指側に追加して(すなわち,親
指側に偏って)編み立てられていることにより,甲部側と足裏側を縫合し
た際に,親指側が三次元状に立体的に立ち上がり,親指側の厚みを増加す
る膨らみが形成され,I字状に縫合される小指側に対して親指側の厚みが
増加している。したがって,被告製品は「前記爪先部の小指側よりも親指
側の厚みを増加する厚み増加用編立部分」が「前記爪先部の先端部で且つ
親指側に偏って編み込まれ」ているものであり,これにより,被告製品は,
親指側に突出する編立増加部分(マチ)が存在し,親指が他の指よりも太
い人の足の形状に近似するものとなっている。
イ被告製品には,3本のリング状正転編部(原告展開図における25正転
編,35正転編及び25’正転編。被告製品構造説明書(被告)添付展開
図〔以下「被告展開図」という。〕におけるB,C及びB’。以下,それ
ぞれ「正転編部B」などという。)が設けられているが,上記正転編部が
存在することは,被告製品の構成要件充足性を左右するものではない。
すなわち,3本の正転編部は,全体の厚みを増加させる効果を生むだけ
であって,小指側に対して親指側を膨らませる効果はない。したがって,
上記正転編部は,「爪先部の小指側よりも親指側の厚みを増加する厚み増
加用編立部分」との構成に何ら貢献するものではないから,本件発明2と
の対比においては,上記正転編部を除外して考えても何ら差し支えない。
被告は,編立増加部分を設けることを目的として正転編部を設けているこ
とを認めているのであるから,正転編部を利用することによって厚み増加
用編立部分を製編していることを自ら認めているに等しい。
ウ被告は,被告製品において親指側の膨らみは生じないと主張するが,被
告製品の構造上,親指側に膨らみが生じることは明らかである。被告の主
張は,被告が,被告製品につき,親指側を膨らませた図柄の登録商標を付
し,「3DSOX」と称して宣伝販売していること(甲34,35)と
も矛盾するものであって,到底採用できない。
エしたがって,被告製品は構成要件Bを充足する。
(被告の主張)
(1)原告の主張は争う。
(2)本件発明2は,「人の足の形状に可及的に近似し,着用した際に,親指
側に圧迫感を与えることを防止し得るくつ下を提供する」ことを課題又は目
的とするものであるところ(本件明細書【0006】),上記課題の解決手
段としては,従来から,①甲部側及び足裏側の両面において親指側の平面的
編地面積を拡大させて非対称形とする方法,②親指側に,足裏側編地や甲部
側編地に対して側面部を形成することにより,親指側の編地面積を拡大させ
て立体化する方法が知られていた。
構成要件Cの文言及び本件明細書の【0016】の記載に照らせば,本件
発明2における「厚み増加用編立部分」は,くつ下の側面,すなわちくつ下
の親指側・厚み方向に表れて,それ自体が「マチ」として作用し,くつ下の
親指側の厚みを増加するものであり,かつ,それ自体によって親指側の面積
を拡大するものであって,上記面積の拡大が,親指側・厚み方向に表れるも
のであることが明らかである。したがって,本件発明2は,上記課題解決方
法のうち,②の方法を採用したものであり,「厚み増加用編立部分」は,上
記課題解決方法を示したものである。
これに対し,被告製品においては,台形状正逆転編部AB(被告展開図に
おけるAb-Cb-Db-Bb)及びBB(同図におけるAb’-Cb’-
Db’-Bb’)(以下,それぞれ「正逆転編部AB」,「正逆転編部B
B」という。)が,3本の正転編部B,C,B’を介して製編されていると
ころ,上記正逆転編部AB,BBは,足裏側及び甲部側において親指側の編
み地面積を増加させるものである。
しかし,上記正逆転編部AB及びBBは,構成要件Cにおいて詳述すると
おり,親指側においてI字状を形成するものであり,原告が主張するような,
くつ下の側面を形成する厚み方向の編み地(「マチ」)は形成されない。す
なわち,被告製品は,上記課題解決方法のうち,①の方法を採用したもので
ある。
以上のとおり,被告製品は,課題解決のため,本件発明2とは異なる方法
を採用したものであり,「親指側の厚みを増加する厚み増加用編立部分」を
有しない。
加えて,構成要件Bは,厚み増加用編立部分それ自体が,爪先部の先端部
で,かつ親指側に偏って編み込まれることを記載したものであり,厚み増加
用編立部分の形成位置が爪先部の先端でかつ親指側に偏って編み込まれる構
成については本件明細書に記載がない以上,このような構成は本件発明2の
技術的範囲に含まれないと解するべきである。しかるに,被告製品の正逆転
編部AB及びBBは,形成位置が親指側に偏っているものであり,それ自体
が親指側に偏って編み込まれたものではない。
以上によれば,被告製品の正逆転編部AB及びBBは,「厚み増加用編立
部分」に相当せず,被告製品は構成要件Bを充足しない。
(3)被告製品に「厚み増加用編立部分」が存在しないことは,次のとおり,
本件発明2と被告製品の作用効果が異なることからも裏付けられる。
すなわち,まず,本件明細書には,厚み増加用編立部分の端縁を本体側の
端縁に連結するだけで,厚み増加用編立部分を容易に形成することができる
旨記載されている(【0012】,【0014】~【0017】)。一方,
被告製品の爪先は,甲部と足裏側を,それぞれ正逆転編部AB,BBを含む
4枚の台形状正逆転編部によって構成したものであり,正逆転編部BA・B
B間及びAA・AB間にある正転編部B及びB’は,いずれも上記正逆転編
部を製編するのに不可欠なものである。このように,被告製品は,爪先を連
続した正逆転編によって形成できるものではなく,2つの正転編部の編み込
みを余分に要するものであって,本件発明2のような形成上の容易性はない。
また,本件発明2においては,平面を構成する厚み増加用編立部分が,足
裏側と甲部側の平面に対し略直角状に延在し,その端縁が足裏側及び甲部側
の端縁と直接連結するため,被告展開図のJ,M及びL点において「尖り」
が生じる。一方,被告製品には,このような「尖り」が存在しない。
加えて,本件発明2に係るくつ下において,爪先部形状の設計自由度がな
いのに対し,被告製品は,正転編部を介在させて正逆転編部AB,BBを編
み立てているため,親指側の端縁の連結に無理がなく,かつ,その大きさを
