弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を取り消す。
     原判決別紙物件目録記載一の土地及び同目録記載二の建物を控訴人の所
有とする旨を定めた、昭和五三年一月二五日付亡Aの遺産分割に関する協議が無効
であることを確認する。
     控訴費用は、第一、二審(参加によるものを含む)とも控訴人の負担と
する。
         事実及び理由
 第一 申立て
 一 控訴人の控訴の趣旨
 1 原判決を取り消す。
 2 被控訴人らの請求を棄却する。
 3 訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人らの負担とする。
 二 被控訴人らの答弁
 1 本件控訴を棄却する。
 2 控訴費用は控訴人の負担とする。
 三 参加人の参加請求の趣旨
 原判決別紙物件目録記載一の土地及び同目録記載二の建物を控訴人の所有とする
旨を定めた、昭和五三年一月二五日付亡Aの遺産分割に関する協議が無効であるこ
とを確認する。
 四 参加請求に対する控訴人の答弁
 参加人の請求を棄却する。
 第二 事案の概要
 本件は、被控訴人ら及び参加人が控訴人に対して遺産分割協議の無効確認を求め
る事案である。
 一 争いのない事実
 1 Aは、昭和五二年一二月二日死亡し、その遺産として原判決別紙物件目録記
載一の土地及び同目録記載二の建物(以下、合わせて「本件不動産」という。)が
存在する。
 Aの相続人は、その妻の参加人、Aと先妻B(昭和五〇年九月八日死亡)との間
の二男の被控訴人C、同三男の被控訴人D及び同四男の控訴人である(長男は死
亡)。
 2 本件不動産について、被控訴人ら、参加人及び控訴人との間で、これらを被
訴人の所有とする旨を合意したことが記載された昭和五三年一月二五日付「遺産分
割協議書」と題する書面(以下「本件協議書」という。)が存在し、この書面には
被控訴人ら、参加人及び控訴人の住所、氏名が記載され、その名下にそれぞれの印
影が顕出されている。
 二 争点
 昭和五三年一月二五日付遺産分割協議(以下「本件協議」という。)の成立及び
その効力
 三 争点に関する当事者の主張
 1 控訴人
 被控訴人ら、控訴人及び参加人は、昭和五三年一月二五日、控訴人方に集まり、
Aの遺産の分割について協議し、その結果、本件不動産を控訴人の所有とする旨の
本件協議が成立した。
 2 被控訴人ら及び参加人
 被控訴人らはいずれも同日控訴人方を訪ねたことはないし、相続人全員が集まっ
て遺産分割協議がされたことはない。
 第三 証拠(省略)
 第四 当裁判所の判断
 一 前述のように、本件不動産について、昭和五三年一月二五日付で本件協議書
が存在し、この書面には被控訴人ら、参加人及び控訴人の住所、氏名が記載され、
その名下にそれぞれの印影が顕出されていることは当事者間に争いがないところ、
当審における被控訴人ら及び参加人各本人尋問の結果によれば、右各印影は被控訴
人ら及び参加人それぞれの印によって顕出されたことが認められ、原審及び当審に
おける控訴人本人は、同日、相続人全員が控訴人方に集まり、本件協議書は、控訴
人が書面を作成し、各相続人がそれぞれ押印して四通を作成し、各一通づつを持ち
帰った旨供述するところである。
 しかしながら、原審及び当審における被控訴人C並びに当審における被控訴人D
及び参加人各本人尋問の結果によれば、同日は平日であって、勤務を有する被控訴
人らが同日控訴人方を訪ねたことはないと認められ、これに反する右控訴人本人の
供述は採用できず、同日、相続人全員が控訴人方に集まり、協議した結果、本件協
議が成立したとの主張が採用できないのは明らかである。
 なお、前述のように、本件協議書に押捺された各印影が相続人らの印によって顕
出されたことが認められるので、本件協議書の作成によって遺産分割協議が成立し
たのではないかとの疑いが生じるので検討するに、本件協議書に顕出された被控訴
人らの各印影については、これらが何時いかなる経緯によって顕出されたかは、こ
れを明らかにする証拠はないところ、前記各本人尋問の結果によれば、控訴人は、
