弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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       主   文
1 原告の被告生駒市長に対する本件訴え中,被告生駒市長が,原告に対して平成
12年4月21日付けでした公文書一部開示決定のうち,別紙開示請求文書目録記
載の各文書中,別紙非開示部分目録記載の各部分のうち,別紙却下部分目録記載の
各部分を非開示とした部分の取消しを求める部分を却下する。
2 被告生駒市長が原告に対して平成12年4月21日付けでした公文書一部開示
決定のうち,別紙開示請求文書目録記載の各文書中,別紙非開示部分目録記載の各
部分のうち,別紙取消部分目録記載の各部分を非開示とした部分を取り消す。
3 原告の被告生駒市に対する請求を棄却する。
4 訴訟費用のうち,原告と被告生駒市長との間に生じた訴訟費用は2分して,そ
の1を原告の,その余を被告生駒市長の負担とし,原告と被告生駒市との間に生じ
た訴訟費用は原告の負担とする。
       理   由
第1 請求
1 被告生駒市長が,原告に対し,平成12年4月21日付けでした,公文書一部
開示決定のうち,別紙開示請求文書目録記載の各公文書のうち,別紙非開示部分目
録記載の各部分を非開示とした部分を取消す。
2 被告生駒市は,原告に対し,90万円及びこれに対する平成12年4月21日
から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 前項につき仮執行宣言
第2 事案の概要
1 本件は,原告が,被告生駒市長(以下「被告市長」という。)に対し,生駒市
情報公開条例(平成9年12月24日生駒市条例第26号,以下「本件条例」とい
う。)に基づき,別紙開示請求文書目録記載1ないし4の各文書(以下,それぞれ
「本件文書1」,「本件文書2」,「本件文書3」及び「本件文書4」といい,ま
とめて「本件各文書」という。)の開示を請求したところ(以下「本件開示請求」
という。),被告市長が本件開示請求に係る本件各文書の一部を非開示とする旨の
一部開示決定をしたので,原告が被告市長に対し,行政事件訴訟法に基づき,上記
一部開示決定のうち非開示とした部分の取消しを求めるとともに,被告生駒市(以
下「被告市」という。)に対し,国家賠償法1条1項に基づき,上記一部開示決定
により被った原告の精神的損害及び本件訴訟遂行に要する弁護士費用相当額の損害
賠償を求めた事案である。
2 前提事実等(争いのない事実及び証拠によって容易に認められる事実)
(1) 本件条例が定める公文書開示目的,解釈及び運用並びに非開示事由
 本件条例は,第1条において「この条例は,地方自治の本旨にのっとり,公文書
の開示を請求する市民の権利を保障することにより,市民の市政への参加を促進す
るとともに,市の諸活動を市民に説明する責務が全うされるようにし,もって公正
で開かれた市政を推進することを目的とする。」と,第3条で「実施機関は,公文
書の開示を請求する市民の権利が十分に尊重されるようこの条例を解釈し,運用す
るものとする。この場合において,実施機関は,個人に関する情報がみだりに公に
されることのないよう最大限の配慮をしなければならない。」と規定している。ま
た,開示請求に係る公文書の非開示事由について,第6条において,「実施機関
は,次の各号のいずれかに該当する情報が記録されている公文書については,当該
公文書の開示をしないことができる。」とし,7個の事由(同条1号ないし7号)
を定めているところ,本件に関係する部分は次のとおりである。
 6条2号 個人に関する情報(事業を営む個人の当該事業に関する情報を除
く。)であって,特定の個人が識別され,又は識別され得るもの。ただし,次に掲
げる情報を除く。
ア 法令等の規定により,何人でも閲覧できるとされている情報
イ 公表することを目的として実施機関が作成し,又は取得した情報
ウ 公務員(国家公務員法(昭和22年法律第120号)第2条第1項に規定する
国家公務員及び地方公務員法(昭和25年法律第261号)第2条に規定する地方
公務員をいう。以下同じ。)の職務の遂行に係る情報に含まれる当該公務員の職及
び氏名
エ 法令等の規定により行われた許可,免許,届出その他これらに類する行為に際
して実施機関が作成し,又は取得した情報であって,開示をすることが公益上必要
であると認められるもの
 同条7号 市又は国等が行う立入検査,監査,許可,認可,試験,審査,争訟,
入札,交渉,渉外,人事その他の事務事業に関する情報であって,開示をすること
により,当該事務事業若しくは同種の事務事業の目的を損ない,又はこれらの事務
事業の公正かつ円滑な執行に著しい支障が生ずると認められるもの
(2) 本件開示請求
 原告は,生駒市の住民であり,本件条例5条1項に基づく公文書開示請求権者で
あるところ,平成12年4月7日,本件条例2条1項に基づく公文書開示の実施機
関である被告市長に対し,本件条例8条に基づき,本件開示請求をした。
(3) 本件各処分(甲1の1ないし4)
 被告市長は,平成12年4月21日,本件開示請求に対し,それぞれの請求に対
応する本件各文書につき,別紙非開示部分目録記載1ないし4の各部分(以下,別
紙非開示部分目録記載1の部分に対応する決定を「本件処分1」と,同2の部分に
対応する決定を「本件処分2」と,同3の部分に対応する決定を「本件処分3」
と,同4の部分に対応する決定を「本件処分4」とそれぞれいい,これらをまとめ
て「本件各処分」という。なお,別紙非開示部分目録記載の非開示部分の番号は,
本件各文書のそれぞれの番号に対応している。)について開示しないこととし,そ
の余の部分を開示する旨の決定を行い(以下「本件各処分」という。),その旨原
告に通知した。
(4) 本件各処分の非開示部分とその理由
