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平成21年1月30日判決言渡同日原本領収裁判所書記官
平成20年(ワ)第14530号特許権侵害差止等請求事件
口頭弁論終結日平成20年12月26日
判決
大阪市〈以下略〉
原告シャープ株式会社
訴訟代理人弁護士永島孝明
同安國忠彦
同明石幸二郎
補佐人弁理士磯田志郎
東京都港区〈以下略〉
被告日本サムスン株式会社
訴訟代理人弁護士大野聖二
同井上義隆
訴訟代理人弁理士片山健一
同津田理
主文
1被告は,別紙イ号物件目録,別紙ロ号物件目録及び別紙ハ号物件
目録記載の各製品を譲渡し,貸し渡し,若しくは輸入し,又はその
譲渡若しくは貸渡しの申出(譲渡又は貸渡しのための展示を含
む。)をしてはならない。
2被告は,その占有にかかる前項の各製品を廃棄せよ。
3原告の請求のうち,被告に対し,別紙イ号物件目録,別紙ロ号物
件目録及び別紙ハ号物件目録記載の各製品の生産の差止めを求める
部分及びその半製品の廃棄を求める部分をいずれも棄却する。
4訴訟費用は被告の負担とする。
5この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1請求
1被告は,別紙イ号物件目録,別紙ロ号物件目録及び別紙ハ号物件目録記載
の各製品を生産し,譲渡し,貸し渡し,若しくは輸入し,又はその譲渡若し
くは貸渡しの申出(譲渡又は貸渡しのための展示を含む。)をしてはならな
い。
2被告は,その占有にかかる前項の各製品及びその半製品を廃棄せよ。
第2事案の概要
1事案の要旨
本件は,発明の名称を「液晶表示装置」とする特許番号第3901721
号の特許(以下,この特許を「本件特許1」,この特許権を「本件特許権
1」という。)及び特許番号第3872798号の特許(以下,この特許
を「本件特許2」,この特許権を「本件特許権2」という。),発明の名称
を「液晶表示装置及びその駆動方法」とする第3744714号の特許(以
下,この特許を「本件特許3」,この特許権を「本件特許権3」という。)
の特許権者である原告が,被告が別紙イ号物件目録,別紙ロ号物件目録及び
別紙ハ号物件目録記載の各製品の輸入,販売又その販売の申出をする行為
が,本件特許権1ないし3の侵害に当たる旨主張して,被告に対し,特許法
100条1項,2項に基づき,上記各製品の生産,譲渡,輸入等の差止め並
びに上記各製品及びその半製品の廃棄を求める事案である。
なお,原告の本件請求は,本件特許権1ないし3のいずれかの特許権の侵
害を理由とする選択的請求である。
2争いのない事実
(1)当事者
ア原告は,液晶テレビ等電気機械器具の製造,販売等を業とする株式会
社である。
イ被告は,液晶テレビ等電気機械器具の売買,輸出入等を業とする株式
会社である。
(2)原告の特許権
ア本件特許権1
(ア)原告は,平成11年8月13日にした特許出願(特願平11−2
29249号。以下「本件原出願」という。)の一部を分割して,平
成18年6月28日,発明の名称を「液晶表示装置」とする発明につ
き特許出願(優先権主張平成10年9月18日,特願平2006−1
77514号。以下「本件出願1」という。)をし,平成19年1月
12日,本件特許権1の設定登録(請求項の数17)を受けた。
(イ)本件特許1に係る願書に添付した特許請求の範囲の請求項1の記
載は,次のとおりである(以下,請求項1に係る発明を「本件発明
1」という。)。
「【請求項1】電極および垂直配向膜を有する一対の基板と,前記
一対の基板の間に配置された負の誘電率異方性を有する液晶と,前
記一対の基板の一方に設けられた,液晶の配向を規制するための線
状の第1配向規制構造体と,前記一対の基板の他方に,前記第1配
向規制構造体に対して平行に延びるように設けられた,液晶の配向
を規制するための線状の第2配向規制構造体と,を備え,前記第1
配向規制構造体と前記第2配向規制構造体によって,電圧印加時に
おける液晶の配向方向が互いに異なる複数の液晶ドメインが形成さ
れ,前記第1配向規制構造体は,複数の主要部と,複数の前記主要
部のうちの2つの間に配置され,前記主要部よりも狭い幅を有する
幅狭部と,を含む液晶表示装置。」
(ウ)本件発明1を構成要件に分説すると,次のとおりである。
A電極および垂直配向膜を有する一対の基板と,
B前記一対の基板の間に配置された負の誘電率異方性を有する液晶
と,
C前記一対の基板の一方に設けられた,液晶の配向を規制するため
の線状の第1配向規制構造体と,
D前記一対の基板の他方に,前記第1配向規制構造体に対して平行
に延びるように設けられた,液晶の配向を規制するための線状の第
2配向規制構造体と,を備え,
E前記第1配向規制構造体と前記第2配向規制構造体によって,電
圧印加時における液晶の配向方向が互いに異なる複数の液晶ドメイ
ンが形成され,
F前記第1配向規制構造体は,複数の主要部と,複数の前記主要部
のうちの2つの間に配置され,前記主要部よりも狭い幅を有する幅
狭部と,を含む
G液晶表示装置。
イ本件特許権2
(ア)原告は,平成10年6月11日にした特許出願(特願平10−1
85836号)の一部を分割して出願した特許出願(特願2000−
242662号)の一部を更に分割して,平成16年4月12日,発
明の名称を「液晶表示装置」とする発明につき特許出願(優先権主張
平成9年6月12日,特願2004−116704号。以下「本件出
願2」という。)をし,平成18年10月27日,本件特許権2の設
定登録(請求項の数24)を受けた。
(イ)本件特許2に係る願書に添付した特許請求の範囲の請求項1の記
載は,次のとおりである(以下,請求項1に係る発明を「本件発明
2」という。)。
「【請求項1】第1の基板と第2の基板との間に誘電率異方性が負
の液晶を挟持し,電圧を印加しない時には前記液晶が前記第1及び
第2の基板に垂直な方向に配向する液晶表示装置であって,前記第
1の基板に設けられ,前記液晶に電圧を印加した時に前記液晶が配
向する方向を規制する,第1のドメイン規制手段と,前記第2の基
板に設けられ,前記液晶に電圧を印加した時に前記液晶が配向する
方向を規制する,第2のドメイン規制手段とを備え,前記第1のド
メイン規制手段は,第1の方向に延びる直線状成分と前記第1の方
向と略90°異なる第2の方向に延びる直線状成分とを有し,前記
第2のドメイン規制手段は,前記第1の方向に延びる直線状成分と
前記第2の方向に延びる直線状成分とを有し,前記第1及び第2の
基板に垂直な方向から見た時に,前記第1のドメイン規制手段の直
線状成分と前記第2のドメイン規制手段の直線状成分とが,互いに
平行かつ交互に配置されており,前記第1及び第2のドメイン規制
手段により,前記液晶の配向方向が略90°異なる4種類のドメイ
ンが形成されることを特徴とする液晶表示装置。」
(ウ)本件発明2を構成要件に分説すると,次のとおりである。
A第1の基板と第2の基板との間に誘電率異方性が負の液晶を挟持
し,電圧を印加しない時には前記液晶が前記第1及び第2の基板に
垂直な方向に配向する液晶表示装置であって,
B前記第1の基板に設けられ,前記液晶に電圧を印加した時に前記
液晶が配向する方向を規制する,第1のドメイン規制手段と,
C前記第2の基板に設けられ,前記液晶に電圧を印加した時に前記
液晶が配向する方向を規制する,第2のドメイン規制手段とを備
え,
D前記第1のドメイン規制手段は,第1の方向に延びる直線状成分
と前記第1の方向と略90°異なる第2の方向に延びる直線状成分
とを有し,
E前記第2のドメイン規制手段は,前記第1の方向に延びる直線状
成分と前記第2の方向に延びる直線状成分とを有し,
F前記第1及び第2の基板に垂直な方向から見た時に,前記第1の
ドメイン規制手段の直線状成分と前記第2のドメイン規制手段の直
線状成分とが,互いに平行かつ交互に配置されており,
G前記第1及び第2のドメイン規制手段により,前記液晶の配向方
向が略90°異なる4種類のドメインが形成されることを特徴とす

H液晶表示装置。
ウ本件特許権3
(ア)原告は,平成11年3月19日,発明の名称を「液晶表示装置及
びその駆動方法」とする発明につき特許出願(優先権主張平成10年
12月8日,特願平11−75963号。以下「本件出願3」とい
う。)をし,平成17年12月2日,本件特許権3の設定登録(請求
項の数20)を受けた。
(イ)本件特許3に係る願書に添付した明細書の特許請求の範囲の請求
項1及び請求項5の記載は,次のとおりである(以下,請求項1に係
る発明を「本件発明3−1」,請求項5に係る発明を「本件発明3−
5」という。)。
「【請求項1】電圧が印加される画素電極及び対向電極との間に液
晶が設けられ,該液晶の配向が,電圧無印加時にはほぼ垂直に,所
定の電圧を印加した時にはほぼ平行となり,前記所定の電圧より小
さい電圧を印加した時には斜めになり,更に,前記所定の電圧より
小さい電圧が印加された時に,各画素内において,前記液晶の配向
の斜めになる方向が各画素内において複数になるように規制するド
メイン規制手段を備える液晶表示装置において,画素を第1の透過
率から該第1の透過率より大きい第2の透過率に変化させる場合,
前記画素電極に対して,前記第2の透過率に変化させる第1の期間
に前記第2の透過率に対応する第1の目標駆動電圧より大きい電圧
を印加し,前記第1の期間後の第2の期間に前記第1の目標電圧を
印加する駆動回路を有することを特徴とする液晶表示装置。」
「【請求項5】電圧が印加される画素電極及び対向電極との間に液
晶が設けられ,該液晶の配向が,電圧無印加時にはほぼ垂直に,所
定の電圧を印加した時にはほぼ平行となり,前記所定の電圧より小
さい電圧を印加した時には斜めになり,更に,前記所定の電圧より
小さい電圧が印加された時に,各画素内において,前記液晶の配向
の斜めになる方向が各画素内において複数になるように規制するド
メイン規制手段を備える液晶表示装置の駆動方法において,画素を
第1の透過率から該第1の透過率より大きい第2の透過率に変化さ
せる場合,前記画素電極に対して,前記第2の透過率に変化させる
第1の期間に前記第2の透過率に対応する第1の目標駆動電圧より
大きい電圧を印加し,前記第1の期間後の第2の期間に前記第1の
目標電圧を印加することを特徴とする液晶表示装置の駆動方法。」
(ウ)本件発明3−1を構成要件に分説すると,次のとおりである。
A電圧が印加される画素電極及び対向電極との間に液晶が設けら
れ,該液晶の配向が,電圧無印加時にはほぼ垂直に,所定の電圧を
印加した時にはほぼ平行となり,前記所定の電圧より小さい電圧を
印加した時には斜めになり,更に,前記所定の電圧より小さい電圧
が印加された時に,各画素内において,前記液晶の配向の斜めにな
る方向が各画素内において複数になるように規制するドメイン規制
手段を備える液晶表示装置において,
B画素を第1の透過率から該第1の透過率より大きい第2の透過率
に変化させる場合,前記画素電極に対して,前記第2の透過率に変
化させる第1の期間に前記第2の透過率に対応する第1の目標駆動
電圧より大きい電圧を印加し,前記第1の期間後の第2の期間に前
記第1の目標電圧を印加する駆動回路を有することを特徴とする
C液晶表示装置。
(エ)本件発明3−5を構成要件に分説すると,次のとおりである。
D電圧が印加される画素電極及び対向電極との間に液晶が設けら
れ,該液晶の配向が,電圧無印加時にはほぼ垂直に,所定の電圧を
印加した時にはほぼ平行となり,前記所定の電圧より小さい電圧を
印加した時には斜めになり,更に,前記所定の電圧より小さい電圧
が印加された時に,各画素内において,前記液晶の配向の斜めにな
る方向が各画素内において複数になるように規制するドメイン規制
手段を備える液晶表示装置の駆動方法において,
E画素を第1の透過率から該第1の透過率より大きい第2の透過率
に変化させる場合,前記画素電極に対して,前記第2の透過率に変
化させる第1の期間に前記第2の透過率に対応する第1の目標駆動
電圧より大きい電圧を印加し,前記第1の期間後の第2の期間に前
記第1の目標電圧を印加することを特徴とする
F液晶表示装置の駆動方法。
(3)被告の行為
被告は,別紙イ号物件目録記載の製品(すなわち,韓国法人のサムスン
電子株式会社(以下「サムスン電子」という。)製の型番LTA400W
Tの液晶モジュール(以下「イ号液晶モジュール」という。)を搭載する
液晶テレビ(製品型番LN40R71Bの40型液晶テレビを含む。以
下「イ号液晶テレビ」という。),別紙ロ号物件目録記載の製品(すなわ
ち,サムスン電子製の型番LTM190E4の液晶モジュール(以下「ロ
号液晶モジュール」という。)を搭載する液晶モニター(製品型番Syn
cMaster971Pの19型液晶モニターを含む。以下「ロ号液晶モ
ニター」という。)及び別紙ハ号物件目録記載の製品(すなわち,サムソ
ン電子製の型番LTM300M1P01の液晶モジュール(以下「ハ号液
晶モジュール」という。)を搭載する液晶モニター(製品型番SyncM
aster305Tの30型液晶モニターを含む。以下「ハ号液晶モニタ
ー」という。)を輸入し,販売し,販売の申出をしている。
3争点
本件の争点は,イ号液晶モジュール又はその駆動方法が本件発明1,本件
発明2,本件発明3−1又は本件発明3−5の構成要件を充足し,その技術
的範囲に属するか否か(争点1),ロ号液晶モジュールが本件発明1又は本
件発明2の構成要件を充足し,その技術的範囲に属するか否か(争点2),
ハ号液晶モジュール又はその駆動方法が本件発明1,本件発明2,本件発明
3−1又は本件発明3−5の構成要件を充足し,その技術的範囲に属するか
否か(争点3),本件特許1に無効理由があり,原告の本件特許権1の行使
が特許法104条の3第1項により制限されるかどうか(争点4),本件特
許2に無効理由があり,原告の本件特許権2の行使が特許法104条の3第
1項により制限されるかどうか(争点5),本件特許3に無効理由があり,
原告の本件特許権3の行使が特許法104条の3第1項により制限されるか
どうか(争点6)である。
第3争点に関する当事者の主張
1争点1(イ号液晶モジュール及びその駆動方法の構成要件充足性)
(1)原告の主張
アイ号液晶モジュールの構成
(ア)イ号液晶モジュールは,負の誘電率異方性を有する液晶が使用さ
れ,垂直配向させた液晶分子とパターン加工されたITO(IndiumTi
nOxide)によるフリンジ電界(斜め電界)を利用して,複数のドメイ
ン(液晶分子の配向方向が一様な領域)を有するマルチドメイン構造
にする方式の一種であるS−PVA方式(甲7)を採用している。こ
のマルチドメイン構造を形成する現象は,平行に配置された対向電極
のスリット及び画素電極のスリットに電圧を印加すると,斜め電界が
発生し,スリットを境に,液晶分子がスリットに対して直交する方向
にそれぞれ傾斜して配向する2種類のドメインが形成されることを利
用したものである。そして,イ号液晶モジュールは,電圧を印加しな
い状態では液晶を垂直に配向させて黒を表示し,電圧を印加すると徐
々に液晶分子を斜めに配向させて中間調を表示し(灰色表示),最終
的には,液晶分子を水平に配向させて白を表示するノーマリー・ブラ
ック・モードの垂直配向方式の液晶表示装置である。
イ号液晶モジュールに含まれる液晶パネル(以下「イ号液晶パネ
ル」という。)は,観察面側に配置された対向基板とバックライト側
に配置されたTFT基板との間に液晶が狭持された構造である。対向
基板には,少なくとも対向電極及び垂直配向膜(電圧を印加しない状
態で液晶を垂直に配向させる配向膜。以下同じ。)が形成されてお
り,TFT基板には,少なくとも画素電極及び垂直配向膜が形成され
ている。
(イ)a対向基板の対向電極は,パターン加工されており,別紙図面イ
−1に示すような形状のスリット(電極の切れ目)が形成されてい
る。
別紙図面イ−1において,図面の左下から右上の方向をa軸,a
軸と直交する左上から右下の方向をb軸と定義すると,対向電極の
スリットは,a軸と平行な直線成分(以下「a軸成分」という。)
及びb軸と平行な直線成分(以下「b軸成分」という。)を有して
いる。
bTFT基板の画素電極は,パターン加工されており,別紙図面イ
−2に示すような形状のスリット(電極の切れ目)が形成されてい
る。別紙図面イ−2に示すとおり,画素電極のスリットは,a軸成
分及びb軸成分を有している。
c対向電極のスリット及び画素電極のスリットは,対向基板及びT
FT基板を重ね合わせると,別紙図面イ−3に示すように配置され
る。
イ本件発明1の構成要件充足性
(ア)イ号液晶モジュールは,以下のとおり,本件発明の構成要件Aな
いしGをすべて充足するから,本件発明1の技術的範囲に属する。
aイ号液晶モジュールは,対向電極及び垂直配向膜を有する対向基
板と画素電極及び垂直配向膜を有するTFT基板(一対の基板)を
有しているから,構成要件Aを充足する。
bイ号液晶モジュールは,対向基板とTFT基板の間に配置された
負の誘電率異方性を有する液晶を有しているから,構成要件Bを充
足する。
cイ号液晶モジュールは,別紙図面イ−1に示すように,対向基板
に設けられた,対向電極のスリットを有しており,このスリット
は「液晶の配向を規制するための線状の第1配向規制構造体」に当
たるから,構成要件Cを充足する。
dイ号液晶モジュールは,別紙図面イ−2,イー3に示すように,
TFT基板に,対向電極のスリット(第1配向規制構造体)に対し
て平行に延びるように設けられた,画素電極のスリットを有してお
り,このスリットは「液晶の配向を規制するための線状の第2配向
規制構造体」に当たるから,構成要件Dを充足する。
eイ号液晶モジュールは,別紙図面イ−3に示すように,対向電極
のスリット(第1配向規制構造体)と画素電極のスリット(第2配
向規制構造体)によって,電圧印加時において液晶の配向方向が互
いに異なる複数の液晶ドメイン(別紙図面イ−3記載の①ないし④
の領域)が形成されるから,構成要件Eを充足する。
fイ号液晶モジュールの対向電極のスリット(第1配向規制構造
体)は,別紙図面イ−1に示すように,凹部以外のa軸成分及びb
軸成分(複数の主要部)と,周期的に成形された凹部(幅狭部)を
含んでいるから,構成要件Fを充足する。
gイ号液晶モジュールは,液晶表示装置であるから,構成要件Gを
充足する。
(イ)a被告は,本件発明1の「第1配向規制構造体」(構成要件C)
及び「第2配向規制構造体」(構成要件D)の形状は,突起ない
し「スリット構造」であり,「スリット構造」は,スリットと垂直
配向膜の「窪み」により形成される構造体であるが,イ号液晶モジ
ュールの対向電極の欠損部(スリット)及び画素電極の欠損部(ス
リット)は,上記「スリット構造」に該当しないから,構成要件
C,Dを充足しない旨主張する。
しかし,本件特許1に係る願書に添付した明細書及び図面(以
下,これらを併せて「本件明細書1」という。甲2)には,本件発
明1の「第1配向規制構造体」及び「第2配向規制構造体」に,少
なくとも「電極に設けられたスリット」が含まれることが示されて
おり(請求項8,段落【0049】,【0050】),被告が主張
するように「第1配向規制構造体」及び「第2配向規制構造体」を
限定的に解釈すべき理由はないし,また,イ号液晶モジュールの対
向電極のスリット及び画素電極のスリットは,その上にある配向膜
が電極分だけ窪んでおり(甲10),この点からも被告の主張は理
由がない。
b被告は,本件発明1の構成要件の充足性を判断するに当たって
は,画素電極は,TFT基板側に形成され,同一電圧が印加される
1枚の電極としてとらえるべきである旨主張する。
しかし,本件発明1は,液晶表示装置に関するものであるとこ
ろ,液晶表示装置は,多くの画素から構成され,それぞれの画素電
