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平成12年(行ケ)第452号審決取消請求事件(平成13年9月25日口頭弁論
終結)
   判    決
   原      告      住倉鋼材株式会社     
   原      告      アオイ化学工業株式会社
   原告ら訴訟代理人弁理士   中  前  富士男
   被      告      秩父産業株式会社      
   訴訟代理人弁理士小  川信一
同野  口  賢  照
  主    文
 原告らの請求を棄却する。
 訴訟費用は原告らの負担とする。
            事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
 1 原告ら
   特許庁が平成11年審判第35494号事件について平成12年10月5日
にした審決を取り消す。
   訴訟費用は被告の負担とする。
 2 被告
   主文と同旨
第2 争いのない事実
 1 特許庁における手続の経緯等
   被告は、特許第2588117号(発明の名称「コンクリート構造物を築造
する方法」、平成5年7月30日出願〔国内優先日;平成4年8月19日〕、平成
8年12月5日設定登録。以下、「本件特許」という。)の請求項1、2に記載さ
れた各発明(以下、それぞれ「本件発明1」、「本件発明2」という。)につい
て、平成11年9月13日、特許庁に対し、当時の特許権者であった原告住倉鋼材
株式会社、原告アオイ化学工業株式会社(以下、両者をあわせて「原告ら」とい
う。)及びケイコン株式会社を被請求人として、無効審判の請求をした。特許庁
は、同請求を平成11年審判第35494号事件として審理し、平成12年10月
5日に「特許第2588117号発明の明細書の請求項1及び2に記載された発明
についての特許を無効とする。」との審決(以下、「審決」という。)をし、その
謄本は平成12年10月30日原告ら及びケイコン株式会社の代理人に送達され
た。
   なお、審判被請求人ケイコン株式会社は、審決が送達された後、本訴が提起
される前の平成12年11月24日に本件特許の持分権を放棄し、これに基づき、
平成12年11月28日に原告らは本件特許権についてのケイコン株式会社の持分
をケイコン株式会社から原告らに移転する持分移転登録手続きを申請し、同申請に
基づき、平成12年12月13日に本件特許権の持分移転登録がなされている。
 2 本件発明1及び本件発明2の各要旨(特許請求の範囲の記載)
  (1) 本件発明1(請求項1)
    予め、鉄筋金網を所定形状に成形し、該鉄筋金網をコンクリート構造物の
築造場所に固着し、次いで移動して前記コンクリート構造物を連続して形成する型
枠を有した自動コンクリート連続成型施工装置を用い、前記型枠をその内側に前記
鉄筋金網が位置するように配設し、更に低スランプのコンクリート材を前記型枠に
連続的に流し込みながら、前記自動コンクリート連続成型施工装置を移動させ、前
記コンクリート構造物を連続的に築造することを特徴とするコンクリート構造物を
構築する方法。
  (2) 本件発明2(請求項2)
 鉄筋金網は、少なくとも厚み方向に2面有し、該2面の鉄筋金網の中間部
には幅止め筋が設けられている請求項1のコンクリート構造物を築造する方法。
 3 審決の理由の要点
   審決は、別紙審決書の理由写しのとおり、本件発明1及び同2に係る特許
は、特許法29条2項の規定に違反してなされたものであり、同法123条1項2
号に該当すると判断した。その要点は、次のとおりである。
  (1) 本件発明1は1992年2月28日日経BP社発行の「日経コンストラク
ション」44頁ないし47頁(甲第3号証、審判甲第1号証)及び昭和51年2月
線材製品協会発行の「溶接金網設計施工マニュアル 建築用鉄筋コンクリート構造
物」の11,12頁及び42頁ないし46頁(甲第5号証、審判甲第3号証)に記
載されたものから当業者が容易に発明することができたものであって、特許法29
条2項に該当する。
  (2) 本件発明2は、本件発明1の鉄筋金網を「鉄筋金網は、少なくとも厚み方
向に2面有し、該2面の鉄筋金網の中間部には幅止め筋が設けられている」と限定
するものであるところ、上記の限定に係る構成は周知慣用手段にすぎず、本件発明
は、上記甲第3号証、甲第5号証に記載された事項及び周知の技術的事項から当業