ア 本件文書1(甲1の1)
(ア) 用地の所有者の氏名及び住所(以下「本件文書1の非開示部分(ア)」と
いう。)
(イ) 取得予定金額(以下「本件文書1の非開示部分(イ)」という。)
 本件条例6条2号,7号該当
 [2号該当理由](ア)については,特定の個人が識別される情報であるため
 [7号該当理由]用地買収事務は,相手方の任意の協力と合意により成立するも
のであり,交渉の一方の当事者の市が,もう一方の当事者である用地の取得者の氏
名及び住所((ア))並びに取得予定金額((イ))を開示すると,今後行われる
同種の事務において,相手方の信頼,協力が得られなくなったり,近隣の用地等を
買収する際に当該所有者がこの金額に固執して折衝が難航したりして,事務の公正
かつ円滑な執行に著しい支障が生ずると認められるため。
イ 本件文書2(甲1の2)
(ア) 用地所有者の氏名及び住所(以下「本件文書2の非開示部分(ア)」とい
う。)
(イ) 不動産の持ち分(以下「本件文書2の非開示部分(イ)」という。)
(ウ) 取得予定金額及び単価(以下「本件文書2の非開示部分(ウ)」とい
う。)
 本件条例6条2号,7号該当
 [2号該当理由](ア)については特定の個人が識別される情報であり,(イ)
については個人の資産状況が明らかになる情報であるため。
 [7号該当理由]用地買収事務は,相手方の任意の協力と合意により成立するも
のであり,交渉の一方の当事者の市がもう一方の当事者である用地の取得者の氏名
及び住所((ア)),不動産の持ち分((イ))及び取得予定金額及び単価
((ウ))を開示すると,今後行われる同種の事務において,相手方の信頼,協力
が得られなくなったり,近隣の用地等を買収する際に当該所有者がこの金額に固執
して折衝が難航したりして,事務の公正かつ円滑な執行に著しい支障が生ずると認
められるため。
ウ 本件文書3(甲1の3)
(ア) 取得要望に係る用地の地番,所有者及び位置図(以下「本件文書3の非開
示部分(ア)」という。)
(イ) 取得要望に係る用地の単価,金額及び総額(以下「本件文書3の非開示部
分(イ)」という。)
(ウ) 売却要望に係る用地費,金利,金額及び合計額(以下「本件文書1の非開
示部分(ウ)」という。)
 本件条例6条2号,7号該当
 [2号該当理由](ア)については特定の個人が識別される情報,(ウ)につい
ては元の所有者の収入が推測される情報であるため。
 [7号該当理由]用地買収事務は,相手方の任意の協力と合意により成立するも
のであり,取得要望に係る用地については現在買収交渉が進行中で,(ア)及び
(イ)を開示すると相手方との信頼関係,協力関係を損なったり,市の方針が明ら
かになって折衝が難航し,当該買収事務及び同種の事務の公正かつ円滑な執行に著
しい支障が生ずると認められるため。また,(ウ)については,開示をすることに
より元の所有者の収入が推測されて信頼関係,協力関係を損なったり,近隣の用地
等を買収する際に当該所有者がこの金額に固執して折衝が難航したりして,事務の
公正かつ円滑な執行に著しい支障が生ずると認められるため。
エ 本件文書4(甲1の4)
(ア) 取得予定金額(以下「本件文書4の非開示部分(ア)」という。)
(イ) 所有者の氏名及び住所(以下「本件文書4の非開示部分(イ)」とい
う。)
(ウ) 未買収の用地の所在地番及び位置図(以下「本件文書4の非開示部分
(ウ)」という。)
 本件条例6条2号,7号該当
 [2号該当理由](イ)及び(ウ)については,特定の個人が識別される情報で
あるため
 [7号該当理由]用地買収事務は,相手方の任意の協力と合意により成立するも
のであり,(ア),(イ)及び(ウ)を開示すると相手方との信頼関係,協力関係
を損なったり,市の方針が明らかになって折衝が難航し,当該買収事務及び同種の
事務の公正かつ円滑な執行に著しい支障が生ずると認められるため。
(5) 本件各処分に対する異議申立て(甲2の1ないし4)
 原告は,平成12年4月24日,本件各処分を不服として,被告市長に対し,行
政不服審査法6条に基づき,本件各文書について,異議申立ての趣旨を,「非公開
となった,所有者以外の取消しを求める。ただし,用地取得の完了したもの」とし
て異議申立てを行った(以下「本件異議申立て」という。)。これを受けて,被告
市長は,同月26日,本件条例12条1項の規定により,生駒市情報公開及び個人
情報保護審査会(以下「審査会」という。)に,本件異議申立てに係る諮問を行
い,審査会は,同年10月30日,答申を行った。
(6) 異議申立てに対する決定(甲3の1ないし51)
 被告市長は,本件異議申立てに対し,平成12年11月13日,以下のとおりの
決定を行い,原告にその旨通知した。
ア 本件文書1(甲3の1ないし11)
 本件異議申立ては,これを棄却する。
イ 本件文書2(甲3の12ないし25)
(ア) 本件処分2のうち,不動産の持ち分を不開示とした部分を取り消す。
(イ) 本件異議申立てのその他の部分については,これを棄却する。
ウ 本件文書3(甲3の26ないし41)
(ア) 本件処分3のうち,次に掲げる部分を不開示にした処分を取り消す。
① 街路事業用地売却要望内訳の表中の合計欄の金額
② 街路事業用地売却要望内訳の表の下の用地費,金利及び合計の金額
③ 街路事業用地売却要望内訳の最下段の平成11年度売却要望の金額
(イ) 本件異議申立てのその他の部分については,これを棄却する。
エ 本件文書4(甲3の42ないし51)
 本件処分4のうち,次に掲げる部分を不開示にした処分を取り消す。
 平成11年度先行取得依頼分の表中の,(仮称)C線の予定金額欄及び備考欄の
金額
(7) 原告は,平成13年2月9日,本訴を提起した。
3 争点
(1) 被告市長に対する本件訴えのうち,不服申立てを欠く部分,及び,既開示
部分についての訴えの適法性
(2) 本件文書1の非開示部分(ア),本件文書2の非開示部分(ア),本件文
