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裁判例


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平成11年(行ケ)第101号 取消決定取消請求事件
     判    決
 原 告      有限会社萬坊
 代表者代表取締役 【A】
 訴訟代理人弁理士 【B】、弁護士 吉野高幸、渡邊和也、古屋勇一
 被 告      特許庁長官 【C】
 指定代理人  【D】、【E】、【F】
 被告補助参加人  有限会社木屋
 代表者代表取締役 【G】
 訴訟代理人弁護士 美勢克彦、弁理士 【H】
     主    文
 原告の請求を棄却する。
 訴訟費用は、参加によって生じたものも含め原告の負担とする。
     事実及び理由
第1 原告の求めた裁判
「特許庁が平成10年異議第90664号事件について平成11年3月4日にした
決定を取り消す。」との判決。
第2 事案の概要
 1 特許庁における手続の経緯
 原告は、登録第4084767号商標(平成4年3月31日商標登録出願、同9年9月29日登録
審決、同年11月21日設定登録。本件商標)の商標権者である。本件商標は「いかし
ゅうまい」の別紙(1)のとおりの構成から成り、旧第32類「いか入りしゅうまい」
を指定商品とする。本件商標については登録異議の申立てがあり、平成10年異議
第90664号事件として審理された結果、平成11年3月4日、本件商標の登録
を取り消す旨の決定があり、その謄本は、同月12日原告に送達された。
 2 決定の理由の要点
 (1) 登録異議申立ての理由
 本件商標は、商品の品質、原材料を普通に用いられる方法で表示したにすぎない
ものであるから、商標法3条1項3号に該当し、同条2項に該当するに至っていない。
 したがって、本件商標は、同法43条の3第2項の規定により取り消されるべきであ
る。
 (2) 取消理由の通知
 本件商標は、「いかしゅうまい」の文字を行書体で縦書きして成るところ、これは
指定商品との関係からして当該商品が「いか入りのしゅうまい」であること、すなわ
ち、商品の品質、原材料を普通に用いられる方法で表示する標章のみから成る商標
と認められるものである。
 そして、本件商標は、審査及び拒絶査定不服の審判(平成5年審判第21191号)にお
いて原告の提出した各証拠を総合勘案しても、本件商標がその指定商品に使用され
た結果、需要者が商標権者である原告の業務に係る商品であることを認識すること
ができるものとなっているものとは認められない。
 したがって、本件商標は、商標法3条1項3号に違反して登録されたものと認める。
 (3) 原告の意見
 (3)-1 本件商標が、商品の品質、原材料を表示する標章から成る商標、いわゆ
る記述的商標であることは認めるものの、本件商標は、別紙に表示されたように、
「いかしゅうまい」を縦書きしたものであり、しかも「いかしゅうまい」の平仮名の
形態は、通常用いられる明朝体やゴチック体等とは全く異なる独特の字の型をした
創作文字であり、この独特の形態は他に存在しない。
 すなわち、本件商標の平仮名文字の形態は全般的に右下がりの傾向にあり、しか
も文字の太線に独特の創作性を有しており、この文字の形態は、本件商標に独特の
ものであり、この文字の形態のみで、他の平仮名文字と識別が可能となるものであ
る。
 (3)-2 本件商標は、少なくとも本件商標の登録審決時、すなわち、平成9年9月
29日当時はもとより、拒絶査定不服審判請求時(平成5年11月9日)においても使用に
よる特別顕著性を十分に取得していた。
 すなわち、本件商標は、本意見書及び本意見書と同時に提出する証拠方法をみる
限り、いわゆる使用による特別顕著性を取得していたことを十分に認識できる。
 原告は、本件商標が平成9年当時はもとより平成5年ころにも「いか入りしゅうま
い」の指定商品について、使用による特別顕著性を取得していたことを証明するた
めに、審判乙第1号証ないし同第7号証(枝番を含む。)の証拠を提出する。
 (3)-3 以上述べたように、本件商標は、商品包装箱に付された状態で新聞、テ
