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平成20年3月31日判決言渡同日原本領収裁判所書記官
平成19年(ワ)第22449号特許権侵害行為差止等請求事件
口頭弁論終結日平成20年2月22日
判決
仙台市<以下略>
原告アイリスオーヤマ株式会社
訴訟代理人弁護士安江邦治
訴訟代理人弁理士羽切正治
同笹川拓
同小野友彰
栃木県足利市<以下略>
被告プラコム株式会社
訴訟代理人弁護士牧山美香
訴訟代理人弁理士佐藤英昭
主文
1被告は,別紙物件目録記載の物件を譲渡し,譲渡のために展示し又は輸
入してはならない。
2被告は,別紙物件目録記載の物件を廃棄せよ。
3訴訟費用は,被告の負担とする。
4この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1請求
主文第1ないし第3項と同旨
第2事案の概要
本件は「ホースリール」についての特許権を有している原告が,被告が販,
売した別紙物件目録記載のフルカバーホースリールセット(以下「被告製品」
という)が上記特許権の特許発明の技術的範囲に属し,その譲渡,譲渡のた。
めの展示及び輸入(以下「譲渡等」という)が上記特許権を侵害するもので。
あると主張して,被告に対し,特許法100条1項及び同条2項に基づき,被
告製品の譲渡等の差止及び被告製品の廃棄を求めている事案である。
1前提となる事実等(当事者間に争いがないか,該当箇所末尾掲記の各証拠及
び弁論の全趣旨により認められる)。
()原告が有している特許権1
原告は,次の特許につき特許権(以下「本件特許権」といい,その特許,
出願を「本件特許出願」という)を有している(甲1,甲2。。)
ア特許番号第3908155号
イ発明の名称ホースリール
ウ出願日平成14年11月22日
エ登録日平成19年1月26日
オ本件特許出願の願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という)。
の特許請求の範囲の請求項1の記載は,次のとおりである(以下,請求項
1の特許発明を「本件特許発明1」といい,同発明に係る特許を「本件特
」。(「」。)。)。許1という本判決添付の特許公報以下本件公報という参照
「ホースを巻き取るドラムがフレームに回動自在に支持されたホースリ
ールにおいて,前記フレームを,前記ドラムが収容されるケース状に形成
し,当該フレームに天面を形成するとともに,前記フレームの底面に開口
部を設け,前記フレームの脚部を前記開口部を閉鎖する位置と閉鎖しない
位置との間で移動可能に取り付けたことを特徴とするホースリール」。
カ本件明細書の請求項2の記載は,次のとおりである(以下,請求項2の
「」,「」特許発明を本件特許発明2といい同発明に係る特許を本件特許2
という。本件公報参照。。)
「ホースを巻き取るドラムがフレームに回動自在に支持されたホースリ
ールにおいて,前記フレームを,前記ドラムが収容されるケース状に形成
し,当該フレームに天面を形成するとともに,前記フレームの底面に開口
部を設ける一方,前記フレーム下部に,該フレームより側方へ延出した展
開状態と,前記開口部に配置されて梱包時において前記開口部内に収容さ
れた部品の飛び出しを防止する状態との間で開閉される脚部を設けたこと
を特徴とするホースリール」。
キ本件明細書の請求項3の記載は,次のとおりである(以下,請求項3の
「」,「」特許発明を本件特許発明3といい同発明に係る特許を本件特許3
という。また,本件特許発明1,本件特許発明2及び本件特許発明3を併
せて「本件各特許発明」という。本件公報参照。。)
「前記天面を略平坦に形成したことを特徴とする請求項1又は2記載の
ホースリール」
()構成要件2
本件各特許発明を構成要件に分説すると,次のとおりである(以下,分説
した各構成要件をその符号に従い「構成要件1−A」のように表記する。。)
ア本件特許発明1
1−Aホースを巻き取るドラムがフレームに回動自在に支持されたホー
スリールにおいて,
1−B前記フレームを,前記ドラムが収容されるケース状に形成し,
1−C当該フレームに天面を形成するとともに,
1−D前記フレームの底面に開口部を設け,
1−E前記フレームの脚部を前記開口部を閉鎖する位置と閉鎖しない位
置との間で移動可能に取り付けた
1−Fことを特徴とするホースリール。
イ本件特許発明2
2−A構成要件1−Aに同じ(ホースを巻き取るドラムがフレームに回
動自在に支持されたホースリールにおいて),
2−B構成要件1−Bに同じ(前記フレームを,前記ドラムが収容され
るケース状に形成し),
2−C構成要件1−Cに同じ(当該フレームに天面を形成するととも
に),
2−D前記フレームの底面に開口部を設ける一方,
,,2−E前記フレーム下部に該フレームより側方へ延出した展開状態と
前記開口部に配置されて梱包時において前記開口部内に収容された
部品の飛び出しを防止する状態との間で開閉される脚部を設けた
2−Fことを特徴とするホースリール。
ウ本件特許発明3
3−A構成要件1−Aに同じ(ホースを巻き取るドラムがフレームに回
動自在に支持されたホースリールにおいて),
3−B構成要件1−Bに同じ(前記フレームを,前記ドラムが収容され
るケース状に形成し),
3−C構成要件1−Cに同じ(当該フレームに天面を形成するととも
に),
3−D前記フレームの底面に開口部を設け(る一方,)
3−E)前記フレームの脚部を前記開口部を閉鎖する位置と閉鎖しないa
位置との間で移動可能に取り付け,又は,)前記フレーム下部に,b
該フレームより側方へ延出した展開状態と,前記開口部に配置され
て梱包時において前記開口部内に収容された部品の飛び出しを防止
する状態との間で開閉される脚部を設け,
3−F前記天面を略平坦に形成した
3−Gことを特徴とするホースリール。
()被告製品3
被告は,被告製品を業として輸入し,販売していた(甲3。なお,被告)
は,現在,被告製品を輸入,販売していないものの,被告が被告製品の在庫
品を有していること,被告製品の輸入・販売の中止,在庫品の廃棄を内容と
する和解案に対する被告の対応状況等に鑑みれば,今後,被告が被告製品を
譲渡等するおそれがあると認められる(弁論の全趣旨。)
被告製品の具体的な構成は,別紙被告製品説明書記載のとおりである。
()本件特許発明1と被告製品との対比4
別紙被告製品説明書の記載によれば,被告製品は,ホースを巻き取るドラ
ムがフレームの内部に回動自在に支持されたホースリールであり(構成要件
1−A,1−F,前記フレームは,上部容器と下部容器とを突き合わせる)
ことにより,前記ドラムが収容されるケース状となっており(構成要件1−
B,天面を有するとともに(構成要件1−C,底面に開口部を設けてい))
る(構成要件1−D。)
したがって,被告製品は,本件特許発明1の構成要件のうち,構成要件1
−Aないし1−D及び1−Fを充足する。
()本件特許発明2と被告製品との対比5
別紙被告製品説明書の記載によれば,被告製品は,ホースを巻き取るドラ
ムがフレームの内部に回動自在に支持されたホースリールであり(構成要件
2−A,2−F,前記フレームは,上部容器と下部容器とを突き合わせる)
ことにより,前記ドラムが収容されるケース状となっており(構成要件2−
B,天面を有するとともに(構成要件2−C,底面に開口部を設けてい))
る(構成要件2−D。)
したがって,被告製品は,本件特許発明2の構成要件のうち,構成要件2
−Aないし2−D及び2−Fを充足する。
()本件特許発明3と被告製品との対比6
別紙被告製品説明書の記載によれば,被告製品は,ホースを巻き取るドラ
ムがフレームの内部に回動自在に支持されたホースリールであり(構成要件
3−A,3−G,前記フレームは,上部容器と下部容器とを突き合わせる)
ことにより,前記ドラムが収容されるケース状となっており(構成要件3−
B,天面を有するとともに(構成要件3−C,底面に開口部を設けてい))
る(構成要件3−D。)
したがって,被告製品は,本件特許発明3の構成要件のうち,構成要件3
−Aないし3−D及び3−Gを充足する。
2本件の争点
()被告製品は,本件特許発明1の技術的範囲に属するか(争点1。1)
ア被告製品は,構成要件1−Eを充足するか(争点1−1。)
イ被告製品は,本件特許発明1の作用効果を奏するか(争点1−2。)
()被告製品は,本件特許発明2の技術的範囲に属するか(争点2。2)
ア被告製品は,構成要件2−Eを充足するか(争点2−1。)
イ被告製品は,本件特許発明2の作用効果を奏するか(争点2−2。)
()被告製品は,本件特許発明3の技術的範囲に属するか(争点3。3)
ア被告製品は,構成要件3−Eを充足するか(争点3−1。)
イ被告製品は,構成要件3−Fを充足するか(争点3−2。)
ウ被告製品は,本件特許発明3の作用効果を奏するか(争点3−3。)
()本件特許1は無効とされるべきものか(争点4。4)
ア乙7,乙8及び乙22に基づく進歩性の欠如(争点4−1)
イ補正要件違反(争点4−2)
ウ記載不備(争点4−3)
()本件特許2は無効とされるべきものか(争点5。5)
ア乙7,乙8及び乙22に基づく進歩性の欠如(争点5−1)
イ記載不備(争点5−2)
()本件特許3は無効とされるべきものか(争点6。6)
3争点に関する当事者の主張
()争点1(被告製品は,本件特許発明1の技術的範囲に属するか)につい1。

ア争点1−1(被告製品は,構成要件1−Eを充足するか)について。
)原告の主張a
被告製品は,本件特許発明1の構成要件をいずれも充足するから,本
件特許発明1の技術的範囲に属する。
①被告製品が,本件特許発明1の構成要件のうち,構成要件1−Aな
,。いし1−D及び1−Fを充足することは上記1()のとおりである4
②被告製品の「サイドステップ」は,ケース底面の開口部の位置に設
けられ「開口部を閉鎖する位置(左右のサイドステップが対向し,」
て置かれた位置)と「開口部を閉鎖しない位置(左右のサイドステ」
ップが開口部の端部から外方に広がった位置)においては,相互に異
なった位置に存在するのであるから「移動可能」に取り付けられて,
いることは明らかである。
したがって,被告製品は,構成要件1−Eを充足する。
③被告は,被告製品の「脚部」が構成要件1−Eを充足しない旨主張
する。
しかし,被告が任意に命名した「脚部」という「名称」を有する部
材と構成要件1−Eにおける一定の機能を有する構成部材としての
「脚部」とを単に同一の「名称」を有する部材として形式的に対比す
ることは,方法論として失当である。被告製品において,構成要件1
−Eの「脚部」と対比すべきは「サイドステップ」である。
④被告は,構成要件1−Eの「移動」は「回動」に限定されるべきで