書3の非開示部分(ア)及び(ウ),並びに,本件文書4の非開示部分(イ)及び
(ウ)の各本件条例6条2号該当性
(3) 上記件各非開示部分の本件条例6条7号該当性
(4) 被告市に対する損害賠償請求の成否
第3 争点に関する当事者の主張
1 争点(1)について
(被告市長)
(1) 本件各処分のうち,別紙不服申立てを欠く部分目録記載の各部分(以下
「不服申立てを欠く部分」という。)については,原告は異議申立てを行っておら
ず,出訴期間の経過は中断されていない。したがって,不服申立てを欠く部分の取
消しを求める部分については,いずれも出訴期間を徒過した不適法な訴えであり,
却下されるべきである。
(2) さらに,本件各処分のうち,別紙既開示部分目録記載の各部分(以下「既
開示部分」という。)については,原告が,被告市長に対し,平成13年5月7
日,本件各文書について本件開示請求と同内容の開示請求を行った際,被告市長
は,同月18日,一部開示決定を行った部分であり,被告市長により既に開示がな
されている。したがって,既開示部分の取消しを求める部分については,その取消
しを求める利益がなく,この点に置いても,不適法な訴えであり却下されるべきで
ある。
(3) 原告は,本件異議申立てにより,本件各処分全体につき出訴期間の経過は
中断している旨主張するが,本件条例7条は,「当該部分(不開示事由該当部分)
を容易に,かつ,公文書の開示の請求の趣旨が損なわれることのない程度に分離で
きるとき」に部分開示決定をしなければならない旨規定しており,かつ,実務上も
開示部分と非開示部分を分離して部分開示決定がなされているのであって,本件各
処分は,一体のものではなく,個々の部分毎になされているものである。原告自身
が,本件異議申立時において,「所有者以外」,「用地取得の完了したもの」とい
う限定を付していることからして,このことが裏付けられる。
(原告)
 本件各処分は,原告が開示請求した文書全体についてなされたものであり,各項
目毎に非開示処分が行われたとみるべき余地はない。したがって,原告の本件異議
申立てにより,本件各処分全体につき,行政事件訴訟法14条4項により出訴期間
の経過は中断している。
2 争点(2)について
(被告市長)
ア 本件文書1についての別紙非開示部分部分目録記載1の(ア)(以下「本件文
書1の非開示部分(ア)」と略称する。本件文書2ないし4の各非開示部分につい
ても,同様に略称する。),本件文書2の非開示部分(ア),本件文書3の非開示
部分(ア),本件文書4の非開示部分(イ)及び(ウ)については,特定の個人が
直接識別される情報である。また,本件文書3の非開示部分(ウ)は,用地費につ
いては,本件文書に地番の記載があり,不動産登記簿の閲覧によって,当該用地の
元の所有者が特定できること,金利及び金額については,一般に公表されている当
該用地の保有期間,借入利率と併せみれば,当該用地の用地費の算出が可能とな
り,いずれも公開することにより,当該用地の元の所有者の収入状況がわかるもの
である。これらの情報は,いずれも本件条例6条2号本文に該当する。
イ 本件条例6条2号の趣旨は,本件条例3条後段が,「実施機関は,個人に関す
る情報がみだりに公にされることのないよう最大限の配慮をしなければならな
い。」と規定していることを受け,個人の尊厳を守り,基本的人権を尊重する観点
から,個人に関する情報を最大限に保護することを目的としたものである。地方公
共団体の情報公開条例における,個人情報の非開示事由の規定の仕方について,単
に「個人が識別できる情報」とするものと,それに加えて「通常他人に知られたく
ないと認められるもの」との要件を設けるものがあり,被告市は,あえて前者を採
用している。これは,プライバシーの具体的な内容やその保護すべき範囲が法的に
も社会通念上も必ずしも明確でないことに鑑み,個人に関する情報を最大限に保護
する観点によるものであり,国レベルの情報公開法も同じ立場をとっている。原告
の情報公開請求権は,本件条例により具体化されているのであるから,本件条例の
規定の文理を離れて,開示しうる情報の範囲を決定することはできない。本件にお
いても,個人が識別され,又は識別されうる情報は,一律に本件条例6条2号本文
に該当するものと考えるほかなく,「プライバシー性」があるものとないものとを
区別し,その後に公開するか否かを決定するというような原告の主張は,本件条例
の趣旨に反するものである。また,本件条例6条2号ただし書エの規定は,個人情
報であってもごく例外的な場合に公開すべき必要性がある場合がありうることを踏
まえ,限定を付した上で「開示することが公益上必要である」場合に公開すべきと
しているのであるから,原告のいうように「公益上の必要があるから公開すべき」
というものではない。
(原告)
ア 前記の本件条例の目的(1条),及び,実施機関の責務(3条)の規定の仕方
からすれば,非開示事由は,市民の情報公開請求権を重視して,具体的場面におい
て公開が不相当なケースを限定列挙しているのであり,その解釈にあたっては,市
の保有する情報はあくまでも公開が原則であるとすべきである。本件条例が,個人
情報の非開示事由について,「個人が識別できる情報」という規定の仕方(個人情
報識別型)を採用したのは,プライバシーの具体的な内容やその保護すべき範囲が
一般的,客観的に定めることが困難であるという,主に技術的な理由に基づくもの
であるから,個人識別情報型を採用したことをもって,個人のプライバシー情報に
該当しない情報であっても,個人を識別しうるものであれば,すべて非開示とする
のは妥当ではない。
イ 本件文書1の非開示部分(ア),本件文書2の非開示部分(ア),本件文書3
の非開示部分(ア)及び(ウ),並びに,本件文書4の非開示部分(イ)及び
(ウ)の各情報は,何らプライバシー性がない。仮に,プライバシー性があるとし