レビ、雑誌で広告宣伝され、さらには本件商標を付した「いかしゅうまい」商品
は、原告の店舗やデパートや郵政省の「ふるさと小包」や11万人の顧客名簿に基づ
く通信販売で長期間にわたり多数販売されてきた。
 したがって、本件商標は、審判乙各号証を総合勘案すると、その指定商品に使用
された結果、需要者が原告の業務に係る商品であることを認識できるものとなって
いたものである。
 (4) 決定の判断
 (4)-1 本件商標は、別紙(1)に表示したとおりの構成態様より成るところ、こ
の平仮名文字は毛筆で一種の行書体をもって書されたものといえるところであり、
この程度の書体はいまだ普通に用いられる方法の域を脱していないといえるもので
ある。このことは、「五體字類」(昭和45年8月1日改定37版西東書房発行假名變體の
項)によっても明らかである。
 そして、「いかしゅうまい」の語は、原告も認めるとおり、商品「いか入りしゅ
うまい」であること、すなわち、商品の品質、原材料を表示するにとどまるもので
ある。
 (4)-2 原告の提出に係る審判乙第1号証の1ないし31、審判乙第2号証の77、同
158、同182、同191、同192、同194、同195、審判乙第3号証の1ないし3、同5-1ない
し5-3、同6及び7、同9ないし13、同16、同18ないし21、同28ないし40、審判乙第4号
証の2ないし6、審判乙第5号証の1ないし23、審判乙第6号証の1の1ないし6、同2の
1及び2、同3の1及び2、同4、同5の1ないし11、同6の1ないし3、審判乙第7号証の1な
いし3並びに同5ないし28の各号証によれば、原告は、別紙(2)及び(3)に表示したと
おりの構成より成る商標を付した商品「いか入りしゅうまい」を、自己の業務に係
る店頭、百貨店及び通信販売等により、本件商標の登録出願時には相当多量販売
し、広告宣伝していたものと認定し得るところである。
 しかしながら、上記各号証における原告の使用に係る商標は、別紙(2)及び(3)に
表示したとおり、4角形の中に書された「萬丸」及び「まんまる」の文字、「海から
とれた淡雪」の文字、「いかしゅうまい」の文字及び「海からとれた淡雪」の文字と
「いかしゅうまい」の文字との間の「線」とから成るところ、「いかしゅうまい」の
文字部分に対して、四角図形とその中に表された「萬丸」及び「まんまる」の文字
部分は、その構成全体からして顕著な特徴を有するものといえるから、「萬丸」及び
「まんまる」の文字部分を除外して、「いかしゅうまい」の文字部分が独立して自他
商品の識別標識として機能を果たすものとはいい難く、しかも、前記審判乙各号証
によれば、原告の製造販売に係る商品「いか入りしゅうまい」の包装箱には、一貫
して別紙(2)及び(3)に表示した商標とほぼ同一といい得る商標が使用されていたも
のと認められ、これは、審判乙第3号証の5、同11等のテレビスポット広告の録画ビ
デオテープ中に、「マンマルイカシュウマイ」、「ヨブコマンボウノマンマルイカシ
ュウマイ」等の音声が聴取し得るところからしても、原告の使用に係る商標は、
「いかしゅうまい」の文字のみから成る本件商標とは社会通念上同一のものとはい
えないというのが相当である。
 そして、審判乙第2号証の79、同80、同82ないし85、同88ないし91、同93、同95な
いし101、同103ないし106、同108ないし121、同123ないし125、同130ないし136、同
138ないし143、同148ないし153、同155ないし157、同159ないし161、同163ないし
168、同170ないし181、同183並びに同186ないし190の各号証(「佐賀新聞」)によれ
ば、本件商標と社会通念上同一といえるものを広告宣伝していることが認められる
が、当該新聞は、佐賀県内を主発行地域とする地方紙と認められるものであって、
限られた地域の購読者を対象とするものである。
 (4)-3 そうとすれば、原告の提出に係る審判乙各号証によっては、本件商標が
査定不服の審判の審決時において、商品「いか入りしゅうまい」に使用された結果
需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識できるものとなっていたものと