者が容易に発明することができたものであって、同法29条2項に該当する。
第3 原告ら主張の審決取消事由(顕著な作用効果の看過による進歩性判断の誤
り)
  審決の理由中、出願の経緯、当事者の主張の概要、本件発明1及び2の認定、
甲第3号証(審判甲第1号証)及び甲第5号証(審判甲第3号証)に記載された事
項の認定、本件発明1と甲第3号証に記載されたものとの一致点の認定(以上、審
決書の2頁8行から5頁23行)、相違点の検討のうち甲第5号証(審判甲第3号
証)の記載内容に係る部分(同5頁27行から6頁5行)及び鉄筋金網を用いた場
合の利点についての原告ら(審判の被請求人)の主張を記載した部分(6頁13行
から35行)は認めるが、①本件発明1と甲第3号証のものとの相違点について、
本件発明1は鉄筋として鉄筋金網を用いているのに対し、甲第3号証(審判甲第1
号証)に記載されたものでは、鉄筋は予め所定形状に網目状に成型されているもの
の「鉄筋金網であるかどうか不明である点で相違する」とした認定(同5頁23行
から26行)、②本件発明1と甲第3号証のものとの相違点についての判断(同6
頁6行から7頁28行)、③本件発明2が甲第3、第5号証及び周知の技術的事項
から想到容易とした判断(同7頁30行から8頁4行)は、争う。
  審決は、本件発明1及び同2(以下、両者をあわせて「本件発明」ということ
がある。)が自動コンクリート連続成型施工装置を移動させてコンクリート構造物
を連続的に築造する方法において、型枠の内側に配設する鉄筋として鉄筋金網を用
いたことにより格別顕著な効果を奏することを看過し、その結果、本件各発明の進
歩性を否定する判断をしたものであって、その判断及び審決の結論は誤りであるか
ら、取り消されるべきである。
 1 甲第3号証の技術と対比した本件発明の特徴
   本件発明は、審決が認定したように、甲第3号証に記載されたスリップフォ
ーム工法と、「予め、鉄筋を所定形状に成形し、該鉄筋をコンクリート構造物の築
造場所に固着し、次いで移動して前記コンクリート構造物を連続して形成する型枠
を有した自動コンクリート連続成型施工装置を用い、前記型枠をその内側に前記所
定形状に成形された鉄筋が位置するように配設し、更に低スランプのコンクリート
材を前記型枠に連続的に流し込みながら、前記自動コンクリート連続成型施工装置
を移動させ、前記コンクリート構造物を連続的に築造することを特徴とするコンク
リート構造物を築造する方法」であることにおいて一致する。 
   しかし、審決が、甲第3号証について「鉄筋は予め所定形状に網目状に成形
されているものの鉄筋金網を用いているかどうか不明である」(審決書5頁24,
25行)と述べていることは、誤りである。甲第3号証で用いられているのは、鉄
筋を工場又は現場で組み立てて現場で施工する手組鉄筋ないし組立鉄筋である。甲
第3号証においては、まだ鉄筋金網をスリップフォーム工法に使用するという技術
的思想はなかったのである。
   本件発明が甲第3号証のスリップフォーム工法と本質的に大きく相違するの
は、鉄筋を組み立てた手組鉄筋ないし組立鉄筋を使用する代わりに、予め工場で製
造された「鉄筋金網」を使用するという点である。すなわち、スリップフォーム工
法は、①型枠が移動する、②型枠の進行方向が開放している、③低スランプの生コ
ンを使用する、④施工中にバイブレータを通常の固定型枠の場合より効率的に使用
するなどのことから、その施工において、通常の固定型枠を使用する場合とは異な
る問題が生ずる。このようなスリップフォーム工法に特有の問題を、本件発明は、
組立鉄筋に代えて「鉄筋金網」を用いることによって解決するものなのである。
 2 「鉄筋金網」をスリップフォーム工法に用いることによる顕著な作用効果
 甲第5号証には、鉄線を予め格子状に溶接した溶接金網をコンクリート構造
物の補強用に使用した場合の利点が記載されており、これを理由に、審決は、スリ
ップフォーム工法において鉄筋の代わりに「鉄筋金網」を使用することは当業者が
容易に想到し得ることであり、「鉄筋金網」を使用したときの効果(利点)も溶接
金網や格子状に溶接した鉄筋を用いることによって当然生じる効果(利点)の範囲
内にとどまると判断している。
 しかし、甲第5号証に記載されているのは、溶接金網を一般的なコンクリー
ト構造物(固定型枠を使用する)に用いた場合の利点にすぎず、「動的な型枠」
(移動する型枠)を使用するスリップフォーム工法において鉄筋金網や溶接金網を