あると主張する。
しかし,本件特許出願における補正の経緯に照らしても「移動」,
の方法に限定はない。すなわち,本件特許出願においては「ホース,
を巻き取るドラムがフレームに回動自在に支持されたホースリールに
,,,おいて前記フレームを前記ドラムが収容されるケース状に形成し
当該フレームに天面を形成するとともに,前記フレームの底面に開口
部を設け,この底面に開設された開口部を脚部によって閉鎖できるよ
うにしたことを特徴とするホースリール」という請求項に対し,拒絶
理由通知がなされ「この底面に開設された開口部を脚部によって,『
閉鎖できるようにした』とは『脚部』を『開口部』を閉鎖できる,,
位置に固定的に取り付けたことをいうのか,あるいは『脚部』を,,
『開口部』を閉鎖する位置と閉鎖しない位置との間で移動可能に取り
付けたことをいうのか,明確でない」と指摘された「移動可能に。。
」,,取り付けたとの要件はこの拒絶理由通知における指摘を踏まえて
当該「脚部」が「開口部を閉鎖する位置」に設けたり,あるいは「開
口部を閉鎖しない位置」に設けたりできるものであることを明確に表
現するものとして追加されたものである。したがって「移動」の方,
法は限定されるものではない。
被告の主張は,本件明細書において一実施例として記載された「回
動」による「移動」の例を殊更に強調するもので,失当である。
)被告の反論b
被告製品は,本件特許発明1の構成要件1−Eを充足しない。
①構成要件1−Eの「脚部」は,フレームと別体となっており,フレ
ームに移動可能に取り付けられるものであるのに対し被告製品の脚,「
部」は,フレームと一体であって,フレームに固定されるため,移動
可能となっていない。したがって,被告製品の「脚部」は,構成要件
1−Eを充足しない。
②「位置」という用語は「或る物が他との関係もしくは全体との関係
で占める場所」として用いられ(乙4,また「間」という用語は),
「あれとこれと二つのものにはさまれた部分「物と物とにはさま」,
れた空間の部分」として用いられるから(乙17,構成要件1−E)
の「脚部」は,開口部の開閉場所との関係で移動する必要があり,移
動の範囲がフレームの底面の開口部を閉鎖する位置と閉鎖しない位置
とにはさまれた部分に限定される。これに対して,被告製品の「サイ
ドステップ」は,フレームに対して着脱自在であって「開口部を閉,
鎖する位置と閉鎖しない位置との間で移動」することを必要としない
部品であり,動く範囲に制限はないから,構成要件1−Eを充足しな
い。
③構成要件1−Eにおいて,フレームの脚部は「開口部を閉鎖する位
置と閉鎖しない位置との間で移動可能」というのであるから,このよ
うな「移動」においては「閉鎖する位置」及び「閉鎖しない位置」,
の基準となる支点が当然に存在する。本件特許発明1においては,円
筒部66が支点である(本件公報【0037。脚部が移動する際】)
に支点を基準として動くため,移動の範囲が制限される構造である。
これに対して,被告製品の「サイドステップ」は,フレームに対して
着脱自在であって,動くための支点となる基準は不要であるし,動く
範囲が制限されることもないから,構成要件1−Eを充足しない。
④構成要件1−Eの「移動」の意味は,発明の詳細な説明に定義され
ておらず,発明の詳細な説明及び図面には「回動」する構造のみが,
開示されている。特許発明の技術的範囲は,特許請求の範囲に基づい
て定めなければならず(特許法70条1項,特許請求の範囲に記載)
された用語の意義は明細書の記載及び図面を考慮して解釈するもので
あり(同条2項,また,出願当初の記載範囲を超えた補正(例えば)
上位概念への補正)は許されないから(同法17条の2第3項,構)
成要件1−Eの「移動」の用語は「回動」よりも広く解釈できるよ,
うな動きは含まない。これに対して,被告製品の「サイドステップ」
は,フレームに対して着脱されるものであり,フレームに対して「回
動」可能となっているものではないから,構成要件1−Eを充足しな
い。
このようなフレームに対する着脱の可否は,脚部の交換を容易にで
きるか否かという効果に差異をもたらすものである。
⑤構成要件1−Eの「開口部を閉鎖する位置」は,本件公報の図9の
とおり,左右の脚部が重なり合い,脚部の間に隙間ができないもので
ある。これに対して,被告製品の「サイドステップ」は,別紙図14
ないし図16のとおり,開口部を覆うようにフレームに取り付けられ
た状態において,対向した端面の間に隙間ができるから,構成要件1
−Eを充足しない。
このような脚部の間の隙間の有無は,ホースに付着した水滴を排出
できるか否かという効果に差異をもたらすものである。
イ争点1−2(被告製品は,本件特許発明1の作用効果を奏するか)に。
ついて
)被告の主張a
被告製品は,本件特許発明1の作用効果を奏さない。
①被告製品は,フレーム上に他のホースリールを積み重ねることがで
きないため,店頭陳列時の省スペース化が図れず,多くのホースリー
ルを陳列することができない。
被告製品の天面は,前後両部分が長い丸みで傾斜しているから,略
平坦ではない。
,,②被告製品の脚部はフレームの底面に一体的な固定状態で設けられ
フレームの開口部を閉鎖する位置と閉鎖しない位置との間で移動可能
となっていないから,フレーム底面の開口部を閉鎖するように移動で
きず,開口部に収容した構成部品の不用意な飛び出しを防止すること
ができない。被告製品のサイドステップはフレームの底面から取り外
すことができるため,フレームの開口部に収容した構成部品の不用意
な飛び出しを防止できない。
被告製品のサイドステップをフレームから外した状態では,サイド
ステップがフレームの開口部と無関係となるから開口部の閉鎖や構成
部品の飛び出しの防止ができないことは明白である。
)原告の反論b
被告製品は,本件特許発明1の作用効果を奏する。
①被告は,被告製品はフレーム上に他のホースリールを積み重ねるこ
とができないため,店頭陳列時の省スペース化が図れず,多くのホー
スリールを陳列することができないと主張する。
しかし,被告の主張は,被告製品の天面が「略平坦」でないことを
前提とするものであるものの,甲8号証の1の写真から明らかなとお
り,被告製品の天面は「略平坦」であるから,被告の主張は失当であ
る。
②被告は,被告製品の脚部はフレーム底面の開口部を閉鎖できず,被
告製品においてはフレームの開口部に収容した構成部品の不用意な飛
び出しを防止できないと主張する。
しかし,被告製品において,本件特許発明1の「脚部」と対比され
るべきものは「サイドステップ」であり「サイドステップ」はフレ,
ームに設けられた「嵌合穴部」及び「凸部」に固定されるのであるか
ら「開口部を閉鎖する」ことも「構成部品の不用意な飛び出しを,,
防止する」ことも可能である。
()争点2(被告製品は,本件特許発明2の技術的範囲に属するか)につい2。

ア争点2−1(被告製品は,構成要件2−Eを充足するか)について。
)原告の主張a
被告製品は,本件特許発明2の構成要件をいずれも充足するから,本
件特許発明2の技術的範囲に属する。
①被告製品が,本件特許発明2の構成要件のうち,構成要件2−Aな
,。いし2−D及び2−Fを充足することは上記1()のとおりである5
②被告製品は甲8号証の4及び5の各写真から明らかなとおりフ,,「
レーム下部に,該フレームより側方へ延出した展開状態と,前記開口
部に配置されて梱包時において前記開口部内に収容された部品の飛び
出しを防止する状態」との間で着脱自在の方法によって開閉可能に脚
部が設けられているから,構成要件2−Eを充足する。
③構成要件2−Eにいう脚部の「延出」とは,ホース使用時において
本体ケースの起立を安定させるために「ホースリール」のフレーム,
を形成する本体ケースの横幅より外側に脚部が延出するように配設す
ることを意味している。被告製品においても,ホース使用時に,サイ
ドステップの先端を本体ケースの外側に延在するように配設すること
,,によって本体ケースの起立の安定性を保持している事実に鑑みれば
被告製品のフレーム底面の開口部が開いた場合に「サイドステップ」
が取り付けられた位置状態は,構成要件2−Eにいう脚部の「延出」
にほかならない。
)被告の反論b
被告製品は,本件特許発明2の構成要件2−Eを充足しない。
①構成要件2−Eの「脚部」は,フレームと別体となっており,開閉
されるものであるのに対し,被告製品の「脚部」は,フレームと一体
であって,フレームに固定されるため,開閉可能となっていない。し
たがって,被告製品の「脚部」は,構成要件2−Eを充足しない。
②「延出」という用語は「伸びて出ていること」として用いられるか
ら(乙6,構成要件2−Eの「フレームより側方へ延出した」脚部)
は,フレームを基としてフレームから伸びる部材であり,フレームの
一部をなし,フレームから取り外しができない部品である。これに対
して,被告製品の「サイドステップ」は,フレームに対して着脱され
るものであり,フレームに対して取り外しできる部材であるから,構
成要件2−Eを充足しない。
③「開閉」という用語は「ひらくことととじること」として用いられ
(乙3,また「間」という用語は「あれとこれと二つのものには),
さまれた部分「物と物とにはさまれた空間の部分」として用いら」,
(),「」,れるから乙17構成要件2−Eにおける開閉される脚部は
開いたり閉じたりされる対象物であるフレームの開口部との開閉関係
で動く必要があり,開閉にあたり動く範囲がフレームより側方へ延出
した展開状態と,商品の飛び出しを防止する状態とにはさまれた部分
に限定される。これに対して,被告製品の「サイドステップ」は,フ
,,レームに対して着脱自在であってフレームから取り外した状態では
フレームの開口部とは無関係に自由に動くことが可能となり,フレー
ムの開口部との開閉関係で動く必要がなく,動く範囲に制限がないか
ら,構成要件2−Eを充足しない。
④構成要件2−Eにおいて,フレームの脚部の開閉は「該フレーム,
より側方へ延出した展開状態」と「前記開口部に配置されて梱包時に
おいて前記開口部内に収容された部品の飛び出しを防止する状態」と
の間で行われることから,これら2つの状態の基準となる支点が当然
に存在する本件特許発明2においては円筒部66が支点である本。,(
件公報【0037。脚部が開閉する際に支点を基準として動くた】)
め,開閉の範囲が制限される構造である。これに対して,被告製品の
「サイドステップ」は,フレームに対して着脱自在であって,動くた
めの支点となる基準は不要であるし,動く範囲が制限されることもな
いから,構成要件2−Eを充足しない。
⑤構成要件2−Eの「開閉」については,発明の詳細な説明及び図面
