弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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       主   文
一 被申請人は、申請人Aに対し金一八万円を、申請人Bに対し金五万円を、それ
ぞれ昭和六一年一月から同年一二月まで毎月末日限り仮に支払え。
二 申請人両名のその余の申請を却下する。
三 申請費用は被申請人の負担とする。
       理   由
第一 当事者の申立
一 申請人
1 申請人両名が、被申請人に対し、雇用契約上の権利を有する地位にあることを
仮に定める。
2 被申請人は申請人Aに対し、金六一万六四九七円、及び昭和六〇年一〇月から
本案判決確定に至るまで毎月末日限り月額三六万六四六六円の割合による金員を支
払え。
3 被申請人は、申請人Bに対し、金四七万三五九二円、及び昭和六○年一○月か
ら本案判決確定に至るまで毎月末日限り月額三〇万三六五八円の割合による金員を
仮に支払え。
4 申請費用は被申請人の負担とする。
二 被申請人
1 本件仮処分申請を却下する。
2 申請費用は申請人らの負担とする。
第二 当裁判所の判断
一 被保全権利
1 当事者
 本件疎明資料及び審尋の結果によれば以下の事実が一応認められる。
(一) 被申請人は、東京都江戸川区内に本店を置き、建築資材の運搬等を業とす
る会社である。
(二) 申請人A(以下「A」という。)は、昭和五七年上旬に、また同B(以下
「B」という。)は昭和五五年五月六日に被申請人にそれぞれ雇用され、貨物自動
車運転の業務に従事していた。
 なお、申請人両名は昭和五八年六月一一日運輸労連東京合同労組安田運輸支部
(その後「東京運輸合同労組安田運輸支部」に改称。以下「組合」という。)を結
成し、組合員となっている。
2 解雇
 本件疎明資料及び審尋の結果によれば以下の事実が一応認められる。
(一) 被申請人は、申請人両名に対し、昭和六〇年七月二〇日、それぞれ解雇予
告手当を提供して解雇の意思表示をなし、翌日以降申請人両名を従業員として扱わ
ない。
(二) 被申請人は就業規則を定め、その一〇条には解雇事由として「勤務成績又
は能率が不良で就業に適しないと認められる場合」(一項三号)が定められてい
る。
3 解雇事由の有無について
 被申請人は、申請人両名には、右就業規則一〇条一項三号の事由が存在する旨主
張するので、この点について判断するに、本件疎明資料及び審尋の結果によれば、
以下の事実が一応認められ、右事実を左右する疎明はない。
(一) 被申請人の業務は、鉄骨組立会社で建築資材を積載し、建築現場へ資材を
搬入することであるが、建築現場への搬入は建築工事の作業日程のうえから、搬入
時間を指定されたり、作業工程の遅延のために現場で待機時間が生じることがあ
り、また鉄骨組立会社での資材積荷に際しても同様のことが生じるため、これら荷
主の依頼等に応ずる必要上、早出、残業の時間外労働をする必要性が生ずる。そこ
で被申請人では、三六協定を締結し、従業員に対し時間外労働を命じている。しか
し、右時間外労働も、多く所定の時間をこえてなされているのが実情である。
 ところが申請人両名は、昭和六〇年四月九日(但し、Aのみ)、二〇日(但し、
Aのみ)、二二日、同年六月一七日から同月二一日まで、同年七月二日から同月五
日までそれぞれ時間外労働を拒否した。このように申請人両名が時間外労働を拒否
した理由は、まず昭和六〇年四月九日、二〇日、二二日については、同年二月以降
継続していた春闘に関する団体交渉を有利に展開させるために組合として時間外労
働を拒否したものであり(なお、四月九日の時間外労働拒否については、同月六日
に組合は同月九日から時間外労働を拒否する旨被申請人に予告している。)、また
右六月になされた時間外労働の拒否については、夏季一時金交渉を有利に展開させ
るために、組合は同月一五日の団体交渉時に、被申請人に対して時間外労働を拒否
する旨予告したうえでなされたものである。そして同年七月になされた右時間外労
働の拒否は、その頃賃金切下げ及び過積み問題について団体交渉が組合と被申請人
の間で継続していたが、組合は、その交渉を有利に展開させるため行つたもので、
時間外労働を拒否することは同年六月二九日に組合から被申請人に予告されてい
る。
 被申請人は、時間外労働を拒否した申請人両名に対し、同年六月二〇日、同年七
月二日から五日それぞれ車両の洗車を命じたがこれを拒否した。このように被申請
人が洗車を命じたのは、時間外労働が拒否されたことから、申請人両名の従事する
運送業務がなくなつたためである。
