弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破毀する。
     本件を福岡高等裁判所に差戻す。
         理    由
 弁護人鶴田猛の上告趣意は末尾に添附した別紙書面記載の通りである。
 弁護人鶴田猛の上告趣意第一点について。
 所論の如く原判決は昭和二一年勅令第五二号有毒飲食物等取締令第四条第一項前
段を適用していることは判文上明らかである。そして原判決の認定した事実によれ
ば、本犯行は右勅令第五二号の改正前に行はれたものであるから、改正後の同令の
刑が改正前の同令の刑よりも軽い場合でなければ行為時法たる改正前の同令を適用
すべきものであることは刑法第六条により明白である。按ずるに改正前の同令の規
定が故意犯のみを処罰することとなつているに反し、改正後の同令は過失犯をも処
罰することとなつており且つ改正前と異り刑法第六十六条の適用を廃除している等
の点に鑑みるときは、改正前の同令よりも厳罰主義をとつたものと言はなければな
らないばかりでなく改正後の同令の刑は改正前の刑よりも軽くなつたと見るべき点
は少しもない。然るに原判決は改正前と改正後における刑の比較をもなさずして漫
然改正後の同令を適用したことは擬律に錯誤があるといわなければならない。もつ
とも改正後の同令第四条第三項によれば刑法第六六条を廃除したにかかはらず原判
決は原審相被告人に対し刑法第六六条を適用している点から見れば、原審において
は改正前の同令を適用したものではないかとの疑もおきるのであるが、判文は明ら
かに昭和二一年勅令第五二号有毒飲食物等取締令第四条第一項前段(改正前の同条
第一項には前段、後段の区別はない)と記載しているので、改正後の同勅令を適用
したものであると言はざるを得な。
 次に原判決は「右品物がメタノールであるとのはつきりした認識はなかつたが、
之を飲用に供すると身体に有害であるかも知れないと思つたにもかかわらずいずれ
も飲用に供する目的で」メタノールを所持又は販売した旨を説示しているので、原
審においては被告人はBから買受けた本件物件がメタノールであるというはつきり
した認識はなかつたものと認定したと言はなければならない。しかしながら原判決
は被告人の本犯行を故意犯として処罰したのであるから、判示の「之を飲用に供す
ると身体に有害であるかも知れないと思つた」事実を以つて被告人は本犯行につい
て所謂未必の故意あるものと認定したものであると解せざるを得ない。しかしなが
ら身体に有害であるかも知れないと思つただけで(メタノールであるかも知れない
と思つたのではなく)はたして同令第一条違反の犯罪についての未必の故意があつ
たと言い得るであらうか、何となれば身体に有害であるものは同令第一条に規定し
たメタノール又は四エチ鉛だけではなく他にも有害な物は沢山あるからである従つ
てただ身体に有害であるかも知れないと思つただけで同令第一条違反の犯罪に対す
る未必の故意ありとはいい得ない道理であるから原判決は被告人に故意があること
の説示に欠くるところがあり、理由不備の違法があると言はざるを得ない。(擬律
錯誤があるとの論旨は採用しない)
 次に原判決の認定した事実によれば被告人が原審相被告人等と本件メタノールを
共同して購入したことは明らかであるが、本件メタノールを所持した事実及び販売
した事実は、被告人の単独行為であつて原審相被告人等と共同行為でないことは明
らかである従つて原判決において被告人の判示所為に対し刑法第六〇条を適用し相
被告人等の行為についてもまた共同正犯として責を負はしめたことは、擬律に錯誤
があると主張する論旨は理由がある。以上の理由により原判決は破毀をまぬかれな
いものである。
 同第二点について。
 原判決挙示の鑑定人Aの鑑定書によれば本件液体中に含有するメタノールは一立
方センチメートル中約〇、二グラム強であることは明らかである。しかるに原判決
は被告人が所持し、且つ販売した液体は、一立方センチメートル中約〇、二グラム
強のメタノールを含有する液体であることを明確にしないで、単にメタノールと記
載しているので、本件液体は全液悉く純粋のメタノールであると思はしめる表示方
法をとつたことは所論の通りである。判文を精読すれば判文の趣旨は右鑑定人Aの
作成した鑑定書記載同様のメタノール含有液を所持し且つ販売した事実を判示する
つもりであつたであらうことを推測することは必ずしも不可能とはいえないが正確
を期すべき判示方法としては不完全であつて、論旨の如き主張をなし得るものであ
るから、本論旨もまた理由ありといはなければならない。
 よつて刑事訴訟法施行法第二条旧刑事訴訟法第四四七条同第四四八条の二により
主文の通り判決する。
 以上は裁判官全員一致の意見である。
 検察官 安平政吉関与
  昭和二四年二月二二日
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    長 谷 川   太 一 郎
            裁判官    井   上       登
            裁判官    島           保
            裁判官    河   村   又   介

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