用いた場合の利点等については、全く記載がない。勿論、静的な型枠に溶接金網を
使用する場合の作用効果は、本件発明のように動的な型枠を使用するスリップフォ
ーム工法においても発揮されるが、鉄筋金網をスリップフォーム工法に用いた場合
には、静的な型枠について発揮される作用効果以上の効果を発揮するのである。
   すなわち、スリップフォーム工法において鉄筋金網を用いると、次のような
顕著な効果(利点)がある。
  ①施工された鉄筋金網が施工中に前方に倒壊することがない(利点1)。
  ②施工された鉄筋金網の上を、監督者や作業員が往復することができる(利点
2)。
  ③施工された鉄筋金網が左右へ傾斜するのを防止することができる(利点
3)。
  ④作業員の省力化ができる(利点4)。
  ⑤型枠の移動速度を増加することができ、これによってコンクリート構造物の
構築速度が向上する(利点5)。
  ⑥型枠が通過直後のコンクリートの脱落がなく、外観のよいコンクリート構造
物を構築することができる(利点6)。
   これらのうち、利点3、4は、甲第5号証の記載から容易に推測し得るとも
いえるが、利点1、5、6は、動的な型枠を使用するスリップフォーム工法に鉄筋
金網を使用した場合に特有の効果であって、甲第5号証から推測し得るものではな
い。 
  (利点1について) 鉄筋金網が前倒しになるのは、型枠が移動するというス
リップフォーム工法に独特の作用によるものであるから、固定型枠を使用する場合
を記載した甲第5号証から利点1が容易に推測し得るものではない。
  (利点5について) スリップフォーム工法では鉄筋金網の結束点に大きな荷
重がかかるというスリップフォーム工法に独特の作用が生ずるが、鉄筋金網を用い
れば、大きな荷重に耐えられるという顕著な効果が奏される。また、鉄筋金網の各
接点が溶接されているので、組立鉄筋に比べて接点強度を大きくすることができ、
その結果、型枠の移動速度を増加させることができるという顕著な効果も得られ
る。これらは鉄筋金網をスリップフォーム工法に使用した場合の特有の効果であ
る。
  (利点6について) 鉄筋金網は結束点の結束強度が高いので、コンクリート
の脱落がなく外観のよいコンクリート構造物を構築することができるという顕著な
効果が奏されるのであり、これらは鉄筋金網をスリップフォーム工法に使用した場
合の独特の効果である。
   このように、本件発明は、動的な型枠を使用するスリップフォーム工法にお
いては、鉄筋が型枠の進行方向に対して静止型の型枠では予期し得ない大きな荷重
を受けることを見出し、これに耐える鉄筋構造として鉄筋金網を用いている。本件
発明における鉄筋金網は、甲第5号証記載の一般構造物の静止状態で配置される型
枠内に使用する溶接金網とは全く使用状態が異なるのであって、甲第5号証の溶接
金網についての記載から本件発明の利点1、5、6を予測することができるもので
はない。
 3 本件発明の想到非容易
   スリップフォーム工法は、1960年代に我が国に導入された。その後、甲
第5号証の溶接金網設計施工マニュアルが昭和51年に刊行されているにもかかわ
らず、スリップフォーム工法の導入から本件特許出願日(優先日)までの15年の
間に、スリップフォーム工法に鉄筋金網(場合によっては溶接金網)は使用されて
おらず、関連する特許又は実用新案の出願もなされていない。これらの事実は、鉄
筋金網を使用するようなスリップフォーム工法が容易に想到し得なかったことを推
測させるものである。また、本件発明の出願後に、本件特許に係るスリップフォー
ム工法(本件発明の鉄筋金網を使用するスリップフォーム工法)が広く実施される
ようになった事実は、従来技術に比較して本件発明に格段の進歩性があったことを
示すものである。
第4 被告の主張
  審決の認定判断は正当であり、原告ら主張の取消事由は理由がない。
 1 本件発明の構成の想到容易性
(1) 甲第3号証には、動的な型枠を使用してコンクリート構造物を連続して構
築していくスリップフォーム工法と呼ばれる技術が示されている。そして、原告ら
も認めているとおり、本件発明において公知でないのは、「鉄筋金網」を用いると
いう点だけである。
    なお、原告らは、甲第3号証について、甲第3号証に示されたスリップフ
ォーム工法で使用されているのは、鉄筋金網ではなく、工場又は現場で組み立てる
手組鉄筋であると主張するが、例えば、同号証の47頁上右に示されている「コン