ても,当該情報の持つ公的性質がすこぶる強いものであって,本件条例6条2項が
保護の対象とする典型的な個人情報と同列におくことはできないものである。被告
らが,用地の所有者の氏名及び住所など,当該土地の所有者を特定させる情報,ま
た,土地の地番,位置図など未買収地の場所を特定させる情報とするものは,当該
事業が行われた,おおよその場所さえ把握できれば,市販の住宅地図や不動産登記
簿,構図を参照することにより,容易に把握できるものである。また,所得予定
額,用地費など当該土地の価値を推測させる情報は,土地所有権についての情報で
あり,土地所有権は登記簿により公開されており,その価格の手掛かりとなる相続
税路線価,公示価格等も公表されていることからすれば,プライバシー性の極めて
希薄な情報である上,個別取引による資産の価格にすぎず,個人の全保有資産が公
開されるわけではない。また,上記各情報すべてについて,被告市に対する土地の
譲渡ないし公社からの土地の買受けは,私人間の取引とは異なり,公有地の拡大に
関する法律や租税特別措置法の規定にもあるとおり,極めて公的な性質を帯びた特
殊な売買であるから,私人間の取引についての情報の場合と異なり,プライバシー
保護の要請は一歩後退すべきである。上記各情報を非開示としてしまうと,公共事
業における用地買収が適正になされたか否かを市民がチェックすることが不可能と
なることからも,公開の必要性が高い。
3 争点(3)について
(被告市長)
ア 本件各文書の上記各非開示部分に係る各情報を開示すれば,交渉当事者間の信
頼関係,協力関係が損なわれ,また,価格(単価)が明らかになることにより,被
告市の事務事業への支障が生ずるから,いずれも本件条例6条7号に該当する。
イ 本件各文書の上記各非開示部分に係る情報は,交渉当事者である被告市と地権
者との間以外には公表しないことを前提として用地買収の交渉が進められているも
のである。公共事業といえども,地権者にとって自己の所有地の売買は私的な経済
行為であり,交渉当事者である被告市から一方的に個人の資産に関わる情報を開示
することは,被告市に対して不信感を生じさせ,地権者の任意の協力と合意により
成立する用地買収事務において最も重要な,相互の信頼関係,協力関係が築けなく
なり,今後,被告市が行う用地買収交渉に対して,交渉拒否や非協力といった事態
が起こることが多分に予想される。その結果,将来被告市が行う用地買収事務の円
滑な執行に著しい支障が生ずることになる。現に,本件訴えの提起により,用地取
得金額が一般に開示される可能性があることが報道されると同時に,被告市に対
し,市民から苦情が殺到している。
ウ 本件各文書の上記各非開示部分のうち,取得予定金額のような価格に相当する
部分を公開すると,本件各処分において開示されている土地の面積から単価が算出
され,当該区域内の土地の地権者が,鑑定時期の違いや画地条件の違い等を正しく
認識せずに,その時点での適正価格を提示したとしてもその価格(単価)に固執さ
れてしまい,権利変換などの事業の重要な手続を進めるための交渉が難航,長期化
して事業の円滑な執行に著しい支障が生ずる。
(原告)
ア 本件条例6条7号にいう「開示をすることにより,当該事務事業若しくは同種
の事務事業の目的を損ない,又はこれらの事務事業の公正かつ円滑な執行に著しい
支障が生ずると認められるもの」か否かについては,実施機関の主観にかかわら
ず,当該「著しい支障が生ずる」可能性については,極めて高度の蓋然性が客観的
に認められることが必要であるというべきである。
イ 公共事業に協力して所有地を譲渡したこと自体は,買収が完了すれば事業の進
捗等により外形上明らかとなる上,事後,登記簿を閲覧すれば公共事業に協力した
ことは明確に記載されている。しかも,買収価格は客観的な時価額をもって算定さ
れることから,事業に協力したことが外形上明らかとなれば,地権者が相当の対価
を得たこともおのずと判明することになる。このような前提のもとでは,事業に協
力したことを秘匿したいという地権者の期待は何ら合理的ではないことは明らかで
あるし,そのような期待に応えないことから事務事業に著しい支障が生ずるとはお
よそいえない。
ウ 土地の取得価格は,本来相手方の意図にかかわらず,当該土地の客観的価値に
よって決定されるものであるし,公共事業における買収は,民間の取引とは異なり
公的な性質を有している上,租税特別措置による優遇制度も用意されていることか
ら,買収の事実や買収価格等を秘匿したいという期待を仮に地権者が有していると
しても,そのような期待は保護に値するものではない。取得価格や譲渡価格の算定
にあたって,当該土地の個別の要因によって価格の差異が生じることは当然であ
り,地権者がこのような個別要因の差異を無視して同一の価格条件に固執すること
があったとしても,事業の遂行にあたっては土地収用法を適用するなど,別途の方
策によって支障は解消しうる。
エ 従前から本件と同種の情報の開示を行っている地方公共団体において,公開に
より以後の用地買収に支障を来すなどの弊害は生じていないとの報告がなされてい
る。
4 争点(4)について
(原告)
 本件で非開示とされたものと同種の情報について,被告市において全面的に公開
された例があり,また,公共事業についての用地取得の金額については,他の自治
体の事例で公開を命じる判決が相次いでおり,被告市の市長において本件をこれら
とことさら別異に取り扱う理由はなく,市長の本件処分は違法であり,原告は,こ
れにより,知る権利ないし情報公開請求権を侵害された。
 また,市長は,本件異議申立てに対し,本件文書の一部を公開する旨の決定をし
たが,原告が本件開示請求について公開された文書のコピー代を既に納付し,異議
申立てにより,本件決定が変更されたのであるから,新たに公開された文書につい
ての費用は被告市において負担すべきものであるのに,原告が,被告市の担当者に