同月ころ被控訴人らの印影が既に顕出された本件協議書を参加人の住居(本件不動
産の一部)に持参して押印を求め、渋る参加人に被控訴人らは納得して押印したな
どと述べて強く押印をせまり、参加人においては視力が十分でなくその内容を確認
できないまま、やむなく、控訴人のいうままに押印に応じたこと、控訴人及び被控
訴人らは、参加人が後妻であり、かつAと婚姻して約一年程度であったこともあっ
て、参加人が本件不動産に相続による権利を主張することを警戒し、その相続分の
割合について弁護士に相談するなどしていたこと、本件協議書の作成には本件不動
産を参加人に渡さないようにする目的があったこと、そして、控訴人は参加人から
本件協議書に押印を得た後、いやがらせを続けるなどして、参加人が本件不動産か
ら退去せざるを得ないように仕向け、その結果、参加人は同年四月には本件不動産
を退去したこと、本件不動産のほかAの遺産としては、A、その先妻Bほかの名義
の預金があったが、その帰属については何ら協議がされていないこと、本件協議書
作成の後、控訴人が本件不動産について登記手続を試みたことはなく、また他の遺
産の分割の話もされないまま推移したこと、被控訴人らから平成三年五月に至って
遺産分割の申入れがされたが、控訴人はこれに対して当初本件協議の存在を主張せ
ず、右分割協議に応じる姿勢を示していたことの各事実が認められ、これに反する
控訴人本人の供述部分は採用できない。これらの事実によれば、本件協議書は、参
加人に本件不動産を取得させないための仮装として、遺産分割以外の目的で作成さ
れた可能性が大きいといわなければならず、これによって、控訴人と参加人間にお
いてはもとより控訴人と被控訴人らの間においても遺産分割協議の成立を認めるこ
とはできない。
 以上によれば、本件協議は成立したとは認められず、その効力は有しないものと
いうべきである。
 二 よって、被控訴人ら及び参加人の本件協議が無効であることの確認請求は理
由があり、これを認容すべきであるところ、原判決の被控訴人らと控訴人との間の
判決はこれと同旨である。
 <要旨第一> ところで、遺産分割協議が無効であることに確定した場合、改めて
遺産分割の協議をすることが必要となり、右協議が調わないとき又は協
議することができないときは家庭裁判所における調停、審判によることとなるが、
遺産分割は相続人全員で合意することが必要であるから、遺産分割協議が一部相続
人の間だけで無効ということになれば、改めて遺産分割の協議をすることは困難が
予想されるし、家庭裁判所が審判をするについては分割を不可能とする場合も予想
され、著しく不都合を招来する。したがって、遺産分割協議の無効確認を求める訴
えは、相続人全員の間に合一に確定することを要する固有必要的共同訴訟と<要旨第
二>いうべきである。しかるところ、本訴は原審において被控訴人らが控訴人を相手
として遺産分割協議の無効確認を求めたもので、相続人の一人である参
加人を欠いており不適法というべきであったが、固有必要的共同訴訟において共同
訴訟人となるべき者の一部を遺脱した場合、その者が共同訴訟参加をすれば、右訴
訟の欠缺を補正することができ、第一審が右欠缺を看過して実体判決をしたとき
は、控訴審においても、遺脱者が共同訴訟参加することによって右欠缺を補正する
ことができるというべきである。そこで、本訴は、参加人が当審において共同訴訟
参加をしたことによって適法な訴えとなったものということができるが、右補正前
にした原判決がその関与した当事者間では控訴審の判断と同一になるとしてもこれ
を維持することは困難といわなければならない。すなわち、固有必要的共同訴訟は
共同訴訟人となるべき者全員について一個の判決がされるべきであり、原判決はそ
の一部の者に対する判決にすぎないからである。
 そこで、原判決を取り消し、被控訴人ら及び参加人の控訴人に対する請求を認容
し、訴訟費用については民事訴訟法九六条、八九条を適用して主文のとおり判決す
る。
 (裁判長裁判官 柳澤千昭 裁判官 松本哲泓 裁判官 西川賢二)

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