クリート製剛性防護柵の基本形状」の図の下側に「構造物には鉄筋が入るが、配筋
は未定」と記載されているから、審決が甲第3号証では鉄筋金網を用いているかど
うか不明であると認定し、この認定に基づいて本件発明と甲第3号証の発明との対
比・判断をしたことに誤りはない。
  (2) 甲第5号証には、溶接金網についての説明と、溶接金網が土木関係でコン
クリート舗装道路、溝渠等の補強筋として使用される旨の記載があり(甲第5号証
の12頁)、溶接金網(「鉄筋金網」と技術的に同義)をコンクリート構造物の補
強用の金網として使用することが明記されている。
  (3) そうすると、公知のスリップフォーム工法において、格子状に形成した鉄
筋(組立鉄筋、手組鉄筋)の代わりに、コンクリート構造物の補強用に使用される
溶接金網(鉄筋金網)を用いることは、当業者が何らの困難なく想到し得ることで
ある。
 2 原告らは、鉄筋金網をスリップフォーム工法に使用した場合には、顕著な効
果を奏すると主張し、甲第5号証に示された鉄筋金網の効果は、型枠が固定状態の
静的な使用における効果に過ぎず、動的な型枠に使用した場合に発揮される作用効
果は推測できないと主張する。しかし、原告らが特有の効果であると主張する利点
1ないし6は、いずれも、鉄筋金網を使用した場合に当然得られる効果にすぎず、
鉄筋金網を特にスリップフォーム工法に使用したことによって初めて得られる特有
の効果ではない。
 (利点1について) 本件発明が本件特許明細書の【従来技術】の項に記載され
た公知技術と異なるのは、結束線を使用して組み立てた鉄筋(組立鉄筋)に代えて
鉄筋金網を用いるという点だけであるところ、施工された鉄筋金網が施工中に前方
に倒壊することがないという点(利点1)については、鉄筋金網を用いても公知の
結束鉄筋(手組鉄筋)を用いても、結束が強固になされていれば相違するところは
ない。
   また、甲第5号証の11頁16行から18行には、溶接金網の特徴として、
「(5) コンクリート打設時の配筋の乱れが少ない。全体ががっちりした網状になっ
ているため、比較的細い線径の割りには大きな負荷荷重に耐えることができるの
で、コンクリート打設時に配筋を乱されることが少ない。」と記載されている。つ
まり、原告らが主張する効果(利点1)は、単なる鉄筋金網そのものの公知の効果
であって、スリップフォーム工法に使用したときにのみ生じる特有の効果ではな
い。
 (利点5、6について) 原告らは、鉄筋金網は結束点の結束強度が高いことを
理由に、スリップフォーム工法に鉄筋金網を使うと、型枠の移動速度を増加するこ
とができ、また、コンクリートの脱落がなく外観のよいコンクリート構築物を構築
することができると主張するが、鉄筋金網でなくても、結束を強固にした組立鉄筋
(結束鉄筋)を用いれば同じ効果が得られるのであるから、これらは、鉄筋金網を
一般のコンクリート構造物に用いた場合の一般効果にすぎず、スリップフォーム工
法に用いたことによる特有の効果ではない。
 3 前記2のとおり、スリップフォーム工法に鉄筋金網を使用したことによる特
別の効果は全くないのであって、本件発明は、公知のスリップフォーム工法に、従
来周知の鉄筋金網を使用し、単なる鉄筋金網の一般効果をねらって鉄筋金網を用い
ただけの効果しか奏しない発明である。
   従来スリップフォーム工法に鉄筋金網を使用しなかったのは、鉄筋金網の製
造費が高かった(甲第5号証の11頁下から2行~1行)という単純な理由による
ものであり、本件特許出願前に鉄筋金網が使用されなかったことを本件発明に進歩
性があることの証左とみることはできない。
   結局、本件発明の特徴は、「自動コンクリート連続成型施工装置を用いる場
合に結束鉄筋に代えて鉄筋金網を用いた」というところだけにあり、その鉄筋金網
の使用による利点は、鉄筋金網本来の性質であるところの現場での鉄筋の結束作業
の省略という、コンクリート構造物における鉄筋金網の本来的な性質の利用の範囲
を出ない。
   したがって、本件発明は、甲第3号証及び甲第5号証に記載の発明から当業
者が容易に想到し得たものというべきである。
第5 当裁判所の判断
  原告らが本件発明1及び本件発明2について審決取消事由として主張するとこ
ろは共通であるから、以下では両発明を区別することなく「本件発明」と呼び、原
告らの主張する取消事由の当否について検討する。
 1 本件発明が甲第3号証に記載された公知のスリップフォーム工法と異なるの