極で電圧印加条件を変えることによって全体として画像を表示する
ものであるから,被告の上記主張は失当である。
(ウ)以上のとおり,イ号液晶モジュールは,本件発明1の技術的範囲
に属するから,被告によるイ号液晶モジュールを搭載するイ号液晶テ
レビの輸入,販売,販売の申出は,本件特許権1の侵害に当たる。
ウ本件発明2の構成要件充足性
(ア)イ号液晶モジュールは,以下のとおり,本件発明2の構成要件A
ないしHをすべて充足するから,本件発明2の技術的範囲に属する。
aイ号液晶モジュールは,対向基板(第1の基板)とTFT基板(
第2の基板)との間に誘電率異方性が負の液晶を挟持し,電圧を印
加しない時には液晶が対向基板及びTFT基板に垂直な方向に配向
する液晶表示装置であるから,構成要件A,Hを充足する。
bイ号液晶モジュールは,別紙図面イ−1に示すように,対向基板
に設けられた,対向電極のスリットを有しており,このスリットは
液晶に電圧を印加した時に液晶が配向する方向を規制するから,「
第1のドメイン規制手段」に当たり,構成要件Bを充足する。
cイ号液晶モジュールは,別紙図面イ−2に示すように,TFT基
板に設けられた,画素電極のスリットを有しており,このスリット
は液晶に電圧を印加した時に液晶が配向する方向を規制するか
ら,「第2のドメイン規制手段」に当たり,構成要件Cを充足す
る。
dイ号液晶モジュールの対向電極のスリット(第1のドメイン規制
手段)は,別紙図面イ−1に示すように,a軸と平行な方向(第1
の方向)に延びる直線状のa軸成分(直線状成分)とa軸と略90
°異なるb軸と平行な方向(第2の方向)に延びる直線状のb軸成
分(直線状成分)とを有しているから,構成要件Dを充足する。
eイ号液晶モジュールの画素電極のスリット(第2のドメイン規制
手段)は,別紙図面イ−2に示すように,a軸と平行な方向に延び
る直線状のa軸成分(直線状成分)とb軸と平行な方向に延びる直
線状のb軸成分(直線状成分)とを有しているから,構成要件Eを
充足する。
fイ号液晶モジュールは,別紙図面イ−3に示すように,対向基板
及びTFT基板に垂直な方向から見た時に,対向電極のスリット(
第1のドメイン規制手段)のa軸成分及びb軸成分と画素電極のス
リット(第2のドメイン規制手段)のa軸成分及びb軸成分とが,
それぞれ互いに平行かつ交互に配置されているから,構成要件Fを
充足する。
gイ号液晶モジュールは,別紙図面イ−3に示すように,対向電極
のスリット(第1のドメイン規制手段)及び画素電極のスリット(
第2のドメイン規制手段)によって,液晶の配向方向が略90°異
なる4種類のドメイン(別紙図面イ−3記載の①ないし④の領域)
が形成されるから,構成要件Gを充足する。
(イ)a被告は,本件発明2における「第1のドメイン規制手段」及
び「第2のドメイン規制手段」のいずれかは,斜面を有する形態の
ものでなければならないが,イ号液晶モジュールの対向電極の欠損
部及び画素電極の欠損部は,このような形態のものではないか
ら,「第1のドメイン規制手段」(構成要件B)ないし「第2のド
メイン規制手段」(構成要件C)に当たらない旨主張する。
しかし,本件特許2に係る願書に添付した明細書及び図面(以
下,これらを併せて「本件明細書2」という。甲4)には,ドメイ
ン規制手段として,電極形状のみで実現する例が示されており(段
落【0023】,図12の(1),13),被告が主張するような限定
解釈をすべき理由はない。
b被告は,本件発明2の構成要件の充足性を判断するに当たって
は,画素電極は,TFT基板側に形成され,同一電圧が印加される
1枚の電極としてとらえるべきである旨主張する。
しかし,本件発明2は,液晶表示装置に関するものであるとこ
ろ,液晶表示装置は,多くの画素から構成され,それぞれの画素電
極で電圧印加条件を変えることによって全体として画像を表示する
ものであるから,被告の上記主張は失当である。
(ウ)以上のとおり,イ号液晶モジュールは,本件発明2の技術的範囲
に属するから,被告によるイ号液晶モジュールを搭載するイ号液晶テ
レビの輸入,販売,販売の申出は,本件特許権2の侵害に当たる。
エ本件発明3−1,3−5の構成要件充足性
(ア)イ号液晶モジュールは,以下のとおり,本件発明3−1の構成要
件AないしCをすべて充足するから,本件発明3−1の技術的範囲に
属する。
aイ号液晶モジュールは,前記アのとおり,電圧が印加される画素
電極及び対向電極との間に液晶が設けられ,液晶の配向が,電圧を
印加しない時にはほぼ垂直に,所定の電圧を印加した時にはほぼ平
行に,所定の電圧より小さい電圧を印加した時には斜めになり,さ
らに,別紙図面イ−1,イ−2,イ−3に示すように,所定の電圧
より小さい電圧が印加された時には,各画素内において,液晶の配
向の斜めになる方向が各画素内において複数になるように規制する
画素電極のスリット及び対向電極のスリット(ドメイン規制手段)
を具備する液晶表示装置であるから,構成要件A,Cを充足する。
bイ号液晶モジュールは,画素を黒表示(第1の透過率)から中間
調表示(第2の透過率)に変化させる場合,画素電極に対して,最
初の16.7ms(16.7×10−3秒)の間(第1の期間),
中間調を表示するために本来必要とされる表示駆動電圧より大きい
初期駆動電圧(第1の目標駆動電圧より大きい電圧)を印加し,
次(第2の期間)に,表示駆動電圧(第1の目標電圧)を印加する
外部回路(駆動回路)を有しているから(甲7の図3−1,図3−
2),構成要件Bを充足する。
(イ)イ号液晶モジュールは,前記(ア)a及びbの構成を有するから,
イ号液晶モジュールの駆動方法は,本件発明3−5の構成要件Dない
しFをすべて充足し,本件発明3−5の技術的範囲に属する。
(ウ)以上のとおり,イ号液晶モジュールは,本件発明3−1の技術的
範囲に属し,また,イ号液晶モジュールの駆動方法は,本件発明3−
5の技術的範囲に属し,イ号液晶モジュールを搭載するイ号液晶テレ
ビを使用すれば上記駆動方法が実施されるから,被告によるイ号液晶
モジュールを搭載するイ号液晶テレビの輸入,販売,販売の申出は,
本件特許権3の侵害又は間接侵害(特許法101条5号)に当たる。
(2)被告の反論
ア本件発明1の構成要件充足性の主張に対し
(ア)構成要件C,Dの非充足
a本件明細書1(甲2)には,「・・・配向規制構造体(突起又は
スリットを含む構造体)・・・」(段落【0010】),「・・・
図6のように突起30と突起32との組み合わせにより液晶の配向
を制御するのと同様に,スリット構造44,46の組み合わせによ
り液晶の配向を制御することができる。」(段落【0050】)と
の記載があるとおり,本件発明1の「第1配向規制構造体」(構成
要件C)及び「第2配向規制構造体」(構成要件D)の形状は,突
起ないし「スリット構造」である。
そして,本件明細書1には,「・・・スリット構造44は電極1
8のスリットと垂直配向膜20の窪みの部分とを含む。・・・」(
段落【0048】),「図10はスリット構造44(46)である
線状の壁構造の例を示す断面図である。スリット構造44は例えば
次のようにして形成してある。上基板14にカラーフィルタやブラ
ックマスク等を形成した後,電極18を形成する。電極18をパタ
ーニングし,スリット18Aを形成する。スリット18Aを有する
電極18の上に垂直配向膜20を形成する。このようにして,スリ
ット構造44が形成される。」(段落【0053】),「図47は
・・・図である。・・・液晶分子の配向の境界を一定位置に形成さ
せるための手段62は対向基板の点状のスリット構造62bであ
る。・・・」(段落【0123】)との記載があり,また,図10
には,「スリット構造」の形状として「窪み」を含んでいる様子が
図示され,図47には,「スリット構造」がスリットが垂直配向膜
の「窪み」により形成される構造体であることが図示されている。
上記各記載及び図10,47によれば,「スリット構造」は,ス
リットと垂直配向膜の「窪み」により形成される構造体である。
しかるに,イ号液晶モジュールの対向電極の欠損部(スリット)
及び画素電極の欠損部(スリット)は,上記「スリット構造」に該
当しないから,「第1配向規制構造体」(構成要件C)ないし「第
2配向規制構造体」(構成要件D)に当たらない。
したがって,イ号液晶モジュールは,構成要件C,Dを充足しな
い。
b本件発明1の特許請求の範囲(請求項1)の記載によれば,構成
要件Cの「第1配向規制構造体」は「前記一対の基板の一方に設け
られ」,構成要件Dの「第2配向規制構造体」は「前記一対の基板
の他方に・・・設けられ」るものである。
しかし,イ号液晶モジュールのTFT基板及び対向基板(原告主
張の「前記一対の基板の一方」及び「前記一対の基板の他方」)に
は,絶縁膜ないしカラーフィルターがそれぞれ設けられているにす
ぎず,「第1配向規制構造体」ないし「第2配向規制構造体」は設
けられていないから,イ号液晶モジュールは,構成要件C,Dを充
足しない。
(イ)構成要件Dの非充足
原告は,イ号液晶モジュールは,別紙図面イ−2,イ−3に示すよ
うに,TFT基板に,対向電極のスリット(第1配向規制構造体)に
対して平行に延びるように設けられた,画素電極のスリットを有して
おり,このスリットは「第2配向規制構造体」に当たるから,構成要
件Dを充足すると主張する。
ところで,本件発明1は,画像データに対応する階調表示を得るた
め,本来同一の透過率を実現すべき1画素内に,透過率の異なった領
域が形成され,同領域が移動することにより透過率の上昇が起きると
いう課題(本件明細書1の段落【0060】ないし【0062】)を
解決することを目的とするものであるから,本件発明1の構成要件の
充足性を判断するに当たっては,画素電極は,TFT基板側に形成さ
れ,同一電圧が印加される1枚の電極としてとらえるべきである。
イ号液晶モジュールは,S−PVA(SuperPatterned-ITOVertica
lAlignment)技術を採用した液晶モジュールであるところ,甲7の添
付資料2に,「図3にS−PVA技術の基本動作原理を示す。・・・
RGBの各ピクセルは,AとBの二つのサブピクセルから成る。サブ
ピクセルAとBは異なった電圧が加えられるため,液晶分子の傾斜角
も異なる。」(52頁)との記載があるとおり,1画素(RGBの各
画素)当たり2枚の画素電極を有し,それぞれ異なる電圧が印加され
る。このようにイ号液晶モジュールの画素電極は,2枚の異なる画素
電極(第1の画素電極,第2の画素電極)により形成されているので
あるから,第1の画素電極のスリットの形状及び第2の画素電極のス
リットの形状を前提に,本件発明1の構成要件Dの充足の有無を判断
すべきである。しかるに,2枚の画素電極を1枚の画素電極であると
し,また,表示領域全体から画素電極の形状を認定し,これを前提に
構成要件Dの充足の有無を論じている原告の主張は,その前提におい
て失当である。
そして,イ号液晶モジュールの第1の画素電極は,略「く」の字型
の形状を有しているところ,その電極内部には一切欠損部は設けられ
ておらず,略「く」の字型の鈍角側の縁には略直角二等辺三角形状の
微小な切欠き(欠損部)が設けられているにすぎず,原告が主張する
ような「(平行に)延びるよう」に設けられているものではない。
また,イ号液晶モジュールの第2の画素電極は,略「く」の字型の
部分とその両端に位置する略菱形状の部分からなる形状を有している
ところ,同略「く」の字型の鋭角側の縁には,略直角二等辺三角形状
の微少な切欠き(欠損部)が設けられ,同略「く」の字型の部分と略
台形状の部分の境界付近には,1軸と平行な直線状の切欠き(欠損
部)が設けられ,第2の画素電極の略菱形状の部分にはそれぞれ2軸
又は4軸に平行な直線状の切欠き(欠損部)が,2軸又は4軸に平行
な直線状の切欠きの縁にそれぞれ略直角二等辺三角形状の微小な切欠
き(欠損部)が設けられている。
まず,上記略直角二等辺三角形状の微少な切欠き(欠損部)が「(
平行に)延びるよう」に設けられていないことは,上記と同様であ
る。
次に,上記直線状の切欠き(欠損部)は,1軸,2軸又は4軸に平
行であることから,対向電極に設けられた1軸,2軸又は4軸に平行
な直線状の切欠き(欠損部)に平行となっているものの,第2の画素
電極に設けられた2軸又は4軸に平行な上記直線状の切欠きに着目し
ても,対向電極に設けられた2軸又は4軸に平行な直線状の切欠きの
長さに比して,約30%の長さでしかなく,あくまでも第2の画素電
極の両端において部分的に平行となっているにすぎず,「延びるよ
う」に設けられているものではない。
したがって,イ号液晶モジュールの画素電極の欠損部(スリット)
は,原告が主張するような,対向電極のスリット(第1配向規制構造
体)に対して平行に延びるように設けられたものではないから,イ号
液晶モジュールは,構成要件Dを充足しない。
(ウ)構成要件Eの非充足
前記(ア),(イ)のとおりイ号液晶モジュールは,「第1配向規制構
造体」及び「第1配向規制構造体に対して平行に延びるように設けら
れた・・・第2配向規制構造体」を有するものではない以上,「第1
配向規制構造体」及び「第2配向規制構造体」によって形成される「
液晶ドメイン」がイ号液晶モジュールに存在することはないから,構
成要件Eを充足しない。
(エ)構成要件Fの非充足
原告は,イ号液晶モジュールの対向電極のスリット(第1配向規制
構造体)は,別紙図面イ−1に示すように,凹部以外のa軸成分及び
b軸成分(複数の主要部)と,周期的に成形された凹部(幅狭部)を
含んでいるから,構成要件Fを充足すると主張する。
ところで,「主要」とは,一般に,「中心となっていて大切な・こ
と(さま)」を意味するから(乙26),構成要件Fの「主要部」と
は「中心となっていて大切な部分」と理解することができる。そし
て,「主要部」は,「中心となっていて大切な部分ではない部
分」(「非主要部」)の存在を前提として,初めて存在し得る部分で
ある。
本件明細書1(甲2)の第1実施例(図14)における各突起3
0,32は,同一形状からなる複数の構成単位30S,32Sから形
成されているにすぎず(段落【0063】,【0064】),同一の
構成単位しか設けられていない以上,「中心となっていて大切な部分
ではない部分」(いわゆる「非主要部」)は存在せず,「主要
部」(「中心となっていて大切な部分」)が存在する余地はない。一
方で,図36(甲2)には,狭い幅を有する部分とそれ以外の部分か
らなる2つの構造体が示されていることから,「主要部」,「非主要
部」が存在し得ることとなる。
しかるに,イ号液晶モジュールの対向電極には,概ね同一形状から
なる欠損部が設けられているにすぎず,イ号液晶モジュールの対向電
極の欠損部は,2つの構造体からなる形状によって構成されているも
のではないから,「主要部」が存在する余地はなく,「前記主要部よ
りも狭い幅を有する幅狭部」も存在しないから,イ号液晶モジュール
は,構成要件Fを充足しない。
イ本件発明2の構成要件充足性の主張に対し
(ア)構成要件B,Cの非充足
a本件明細書2(甲4)には,「ドメイン規制手段として機能する
ものとしては各種あるが,少なくとも1つのドメイン規制手段は,
斜面を有するものである。」(段落【0017】),「(本発明を
適用すればこれらの問題を解決し,)IPS型LCDの視角特性を
有すると共にTN型LCDを凌ぐ応答速度のLCDが実現できる。
しかも,それぞれの基板に突起又は窪みを設けるだけで実現できる
ため,製造面でも容易に実現できる。」(段落【0303】)との
記載があるとおり,本件明細書2は,突起又は窪みによって形成さ
れたドメイン規制手段によって,初めて本件発明2の効果が得られ
ることを明らかにしている。もっとも,本件明細書2の段落【00
28】には,「ドメイン規制手段を片側又は両側の基板に形成する
場合には,突起又は窪み又はスリットを,所定のピッチで一方向の
格子状に形成することが可能である。」との記載があるが,VA方
式の液晶表示装置であっても動作速度を従来と同様の良好さを確保
するという本件発明2の目的(段落【0016】)は,少なくとも
1つのドメイン規制手段が斜面を有する形態であることで,電圧印
加時に同斜面近傍の液晶がトリガとなって他の部分の液晶について
も直ちに配向させることにより実現されるのであり,単にスリット
を設けただけでは,トリガを得ることができず,本件発明2の効果
を奏することはできないから,段落【0028】を根拠として,ス
リットが形成されてさえいれば,これが直ちに「第1のドメイン規
制手段」(構成要件B)又は「第2のドメイン規制手段」(構成要
件C)に該当すると解することはできない。
したがって,本件発明2における「第1のドメイン規制手段」及
び「第2のドメイン規制手段」のいずれかは,斜面を有する形態の
ものでなければならない。
しかるに,イ号液晶モジュールの対向電極の欠損部(スリット)
及び画素電極の欠損部(スリット)は,このような形態のものでは
ないから,「第1のドメイン規制手段」(構成要件B)ないし「第
2のドメイン規制手段」(構成要件C)に当たらない。
したがって,イ号液晶モジュールは,構成要件B,Cを充足しな
い。
b本件発明2の特許請求の範囲(請求項1)の記載によれば,構成
要件Bの「第1のドメイン規制手段」は「前記第1の基板に設けら
れ」,構成要件Cの「第2のドメイン規制手段」は「前記第2の基
板に設けられ」るものである。
しかし,イ号液晶モジュールのTFT基板及び対向基板(原告主
張の「前記第1の基板」及び「前記第2の基板」)には,絶縁膜な
いしカラーフィルターがそれぞれ設けられているにすぎず,「第1
のドメイン規制手段」ないし「第2のドメイン規制手段」は設けら
れていないから,イ号液晶モジュールは,構成要件B,Cを充足し
ない。
(イ)構成要件Eの非充足
原告は,イ号液晶モジュールの画素電極のスリット(第2のドメイ
ン規制手段)は,別紙図面イ−2に示すように,a軸と平行な方向に
延びる直線状のa軸成分とb軸と平行な方向に延びる直線状のb軸成
分とを有しているから,イ号液晶モジュールは,本件発明2の構成要
件Eを充足すると主張する。
ところで,本件発明2は,画素内での配向分割を実現し,視覚特性
を改善することを目的とするものであるから(本件明細書2の段落【
0016】),本件発明2の構成要件の充足性を判断するに当たって
は,画素電極は,TFT基板側に形成され,同一電圧が印加される1
枚の電極としてとらえるべきである。
イ号液晶モジュールは,S−PVA(SuperPatterned-ITOVertica
lAlignment)技術を採用した液晶モジュールであるところ,甲7の添
付資料2に,「図3にS−PVA技術の基本動作原理を示す。・・・
RGBの各ピクセルは,AとBの二つのサブピクセルから成る。サブ
ピクセルAとBは異なった電圧が加えられるため,液晶分子の傾斜角
も異なる。」(52頁)との記載があるとおり,1画素(RGBの各
画素)当たり2枚の画素電極を有し,それぞれ異なる電圧が印加され
る。このようにイ号液晶モジュールの画素電極は,2枚の異なる画素
電極(第1の画素電極,第2の画素電極)により形成されているので
あるから,第1の画素電極のスリットの形状及び第2の画素電極のス
リットの形状を前提に,本件発明2の構成要件Eの充足の有無を判断
すべきである。しかるに,2枚の画素電極を1枚の画素電極であると
し,また,表示領域全体から画素電極の形状を認定し,これを前提に
構成要件Eの充足の有無を論じている原告の主張は,その前提におい
て失当である。
そして,イ号液晶モジュールにおいては,第1の画素電極は,a軸
およびb軸をいかなる方向に設定しようとも,略直角二等辺三角形状
の切欠き(欠損部)しか設けられておらず,また,第2の画素電極