自由に変えることができ,設計自由度が高い。これにより,被告製品におい
ては,使用者の足の形や,目的とする用途等に応じたくつ下を提供すること
ができる。
さらに,被告製品は,正逆転編部の端縁が正転編部の第1コース又は最終
コースに連結され,回動端同士が直接連結されることがないため,連結部の
編目が極端に粗くはならないという利点がある。
このような本件発明2と被告製品との作用効果の違いは,被告製品が,親
指側の面積を増加させるための解決方法として,本件発明2と異なる方法を
採用していることによるものであり,被告製品が「厚み増加用編立部分」を
有しないことを裏付けるものである。
2争点1-2(構成要件Cの充足性)
(原告の主張)
(1)構成要件Cの解釈
ア「厚み増加用編立部分の親指側の面積が拡大するように」
「厚み増加用編立部分の親指側の面積が拡大するように」とは,編立増
加部分が親指側に追加して編み立てられることにより,この部分の面積が
広がることを意味する。上記面積拡大は,編立増加部分の大きさや形状に
よって,平面視,正面視又は側面視に表れることがあり得るものであって,
このいずれかに限定されるものではない。
イ「前記厚み増加用編立部分を爪先部の親指側の側面から前記爪先部の先
端を上に向けて見たとき,厚み増加用編立部分の端縁がV字状に形成され
ている」
(ア)「端縁」について
「端」とは「物の末の部分。先端。中心から遠い,へり,ふち。」を,
「縁」とは「ふち,はし」を意味するとされるところ(岩波書店「広辞
苑」,甲32),靴下では,各面が終端する場所には必ず「へり,ふ
ち」,すなわち「端縁」が現れるものである。靴下における上記「端
縁」は,他の端縁との間で縫合(結合)され,靴下の表面を形成するも
のであるから,「端縁」とは,縫合されてゴアラインとして現れる箇所
であるということもできる。換言すれば,ゴアラインが形成される箇所
には,常に端縁が存在していることになる。
この点に関し,被告は,「端縁」とは,靴下の製編中に,針釜が正方
向又は逆方向に回動した際の回動端を意味すると主張する。しかし,本
件明細書中に,「端縁」を「回動端」に限定して解釈すべき記載はない。
本件明細書の実施例において,厚み増加用編立部分20a,20bの端
縁が回動端であることが記載されているとしても,「端縁」を「回動
端」に限定して解釈すべきことにはならない。
(イ)「V字状に形成」について
「V字状に形成」とは,当業者が見て,アルファベットの「V」の形
状と認識できる程度のものであれば足り,厳密な意味での「V」又は
「V字」であることを要しない。被告の指摘する訂正によって,「V字
状」を限定解釈すべきものとは解されない。
(2)被告製品におけるあてはめ
ア構成要件Bにおいて主張したとおり,被告製品には編立増加部分(別紙
図Dの斜線部分〔HEGC及びE’H’C’G’〕)が存在することから,
被告製品は,親指側において,平面,正面及び側面のいずれから見ても面
積が拡大している。上記編立増加部分は,甲部側,足裏側の端縁の間に挟
まれて存在することになるところ,上記編立増加部分の縁には,上記甲部
側・足裏側端縁と縫合されてゴアラインを形成する箇所であるC-H線,
H-E線,E’-H’線及びH’-C’線(被告展開図におけるaa-C
a線,Ab-Cb線,Cb’-Ab’線,Ca’-aa’線)が存在し,
これらはいずれも「厚み増加用編立部分の端縁」に当たる。被告製品の爪
先部を先端に向けて見たときに,端縁H-E線(Ab-Cb線)が正転編
部Cに縫合されてできるゴアラインと,端縁C-H線(aa-Ca線)が
端縁C-A線(Ca-Aa線)に縫合されてできるゴアラインとの間及び
端縁E’-H’線(Cb’-Ab’線)が正転編部Cに縫合されてでき
るゴアラインと,端縁C’-H’線(aa’-Ca’線)がC’-A’線
(Aa’-Ca’線)に縫合されてできるゴアラインは,それぞれV字状
を形成している。あるいは,この両V字状を合わせて,より大きなV字状
が形成されていると見ることもできる。
イこの点に関し,被告は,上記端縁C-H線及びC’H’線(aa-Ca
線,aa’-Ca’線)は正転編部のふちであって,「厚み増加用編立部
分」の「端縁」ではないと主張する。しかし,「端縁」(構成要件C)が
回動端に限定して解釈されるものではないことは上記(1)で主張したとお
りであり,上記端縁が正転編部の幅方向両側端であっても,後にこれが縫
合されてゴアラインを形成する箇所であれば,「端縁」(構成要件C)で
あることに変わりがない。また,被告の主張によれば,正転編部は,被告
製品において,編立増加部分を形成するのに不可欠なものであるというの
であるから,正転編部は「厚み増加用編立部分」の一部を構成するものに
当たる。したがって,上記端縁は「厚み増加用編立部分」の「端縁」に該
当するものであり,被告の主張は失当である。
(被告の主張)
(1)原告の主張は争う。
(2)「厚み増加用編立部分の端縁がV字状に形成されている」
ア「端縁」について
本件明細書の【0012】,【0016】の記載を参酌すれば,「端
縁」とは,厚み増加用編立部分を構成するところの端縁であり,かつ,く
つ下爪先部の製編中に,針釜が正方向又は逆方向に回動した際の回動端を
意味するものと解される。本件明細書の【図1】における「厚み増加用編
立部分」の「端縁」は,厚み増加用編立部分の形成に関わる回動端である
H-J及びH-Mを意味する。
イ「V字状に形成されている」について
(ア)くつ下は,一般に,製編後,型板による型整形が行われるものであ
るところ,本件明細書には,型板の形状や熱セット等の型整形技術が記
載されていないのみならず,型整形技術について記載した公知文献の引
用さえされていないのであるから,本件明細書におけるくつ下の形態は,
製編直後の形態を意味するものとして記載されているものと解される。
(イ)以上を前提に「V字状」について見ると,本件明細書での【001
6】では,連結線又は端縁は,「H-J,H-M」と,同一位置を意味
するため,「H」という同一符号を用いて表現されている。加えて,本
件明細書の【図2】,【図3】においても,2つの端縁の基部は一致し
ているのであるから,「V字状」とは,2つの端縁の基端が一致する
「V字」形状を意味するものと解するほかない。また,構成要件Cの文