対し,新たに公開となった部分の写しの交付を求めたところ,その費用の納付を求
められ,本件異議申立てに対する決定の1か月後になって,ようやく追加費用の納
付なしに写しの交付を受けた。市長の本件各処分は違法であり,その後の被告市の
担当者の対応も,情報の開示を求める市民の権利を尊重せず,本件条例の趣旨を没
却するものであり,このような被告市の市長及び担当者には,上記権利侵害につい
ての故意,少なくとも過失がある。これにより,原告は,慰謝料相当額60万円を
下らない精神的苦痛を受けるとともに,その取消しを求めるために本訴を提起せざ
るを得なくなり,30万円を下らない弁護士費用の出費を余儀なくされた。したが
って,原告は,被告市に対し,国家賠償法1条1項に基づく損害賠償として,90
万円を請求する。
(被告市)
 原告の主張は争う。被告市の市長がした本件各処分が違法でないことは,被告市
長の主張のとおりである。
第4 争点に対する判断
1 争点1について
(1) 証拠(甲2の1ないし4)及び弁論の全趣旨によれば,本件異議申立てに
おいて,原告はその対象を,本件処分の非開示部分全部ではなく,「所有者以外」
及び「用地取得の完了したもの」としており,実際にこれらの部分については,本
件異議申立てにおける審査の対象となっておらず,他に異議申立てをしていないが
認められる。そこで,不服申立てを欠く部分の取消しを求める訴えが適法とされる
には,本件各処分全体につき出訴期間の起算点が本件異議申立て時といえるか否か
について検討する。
(2)ア 証拠(甲1の1ないし4,甲2の1ないし4)及び弁論の全趣旨によれ
ば,本件各処分は,その内容からみて,原告が開示を求めた各文書を一体のものと
捉えてなしたものではなく,可分的な記載内容毎に個別に非開示事由の存否を判断
してなされたものであること,本件各処分の名宛人である原告も,本件異議申立て
や本件訴訟において,個々の可分的な記載内容毎に非開示事由の存否を問題にして
いることが認められる。
イ 上記認定事実からすると,したがって,本件各処分は,一体のものではなく,
個々の文書の可分的な記載内容毎になされた複数の開示ないし非開示の決定の集合
体とみるべきである。そうすると,原告は,本件各処分に対する異議申立ての対象
となるべき個々の記載内容についての非開示決定のうち一部についてのみ,異議申
立てをしたものというべきである。不服申立ての対象となる処分が複数あるといえ
る場合においては,その一部につき異議申立てをして,出訴期間の起算点が異議申
立時になったとしても,その余の処分についてまで,当然に異議申立てを経たこと
にはならず,出訴期間の起算点についても影響を及ぼすものではないというべきで
あるから,原告の,本件異議申立てによって本件各処分全体につき出訴期間の経過
は中断している旨の主張は理由がない。したがって,不服申立てを欠く部分につい
ては,異議申立てがなされていないから,行政事件訴訟法14条1項により,原告
が本件各処分があったことを知った日から3か月以内に訴えを提起しなければなら
なかったところ,その期間制限を徒過したことが明らかであるから,これらの部分
の取消しを求める訴えは,不適法である。
(3) また,既開示部分については,不服申立てを欠く部分でもあるが,弁論の
全趣旨によれば,原告は,被告市長に対し,平成13年5月7日,本件訴訟で開示
を求める文書と全く同一の開示請求を行い,被告市長は,同月18日,一部開示決
定を行い,既開示部分を開示していることが認められる。したがって,既開示部分
の取消しを求める部分の取消しを求める訴えは,その利益がなく不適法である。
2 争点2について
(1) 原告が本件各処分について取消しを求める別紙非開示部分目録記載の各部
分のうち,被告が本件条例6条2号本文に該当すると主張するのは,本件文書1の
非開示部分(ア),本件文書2の非開示部分(ア),本件文書3の非開示部分
(ア)及び(ウ),並びに,本件文書4の非開示部分(イ)及び(ウ)の各部分で
ある。しかし,上記説示のとおり,本件文書1ないし3の各非開示部分(ア),本
件文書4の非開示部分(イ)及び(ウ)についての取消しを求める訴えは不適法で
ある。
 したがって,以下,本件文書3の非開示部分(ウ)についてのみ,本件条例6条
2号本文の該当性を判断する。
(2) 前記のとおり,本件条例6条2号本文は,個人に関する情報であって,特
定の個人が識別され,識別されうるものを非開示文書として規定している。これ
は,本件条例が,地方自治の本旨にのっとり,市民の公文書の開示を請求する権利
の保障を明定するとともに,市民の市政への参加を促進するとともに,市の諸活動
を市民に説明する責務が全うされるようにし,もって公正で開かれた市政を推進す
ることを目的とし(1条),また,実施機関の責務として,本件条例の解釈・運用
に当たっては,公文書の開示を請求する市民の権利を十分に尊重するものとすると
しつつ,実施機関においては,個人に関する情報がみだりに公にされることがない
よう最大限の配慮をしなければならない(3条)と定めていることの具体的な表れ
であり,公文書であっても,個人情報が記載されているときは,その情報を非開示
とすることにより,当該個人が不利益を受けないようにする趣旨のものであると解
される。しかしながら,およそ個人に関する情報といえるものを,すべて非開示と
することになれば,上記本件条例の目的を没却してしまうことになるから,本件条
例の目的達成のためには,個人情報の非開示については一定の制約があるといわな
ければならない。上記のとおり,本件条例3条が,個人に関する情報が「みだり
に」公にされることのないようとの表現を用いているのも,本件条例6条2号がた
だし書きエで,個人に関する情報であっても,「法令等の規定により行われた許
可,免許,届出その他これらに類する行為に際して実施機関が作成し,又は取得し