は,略直角二等辺三角形状の微少な切欠きに加え,1軸,2軸又は4
軸に平行な直線状の切欠きが設けられているものの,同直線状部分
は,対向電極に設けられた1軸,2軸又は4軸に平行な直線状の切欠
きの長さに比して,約30%の長さでしかない。
したがって,イ号液晶モジュールの画素電極は,原告が主張するよ
うな,直線状のa軸成分や直線状のb軸成分を有していないから,イ
号液晶モジュールは,構成要件Eを充足しない。
(ウ)構成要件Gの非充足
前記(ア)のとおりイ号液晶モジュールは,「第1のドメイン規制手
段」ないし「第2のドメイン規制手段」を有するものではない以
上,「ドメイン規制手段」によって形成される「ドメイン」がイ号液
晶モジュールに存在することはないから,構成要件G(「前記第1及
び第2のドメイン規制手段により,前記液晶の配向方向が略90°異
なる4種類のドメインが形成されること」)を充足しない。
ウ本件発明3−1,3−5の構成要件充足性の主張に対し
(ア)構成要件A,Dの非充足
本件特許3に係る願書に添付した明細書及び図面(以下,これらを
併せて「本件明細書3」という。甲6)には,「ドメイン規制手段
は,電極上の一部に設けた突起等により,突起部分の液晶分子を電圧
無印加時において予め微小角度傾斜させるものである。この突起は,
電圧を印加した時に液晶分子の配向方向を決定するトリガの役割を果
し,小さなもので十分である。なお,MVA型液晶パネルでは,ドメ
イン規制手段で液晶分子を予め微小角度傾斜させるので,垂直配向膜
にラビング処理を施す必要はない。」(段落【0006】),「な
お,MVA型液晶パネルでは,駆動電圧を印加すると液晶分子の傾斜
方向が土手状構造物から伝搬するため・・」(段落【0111
】),「そこで,本発明は,n型液晶を垂直配向したMVA型液晶パ
ネルを駆動する場合において,黒表示から低輝度中間調表示に切り替
える場合の応答時間を短縮し,黒表示から中間調表示又は白表示に切
り替える場合のオーバーシュートを低減させた駆動回路を有する液晶
表示装置及びその駆動方法を提供することを目的とする。」(段落【
0013】)との記載があり,また,図2において,ドメイン規制手
段として「突起(40)」が図示されている。
そして,本件明細書3には,「ドメイン規制手段」が「突起」(「
土手状構造物」)状の構造を有していることの効果として,「ドメイ
ン規制手段」上の液晶分子が電圧無印加時において既に傾斜している
ことにより,電圧印加時に他の液晶分子の配向方向を決定するトリガ
の役割を得ることができ(段落【0006】),これにより「n型液
晶を垂直配向したMVA型液晶パネルを駆動する場合において,黒表
示から低輝度中間調表示に切り替える場合の応答時間を短縮し,黒表
示から高輝度中間調表示又は白表示に切り替える場合のオーバーシュ
ートを低減させた液晶表示装置及びその駆動方法を提供することがで
きる。」(段落【0118】)との記載がある。
また,本件特許3の発明者である武田有広らにより執筆されたMV
A型液晶に関する論文(乙19)においても,MVA型液晶のドメイ
ン規制手段の形状が突起(「Protrusion」)であることが示されてい
る(図1,2参照)。
したがって,本件発明3−1における「ドメイン規制手段」(構成
要件A)及び本件発明3−5における「ドメイン規制手段」(構成要
件D)は,電圧無引加時において液晶分子に予め微少角度傾斜を付与
するものでなければならない。
しかるに,イ号液晶モジュールの対向電極の欠損部(スリット)及
び画素電極の欠損部(スリット)は,このような形態のものではない
から,イ号液晶モジュールは,「ドメイン規制手段」(構成要件A,
D)を有していない。
したがって,イ号液晶モジュールは,構成要件Aを充足せず,イ号
液晶モジュールの駆動方法は構成要件Dを充足しない。
(イ)構成要件B,Eの非充足
本件発明3−1及び本件発明3−5の各特許請求の範囲(請求項1
及び請求項5)の記載には,いずれも「画素を第1の透過率から該第
1の透過率より大きい第2の透過率に変化させる場合,前記画素電極
に対して,前記第2の透過率に変化させる第1の期間」との記載があ
るとおり,「第1の期間」とは,画素を第1の透過率から第2の透過
率に変化させる期間であり,また,「第2の期間」に印加される「第
1の目標電圧」は,「第2の透過率」に対応する電圧でなければなら
ない。
したがって,原告が主張するイ号液晶パネルの画素電極に入力され
る電圧の測定結果のみから「第1の期間」を判別しうるものではな
く,イ号液晶モジュールは,構成要件Bを充足せず,イ号液晶モジュ
ールの駆動方法は構成要件Eを充足しない。
2争点2(ロ号液晶モジュールの構成要件充足性)
(1)原告の主張
アロ号液晶モジュールの構成
(ア)ロ号液晶モジュールは,負の誘電率異方性を有する液晶が使用さ
れ,垂直配向させた液晶分子とパターン加工されたITO(IndiumTi
nOxide)によるフリンジ電界(斜め電界)を利用して,複数のドメイ
ンを有するマルチドメイン構造にする方式の一種であるPVA方式(
甲8)を採用している。このマルチドメイン構造を形成する現象は,
平行に配置された対向電極のスリット及び画素電極のスリットに電圧
を印加すると,斜め電界が発生し,スリットを境に,液晶分子がスリ
ットに対して直交する方向にそれぞれ傾斜して配向する2種類のドメ
インが形成されることを利用したものである。そして,ロ号液晶モジ
ュールは,電圧を印加しない状態では液晶を垂直に配向させて黒を表
示し,電圧を印加すると徐々に液晶分子を斜めに配向させて中間調を
表示し(灰色表示),最終的には,液晶分子を水平に配向させて白を
表示する垂直配向方式の液晶表示装置である。
ロ号液晶モジュールに含まれる液晶パネル(以下「ロ号液晶パネ
ル」という。)は,観察面側に配置された対向基板とバックライト側
に配置されたTFT基板との間に液晶が狭持された構造である。対向
基板には,少なくとも対向電極及び垂直配向膜が形成されており,T
FT基板には,少なくとも画素電極及び垂直配向膜が形成されてい
る。
(イ)a対向基板の対向電極は,パターン加工されており,別紙図面ロ
−1に示すような形状のスリット(電極の切れ目)が形成されてい
る。別紙図面ロ−1に示すとおり,画素電極のスリットは,a軸成
分及びb軸成分を有している。
bTFT基板の画素電極は,パターン加工されており,別紙図面ロ
−2に示すような形状のスリット(電極の切れ目)が形成されてい
る。別紙図面ロ−2に示すとおり,画素電極のスリットは,a軸成
分及びb軸成分を有している。
c対向電極のスリット及び画素電極のスリットは,対向基板及びT
FT基板を重ね合わせると,別紙図面ロ−3に示すように配置され
る。
イ本件発明1の構成要件充足性
(ア)ロ号液晶モジュールは,以下のとおり,本件発明の構成要件Aな
いしGをすべて充足するから,本件発明1の技術的範囲に属する。
aロ号液晶モジュールは,対向電極及び垂直配向膜を有する対向基
板と画素電極及び垂直配向膜を有するTFT基板(一対の基板)を
有しているから,構成要件Aを充足する。
bロ号液晶モジュールは,対向基板とTFT基板の間に配置された
負の誘電率異方性を有する液晶を有しているから,構成要件Bを充
足する。
cロ号液晶モジュールは,別紙図面ロ−1に示すように,対向基板
に設けられた,対向電極のスリットを有しており,このスリット
は「液晶の配向を規制するための線状の第1配向規制構造体」に当
たるから,構成要件Cを充足する。
dロ号液晶モジュールは,別紙図面ロ−2,ロー3に示すように,
TFT基板に,対向電極のスリット(第1配向規制構造体)に対し
て平行に延びるように設けられた,画素電極のスリットを有してお
り,このスリットは「液晶の配向を規制するための線状の第2配向
規制構造体」に当たるから,構成要件Dを充足する。
eロ号液晶モジュールは,別紙図面ロ−3に示すように,対向電極
のスリット(第1配向規制構造体)と画素電極のスリット(第2配
向規制構造体)によって,電圧印加時において液晶の配向方向が互
いに異なる複数の液晶ドメイン(別紙図面ロ−3記載の①ないし④
の領域)が形成されるから,構成要件Eを充足する。
fロ号液晶モジュールの対向電極のスリット(第1配向規制構造
体)は,別紙図面ロ−1に示すように,凹部以外のa軸成分及びb
軸成分(複数の主要部)と,周期的に成形された凹部(幅狭部)を
含んでいるから,構成要件Fを充足する。
gロ号液晶モジュールは,液晶表示装置であるから,構成要件Gを
充足する。
(イ)被告は,本件発明1の「第1配向規制構造体」(構成要件C)及
び「第2配向規制構造体」(構成要件D)の形状は,突起ないし「ス
リット構造」であり,「スリット構造」は,スリットと垂直配向膜
の「窪み」により形成される構造体であるが,ロ号液晶モジュールの
対向電極の欠損部(スリット)及び画素電極の欠損部(スリット)
は,上記「スリット構造」に該当しないから,構成要件C,Dを充足
しない旨主張する。
しかし,前記1(1)イ(イ)aのとおり,被告が主張するように「第1
配向規制構造体」及び「第2配向規制構造体」を限定的に解釈すべき
理由はないし,また,ロ号液晶モジュールの対向電極のスリットは,
その上にある配向膜が電極分だけ窪んでおり(甲10),「第1配向
規制構造体」については,この点からも被告の主張は理由がない。
(ウ)以上のとおり,ロ号液晶モジュールは,本件発明1の技術的範囲
に属するから,被告によるロ号液晶モジュールを搭載するロ号液晶モ
ニターの輸入,販売,販売の申出は,本件特許権1の侵害に当たる。
ウ本件発明2の構成要件充足性
(ア)ロ号液晶モジュールは,以下のとおり,本件発明2の構成要件A
ないしHをすべて充足するから,本件発明2の技術的範囲に属する。
aロ号液晶モジュールは,対向基板(第1の基板)とTFT基板(
第2の基板)との間に誘電率異方性が負の液晶を挟持し,電圧を印
加しない時には液晶が対向基板及びTFT基板に垂直な方向に配向
する液晶表示装置であるから,構成要件A,Hを充足する。
bロ号液晶モジュールは,別紙図面ロ−1に示すように,対向基板
に設けられた,対向電極のスリットを有しており,このスリットは
液晶に電圧を印加した時に液晶が配向する方向を規制するから,「
第1のドメイン規制手段」に当たり,構成要件Bを充足する。
cロ号液晶モジュールは,別紙図面ロ−2に示すように,TFT基
板に設けられた,画素電極のスリットを有しており,このスリット
は液晶に電圧を印加した時に液晶が配向する方向を規制するか
ら,「第2のドメイン規制手段」に当たり,構成要件Cを充足す
る。
dロ号液晶モジュールの対向電極のスリット(第1のドメイン規制
手段)は,別紙図面ロ−1に示すように,a軸と平行な方向(第1
の方向)に延びる直線状のa軸成分(直線状成分)とa軸と略90
°異なるb軸と平行な方向(第2の方向)に延びる直線状のb軸成
分(直線状成分)とを有しているから,構成要件Dを充足する。
eロ号液晶モジュールの画素電極のスリット(第2のドメイン規制
手段)は,別紙図面ロ−2に示すように,a軸と平行な方向に延び
る直線状のa軸成分(直線状成分)とb軸と平行な方向に延びる直
線状のb軸成分(直線状成分)とを有しているから,構成要件Eを
充足する。
fロ号液晶モジュールは,別紙図面ロ−3に示すように,対向基板
及びTFT基板に垂直な方向から見た時に,対向電極のスリット(
第1のドメイン規制手段)のa軸成分及びb軸成分と画素電極のス
リット(第2のドメイン規制手段)のa軸成分及びb軸成分とが,
それぞれ互いに平行かつ交互に配置されているから,構成要件Fを
充足する。
gロ号液晶モジュールは,別紙図面ロ−3に示すように,対向電極
のスリット(第1のドメイン規制手段)及び画素電極のスリット(
第2のドメイン規制手段)によって,液晶の配向方向が略90°異
なる4種類のドメイン(別紙図面ロ−3記載の①ないし④の領域)
が形成されるから,構成要件Gを充足する。
(イ)被告は,本件発明2における「第1のドメイン規制手段」及び「
第2のドメイン規制手段」のいずれかは,斜面を有する形態のもので
なければならないが,ロ号液晶モジュールの対向電極の欠損部(スリ
ット)及び画素電極の欠損部(スリット)は,このような形態のもの
ではないから,「第1のドメイン規制手段」(構成要件B)ないし「
第2のドメイン規制手段」(構成要件C)に当たらない旨主張する。
しかし,前記1(1)ウ(イ)aのとおり,「第1のドメイン規制手
段」(構成要件B)ないし「第2のドメイン規制手段」(構成要件
C)について被告が主張するような限定解釈をすべき理由はない。
(ウ)以上のとおり,ロ号液晶モジュールは,本件発明2の技術的範囲
に属するから,被告によるロ号液晶モジュールを搭載するロ号液晶モ
ニターの輸入,販売,販売の申出は,本件特許権2の侵害に当たる。
(2)被告の反論
ア本件発明1の構成要件充足性の主張に対し
(ア)構成要件C,Dの非充足
a前記1(2)ア(ア)aのとおり,本件発明1の「第1配向規制構造
体」(構成要件C)及び「第2配向規制構造体」(構成要件D)の
形状は,突起ないし「スリット構造」であり,この「スリット構
造」は,スリットと垂直配向膜の「窪み」により形成される構造体
でなければならないところ,ロ号液晶モジュールの対向電極の欠損
部(スリット)及び画素電極の欠損部(スリット)は,上記「スリ
ット構造」に該当しないから,「第1配向規制構造体」(構成要件
C)ないし「第2配向規制構造体」(構成要件D)に当たらない。
したがって,ロ号液晶モジュールは,構成要件C,Dを充足しな
い。
b前記1(2)ア(ア)bのとおり,本件発明1の構成要件Cの「第1配
向規制構造体」は「前記一対の基板の一方に設けられ」,構成要件
Dの「第2配向規制構造体」は「前記一対の基板の他方に・・・設
けられ」るものであるところ,ロ号液晶モジュールのTFT基板及
び対向基板(原告主張の「前記一対の基板の一方」及び「前記一対
の基板の他方」)には,「第1配向規制構造体」ないし「第2配向
規制構造体」は設けられていないから,ロ号液晶モジュールは,構
成要件C,Dを充足しない。
(イ)構成要件Dの非充足
ロ号液晶モジュールの画素電極の欠損部は,1軸に略平行な直線状
の切欠き,2軸に平行な直線状の切欠き,4軸に平行な直線状の切欠
き,2軸と4軸方向に等しい長さを有する略直角二等辺三角形状の切
欠きからなる。
一方,ロ号液晶モジュールの対向電極に設けられた欠損部は,1軸
に略平行な直線状の切欠き,2軸に平行な直線状の切欠き,3軸に略
平行な直線状の切欠き,4軸に平行な直線状の切欠き及び同切欠きの
うち,前記2軸に平行な直線状の切欠き,4軸に平行な直線状の切欠
きの縁にそれぞれ略直角二等辺三角形状の微小な突起が形成されてい
る。
したがって,ロ号液晶モジュールの画素電極の欠損部には,対向電
極に設けられているところの3軸に平行な直線状の切欠きが設けられ
ておらず,一方の対向電極の欠損部には,画素電極に設けられている
ところの2軸と4軸方向に等しい長さを有する略直角二等辺三角形状
の切欠き(欠損部)が設けられていない以上,画素電極の欠損部は,
対向電極の欠損部と平行に延びるように設けられているものではな
い。
したがって,ロ号液晶モジュールの画素電極の欠損部(スリット)
は,原告が主張するような,対向電極のスリット(第1配向規制構造
体)に対して平行に延びるように設けられたものではないから,ロ号
液晶モジュールは,構成要件Dを充足しない。
(ウ)構成要件Eの非充足
前記(ア),(イ)のとおりロ号液晶モジュールは,「第1配向規制構
造体」及び「第1配向規制構造体に対して平行に延びるように設けら
れた・・・第2配向規制構造体」を有するものではない以上,「第1
配向規制構造体」及び「第2配向規制構造体」によって形成される「
液晶ドメイン」がロ号液晶モジュールに存在することはないから,構
成要件Eを充足しない。
(エ)構成要件Fの非充足
ロ号液晶モジュールの対向電極には,概ね同一形状からなる欠損部
が設けられているにすぎず,ロ号液晶モジュールの対向電極の欠損部
は,2つの構造体からなる形状によって構成されているものではない
から,「主要部」が存在する余地はなく,「前記主要部よりも狭い幅
を有する幅狭部」も存在しないから,イ号液晶モジュールは,構成要
件Fを充足しない。
イ本件発明2の構成要件充足性の主張に対し
(ア)構成要件B,Cの非充足
前記1(2)イ(ア)と同様の理由により,ロ号液晶モジュールの対向電
極の欠損部(スリット)及び画素電極の欠損部(スリット)は,「前
記第1の基板に設けられ,前記液晶に電圧を印加した時に前記液晶が
配向する方向を規制する,第1のドメイン規制手段」(構成要件B)
及び「前記第2の基板に設けられ,前記液晶に電圧を印加した時に前
記液晶が配向する方向を規制する,第2のドメイン規制手段」(構成
要件C)に当たらないから,ロ号液晶モジュールは,構成要件B,C
を充足しない。
(イ)構成要件Gの非充足
前記(ア)のとおり,ロ号液晶モジュールは,「第1のドメイン規制
手段」ないし「第2のドメイン規制手段」を有するものではない以
上,「第1のドメイン規制手段」及び「第2のドメイン規制手段」に
よって形成される「ドメイン」が存在しないから,構成要件Eを充足
しない。
3争点3(ハ号液晶モジュール及びその駆動方法の構成要件充足性)
(1)原告の主張
アハ号液晶モジュールの構成
(ア)ハ号液晶モジュールは,負の誘電率異方性を有する液晶が使用さ
れ,垂直配向させた液晶分子とパターン加工されたITO(IndiumTi
nOxide)によるフリンジ電界(斜め電界)を利用して,複数のドメイ
ンを有するマルチドメイン構造にする方式の一種であるS−PVA方
式(甲9)を採用している。このマルチドメイン構造を形成する現象
は,平行に配置された対向電極のスリット及び画素電極のスリットに
電圧を印加すると,斜め電界が発生し,スリットを境に,液晶分子が
スリットに対して直交する方向にそれぞれ傾斜して配向する2種類の
ドメインが形成されることを利用したものである。そして,ハ号液晶
モジュールは,電圧を印加しない状態では液晶を垂直に配向させて黒
を表示し,電圧を印加すると徐々に液晶分子を斜めに配向させて中間
調を表示し(灰色表示),最終的には,液晶分子を水平に配向させて
白を表示する垂直配向方式の液晶表示装置である。
ハ号液晶モジュールに含まれる液晶パネル(以下「ハ号液晶パネ
ル」という。)は,観察面側に配置された対向基板とバックライト側
に配置されたTFT基板との間に液晶が狭持された構造である。対向
基板には,少なくとも対向電極及び垂直配向膜が形成されており,T
FT基板には,少なくとも画素電極及び垂直配向膜が形成されてい
る。
(イ)a対向基板の対向電極は,パターン加工されており,別紙図面ハ
−1に示すような形状のスリット(電極の切れ目)が形成されてい
る。別紙図面ハ−1に示すとおり,画素電極のスリットは,a軸成
分及びb軸成分を有している。
bTFT基板の画素電極は,パターン加工されており,別紙図面ハ
−2に示すような形状のスリット(電極の切れ目)が形成されてい
る。別紙図面ハ−2に示すとおり,画素電極のスリットは,a軸成
分及びb軸成分を有している。
c対向電極のスリット及び画素電極のスリットは,対向基板及びT
FT基板を重ね合わせると,別紙図面ハ−3に示すように配置され
る。
イ本件発明1の構成要件充足性
(ア)ハ号液晶モジュールは,以下のとおり,本件発明の構成要件Aな
いしGをすべて充足するから,本件発明1の技術的範囲に属する。
aハ号液晶モジュールは,対向電極及び垂直配向膜を有する対向基
板と画素電極及び垂直配向膜を有するTFT基板(一対の基板)を
有しているから,構成要件Aを充足する。
bハ号液晶モジュールは,対向基板とTFT基板の間に配置された