には「回動」する構造のみが開示されているから,構成要件2−E,
の「開閉」とは,脚部が回動することによりフレームの開口部を開閉
するものであり「回動」よりも広く解釈できるような動きは含まな,
い。これに対して,被告製品の「サイドステップ」は,フレームに対
して着脱されるものであり,フレームに対して「回動」されるもので
はないから,構成要件2−Eを充足しない。
このようなフレームに対する着脱の可否は,脚部の交換を容易にで
きるか否かという効果に差異をもたらすものである。
⑥構成要件2−Eの「開口部に配置されて梱包時において前記開口部
内に収容された部品の飛び出しを防止する状態」は,本件公報の図9
のとおり,左右の脚部が重なり合い,脚部の間に隙間ができないもの
である。これに対して,被告製品の「サイドステップ」は,別紙図1
4ないし図16のとおり,開口部を覆うようにフレームに取り付けら
れた状態において,対向した端面の間に隙間ができるから,構成要件
2−Eを充足しない。
このような脚部の間の隙間の有無は,ホースに付着した水滴を排出
できるか否かという効果に差異をもたらすものである。
イ争点2−2(被告製品は,本件特許発明2の作用効果を奏するか)に。
ついて
)被告の主張a
被告製品は,本件特許発明2の作用効果を奏さない。
その理由は,上記()イ(本件特許発明1の作用効果奏功の有無)で1
述べたとおりである。
)原告の反論b
被告製品は,本件特許発明2の作用効果を奏する。
その理由は,上記()イ(本件特許発明1の作用効果奏功の有無)で1
述べたとおりである。
()争点3(被告製品は,本件特許発明3の技術的範囲に属するか)につい3。

ア争点3−1(被告製品は,構成要件3−Eを充足するか)について。
)原告の主張a
被告製品は,本件特許発明3の構成要件3−Eを充足する。
その理由は,上記()ア及び()ア(構成要件1−E及び2−Eの充足12
の有無)で述べたとおりである。
)被告の反論b
被告製品は,本件特許発明3の構成要件3−Eを充足しない。
その理由は,上記()ア及び()ア(構成要件1−E及び2−Eの充足12
の有無)で述べたとおりである。
イ争点3−2(被告製品は,構成要件3−Fを充足するか)について。
)原告の主張a
被告製品は,本件特許発明3の構成要件3−Fを充足する。
すなわち,甲8号証の1及び3の各写真によれば,被告製品は,その
の天面が「略平坦」に形成されている。
)被告の反論b
被告製品は,本件特許発明3の構成要件3−Fを充足しない。
すなわち,本件特許発明3は,構成要件3−Fにより,天面に積み重
ねられる他のホースリールの安定性が高められる効果がある(本件公報
【0017。】)
これに対して,被告製品の天面は,周囲をなだらかに傾斜させた丸み
が形成され,フレームの前後部分における天面は傾斜した丸みが長くな
っている形状であるから,ホースリールを積み重ねると,上段にあるホ
ースリールの脚部が下段にあるホースリールの天面に安定的に接触する
ことができず,ホースリールを安定して積み重ねることができない。被
告製品は,箱詰めした状態でなければ,積み重ねて陳列できない。
被告製品の天面は,構成要件3−Fの効果を奏しないから,構成要件
3−Fを充足しない。
ウ争点3−3(被告製品は,本件特許発明3の作用効果を奏するか)に。
ついて
)被告の主張a
被告製品は,本件特許発明3の作用効果を奏さない。
その理由は,上記()イ(本件特許発明1の作用効果奏功の有無)で1
述べたとおりである。
)原告の反論b
被告製品は,本件特許発明3の作用効果を奏する。
その理由は,上記()イ(本件特許発明1の作用効果奏功の有無)で1
述べたとおりである。
()争点4(本件特許1は無効とされるべきものか)について4。
ア争点4−1(乙7,乙8及び乙22に基づく進歩性の欠如)について
)被告の主張a
本件特許発明1は,特開平9−195653号公報(乙7。以下「乙
7公報」といい,これに記載された発明を「乙7発明」という,特。)
開平11−246123号公報(乙8。以下「乙8公報」といい,これ
に記載された発明を「乙8発明」という)及び特開2001−278。
402号公報(乙22。以下「乙22公報」といい,これに記載された
発明を「乙22発明」という)に記載された公知の発明に基づいて当。
業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2
項により特許を受けることができず,本件特許1は特許無効審判により
無効にされるべきものである。したがって,同法104条の3第1項に
より,原告の本件特許権の行使は許されない。
①乙7発明の「巻取りドラム45,46「本体5「蓋体6」は,」,」,
「」,「」,それぞれ本件特許発明1のホースを巻き取るドラムフレーム
「天面」に相当する。乙7発明の「本体5」は筒状に,かつ頭部を除
去した裁頭四角錐状に形成され(0017,図1,図5「蓋体【】),
6」は「本体5」の上側に着脱自在に取り付けられるから(001【
6,図1,図2,構成要件1−Bの「フレームをケース状に形成】)
し」に相当する。乙7発明の「本体5」は筒状に形成され,上下面が
開口された構成となっているから,構成要件1−Dの「フレームの底
面に開口部を設け」た構成と実質的に等価である。
以上のとおり,乙7発明と本件特許発明1とは「ホースを巻き取,
るドラムがフレームに回動自在に支持されたホースリールにおいて,
前記フレームを,前記ドラムが収容されるケース状に形成し,当該フ
レームに天面を形成すると共に,前記フレームの底面に開口部を設け
たことを特徴とするホースリール」である点,すなわち,構成要件1
−Aないし1−D及び1−Fにおいて一致する。他方,乙7発明と本
件特許発明1とは,本件特許発明1が「前記フレームの脚部を前記開
口部を閉鎖する位置と閉鎖しない位置との間で移動可能に取り付け
た」構成(構成要件1−E)であるのに対し,乙7発明には移動する
脚部がなく,乙7公報にはそのような構成が記載されていない点にお
いて相違する。
②乙8公報には左右フレーム45の下部に位置する非使用位置折,,(
り畳み状態)と,左右フレーム4,5の外側に振り出される使用位置
(展開状態)まで回動(移動)するホースリールのステップが記載さ
れ,当該ステップはその展開状態において「ホースリール1の下部,
側の寸法を上部側よりも大きくして安定性を確保」する効果を有して
いる。他方,本件特許発明1においては,移動する脚部を設けること
「,」により両脚部6767の先端が本体ケース11より側方へ延出し
(甲2・0037「展開状態75において,本体ケース11の【】),
起立状態の安定化を図れる(甲2・0038)という効果を奏す」【】
ることができる。
そうすると,フレームを安定させるために,固定脚を省いてステッ
プ脚部だけとしこれをフレームの下部に設けそのステップ脚(),,(
部)を外側に振り出すように構成することは,当業者が必要に応じて
行う設計変更の範囲である。
特開2001−52797号公報(乙11。以下「乙11公報」と
いい,これに記載された発明を「乙11発明」という)には,カバ。
ー19がケース本体18の内部を閉鎖する位置と閉鎖しない位置との
間で移動する構造が開示されており,このことからも,ステップや脚
部などの部材がフレームの内部を閉鎖する位置と閉鎖しない位置との
間で移動する構造が公知技術であることが明白である。また,乙22
公報には,底面板がフレーム底面の開口部を閉鎖する位置と閉鎖しな
()。い位置との間で移動回動可能となっている構造が記載されている
乙22発明は,底面板が本体枠(本件特許発明1の「フレーム」に相
当)の底面開口を閉鎖する位置と閉鎖しない位置との間で回動可能と
なっていることを開示するものであり,構成要件1−Eにおける「前
記開口部を閉鎖する位置と閉鎖しない位置との間で移動可能」となっ
ている構造が公知技術となっていることを示している。
そうすると,乙7発明において「ホースリール1の下部側の寸法,
を上部側より大きくして安定性を確保」すべく,乙7発明の本体(本
件特許発明1のフレームに相当の底部に乙8公報に記載されたス),「
テップを非使用位置(折り畳み状態)と使用位置(展開状態)との間
で移動可能に取り付ける」際,乙22発明のような構造とすることに
より,構成要件1−Eの「前記フレームの脚部を前記開口部を閉鎖す
る位置と閉鎖しない位置との間で移動可能に取り付けた」構造となる
ものであり,構成要件1−Eは当業者が容易に推考し得るというべき
である。
)原告の反論b
本件特許発明1は,当業者が乙7発明,乙8発明及び乙22発明から
容易に想到することができたものではなく,特許法29条2項に該当す
るものではないから,特許無効審判により無効にされるべきものには当
たらない。
①乙7発明と本件特許発明1とは,本件特許発明1が「前記フレーム
の脚部を前記開口部を閉鎖する位置と閉鎖しない位置との間で移動可
能に取り付けた」構成(構成要件1−E)であるのに対し,乙7発明
には移動する脚部がなく,乙7公報にはそのような構成が記載されて
いないという被告指摘の点において相違するほか,以下の点において
も相違する。
()乙7発明の「大巻取りドラム45」は構成要件1−Aの「ホーi
スを巻き取るドラム」に相当するものの「小巻取りドラム46」,
は本件特許発明1には存在しない。
()乙7発明の「本体5」は,構成要件1−Bの「フレームをケーii
ス状に形成したもの」とは相違する。
乙7発明の「本体5」は「頭部を除去した裁頭四角錐状」から,
なり,その底面は開放された状態となっている。これに対し,構成
要件1−Bの「フレームをケース状に形成したもの」は,一体的な
ケース状をなし「フレーム底面に開口部「ホースを出し入れす,」,
る為の出入口32「円形穴46」を有する。したがって,乙7」,
発明の「本体5」は,構成要件1−Bの「フレームをケース状に形
成したもの」とは相違する。
()乙7発明の「蓋体6」は踏み台としての機能・役割を有するもiii
のであるのに対し,構成要件1−Cのフレームの「天面」は単にケ
,「」。ースの頭頂部を意味するものであるから蓋体6とは相違する
()乙7発明の「本体5」の底面はそもそも開放状態にあり,同開iv
口を開閉するというような技術思想は有さないものであるから,構
成要件1−Dの「開口部」とは全く相違する。
②乙8発明は,乙8公報の図1から明らかなとおり,構成要件1−B
の「フレームをケース状に形成した」ものを有するものではなく,フ
レームの底面の開口部を開閉するという技術思想も有していない。
乙8発明のステップ17は,確かに「ホースリールの下部側の寸,
