弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
       原判決中,上告人らに関する部分を破棄する。
       前項の部分につき,被上告人の控訴を棄却する。
       控訴費用及び上告費用は被上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人桑島英美,同川瀬庸爾の上告受理申立て理由について
 1 原審の適法に確定した事実関係等の概要は,次のとおりである。
 (1) 被上告人は,昭和50年初めころ,ビルの賃貸,管理を業とするDビル
プロヂェクト株式会社(以下「訴外会社」という。)の勧めにより,当時の被上告
人代表者が所有していた土地の上にビルを建築して訴外会社に一括して賃貸し,訴
外会社から第三者に対し店舗又は事務所として転貸させ,これにより安定的に収入
を得ることを計画し,昭和51年11月30日までに原判決別紙物件目録記載の1
棟のビル(以下「本件ビル」という。)を建築した。本件ビルの建築に当たっては
,訴外会社が被上告人に預託した建設協力金を建築資金等に充当し,その設計には
訴外会社の要望を最大限に採り入れ,訴外会社又はその指定した者が設計,監理,
施工を行うこととされた。
 (2) 本件ビルの敷地のうち,小田急線E駅に面する角地に相当する部分51
.20㎡は,もとFの所有地であったが,被上告人代表者は,これを本件ビル敷地
に取り込むため,訴外会社を通じて買収交渉を行い,訴外会社がFに対し,ビル建
築後1階のF所有地にほぼ該当する部分を転貸することを約束したので,Fは,そ
の旨の念書を取得して,上記土地を被上告人に売却した。
 (3) 被上告人は,昭和51年11月30日,訴外会社との間で,本件ビルに
つき,期間を同年12月1日から平成8年11月30日まで(ただし,被上告人又
は訴外会社が期間満了の6箇月前までに更新をしない旨の通知又は条件を変更しな
ければ更新をしない旨の通知をしなかったときは,更新される。)とする賃貸借契
約(以下「本件賃貸借」という。)を締結した。被上告人は,本件賃貸借において
,訴外会社が本件ビルを一括又は分割して店舗又は事務所として第三者に転貸する
ことをあらかじめ承諾した。
 (4) 訴外会社は,昭和51年11月30日,Fとの間で,本件ビルのうちF
の従前の所有地にほぼ照合する原判決別紙物件目録記載一及び二の部分(以下「本
件転貸部分」という。)につき,期間を同日から平成8年11月30日まで,使用
目的を店舗とする転貸借契約(以下「本件転貸借」という。)を締結した。
 (5) Fは,昭和51年11月30日に被上告人及び訴外会社の承諾を得て,
株式会社G(以下「G」という。)との間で,本件転貸部分のうち原判決別紙物件
目録記載二の部分(以下「本件転貸部分二」という。)につき,期間を同年12月
1日から5年間とする再転貸借契約(以下「本件再転貸借」という。)を締結し,
Gはこれに基づき本件転貸部分二を占有している。Gについては平成9年3月31
日に会社更生手続開始の決定がされ,上告人らが管財人に選任された。
 (6) 訴外会社は,転貸方式による本件ビルの経営が採算に合わないとして経
営から撤退することとし,平成6年2月21日,被上告人に対して,本件賃貸借を
更新しない旨の通知をした。
(7) 被上告人は,平成7年12月ころ,F及びGに対し,本件賃貸借が平成8
年11月30日に期間の満了によって終了する旨の通知をした。
 (8) 被上告人は,本件賃貸借終了後も,自ら本件ビルを使用する予定はなく
,F以外の相当数の転借人との間では直接賃貸借契約を締結したが,Fとの間では
,被上告人がFに対しGとの間の再転貸借を解消することを求めたため,協議が調
わず賃貸借契約の締結に至らなかった。
 (9) Gは昭和51年12月から本件転貸部分二において寿司の販売店を経営
しており,本件ビルが小田急線E駅前という立地条件の良い場所にあるため,同店
はその経営上重要な位置を占めている。
 2 被上告人の本件請求は,上告人らに対し所有権に基づいて本件転貸部分二の
明渡しと賃料相当損害金の支払を求めるものであるところ,上告人らは,信義則上