は認められない。
 その上、本件商標の該審決時前より本件登録異議申立人等によって、商品「いか
入りしゅうまい」について「いかしゅうまい」と表示して使用されていた事実があ
ることは、登録異議申立人の提出に係る証拠によっても見いだし得るところであ
る。
 したがって、本件商標は、商標法3条1項3号に違反して登録されたものであるか
ら、同法43条の3第2項の規定により、その登録を取り消すべきものである。
第3 原告主張の決定取消事由
 1 決定は、本件商標の平仮名文字は毛筆で一種の行書体をもって書されたもの
といえるとし、この程度の書体はいまだ普通に用いられる方法の域を脱していない
といえるものであると認定しているが、誤りである。
 (1) 外来語を仮名表記する場合、通常の表記は、チャーハン、ラーメン、アイス
クリーム等のように片仮名で表記する。焼売も中国料理であり、その料理名も中国
語に由来する。したがって、焼売を仮名表記する場合には、「シュウマイ」と平仮
名で表記され、本件商標のように「しゅうまい」と平仮名表記するのは、「普通に
用いられる方法」ではない。このことは、岩波書店発行の「広辞苑」や「国語辞
典」、小学館発行の国語大辞典、三省堂発行の「大辞林」、学習研究社発行の「国
語大辞典」等国内大手出版社発行の国語辞典(甲第23ないし第26号証)や調理
法解説書である「NHKきょうの料理 シューマイ・ギョーザ」(乙第15号証)
においてすべて、「シュウマイ」と片仮名表記されていることから明らかである。
 原告が、本件商標を平仮名表記にしたのは、原告の商品の上品でやわらかな食感
と形態を標章自体からも印象付けるためで、平成元年から、あえて、通例の表記で
はない平仮名表記に統一した。このように、原告商品の標章は、平仮名表記するこ
とによって、本来、中華料理の一種である焼売とは全く別物の高級和食のイメージ
を醸しだすに至った。
 本件商標の「いかしゅうまい」と同一の書体は、書体の見本帳である乙第16、
第17号証には掲載されておらず、また各種の書体を集めた決定引用の「五體字
類」にも一致する書体は全くない。本件商標と一致する書体の文字が既存の使用商
標や辞典にないから、これを「普通に用いられる方法」ではない独特の書体文字と
認めることに何の不都合もない。すなわち、本件商標「いかしゅうまい」は、右肩
下がりの文字であり、従来使用されたことのない文字であり、衆目の注意を惹くも
のであって、次項に述べるような長期間の使用により、特殊書体と相俟って特別顕
著性を極めて迅速、かつ容易に取得し得る商標になっている。
 (2) 「いかしゅうまい」は単に二つの普通名称を連続させただけの標章ではな
い。原告は、それまで水産加工業者や取引関係者が考えつかなかった烏賊を主原料
とする焼売様の蒸熱水産加工食品を独自に開発し、「イカしゅうまい」あるいは
「いかしゅうまい」の標章を付加して広く販売を進めた。したがって、「いか」と
「しゅうまい」を組み合わせること自体が、全く新しい発想の食品の出現を取引業
者や一般消費者にアピールするものである。その意味で、「いかしゅうまい」の標
章は、中華料理の点心として古くから知られていたエビシュウマイやカニシュウマ
イなどの普通名称の組合せとは全く異なる組み合せであり、組合せ自体に特異性を
有する。
 このことは、例えば、料理・グルメに関する著名な雑誌として全国の書店で多数
販売されている「danchu」1994年7月号で、「いかを使った『いかしゅうま
い』となると他ではちょっとみたことがない。・・・同店のオリジナル商品。今や
北九州の名産品の1つに数えられている」(甲第10号証の3)などと紹介されてい
ることからみても、平成元年当時「いか」と「しゅうまい」の組合せは需要者にと
って特異なものであったことは明らかである。
 2 決定は、本件商標が商標法3条1項3号に該当することを前提にして、本件
商標を含む商標権者の使用商標(決定別紙(2)及び(3))の使用、広告宣伝では本件
商標部分が独立して特別顕著性を取得することができない旨認定しているが、これ
は、原告が行ってきた「いかしゅうまい」商品の開発と販売戦略、広告・宣伝戦略
とその実績を看過したものである。