法を上部側よりも大きくして安定性を確保し得る」という作用効果を
有するものではあるものの,フレームの底面の開口部を開閉するもの
ではないから「開口部を閉鎖する位置と閉鎖しない位置との間を移,
動」することはない。
したがって,乙7発明に乙8発明を組み合わせたとしても,本件特
許発明1を容易に想到することはできない。
③乙22発明は「廃棄物処理用コンテナ」を発明の名称とし「旋,,
盤その他各種工作機械による切り粉等の切削屑の廃棄」に際し行われ
ていた「従来技術における課題を解決し,とくに金属切削切り粉のよ
うな粘性の高い切削屑等をはじめとした各種廃棄物の処理に際し」,
(0004「金属切削屑等の廃棄物類はきわめて重量が嵩むた【】),
めに,上記した作業が容易ではなく,また多くの危険を伴うことが多
い。さらに金属切削により生じた切り粉などは一般的に粘性が高く,
そのために運搬箱からあける際に箱内からの底離れが悪く,そのため
に重量のある運搬箱の全体を振動させ,あるいは箱を再三横転させる
等の必要があってあまり合理的ではない(0003,そこで,。」【】)
「作業が容易・且つ合理的で,しかも危険性のないコンテナ(0」【
004)を提供することを目的とするものである。】
これに対して,本件特許発明1は「陳列時における省スペース化,
を図る(甲2・0009)ことを目的とし,かつ,(ⅰ)ドラムを」【】
支持するフレームはケース状に形成されており,かつ当該フレームに
は天面が形成されているので,店頭販売時に,他のホースリールを積
み重ねて陳列することができる(甲2・0012,(ⅱ)また,ホ【】)
ースが巻かれたドラムの露出がケース状のフレームによって防止され
るため,陳列時の外観品質が高められるとともに,使用時には,汚れ
が付着したホースがフレームによって隠蔽され,かつホースへの紫外
線の照射が遮断される(甲2・0013,(ⅲ)さらに,梱包時に【】)
おいて,別体化されたホース接続プラグや回転操作用ハンドルなどの
構成部品がフレーム底面の開口部内に収納され,使用時には,フレー
ム底面の開口からホースに結露した水滴が外へ排出される甲2・0(【
014。さらに,脚部をフレーム下部に配置した状態で,フレー】)
ム底面の開口部が前記脚部で塞がれる(0015)という作用効【】
果を有する発明である。
したがって,乙22発明は,本件特許発明1,乙7発明及び乙8発
明とは全く技術分野の異なる発明であるとともに,本件特許発明1と
は目的及び作用効果において全く異質なものである。このような乙2
2発明を乙7発明及び乙8発明と組み合わせることは,それ自体極め
てナンセンスなものと言わざるを得ないものの,いずれにしても,乙
7発明,乙8発明及び乙22発明から本件特許発明1を当業者が容易
に発明することができたとする被告の主張は合理的な根拠を欠く失当
なものと言わざるを得ない。
イ争点4−2(補正要件違反)について
)被告の主張a
本件特許1は,特許法17条の2第3項に規定される要件を満たして
いない補正をした特許出願に対して特許されたものであるから,特許法
123条1項1号により無効とすべきものである。
①本件特許1の構成要件1−Eの「前記フレームの脚部を前記開口部
を閉鎖する位置と閉鎖しない位置との間で移動可能に取り付けた」と
の記載は,本件特許出願当初の明細書(以下「本件当初明細書」とい
う)には記載がなく(乙1,拒絶理由通知を踏まえてなされた平。)
成18年11月22日付けの手続補正によって新たに加えられたもの
である(乙12。以下「本件補正」という。。)
本件補正における「移動」の用語が有する意味についての定義は,
本件当初明細書には一切記載がなく,一般的には「移り動くこと,移
り動かすこと」として用いられる(乙5。そこで,本件補正によっ)
て追加された構成要件1−Eは「前記フレームの脚部を前記開口部,
を閉鎖する位置と閉鎖しない位置との間で移り動き可能に取り付け
た」ものとなり,開口部を閉鎖する位置と閉鎖しない位置との間で直
線的にスライドする動きやジグザグ状に動く動き,国境を越えて宇宙
,,「」にまで飛んで移動する動きその他の動きの態様を含むため回動
以外の動きを含む範囲となる。
これに対し,本件当初明細書には「回動」だけが記載され(乙1,
・0037【0038,本件特許出願当初の図面にも回動する【】,】)
構造しか開示されておらず(乙1・図8,図9,本件特許出願当初)
は「回動」以外についての記載は一切ない。
「移動」の用語は「回動」以外の動きを含むものであり,下位概念
「」,「」。の回動に対し回動以外の動きを含む上位概念となっている
このように,本件特許出願当初は,下位概念の「回動」だけであるの
に対し,上位概念としての「移動」を新たに加えた補正は,願書に最
初に添付した明細書,図面に記載した事項の範囲を逸脱するため,本
件特許1は特許法17条の2第3項に規定する要件を満たしていない
補正をした特許出願に対して特許されたものである。
②原告は「当初明細書に記載した事項」とは「当初明細書等の記載,
から自明な事項」も含み,本件特許1の「前記フレームの脚部を前記
開口部を閉鎖する位置と閉鎖しない位置との間で移動可能に取り付け
た」との技術思想は本件当初明細書の記載から自明な事項であると主
張する。
しかし「当初明細書等の記載から自明な事項」であるためには,,
当初明細書等に記載がなくても,これに接した当業者であれば,出願
時の技術常識に照らして,その意味であることが明らかであって,そ
の事項がそこに記載されているのと同然であると理解する事項でなけ
ればならない(乙16。本件特許1における「移動」の動きには,)
,「」,「」,「」,「」,「」,回動のみならずスライドずらす飛ぶ渡る越える
「」,「」,「」,「」,「」,乗り移る挿入する流れて動く反転する抜き取る
「取り外す」などの多くの態様を含んでいるから,出願時の技術常識
から当初明細書に当然にあるものとはならない。よって「移動」の,
用語は,本件当初明細書の記載から自明のものではない。
また,本件当初明細書には「回動」する以外の構造は一切記載され
ていないのに対し「移動」の用語は,回動以外の多くの動きの態様,
を含むから「移動」の用語は,下位概念である出願当初の「回動」,
以外の多くの動きを含む上位概念である。そして,特許・実用新案審
査基準においても,下位概念を上位概念とする補正は,当初明細書等
に記載した事項以外の事項が追加されることになるものであるから,
当初明細書等に記載した事項の範囲内でする補正とはならないと規定
されている(乙16・3頁。)
)原告の反論b
本件特許1は,本件補正によって無効とされるべきものではない。
すなわち,本件補正は,平成18年9月13日(平成18年10月3
1日発送)に出された拒絶理由通知(最後(甲11)の「請求項1に)
は『前記フレームの底面に開口部を設け,この底面に開設された開口,
部を脚部によって閉鎖できるようにした』と記載されているが(1),
『脚部』とは何の脚部をいうのか,明確でない(2『この底面に開。)
設された開口部を脚部によって閉鎖できるようにした』とは『脚部』,
を『開口部』を閉鎖する位置と閉鎖しない位置との間で移動可能に取,
り付けたことをいうのか,明確でない。よって,請求項1に係る発明は
明確でない」との審査官の拒絶理由を受けてなされた補正であって,。
明確な記載に補正したものである。
特許庁の審査基準によれば「当初明細書等に記載した事項』とは,,『
『当初明細書等に明示的に記載された事項』だけではなく,明示的な記
載がなくても『当初明細書等の記載から自明な事項』も含む「補,。」,
正された事項が『当初明細書等の記載から自明な事項』といえるため,
には,当初明細書等に記載がなくても,これに接した当業者であれば,
出願時の技術常識に照らして,その意味であることが明らかであって,
その事項がそこに記載されているのと同然であると理解する事項でなけ
ればならない」とされている(甲13。。)
本件当初明細書(乙1)には「加えて,請求項6のホースリールに,
あっては,前記フレーム下部に,該フレームより側方へ延出した展開状
態と,当該フレーム下部に折り畳まれ前記開口部の下部に配置された折
り畳み状態との間で開閉される脚部を設けた(0022「これ。」【】),
により,脚部をフレーム下部に折り畳んだ状態で,フレーム底面の開口
部が前記脚部で塞がれる(0023)と記載されており,脚部が。」【】
「フレームより側方へ延出した展開状態」と「フレーム下部に折り畳ま
れ前記開口部の下部に配置された折り畳み状態」との二つの位置及び状
。,「,態を取ることが記載されているまた請求項6のホースリールでは
脚部をフレーム下部に折り畳むことにより,当該脚部によってフレーム
底面の開口部を閉鎖することができる。これにより,開口部内に収容し
た構成部品の不用意な飛び出しを防止することができる(007。」【
0)との作用効果も記載されている。】
本件当初明細書のこれらの記載によれば本件特許発明1の脚部は開,「
口部内に収容した構成部品の不用意な飛び出しを防止するためにフ」,「
レーム側方へ延出した展開状態」から「フレーム下部に折り畳んだ状態
で,フレーム底面の開口部が塞がれる」ような位置及び状態に移動する
ことができるような可動のものであること,そして,同移動方法は「フ
レーム側方への延出した展開状態」から「フレーム底面の開口部が塞が
れる状態」となるようなものであれば「回動(実施例)に限定され,」
ず,その他の任意の方法によってもよいことが示唆ないし開示されてい
る。本件特許1の「前記フレームの脚部を前記開口部を閉鎖する位置と
閉鎖しない位置との間で移動可能に取り付けた」との技術思想は本件当
初明細書の記載から自明な事項であるというべきである。
ウ争点4−3(記載不備)について
)被告の主張a
本件特許発明1の特許請求の範囲(請求項1)の記載は,特許法36
条6項1号及び2号に規定する要件を満たしていないから,本件特許1
は,同法123条1項4号により無効とすべきものである。
①構成要件1−Eの「開口部を閉鎖しない位置」の記載は不明確であ
り,特許法36条6項2号の規定に違反している。
「位置」の用語は「或る物が他との関係もしくは全体との関係で,
占める場所」として用いられることから(乙4,本件特許発明1の)
脚部は開口部を閉鎖する位置と閉鎖しない位置との関係で移動する必
要がある。
別紙参考図aは,脚部が「開口部を閉鎖しない位置」を図示してお
り,本件ケース(フレーム)の側面を真っ直ぐに延ばした直下の位置
Y1から水平となるY2で示す位置までの領域X1のみならず,Y2
の位置から,さらに脚部が上方に回動してフレームの側面に当接する
Y3で示す位置までの領域X2を含んだ略180°の広い範囲とな