,本件賃貸借の終了をもって承諾を得た再転借人であるGに対抗することができな
いと主張している。
 原審は,上記事実関係の下で,被上告人のした転貸及び再転貸の承諾は,F及び
Gに対して訴外会社の有する賃借権の範囲内で本件転貸部分二を使用収益する権限
を付与したものにすぎないから,転貸及び再転貸がされた故をもって本件賃貸借を
解除することができないという意義を有するにとどまり,それを超えて本件賃貸借
が終了した後も本件転貸借及び本件再転貸借を存続させるという意義を有しないこ
と,本件賃貸借の存続期間は,民法の認める最長の20年とされ,かつ,本件転貸
借の期間は,その範囲内でこれと同一の期間と定められているから,F及びGは使
用収益をするに足りる十分な期間を有していたこと,訴外会社は,その採算が悪化
したために,上記期間が満了する際に,本件賃貸借の更新をしない旨の通知をした
ものであって,そこに被上告人の意思が介入する余地はないことなどを理由として
,被上告人が信義則上本件賃貸借の終了をF及びGに対抗し得ないということはで
きないと判断した。
 3 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次
のとおりである。
 前記事実関係によれば,被上告人は,建物の建築,賃貸,管理に必要な知識,経
験,資力を有する訴外会社と共同して事業用ビルの賃貸による収益を得る目的の下
に,訴外会社から建設協力金の拠出を得て本件ビルを建築し,その全体を一括して
訴外会社に貸し渡したものであって,本件賃貸借は,訴外会社が被上告人の承諾を
得て本件ビルの各室を第三者に店舗又は事務所として転貸することを当初から予定
して締結されたものであり,被上告人による転貸の承諾は,賃借人においてするこ
とを予定された賃貸物件の使用を転借人が賃借人に代わってすることを容認すると
いうものではなく,自らは使用することを予定していない訴外会社にその知識,経
験等を活用して本件ビルを第三者に転貸し収益を上げさせるとともに,被上告人も
,各室を個別に賃貸することに伴う煩わしさを免れ,かつ,訴外会社から安定的に
賃料収入を得るためにされたものというべきである。他方,Gも,訴外会社の業種
,本件ビルの種類や構造などから,上記のような趣旨,目的の下に本件賃貸借が締
結され,被上告人による転貸の承諾並びに被上告人及び訴外会社による再転貸の承
諾がされることを前提として本件再転貸借を締結したものと解される。そして,G
は現に本件転貸部分二を占有している。
 【要旨】このような事実関係の下においては,本件再転貸借は,本件賃貸借の存
在を前提とするものであるが,本件賃貸借に際し予定され,前記のような趣旨,目
的を達成するために行われたものであって,被上告人は,本件再転貸借を承諾した
にとどまらず,本件再転貸借の締結に加功し,Gによる本件転貸部分二の占有の原
因を作出したものというべきであるから,訴外会社が更新拒絶の通知をして本件賃
貸借が期間満了により終了しても,被上告人は,信義則上,本件賃貸借の終了をも
ってGに対抗することはできず,Gは,本件再転貸借に基づく本件転貸部分二の使
用収益を継続することができると解すべきである。このことは,本件賃貸借及び本
件転貸借の期間が前記のとおりであることや訴外会社の更新拒絶の通知に被上告人
の意思が介入する余地がないことによって直ちに左右されるものではない。
 これと異なり,被上告人が本件賃貸借の終了をもってGに対抗し得るとした原審
の判断には法令の解釈適用を誤った違法があり,この違法は判決に影響を及ぼすこ
とが明らかである。論旨は,この趣旨をいうものとして理由があり,原判決中,上
告人らに関する部分は破棄を免れない。そして,以上に説示したところによれば,
被上告人の請求を棄却した第1審判決の結論は正当であるから,上記部分について
の被上告人の控訴を棄却すべきである。
 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
    最高裁判所第一小法廷
(裁判長裁判官 町田 顯 裁判官 井嶋一友 裁判官 藤井正雄 裁判官 深澤
武久 裁判官 横尾和子)

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