は、補強用に使用されるのが格子状に組み立てられた鉄筋ではなく「鉄筋金網」で
あるという点であり、これ以外の点に実質的な差異がないことは、当事者間に争い
がない(なお、原告らは、甲第3号証で用いられている鉄筋は「組立鉄筋」(手組
鉄筋)であると主張するのに対し、被告は審決認定のとおり「鉄筋金網を用いてい
るかどうか不明である。」と主張するが、どちらに解しても後記2の判断は左右さ
れない。)。
   また、甲第5号証に記載された「溶接金網」と本件発明の「鉄筋金網」とが
技術的に同意義のものであることは、原告らも争っておらず、当事者間に争いがな
い。
 2 そこで、甲第3号証のスリップフォーム工法において、型枠内に配設される
鉄筋を「鉄筋金網」とすることが当業者にとって想到容易か否かを検討するに、甲
第5号証には、鉄線を予め格子状に溶接した「溶接金網」を土木関係でコンクリー
ト舗装道路、溝渠等のコンクリート構造物の補強筋として使用すること、及び、溶
接金網をコンクリート構造物の補強用に使用した場合の利点が記載されている。そ
して、甲第3号証のスリップフォーム工法に用いられる予め所定の形状に組み立て
られた鉄筋(金網かどうかは不明)も、甲第5号証に記載された溶接した溶接金網
も、ともにコンクリート構造物の補強に用いられるものであるから、甲第3号証に
記載されているスリップフォーム工法において溶接金網(鉄筋金網)を使用するこ
とは、当業者が格別の困難なく想到し得たことと認められる。
   なお、甲第5号証によれば、同号証は、原告らが主張するとおり、静的な状
態すなわち固定型枠を使用して構築されるコンクリート構造物を念頭に置いて溶接
金網の利点について記述したものと認められ、スリップフォーム工法のように型枠
が移動する動的な状態での溶接金網の使用を想定した記述はないが、溶接金網をコ
ンクリート構築物の補強に用いようとする場合に、補強という点からみて、型枠が
固定されているか移動するかで違いがあるわけではなく、また、型枠が移動する場
合には溶接金網を補強の目的で使用することができないと当業者が考える理由があ
るとも認められないから、甲第5号証が固定型枠を念頭に置いて溶接金網の利点を
述べたものであるとしても、そのことは、何ら上記判断の妨げとなるものではな
い。
 3 原告らは、本件発明は、スリップフォーム工法において「動的な型枠」(動
く型枠)が使用されることから生ずる特有の問題を、鉄筋金網を用いることにより
解決するものであって、鉄筋金網をスリップフォーム工法に用いた場合には格別の
作用効果を奏すると主張する。そして、鉄筋金網を用いる事によって得られる効果
として利点1ないし6を挙げ、そのうち利点3、4は、甲第5号証から容易に推測
することができるともいえるが、他の利点、とりわけ利点1、5、6は、動的な型
枠を使用するスリップフォーム工法に鉄筋金網を使用した場合の独特の効果であっ
て、甲第5号証から推測することができるものではないと主張している。
   しかし、スリップフォーム工法に鉄筋金網を使用することによって得られる
効果(利点)は、溶接金網や格子状に溶接した鉄筋自体がもつ効果(利点)であっ
て、以下に述べるとおり、特に「動的な型枠」の使用との組み合わせによって初め
て発揮される特有の効果であるとも、顕著な効果であるとも認め難い(なお、利点
1、5、6は本件特許明細書に記載されておらず、審判手続において初めて主張さ
れた事項である。)。
  (1) 利点1について
    原告らの主張する利点1は、鉄筋金網が施工中に前方に倒壊することがな
いというものであるが、この利点が「動的な型枠」を使用する施工において鉄筋金
網を用いたことによる特有の効果とは認められない。すなわち、公知のスリップフ
ォーム工法において用いられる格子状に組み立てられた鉄筋や本件発明の鉄筋金網
は、共にコンクリート構造物の長手方向に向かって配設される点において差異がな
く、組み立てられた鉄筋あるいは鉄筋金網に同じ一方向から荷重が作用した場合に
は、それが動荷重であろうと静荷重であろうと、それぞれ同じ挙動を示すものであ
ると認めらる。したがって、スリップフォーム工法において補強用に鉄筋金網ない
し溶接金網を用いた場合に、型枠が動くか(動的な型枠)、静止しているか(固定
型枠)で、格別の差異が生ずるとはいえない。
  (2) 利点5について
    原告らの主張する利点5は、要するに、スリップフォーム工法ではコンク