(二) ところで、申請人両名は、昭和五八年九月ころから、組合のマークやネー
ムの入つた作業衣を着用して、仕事に従事することもあり、また、被申請人の代表
取締役であるCに対し「クソツタレ」と述べるなど反抗的な態度をとることもあつ
た。そして、申請人両名は、他の従業員を馬鹿にしていたことから、会社内では他
の従業員との融和も欠いていた。
(三) Aは昭和五七年一一月二〇日から同六〇年二月二八日までに六回、Bは昭
和五七年三月六日から同五九年一〇月二〇日まで六回の事故を起こし、事故率は他
に比して高いものの、損害額は必ずしも大きいとはいえない。
(四) 被申請人は、申請人両名に対し、申請人両名の時間外労働拒否等を理由に
同年七月六日から同月一三日まで自宅待機を命じ、同月一五日から二〇日まで出勤
停止処分をした。
 なお、この間七月八日、申請人両名は、被申請人の車両に無断で乗り込み、右C
の説得にもかかわらず下車を拒否して、その使用を妨害した。
 なお、被申請人は、Aについては昭和六〇年四月六日、同年五月二五日、同月二
九日、またBについては同年四月二九日、同年五月三日、二五日、同年六月一四
日、一五日も時間外労働を拒否した旨主張するが、これを認めるに足りる疎明はな
い。また被申請人は、そのほかAにつき、昭和六〇年三月二日運送完了の際の連絡
がなかつたこと、同年四月八日佐倉への運転業務を拒否したことを、また、Bにつ
いて、Cの妻に対する暴言、アパート立退きの際Bが被申請人に不法に一〇万円を
要求し、取得したことをも解雇事由を構成する事実として主張するが、いずれもこ
れを認めるに足りる疎明はない。
 以上の事実を基礎に検討する。
 まず、時間外労働拒否の点について検討するに、右認定の時間外労働の拒否はい
ずれも団体交渉の継続中に、交渉を有利に展開するためなされた組合の正当な争議
行為と認められるのであつて、これをもつて不当な業務命令違反ということはでき
ない。
 次にその余の点について検討するに、申請人両名が洗車を拒否したこと、組合の
マーク及びネームの入った作業服を着用したこと、申請人両名の勤務態度は反抗的
でありまた社内で融和を欠いていること、事故率が高いこと、更には昭和六〇年七
月八日に被申請人の車両に無断で乗車しその使用を妨害したことは、業務命令違反
ないし職場の秩序を乱すものと一応認められるが、他方洗車拒否については、その
拒否のなされた日数は六日間にすぎず、洗車自体運転業務の付随的な業務にすぎな
いこと、また組合ネーム等を作業衣につけたこと自体は比較的軽微な行為であり、
これ自体をもつて解雇事由と認めることはできず、また申請人両名の言動も上司の
言動に基因する面も見受けられること、事故率についても、損害額の面からいえば
それ程大きなものではないこと、昭和六〇年七月八日申請人両名が車両に無断で乗
り込んだことについては、自宅待機という処置自体が組合の争議行為である時間外
労働拒否に対してなされた面を有し、また車両を使用しえなかつたことによる業務
への影響があつたとの疎明もないこともあり、これらの事情を総合すると、右各事
由それ自体一〇条一項三号の解雇事由には当たらず、またこれらを総合してもいま
だ、就業規則一〇条一項三号の解雇事由に該当するものとはいい難く、他にこれを
認めるに足りる疎明はない。
4 以上のとおりであるから、申請人両名は被申請人に対して労働契約上の権利を
有する地位にあるものと認められる。
二 保全の必要性
 そこで、保全の必要性について検討するに、本件疎明資料及び審尋の結果によれ
ば、Aには、妻と子供三人がおり、昭和六〇年六月時には基本給一八万円であつた
こと、Aには、妻による収入も期待できること、Bは独身であり、同月時の基本給
は一五万円であること、賃金はいずれも毎月末日限り支払われていたことが一応認
められる。これらの事実に将来の事情変更の可能性を考慮するとAについては毎月
一八万円、Bについては毎月一五万円を毎月末日限り、審尋の終了した昭和六一年
一月から一二月まで支払う限度において仮払を命ずるのが相当である。
 なお、申請人両名は雇用契約上の地位を仮に定める旨のいわゆる任意の履行を期
待する仮処分をも求めているが、賃金の仮払を命ずる以上にかかる仮処分を発すべ
き保全の必要性は認められない。
三 よつて、本件仮処分申請は、主文第一項の限度で理由があるからこれを認容
し、その余については保全の必要性につき疎明がなく、保証を立てさせて疎明にか
えることも相当でないからこれを却下することとし、申請費用の負担につき民事訴
訟法八九条、九二条但書を適用して主文のとおり決定する。
(裁判官 遠山廣直)

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