 (1) 原告は、昭和61年ころ、その経営する海中レストラン「萬坊」で「いかしゅ
うまい」商品を開発した。これはイカのすり身を原料としたもので、製法は日本料
理にある「しんじょ」と同様なものであるが、この商品の評判はフジテレビのテレ
ビショッピングでも好評で、第1回で180万円以上、第2回では450万円もの売上げ
となった。
 そこで原告は、直営の海中レストラン「萬坊」の提供料理や持帰りの「おみや
げ」だけでなく、全国的規模の消費者・需要者を対象として外販や通信販売に重点
を置くことにした。地元佐賀県におけるメインメディアである佐賀新聞を始め、大
分合同新聞、長崎新聞等の各紙、STSサガテレビ、RKB毎日、MBC、KBC
九州朝日、FBS福岡、FM福岡、FM長崎などのテレビを始めとする各種の媒体
を用いて「いかしゅうまい」商品と本件商標の広告・宣伝を継続的に行ってきた。
原告の「いかしゅうまい」商品は、直販だけでなく、外販や通販の分野でもその販
路を拡大してきた。
 このような広告・宣伝と販路拡大の結果、原告における「いかしゅうまい」商品
の売上高は増加し、現在では年間5億円を超え、6億円に迫るに至っている。
 (2) 原告は、「いかしゅうまい」商品の外販にも大きな力をさき、博多大丸、佐
賀玉屋、佐世保玉屋、福岡玉屋、東京大丸、京都大丸、大阪梅田大丸、大阪心斎橋
大丸、神戸大丸、芦屋大丸、久留米岩田屋等の各地の有名百貨店と取引を行ってい
る。
 全国各地の有名百貨店が夏と年末のギフトシーズンに顧客向けに発行するギフト
カタログ(外商のしおり)には、中元や歳暮に相応しい品々が値段とともにカラー
写真入りで紹介されており、デパートへ出向かなくとも贈答の品を決定することが
できる。例えば、甲第8号証の1は「'92大丸のお中元好適品特集」であり、その
36、37頁は産地直送(産地名産特集)の頁となっていて、37頁に、独特の書体の「い
かしゅうまい」を包装箱表面に印刷した原告の主要商品である「いかしゅうまい」
が〈佐賀産〉として掲載されている。また甲第8号証の5は「'96大丸のお中元好適
品特集」であり、その91頁に独特の書体の「いかしゅうまい」を包装箱表面に印刷
した商品「いかしゅうまい」が〈海の幸特集〉の中に大きく掲載されている。
 このように、独特の書体の「いかしゅうまい」を包装箱表面に印刷した原告の主
要商品である「いかしゅうまい」が、著名デパートでギフト用カタログに掲載さ
れ、需要者に広く知られていたことは明らかである。
 (3) 決定は、「佐賀新聞は佐賀県内を主発行地域とする地方紙と認められるもの
であって、限られた地域の購読者を対象とするものである」と断定し、「いかしゅ
うまい」単独商標(本件商標)の特別顕著性を否定している。しかし佐賀新聞を
「限られた地域の購買者を対象とするもの」との認定は、以下のとおり誤ってい
る。
 佐賀新聞は県内普及率50%強を達成し、県民の強固な支持を得るに至っており、
佐賀県内最大のメディアであり、「身近で便利な新聞」として県民とのつながりも
強いとの評価が社会的に肯定されている。そして、佐賀県は、47都道府県の一つ
として一定の規模を有する地方であることは間違いない。
 原告は、佐賀県内最大のメディアである佐賀新聞において「いかしゅうまい」単
独商標の広告・宣伝を繰り返し行ってきたのであり、原告が如何に「いかしゅうま
い」商品と「いかしゅうまい」単独商標の広告・宣伝に力を入れてきたかが明らか
である。佐賀新聞が「県内グルメスポットを紹介し、グルメファン必見となってい
ます」(甲第14号証 シリーズ広告欄参照)と評価している「佐賀の有名味処」
シリーズにはほとんど「いかしゅうまい」単独商標が広告・宣伝されてきたことは
特筆されるべきである。
 (4) 「かちがらす」は、京都佐賀県人会の会報であり、年2回発行されている。
「かちがらす」第12号(平成4年5月25日号)には、「これが『いかしゅうまい』
です。玄海名物『いかしゅうまい』 大丸デパートにお目見え」と題する記事が掲
載されている(甲第27号証の1参照)。この記事によれば、平成4年3月5日京都
大丸デパートに萬坊の「いかしゅうまい」の販売コーナーが開設されたことがわか
る。重要なことは、この記事には「萬丸」「まんまる」という記載も紹介も全くな