負の誘電率異方性を有する液晶を有しているから,構成要件Bを充
足する。
cハ号液晶モジュールは,別紙図面ハ−1に示すように,対向基板
に設けられた,対向電極のスリットを有しており,このスリット
は「液晶の配向を規制するための線状の第1配向規制構造体」に当
たるから,構成要件Cを充足する。
dハ号液晶モジュールは,別紙図面ハ−2,ハー3に示すように,
TFT基板に,対向電極のスリット(第1配向規制構造体)に対し
て平行に延びるように設けられた,画素電極のスリットを有してお
り,このスリットは「液晶の配向を規制するための線状の第2配向
規制構造体」に当たるから,構成要件Dを充足する。
eハ号液晶モジュールは,別紙図面ハ−3に示すように,対向電極
のスリット(第1配向規制構造体)と画素電極のスリット(第2配
向規制構造体)によって,電圧印加時において液晶の配向方向が互
いに異なる複数の液晶ドメイン(別紙図面ハ−3記載の①ないし④
の領域)が形成されるから,構成要件Eを充足する。
fハ号液晶モジュールの対向電極のスリット(第1配向規制構造
体)は,別紙図面ハ−1に示すように,凹部以外のa軸成分及びb
軸成分(複数の主要部)と,周期的に成形された凹部(幅狭部)を
含んでいるから,構成要件Fを充足する。
gハ号液晶モジュールは,液晶表示装置であるから,構成要件Gを
充足する。
(イ)a被告は,本件発明1の「第1配向規制構造体」(構成要件C)
及び「第2配向規制構造体」(構成要件D)の形状は,突起ない
し「スリット構造」であり,「スリット構造」は,スリットと垂直
配向膜の「窪み」により形成される構造体であるが,ハ号液晶モジ
ュールの対向電極の欠損部(スリット)及び画素電極の欠損部(ス
リット)は,上記「スリット構造」に該当しないから,構成要件
C,Dを充足しない旨主張する。
しかし,前記1(1)イ(イ)aのとおり,被告が主張するように「第
1配向規制構造体」及び「第2配向規制構造体」を限定的に解釈す
べき理由はないし,また,ハ号液晶モジュールの対向電極のスリッ
トは,その上にある配向膜が電極分だけ窪んでおり(甲10),「
第1配向規制構造体」については,この点からも被告の主張は理由
がない。
b被告は,本件発明1の構成要件の充足性を判断するに当たって
は,画素電極は,TFT基板側に形成され,同一電圧が印加される
1枚の電極としてとらえるべきである旨主張する。
しかし,本件発明1は,液晶表示装置に関するものであるとこ
ろ,液晶表示装置は,多くの画素から構成され,それぞれの画素電
極で電圧印加条件を変えることによって全体として画像を表示する
ものであるから,被告の上記主張は失当である。
(ウ)以上のとおり,ハ号液晶モジュールは,本件発明1の技術的範囲
に属するから,被告によるハ号液晶モジュールを搭載するハ号液晶モ
ニターの輸入,販売,販売の申出は,本件特許権1の侵害に当たる。
ウ本件発明2の構成要件充足性
(ア)ハ号液晶モジュールは,以下のとおり,本件発明2の構成要件A
ないしHをすべて充足するから,本件発明2の技術的範囲に属する。
aハ号液晶モジュールは,対向基板(第1の基板)とTFT基板(
第2の基板)との間に誘電率異方性が負の液晶を挟持し,電圧を印
加しない時には液晶が対向基板及びTFT基板に垂直な方向に配向
する液晶表示装置であるから,構成要件A,Hを充足する。
bハ号液晶モジュールは,別紙図面ハ−1に示すように,対向基板
に設けられた,対向電極のスリットを有しており,このスリットは
液晶に電圧を印加した時に液晶が配向する方向を規制するから,「
第1のドメイン規制手段」に当たり,構成要件Bを充足する。
cハ号液晶モジュールは,別紙図面ハ−2に示すように,TFT基
板に設けられた,画素電極のスリットを有しており,このスリット
は液晶に電圧を印加した時に液晶が配向する方向を規制するか
ら,「第2のドメイン規制手段」に当たり,構成要件Cを充足す
る。
dハ号液晶モジュールの対向電極のスリット(第1のドメイン規制
手段)は,別紙図面ハ−1に示すように,a軸と平行な方向(第1
の方向)に延びる直線状のa軸成分(直線状成分)とa軸と略90
°異なるb軸と平行な方向(第2の方向)に延びる直線状のb軸成
分(直線状成分)とを有しているから,構成要件Dを充足する。
eハ号液晶モジュールの画素電極のスリット(第2のドメイン規制
手段)は,別紙図面ハ−2に示すように,a軸と平行な方向に延び
る直線状のa軸成分(直線状成分)とb軸と平行な方向に延びる直
線状のb軸成分(直線状成分)とを有しているから,構成要件Eを
充足する。
fハ号液晶モジュールは,別紙図面ハ−3に示すように,対向基板
及びTFT基板に垂直な方向から見た時に,対向電極のスリット(
第1のドメイン規制手段)のa軸成分及びb軸成分と画素電極のス
リット(第2のドメイン規制手段)のa軸成分及びb軸成分とが,
それぞれ互いに平行かつ交互に配置されているから,構成要件Fを
充足する。
gハ号液晶モジュールは,別紙図面ハ−3に示すように,対向電極
のスリット(第1のドメイン規制手段)及び画素電極のスリット(
第2のドメイン規制手段)によって,液晶の配向方向が略90°異
なる4種類のドメイン(別紙図面ハ−3記載の①ないし④の領域)
が形成されるから,構成要件Gを充足する。
(イ)a被告は,本件発明2における「第1のドメイン規制手段」及
び「第2のドメイン規制手段」のいずれかは,斜面を有する形態の
ものでなければならないが,ハ号液晶モジュールの対向電極の欠損
部(スリット)及び画素電極の欠損部(スリット)は,このような
形態のものではないから,「第1のドメイン規制手段」(構成要件
B)ないし「第2のドメイン規制手段」(構成要件C)に当たらな
い旨主張する。
しかし,前記1(1)ウ(イ)aのとおり,「第1のドメイン規制手
段」(構成要件B)ないし「第2のドメイン規制手段」(構成要件
C)について被告が主張するような限定解釈をすべき理由はない。
b被告は,本件発明2の構成要件の充足性を判断するに当たって
は,画素電極は,TFT基板側に形成され,同一電圧が印加される
1枚の電極としてとらえるべきである旨主張する。
しかし,本件発明2は,液晶表示装置に関するものであるとこ
ろ,液晶表示装置は,多くの画素から構成され,それぞれの画素電
極で電圧印加条件を変えることによって全体として画像を表示する
ものであるから,被告の上記主張は失当である。
(ウ)以上のとおり,ハ号液晶モジュールは,本件発明2の技術的範囲
に属するから,被告によるハ号液晶モジュールを搭載するハ号液晶モ
ニターの輸入,販売,販売の申出は,本件特許権2の侵害に当たる。
エ本件発明3−1,3−5の構成要件充足性
(ア)ハ号液晶モジュールは,以下のとおり,本件発明3−1の構成要
件AないしCをすべて充足するから,本件発明3−1の技術的範囲に
属する。
aハ号液晶モジュールは,前記アのとおり,電圧が印加される画素
電極及び対向電極との間に液晶が設けられ,液晶の配向が,電圧を
印加しない時にはほぼ垂直に,所定の電圧を印加した時にはほぼ平
行に,所定の電圧より小さい電圧を印加した時には斜めになり,さ
らに,別紙図面ハ−1,ハ−2,ハ−3に示すように,所定の電圧
より小さい電圧が印加された時には,各画素内において,液晶の配
向の斜めになる方向が各画素内において複数になるように規制する
画素電極のスリット及び対向電極のスリット(ドメイン規制手段)
を具備する液晶表示装置であるから,構成要件A,Cを充足する。
bハ号液晶モジュールは,画素を黒表示(第1の透過率)から中間
調表示(第2の透過率)に変化させる場合,画素電極に対して,最
初の16.7ms(16.7×10−3秒)の間(第1の期間),
中間調を表示するために本来必要とされる表示駆動電圧より大きい
初期駆動電圧(第1の目標駆動電圧より大きい電圧)を印加し,
次(第2の期間)に,表示駆動電圧(第1の目標電圧)を印加する
外部回路(駆動回路)を有しているから(甲9の図3−1,図3−
2),構成要件Bを充足する。
(イ)ハ号液晶モジュールは,前記(ア)a及びbの構成を有するから,
ハ号液晶モジュールの駆動方法は,本件発明3−5の構成要件Dない
しFをすべて充足し,本件発明3−5の技術的範囲に属する。
(ウ)以上のとおり,ハ号液晶モジュールは,本件発明3−1の技術的
範囲に属し,また,ハ号液晶モジュールの駆動方法は,本件発明3−
5の技術的範囲に属し,ハ号液晶モジュールを搭載するハ号液晶モニ
ターを使用すれば上記駆動方法が実施されるから,被告によるハ号液
晶モジュールを搭載するハ号液晶モニターの輸入,販売,販売の申出
は,本件特許権3の侵害又は間接侵害(特許法101条5号)に当た
(2)被告の反論
ア本件発明1の構成要件充足性の主張に対し
(ア)構成要件C,Dの非充足
a前記1(2)ア(ア)aのとおり,本件発明1の「第1配向規制構造
体」(構成要件C)及び「第2配向規制構造体」(構成要件D)の
形状は,突起ないし「スリット構造」であり,この「スリット構
造」は,スリットと垂直配向膜の「窪み」により形成される構造体
でなければならないところ,ハ号液晶モジュールの対向電極の欠損
部(スリット)及び画素電極の欠損部(スリット)は,上記「スリ
ット構造」に該当しないから,「第1配向規制構造体」(構成要件
C)ないし「第2配向規制構造体」(構成要件D)に当たらない。
したがって,ハ号液晶モジュールは,構成要件C,Dを充足しな
い。
b前記1(2)ア(ア)bのとおり,本件発明1の構成要件Cの「第1配
向規制構造体」は「前記一対の基板の一方に設けられ」,構成要件
Dの「第2配向規制構造体」は「前記一対の基板の他方に・・・設
けられ」るものであるところ,ハ号液晶モジュールのTFT基板及
び対向基板(原告主張の「前記一対の基板の一方」及び「前記一対
の基板の他方」)には,「第1配向規制構造体」ないし「第2配向
規制構造体」は設けられていないから,ハ号液晶モジュールは,構
成要件C,Dを充足しない。
(イ)構成要件Dの非充足
前記1(2)ア(イ)のとおり,本件発明1の構成要件の充足性を判断す
るに当たっては,画素電極は,TFT基板側に形成され,同一電圧が印
加される1枚の電極としてとらえるべきである。
ハ号液晶モジュールは,S−PVA技術を採用した液晶モジュール
であり,ハ号液晶モジュールの画素電極は,2枚の異なる画素電極(
第1の画素電極,第2の画素電極)により形成されているのであるか
ら,第1の画素電極のスリットの形状及び第2の画素電極のスリット
の形状を前提に,本件発明1の構成要件Dの充足の有無を判断すべき
である。しかるに,2枚の画素電極を1枚の画素電極であるとし,ま
た,表示領域全体から画素電極の形状を認定し,これを前提に構成要
件Dの充足の有無を論じている原告の主張は,その前提において失当
である。
そして,ハ号液晶モジュールの第1の画素電極は,略台形状である
ところ,略台形状の底辺側の縁には略直角二等辺三角形状の切欠き,
及び,1軸に略平行な切欠きからなる欠損部が設けられている。な
お,ハ号液晶モジュールの第2の画素電極には,欠損部が一切設けら
れていない。
一方,第1の画素電極に対応する対向電極には,2軸に平行な直線
状の切欠き,3軸に平行な直線状の切欠き,及び,4軸に平行な直線
状の切欠きからなる欠損部が設けられ,また,同2軸に平行な直線状
の切欠きと4軸に平行な直線状の切欠きの縁には,それぞれ略直角二
等辺三角形状の微小な突起が形成されている。
したがって,ハ号液晶モジュールの2軸,3軸ないし4軸に平行な
直線状の切欠きを有していない第1の画素電極の欠損部が,対向電極
の欠損部と平行に延びるように設けられているものでないことは明ら
かであるから,ハ号液晶モジュールは,構成要件Dを充足しない。
(ウ)構成要件Eの非充足
前記(ア),(イ)のとおりハ号液晶モジュールは,「第1配向規制構
造体」及び「第1配向規制構造体に対して平行に延びるように設けら
れた・・・第2配向規制構造体」を有するものではない以上,「第1
配向規制構造体」及び「第2配向規制構造体」によって形成される「
液晶ドメイン」がハ号液晶モジュールに存在することはないから,構
成要件Eを充足しない。
(エ)構成要件Fの非充足
ハ号液晶モジュールの対向電極には,概ね同一形状からなる欠損部
が設けられているにすぎず,ハ号液晶モジュールの対向電極の欠損部
は,2つの構造体からなる形状によって構成されているものではない
から,「主要部」が存在する余地はなく,「前記主要部よりも狭い幅
を有する幅狭部」も存在しないから,ハ号液晶モジュールは,構成要
件Fを充足しない。
イ本件発明2の構成要件充足性の主張に対し
(ア)構成要件B,Cの非充足
前記1(2)イ(ア)と同様の理由により,ハ号液晶モジュールの対向電
極の欠損部(スリット)及び画素電極の欠損部(スリット)は,「前
記第1の基板に設けられ,前記液晶に電圧を印加した時に前記液晶が
配向する方向を規制する,第1のドメイン規制手段」(構成要件B)
及び「前記第2の基板に設けられ,前記液晶に電圧を印加した時に前
記液晶が配向する方向を規制する,第2のドメイン規制手段」(構成
要件C)に当たらないから,ハ号液晶モジュールは,構成要件B,C
を充足しない。
(イ)構成要件Eの非充足
前記1(2)イ(イ)のとおり,本件発明2の構成要件の充足性を判断す
るに当たっては,画素電極は,TFT基板側に形成され,同一電圧が印
加される1枚の電極としてとらえるべきである。
ハ号液晶モジュールは,S−PVA技術を採用した液晶モジュール
であり,ハ号液晶モジュールの画素電極は,2枚の異なる画素電極(
第1の画素電極,第2の画素電極)により形成されているのであるか
ら,第1の画素電極のスリットの形状及び第2の画素電極のスリット
の形状を前提に,本件発明1の構成要件Dの充足の有無を判断すべき
である。しかるに,2枚の画素電極を1枚の画素電極であるとし,ま
た,表示領域全体から画素電極の形状を認定し,これを前提に構成要
件Eの充足の有無を論じている原告の主張は,その前提において失当
である。
そして,前記ア(イ)のとおり,ハ号液晶モジュールの第2の画素電
極には欠損部が設けられておらず,また,第1の画素電極の欠損部に
ついても,1軸に略平行となるよう設けられているに過ぎず,a軸お
よびb軸をいかなる方向に設定しようとも,a軸およびb軸という2
つの軸に平行に延びる直線状の欠損部は設けられていないから,ハ号
液晶モジュールは,構成要件Eを充足しない。
(ウ)構成要件Gの非充足
前記(ア)のとおり,ハ号液晶モジュールは,「第1のドメイン規制
手段」ないし「第2のドメイン規制手段」を有するものではない以
上,「第1のドメイン規制手段」及び「第2のドメイン規制手段」に
よって形成される「ドメイン」が存在しないから,構成要件Eを充足
しない。
ウ本件発明3−1,3−5の構成要件充足性の主張に対し
(ア)構成要件A,Dの非充足
前記1(1)ウ(ア)のとおり,本件発明3−1における「ドメイン規制
手段」(構成要件A)及び本件発明3−5における「ドメイン規制手
段」(構成要件D)は,電圧無印加時において液晶分子に予め微少角
度傾斜を付与するものでなければならないところ,ハ号液晶モジュー
ルの対向電極の欠損部(スリット)及び画素電極の欠損部(スリッ
ト)は,このような形態のものではないから,ハ号液晶モジュール
は,「ドメイン規制手段」(構成要件A,D)を有していない。
したがって,ハ号液晶モジュールは,構成要件Aを充足せず,ハ号
液晶モジュールの駆動方法は構成要件Dを充足しない。
(イ)構成要件B,Eの非充足
前記1(1)ウ(イ)のとおり,本件発明3−1における「第1の期
間」(構成要件B)及び本件発明3−5における「第1の期間」(構
成要件D)とは,画素を第1の透過率から第2の透過率に変化させる
期間であり,また,「第2の期間」に印加される「第1の目標電圧」
は,「第2の透過率」に対応する電圧でなければならない。
したがって,原告が主張するハ号液晶パネルの画素電極に入力され
る電圧の測定結果のみから「第1の期間」を判別しうるものではな
く,ハ号液晶モジュールは,構成要件Bを充足せず,ハ号液晶モジュ
ールの駆動方法は構成要件Eを充足しない。
4争点4(本件特許権1に基づく権利行使の制限の有無)
(1)被告の主張
本件特許1には,以下のとおり無効理由があり,特許無効審判により無
効とされるべきものであるから,特許法104条の3第1項の規定によ
り,原告は,被告に対し,本件特許権1を行使することができない。
ア無効理由1(新規性の欠如)
(ア)本件発明1は,以下のとおり,本件出願1の優先権主張日(平成
10年9月18日)前の他の出願(優先権主張日平成10年5月20
日,特願平11−140530号)であって,本件出願1の優先日後
に公開特許公報(特開平11−352491号公報。乙1)が発行さ
れたものの願書に最初に添付した明細書又は図面に記載された発明(
以下「乙1記載発明」という。)と同一であるから,本件特許1に
は,特許法29条の2に違反する無効理由(同法123条1項2号)
がある。
(イ)a乙1(特開平11−212661号公報)の段落【0006
】,【0007】,【0017】,【0018】,【0031】の
記載及び図7によれば,乙1には,「電極および垂直配向膜を有す
る一対の基板」(本件発明1の構成要件A)と,「前記一対の基板
の間に配置された負の誘電率異方性を有する液晶」(構成要件B)を
備えた「液晶表示装置」(構成要件G)が記載されている。
bまた,乙1には,「図9(A)に示された突起パターンは・・・
1つの画素領域内で4分割配向を行い,上下基板の突起211,2
21が交互に現われ,一側基板内において形成された突起が成す角
は90度であり,隣接した2つの微小領域で方向子が成す角は90
度になる。」(段落【0037】),「図10は本発明の第5実施
例による液晶表示装置の平面図である。図10に示されているよう
に,突起213,223の形態は基本的に図9(A)に示された本
発明の第4実施例と類似する。即ち,カラーフィルタ基板には四角
形環状の突起213が形成され,薄膜トランジスタ基板には四角形
の内部に十字形の突起223が形成される。これによって,横及び
縦の両方向にカラーフィルタ基板と薄膜トランジスタ基板に形成さ
れた突起が交互に現われるようになる。」(段落【0041
】),「一方,図10で,カラーフィルタ基板に形成された四角形
環状突起213は各辺の中間部が切れた形態に形成されているが,
これは連結された形態に形成しても関係ない。」(段落【0042
】),「突起213,223の幅は突起213が折り曲げられるよ
うに形成されている四角形環状の頂点から各辺の中間部の方に行く
ほど狭くなり,十字形突起223の中心部から端部の方に行くほど
幅が狭くなる。」(段落【0043】)との記載がある。
上記各記載と図10によれば,乙1には,①乙1の液晶表示装置
のカラーフィルタ基板に設けられた突起213及び薄膜トランジス
タ基板に設けられた突起223は,いずれも液晶の配向を規制する
ための「配向規制構造体」であり,これらの「配向規制構造体」に
よって,電圧印加時における液晶の配向方向が互いに異なる複数の
液晶ドメインが形成されること,②突起213の形状は「四角形環
状」,突起223の形状は「十字形」と表現されているが,「四角
形環状」及び「十字形」はいずれも図10中の縦方向及び横方向に
延びる線状の突起の集合として形成され,これらの線状の突起は互
いに平行に延びるように設けられていること,③少なくとも「カラ
ーフィルタ基板に形成された四角形環状突起213」について
は,「各辺の中間部が連結された形態」が実質的に図示され,当該
形態における各辺中間部の連結部は,縦方向及び横方向に延びる複
数の線状の突起(主要部)のうちの2つの間に配置され,上記主要