。,「(),る位置Y2は脚部が本件ケースフレームより側方へ延出し
かつフレームの底面に当接して回動が規制された展開状態」の場所で
ある(甲2・0038。この場所では「本件ケース(フレーム)【】),
の起立状態の安定化を図れる」という効果を奏するが(甲2・00【
39,位置Y1から位置Y2に至るまでの「閉鎖しない」領域X】)
1では,この効果を奏することができない。X1の領域では,フレー
ムの起立状態の安定化を図ることができないばかりか,地面との干渉
によって,脚部が折れたり,外れる不都合も発生する。また,位置Y
2から位置Y3までの「閉鎖しない」領域X2においても「本体ケ,
ース(フレーム)の起立状態の安定化を図れる」という効果を奏する
ことができない。
別紙参考図aで示すように,構成要件1−Eの「開口部を閉鎖しな
い位置」は,位置Y2だけに特定されるものではなく,位置Y2を含
。,,んだ領域X1及び領域X2の広い範囲となるそして位置Y2では
フレームの起立状態の安定化を図れる効果を奏するのに対し,位置Y
2を除いた領域X1及びX2では,フレームの起立状態の安定化を図
れる効果を奏することはできないとともに,領域X1では脚部が折れ
たり外れる不都合も生じるこのように本件特許発明1における開,。「
口部を閉鎖しない位置」の記載は,範囲が広く位置が特定できないか
ら明確ではない。
よって「開口部を閉鎖しない位置」の記載を含む本件特許発明1,
の特許請求の範囲(請求項1)の記載は明確でないから,特許法36
条6項2号に規定する要件を満たしていない。
②構成要件1−Eの「移動」の記載が不明確である。
上記()ア(構成要件1−Eの充足の有無)で述べたとおり,本件1
特許発明1の「移動」には「回動」よりも広く解釈できるような動,
きは含まない。
しかし,明細書における用語を特定の意味で使用しようとする場合
においては,その意味を定義して使用する必要があるにもかかわらず
(特許法施行規則24条(様式29,本件特許発明1の「移動」))
の用語の意味は発明の詳細な説明には定義されていない。
本件特許発明1の「移動」の用語は,発明の詳細な説明に定義され
ていないため,どのような手段や挙動,構造でなされるかが不明であ
,,,るばかりでなく直線的にスライドする構造ジグザグ状に動く構造
宙を飛んで移動する構造など「回動」以外も含む不明瞭な用語であ,
る。このような「移動」の用語が加わっている本件特許発明1は,発
明の詳細な説明に記載したものではなく,また,明確でもなく,それ
故に,本件特許発明1の特許請求の範囲(請求項1)の記載は,特許
法36条6項1号及び2号の規定に違反している。
)原告の反論b
本件特許発明1の特許請求の範囲(請求項1)の記載は,特許法36
条6項1号及び2号に規定する要件を満たしており,本件特許1は,同
法123条1項4号により無効とすべきものではない。
被告は「開口部を閉鎖しない位置」の記載が不明確であると主張す,
る。
,「」,,()しかし開口部を閉鎖しない位置は例えば本件明細書甲2
に「図1に示したように,両脚部67,67の先端が本体ケース11よ
り側方へ延出し,かつ前記本体ケース11の底面61に当接して(図8
参照)回動が規制された展開状態75(0037)と記載され,図」【】
7に示されているとおり,その意味するところは極めて明らかである。
また「開口部を閉鎖しない位置」は,別紙参考図aの「閉鎖しない領,
域X2」を含むものではなく「前記フレームの脚部を前記開口部を閉,
鎖する位置と閉鎖しない位置との間で移動」する際の途中の状態を示す
「閉鎖しない領域X1」を意味するものでもない。本件特許1の「開口
部を閉鎖しない位置」は「前記フレームの脚部を前記開口部を閉鎖す,
る位置と閉鎖しない位置との間で移動可能に取り付けた」との構成要件
を合目的的に解釈して意味を定めねばならない。
()争点5(本件特許2は無効とされるべきものか)について5。
ア争点5−1(乙7,乙8及び乙22に基づく進歩性の欠如)について
)被告の主張a
本件特許発明2は,乙7発明,乙8発明及び乙22発明に基づいて当
業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2
項により特許を受けることができず,本件特許2は特許無効審判により
無効にされるべきものである。したがって,同法104条の3第1項に
より,原告の本件特許権の行使は許されない。
①乙7発明の「巻取りドラム45,46「本体5「蓋体6」は,」,」,
「」,「」,それぞれ本件特許発明2のホースを巻き取るドラムフレーム
「天面」に相当する。乙7発明の「本体5」は筒状に,かつ頭部を除
去した裁頭四角錐状に形成され(0017,図1,図5「蓋体【】),
6」は「本体5」の上側に着脱自在に取り付けられるから(001【
6,図1,図2,構成要件2−Bの「フレームをケース状に形成】)
し」に相当する。乙7発明の「本体5」は筒状に形成され,上下面が
開口された構成となっているから,構成要件2−Dの「フレームの底
面に開口部を設け」た構成と実質的に等価である。
以上のとおり,乙7発明と本件特許発明2とは「ホースを巻き取,
るドラムがフレームに回動自在に支持されたホースリールにおいて,
前記フレームを,前記ドラムが収容されるケース状に形成し,当該フ
レームに天面を形成すると共に,前記フレームの底面に開口部を設け
たことを特徴とするホースリール」である点,すなわち,構成要件2
−Aないし2−D及び2−Fにおいて一致する。他方,乙7発明と本
件特許発明2とは,本件特許発明2が「前記フレーム下部に,該フレ
ームより側方へ延出した展開状態と,前記開口部に配置されて梱包時
において前記開口部内に収容された部品の飛び出しを防止する状態と
の間で開閉される脚部を設けた」構成(構成要件2−E)であるのに
対し,乙7発明には開閉する脚部がなく,乙7公報にはそのような構
成が記載されていない点において相違する。
②乙8公報には「双方のステップ17は,図7に示したように,…,
左右フレーム4,5の下部において他方側の連結パイプ13との間に
収容される…非使用位置(aに示した位置)から,下方へ向かい回動
され左右一対のフレーム4,5の両側部よりも前後方向の外側に振り
出されるとともに,…使用位置まで回動するようになっている(0」【
028)と記載されている。このように作動する乙8発明のステッ】
プ17を乙7発明の本体5の下部に対して設けることにより,ステッ
プ17の展開状態では,構成要件2−Eの「当該フレームより側方へ
延出した展開状態」と同一となる。
また,乙8発明のステップ17の折り畳み状態では,ステップ17
が「前記開口部に配置され」ることとなる。本件特許発明2における
「開口部内に収容された部品の飛び出しを防止する状態」は脚部(ス
テップ)が「開口部に配置される」ことにより自ずと得られる作用に
すぎず,この点に特徴が存在するものではない。特開2000−19
7472号公報(乙10。以下「乙10公報」といい,これに記載さ
れた発明を乙10発明というにはタバコディスペンサのス「」。),「
ライド片40は,箱体の上面を水平に摺動する細長片で,一端は箱体
の開口部を閉鎖する蓋部となる。…(0014,図2)と記載さ」【】
,,「,れ乙11公報には図8はカバー19を矢印のように左回転させ
接続用コネクタ20を露出開放した状態を示す。図9はカバー19を
矢印と反対方向に右回転させ,上記円状ケース本体18の縁部18a
にカバー19の縁部19aを合致させた状態を示すものである。そし
て上記接続用コネクタ20はカバー19により閉鎖状態となる0。」(【
035)と記載され,さらに,特開平6−191604号公報(乙】
14。以下「乙14公報」といい,これに記載された発明を「乙14
発明」という)には「ボックス本体(10)の下端開口部を底蓋。,
(20)により開閉でき(0016)と記載されている。これら」【】
の記載によれば,脚部(ステップ)の閉鎖状態では,フレーム内の内
容物の飛び出しを防止できることは公知の事実であり「部品の飛び,
出しを防止する状態」について特徴はない。
さらに,乙22発明には,本体枠1(本件特許発明2のフレームに
相当)の底面開口を開閉する底面板6,7が開示されており,この底
,,()面板67は底面開口の開き状態では本体枠1内部の内容物部品
が落下する(飛び出す)ものの,底面開口の閉じ状態では,本体枠1
()。,の内部の内容物部品の飛び出しを防止するものであるすなわち
乙22発明には,構成要件2−Eの「前記開口部に配置されて梱包時
において前記開口部内に収容された部品の飛び出しを防止する状態と
の間で開閉される」底面板が開示されている。
そうすると,乙7発明の本体の底部に,乙8発明のステップを取り
付ける際に,乙22発明のようにステップを「開口部に配置されて梱
包時において前記開口部内に収容された部品の飛び出しを防止する状
態との間で開閉される」構造とすることは容易であり,本件特許発明
2−Eの「前記フレーム下部に,該フレームより側方へ延出した展開
状態と,前記開口部に配置されて梱包時において前記開口部内に収容
された部品の飛び出しを防止する状態との間で開閉される脚部を設け
た」構造は,当業者が容易に推考し得るというべきである。
)原告の反論b
本件特許発明2は,当業者が乙7発明,乙8発明及び乙22発明から
容易に想到することができたものではなく,特許法29条2項に該当す
るものではないから,本件特許2は,特許無効審判により無効にされる
べきものには当たらない。
①乙7発明と本件特許発明2とは,本件特許発明2が「前記フレーム
下部に,該フレームより側方へ延出した展開状態と,前記開口部に配
置されて梱包時において前記開口部内に収容された部品の飛び出しを
防止する状態との間で開閉される脚部を設けた」構成(構成要件2−
E)であるのに対し,乙7発明には開閉する脚部がなく,乙7公報に
はそのような構成が記載されていないという被告指摘の点において相
違するほか,以下の点においても相違する。
()乙7発明の「大巻取りドラム45」は構成要件2−Aの「ホーi
スを巻き取るドラム」に相当するものの「小巻取りドラム46」,
は本件特許発明2には存在しない。
()乙7発明の「本体5」は,構成要件2−Bの「フレームをケーii
ス状に形成したもの」とは相違する。
乙7発明の「本体5」は「頭部を除去した裁頭四角錐状」から,
なり,その底面は開放された状態となっている。これに対し,構成
要件2−Bの「フレームをケース状に形成したもの」は,一体的な
ケース状をなし「フレーム底面に開口部「ホースを出し入れす,」,
る為の出入口32「円形穴46」を有する。したがって,乙7」,