いということである。また、この記事に掲載された平成4年5月25日以降の「かち
がらす」には、毎号萬坊の「いかしゅうまい」がその単独商標と独特の書体で広
告・宣伝されている(甲第27号証の1ないし12参照)。
 そして、「いかしゅうまい」単独商標は、「dancyu」にも繰り返し広告・
宣伝してきている。 
 (5) その他、「味の手帖」平成2年2月10日号、近畿日本ツーリスト社が平成2
年10月10日に発行した「トラベルメイト8 地酒と肴を味わう旅」、関西地方の中
高年男女を対象とする飲食店情報雑誌あまから手帖平成3年11月1日号、20代の未
婚女性を対象とする都市情報誌HANAKO平成4年3月19日号、「シティ情報ふ
くおか」平成2年2月16日号、平成5年10月13日号、平成8年4月19日号はいわゆ
る情報紹介記事であり、これらの記事は、原告の行う広告・宣伝ではないが、原告
の「いかしゅうまい」商品が紹介されており、「いかしゅうまい」商品がその商標
及び「萬坊」という原告の名称とともに取引者・需要者・一般消費者に知られるよ
うになったことを意味している。
 また、年賀ハガキお年玉など郵便局を利用した広告・宣伝もある。
 (6) これら原告の「いかしゅうまい」商品と「いかしゅうまい」単独商標につい
ての広告・宣伝と通販・外販を含む販売活動の結果、「いかしゅうまい」という呼
称及び「いかしゅうまい」単独商標が原告の製造・販売する「いかしゅうまい」商
品を想起させるに至っている。なるほど、一部の業者に、原告と無関係に「いか」
と「シュウマイ」とを組み合わせた商標を用いている者があるということはできる
が、他の「いかしゅうまい」の製造、販売業者は、すべて原告の模倣でしかない。
 3 決定は、「いかしゅうまい」の文字部分に対して、四角図形とその中に表さ
れた「萬丸」及び「まんまる」の文字部分は、その構成全体からして顕著な特異性
を有するものといえるとし、「萬丸」及び「まんまる」の文字部分を除外して、
「いかしゅうまい」の文字部分が独立して自他商品の識別標識として機能を果たす
ものとはいい難いと認定している。しかし、本件商標は以下の理由で、商標法3条
2項に該当する。
 (1) 本件商標は、「いかしゅうまい」の文字だけでなく、「萬丸」「まんまる」
の文字等を併せて構成された商標であっても「いかしゅうまい」の文字も顕著な特
徴を有しており、現実に自他商品の識別機能を果たしており、「いかしゅうまい」
の文字のみから成る(言い換えれば「萬丸」「まんまる」抜きの)本件商標と社会
通念上同一といえる商標は、佐賀新聞だけでなく、種々の新聞・雑誌・テレビ・有
名デパートのギフトカタログ等でも広告・宣伝されていて、現実に自他商品の識別
機能を果たしている。原告が販売する「いかしゅうまい」商品の包装箱の表示の全
体において看者の目に最も印象強く映る部分は、占める面積や、字体の大きさや、
使用商標中の全体に占める位置や、書体の特殊性等からみて、「いかしゅうまい」
の文字部分である。
 したがって、本件商標と同一書体の「いかしゅうまい」の文字が使用された結
果、特別顕著性を有し自他商品識別の機能を有することになった。
 (2) 一般需要者の認識については、原告の受注数の分析結果がこれを示してい
る。
 例えば受註控平成5年9月分をみると(甲第7号証の3)、その中には、葉書注
文7件、FAX28件、手紙1件があるが、その記載には「いかしゅうまい」との注
文は葉書は3件、FAX15件、手紙1件、合計19件と多数あるが、「萬丸」「まん
まる」との記載は店名を萬丸と誤記した葉書1件を除いて他は全くない。また、甲
第7号証の4(平成9年9月分)の中にはFAX等による注文が28件あるが、うち
「いかしゅうまい」と記載されたものが22件であり、「まんまる」「萬丸」との記
載は全くない。これだけをみても、需要者の「萬丸」「まんまる」と「いかしゅう
まい」との認識の程度の差は明らかである。
 (3) 一般消費者がどう認識しているか、また「いかしゅうまい」商品の包装箱な
どからどう認識するのか。
 福岡市の中央区天神の街頭等で20歳以上の男女100人に対して行ったNTTトラコ