部よりも狭い幅を有する「幅狭部」であることが開示されている。
上記①ないし③によれば,乙1の液晶表示装置のカラーフィルタ
基板に設けられた突起213は,液晶の配向を規制するための線状
の「第1配向規制構造体」(構成要件C),薄膜トランジスタ基板
に設けられた突起223は,上記「第1配向規制構造体」に対して
平行に延びるように設けられた,液晶の配向を規制するための線状
の「第2配向規制構造体」(構成要件D)に該当し,「前記第1配
向規制構造体と第2配向規制構造体によって,電圧印加時における
液晶の配向方向が互いに異なる複数の液晶ドメインが形成され」(
構成要件E),「第1配向規制構造体は,複数の主要部と,複数の
前記主要部のうちの2つの間に配置され,前記主要部よりも狭い幅
を有する幅狭部と,を含む」(構成要件F)ものであるから,乙1
の液晶表示装置は,構成要件CないしFの構成を備えている。
c以上によれば,乙1の液晶表示装置(乙1記載発明)は,本件発
明1の構成要件AないしGの構成をすべて備えているから,本件発
明1は,乙1記載発明と同一である。
イ無効理由2(進歩性の欠如①)
(ア)本件発明1の特許請求の範囲(請求項1)の「前記第1配向規制
構造体と前記第2配向規制構造体によって,電圧印加時における液晶
の配向方向が互いに異なる複数の液晶ドメインが形成され,」(構成
要件E),「前記第1配向規制構造体は,複数の主要部と,複数の前
記主要部のうちの2つの間に配置され,前記主要部よりも狭い幅を有
する幅狭部と,を含む」(構成要件F)との記載部分によれば,①第
2配向規制構造体が単に「第1配向規制構造体に対して平行に延びる
ように設けられた,液晶の配向を規制するための線状の第2配向規制
構造体」である態様の液晶表示装置,②第1配向規制構造体のみが「
複数の主要部と,複数の前記主要部のうちの2つの間に配置され,前
記主要部よりも狭い幅を有する幅狭部と,を含む」態様の液晶表示装
置も,本件発明1に包含されることになる。
しかし,本件出願1の優先権主張(平成10年9月18日)の基礎
とされた特許出願(特願平10−26489号)の願書に最初に添付
した明細書又は図面(乙6)には,本件発明1に包含される上記①及
び②の態様の液晶表示装置について開示も示唆もされておらず,本件
原出願の願書に最初に添付した明細書又は図面(乙7。以下,これら
を併せて「本件原出願明細書」という。)には,上記②の態様の液晶
表示装置について開示も示唆もされていないから,本件出願1は,特
許法41条2項の優先権主張の要件も,同法44条1項の分割出願の
要件も満たさない。したがって,本件出願1について優先権を主張す
ることはできず,また,本件出願1の出願日が本件原出願の時に遡及
しないから,本件出願1の出願日は,現実の出願日である平成18年
6月28日となる。
そして,本件発明1は,以下のとおり,本件出願1の上記出願日前
に頒布された刊行物である乙7(本件原出願の公開特許公報である特
開2000−155317号公報)及び乙8(特開2000−162
599号公報)に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到する
ことができたものであるから,本件特許1には,特許法29条2項に
違反する無効理由(同法123条1項2号)がある。
(イ)乙7(特開2000−155317号公報)には,ラビングレス
のマルチドメイン垂直配向型(MVA型)の液晶表示装置に設けられ
る配向規制構造体として図36に図示されるようなスリットが開示さ
れている。
また,乙8(特開2000−162599号公報)には,ラビング
レスのマルチドメイン垂直配向型(MVA型)の液晶表示装置が備え
る「配向制御窓」(配向規制構造体であるスリット)として「複数の
主要部と,複数の前記主要部のうちの2つの間に配置され,前記主要
部よりも狭い幅を有する幅狭部」を含むものが開示されている(請求
項1,段落【0002】,【0003】,【0006】,【0024
】,【0026】,図1等)。
そして,当業者であれば,乙7の液晶表示装置の「第1配向規制構
造体」の形状を,乙8に開示されているような「複数の主要部と,複
数の前記主要部のうちの2つの間に配置され,前記主要部よりも狭い
幅を有する幅狭部と,を含む」態様のものとすることによって,本件
発明1に包含される第1配向規制構造体のみが「複数の主要部と,複
数の前記主要部のうちの2つの間に配置され,前記主要部よりも狭い
幅を有する幅狭部と,を含む」態様の液晶表示装置を容易に想到する
ことができたものである。
ウ無効理由3(進歩性の欠如②)
(ア)仮に本件出願1が優先権主張日にされたものとみなされるとして
も,本件発明1は,以下のとおり,本件出願1の優先権主張日前に頒
布された刊行物である乙9(特開平6−43461号公報),乙1
0(特開平6−194656号公報)及び乙11(特開平8−101
396号公報)に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到する
ことができたものであるから,本件特許1には,特許法29条2項に
違反する無効理由(同法123条1項2号)がある。
(イ)a乙9(特開平6−43461号公報)には,「電極および垂直
配向膜を有する一対の基板」(本件発明1の構成要件A)と,「前
記一対の基板の間に配置された負の誘電率異方性を有する液晶」(
構成要件B)と,「前記一対の基板の一方に設けられた,液晶の配
向を規制するための線状の第1配向規制構造体」(構成要件C)
と,「前記一対の基板の他方に設けられた,液晶の配向を規制する
ための線状の第2配向規制構造体」(構成要件D)とを備え,「前
記第1配向規制構造体と前記第2配向規制構造体によって,電圧印
加時における液晶の配向方向が互いに異なる複数の液晶ドメインが
形成」(構成要件E)される「液晶表示装置」(構成要件G)が開
示されている(段落【0005】,【0007】,【0010】,
【0011】,【0018】,【0020】,【0029】,【0
030】,図1,5ないし7等)。
そうすると,本件発明1と乙9に記載された上記液晶表示装置の
発明(以下「乙9記載発明①」という。)とを対比すると,本件発
明1では,線状の第2配向規制構造体が「前記第1配向規制構造体
に対して平行に延びるように設けられ」(構成要件D),かつ,「
前記第1配向規制構造体は,複数の主要部と,複数の前記主要部の
うちの2つの間に配置され,前記主要部よりも狭い幅を有する幅狭
部と,を含む」(構成要件F)のに対し,乙9記載発明①では,上
記の態様の明示がない点でのみ相違する。
b乙10(特開平6−194656号公報)には,「本発明で特徴
的な構造は,上下の透明電極3,4に電極の一部を取り除いたスリ
ット7,8が設けてあることである。しかも,上部透明電極3のス
リット7は,下部透明電極4のスリット8とは重ならず,ずれて配
置されている。」(段落【0017】),図4の説明として「画素
電極61には電極の一部を取り除いた図示のような実線でしめすス
リット64が複数形成される。さらに,画素電極61と対向する共
通電極にも破線で示すような電極の一部を削除したスリット65が
形成される。上下の基板のスリット64と65は交互に並ぶ配置と
する。」(段落【0041】)との記載があり,また,図1におい
て「対向配置された一対の基板と,前記一対の基板上に設けられ,
液晶層を挟んで互いに重なり合って表示領域を形成する一対の透明
電極と,前記一対の透明電極の各々の前記表示領域における透明電
極の一部が取り除かれたスリットとを有し,前記一対の透明電極の
一方の透明電極の前記スリットと他方の透明電極の前記スリットと
が前記表示領域内で交互に配置される」構成の液晶表示装置の基本
原理が示されている。
上記各記載と図1,4によれば,「上下の基板のスリット64と
65」は,いずれを「第1配向規制構造体」としても,「一対の基
板の一方に設けられた,液晶の配向を規制するための線状の第1配
向規制構造体」(本件発明1の構成要件C)と「前記一対の基板の
他方に,前記第1配向規制構造体に対して平行に延びるように設け
られた,液晶の配向を規制するための線状の第2配向規制構造
体」(構成要件D)の関係にあるといえるから,乙10には,構成
要件C,D及び構成要件E(「前記第1配向規制構造体と前記第2
配向規制構造体によって,電圧印加時における液晶の配向方向が互
いに異なる複数の液晶ドメインが形成され」)の構成を有する液晶
表示装置が開示されている。
c乙11(特開平8−101396号公報)には,「【請求項1】
少なくとも表示画素を有する基板と,前記表示画素に対向する領
域の一部にほぼ長方形の形状の空孔を有する透明電極を含む基板
と,液晶からなる液晶パネルを構成要素に含む液晶表示装置におい
て,前記表示画素の画素電極の対向部内の画素端付近の前記空孔幅
をL1,前記表示画素の中央付近の前記空孔幅をL2としたとき
に,L1>L2の関係としたことを特徴とする液晶表示装
置。」,「【請求項5】少なくとも表示画素を有する基板と,前
記表示画素に対向する領域の一部にスリット状の空孔を有する透明
電極を含む基板と,液晶からなる液晶パネルを構成要素に含む液晶
表示装置において,前記空孔が,スリットの長辺の側面に少なくと
も1個以上の同一の大きさの突起を有する形状であることを特徴と
する液晶表示装置。」,「・・・電極分割法(・・・)は,画素の
対向電極の一部に長方形の空孔が存在し,パネル内の電界分布を歪
ませることで画素に複数の領域が作成され,液晶の視角方位が平均
化されて広視角を実現するものである。」(段落【0007
】),「・・・電極分割型パネルでドメインを画素内で安定に存在
させるためには,空孔103の設計が重要であることがわか
る。」(段落【0023】),「・・・コントラストが高く,配向
が安定で信頼性の高い電極分割型パネルを作成するには,電極に形
成する空孔形状の設計を最適にする必要がある。」(段落【002
5】),「・・・画素の端近くの空孔幅をL1,画素の中央部の空
孔幅をL2としたときに,L1>L2の関係を満たせば,空孔を不
必要に広くする必要がなく,コントラストを高く保ったまま,配向
の安定な電極分割型パネルを作成することができる。」(段落【0
030】),図3の説明として「対向電極に形成した空孔303
は,ソースライン300の中央部からゲートライン301に平行に
線幅の異なるスリット形状を有している。このとき,空孔は画素電
極の端から10μm以内は,線幅A306が10μm,それ以外の
部分は,線幅B307が6μmである。」(段落【0040】),
図7の説明として「対向電極に形成した空孔703は,ソースライ
ン700の中央部からゲートライン701に平行な長方形で,側面
に同一の大きさの三角形の突起が付いた形状をしている。このと
き,空孔は線幅Aが4μm,三角形は,一辺Bが4μmの正三角形
を,ピッチCを8μmの等間隔で作成した。」(段落【0055
】),「空孔の線幅の大きさ,三角形の大きさは上記の値に限られ
ず,光抜けの生じない程度までおおきくできる。また,上記例で
は,三角形のピッチは全て等間隔であるがこれは場所によって違っ
ていても良い。」(段落【0057】),「上記例では,空孔をゲ
ートラインに平行に形成したが,これは画素電極の対角線方向に形
成しても良い。上記例では,突起を三角形としたが,突起の形状は
半円形や多角形でも良い。」(段落【0058】)との記載があ
る。
上記各記載及び図3,7と段落【0011】,【0013】ない
し【0016】等によれば,乙11の「空孔」は,「前記一対の基
板の一方に設けられた,液晶の配向を規制するための線状の第1配
向規制構造体」(構成要件C)に当たり,また,「空孔」の画素端
近傍部を「主要部」とした場合に,「空孔」には「複数の主要部
と,複数の前記主要部のうちの2つの間に配置され,前記主要部よ
りも狭い幅を有する幅狭部」(構成要件F)が含まれるから,乙1
1には,構成要件C,Fが開示されている。
dそして,①乙9,10,11の液晶表示装置は,マルチドメイン
型の液晶表示装置であって,乙9,10,11記載の技術は,液晶
分子の配向規制技術に関するものであり,その技術分野は同一であ
ること,②乙9記載発明①は,垂直配向型(VA方式)の液晶表示
装置であるのに対し,乙10,11の液晶表示装置は,TN型の液
晶表示装置であり,その液晶タイプは相違するものの,マルチドメ
イン化のための手段(液晶配向規制手段)は実質的に同じであり(
例えば,乙16,18等),液晶タイプの相違そのものは,乙9,
10,11記載の技術を互いに組み合わせることの阻害要因とまで
はいえないことに照らすならば,当業者であれば,乙9記載発明①
において,乙10記載の「線状の第2配向規制構造体」を「前記第
1配向規制構造体に対して平行に延びるように設けられた」構成(
構成要件D)を採用し,「第1配向規制構造体」を乙11に開示さ
れた「複数の主要部と,複数の前記主要部のうちの2つの間に配置
され,前記主要部よりも狭い幅を有する幅狭部と,を含む」構成(
構成要件F)とすることにより,本件発明1に容易に想到すること
ができたものである。
(2)原告の反論
ア無効理由1(新規性の欠如)に対し
被告は,乙1の液晶表示装置(乙1記載発明)は,本件発明1と同一
であるから,本件特許1には特許法29条の2に違反する無効理由があ
る旨主張する。しかし,被告の主張は,以下のとおり理由がない。
(ア)乙1では,図10に示されるように,各液晶ドメインは,「四角
形環状の突起213」内の領域及び「十字形の突起223」によって
区分された4つの四角形の各領域に相当し,各領域内において,十字
形の中心から対角方向に斜めの液晶分子で示される配向が形成されて
いる。このような配向を形成するためには,「四角形環状の突起21
3」の「縦方向の突起」及び「横方向の突起」の双方と,「十字形の
突起223」の「縦方向の突起」及び「横方向の突起」の双方が必須
の構成であり,「縦方向の突起」と「横方向の突起」とは,配向規制
手段としての機能を実現するため一体不可分のものである。
したがって,乙1には,「四角形環状の突起213」(被告主張
の「第1配向規制構造体」)と「十字形の突起223」(被告主張
の「第2配向規制構造体」)は,「縦方向の突起」と「横方向の突
起」とに分離して比較することはできず,互いに「平行に延びるよう
に設けられ」ていないから,本件発明1の構成要件C,Dの開示がな
い。
(イ)本件発明1は,液晶ドメインを形成するために液晶分子の配向す
る方向を規制する「配向規制構造体」の真上では,液晶分子が左側又
は右側にランダムに傾き,左側に傾いた液晶分子と右側に傾いた液晶
分子とが配向規制構造体側で近接する「逆ハの字状」の第1タイプの
境界と,右側に傾いた液晶分子と左側に傾いた液晶分子とが配向規制
構造体側で離れる「ハの字状」の第2タイプの境界とがランダムに形
成され,これらの真上の液晶分子の配向状態は,2つの配向規制構造
体に挟まれた領域に形成される液晶ドメインの配向に影響を与え,偏
光板の偏光軸に対する液晶分子の配向方向を変化させ,液晶ドメイン
の透過率の変動を引き起こし,この透過率の変動が,表示における輝
度異常として表れ,表示品質を低下させる原因となっていたことか
ら(本件明細書1の段落【0054】ないし【0061】,【008
6】ないし【0089】参照),このような課題を解決するため,複
数の主要部と,複数の前記主要部のうちの2つの間に配置され,「主
要部よりも狭い幅を有する幅狭部とを含む第1配向規制構造体」(構
成要件F)と第2配向規制構造体とによって,第1配向規制構造体と
第2配向規制構造体との間の液晶分子の配向方向を規制し,液晶ドメ
インを形成し,2つの主要部の間に「主要部よりも狭い幅を有する幅
狭部」を配置することで,液晶ドメイン内において,少なくとも幅狭
部の「上」の液晶分子の配向を第2タイプの境界に固定(規制)し,
これにより,電圧印加後における配向規制構造体上の液晶分子の配向
方向の変化を抑制し,液晶ドメインの透過率の変動を減少させるもの
である。
しかし,乙1には,配向規制構造体の真上の液晶分子の配向を規制
することについての記載も示唆も存在せず,本件発明1の「主要部よ
りも狭い幅を有する幅狭部」(構成要件F)を開示していない。すな
わち,乙1における各辺が連結された形態の四角形環状突起213
は,「主要部よりも狭い幅を有する幅狭部」を備えた配向規制構造体
ではないし,また,乙1における四角形環状突起213の切れた形態
を,他の部分よりも狭い幅で連結したとしても,その連結部は,液晶
ドメインの境界点に位置しており,配向規制構造体上の液晶分子の配
向方向を規制して液晶ドメインにおける透過率の変動を減少させるも
のではないから,「主要部よりも狭い幅を有する幅狭部」に該当する
ものではない。
したがって,乙1には,「四角形環状の突起213」(被告主張
の「第1配向規制構造体」)が「主要部よりも狭い幅を有する幅狭
部」を有することの開示がないから,構成要件Fを開示していない。
(ウ)以上のとおり,乙1には,本件発明1の「線状の第1配向規制構
造体と,それに対して平行に延びるように設けられた線状の第2配向
規制構造体」(構成要件C,D)及び「複数の主要部と,複数の前記
主要部のうちの2つの間に配置され,前記主要部よりも狭い幅を有す
る幅狭部」(構成要件F)の開示がないから,本件発明1が乙1記載
発明と同一であるとはいえない。
したがって,被告主張の無効理由1は,理由がない。
イ無効理由2(進歩性の欠如①)に対し
被告は,本件原出願明細書(乙7)には,本件発明1に包含される,
第1配向規制構造体のみが「複数の主要部と,複数の前記主要部のうち
の2つの間に配置され,前記主要部よりも狭い幅を有する幅狭部と,を
含む」態様の液晶表示装置が記載されていないから,本件出願1は,分
割出願の要件を満たしておらず,本件出願1の出願日は現実の出願日(
平成18年6月28日)となるところ,本件発明1は,上記出願日前に
頒布された刊行物である乙7,8に記載された発明に基づいて当業者が
容易に想到することができたから,本件特許1には,特許法29条2項
に違反する無効理由がある旨主張する。しかし,被告の主張は,以下の
とおり理由がない。
(ア)本件原出願明細書(乙7)の段落【0136】には,「図80及
び図81は図75の実施例の変形例を示す図である。図80は液晶表
示装置の線状の構造体と偏光板との関係を示す図,図81は図80の
液晶表示装置の断面図である。上基板12は突起30を有し,下基板
14はスリット46を有する。突起30及びスリット46は直角の屈
曲部を有する。」との記載があり,図80には,突起30が幅の均一
な線状の配向規制構造体であり,スリット46が切断部を有する線状
の配向規制構造体であることが示されている。また,本件原出願明細
書の段落【0085】の表1によれば,スリットを切断することは,
スリットの幅を小さくすることと同じく,「第2のタイプ(Ⅱ)」の
境界(右側に傾いた液晶分子と左側に傾いた液晶分子とが配向規制構
造体側で離れる「ハの字状」のタイプの境界)を形成する手段の一つ
である,
そして,前記ア(イ)のとおり,本件発明1における「主要部よりも
狭い幅を有する幅狭部」(構成要件F)は,配向規制構造体上の液晶
分子の配向方向を規制して液晶ドメインにおける透過率の変動を減少
させるものであって,第1配向規制構造体に「第2のタイプ(Ⅱ)」
の境界を形成する手段として機能するものであるから,本件原出願明
細書には,「第2のタイプ(Ⅱ)」の境界形成手段のみを有する配向
規制構造体を一方の基板にのみ形成する構成が開示されている。
(イ)以上のとおり,本件出願1は,本件原出願との関係で分割出願の
要件を満たすから,これを満たさないことを前提とする被告主張の無