発明の「本体5」は,構成要件2−Bの「フレームをケース状に形
成したもの」とは相違する。
()乙7発明の「蓋体6」は踏み台としての機能・役割を有するもiii
のであるのに対し,構成要件2−Cのフレームの「天面」は単にケ
,「」。ースの頭頂部を意味するものであるから蓋体6とは相違する
()乙7発明の「本体5」の底面はそもそも開放状態にあり,同開iv
口を開閉するというような技術思想は有さないものであるから,構
成要件2−Dの「開口部」とは全く相違する。
②乙8発明は,乙8公報の図1から明らかなとおり,構成要件2−B
の「フレームをケース状に形成した」ものを有するものではなく,フ
レームの底面の開口部を開閉するという技術思想も有していない。
乙8発明のステップ17は,確かに「ホースリールの下部側の寸,
法を上部側よりも大きくして安定性を確保し得る」という作用効果を
有するものではあるものの,フレームの底面の開口部を開閉するもの
ではないから「フレームより側方へ延出した展開状態と,開口部内,
に収容された部品の飛び出しを防止する状態との間で開閉される」こ
とはない。
したがって,乙7発明に乙8発明を組み合わせたとしても,本件特
許発明2を容易に想到することはできない。
③乙22発明が本件特許発明2,乙7発明及び乙8発明と技術分野が
全く異なり,その目的及び作用効果も全く異質であること,そのよう
な乙22発明を乙7発明及び乙8発明と組み合わせることはナンセン
スであること,乙7発明,乙8発明及び乙22発明から本件特許発明
2を当業者が容易に発明することができたとする被告の主張が合理的
な根拠を欠く失当なものであることについては,上記()アで述べた4
ところと同様である。
イ争点5−2(記載不備)について
)被告の主張a
本件特許2は,特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていな
いから,同法123条1項4号により無効とすべきものである。
①構成要件2−Eの「フレームより側方へ延出した展開状態」の記載
が不明確である。
「延出」の用語は「伸び出ていること」として用いられることか,
ら(乙6「フレームより側方へ延出した展開状態」の記載内容は),
脚部がフレームより側方へ伸び出た状態となる。
別紙参考図bは,脚部が「フレームより側方へ延出した展開状態」
を図示しており,本体ケース(フレーム)の側面を真っ直ぐに延ばし
た直下の位置L1よりも,幾分,外側に斜めに傾いて伸びる位置L2
から水平に伸びるL3で示す位置までの領域M1のみならず,水平な
L3の位置からさらに脚部が上方に回動し,フレームの上方に向かっ
て伸びてフレームの側面に当接するL4で示す位置までの領域M2を
含んだ広い範囲となる。
展開状態の効果について,本件明細書には「展開状態75におい,
て,本体ケース11の起立状態の安定化を図れるように構成されてお
り」と記載されているものの(0038「展開状態75」は「両【】),
脚部67,67の先端が本体ケース11より側方へ延出し,かつ前記
本体ケース11の底面61に当接して(図8参照)回動が規制された
展開状態75(0037)である。すなわち「本体ケースの起」【】,
立状態の安定化を図れる」という展開状態の効果を奏することができ
るのは別紙参考図bにおける水平位置L3に過ぎないしかも起,。,「
立状態の安定化を図れる」ためには,水平位置L3において,脚部が
本体ケースの底面に当接して回動が規制される必要がある。
しかし,本件特許2の「側方へ延出した」という記載では,水平位
置L3のみならず,位置L2から位置L3までの領域M1,さらには
位置L3から位置L4までの領域M2を含んでいる。そして,領域M
1では「本体ケース(フレーム)の起立状態の安定化を図る」こと,
ができないばかりか,地面との干渉によって脚部が折れたり,外れる
不都合がある。また,領域M2においても,脚部が地面と接触しない
から「本体ケース(フレーム)の安定化を図る」ことができない。
以上のように,本件特許2の「フレームより側方へ延出した展開状
態」の記載は「起立状態の安定化を図る」ことができないという領,
域M1,M2を含む広い範囲であるため明確でない。
②構成要件2−Eの「開閉される」の記載が不明確である。
上記()ア(構成要件2−Eの充足の有無)で述べたとおり,本件2
特許2の「開閉」には「回動」よりも広く解釈できる動きを含まな,
い。
しかし「開閉」は「ひらくことととじること」として用いられる,
から(乙3,構成要件2−Eの「開閉される」の用語は「開いたり)
閉じたりする」として用いられる。このような「開いたり閉じたりす
る」動作は,直線的にスライドして開閉する動き,空中を飛んで開閉
する動きなど「回動」以外の多くの動きを含むものであり「開閉,,
」。されるの用語は動きを特定することができない不明瞭な用語である
,「」,よって開閉されるの用語を含む本件特許2は明確でないから
特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない。
)原告の反論b
,,本件特許2は特許法36条6項2号に規定する要件を満たしており
同法123条1項4号により無効とすべきものではない。
,「」①被告は構成要件2−Eのフレームより側方へ延出した展開状態
の記載が不明確であると主張する。
しかし,本件明細書(甲2)において,展開状態の効果について述
べた「展開状態75において,本体ケース11の起立状態の安定化を
図れるように構成されており」との記載(0038「図1に示【】),
したように,両脚部67,67の先端が本体ケース11より側方へ延
出し」との記載(0038)及び図1を合理的に解釈すれば「フ【】,
レームより側方へ延出した展開状態」が別紙参考図bの水平位置L3
の状態であることは極めて明らかである。
②被告は,構成要件2−Eの「開閉される」の記載が不明確であると
主張する。
しかし,本件特許発明2において「開閉される」のは「フレーム,
底面の開口部」であって「開閉する」のは「両脚部67,67」で,
あることは,本件明細書から極めて明らかである。そして「前記フ,
レーム下部に,該フレームより側方へ延出した展開状態と,前記開口
部に配置されて梱包時において前記開口部内に収容された部品の飛び
出しを防止する状態との間で開閉される脚部を設けたとの記載甲。」(
2・0011)によれば「開閉される脚部」の取付け方法には限【】,
定がなく,一実施例に示された「回動」に限定される合理的理由はな
い。
要するに両脚部6767がフレーム底面の開口部を開,「,」「」「
いたり,閉じたり」でき,かつ開いた状態において「フレームより,
側方へ延出した展開状態」となるように「フレーム下部に」設けら,
れればよいのである。
()争点6(本件特許3は無効とされるべきものか)について6。
ア被告の主張
本件特許3は,本件特許1及び本件特許2の従属項であるから,本件特
許1及び本件特許2と同様に進歩性を有しておらず,無効にされるべきも
のである。その理由は,上記()ア及び()アで述べたとおりである。45
イ原告の反論
本件特許3は,進歩性を有しており,無効にされるべきものではない。
その理由は,上記()ア及び()アで述べたとおりである。45
第3当裁判所の判断
1争点1(被告製品は,本件特許発明1の技術的範囲に属するか)について。
()争点1−1(被告製品は,構成要件1−Eを充足するか)について1。
ア構成要件1−Eの「フレームの脚部を前記開口部を閉鎖する位置と閉鎖
しない位置との間で移動可能に取り付けた」とは,その字義通り「フレ,
ームの脚部」を「開口部を閉鎖する位置」に位置させることができるとと
もに,同じ「フレームの脚部」を開口部を「閉鎖しない位置」に位置させ
,「」「」,ることもできるようにフレームの脚部を取り付けることを要し
かつ,これで足りると解すべきである。このように,同一の「フレームの
脚部」を「開口部を閉鎖する位置」及び開口部を「閉鎖しない位置」のい
ずれにも位置させることができるようにすれば,必然的に,一方の位置に
位置させた「フレームの脚部」を他方の位置に位置させるために「フレ,
ームの脚部」を一方の位置から他方の位置に「移動可能」とすることにな
り,かかる「移動」の際には「フレームの脚部」は一方の位置と他方の,
位置「との間」を「移動」することになるから,結局「フレームの脚部,
を前記開口部を閉鎖する位置と閉鎖しない位置との間で移動可能に取り付
けた」ことになる。
そして,被告製品において「サイドステップ」を「開口部を閉鎖する,
位置」に位置させることができることは,甲8号証の4の写真から明らか
であり,同じ「サイドステップ」を開口部を「閉鎖しない位置」に位置さ
せることもできることは,甲8号証の5の写真から明らかであるから,被
告製品は,構成要件1−Eを充足する。
イこれに対して,被告は,構成要件1−Eの「移動」とは「回動」よりも
,「」「」広く解釈できるような動きは含まないからサイドステップが回動
する構造になっていない被告製品は,構成要件1−Eを充足しないと主張
する。
しかし,本件明細書において,実施例としては脚部が「回動」する構造
のもののみが記載されているとしても「フレームの脚部を前記開口部を,
閉鎖する位置と閉鎖しない位置との間で移動可能に取り付け」る構成とし
て,脚部が「回動」する構造のほかに,脚部をスライドさせる構造や,着
脱自在とした脚部を付け替える構造をも含み得ることは,当業者が技術常
識をもって本件明細書を見れば容易に理解することができるものである。
また本件明細書には脚部を移動可能とする構成として脚部が回,,「」,「
動」する構造に限定する旨の記載や示唆はなく,そのような構造に限定す
べき理由もない。なお,請求項1においては「移動」とは別に「回動」,
という用語が用いられており,このことからも「移動」が「回動」に限定
されるものではないことが明らかである。
したがって,被告の主張は,構成要件1−Eの「移動」が「回動」に限
定されるとの前提において既に誤っており,採用の限りでない。
ウ被告は,構成要件1−Eの「開口部を閉鎖する位置」とは,脚部の間に
隙間ができないものであると主張する。しかし,被告の主張は,上記()2
同様,実施例(本発明の一実施の形態。甲2・0027)に拘泥す「」【】
るものであり,そのように解すべき理由はない。本件明細書によれば,本
件特許発明1においては「開口部を閉鎖する」ことによって,水をも漏,
らさぬようにする必要があるとは解されず,証拠(甲8の4)に示された
被告製品の「サイドステップ」の状態が構成要件1−Eの「開口部を閉鎖
する」と評価すべきものであることは明らかである。よって,この点の被
告の主張は理由がない。