ム㈱のアンケート調査結果報告書(甲第29号証)によると、「いかしゅうまい」
商品との結付きでは、原告「萬坊」が他を圧倒していることがわかり、原告の社名
は「イカシューマイ」のメーカーとして需要者に記憶されていることが判明する。
 (4) 決定は、「審判乙第3号証の5、同11等のテレビスポット広告の録画ビデオテ
ープ中に、「マンマルイカシュウマイ」、「ヨブコマンボウノマンマルイカシュウマ
イ」等の音声が聴取し得るところからしても、原告の使用に係る商標は、「いかし
ゅうまい」の文字のみから成る本件商標とは社会通念上同一のものとはいえないと
いうのが相当である」と認定している。
 しかし、そもそも法律上「商標」は、文字、図形、記号、若しくは立体的形状、
若しくはこれらの結合又はこれらと色彩との結合であると定義されているのであっ
て(商標法2条1項)、「音声」はその要素とされてはいない。したがって、テレ
ビスポット広告で「マンマルイカシュウマイ」と音声で聴取し得ることがあるから
といって、この音声称呼をそのまま「商標」と認定することはできない。
第4 決定取消事由に対する被告及び被告補助参加人の反論
 原告主張の決定取消事由は争う。以下の諸点からみて、本件商標を構成する「い
かしゅうまい」の表示のみをもっては、原告と原告以外の者の商品を識別し得ない
ことは明らかである。
 ◇ 外来語は片仮名で表記するのが本来であっても、「しゅうまい」のように日
本語化しているものは、平仮名での表記も普通に行われている。
 ◇ 食品の商品表示では、材料名と食品名を直接組み合わせて表示することが極
めて広範に広範に行われている。「しゅうまい」についても、「えびしゅうま
い」、「かにしゅうまい」「ほたてしゅうまい」などの例にみられるように、「し
ゅうまい」の語にその材料名を冠して一般に使用されているのが実情である。
 しかも、いかを原料としたしゅうまいが「いかシュウマイ」の名称で、昭和53
年ころから北海道、東京、名古屋、博多のデパートなどで販売されていたほか、平
成7年11月に開催された「第48回全国蒲鉾品評会」「全国水産かまぼこ祭」
で、東京都の業者が製造した「いかしゅうまい」が水産庁長官賞を受賞しているな
ど、多数の業者が商品名としてきた。
 これらの例からみても「いか」と「しゅうまい」を組み合わせることに創作性な
いし特異性はない。
 ◇ 本件商標を構成する「しゅうまい」の文字も、商標に採択、使用される多様
な文字の書体の域を脱するものではなく、独創性のある書体ではない。
 ◇ 原告が使用する商標の振り仮名の「まんまる」の文字に添えられた「萬丸」
は既成語ではなく、創作された独創性の高い語なので、本件商標が「いか入りしゅ
うまい」に使用された場合、「まんまる」「萬丸」の文字部分が、取引者、需要者
にとって自他商品識別標識となる。したがって、「いかしゅうまい」の文字部分が
顕著な特徴を有するものではない。
 ◇ 原告の製造、販売に係る「いか入りしゅうまい」の包装箱、新聞、雑誌等の
広告の表記からしても、取引者、需要者間には「まんまる」「萬丸」の表示のもの
が原告製造、販売の商品であるとの認識が確立している。
 ◇ 原告以外の者によっても、商品「いか入りしゅうまい」について「いかしゅ
うまい」の標章が使用されてきた事実がある。すなわち、原告以外に「いかしゅう
まい」「いかシュウマイ」「いかシューマイ」の表示の下に商品「いか入りしゅう
まい」を製造、販売している業者は、20社を超えている。また、飲食店、レスト
ランなどにおいても「いか入りしゅうまい」の料理名として「いかしゅうまい」の
名称を使用している業者が多数存在している。
第5 当裁判所の判断
 1 「いかしゅうまい」の表記の特殊性の有無について
 (1) 原告は、まず、本件商標のうちの「しゅうまい」との平仮名表記が普通に用
いられる方法に当たらない旨主張するが、原告自身が、本件商標登録出願において
指定商品を「いか入りしゅうまい」に訂正した経緯があること(平成5年7月14
日手続補正書。甲第13号証の3)も合わせ考えると、平仮名表記の「しゅうま
い」の表記をもって普通に用いられる方法に当たらないと認めることはできない。
原告が主張するとおり、「広辞苑」など代表的な国語辞典では、焼売が「シューマ