言上,上記「V字状」は側面視で観察されるものをいうのであるから,
足裏側と甲部側にまたがって見えるV字状の側面部を意味するものであ
ることが明白である。
(ウ)なお,原告は,無効審判請求事件(無効2008-800254)
における無効理由を解消するため,平成21年1月30日付け訂正申立
書(乙14)により,「…厚み増加用編立部分の端縁がV字状に形成さ
れている」との技術的事項を,最終的に「…前記爪先部の先端を上に向
けて見たとき,厚み増加用編立部分の端縁がV字状に形成されている」
と訂正したものであるから,この部分の記載は厳格に解釈されるべきで
ある。
ウ被告製品における当てはめ
前述のとおり,被告製品における正逆転編部AB,BBは,被告製品の
親指側の面積を拡大させるものである。
しかし,被告製品における,正逆転編部AB,BBの「端縁」すなわち
回動端は,Cb-Ab及びAb’-Cb’であるところ,これらは,正転
編部Cの編始端ab-Cbと,編終端ab’-Cb’に連結されて,平行
線になるものである。加えて,前記のとおり,本件発明2では,V字状の
厚み増加用編立部分は甲部側と足裏側にまたがって形成されるものである
のに対し,被告製品における正逆転編部AB,BBは,足裏側及び甲部側
に分かれて製編される部分であるので,これらの端縁が側面視において
「V字状」を形成することもあり得ない。
原告の主張するV字状は,従来のくつ下の爪先部に相当する台形状正逆
転編部AAの端縁Aa-Caと,正転編部Bの編始端Ca-aa及び台形
状正逆転編部BAの端縁Aa’-Ca’と,正転編部B’の編終端Ca’
-aa’のゴアラインが形成する形状にすぎず,「厚み増加用編立部分」
の「端縁」が形成する形状ではない。
したがって,被告製品は,「厚み増加用編立部分の端縁がV字状に形成
されている」ものではないから,構成要件Cを充足しない。
3争点2-1(乙11号証に基づく進歩性欠如の成否)
(被告の主張)
(1)本件特許2の出願前である1948年(昭和23年)3月2日に発行さ
れた米国特許第2437195号明細書(乙11の1。以下「乙11文献」
といい,乙11文献記載の発明を「乙11発明」という。)には,次の構成
を有するストッキングが記載されている(以下,次の構成をそれぞれ「乙1
1発明a」などという。)。
a丸編機によって筒編して得たストッキングであって,
b下記参考図における②部分(fgf’-dhd’の部分)及び③部分
(dhd’-kjk’の部分)が,爪先部の先端部で編み込まれ,
c上記②部分及び③部分の親指側の面積が拡大するように,上記②部分及
び③部分を,爪先部の親指側の側面から前記爪先部の先端を上に向けて見
たとき,上記②部分及び③部分の端縁df及びdkがV字状に形成されて
いる
dストッキング。
(乙11文献・参考図)
(2)本件発明2と乙11発明との対比
ア乙11発明aは,構成要件Aの「丸編機によって筒編みして得たくつ
下」に相当する。
イ乙11発明bの「②部分及び③部分」は,爪先部に編み込まれた部分で
あり,かつ,端縁がV字状をなすことにより,fkの距離だけ爪先部の厚
みを増加させるものであるから,構成要件Bの「厚み増加用編立部分」に
相当する。
ウ乙11発明cの「上記②部分及び③部分の端縁df及びdk」は,構成
要件Cの「厚み増加用編立部分の端縁」に相当する。
エしたがって,本件発明2と乙11発明は,「丸編機によって得たくつ下
であって,厚み増加用編立部分が,前記爪先部の先端部で編み込まれ,且
つ前記厚み増加用編立部分の親指側の面積が拡大するように,前記厚み増
加用編立部分を爪先部の親指側の側面から前記爪先部の先端を上に向けて
見たとき,厚み増加用編立部分の端縁がV字状に形成されているくつ下」
である点で一致し,次の点において相違する。
(ア)本件発明2に係るくつ下が「その爪先部における最先端位置が親指
側に偏って位置する非対称形」であるのに対し,乙11発明に係るスト
ッキングでは,爪先部の厚み増加用編立部分が親指側と小指側に同形に
形成されており,爪先部が対称形である点。
(イ)本件発明2に係るくつ下が,「該くつ下の爪先部の形状が,親指が
他の指よりも太い人の足の形状に近似するように,前記爪先部の小指側
よりも親指側の厚みを増加する厚み増加用編立部分が,前記爪先部の先
端部で且つ親指側に偏って編み込まれ」ているのに対し,乙11発明に
係るストッキングは,このような構成を有しない点。
(3)相違点の検討
ア乙1文献記載の技術的事項
本件特許2の出願前である1891年(明治24年)10月13日に発
行された米国特許第461183号明細書(乙1。以下「乙1文献」とい
う。)には,足の自然な形状により近く一致する形状を確保する,いわゆ
る「右と左」のストッキングの改良を提供することを目的として,下記F
ig.3のとおり,丸編機によって筒編して得たストッキングの爪先部に
おける最先端位置が,親指側に偏って位置する非対称形であって,爪先部
の形状が,親指が他の指よりも太い人の足の形状に近似するように,爪先
部の先端部で且つ親指側に偏って編み込まれ,親指側の面積が拡大するよ
うに形成される構成が開示されている。
(乙1文献・Fig.3)
イ乙2文献記載の技術的事項
本件特許2の出願前である1887年(明治20年)9月6日発行の米
国特許第369637号明細書(乙2。以下「乙2文献」という。)には,
ストッキングの爪先が,足の自然形状にできるだけ近く一致するようにし,
着用者の爪先が自然状態をとれず窮屈にならないようにするため,ストッ
キングの爪先部の小指側を縮幅し,親指側を直角にする構成が開示されて
いる。
ウ乙3文献記載の技術的事項
本件特許2の出願前である1915年(大正4年)11月16日発行の
米国特許第1160819号明細書(乙3。以下「乙3文献」という。)
には,足の自然形状に適合したくつ下を提供するため,丸編機の往復運動
により,くつ下の爪先部の小指側を縮幅する構成が開示されている。
エしたがって,くつ下を人の足の形状に可及的に近似させるという課題は
周知のものである。
オ乙9文献記載の技術的事項
本件特許2の出願前である1856年(安政3年)12月23日に発行
された米国特許第16285号明細書(乙9の1。以下「乙9文献」とい
う。)には,踵を製編する際に,a-bから1コース毎に,一端で針数を