た情報であって,開示をすることが公益上必要であると認められるもの」について
は,非開示にできない旨定めているのも,個人に関する情報であると同時に,公的
な性質を有する情報については,個人の権利利益の保護と上記行政情報の公開目的
の達成とのバランスを考慮した結果であると解すべきである。したがって,本件条
例6条2号は,個人の権利や利益の観点から保護に値しない個人情報まで,すべて
非開示にすべきことを定めているのではなく,法的保護に値する個人に関する情報
を開示してはならないことを定めているとみるべきである。したがって,同号の
「個人に関する情報」とは,法的保護に値する個人に関する情報をいうものと解す
るのが相当である。前記第3 争点に関する当事者の主張の2のイにおける被告市
長の主張は,以上の理由により,採用することができない。
(3) ところで,売却要望に係る用地費,金利及び金額は,いずれも他の情報と
結び付けることにより,個人の財産や所得が明らかになる情報であるといえる。し
かしながら,これを開示することによって明らかになるのは,あくまでも当該個人
の財産等の一部であって,その財産や所得の全体を明らかにするものではない。ま
た,これらは,対象となる土地の正常な取引価格又はそれに関連する事項であり,
取引当事者の主観や個別事情を排除した客観的な算定評価に基づくものであること
などからすれば,これらはいずれも個人のプライバシーとして保護する必要性の高
い情報であるとはいえない。加えて,公共用地の取得及び処分は,私人間の取引と
は異なる公的性格を有するものであり,その適正を図る上で位置図等及び買収価格
等の公開の必要性は高いことを総合考慮すると,買収価格等は,法的保護に値する
個人の利害に関わる情報とはいえないから,これらの情報は,いずれも本件条例6
条2号本文の「個人に関する情報」には該当しないというべきであり,したがっ
て,本件文書3の非開示部分(ウ)は,本文に該当するとは認められない。
3 争点3について
(1) 被告市長は,別紙非開示部分目録記載の各非開示部分については,いずれ
も本件条例6条7号に該当すると主張しているところ,このうち,原告が,異議申
立てを欠く部分について取消しを求める部分の訴えは不適法であるから,その余の
部分(本件文書1の非開示部分(イ),本件文書2の非開示部分(ウ)及び本件文
書3の非開示部分(ウ))について,本件条例6条7号の該当性を判断する。
(2) 本件条例6条7号が非開示事由として,「開示をすることにより,当該事
務事業若しくは同種の事務事業の目的を損ない,又はこれらの事務事業の公正かつ
円滑な執行に著しい支障が生ずると認められるもの」(以下これらの情報を「著し
い支障が生ずるおそれのある情報」という。)を規定しているのは,生駒市の機関
等の担当する行政事務や事業が円滑に遂行,推進されることを期するためであると
解されるところ,前記の本件条例の趣旨・目的に照らすと,上記「著しい支障を及
ぼすおそれのある情報」の存否については,事務,事業の主体である行政機関が自
らの立場で主観的に判断したところに従うべきではなく,これが客観的,具体的に
存在していることが必要であると解するのが相当である。そこで,この見地から,
本件文書1の非開示部分(イ),本件文書2の非開示部分(ウ)及び本件文書3の
非開示部分(ウ)の各情報に関して,実施機関である被告市長が,これを公開した
ときに著しい支障が生ずるおそれがあるとした判断が,客観的かつ具体的な裏付け
があるものとして,是認できるかどうか検討すべきことになる。
(3) 実施機関である被告市長は,(a)用地買収事務担当者と対象地の所有者
との間では,合意に至った買収価格等を秘密することを前提に交渉が行われてお
り,この約束を一方的に破棄することにより,信頼関係が損なわれて,その後の事
業に協力を得られなくなってくること,及び,(b)用地買収を継続している事業
の既買収地の各情報が公開されると,未買収地の所有者が自己所有地について公開
された買収価格等と同程度以上の評価が得られると期待し,固執して,買収交渉が
難航すること,から,上記各情報が著しい支障を及ぼすおそれのある情報に該当す
ると主張する。
ア そこでまず,(a)の主張について検討する。
 用地買収は,通常の売買形式を取るにしても,客観的な価格をもって譲渡価格と
することが定められ,租税特別措置の優遇が受けられることなど,私人間の取引と
は異なり,公的性格を有する上,地権者としても,その公的性格を当然認識してい
て,譲渡価格について将来にわたって全く公開されないことを期待しているものと
は考えられない。仮に,公開されないことを期待しているとしても,用地買収は,
前記のとおり,通常の私人間の売買とは異なり,定められた手続に従って行われる
ものであって,買収価格に譲渡人である地権者の主観的事情は反映されず,その価
格自体公的な性質を帯びているのであるから,この感情はそのままの形では保護さ
れるべき利益とはいえない。したがって,買収事務担当者としては,地権者が後に
買収価格が公開される可能性があることを理由として買収に難色を示したとして
も,上記公的性格を説明し,説得に努力すべきである。したがって,現在,対象地
の地権者との間で,買収価格等に関する情報を秘匿することを前提として買収交渉
が行われているとしても,そのことを理由として,買収価格等の公開が,買収交渉
事務に著しい支障を及ぼすおそれがあると認めることはできない。
 被告市長は,原告の本件訴え等の提起が報道され,用地買収に係る情報が公開さ
れるかもしれないなどと報道されると,生駒市民から被告市に対し,用地買収に係
る土地の価格や交渉内容が明らかにされることに反対する旨の投書が寄せられ,実
際の用地買収交渉にも支障を来した旨主張し,それに沿う証拠(乙6の1ないし
6,乙7,8,証人a,同b)を提出するが,上記説示のとおりであって,また,