イ」と表記されているが(甲第23ないし第26号証)、これらの辞書は中国語に
由来する食品名を外国語の表記に即して書き表しているものと認められるのであり
(例えば、「広辞苑第5版」の凡例の「見出し語」の項では、「外来語には片仮名
を用いた」とあり、「大辞林」の凡例にも同旨の記載がある。)、一般取引者、需
要者において、辞書編集者が意図する表記方法にとらわれずに、「しゅうまい」の
表音どおりに平仮名表記する事例のあることを否定することはできない。
 (2) 原告は、その調理加工の特殊性から、「いか」と「しゅうまい」の組合せは
特異なものである旨主張する。
 しかし、「いか」も「しゅうまい」も、共にごくありふれた食材ないし加工食品
の普通名称であることは、当裁判所に顕著な事実である。原告主張のように、調理
加工に特殊技法が必要であるものであるとしても、用語自体としてみて、この二つ
の組合せに独創性があるとは到底認めることができない。本件商標の指定商品とし
て「いか入りしゅうまい」と訂正された事実も、このことを裏付ける。
 「しゅうまい」については、「えびしゅうまい」、「かにしゅうまい」「ほたて
しゅうまい」などの例(乙第6ないし第14号証、第29号証の2、第71号証の
2、丙第1号証)にみられるように、「しゅうまい」の語にその材料名を冠する例
が多数存することが認められ、加工食品である「しゅうまい」については、「しゅ
うまい」の語にその材料名を冠して「○○しゅうまい」と表示する使用例は多数あ
ることが明らかである。そして、いかを原料としたしゅうまいも、函館市の業者に
より、昭和53年ころから「いかシュウマイ」と表示されて製造、販売されてきた
こと(乙第4号証の1、2)、平成7年11月当時も東京都の業者がいかを原料と
するしゅうまいを「いかしゅうまい」と表示していたこと(乙第29号証の2)が
認められ、「いか」と「しゅうまい」を組み合わせること自体に格別の独創性、特
異性はないということができる。
 2 書体の独創性について
 本件商標の「いかしゅうまい」の字体をもって、平仮名の書体を多く掲載してい
る「五體字類」(決定引用のもの。甲第5号証)や、書体見本帳である「もじもじ
デイブレイクですが・・・」(乙第16号証)及び「シンカ書体見本帳」(乙第1
7号証)などに表れる各種の平仮名書体に比較して、顕著に一般の書体と異なって
識別されるものと認めることはできず、他に本件商標の「いかしゅうまい」の字体
に特別顕著性を認めるべきことを裏付ける証拠はない。原告は、平成12年3月2
8日付けの上申書により、本件商標の書体が独特のものであることに関し、この書
体の原筆を提出したが、本件商標の書体の原型をうかがうことができるものの、こ
れをもってしても、上記認定を左右するものではない。
 したがって、「(本件商標)の平仮名文字は毛筆で一種の行書体をもって書され
たものといえるところであり、この程度の書体はいまだ普通に用いられる方法の域
を脱していないといえる」とした決定の認定に、誤りがあるということはできな
い。
 3 本件商標の使用状況について
 (1) 決定の認定中、「原告は、別紙(2)及び(3)に表示したとおりの構成より成る
商標を付した商品「いか入りしゅうまい」を、自己の業務に係る店頭、百貨店及び
通信販売等により、本件商標の登録出願時には相当多量販売し、広告宣伝していた
ものと認定し得るところである」との部分は、もとより原告も争っていないところ
であり、甲第5号証、第10号証、第17号証、第27号証などによれば、佐賀新
聞、「かちがらす」(京都佐賀県人会報)、雑誌「dancyu」等新聞、雑誌で
の広告・宣伝の中には、原告の商品名として「いかしゅうまい」の表示を、「まん
まる」あるいは「萬丸」の標章(別紙(2)、(3)の使用商標参照)を付さずに単独で
掲げている例も多く認められるし、また、甲第29号証によれば、平成11年12
月から12年1月にかけて、福岡市の中央区天神の街頭等で20歳以上の男女100人に
対して行ったNTTトラコム㈱のアンケート調査結果では、「いかしゅうまい」の
商品名から思い付く店名又は会社名というアンケートに対し原告を思い付くという