リート打設の際に鉄筋の結束点に大きな荷重がかかるが、鉄筋金網を用いればかか
る荷重に耐えられるという顕著な効果があることから、型枠の移動速度を増加させ
ることができるということと解される。
    しかし、鉄筋の結束点に大きな荷重がかかることは、スリップフォーム工
法に特有の現象ではなく、コンクリート構造物の構築において日常的に発生する現
象ということができる。現に、甲第5号証によれば、同号証の11頁16行から1
8行には、「(5)コンクリート打設時の配筋の乱れがない全体ががっちりした網状に
なっているため、比較的細い線径の割には大きな負荷荷重に耐えることができるの
で、コンクリート打設時に配筋を乱されることが少ない」と記載され、コンクリー
トの打設時に大きな荷重がかかることを前提にして、溶接金網が大きな負荷荷重に
耐え得ることが説明されていることが認められる。つまり、原告らが主張する利点
5の前提となる効果は、「比較的細い線径の割には大きな負荷荷重に耐えることが
できる」という溶接金網の有する公知の効果の範囲を出ず、溶接金網をスリップフ
ォーム工法のように型枠が移動するものに用いた場合にのみ生ずる特有の効果とは
認められない。
    原告らは、鉄筋金網は、「各接点が溶接されているので、組立鉄筋に比べ
て接点強度が大きい」ことが重要な理由で、型枠の移動速度を増加することができ
ると主張するが、スリップフォーム工法で組立鉄筋(結束鉄筋)を使用する場合で
も、結束を普通にしっかりと行えば、強度の点で鉄筋金網と何ら遜色がないことは
明らかである。
    そうすると、型枠の移動速度を上げることができるという原告ら主張の利
点5に関しても、本件発明が格別の効果を有するとはいえない。
  (3) 利点6について 
    原告らは、本件発明で鉄筋金網が用いられることにより奏される顕著な効
果として、鉄筋金網は結束点の結束強度が高いので、型枠の移動直後のコンクリー
トの脱落がなく、外観のよいコンクリート構築物を構築できることを挙げる。
    しかし、結束点の結束強度が高いことは、甲第5号証に示されるような溶
接金網(鉄筋金網)の一般的に知られた性質であり、したがって、原告ら主張の効
果は、溶接金網(鉄筋金網)の通常の性質を利用したという域を出ないものであ
る。また、組立鉄筋であっても、鉄筋同士が強固に結束されていれば同じ結果が得
られるのであって、この点からも、原告らが主張する効果が公知のスリップフォー
ム工法において組立鉄筋を鉄筋金網に置換することによって予測される範囲を超え
た格別顕著な効果であるということはできない。
 4 小括
以上によれば、甲第3号証のスリップフォーム工法に用いられる「予め組み
立てられた鉄筋」に代えて鉄筋金網を用いることは、当業者にとって格別困難なこ
とと認めることはできず、また、これによる作用効果も、甲第3号証のスリップフ
ォーム工法に甲第5号証の溶接金網を用いる場合に当然に予測される範囲内のもの
といわねばならない。したがって、本件発明1は、審決が認定判断したとおり、甲
第3号証及び甲第5号証に記載された事項から当業者が容易に発明し得たものとい
うべきである。
   また、本件発明2は、本件発明1の鉄筋金網を「鉄筋金網は、少なくとも厚
み方向に2面有し、該2面の鉄筋金網の中間部には幅止め筋が設けられている」と
限定するものであるところ、その限定に係る構成は周知慣用手段であると認めら
れ、その点については原告らも特段争っていない。したがって、本件発明2は、審
決が認定判断したとおり、甲第3号証、甲第5号証に記載された事項及び周知の技
術的事項から当業者が容易に発明し得たものというべきである。
第6 結論
  以上のとおり、原告らの主張する審決取消事由は理由がなく、他に審決を取り
消すべき瑕疵は見当たらない。
  よって、原告らの請求は理由がないから棄却することとし、主文のとおり判決
する。
  東京高等裁判所第18民事部
         裁判長裁判官   永  井  紀  昭
裁判官   古  城  春  実
            裁判官   橋  本  英  史
        

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弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
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