土地買収の公的性格に鑑みると,買収価格を第三者に知られたくないとの地権者の
期待は,法的保護に値するとはいえないから,結局,被告市長の(a)の主張は採
用できない。
イ 次に,(b)の主張について検討する。
 証拠(乙7,8,証人a,同b)及び弁論の全趣旨によれば,用地買収の交渉に
あたっては,対象地の所有者が土地の買収,場合によっては交渉自体にも抵抗し,
また,買収価格について近隣の取引事例などを引き合いに出してより有利な条件を
要求することも多く,このような場合,買収事務担当者は,提示する買収価格が客
観的な評価に基づく適正な取引価格であることをわかりやすく説明し,対象地の所
有者が援用する取引事例と当該土地との個別的要因の違いを指摘するなどして,対
象地の所有者の同意を取り付けるよう根気強く交渉しなければならず,用地買収に
困難を伴うことが認められる。
 しかしながら,翻って考えてみると,公共事業における土地の取得価格は,所定
の手続を経て決定された適正なものでなければならず,未買収地の対象地の所有者
との交渉においても,先に説示したとおり交渉によって変動する価格幅は極めて限
定されているものであることからすると,土地買収交渉の困難さは買収価格等が公
開されることによって初めて生じるものではなく,用地買収事務の性質上必然的に
生じるものというべきである。本件全証拠によるも,これらの情報の公開によっ
て,用地買収交渉が,より一層困難になると認めることはできない。むしろ,証拠
(甲10の1ないし6)によれば,事業用地や代替地の買収金額などについて開示
している他の地方公共団体において,公開以後の用地買収に支障を来すなどの弊害
は生じていないことが認められる。また,用地買収事務の実態や買収価格などの情
報が公開されていないために,用地買収が客観的な評価に基づく取引価格の範囲内
で行われるものであり,個人的事情や交渉態度等による買収価格の変動を許さない
性質のものであることが一般に認識されず,そのためにかえって用地買収業務が困
難になっていることも否定できないと考えられる。その意味では,買収価格等の情
報が公開され,用地買収事務について一般の理解が深まることが,将来の用地買収
事務の円滑化に資する面があるということができる。そもそも,事業用地の買収
は,当該土地について客観的な取引価格を評価した上で,その価格の範囲内で行わ
れるものであるから,当事者の主観的な希望は排除されているし,将来の未買収地
の買収にあたっても,同様に,その時点での当該土地の客観的な取引価格の評価に
基づいて行われるはずのものである。また,土地の価格は,交通,環境,画地等の
諸条件を考慮して決定されるものであって,近隣の土地であっても,これらの諸条
件の違いによって評価に差異が生じるし,同一の土地であっても,取引時点が異な
れば,その間の地価水準の変動等により価格に差異を生じることになるは当然とい
える。これらの点に鑑みれば,本件のように,一定の時点(本件文書1ないし3
は,平成11年度の先行取得に関する文書である。)における買収価格等の情報が
公開されたとしても,これらの土地の近隣の土地につき将来買収が行われる際に
は,その時点での前記のような客観的な取引価格の評価が行われるのであり,公開
された情報が買収対象土地の評価の参考となるものでもなく,買収価格等を容易に
推測させるものともいえない。また,買収対象土地の所有者が,土地の個別要因の
違いや評価時点の違いを無視して,公開された近隣土地の買収価格等と同一条件の
価格に固執することがあったとしても,そもそも既買収地の価格が適正である限
り,その主張は必ずしも正当性を有するものとはいいがたく,実際の買収価格に影
響を与えるものでもない。したがって,買収価格等の開示によって,将来の用地買
収交渉の事務に著しい支障を及ぼすおそれがあると認めることはできない。よっ
て,被告市長の(b)の主張も採用できない。
(4) 以上のとおりであるから,本件文書1の非開示部分(イ),本件文書2の
非開示部分(ウ)及び本件文書3の非開示部分(ウ)の各情報が,著しい支障を及
ぼすおそれのある情報であることについての,客観的,具体的な裏付けとなる事実
が存在するとまでは認められないから,これらの情報は,いずれも本件条例6条7
号にも該当しないというべきである。したがって,これらの部分を非開示とした被
告市長の処分は違法であるから,取り消すべきである。
4 争点4について
 以上1ないし3の認定判断からすると,被告市の市長による本件各処分のうち,
別紙取消部分目録記載の各部分については,いずれも本件条例6条各号に定める非
開示事由に該当するものとは認められず,これらの部分を非開示とした市長の処分
は違法である。
 しかし,証拠(甲9,13,19,21,乙3,9ないし11)によれば,上記
各取消部分の非開示事由該当性に関しては,解釈上の争いがあるところであり,同
種の情報公開条例を有する地方公共団体における同種の情報開示請求についても,
公開するという取扱いが一般に確立しているわけではなく,現に,実務の取り扱い
も,事案によって分かれていることが認められる。したがって,被告市長が本件条
例の実施機関として,別紙取消部分目録記載の各部分が,本件条例の定める非開示
事由に該当すると判断して,本件各処分を行ったことについて,故意又は過失があ
ったと認めることはできない。また,別紙取消部分目録記載の各部分以外の別紙非
開示部分目録記載の各部分についても,非開示事由該当性に関して解釈上の争いが
あるのは同様であるから,やはり,故意又は過失があったと認めることはできな
い。
 また,証拠(乙1)及び弁論の全趣旨によれば,写しの交付についても,本件異
議申立てに対する決定時点で,被告市の担当者が,原告に対しその費用の納付を求
めたことについて,故意又は過失があったとまでは認めることはできない。
 よって,原告の被告市に対する損害賠償請求は,その余の点について判断するま