増加し,一端で針数を減少することで,丸編機の編立方向を一側方向へシ
フトさせつつ製編する技術が記載されており(Fig.3),上記方法に
よって爪先を製編してもよいことが記載されている。したがって,乙9文
献には,下記参考図のとおり,爪先部において,爪先部の左側(親指側)
の厚みを増加する爪先部PQSR及びRSQPが,爪先部の先端部で且つ
左側に偏って編み込まれた構成が開示されている。
(乙9文献・参考図)
原告は,乙9文献記載のくつ下は左右対称形であり,親指側に膨らみは
生じないと主張するが,乙9文献の足裏側生地PQSRの端縁PRは足部
と結合され,甲部側生地RSQPの端縁RPは足部と縫合される一方,甲
部側生地RSQPの端縁SQは足裏側生地PQSRの端縁QSに結合され
る。このように,親指側と小指側において端縁の結合状態が異なる以上,
上記くつ下は非対称形である。また,端縁SQは足裏側とQSが互いに結
合される小指側に比べて,親指側は厚みが形成され,膨らみが生じるので
あって,原告の主張は失当である。
カ乙9発明は,くつ下に関する技術である点で,本件発明2と技術分野が
共通する。また,乙11発明及び乙9発明の各課題は,本件発明2の「人
の足に可及的に近似し,着用した際に,親指側に圧迫感等を与えることを
防止し得る」という課題と共通し,各発明の作用効果も,本件発明2にお
ける作用効果と共通している。さらに,乙11発明に乙9文献記載の技術
的事項を適用することを阻害する特別な要因も見当たらない。
したがって,乙11文献記載のくつ下において,乙1ないし3文献記載
の周知の課題(人の足の形状に可及的に近似するくつ下の提供)を解決す
るため,厚み増加用編立部分(②部分及び③部分)に,乙9文献に開示さ
れている構成(爪先部において,爪先部の左側(親指側)の厚みを増加す
る厚み増加用編立部分が,爪先部の先端部で且つ左側に偏って編み込まれ
た構成)を適用して,本件発明2に至ることは,当業者にとって容易であ
る。
また,本件発明2の課題(人の足の形状に可及的に近似し,着用時に親
指側に圧迫感等を与えることを防止し得る)は,乙1ないし3発明で既に
解決されている。加えて,乙11発明に係る厚み増加用編立部分に乙9文
献に開示された爪先部を適用しても,予想以上の効果を奏するものではな
い。
キしたがって,本件発明2は,乙11発明に乙9発明を組み合わせること
により,当業者が容易に想到することができたものであり,進歩性を欠く。
クなお,乙11発明に係るくつ下は,親指側及び小指側に厚み増加用編立
部分が形成されているものであるが,乙1文献に開示されているとおり,
通常のくつ下には,小指側に厚み増加用編立部分が形成されない。したが
って,乙11のくつ下において,上記乙11文献参考図のfgf’から編
立てを開始する際に,通常のくつ下の爪先部と同様に,fgf’-dh
d’間のd’側の端縁がded’-fgf’間のd’側の端縁d’f’を
延長した線上にくるように,f’の編み立てを縮幅して行うことにより,
本件発明2に係る構成に至ることは,当業者にとって容易であるというこ
ともできる。
(原告の主張)
(1)被告の主張は争う。
(2)乙1ないし3,9文献記載の技術的事項について
ア被告は,乙1文献に,「爪先部の形状が,親指が他の指より太い人の足
の形状に近似するように,前記爪先部の先端部で且つ親指側に偏って編み
込まれ」という構成が開示されていると主張する。
しかし,乙1文献記載のストッキングは,爪先部の編み立てにおいて小
指側の傾斜を親指側よりも強くし,これによってくつ下の爪先部先端位置
を親指側に偏らせているにすぎず,本件発明2における「厚み増加用編立
部分」のような,マチとなる部分を親指側に突出させる構成を欠いている。
したがって,乙1文献記載のストッキングの親指側端縁が縫合されてでき
るゴアラインはI字状のままであり,小指側よりも親指側の厚みが大きい
人の足の形状に近似するような膨らみを親指側に提供するものではない。
よって,乙1文献には,被告の主張する構成は開示されていない。
イ乙2,3文献においても,爪先部先端位置が親指側に偏ることがあるの
みで,厚さ方向に膨らむ構成(「厚み増加用編立部分」に相当する構成)
が開示されていない点で乙1文献と同様である。
ウ乙9文献について
被告は,乙9文献には,丸編機の編立方向を一側方向へシフトさせつつ
製編する技術が記載されており,爪先部において,親指側の厚みを増加す
る爪先部PQSR及びRSQPが爪先部の先端で且つ左側に偏って編み込
まれた構成が開示されていると主張する。
しかし,乙9文献記載のストッキングの爪先部は,当初は右側(小指
側)にシフトした位置からスタートし,途中で左側(親指側)にシフトし
た位置に移った後,反転して再び右側(小指側)にシフトした位置に戻っ
て編み立てられるものである。したがって,乙9文献に,編立方向を「一
側方向へシフトさせつつ」製編する技術は開示されていない。
また,乙9文献のFig.3に示された技術は,Fig.2に示された
従来技術(針数の減少,増加による爪先部の編み立て)の代替技術として
示されたものにすぎず,親指側の針数,編み立てられた後の親指側の生地
の総面積及び面積配分において,従来技術と差異がない。加えて,乙9文
献のFig.3に示されたストッキングにおいて,中心線を境に左右の面
積は同一となるのであって,「左側(親指側)に厚みを増加する」構成は
開示されていない。
エ以上のとおり,乙1ないし3,9文献に,被告の主張するような構成が
開示されていない以上,乙11発明にこれらの文献を組み合わせることに
より本件発明2に容易に想到できる旨の被告の主張が失当であることは明
らかである。
(3)乙11発明に乙9発明を組み合わせることはできず,また,仮にこれら
を組み合わせたとしても,本件発明2に至ることはできないこと
ア上記(2)のとおり,乙9文献のFig.3において,親指側の厚みを増
加させる部分が親指側に偏って編み込まれた構成(本件発明2における
「厚み増加用編立部分」の構成)は開示されていない。したがって,乙9
文献記載の技術的事項を,乙11発明にどのように適用すればよいかは不
明であり,これらを組み合わせることはできない。
イ仮に,乙9文献記載の爪先部の構成を,乙11文献参考図の①・④に適
用したとすれば,同図の②・③の最先端位置dがくつ下の全幅よりも突出