回答が6割以上の高い比率を占めていることが認められる。
 これらの事実からすると、「原告の使用に係る商標は、「いかしゅうまい」の文
字のみから成る本件商標とは社会通念上同一のものとはいえないというのが相当で
ある」とした決定の認定部分は、必ずしも当を得たものではない。また、「当該新
聞(佐賀新聞)は、佐賀県内を主発行地域とする地方紙と認められるものであっ
て、限られた地域の購読者を対象とするものである」との決定の説示部分も、「い
かしゅうまい」商標が、佐賀県以外を含む日本全国において原告と必ずしも結び付
くものではないとの結論に至る一つの要素になり得るものとはいえ、当該結論に至
るのに十分な理由となるものではない点において、必ずしも適切なものとはいえな
い。
 (2) しかしながら、上記広告宣伝においては、当然のことながら、「いかしゅう
まい」商標のほか、製造、販売業者である原告名(「萬坊」あるいは「呼子萬
坊」)も併記されていることが認められるし、上記アンケート結果において、「い
かしゅうまい」商品で他業者を思い付く者も、約3割存在するなど、相当割合の者
が、原告以外の業者と結び付けて思い付いた者がいたことも、甲第29号証から明
らかである。
 甲第17号証の1ないし52、乙第4号証ないし第6号証、第29号証ないし第
52号証、第62号証、第89号証並びに弁論の全趣旨によれば、遅くとも平成9
年9月当時までには、佐賀県下のみならず全国各地に、「いかしゅうまい」「いか
シュウマイ」「いかシューマイ」の表示の下に商品「いか入りしゅうまい」を製
造、販売してきた業者は、原告以外にも多数(少なくとも20社)存在しており、
飲食店やレストランにおいても、料理、「いか入りしゅうまい」に「いかしゅうま
い」の名称を使用している業者が多数存在していることが認められる。
 (3) したがって、「いかしゅうまい」の商品名から原告を思い付く者が、佐賀県
や特に九州の中心である福岡市に比較的多く存在するであろうということは推認さ
れるが、福岡市においてすら、「いかしゅうまい」の商品名から原告以外の業者を
思い付く者が少なからず存在することも否定することができない。ましてや、前記
1、2のように、「いかしゅうまい」の語や書体自体に、特殊性や独創性が認めら
れないことも考え合わせると、九州以外の地方において、「いかしゅうまい」商標
を原告と結び付けて認識する者がどの程度存在するのかは、かなり疑問であるとい
わざるを得ない。
 (4) 以上のことからすると、本訴の口頭弁論終結時においてさえも、本件商標
が、商品「いか入りしゅうまい」に使用された結果、需要者が原告の業務に係る商
品であると認識することができるものとなっていたものとは認められないのであ
り、その他、ビデオテープとして提出された書証を含む本件全証拠によるも、「い
かしゅうまい」の本件商標に、商品「いか入りしゅうまい」の一般的な商品表示を
超えて原告との関係で特別顕著性を認めることはできない。したがって、本件商標
の査定不服の審判の審決時(平成9年9月29日)においても、商品「いか入りし
ゅうまい」に使用された結果需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識で
きるものとなっていたものと認めることはできず、これと同旨の決定の認定には、
結論として誤りはない。
 4 決定の判断について
 以上判断したところによれば、「本件商標は、商標法3条1項3号に違反して登録さ
れたものであるから、同法43条の3第2項の規定により、その登録を取り消すべきも
のである。」とした決定の判断に誤りはない。
第6 結論
 以上のとおり、原告主張の決定取消事由は理由がないので、原告の請求は棄却さ
れるべきである。
(平成12年2月10日口頭弁論終結)
 東京高等裁判所第18民事部
     裁判長裁判官   永   井   紀   昭
        裁判官   塩   月   秀   平
 裁判官市川正巳は、転補のため署名押印することができない。
     裁判長裁判官   永   井   紀   昭

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