また,被告は,構成要件1−Eの「移動」においては「閉鎖する位置」
及び「閉鎖しない位置」の基準となる支点が当然に存在するとか,構成要
「」,,件1−Eの脚部は開口部の開閉場所との関係で移動する必要があり
移動の範囲がフレームの底面の開口部を閉鎖する位置と閉鎖しない位置と
。,,にはさまれた部分に限定されるなどと主張するしかしいずれの主張も
本件明細書に基づく主張ではなく,被告独自の主張であり,到底採用の限
りでない。
なお,構成要件1−Eの「脚部」に相当する機能を有する部材が,被告
製品のサイドステップであることは明らかであるから被告製品のサ「」,「
イドステップ」が構成要件1−Eの「脚部」の要件を充足することを判断
すれば足りるのであり,被告が任意に「脚部」と命名したにすぎない部材
が,構成要件1−Eの「脚部」に該当するかどうかを判断する必要がない
ことは明らかである。
()争点1−2(被告製品は,本件特許発明1の作用効果を奏するか)につ2。
いて
ア被告は,被告製品はフレーム上に他のホースリールを積み重ねることが
できないため,店頭陳列時の省スペース化が図れず,多くのホースリール
を陳列することができないと主張する。
しかし,被告は,被告製品のフレーム上に他のホースリールを積み重ね
ることができないことについて何ら立証しておらず,被告の主張を認める
に足りる証拠はない。
かえって,別紙被告製品説明書図1,図2,図5,図6及び図8並びに
甲8号証の2の各写真によれば,被告製品の天面は,幅方向についても長
手方向についても相当程度の長さにわたって略平坦に形成されているこ
と,テーブル上で天地を逆転させ,天面をテーブルに接地させても安定し
ていること,被告製品のサイドステップを装着した状態では脚部の接地面
にサイドステップも接地することが窺われ,これらの事実によれば,被告
製品においても,フレーム上に他のホースリールを積み重ねることができ
るものと推認される。
よって,この点の被告の主張は,採用できない。
イ被告は,被告製品の脚部はフレーム底面の開口部を閉鎖できず,フレー
ムの開口部に収容した構成部品の不用意な飛び出しを防止できないし,被
告製品のサイドステップもこれをフレームから外した状態では,フレーム
底面の開口部を閉鎖できず,フレームの開口部に収容した構成部品の不用
意な飛び出しを防止できないと主張する。
しかし,被告製品のサイドステップがフレームの開口部を閉鎖できるこ
とは,甲8号証の4の写真から明白であり,かかる状態において,被告製
品のサイドステップは,二つのボス部をフレーム底面の二つの嵌合穴部に
嵌合させ,二つの穴部をフレーム底面の二つの凸部に嵌合させることによ
って取り付けられているのであるから,被告製品においても,フレームの
開口部に収容した構成部品の不用意な飛び出しを防止できることは明らか
である。被告の上記主張も理由がない。
2争点4(本件特許1は無効とされるべきものか)について。
()争点4−1(乙7,乙8及び乙22に基づく進歩性の欠如)について1
ア乙7発明と本件特許発明1との一致点及び相違点
乙7発明は,ホースリール付き踏み台に関する発明であり,乙7公報に
は,外郭を構成する本体5と,この本体の上側を塞いで踏み板となる蓋体
6と,前記本体内に収納されたホースを巻き取る巻取りドラム45,46
と,各巻取りドラムの回転軸を回転可能に支持する中間支持体47と,各
巻取りドラムの外側を回転可能に支持する外側支持体48と,各巻取りド
ラムの回転軸をその回転を許容した状態で掴んで支持する回転軸支持板4
9と,各巻取りドラムの回転軸に外部から連結してこのドラムを回転させ
てホースを巻き取るハンドル50から成るホースリール付き踏み台1が開
示されている(乙7・0001【0009【0013。この本体【】,】,】)
5は,4枚の壁板によって筒状に,かつ,頭部(上部)を除去した裁頭四
,,,角錐状に形成されており4枚の壁板の下部にそれぞれ切欠部7a7b
7c,7dが設けられることにより,下部四隅部に固定脚が形成されてい
る(乙7・0017【0018,図5。【】,】)
乙7発明の「巻取りドラム45,46「本体5「蓋体6」は,そ」,」,
れぞれ本件特許発明1の「ホースを巻き取るドラム「フレーム「天」,」,
面」に相当し「巻取りドラム45,46」は「本体5」に回動自在に支,
持されているから,乙7発明は,構成要件1−Aないし1−Cの構成を備
えている。
乙7発明の「本体5」は,4枚の壁板によって形成されており,底面は
開口しているから,乙7発明は,構成要件1−Dの構成を備えている。
乙7発明は,ホースリール付き踏み台に関する発明であるから,構成要
件1−Fの構成を備えている。
他方,乙7発明は,固定脚を有するものの,脚部を開口部を閉鎖する位
置と閉鎖しない位置との間で移動可能とする構成を有しないから,構成要
件1−Eの「フレームの脚部を前記開口部を閉鎖する位置と閉鎖しない位
置との間で移動可能に取り付けた」との構成を備えておらず,乙7発明と
本件特許発明1とは,この点において相違する(以下「本件相違点」とい
う。。)
イ本件相違点についての容易想到性
)乙8発明は,ホースリールに関する発明であり,乙8公報には,左右a
のフレーム4,5と,この左右一対のフレームの間に回動自在に保持さ
れたホース巻取り用のドラム3と,左右フレーム4,5の下部を連結す
る連結パイプ13と,連結パイプ13に回動自在に軸支されたステップ
17から成るホースリール1が開示されている乙8・00010(【】,【
007【0023。このステップ17を使用位置に回動させるこ】,】)
とにより,ホースリール1の下部側の寸法を上部側よりも大きくして安
定性を確保することができる一方,このステップ17を非使用位置に回
動させることにより,ホースリール1の下部側の寸法を小さくすること
ができる(乙8・0036。【】)
このように,乙8発明は,ホースリール1の下部側の寸法を小さくす
る非使用位置とホースリール1の下部側の寸法を大きくする使用位置と
の間で移動可能に取り付けられたステップ17を備えるものである。
しかし,乙8公報の図5,図7及び図3によれば,ステップ17は,
非使用位置において,ホースリール1の下部全体を覆うような形状を有
しておらず,乙8発明には,構成要件1−Eの「フレームの脚部が前記
」。,開口部を閉鎖する位置に移動するとの構成が開示されていないまた
乙8発明は,左右一対のフレームから成り,フレームがケース状に形成
されていないから,その底面に開口部を観念することが困難であり,乙
8発明自体から「フレームの脚部が開口部を閉鎖する位置」に移動す,
るとの構成に想到することも困難である。したがって,乙7発明に乙8
発明を組み合わせたとしても,本件特許発明1の構成に想到することは
できない。
)乙22発明は,廃棄物処理用コンテナに関する発明であり,乙22公b
,,報には四囲を正面壁2及び側面壁3により囲まれた方形の本体枠1と
該本体枠の正面壁における左右両側の底部又はその付近に,各側面壁と
平行に形成された蝶番構造を介して観音開き状に開閉自在に取り付けら
れた一対の底面板6,7から成る廃棄物処理用コンテナが開示されてい
る(乙22・0005【0010【0011。この底面板6,【】,】,】)
7は,本体枠1の底面開口を閉塞するのに十分な大きさであり,底面板
6,7を観音開き状に下方に向けて開くことにより,本体枠1の底面開
,,,口が開放され内容物である廃棄物の落下終了後底面開口は底面板6
7により再度閉塞される(乙22・0011【0019【002【】,】,
0。】)
このように,乙22発明は,底面開口を閉塞する位置と閉塞しない位
,。置との間で移動可能に取り付けられた底面板67を備えるものである
しかし,乙22発明は,廃棄物処理用コンテナに関する発明であり,
ホースリール付き踏み台に関する発明である乙7発明及びホースリール
に関する発明である乙8発明とは全く異なる技術分野に属するものであ
る。このような技術分野の異なる乙22発明を乙7発明及び乙8発明と
組み合わせることは,ホースリール又は踏み台に関する当業者にとって
容易ではないというべきである。
なお,被告は,乙11発明にも言及する。しかし,乙11発明も電子
機器の構造に関する発明であり,乙11発明の存在が前記認定判断に何
らかの影響を与えるものではないことは明らかである。
)以上によれば,本件特許発明1は,本件特許出願前に,当業者が乙7c
発明,乙8発明及び乙22発明ないしは乙11発明に基づいて容易に想
到することができたということはできない。
()争点4−2(補正要件違反)について2
ア該当箇所末尾掲記の各証拠及び弁論の全趣旨によれば,上記第2の1で
認定した事実のほか,以下の事実を認めることができる。
)本件当初明細書において請求項1は次のとおり記載されていた乙a,,(
1。)
「ホースを巻き取るドラムがフレームに回動自在に支持されたホース
リールにおいて,前記フレームを,前記ドラムが収容されるケース状に
形成し,当該フレームに天面を形成したことを特徴とするホースリー
ル」。
)本件当初明細書には,次の記載があり,脚部67が円筒部66を中心b
に回動することにより,脚部67によって底面開口部62を閉鎖できる
ように構成された折り畳み状態74と,脚部67が底面開口部62を閉
鎖しない展開状態75とが任意に形成できる実施例が開示されていた
(乙1。)
①「請求項6のホースリールにあっては,前記フレーム下部に,該フ
レームより側方へ延出した展開状態と,当該フレーム下部に折り畳ま
れ前記開口部の下部に配置された折り畳み状態との間で開閉される脚
部を設けた(0022)。」【】
②「これにより,脚部をフレーム下部に折り畳んだ状態で,フレーム
底面の開口部が前記脚部で塞がれる(0023)。」【】
③「前記底面61には,横長の脚固定部材65,65が前面側及び後
面側の各縁部に沿ってネジ止めされている。両脚固定部材65,65
の両端部には,図8にも示すように,十字状の軸部66,66が互い
に対向する方向へ突設されており,対向した軸部66,66には,同
形状に形成された脚部6767が回動自在に支持されている0,。」(【
037)】
④「前記両脚部67,67は,前記円筒部66,66を中心に回動す
ることによって,図9に示すように,両脚部67,67の先端が前記
本体ケース11の下部に配置され両脚部67,67が前記底面開口部
62の下部に配置された折り畳み状態74と,図1に示したように,
両脚部67,67の先端が本体ケース11より側方へ延出し,かつ前
記本体ケース11の底面61に当接して(図8参照)回動が規制され
た展開状態75とを任意に形成できるように構成されている(0。」【
038)】