し,当該部分を縫合することができなくなる。また,上記構成を乙11文
献参考図の②・③に適用したとしても,②の部分を,①の頂辺(fg
f’)の小指側約半分から編み立てることとなる以上,乙9文献に示され
た「くの字」の頂点Rは,①,④の頂辺の幅を超えて親指側に突出するこ
とはなく,これにより,本件発明2における「厚み増加用編立部分」が形
成されることはない。加えて,このような構成は,親指側と小指側の両側
を同一に膨らませるという乙11発明の技術的思想からも外れたものとな
ってしまう。
ウ被告は,乙9発明を,乙1ないし3文献の記載を参照して乙11発明に
適用することにより,本件発明2に容易に想到できる旨も主張する。
しかし,乙1ないし3文献に,爪先部先端位置を親指側に偏らせる構成
が開示されているのみで,「厚み増加用編立部分」に相当する構成が開示
されていないことは,前記(2)ア及びイでみたとおりである。そうすると,
乙1ないし3文献記載の上記構成を,乙11発明に適用し,又は乙11発
明に係る構成を乙1ないし3文献記載のくつ下に適用したとしても,本件
発明2に想到することはできない。
(4)したがって,本件発明2は,乙11発明に乙9発明を組み合わせること
によって当業者が容易に想到することができたものに当たらず,進歩性を欠
くものではない。
4争点2-2(乙2号証に基づく進歩性欠如の成否)
(被告の主張)
(1)乙2文献のFig.6には,爪先の最先端部が親指側にも小指側にも偏
っていない左右対称の爪先部が記載されている。このような爪先部が従来の
くつ下の爪先部であることは,本件明細書の【0003】,【0004】に
も記載のある事項である。
(2)公知技術
ア乙11文献のFig.2には,爪先部の先端部が左右対称な台形生地に
よって構成され,爪先部の先端部で,小指側にも親指側にも偏らず編み込
まれている構成が開示されている。
イ乙9文献のFig.3には,爪先部の小指側よりも親指側の厚みを増加
し,爪先部の先端部で,親指側に偏って編み込まれる構成が開示されてい
る。
(3)従来の爪先部の足裏側先端部に,厚み増加用編立部分を編み込む場合,
乙11文献及び乙9文献に開示された爪先部の構成のいずれかを採用するこ
とができることは,当業者にとって自明である。本件明細書(【0023】
~【0030】,【図3】)において,爪先部が親指部32と他の指部34
とに分割されて成るくつ下につき,親指部32は編立増加部分がいずれの側
にも偏らず編み込まれている一方,他の指部34は編立増加部分が爪先部先
端でかつ分割部36側に偏って編み込まれていることからも,厚み増加用編
立部分を一側方向に偏って編み込む構成と,いずれの側方向にも偏らず編み
込む方法の選択が当業者にとって容易であることが裏付けられる。
なお,従来の爪先部の足裏側先端部に厚み増加用編立部分を編み込む場合,
本件明細書の上記実施例とは異なり,上記2構成のいずれかしか採用できな
いことは明らかである。
したがって,本件発明2は,乙2文献のFig.6に開示されている従来
の爪先部の足裏側先端部に,公知技術である爪先部の2構成のうち,乙9文
献のFig.3に示された方の構成を選択して採用することにより,当業者
において容易に想到することができたものに当たり,本件発明2は進歩性を
欠く。
(原告の主張)
(1)被告の主張は争う。
(2)乙9文献のFig.3に,「爪先部の小指側よりも親指側の厚みを増加
し,爪先部の先端部で,親指側に偏って編み込まれる構成」が開示されてい
ないことは,争点2-1に関する原告の主張でみたとおりである。したがっ
て,当業者が厚み増加用編み立て部分を編み込む方法の選択肢として,乙9
文献記載の方法を採用することはあり得ない。また,当業者が,厚み増加用
編立部分を編み込む場合に,乙11文献又は乙9文献記載の構成のいずれか
を選択可能であるとする点についても合理的理由がない。
したがって,本件発明2は,乙2文献のFig.6記載の発明に乙11文
献又は乙9文献記載の発明を組み合わせることによって当業者が容易に想到
することができたものに当たらず,進歩性を欠くものではない。
5争点2-3(記載要件違反の有無)
(被告の主張)
(1)特許法36条4項(実施可能要件)違反について
本件明細書の【0015】欄には,「次いで,H位置側に針釜が回動する
際に,針数を増加させてM位置まで編み立てると同時に,L位置側に針釜が
回動する際に,針数を減少させてK位置側まで編み立てることによって,編
み立て方向をくつ下の親指側16の方向にシフトさせつつ編み立てることが
できる。その結果,甲部側10bに厚み増加用編立部分20bを親指側16
に偏って編み込むことができる。」(下線部は判決において付した。)と記
載されている。
上記記載のうち,H位置側の針数の「増加」は「減少」の,L位置側の針
数の「減少」は「増加」の誤記であることに争いがない。これに加えて,
「親指側16の方向に」も,「小指側18の方向に」の誤記である。
すなわち,本件明細書の【0013】ないし【0015】には,くつ下の
爪先部の製編方法が記載されているところ,足裏側では,製編が進むにつれ
て編み立てコースが親指側に移動することによって,厚み増加用編立部分が
全体として親指方向を指向する。一方,甲部側の厚み増加用編立部分は,足
裏側とは対称に形成されるので,製編が進むにつれて編み立てコースが小指
側に移動することによって,厚み増加用編立部分が全体として小指側を指向
することになる。
したがって,【0015】の上記記載(「親指側16の方向に」)は,実
際とは反対の方向にシフトさせつつ編み立てることを記載したものであり,
技術的に実施不可能なものであるから,本件明細書は,当業者が発明の実施
をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものといえない。
したがって,本件発明2に係る本件特許権2には,特許法36条4項に違
反する点がある。
(2)特許法36条6項2号(明確性要件)違反について
本件発明2は,「前記爪先部の小指側よりも親指側の厚みを増加する厚み
増加用編立部分」と記載したものであるが,これは,厚み増加用編立増加部
分が実現する機能又は作用効果を述べたものにすぎず,どのような技術内容
を意味するのかが明確ではない。