効理由2は,その前提を欠き,理由がない。
ウ無効理由3(進歩性の欠如②)に対し
被告は,本件発明1は,乙9ないし11に記載された発明に基づいて
当業者が容易に想到することができたから,本件特許1には,特許法2
9条2項に違反する無効理由がある旨主張する。しかし,被告の主張
は,以下のとおり理由がない。
(ア)被告が自認するように乙9には,本件発明1の構成要件D及びF
の開示がない。
(イ)a乙10,11には,本件発明1の「第1配向規制構造体」(構
成要件C)及び「第2配向規制構造体」(構成要件D)の開示がな
い。
すなわち,本件発明1は,負の誘電率異方性を有する液晶を使用
し,電圧無印加時において液晶分子を基板に対し垂直に配向させ,
電圧印加時には液晶分子が倒れて基板に対し平行に配向するVA方
式の液晶表示装置に関するものであり,一対の基板の一方に設け
た「第1配向規制構造体」と他方に設けた「第2配向規制構造体」
によって,電圧印加時において,基板に平行な面内(以下「基板面
内」という。)における液晶分子の倒れる方向(配向する方向)を
規制している。したがって,本件発明1の「第1配向規制構造体」
及び「第2配向規制構造体」とは,電圧印加時において,基板面内
における液晶分子の倒れる方向を規制するものを意味する。
これに対し乙10,11は,正の誘電率異方性を有する液晶を使
用し,電圧無印加時において液晶分子が基板と平行に配向し,電圧
印加時には液晶分子が立ち上がって基板に対し垂直に配向するTN
型の液晶表示装置に関するものであり,TN方式の液晶表示装置に
おいては,上下基板の配向膜に互いに直交する方向のラビング処理
を行って,基板面内における配向方向が90°捩れた螺旋状に液晶
分子を配向させ,基板面内における液晶分子の配向方向はラビング
処理によって決められた方向に固定されているため,電圧印加時に
おいて,基板面内における液晶分子の倒れる方向を規制する本件発
明1の「第1配向規制構造体」(構成要件C)及び「第2配向規制
構造体」(構成要件D)は存在しない。
また,乙10のスリット(64,65)や乙11の空孔(10
3)は,ラビングによって決まるプレチルトの方向とは異なるよう
に,ラビング方向に沿って基板と平行に配向した液晶分子の2つの
端部のうち,電圧印加時にいずれの端部を立ち上げるのかを決める
だけのものに過ぎず,VA方式の液晶表示装置である本件発明1
の「第1配向規制構造体」及び「第2配向規制構造体」ではない。
b乙11には,本件発明1の「前記第1配向規制構造体は,複数の
主要部と,複数の前記主要部のうちの2つの間に配置され,前記主
要部よりも狭い幅を有する幅狭部と,を含む」(構成要件F)の開
示がない。
すなわち,乙11には,前記aのとおり,「第1配向規制構造
体」が開示されていない以上,本件発明1の構成要件Fが開示され
ていないことは自明である。
また,乙11の「空孔」の形態は,TN方式の液晶表示装置にお
いて発生する「逆チルト転傾線」の安定化とコントラストの向上を
両立させるために採用されたもののであり(段落【0023】,【
0024】,【0068】,【0069】),本件発明1の「幅狭
部」のような配向規制構造体上の液晶分子の配向境界を規制するた
めに用いられるものではない。そして,乙9は,VA方式の液晶表
示装置に関するものであり,乙11に記載された「逆チルト転傾
線」は発生しないので,乙9に,乙11の「空孔」の形状を適用す
る技術的意義は全くない。
(ウ)乙9の液晶表示装置における底面電極の形状及び上面電極に形成
される切り取り部(X型切り取り部,2重Y型の切り取り部)の形状
を,乙10の「スリット」又は乙11の「空孔」の形状(配置を含
む。以下同じ。)に変更することは容易に想到し得るものではない。
すなわち,乙9の液晶表示装置における底面電極の形状及び上面電
極に形成される切り取り部は,底面電極によって常に画素の中心へ向
かって傾くように配向している液晶分子に対して,上面電極の切り取
り部(X型切り取り部,2重Y型の切り取り部)によって一定の境界
条件と明確な傾斜方向を確立させ,4個の明瞭な液晶ドメインⅠ,
Ⅱ,Ⅲ,Ⅳを定めるという特定の効果を得るために採用された特有の
ものであって(段落【0023】,【0026】),底面電極の形状
及び上面電極に形成される切り取り部の形状を変更すると,上記特定
の効果が得られなくなることから,底面電極の形状及び上面電極の切
り取り部の形状を変更することは,当業者が適宜変更できる技術事項
ではない。
また,乙10の「スリット」や乙11の「空孔」は,前記(イ)のと
おり,本件発明1のようなVA方式の液晶表示装置における配向規制
構造体とは目的及び作用効果が異なるものであるから,当業者は,乙
9の底面電極の形状及び上面電極に形成される切り取り部の形状とし
て,乙10の「スリット」又は乙11の「空孔」の形状を適用するこ
とは行わない。
そして,乙9は,VA方式の液晶表示装置に関する発明であり,乙
11記載のTN方式の液晶表示装置において発生する「逆チルト転傾
線」(前記(イ)(b))は発生しないので,乙9の液晶表示装置に,乙
11の空孔の形状を適用する技術的意義は全くない。
(エ)本件発明1は,第1配向規制構造体の幅狭部によって,第1配向
規制構造体の「上」の液晶分子の配向を規制し,電圧印加後における
配向規制構造体上の液晶分子の配向方向の変化を抑制し,液晶ドメイ
ンの透過率の変動を減少できるという効果を有するが,この効果は,
乙9,10及び11のいずれからも予測できない顕著な効果である。
すなわち,乙9,10及び11においては,配向規制構造体の上の
液晶分子の配向規制構造体に沿った方向の配向乱れを規制するという
課題は認識されておらず,配向規制構造体の上の液晶分子の境界を規
制することの必要性を示唆する記載もない。このように,配向規制構
造体の上の液晶分子の間に不安定な配向境界が発生し,これを規制し
なければ配向境界位置が不規則に長時間変化して表示品質及び応答速
度の低下が生じるという課題は,本件発明1の発明者が独自に見つけ
出した新規な課題である。
したがって,本件発明1の上記効果は,乙9,10及び11のいず
れからも予測できない顕著な効果であるから,本件発明1は,当業者
が乙9ないし11に記載された発明に基づいて容易に想到できたもの
ではない。
(オ)以上によれば,当業者といえども,乙9ないし11に記載された
発明に基づいて本件発明1を容易に想到できたものではないから,被
告主張の無効理由3は理由がない。
5争点5(本件特許権2に基づく権利行使の制限の有無)
(1)被告の主張
本件特許2には,以下のとおり無効理由があり,特許無効審判により無
効とされるべきものであるから,特許法104条の3第1項の規定によ
り,原告は,被告に対し,本件特許権2を行使することができない。
ア無効理由1(新規性の欠如)
(ア)本件発明2は,以下のとおり,本件出願2の優先権主張日前に頒
布された刊行物である乙12(特開平6−301036号公報)に記
載された発明(以下「乙12記載発明」という。)と同一であるか
ら,本件特許2には,特許法29条1項3号に違反する無効理由(同
法123条1項2号)がある。
(イ)a乙12(特開平6−301036号公報)には,「図3に示す
ように本発明の第1の実施例に係る液晶表示装置の電極配置は,T
FT基板(22)上にITO膜からなり,縦300μm,横200
μmの画素電極(22a)が形成され,その両側に幅10μm程度
のゲートバスライン(22b,22c)が形成され,その上に垂直
配向された分子を有する第1の垂直配向膜(23),垂直配向され
た液晶分子(24A)を有する液晶層,第2の垂直配向膜(25)
が順次形成され,その上にITO膜からなる対向電極(26)が形
成されている。」(段落【0020】),「これにより,各画素形
成領域の同じ位置に開口部(26A)を設ければ,液晶分子(24
A)が全画素について同じように配向されるので,多少画素ごとに
液晶分子の配向方向がばらついていたとしても,図4に示すよう
に,液晶分子(24A)の配向方向の境界線を示すディスクリネー
ションラインが各画素について均一に現れる。よって,画像のザラ
ツキを抑止することが可能になる。」(段落【0023】)との記
載があり,また,図2のX−X線断面図として示されている図3に
は,TFT基板(22)上に設けられた画素電極(22a)の端
部(エッジ)が,図4には,1画素につき4本のディスクリネーシ
ョンラインが図示されている。
上記各記載及び図2ないし4(別紙図面(乙12)参照)と,画
素電極(22a)の端部(エッジ)及び開口部(26A)の端部(
エッジ)が共に「ドメイン規制手段」として機能すること(甲4の
段落【0044】,【0081】,【0082】参照)によれば,
乙12記載の液晶表示装置は,「第1の基板と第2の基板との間に
誘電率異方性が負の液晶を挟持し,電圧を印加しない時には前記液
晶が前記第1及び第2の基板に垂直な方向に配向する液晶表示装
置」(本件発明2の構成要件A,H)であって,TFT基板(2
2)上に設けられた画素電極(22a)の端部(エッジ)及び対向
電極(26)側に設けられた開口部(26A)の端部(エッジ)
は,「ドメイン規制手段」(構成要件B,C)であって,それぞ
れ「第1の方向に延びる直線状成分と前記第1の方向と略90°異
なる第2の方向に延びる直線状成分」とを有し(構成要件D,
E),「前記第1及び第2の基板に垂直な方向から見た時に,前記
第1のドメイン規制手段の直線状成分と前記第2のドメイン規制手
段の直線状成分とが,互いに平行かつ交互に配置されており」(構
成要件F),別紙図面(乙12)の図2の修正図の領域1ないし4
に示すように又は図4に1画素につき4本のディスクリネーション
ラインが図示されているように,画素電極(22a)の端部(エッ
ジ)及び開口部(26A)の端部(エッジ)により「前記液晶の配
向方向が略90°異なる4種類のドメインが形成される」構成(構
成要件G)を備えている。
b以上によれば,乙12の液晶表示装置(乙12記載発明)は,本
件発明2の構成要件AないしHの構成をすべて備えているから,本
件発明2は,乙12記載発明と同一である。
イ無効理由2(進歩性の欠如①)
(ア)本件発明2は,以下のとおり,本件出願2の優先権主張日前に頒
布された刊行物である乙16(特開平8−29812号公報),乙1
7(特開平7−234414号公報)及び乙27(特開平8−313
923号公報)に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到する
ことができたものであるから,本件特許2には,特許法29条2項に
違反する無効理由(同法123条1項2号)がある。
(イ)a乙16(特開平8−29812号公報)には,「第1および第
2の電極の導電体部と非導電体部の対面配置によって,傾き方向が
相互に逆となる2方向の斜め電界が生じ,これら電界に沿って再配
列する液晶分子およびゲストの染料分子は電界の境界領域で分子配
列が乱れる。・・・」(段落【0022】),「また,ベンド配列
を図5(b)に示す。上下基板11,12の配向膜15,16に垂
直配向膜を用い,これら膜をラビング処理し,その方向F,Rを一
致されるように基板を組み合わせると,負の誘電異方性のネマティ
ック液晶の液晶分子Mは図のように配向膜付近で処理方向F,Rに
僅かに傾いた液晶配列部分と液晶層中央部の垂直方向配列部分の組
み合わせになる。」(段落【0026】),「(実施例1)図4(
a)に示すような構造からなる上基板11として非画素部全域にク
ロムからなるブラックマトリクスを形成し,各画素に屈曲ストライ
プパターンの非導電体部13bと導電体部13aからなるITOの
共通電極13を形成したガラス基板を用い,下基板12として,導
電体部14aと非導電体部14bを屈曲ストライプパターンとし
た,・・・画素電極14を有するガラス基板を用いた。」(段落【
0039】),「・・・上下基板を対向させた状態で,上電極の導
電体部13aと下電極の非導電体部14bが対面し,下電極の導電
体部14aと上電極の非導電体部13bが対面する。・・・」(段
落【0041】)との記載があり,また,図4には,1画素内で上
下基板に複数のストライプ状に形成された電極を備えた液晶表示装
置が図示されている。
上記各記載及び図4(別紙図面(乙16)参照)によれば,乙1
6には,「第1の基板と第2の基板との間に誘電率異方性が負の液
晶を挟持し,電圧を印加しない時には前記液晶が前記第1及び第2
の基板に垂直な方向に配向する液晶表示装置」(構成要件A,H)
の記載があり,同液晶表示装置の上下基板に形成された「屈曲スト
ライプパターン」は,液晶に電圧を印加した時に液晶が配向する方
向を規制する「ドメイン規制手段」(構成要件B,C)に当たり,
仮に上基板側の「屈曲ストライプパターン」(図4(b))を「第
1のドメイン規制手段」,下基板側の「屈曲ストライプパター
ン」(図4(c))を「第2のドメイン規制手段」とすると,「第
1のドメイン規制手段」は「第1の方向に延びる直線状成分と前記
第1の方向と異なる第2の方向に延びる直線状成分とを有し」(構
成要件D),「第2のドメイン規制手段」は「前記第1の方向に延
びる直線状成分と前記第2の方向に延びる直線状成分とを有し」(
構成要件E)ており,これらの「屈曲ストライプパターン」を上下
基板に垂直な方向から見た時には,「前記第1のドメイン規制手段
の直線状成分と前記第2のドメイン規制手段の直線状成分とが,互
いに平行かつ交互に配置されて」(構成要件F)いることが開示さ
れている。
b(a)乙17(特開平7−234414号公報)には,「本発明に
係わる液晶組成物および液晶分子配列としては,液晶組成物は正
または負の誘電率異方性を有する液晶からなり,電界を印加した
際に取り得る2方向以上のチルト方向は,正の誘電率異方性を有
する液晶の場合チルトアップ方向であり,負の誘電率異方性を有
する液晶の場合チルトダウン方向であり,・・・」(段落【00
15】),「本発明のLCDの一画素における分子配列構造の一
例を図1(b)に示す。この図1(b)に示す分子配列構造は,
スプレイ配列およびそれに捩じれを加えた分子配列であり,なお
かつ上下基板表面における液晶分子プレチルト角が上下でほぼ等
しいことを特徴としている。また電圧を印加した場合の分子配列
構造を示している。すなわち,上,下基板11,12にそれぞれ
画素単位で複数のストライプを形成する電極13,14を配置
し,各電極の導電部13a,14aと非導電部13b,14bを
等間隔とし,1/2ピッチずらして対向させる。上,下配向膜15,
16の配向方向を同じ方向とし,液晶層20の液晶分子Mをスプ
レイ配列としている。」(段落【0021】),「また,本発明
のLCDを捩じれ角0°で作成し,直交した2枚の偏光板間に各
ラビング方向(セル平面で考えて上下基板で同一方向である)と
一方の偏光板の吸収軸が平行となるように組み合わせると,散乱
光源を用いた場合でも透過型のディスプレイとなり得る。この場
合,複屈折効果を利用した光学モードとなり,前述した透過率は
低下するが,光透過状態を液晶層の光散乱状態によって実現する
ため視角依存性が少ないといった効果を得る。特に,階調表示を
した際に表示が反転するような現象が生じないため,直視型のデ
ィスプレイとして,従来のTN−LCD等より優れた表示特性を
得ることができる。」(段落【0051】),「・・・電圧無印
加状態(図33(a))では,液晶分子は一様に配列(垂直配
向)している。これに対して電圧印加状態(図33(b))で
は,ITOが上下基板で対向しているところではラビング方位に
チルトダウンし,逆にTFT基板のITOがない領域では斜め電
界が電極ストライプ方向と直交した方向に発生するため,その方
向にチルトダウンする。」(段落【0106】)との記載があ
り,また,図24,28には,乙16の図4と同様の図が示され
ており,図33には,実施例15のLCDの電圧無印加時及び電
圧印加時の平面的にみた液晶分子配列が図示されている。
したがって,乙17には,乙16と同様の開示がある。
(b)また,乙17には,「・・・本発明のLCDは,各画素にお
いて,実効的に一様な分子配列とすることにより光透過状態を実
現し,また2種以上の電界方向をもって,屈折レンズ効果や回折
格子効果を得ることにより光散乱状態を実現する。ここで,屈折
レンズ効果とは,液晶層厚方向に液晶分子が連続的に傾きを変え
液晶層の屈折率が連続的に変化することにより入射した光を屈折
させる効果をいう。また,回折格子効果とは,液晶分子の異常光
屈折率neと常光屈折率noとが液晶平面において規則的に交互
に出現することにより液晶層に回折格子が形成され,その結果平
行光が散乱する効果をいう。このような屈折レンズ効果や回折格
子効果による光散乱は,2種以上の電界方向の境界部にウォー
ル(壁)状の分子配列を形成することにより得られる。」(段落
【0020】),「・・・液晶組成物として負の誘電率異方性を
もつネマティック液晶組成物を用い,液晶分子配列を上下基板に
おけるプレチルト角が90°である完全な垂直配列としても同様
の効果を得ることができる。・・・」(段落【0022】),「
・・・回折格子の光散乱効果は,GALE,M.etal.:1979,J.appl.Ph
otogr.Engng,4,41によると次式で示される。T=cos2(π
△nd/λ)ここで,Tは散乱される光の強度(入射光に対す
る強度)であり,λは入射光波長である。この式から回折格子の
光散乱効果は△ndに依存する。・・・このように,本実施例は
他の実施例と同様に液晶分子配列が形成する屈折レンズ効果(前
述したウォール配列:液晶層厚方向に液晶分子が連続的に傾きを
変え屈折率が連続的に変化することにより入射した光を屈折させ
る効果)に加え,明確に回折格子効果が得られる構造としてい
る。」(段落【0103】),「・・・図示するように本実施例
のLCDは実施例14に示したLCD同様,電圧を印加した状態
において電極ストライプ方向,およびその直交方向偏光成分に対
する屈折率が液晶分子の異常光屈折率neと常光屈折率n0が電
極ストライプ方向の直交方向に規則的に交互に配列し,その結
果,液晶層に回折格子が形成され,平行光を散乱させることがで
きる。」(段落【0106】),「このように本発明のLCDは
電圧を印加した状態において電極ストライプ方向およびその直交
方向の偏光成分に対する屈折率が液晶分子の異常光屈折率neと
常光屈折率n0が一定方向(一方向以上)に規則的に交互に配列
するようにすれば,液晶層には回折格子が形成され,平行光を散
乱させる効果を得ることができる。この効果を直交した2方向の
偏光成分に対して得るようにすれば,非偏光の光を散乱させるこ
とができ高いコントラスト特性が得られるようになる。こうした
構成を実現させるには液晶分子のチルト方向(チルト方向および
チルトダウン方向)の自由度が無限大である初期垂直配向に誘電
率異方性が負の液晶組成物を用いると容易に実現できる。」(段
落【0107】)との記載がある。
上記各記載等によれば,乙17の散乱方式の液晶表示装置は,
ドメイン境界部で生じる屈折効果のみを利用したものではなく,
光散乱効果(回折格子効果)は液晶による複屈折によって得られ
るものにほかならないのであって,VA方式のものと同様にドメ
イン内の液晶による複屈折に起因する光散乱効果をも利用した液
晶表示装置である。
加えて,乙17の段落【0107】の記載は,高いコントラス
ト特性を得るためには,誘電率異方性が負の液晶組成物を用い,
かつ,「異常光屈折率領域(ne領域)」と「常光屈折率領域(
no領域)」を直交した2方向の偏光成分に沿うように交互に配