⑤「これにより,展開状態75において,本体ケース11の起立状態
の安定化を図れるように構成されており,前記折り畳み状態74にあ
っては,底面61に開設された前記底面開口部62を前記脚部67,
67によって閉鎖できるように構成されている(0039)。」【】
⑥「脚部67,67を本体ケース11下部に折り畳むことにより,当
該脚部67,67によって底面開口部62を閉鎖することができる。
これにより,底部開口部62内に収容した前記接続プラグ51や前記
ハンドル47の不用意な飛び出しを防止することができる(00。」【
54)】
⑦「請求項6のホースリールでは,脚部をフレーム下部に折り畳むこ
とにより,当該脚部によってフレーム底面の開口部を閉鎖することが
できる。これにより,開口部内に収容した構成部品の不用意な飛び出
しを防止することができる(0070)。」【】
)上記)の請求項1に対しては,平成18年9月13日起案,同年1ca
0月31日発送の拒絶理由通知書が発せられ以下の指摘がなされた甲,(
11。)
「請求項1には『前記フレームの底面に開口部を設け,この底面に開
設された開口部を脚部によって閉鎖できるようにした』と記載されてい
るが,
(1『脚部』とは何の脚部をいうのか,明確でない。)
(2『この底面に開設された開口部を脚部によって閉鎖できるように)
した』とは『脚部』を『開口部』を閉鎖できる位置に固定的に取り,,
付けたことをいうのか,あるいは『脚部』を『開口部』を閉鎖する,,
位置と閉鎖しない位置との間で移動可能に取り付けたことをいうのか,
明確でない。
よって,請求項1に係る発明は明確でない」。
)原告は,平成18年11月22日,手続補正書を提出し,上記請求項d
1を以下のとおり補正した(甲12。下線部が補正箇所である。。)
「ホースを巻き取るドラムがフレームに回動自在に支持されたホース
リールにおいて,前記フレームを,前記ドラムが収容されるケース状に
形成し,当該フレームに天面を形成するとともに,前記フレームの底面
に開口部を設け,前記フレームの脚部を前記開口部を閉鎖する位置と閉
鎖しない位置との間で移動可能に取り付けたことを特徴とするホースリ
ール」。
)「移動」とは「移り動くこと。移し動かすこと」を意味する用語でe,。
ある(乙5。)
イ以上を踏まえて検討すると,本件当初明細書には,脚部を回動させるこ
とにより,脚部によって開口部を閉鎖できるように構成された折り畳み状
態と,脚部が開口部を閉鎖しない展開状態という二つの状態を任意に形成
できる構造のものが開示されていること,他方,そのような脚部を回動さ
せる構造のもの以外に,脚部を開口部を閉鎖する位置と閉鎖しない位置と
の間で移動させるような構造は具体的には開示されていない。
しかし,上記ア)のとおり,本件明細書によれば,本件特許発明1にb
おいて,脚部を回動させる構造を採用したのは,ケース状に形成したフレ
ーム底面の開口部を閉じて開口部内に収納した部品の飛び出しを防止する
とともに,脚部をフレームの側方へ延出してホースリールの起立を安定さ
せる展開状態と,ホースリール全体をコンパクトなサイズにし得る折り畳
み状態とを選択的に実現可能とするためであると容易に理解することがで
きる。そして,本件当初明細書には,かかる目的のために,脚部を回動さ
せる構造が必須である旨の記載も示唆もなく,それが必須であるとする理
由もない。むしろ,当業者が技術常識をもって本件当初明細書を見れば,
かかる目的達成のためには,脚部を回動させる構造のほかに,脚部をスラ
イドさせる構造や,着脱可能な脚部を取り付ける構造によって「開口部を
閉鎖する位置と閉鎖しない位置との間で移動可能」とした構成をも含み得
ることは,当然理解することができるものと認められる。
そうすると,本件当初明細書には,脚部を回動させるとの実施例の構造
に限らず,上記に例示したような構造のものも実質的に開示されていたと
いえるから,本件補正が新規事項を含むものとはいえない。
したがって,本件補正が新規事項を追加したものであるとして,本件特
許1が特許法17条の2第3項に違反した旨をいう被告の主張は理由がな
い。
()争点4−3(記載不備)について3
ア被告は,構成要件1−Eの開口部を「閉鎖しない位置」には,別紙参考
図aのY2の位置のみならず,領域X1及び領域X2をも含み,範囲が広
,()く位置が特定できないから本件特許発明1の特許請求の範囲請求項1
の記載はこの点で不明確であり,特許法36条6項2号に違反すると主張
する。
,(),「,,しかし本件明細書甲2には図1に示したように両脚部67
67の先端が本体ケース11より側方へ延出し,かつ前記本体ケース11
の底面61に当接して(図8参照)回動が規制された展開状態75(0」【
037「これにより,展開状態75において,本体ケース11の起立】),
状態の安定化を図れるように構成されており(0038)と記載され」【】
ており「75展開状態」と付記された図1及び図8並びに技術常識をも,
って読めば,構成要件1−Eの開口部を「閉鎖しない位置」とは「両脚,
部67,67の先端が前記本体ケース11の下部に配置され両脚部67,
67が前記底面開口部62の下部に配置された折り畳み状態74(0」【
037)から両脚部67,67を「円筒部66,66を中心に回動」さ】
,「」「」,,せ底面61に当接してかかる回動が規制された状態すなわち
別紙参考図aのY2の位置のみを指しており,領域X1及び領域X2を含
まないことは容易に理解することができる。したがって,本件特許発明1
の特許請求の範囲(請求項1)の記載が不明確であるとの被告の主張は理
由がない。
イ被告は,構成要件1−Eの「移動」の用語は発明の詳細な説明に記載さ
れたものではなく,不明確であり,したがって,本件特許発明1の特許請
求の範囲(請求項1)の記載は,特許法36条6項1号及び2号に違反す
ると主張する。
しかし,当業者が技術常識をもって本件当初明細書を見れば,本件特許
発明1においては,脚部を回動させる構造のほかに,脚部をスライドさせ
る構造や,着脱可能な脚部を取り付ける構造によって「開口部を閉鎖する
位置と閉鎖しない位置との間で移動可能」とした構成をも含み得ることが
当然に理解することができることは,前記()のとおりであり,その後,2
若干の補正を経たとはいえ,本件明細書の発明の詳細な説明においても,
「回動」以外の「移動」が実質的に開示されていることは同様であるから
(甲2・0010【0015【0036】ないし【0038【0【】,】,】,
053「移動」が発明の詳細な説明に記載されていないということは】),
できない。
また「移動」が「回動」に限定されるものではないことは,既に述べ,
たとおりであり「移動」については,通常の意味に従って解釈すれば足,
,。りるから本件特許発明1がこの点で不明確であるということもできない
したがって,本件特許発明1の特許請求の範囲(請求項1)の記載が,
特許法36条6項1号及び2号に違反するとの被告の主張は理由がない。
3結論
以上によれば,原告の本訴請求は,理由があるからこれを認容し,仮執行宣
言については,主文2項について付すのは相当ではないからこれを付さないこ
ととし,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第46部
裁判長裁判官設樂隆一
裁判官関根澄子
裁判官古庄研
(別紙)
物件目録
別紙写真に示すとおりの「フルカバーホースリールセット」
(型番PLM−S20M/PLM−S30M)
(別紙)
被告製品説明書
1.図面の説明
図1はホースリールの正面図,図2は側面図,図3は平面図,図4はサイドス
テップ(横ぶれ防止補助板)を取り外した状態の底面図,図5は図4の底面から
の斜視図,図6はサイドステップを取り付けた状態の底面からの斜視図,図7は
図6におけるサイドステップを180度回転させて取り付けた状態の底面図,図
8は図7の底面からの斜視図,図9はサイドステップの斜視図である。図10は
サイドステップの一側に文字「A」を付して,図6の取り付け状態とした場合,
図11は図10の状態でサイドステップを水平両面で180度回転させた姿勢と
した場合である。
2.構造の説明
(ア)ホースを巻き取るドラムが,フレームの内部に回動自在に支持されてい
る。
(イ)フレームは,上部容器と下部容器とを突き合わせることにより,ドラム
が収容されるケース状となっている。
(ウ)フレームの天面は,周囲をなだらかに傾斜させた丸みが形成される。フ
レームの前後部分における天面は,傾斜した丸みが長くなっている。
(エ)フレームの底面に開口部を設けている。
(),。オフレームの底面の4隅部に四角柱状の脚部が突出して形成されている
脚部はフレームに一体的に形成されており,フレームに対して固定的とな
っている。
(カ)フレームの底面に矩形板体からなるサイドステップが取り付け及び取り
外し自在,すなわち着脱自在に装着される。サイドステップは一対となっ
ており,上記脚部の間に位置するようにフレームの底面に装着される。
(キ)サイドステップには,矩形の一側における長さ方向の両端部分で突出す
る円柱状の2つのボス部と,ボス部の間に形成された横長四角形の2つの
穴部とが形成される。矩形の他側には,水抜き穴がボス部と対向した位置
に形成されている。フレームの底面には,前記ボス部が嵌合する2つの嵌
合穴部が形成されると共に,前記穴部に嵌合する横長四角柱状の2つの凸
部が形成される。2つの嵌合穴部及び凸部は,フレーム底面の開口部を跨
いだ両側に形成される(図9参照。)
(ク)図6に示すように,サイドステップの2つのボス部をフレーム底面の2
つの嵌合穴部に嵌合させ,2つの穴部を2つの凸部に嵌合させることによ
り,サイドステップをフレームの底面に取り付ける。図6の取り付け状態
は,サイドステップがフレームの面内でフレームの開口部を覆っている。
図7及び図8は,サイドステップをフレームから取り外し,水平面内で1
80度回転させた姿勢とした場合であり,この姿勢で2つのボス部を2つ
の嵌合穴部に嵌合させ,2つの穴部を2つの凸部に嵌合させることにより
サイドステップをフレームの底面に取り付ける。図7及び図8の取り付け
状態は,サイドステップがフレームの外側に横方向に張り出した装着姿勢
となる。図10はサイドステップの一側に文字「A」を付して,図6の取
り付け状態とした場合,図11は図10の状態でサイドステップを水平面
,,「」内で180度回転させた姿勢とした場合であり図10に対し文字A
が180度回転している。
(ケ)フレームにおける下部容器の前面には,ホース出入口が開口している。
(特許公報添付略)

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