したがって,本件発明2に係る本件特許権2には,特許法36条6項2号
に違反する点がある。
(原告の主張)
(1)被告の主張は争う。
(2)ア本件特許2に対する無効審判請求に係る審決取消訴訟判決(平成22
年(行ケ)第10265号。甲23,乙27)においては,本件明細書に,
本件発明2に係るくつ下を編み立てる手順が具体的に記載されており,爪
先部における最先端位置が親指側に偏って位置する非対称形であるくつ下
を筒編する工程及び厚み増加用編立部分を甲側と足裏側とで相似となるよ
う製造するための工程は,いずれも当業者において容易に理解することが
できるものである旨が判示されており,上記判決は確定している。被告の
実施可能要件違反の主張は,上記確定判決に対し異を唱えるものであり,
一事不再理の原則に反する主張であって,妥当性を欠く。
イ被告は,本件明細書の【0015】の「親指側16の方向に」が誤記で
あると主張するが,上記主張は,「シフトさせつつ」を,「何度も繰り返
しシフトさせる」,すなわち逐次移動であると誤って解釈したことに基づ
くものである。「シフトさせつつ」とは,(編立方向を)「シフトさせ続
けて」製編することを意味するものであって,そのシフト方向を「親指
側」と表現することは何ら誤りではない。本件明細書において,編立方向
のシフトする方向は「親指側」で一貫しているのであり,上記表現は社会
通念に照らしても何ら不自然なものではなく,極めて明りょうである。
ウ加えて,被告は,自らの出願に係る特許権(特許第3780354号。
甲33)において,従来技術として,本件発明2とほぼ同内容である本件
発明1の内容を正確に理解して引用しているのであり,本件発明2の内容
が当業者において容易に理解できるものであることを自ら裏付けている。
エしたがって,本件発明2に記載要件に違反する点はない。
6争点3(損害額又は利得額)
(原告の主張)
(1)損害額(主位的請求)
ア被告が平成16年頃以降販売した被告製品の数量は450万足を下らな
い。
イ本件各発明の技術分野,被告製品の市場,コスト構造,類似事例,実務
慣行等に鑑みれば,本件各発明について相当な実施料は,1足当たり,平
均小売価格の4%である64円を下らない。
ウしたがって,本件各特許権侵害による原告の損害額は2億8800万円
(64円×450万足)を下らない。
エ本件訴訟遂行のための弁護士費用及び弁理士費用としては,上記損害額
の10%である2880万円が相当である。
(2)利得額(予備的請求)
ア上記(1)のとおり,平成16年以降の被告製品の販売数量は450万足
を下らず,本件各発明についての相当実施料率は1足当たり64円を下ら
ないところ,被告は,本件各発明の実施に対する上記実施料を支払ってお
らず,合計2億8800万円の利得を得ている。
イ上記利得額は,原告が本来得ることのできたものであるから,同額が原
告の損失に当たる。
(被告の主張)
原告の主張は,事実については否認し,法的主張は争う。
第4当裁判所の判断
前記前提事実(3)のとおり,原告は,被告方法が訂正後の本件発明1の技術
的範囲に属する旨の主張をしないから,その余の点について検討するまでもな
く,本件特許権1の侵害を理由とする原告の請求はいずれも理由がない。した
がって,以下においては,専ら,本件特許権2の侵害の成否について検討する。
1争点1-1(構成要件Bの充足性)
(1)「厚み増加用編立部分」の解釈について
ア本件明細書には,「厚み増加用編立部分」に関し,次の記載がある。
(ア)【発明が解決しようとする課題】【0006】「…一般的に,人の
足は親指が他の指よりも太く且つ足の最先端の位置は親指側に位置する
非対称形である。このため,図5に示す左右対称形で且つ親指側と小指
側とが略同一厚さのくつ下100を非対称形の人の足に履くと,親指に
よってくつ下地が引っ張られて親指側に圧迫感がある。」
(イ)【0007】【課題を解決するための手段】「本発明者等は前記課
題を解決すべく検討を重ねた結果,親指が他の指よりも太い人の足の形
状に,くつ下の爪先部の形状が近似するように,くつ下を履いたとき,
親指が挿入される爪先部の親指側に,厚みを増加する厚み増加用編立部
分を偏って編み込むことによって,親指に対する圧迫感を緩和できるこ
とを知り,本発明に到達した。」
(ウ)【0009】「従来のくつ下は,…左右対称形に形成され,且つ親
指が挿入される親指側と小指側が挿入される小指側とが略同一厚さに形
成された爪先部を具備するくつ下である。このくつ下を,親指が他の指
よりも太い非対称形の人の足に履くと,親指によってくつ下の爪先部が
延ばされ,人の足の形状にくつ下が倣される。このため,くつ下を履い
たとき,くつ下の爪先部によって親指は他の指方向に押圧されて圧迫感
を感じ,同時に小指も親指方向に押圧されて圧迫感を感ずる。」
(エ)【0010】「この点,本発明では,くつ下の爪先部の形状が,親
指が他の指よりも太い人の足の形状に近似するように,爪先部の小指側
よりも親指側の厚みを増加する厚み増加用編立部分を,爪先部の先端部
で且つ親指側に偏って形成し,爪先部の最先端位置を親指側に偏らせて
いる。このため,本発明に係るくつ下は,人の足に可及的に倣った形状
とすることができる結果,くつ下を履いたとき,くつ下の爪先部によっ
て,親指を他の指方向に押圧する押圧力を可及的に減少でき,親指及び
小指に対する圧迫感を減少できる。」
(オ)【発明の実施の形態】【0012】「…図1に示す爪先部12は,
図1(b)と従来のくつ下100の爪先部102の先端部を示す図5
(b)との比較から明らかな様に,爪先部12の厚みを増加する厚み増
加用編立部分20a,20bが余分に編み込まれていると共に,厚み増
加用編立部分20a,20bが爪先部12の親指側16に偏って編み込
まれている。このため,爪先部12の親指側16の厚みを小指側18の
厚みよりも厚くでき,小指よりも親指が太い人の足の形状に近似させる
ことができる。」
イ以上の本件明細書の記載に照らせば,本件発明2の技術的意義は次のと
おりである。
本件発明2は,人の足が,その最先端位置が親指側に位置し,かつ,親
指が他の指よりも太い非対称形であるにもかかわらず,従来のくつ下が,
左右対称形であり,かつ親指側と小指側の厚みが略同一であることから,