置させることが好ましいことを教示するものである。そして,こ
のような配置は,互いに直交するストライプ状の電極(第1の方
向と略90°異なる第2の方向に延びる直線状成分を有する電
極)を用いることにより必然的に得られることは当業者にとって
自明である。
すなわち,乙17には,液晶組成物として誘電率異方性が負の
ものを用いることとし,かつ,第1の方向と略90°異なる第2
の方向に延びる直線状成分を有する電極を用いることにより「異
常光屈折率領域(ne領域)」と「常光屈折率領域(no領
域)」を直交した2方向の偏光成分に沿うように交互に配置させ
ることで,高いコントラスト特性の液晶表示装置が得られること
が教示されている。
c乙27(特開平8−313923号公報)には,「【請求項1】
互いに対向する2枚の基板と,これら基板面上に形成された縦方向
配線および横方向配線により規定される複数の画素の各々に対応し
て形成された複数の素電極を有し各素電極の主面が前記2枚の基板
面と略直交し,かつ隣り合う素電極の主面が互いに対極をなす櫛型
壁電極と,前記2枚の基板間に設けられた櫛型壁電極の間隙に充填
された液晶とを具備したことを特徴とする液晶表示素子。」,「・
・・例えば,液晶として負の誘電異方性を示すn型液晶を用い,・
・・」(段落【0016】),「・・・視野角を拡大するために,
1画素内を複数のドメインに分割し,それぞれのドメインで櫛型壁
電極を構成する素電極が異なる方向へ延びるようにしてもよい。・
・・」(段落【0040】),「・・・各々の画素内には,主面が
2枚の基板面と直交し,かつ隣接する主面が互いに対極をなすよう
に,それぞれ複数の素電極11および素電極12が交互に配置さ
れ,かつこれらが1つおきに接続部で結合されて櫛型をなす櫛型壁
電極10が設けられる。・・・」(段落【0042】),「図15
に示すように,視野角を拡大するために,1画素内を例えば4つの
ドメインに分割し,それぞれのドメインで櫛型壁電極10を構成す
る素電極11,12が異なる方向へ延びるようにしてもよい。」(
段落【0050】)との記載がある。
上記各記載と図9,15(別紙図面(乙27)参照)によれば,
乙27の液晶表示装置は,「負の誘電異方性を示すn型液晶」が互
いに対向する2枚の基板間に挟持された液晶表示装置であって,同
液晶表示装置の「素電極11および素電極12」はいずれも「第1
の方向に延びる直線状成分と第1の方向と略90°異なる第2の方
向に延びる直線状成分を有する」ドメイン規制手段を備えているか
ら,乙27には,互いに対向する2枚の基板間に誘電異方性が負の
液晶を挟持し,第1の方向に延びる直線状成分と第1の方向と略9
0°異なる第2の方向に延びる直線状成分を有する第1および第2
のドメイン規制手段を有する液晶表示装置が開示されている。
dそして,VA方式の液晶表示装置の構成及び他方式の液晶表示装
置の動作原理との相違を技術常識として備え,VA方式の液晶表示
装置における「マルチドメイン化」の必要性もまた技術常識として
備える当業者が,乙16及び乙17に開示された屈曲ストライプパ
ターン(すなわち,「第1の方向に延びる直線状成分と,第1の方
向と略90°異なる第2の方向に延びる直線状成分とを有し,これ
らのドメイン規制手段の直線状成分が,互いに平行かつ交互に配置
されている」態様の「ドメイン規制手段」)を,VA方式の液晶表
示装置のマルチドメイン化の手段として適用してみる程度のこと
は,特段の創作力を要することなく想到する程度のものでしかな
く,また,乙27には,互いに対向する2枚の基板間に誘電異方性
が負の液晶を挟持し,第1の方向に延びる直線状成分と第1の方向
と略90°異なる第2の方向に延びる直線状成分を有する第1およ
び第2のドメイン規制手段を有する液晶表示装置が開示されている
ことに照らすならば,本件発明2,乙16,17,27に記載され
た発明に基づいて当業者が容易に想到することができたものであ
る。
ウ無効理由3(進歩性の欠如②)
(ア)本件発明2は,以下のとおり,本件出願2の優先権主張日前に頒
布された刊行物である乙9(特開平6−43461号公報)又は乙1
5(特開平7−311383号公報)に記載された発明と,乙12(
特開平6−301036号公報),乙16(特開平8−29812号
公報),乙17(特開平7−234414号公報)又は乙18(特開
平7−43968号公報)に記載された発明に基づいて当業者が容易
に想到することができたものであるから,本件特許2には,特許法2
9条2項に違反する無効理由(同法123条1項2号)がある。
(イ)a乙9には,「第1の基板と第2の基板との間に誘電率異方性が
負の液晶を挟持し,電圧を印加しない時には前記液晶が前記第1及
び第2の基板に垂直な方向に配向する液晶表示装置」(本件発明2
の構成要件A)と,「前記第1の基板に設けられ,前記液晶に電圧
を印加した時に前記液晶が配向する方向を規制する,第1のドメイ
ン規制手段と,」(構成要件B)と,「前記第2の基板に設けら
れ,前記液晶に電圧を印加した時に前記液晶が配向する方向を規制
する,第2のドメイン規制手段とを備え,」(構成要件C),「前
記第1のドメイン規制手段は,第1の方向に延びる直線状成分と前
記第1の方向と略90°異なる第2の方向に延びる直線状成分とを
有し,」(構成要件D),「前記第1及び第2のドメイン規制手段
により,前記液晶の配向方向が略90°異なる4種類のドメインが
形成されることを特徴とする」(構成要件G)「液晶表示装置」(
構成要件H)が開示されている(段落【0005】,【0007
】,【0010】,【0011】,【0018】,【0020】,
【0029】,【0030】,【0032】,図1,5ないし7
等)。
そうすると,本件発明1と乙9に記載された上記液晶表示装置の
発明(以下「乙9記載発明②」という。)とを対比すると,本件発
明2では,「第2のドメイン規制手段」が「前記第1の方向に延び
る直線状成分と前記第2の方向に延びる直線状成分とを有」し(構
成要件E),かつ,「前記第1及び第2の基板に垂直な方向から見
た時に,前記第1のドメイン規制手段の直線状成分と前記第2のド
メイン規制手段の直線状成分とが,互いに平行かつ交互に配置さ
れ」る(構成要件F)のに対し,乙9記載発明②では,上記の態様
の明示がない点でのみ相違する。
b乙15(特開平7−311383号公報)には,「この構造のセ
ルを駆動すると,液晶ダイレクター(121)は,下側電極(10
1)の周縁部で配向制御傾斜部(103)に従って,左右両側の領
域で互いに反対側へ傾けられる。また,上側電極(111)の中央
部でも配向制御傾斜部(113L,113R)によってそれぞれ反
対側へ傾けられる。即ち,液晶の連続体性のために,図11の左側
のゾーンでは,液晶層(120)を挟んだ上下の配向制御傾斜部(
113L,103)の作用により,液晶ダイレクター(121)は
全て右側へ傾けられるとともに,右側のゾーンでは配向制御傾斜
部(113R,103)の作用により,液晶ダイレクター(12
1)は全て左側へ傾けられる。このように配向制御傾斜部(10
3,113L,113R)を配置することにより,表示画素が配向
ベクトルの異なる複数のゾーンに分割されるとともに,それぞれの
ゾーンで均一な配向状態となる。」(段落【0036】),「図1
2は表示画素部の平面図であり,上下両電極(101,111)の
対向部分を上から見た構造を示している。表示画素の周縁を囲って
下側の配向制御傾斜部(103)の帯状領域があり,内部には表示
画素の対角線に沿って上側に形成された配向制御傾斜部(113
L,113R,113U,113D)のX字型の領域がある。太矢
印は中間調での配向ベクトルの平面射影であり,液晶ダイレクーは
全階調について平均的にこの状態にあると見なされる。尚,矢印方
向は,液晶ダイレクターが,その上側を傾ける方向を表している。
図から明らかな如く,配向制御傾斜部(113L,113R,11
3U,113D)により上下左右に分割された4つのゾーン(U,
D,L,R)では,配向ベクトルはそれぞれの4つの方向へ向けら
れる。即ち,液晶ダイレクターは同じ初期垂直配向状態から,上下
左右のゾーン(U,D,L,R)で,4つのそれぞれの方向へ傾け
られる。尚,上で図11を用いて説明した作用は,図12において
L−R領域の断面に関するものであったが,U−D領域の断面につ
いても全く同じ作用があることは言うまでもない。」(段落【00
37】との記載がある。
上記各記載と図11,12(別紙図面(乙15)参照)によれ
ば,乙15には,2枚の透明な基板(100,110)との間には
負の誘電率異方性を有したネマチック液晶層(120)が挟持され
ており,電圧を印加しない状態での液晶ダイレクター(121)の
初期配向は接触表面に対して垂直方向に制御される垂直配向型の液
晶セルであって(本件発明2の構成要件A),上側基板と下側基板
のそれぞれに,液晶に電圧を印加した時に液晶が配向する方向を規
制する「ドメイン規制手段」が設けられており(構成要件B,
C),上側電極(上側基板)に設けられた配向制御傾斜部(第1の
ドメイン規制手段)は,図12に図示されているように,「第1の
方向に延びる直線状成分と前記第1の方向と略90°異なる第2の
方向に延びる直線状成分とを有し」(構成要件D),上側基板と下
側基板のそれぞれに設けられた配向制御傾斜部(第1および第2の
ドメイン規制手段)によって「前記液晶の配向方向が略90°異な
る4種類のドメインが形成される」(構成要件G)構成を備える液
晶表示装置(構成要件H)が開示されている。
そうすると,本件発明2と乙15に記載された上記液晶表示装置
の発明(以下「乙15記載発明」という。)とを対比すると,本件
発明2では,「第2のドメイン規制手段」が「前記第1の方向に延
びる直線状成分と前記第2の方向に延びる直線状成分とを有」し(
構成要件E),かつ,「前記第1及び第2の基板に垂直な方向から
見た時に,前記第1のドメイン規制手段の直線状成分と前記第2の
ドメイン規制手段の直線状成分とが,互いに平行かつ交互に配置さ
れ」る(構成要件F)のに対し,乙15記載発明では,上記の態様
の明示がない点でのみ相違する。
c(a)乙12(特開平6−301036号公報)の図8には,「開
口部(46A)がX字状に設けられている」液晶表示装置を動作
させた際に「垂直配向された液晶分子(24A)」の配向方向が
略90°異なる4種類のドメイン(構成要件G)が図示されてい
る。
(b)乙16(特開平8−29812号公報)には,前記イ(イ)a
のとおり,「第1の基板と第2の基板との間に誘電率異方性が負
の液晶を挟持し,電圧を印加しない時には前記液晶が前記第1及
び第2の基板に垂直な方向に配向する液晶表示装置」(本件発明
2の構成要件A,H)の上下基板に形成された「屈曲ストライプ
パターン」は,液晶に電圧を印加した時に液晶が配向する方向を
規制する「ドメイン規制手段」(構成要件B,C)に当たり,仮
に上基板側の「屈曲ストライプパターン」(図4(b))を「第
1のドメイン規制手段」,下基板側の「屈曲ストライプパター
ン」(図4(c))を「第2のドメイン規制手段」とすると,「
第1のドメイン規制手段」(上基板側の「屈曲ストライプパター
ン」(図4(b)))は「第1の方向に延びる直線状成分と前記
第1の方向と異なる第2の方向に延びる直線状成分とを有し」(
構成要件D),「第2のドメイン規制手段」(下基板側の「屈曲
ストライプパターン」(図4(c)))は「前記第1の方向に延
びる直線状成分と前記第2の方向に延びる直線状成分とを有
し」(構成要件E)ており,これらの「屈曲ストライプパター
ン」を上下基板に垂直な方向から見た時には,「前記第1のドメ
イン規制手段の直線状成分と前記第2のドメイン規制手段の直線
状成分とが,互いに平行かつ交互に配置されて」(構成要件F)
いることが開示されている。
(c)また,乙17(特開平7−234414号公報)には,前記
イ(イ)b(a)のとおり,乙16と同様の開示がある。
(d)乙18(特開平7−43698号公報)には,「なお,本実
施例は線状絶縁膜として波線状のものを形成したが,三角波状や
他の曲がった形状の線状絶縁膜などに形成したりしてもよ
い。」(段落【0038】),「図7は,本実施例にかかる液晶
表示装置を示す断面図である。この液晶表示装置は,アクティブ
マトリクス基板31に線状絶縁膜31dが形成され,対向基板3
2に線状絶縁膜32dが形成されており,線状絶縁膜31dと3
2dとが線状絶縁膜の幅方向にずれている。・・・」(段落【0
054】),「【発明の効果】・・・本発明によれば,1つの画
素に対応する部分において,電極上に,線状の絶縁膜,又は材質
の異ならせた絶縁膜,又は厚みを異ならせた絶縁膜が形成されて
いるので,電界強度が異なることにより配向状態が異なっている
部分を1つの画素において形成することができる。・・・」(段
落【0064】)との記載がある。
上記各記載と図3,7(別紙図面(乙18)参照)によれば,
乙18には,液晶タイプがTN型の液晶表示装置において,図7
のとおり,上下の基板(31,32)に「ドメイン規制手段」と
しての線状絶縁膜(31dと32d)が設けられているものが記
載されており,図7に図示された態様の上下の基板の「ドメイン
規制手段」を,図3に図示されているような「波線状」や「三角
波状」あるいは「他の曲がった形状」の「ドメイン規制手段」と
することもできる旨(段落【0038】)の示唆がある。
そして,図7に図示された「ドメイン規制手段」を「三角波状
の線状絶縁膜」とした場合には,乙16に開示されているのと同
様の「ドメイン規制手段」となるから,乙18は,本件発明2
の「第1のドメイン規制手段」及び「第2のドメイン規制手段」
を開示している。
d(a)乙9,12,15ないし18に開示された液晶表示装置
は,「ドメイン規制手段」を備えた液晶表示装置である点で技術
分野が共通することに照らすならば,乙9記載発明②又は乙15
記載発明において,乙12,乙16ないし18に基づいて,相違
点に係る本件発明2の構成要件E(「第2のドメイン規制手段」
が「前記第1の方向に延びる直線状成分と前記第2の方向に延び
る直線状成分とを有」する構成)及び構成要件F(「前記第1及
び第2の基板に垂直な方向から見た時に,前記第1のドメイン規
制手段の直線状成分と前記第2のドメイン規制手段の直線状成分
とが,互いに平行かつ交互に配置され」る構成)を採用すること
は,当業者であれば,容易に想到することができたものである。
(b)これに対し原告は,TN方式の液晶表示装置であれば,その
全てにおいて,ラビングによる配向処理が行われており,これに
より電圧印加時の液晶分子の配向が規制されていることを前提
に,TN方式では,電圧印加時に垂直配向していた液晶分子をど
の方向に倒すかを規制するドメイン規制手段を設ける必要はない
ので,TN方式に関する乙18の技術から本件発明の構成を想到
することはできない旨主張する。
しかし,TN方式を採用した全ての液晶表示装置において,ラ
ビングによる配向処理が行われているわけではないことは,原告
自らが出願したTN方式の液晶表示装置に関する乙28(特開平
7−168187号公報)の段落【0007】,【0010】,
【0041】,【0043】,【0049】,図7等)から明ら
かであり,また,視野角依存性の改善を実現するために,ラビン
グを行わないTN方式の液晶表示装置が広く知られていた事実は
原告自身が認めているところであり,原告の上記主張は失当であ
る。
(2)原告の反論
ア無効理由1(新規性の欠如)に対し
被告は,乙12の液晶表示装置(乙12記載発明)は,本件発明2と
同一であるから,本件特許2には特許法29条1項3号に違反する無効
理由がある旨主張する。しかし,被告の主張は,以下のとおり理由がな
い。
(ア)乙12の液晶表示装置は,図2に示すように(別紙図面(乙1
2)参照),2対向電極に開口部(26A)を設けることで,画素の
中心部に向かう放射状に液晶分子(24)を配向させるものである(
乙12の段落【0020】ないし【0022】)。このように乙12
では,開口部(26A)が,電圧印加時において画素中心部の液晶分
子を基板に垂直な方向に維持する機能を発揮させるものである。
しかし,図2を一見して明らかなように,図2に示す液晶表示装置
では,対向電極の開口部(26A)は,画素のほぼ中心の領域に設け
られており,いずれの方向にも延びていないから,「第1の方向に延
びる直線状成分」(本件発明2の構成要件D)及び「第1の方向に延
びる直線状成分と前記第1の方向と略90°異なる第2の方向に延び
る直線状成分も」(構成要件E)のいずれも有していない。また,被
告が主張するように開口部それ自体ではなく,開口部の端部(エッ
ジ)を「ドメイン規制手段」であると解釈すると,図3に示されるよ
うに,画素電極の左側の端部,開口部(26A)の左側の端部(エッ
ジ),開口部(26A)の右側の端部(エッジ),画素電極の右側の
端部と配置されることになって,「ドメイン規制手段の直線状成分
が,互いに平行かつ交互に配置されている」との構成(構成要件F)
を満たさなくなる。
そして,乙12の液晶表示装置では,画素の中心部に向かう放射状
に液晶分子(24)を配向させるのであり,「前記第1及び第2のド
メイン規制手段により,前記液晶の配向方向が略90°異なる4種類
のドメインが形成される」(構成要件G)ものではない。なお,図4
における4本の黒い線は,一対の基板の外側表面にクロスニコル配
置(偏光軸が互いに90°となる配置)された2枚の偏光板のいずれ
かの偏光軸の方向と,液晶分子の配向方向とが平行になることによっ
て,光の偏光状態が変化せずに,一対の偏光板によって遮光されるこ
とにより発生したものであり,偏光板の偏光軸と平行な方向に配向さ
れた液晶分子によって形成された,光が透過されない消光模様(暗
線)であり,各領域において液晶分子の配向方向が略90°異なるこ
とを意味するものではない。乙12における「液晶分子(24A)の
配向方向の境界線を示すディスクリネーションライン」(段落【00
23】)との記載は不適切である。
(イ)以上のとおり,乙12の液晶表示装置(乙12記載発明)は,本
件発明2の構成要件DないしGの構成を備えていないから,本件発明
2が乙12記載発明と同一であるとはいえない。
したがって,被告主張の無効理由1は,理由がない。
イ無効理由2(進歩性の欠如①)に対し
被告は,本件発明2は,乙16,17,27に記載された発明に基づ
いて当業者が容易に想到することができたから,本件特許2には,特許
法29条2項に違反する無効理由がある旨主張する。しかし,被告の主
張は,以下のとおり理由がない。
(ア)a乙16,17は,液晶を一定に配向させた状態の透過表示と液
晶の配向を乱した状態の散乱表示とを用いて表示を行う散乱方式の
液晶表示装置に関するものであり,本件発明2のような,液晶を垂
直配向させた状態の黒表示と液晶分子を特定の方向に配向させて複
屈折性を利用した白及び中間調表示を用いて表示を行うVA方式の
液晶表示装置とは動作の機構も表示の原理も全く異なるものであっ
て,乙16,17には,本件発明2の構成要件AないしGが一切開
示されていない。
b乙16の「屈曲ストライプパターン」は,本件発明2の「第1の
ドメイン規制手段」(構成要件B)又は「第2のドメイン規制手
段」(構成要件C)に当たらない。
乙16は,電圧無印加時には液晶分子を一様に配向させて光を透
過し,電圧印加時には分子配列の乱れを生じさせて光を散乱する方
式(散乱方式)の液晶表示装置であり,一画素内で多くの分子配列
の乱れが生じるようにして,電圧無印加時における光の散乱を強め
るために各画素の電極形状及び配置において屈曲ストライプパター
ンを採用している(段落【0020】ないし【0023】)。