でもなく,理由がない。
第5 結論
 以上によれば,原告の被告市長に対する訴えについては,本件各処分のうち,別
紙却下部分目録記載の各部分を非開示とした部分の取消しを求める部分は不適法で
あるから,これを却下し,その余は理由があるからこれを認容し,原告の被告市に
対する請求は,理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。
奈良地方裁判所第2民事部
裁判長裁判官 宮城雅之
裁判官 島川勝
裁判官 谷口真紀
(別紙)
開示請求文書目録
1 再開発課「A駅前北口地区市街地再開発事業用地の先行取得について(依
頼)」
2 公園緑地課「B公園用地の先行取得について(依頼)」及び「B公園臨時駐車
場用地の先行取得について(依頼)」
3 街路事業課「用地先行取得に係る平成11年度予算の計上について(依頼)」
4 土木課「用地先行取得に伴う平成11年度予算の計上(依頼)」
非開示部分目録
1 再開発課「A駅前北口地区市街地再開発事業用地の先行取得について(依
頼)」のうち,
(ア) 用地の所有者の氏名及び住所
(イ) 取得予定金額
2 公園緑地課「B公園用地の先行取得について(依頼)」及び「B公園臨時駐車
場用地の先行取得について(依頼)」のうち,
(ア) 用地所有者の氏名及び住所
(イ) 取得予定金額及び単価
3 街路事業課「用地先行取得に係る平成11年度予算の計上について(依頼)」
のうち,
(ア) 取得要望に係る用地の地番,所有者及び位置図
(イ) 取得要望に係る用地の単価,金額及び総額
(ウ) 取得要望に係る用地の売却要望に係る用地費,金利,金額
4 土木課「用地先行取得に伴う平成11年度予算の計上(依頼)」のうち,
(ア) 取得予定金額
(イ) 所有者の氏名及び住所
(ウ) 未買収の用地の所在地番及び位置図
 ただし,平成11年度先行取得依頼分の表中の,(仮称)C線の予定金額欄及び
備考欄の金額を除く部分。
却下部分目録
1 再開発課「A駅前北口地区市街地再開発事業用地の先行取得について(依
頼)」のうち,
(ア) 用地の所有者の氏名及び住所
2 公園緑地課「B公園用地の先行取得について(依頼)」及び「B公園臨時駐車
場用地の先行取得について(依頼)」のうち,
(ア) 用地の所有者の氏名及び住所
3 街路事業課「用地先行取得に係る平成11年度予算の計上について(依頼)」
のうち,
(ア) 取得要望に係る用地の地番,所有者及び位置図
(イ) 取得要望に係る用地の単価,金額及び総額
4 土木課「用地先行取得に伴う平成11年度予算の計上(依頼)」のうち,
(ア) 取得予定金額
(イ) 所有者の氏名及び住所
(ウ) 未買収の用地の所在地番及び位置図
 ただし,平成11年度先行取得依頼分の表中の,(仮称)C線の予定金額欄及び
備考欄の金額を除く部分。
取消部分目録
1 再開発課「A駅前北口地区市街地再開発事業用地の先行取得について(依
頼)」のうち,
(イ) 取得予定金額
2 公園緑地課「B公園用地の先行取得について(依頼)」及び「B公園臨時駐車
場用地の先行取得について(依頼)」のうち,
(ウ) 取得予定金額及び単価
3 街路事業課「用地先行取得に係る平成11年度予算の計上について(依頼)」
のうち,
(ウ) 取得要望に係る用地の売却要望に係る用地費,金利,金額
不服申立てを欠く部分目録
1 再開発課「A駅前北口地区市街地再開発事業用地の先行取得について(依
頼)」のうち,
(ア) 用地の所有者の氏名及び住所
2 公園緑地課「B公園用地の先行取得について(依頼)」及び「B公園臨時駐車
場用地の先行取得について(依頼)」のうち,
(ア) 用地の所有者の氏名及び住所
3 街路事業課「用地先行取得に係る平成11年度予算の計上について(依頼)」
のうち,
(ア) 取得要望に係る用地の地番,所有者及び位置図
(イ) 取得要望に係る用地の単価,金額及び総額
4 土木課「用地先行取得に伴う平成11年度予算の計上(依頼)」のうち,
(ア) 取得予定金額
(イ) 所有者の氏名及び住所
(ウ) 未買収の用地の所在地番及び位置図
 ただし,平成11年度先行取得依頼分の表中の,(仮称)C線の予定金額欄及び
備考欄の金額を除く部分。
既開示部分目録
1 再開発課「A駅前北口地区市街地再開発事業用地の先行取得について(依
頼)」のうち,
(ア) 「用地の所有者の氏名及び住所」中の用地の所有者の氏名
2 公園緑地課「B公園用地の先行取得について(依頼)」及び「B公園臨時駐車
場用地の先行取得について(依頼)」のうち,
(ア) 「用地の所有者の氏名及び住所」中のうち,「<D線用地>」欄の1段目
及び2段目の地番及び部分
3 街路事業課「用地先行取得に係る平成11年度予算の計上について(依頼)」
のうち,
(ア) 取得要望に係る用地の地番,所有者及び位置図
(イ) 取得要望に係る用地の単価,金額及び総額
4 土木課「用地先行取得に伴う平成11年度予算の計上(依頼)」のうち,
(ア) 取得予定金額
(イ) 所有者の氏名及び住所
(ウ) 未買収の用地の所在地番及び位置図
 ただし,平成11年度先行所得依頼分」の表中の,(仮称)C線の予定金額欄及
び備考欄の金額を除く部分,及び,「(仮称)C線」の「所有者」欄及び「用地先
行取得一覧表(E線)」中の1段目(2筆分)の用地の所在地番,所有者の住所及
び氏名欄

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◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

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残り応募人数(2019年5月1日現在)
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