くつ下を履いたときに,親指側に圧迫感があったこと(【0006】,
【0009】)を解決課題とするものである。上記課題は,爪先部の形状
を,人の足の形状に近似させること,すなわち,その形状を,最先端位置
が親指側に偏った非対称形とすること及び親指側の厚みを小指側よりも大
きくすることによって解決されるものであるところ(【0007】,【0
010】),本件発明2は,「厚み増加用編立部分」を爪先部の先端部で
かつ親指側に偏って編み込むことにより,上記課題の解決(爪先部の形状
を,その最先端位置が親指側に偏った非対称形とすること及び親指側の厚
みを小指側よりも厚くすること)を具体的に図ったものである(【000
7】,【0010】,【0012】)。
以上の本件発明2の技術的意義に照らせば,「厚み増加用編立部分」と
は,くつ下の爪先部の先端部で,親指側に偏って編み込まれた部分であり,
これにより,爪先部の形状を,その最先端位置が親指側に偏った非対称形
とするとともに,親指側の厚みを,小指側の厚みよりも大きいものとする
ことができる部分を意味するものと解される。これは,構成要件Bが,
「爪先部における最先端位置が親指側に偏って位置する非対称形であっ
て」との構成要件Aに引き続いて規定されており,その文言が,「該くつ
下の爪先部の形状が,親指が他の指より太い人の足の形状に近似するよう
に,前記爪先部の小指側よりも親指側の厚みを増加する厚み増加用編立部
分が,前記爪先部の先端部で且つ親指側に偏って編み込まれ」というもの
であることとも整合するものであるというべきである。
(2)被告製品における当てはめ
ア被告製品の構造について
前記前提事実(6)のとおり,被告製品の構造に関し,原告と被告はそれ
ぞれ異なる説明をしているところ,原被告の上記説明は,被告製品の形状
を,それぞれ,原告展開図又は被告展開図のとおりと把握した上で,上記
形状についての評価を各々加えたものを,被告製品の構造として主張する
ものである。
そこで,原告展開図と被告展開図を見ると,両図は,各部位の大きさの
バランス等において相違する点があるものの,甲部逢着部の上に,中心線
Xを挟んで左右対称形の台形状正逆反転編部を編み立てた後,正転編部を
編み立て,続いて,中心線Xの左側(向かって左側をいう。以下同じ)に
偏った位置に,台形状正逆反転編部を編み立て,更に正転編部を介して同
様に台形状正逆反転編部を編み立てた上で,正転編部を介して台形状正逆
反転編部を編み立てるという構造において同一のものであると認められる。
また,各部位の大きさのバランス等の上記相違によって,充足の成否が左
右されるものとも解されない。そこで,以下においては,便宜上,被告展
開図に基づき,充足の成否について検討する。
イ被告製品は,正逆転編部AB及びBBを有するものであるところ,被告
製品は,完成時において,正転編部Cが頂辺となるものであるから,正逆
転編部AB及びBBは,くつ下の爪先部の先端部に編み込まれたものであ
る。また,正逆転編部AB及びBBは,中心線Xに対し左側に偏って編み
込まれたものであるところ,中心線Xに対し左側は親指側に当たるから,
上記部分は「親指側に偏って編み込まれた部分」に当たるものと認められ
る。
さらに,正逆転編部AB及びBBが存在することにより,被告製品の爪
先部の最先端位置は,親指側に偏ったものとなっていることが認められ,
かつ,親指部分の厚みも増大していることが認められる(甲12,乙8,
17,検証の結果,弁論の全趣旨)。
ウこの点に関し,被告は,被告製品の正逆転編部AB及びBBは,親指側
においてI字状を形成するものであり,くつ下の側面を形成するような厚
み方向の編み地を形成するものではないから,「厚み増加用編立部分」に
該当しないと主張する。
しかし,本件特許2は,請求項2において,「くつ下の爪先部に編み込
まれた厚み増加用編立部分が,爪先部の先端部及び親指側の側面部を形成
する請求項1のくつ下。」として,厚み増加用編立部分がくつ下の親指側
側面を形成する場合を,本件発明2とは別の発明として規定している。そ
うすると,本件発明2において,厚み増加用編立部分によって形成される
「厚み」とは,くつ下の親指側側面を形成するものに限られず,親指側の
編み地面積を増大させること等によって,くつ下の厚み形成に寄与する構
成を広く含むものとして記載されているものと解するのが相当である。
そうすると,被告製品においては,正逆転編部AA及びABを親指側に
偏って編み込むことにより,親指側の編み地面積が増大し,被告製品にお
いて,親指部分の厚みが増大していることが認められるのであるから,上
記部分は「厚み増加用編立部分」に相当するものと認められる。
エなお,被告製品において,正逆転編部AB及びBBは,正転編部B,C
及びB’を介して編み立てられているものである。
しかし,「厚み増加用編立部分」が,くつ下の爪先部の先端部で,親指
側に偏って編み込まれた部分であり,これにより,爪先部の形状を,その
最先端位置が親指側に偏った非対称形とするとともに,親指側の厚みを,
小指側の厚みよりも大きいものとすることができる部分を意味することは
前記のとおりであるところ,正転編部B,C及びB’は,親指側と小指側
の厚みをいずれも増大させるものであって,親指側の厚みを小指側の厚み
よりも大きいものとするものではない。また,上記正転編部は,くつ下の
爪先部の全周にわたって等しい大きさで介在するものであるから,上記部
分が存在することにより,爪先部の最先端位置が親指側に偏ることもない
ものと認められる。他方,上記正転編部の存否によって,上記イでみた正
逆転編部AB及びBBの存在による最先端位置の偏り又は親指側における
厚みの増加が左右されるものとも解されない。
したがって,正転編部B,C及びB’は,「厚み増加用編立部分」を構
成するものではなく,かつ,これらの存在により,被告製品における正逆
転編部AB及びBBが「厚み増加用編立部分」を充足することが妨げられ
るものではない。
オ以上によれば,被告製品は,「該くつ下の爪先部の形状が,親指が他の
指よりも太い人の足の形状に近似するように,前記爪先部の小指側よりも
親指側の厚みを増加する厚み増加用編立部分」である正逆転編部AB,B
Bが「前記爪先部の先端部で且つ親指側に偏って編み込まれ」ているもの
であるから,構成要件Bを充足する。
2争点1-2(構成要件Cの充足性)
(1)「厚み増加用編立部分の端縁」について
「端縁」とは,一般に「先端部分」,「ふち,はし」を意味するものと解
されるが(甲32),本件発明2において,「厚み増加用編立部分の端縁」
がどの部分を意味するものかについては,特許請求の範囲の記載からは明確
ではない。そこで本件明細書の記載を参酌すると,本件明細書には,「端
縁」に関し,次の記載がある。
ア【0002】【従来の技術】「一般的に,図4に示すくつ下10は,足
の入口部から爪先部12の方向に筒編した後,くつ下状の筒編部11の甲
部に形成された開口部の端部を逢着することによって得ることができる。
…」
イ【0004】「…ここで,爪先部12の足裏側100aと甲部側100
bとの端縁には,各側を形成するループの一部が互いに絡み合わされて成
る連結線AC,BDが形成されている。この連結線AC,BDは,針釜6
0が正方向又は逆方向に回動した際の回動端でもある。」
ウ【発明の実施の形態】【0012】「…更に,爪先部12の親指側16
の側面〔図1(b)の矢印AAの方向〕から爪先部12の先端を上に向け
て見た厚み増加用編立部分20a,20bの端縁HJ,HMをV字状とす
ることにより,後述するくつ下の製造方法によって容易に厚み増加用編立
部分20a,20bを形成できる。」
エ【0016】「…HI位置まで編み立てた後,針数を所定本数に保持し
つつ,くつ下の甲部側10bに形成された最終端となる開口部まで製編し
逢着部14とする。ここで,爪先部12を形成する部分の各端縁には,各
部分の縁部を形成するループの一部が互いに絡み合わされて連結されて成
る連結線HJ,IK,KL,HMが形成されている。この連結線HJ,I
K,KL,HMは,針釜が正方向又は逆方向に回動した際の回動端でもあ
る。かかる連結線のうち連結線HJ,HMは,親指側16の側面部を形成
する厚み増加用編立部分20a,20bの端縁であり,図1においては,
爪先部12の親指側16の側面〔図1(b)の矢印AAの方向〕から爪先
部12の先端を上に向けて見たときV字状である。」
オ以上の明細書の記載に照らせば,本件明細書において,「端縁」とは,
針釜が正方向又は逆方向に回動した際の回動端であって,縁部を構成する
ループの一部が互いに絡み合わされて成る連結線が形成される箇所を意味
するものであって(【0004】,【0016】),上記部分をV字状に
形成することで,容易に厚み増加用編立部分を形成することができるもの
(【0012】)として記載されていることが認められる。そうすると,
「端縁」とは,上記のとおり,針釜が正方向又は逆方向に回動した際の回
動端であって,連結線が形成される箇所を意味すると解するのが相当であ
る。
この点に関し,原告は,「端縁」とは,回動端に限らず,相互に縫合さ
れてゴアラインが形成される箇所をいう旨主張する。しかし,本件明細書
において,回動端以外の連結部については,「開口部の端部」(【000
2】),「最終端となる開口部」(【0016】)等,「端縁」とは区別
して記載されていることが認められるから,縫合箇所がいずれも「端縁」
に該当する旨の原告の主張は本件明細書の上記記載に沿わないものであり,
採用できない。
(2)被告製品における当てはめ
ア被告製品において,Aa-Ca端,Ab-Cb端,Cb’-Ab’端,
Ca’-Aa’端,Ba-Da端,Bb-Db端,Db’-Bb’端,D
a’-Ba’端は,針釜が正方向又は逆方向に回動した際の回動端に当た
るところ,被告製品の正逆転編部AB及びBBが「厚み増加用編立部分」
に相当することは前記1でみたとおりである。したがって,正逆転編部A
B,BBの回動端であるAb-Cb端,Cb’-Ab’端,Bb-Db端,
Db’-Bb’端が,「厚み増加用編立部分の端縁」に相当することにな
る。
しかし,上記回動端は,それぞれ,正転編部Cの編始端(ab-Cb,
Db-bb)又は編終端(ab’-Cb’,Db’-bb’)と連結して
編み立てられるものであり,被告製品の爪先部の親指側の側面から爪先部
の先端を上に向けて見たときに,Ab-Cb端,Cb’-Ab’端をそれ
ぞれ正転編部Cの上記編始端又は上記編終端と連結した線が,I字状を形
成するものである(乙8,17,検証の結果)。したがって,被告製品は,
「前記厚み増加用編立部分を爪先部の親指側の側面から前記爪先部の先端
を上に向けて見たとき,厚み増加用編立部分の端縁がV字状に形成されて
いる」ものに当たらない。
イこの点に関し,原告は,aa-Ca端及びaa’-Ca’端は「厚み増
加用編立部分の端縁」に当たり,これをAa-Ca端又はCa’-Aa’
端と連結した線は,爪先部の親指側の側面から爪先部の先端を上に向けて
見たときに略V字状に形成されているから,被告製品は構成要件Cを充足
すると主張する。
しかし,「端縁」が,針釜が正方向又は逆方向に回動した際の回動端で
あって,連結線が形成される箇所を意味するものと解されることは前記
(1)でみたとおりであるところ,aa-Ca端は正転編部Bの編始端であ
り,aa’-Ca’端は正転編部B’の編終端であって,いずれも,針釜
が正方向又は逆方向に回動した際の回動端ではない。また,これらの部分
は,Aa-Ca端又はCa’-Aa’端に連結して編み立てられるもので
あり,当該部分に連結線が形成されるものでもない。
加えて,前記1(2)エでみたとおり,正転編部B,C及びB’は,「厚
み増加用編立部分」を構成するものではないのであるから,正転編部B,
B’の編始端又は編終端は,「厚み増加用編立部分」の端縁に当たるもの
でもない。
したがって,原告の上記主張を採用することはできない。
ウよって,被告製品は,構成要件Cを充足しない。
3小括
以上によれば,被告製品は,本件発明2の技術的範囲に属しないから,その
余の点について検討するまでもなく,原告の請求はいずれも理由がないことに
帰着する。
第5結論
したがって,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第29部
裁判官
西村康夫
裁判官
森川さつき
裁判長裁判官大須賀滋は,転補のため署名押印することができない。
裁判官
西村康夫

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