これに対し,本件発明2では,第1のドメイン規制手段及び第2
のドメイン規制手段が,それぞれ,第1の方向に延びる直線状成分
と,第1の方向と略90°異なる第2の方向に延びる直線状成分と
を有し,これらのドメイン規制手段の直線状成分が,互いに平行か
つ交互に配置されているため,電圧印加時には,第1及び第2のド
メイン規制手段によって液晶の配向方向が略90°異なる4種類の
ドメインが形成される。つまり,乙16の屈曲ストライプパターン
は,分子配列の乱れを生じさせるためのものであるが,本件発明2
の第1及び第2のドメイン規制手段の形状及び配置は,規則的な配
向の4種類の液晶ドメインを形成するためのものであり,その機能
及び効果は正反対である。また,乙16の散乱方式の液晶表示装置
では,実施例において「電圧印加・・・では最小透過率0.2%と,
良好な散乱状態が得られた」(【0046】)との記載があるとお
り,電圧印加時において,ほとんど光が透過せず,光を透過するド
メインが実質的に形成されていない。
逆に,本件発明2のように,液晶分子の配向が整った領域(ドメ
イン)が形成されると,配向が揃っているため,光は散乱されずそ
の領域を透過してしまい,電圧印加時に光を散乱させて表示を行う
ことができなくなる。被告が主張するように,乙16において屈曲
ストライプパターンの屈曲角度を略90°に設定し,略90°異な
る4種類のドメインが形成されると,光は散乱されずその領域を透
過してしまうことになるから,当業者は,屈曲角度を略90°に設
定することは考えない。
c被告が主張する乙17の段落【0105】ないし【0107】に
記載された液晶表示装置の電極は,「屈曲ストライプパターン」を
有していない。すなわち,段落【0105】ないし【0107】
は,実施例15に関する記載であり,実施例15の電極パターン
は,実施例14と同様に(段落【0105】),図31(b)及び
図31(c)に示される上電極パターン及び下電極パターンを備え
ているはずであるが,これらの電極パターンは,そもそも,第1の
方向に延びる直線状成分と第1の方向と略90°異なる第2の方向
に延びる直線状成分を有していないし,互いに平行かつ交互にも配
置されていない。
また,被告は,乙17は,VA方式のものと同様にドメイン内の
液晶による複屈折に起因する光散乱効果も利用した液晶表示装置で
ある旨主張するが,VA方式の液晶表示装置は,光散乱効果を利用
した液晶表示装置などではなく,液晶層に入射した光は散乱されず
に液晶層を透過する必要があり,光を散乱させることは,VA方式
の表示動作を根本的に阻害するのであるから,上記主張は失当であ
る。
d乙27は,図1に示されるように,基板に平行な方向に強い電界
を形成するため,基板表面に直立させた壁状の素電極11,12を
交互に配置した櫛形壁電極10を備えた液晶表示装置を開示してい
るところ,開示された負の誘電率異方性を有する液晶を用いた液晶
表示装置は,電圧無印加時にはランダムに配向し,電圧印加時には
垂直に配列するものであり(段落【0016】),本件発明2の「
電圧を印加しない時には前記液晶が前記第1及び第2の基板に垂直
な方向に配向する液晶表示装置」(構成要件A)ではない。また,
乙27の液晶表示装置は,「電圧印加時には液晶分子は溝に沿って
電極に平行すなわち画面に垂直に配列する」(段落【0016】)
のであるから,液晶分子の配向は櫛型壁電極の溝によって規制され
るのであり,乙12は,VA方式の液晶表示装置に関する本件発明
2の「第1のドメイン規制手段」(構成要件B)及び「第2のドメ
イン規制手段」(構成要件C)を開示していない。また,乙27の
液晶表示装置では,電圧無印加時にはランダムに配向し,電圧印加
時には垂直に配列するため,図15の構成を採用しても,全ての液
晶分子は電圧印加時に基板に対して垂直に配向し,「マルチドメイ
ン化」を達成することはできない。
(イ)以上によれば,当業者といえども,乙16,17,27に記載さ
れた発明に基づいて本件発明1を容易に想到できたものではないか
ら,被告主張の無効理由2は理由がない。
ウ無効理由3(進歩性の欠如②)に対し
被告は,本件発明2は,乙9又は乙15に記載された発明と,乙1
2,16,17又は乙18に記載された発明に基づいて当業者が容易に
想到することができたから,本件特許2には,特許法29条2項に違反
する無効理由がある旨主張する。しかし,被告の主張は,以下のとおり
理由がない。
(ア)乙9,12,15には,「第1のドメイン規制手段及び第2のド
メイン規制手段が,それぞれ,第1の方向に延びる直線状成分と,第
1の方向と略90°異なる第2の方向に延びる直線状成分とを有し,
これらのドメイン規制手段の直線状成分が,互いに平行かつ交互に配
置される」(構成要件DないしF)という本件発明2の構成は開示さ
れておらず,また,乙9,12,15で形成されるドメインは,本件
発明2の「第1及び第2のドメイン規制手段によって形成される液晶
の配向方向が略90°異なる4種類のドメイン」(構成要件G)と相
違するものであるから,乙9,12,15には,本件発明2の構成要
件DないしGが開示されていない。
すなわち,乙9,12,15には,4つの辺を有する長方形又は正
方形の画素電極とX型のスリット又は突起が設けられた対向電極とを
有するVA方式の液晶表示装置が開示されているが,「第1のドメイ
ン規制手段及び第2のドメイン規制手段が,それぞれ,第1の方向に
延びる直線状成分と,第1の方向と略90°異なる第2の方向に延び
る直線状成分とを有し,これらのドメイン規制手段の直線状成分が,
互いに平行かつ交互に配置される」という構成(構成要件Dないし
F)を有するものではなく,また,対向電極に設けられたX型のスリ
ット又は突起のため,電圧印加時には,液晶分子がX型の中心(画素
の中心部)に向かって配向し,形成されるドメインは,「第1及び第
2のドメイン規制手段によって形成される液晶の配向方向が略90°
異なる4種類のドメイン」(構成要件G)とは異なるものである。な
お,乙9,12,15のように,液晶分子が中心に向かうように配向
すると,各ドメイン内で液晶の配向方向が平行にならないため,各ド
メイン内の位置によって透過光の偏光状態が変化し,光の利用効率が
低くなり,コントラストが低下する。
一方,本件発明2においては,構成要件DないしGの構成をすべて
備え,第1のドメイン規制手段及び第2のドメイン規制手段が,それ
ぞれ,第1の方向に延びる直線状成分と,第1の方向と略90°異な
る第2の方向に延びる直線状成分とを有し,第1又は第2の方向に延
びる直線状成分が,互いに平行かつ交互に配置されているため,略9
0°異なる4種類の液晶ドメインが,それぞれ広い範囲において配向
の規則性が高いドメインとなり,光の利用効率を高めることができ,
しかも,両側のドメイン規制手段のそれぞれから同じ配向となるよう
に液晶が倒れるので,液晶ドメインを短時間で形成でき,応答速度を
速くできるという効果を奏している。本件発明2の上記効果は,構成
要件DないしGが有機的に結合することによって得られるものであ
る。
(イ)前記イ(ア)のとおり,乙16,17には,本件発明2の構成要件
AないしGが一切開示されていない。
(ウ)a乙18は,TN方式の液晶表示装置に関するものであり,乙1
8には,VA方式の液晶表示装置である本件発明2の構成要件Aな
いしGが一切開示されていない。
TN方式は,ラビング処理を施した配向膜によって液晶分子の配
向方向が90°捩れた螺旋状に規制されており,基板面内における
液晶分子の配向方向はラビング処理によって固定され,電圧印加時
に,液晶分子を基板に垂直な方向に立ち上げて配向させるものであ
るから,VA方式のように,電圧印加時に,垂直配向していた液晶
分子をどの方向(基板に垂直な方向から見たときの配向方向)に倒
すのかを規制する「ドメイン規制手段」を設ける必要はない。
なお,被告は,TN方式を採用した全ての液晶表示装置におい
て,ラビングによる配向処理が行われているわけではないことは,
乙28から明らかである旨主張する。しかし,乙28の液晶表示装
置は,90°捩れ配向した液晶層を使用するものではなく,電圧を
引加することにより,周囲の液晶分子を垂直配向領域側から持ち上
がるように立ち上がらせるものであり(段落【0024】,【00
27】),ラビング処理により,90°捩れ配向した液晶層を構成
要素とする一般的なTN方式(段落【0005】,図13)の液晶
表示装置ではない。
b乙18の線状絶縁膜31d,32dは,電極上に配置され,液晶
に印加される電界強度を異ならせて,液晶分子が立ち上がる角度を
変化させるものであって,電圧印加時に,垂直配向していた液晶分
子をどの方向(基板に垂直な方向から見たときの配向方向)に倒す
のかを規制する手段ではないから,本件発明2の「第1のドメイン
規制手段」(構成要件B)又は「第2のドメイン規制手段」(構成
要件C)に当たらない。
また,乙18の線状絶縁膜31d,32dは,液晶分子が立ち上
がる角度を変化させるだけであり,配向方向を変化させるものでは
ないので,乙18には,電圧印加時において,基板に垂直な方向か
ら見たときの配向方向が略90°異なる複数のドメインに分割する
という技術的思想の記載も示唆もない。
(エ)以上のとおり,乙9,12,15ないし18のいずれにおいて
も,本件発明2の構成要件DないしGが有機的に結合することによっ
て得られる「第1のドメイン規制手段及び第2のドメイン規制手段
が,それぞれ,第1の方向に延びる直線状成分と,第1の方向と略9
0°異なる第2の方向に延びる直線状成分とを有し,これらのドメイ
ン規制手段の直線状成分が,互いに平行かつ交互に配置されているた
め,電圧印加時には,第1及び第2のドメイン規制手段によって液晶
の配向方向が略90°異なる4種類のドメインが形成される。」とい
う構成は開示されておらず,当業者といえども,乙9,12,15な
いし18に基づいて上記構成(構成要件DないしG)を容易に想到で
きるものではない。
したがって,本件発明2は,乙9又は乙15に記載された発明と,
乙12,16,17又は乙18に記載された発明に基づいて当業者が
容易に想到できたものではないから,被告主張の無効理由3は理由が
ない。
6争点6(本件特許権3に基づく権利行使の制限の有無)
(1)被告の主張
本件特許3には,以下のとおり無効理由があり,特許無効審判により無
効とされるべきものであるから,特許法104条の3第1項の規定によ
り,原告は,被告に対し,本件特許権3を行使することができない。
ア無効理由1(進歩性の欠如)
(ア)本件発明3−1,3−5は,以下のとおり,本件出願3の優先権
主張日前に頒布された刊行物である乙19(A.Takeda,S.Kataoka等作
成の「ASuper-High-Image-QualityMulti-DomainVerticalAlignmen
tLCDbyNewRubbing-LessTechnology」と題する論文。以下「タケ
ダ論文」という。),乙20(特開平10−39837号公報)及び
乙21(特開平8−123373号公報)に記載された発明に基づい
て当業者が容易に想到することができたものであるから,本件特許3
には,特許法29条2項に違反する無効理由(同法123条1項2
号)がある。
(イ)a乙19(タケダ論文)には,「電圧が印加される画素電極及び
対向電極との間に液晶が設けられ,該液晶の配向が,電圧無印加時
にはほぼ垂直に,所定の電圧を印加した時にはほぼ平行となり,前
記所定の電圧より小さい電圧を印加した時には斜めになり,更に,
前記所定の電圧より小さい電圧が印加された時に,各画素内におい
て,前記液晶の配向の斜めになる方向が各画素内において複数にな
るように規制するドメイン規制手段を備える液晶表示装置」(構成
要件A)が開示されている。
すなわち,乙19の図1(Figure.1)には,ADF(automaticdo
mainformation)配向技術のコンセプトが図示され,構造物(protr
usion)により形成されるスロープによって液晶(LCmolecule)が
擬似的に傾けられている様子が示されていること,図2(Figure.2)
には,上記ADF配向技術をMVA−LCD(Multi-DomainVertic
alAlignmentLCD)に適用した際の,電圧オフ(Off)と電圧オン(
On)の状態の液晶分子の傾斜の様子が図示されていること,図6に
は,4ドメインタイプのMVA−LCDとした場合のピクセル構造
における,各ドメイン間の液晶分子の傾き方向が概念的に図示さ
れ,A,B,C,及びDの4つのドメインが形成されるとされてい
ることからすれば,乙16には,構成要件Aを備えた,垂直配向方
式のラビングレス・マルチドメインLCD(液晶分子の配列する向
きを決めるための処理を従来のラビングなどで行わずに,基板に設
けた突起により自動的に行う方式のMVA型液晶ディスプレイ)が
開示されている。
b乙20(特開平10−39837号公報)には,「・・・図4(
b)波形1は,従来の駆動方法(目標階調値に対応した電圧を印加す
る方法)により,時刻t0から時刻t3までVaを印加した場合の液
晶の光学応答である。・・・図4(b)の波形3は,時刻t0から
時刻t3までVcを印加した場合の液晶の光学応答である。・・・
図4(b)の波形2は,時刻t0から時刻t1までVcを印加し時
刻t1から時刻t3までVaを印加した場合で,すなわち,図4(
a)のように電圧を印加した場合の液晶の光学応答である。従っ
て,図4(a)のような電圧を印加することにより,1フレーム以
内に液晶の応答が完了することができる。従って,階調変化の全パ
ターンに対応する印加電圧値cをあらかじめ求めることにより,ル
ックアップテーブルを作ることができる。」(段落【0018
】),「以下,液晶表示素子にPDLCを用いた液晶表示装置につ
いて,発明の実施形態を述べる。もちろん,TN(ツイストネマテ
ック)型などのような他の液晶にも,本発明は適用することができ
る。」(段落【0019】),「・・・図7(b)の波形1,2,
3は,図7(a)のt0からt1時間の印加電圧値を変化させたと
きの,PDLCの表示階調変化を示したものである。」(段落【0
020】),「波形1はVc=Vaの場合で,すなわち,従来の駆
動方法(目標階調値に対応した電圧を印加する方法)である。・・
・」(段落【0021】),「・・・(b)波形2はVc>Vbで
かつオーバシュートしない電圧を印加する方法(発明の構成は全く
異なるが,特開平7−20828号公報と同じような電圧印加方法)があ
る。・・・」(段落【0022】),「図7(b)波形3は,Vc
>Vbでかつ,階調dまでオーバーシュートさせるように電圧を印
加したときの場合である。・・・」(段落【0024】),「本発
明は,・・・その駆動方法を改善することができる」(段落【00
26】)との記載がある。
上記各記載と図4,7によれば,乙20には,「画素を第1の透
過率から該第1の透過率より大きい第2の透過率に変化させる場
合,前記画素電極に対して,前記第2の透過率に変化させる第1の
期間に前記第2の透過率に対応する第1の目標駆動電圧より大きい
電圧を印加し,前記第1の期間後の第2の期間に前記第1の目標電
圧を印加する駆動回路」(構成要件B)による駆動方法が開示され
ている。
c乙21(特開平8−123373号公報)には,「【問題を解決
するための手段】TN液晶は一般に実効値応答をするといわれ,従
来のアクティブマトリクス型液晶表示装置では,ある諧調を表示す
る場合に液晶表示装置に印加する電圧は時間的に一定であり,液晶
の応答を考慮するものではなかった。しかし,実際には液晶材料は
その諧調を示す電圧より高い電圧を瞬時印加することにより,時間
的にすばやく応答させることができることをわれわれは過去に見い
だしている。(特許願平4−239032)」(段落【0012
】),「具体的には図2に示すような,一定の電圧を印加した場合
の液晶材料の応答を,図3に示すようにいったん高電圧を印加し,
その後電圧を下げる方法を採用することにより,液晶材料の高速応
答を可能する。なお,図2及び図3において,(a)は印加電
圧,(b)は光学応答を示す。」(段落【0013】),「図2と
図3を比較すれば明らかなように,液晶に対して同じ電圧を単調に
印加するよりも,始めに高電圧を印加し,次に低い電圧を印加した
ほうが,高速応答を行わせるためにはより有効であることがわか
る。・・・」(段落【0014】)との記載がある。
上記各記載と図2,3によれば,乙21には,「画素を第1の透
過率から該第1の透過率より大きい第2の透過率に変化させる場
合,前記画素電極に対して,前記第2の透過率に変化させる第1の
期間に前記第2の透過率に対応する第1の目標駆動電圧より大きい
電圧を印加し,前記第1の期間後の第2の期間に前記第1の目標電
圧を印加する駆動回路」(構成要件B)による駆動方法が開示され
ている。
dそして,本件発明3が属する技術分野は,液晶表示装置の技術分
野であること,液晶の応答時間の短縮化が好ましいとの認識は,本
件出願3の優先権主張日当時,液晶表示装置の技術分野の当業者の
一般的な認識であり,TNモード液晶パネルにおいても,液晶の応
答時間の短縮化が技術的課題として認識されていたことに照らす
と,当業者であれば,乙19の液晶表示装置において,液晶材料の
高速応答を可能とするために,乙20,21記載の液晶駆動方法(
構成要件Bの構成)を適用して,本件発明3−1に容易に想到する
ことができたものである。
(ウ)前記(イ)と同様の理由により,当業者であれば,構成要件Dを備
えた,乙19の液晶表示装置の駆動方法として,乙20,21記載の
液晶駆動方法(構成要件Eの構成)を採用し,本件発明3−5に容易
に想到することができたものである。
イ無効理由2(特許法36条6項1号,2号違反)
(ア)本件特許3は,以下のとおり,本件発明3−1,3−5の特許請
求の範囲(請求項3,5)の記載は,本件特許3に係る願書に添付し
た明細書の発明の詳細な説明に記載した以外の態様を含むものであっ
て,「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載された発
明であること」(特許法36条6項1号)の要件(いわゆるサポート
要件)に適合せず,また,特許請求の範囲(請求項3,5)の記載が
不明確であって,「特許を受けようとする発明が明確であること」(
同項2号)の要件に適合しないから,本件特許3は,同項1号,2号
の要件を満たしていない特許出願に対してされた無効理由(同法12
3条1項4号)がある。
(イ)本件発明3−1,3−5の特許請求の範囲(請求項1,5)との
記載中には,「画素を第1の透過率から該第1の透過率より大きい第
2の透過率に変化させる場合,前記画素電極に対して,前記第2の透
過率に変化させる第1の期間に前記第2の透過率に対応する第1の目
標駆動電圧より大きい電圧を印加し,前記第1の期間後の第2の期間
に前記第1の目標電圧を印加することを特徴とする」(構成要件B又
はE)との部分がある。
本件特許3に係る願書に添付した明細書(以下,図面を含めて「本
件明細書3」という。)の発明の詳細な説明には,「以上,図4,図
5の結果から明らかになる通り,(1)ある画素の表示を黒表示から
低輝度中間調表示に切り替える場合は,第1のフレーム期間Tf1の
駆動電圧VP1を第2のフレーム期間Tf2以降の駆動電圧VP2の
例えば1.25倍とし,(2)黒表示から高輝度中間調表示に切り替
える場合は,駆動電圧VP1を駆動電圧VP2と同等にし,(3)黒
表示から白表示に切り替える場合は,駆動電圧VP1を駆動電圧VP
2の例えば1.25倍とすることが好ましい。従って,上記の(
1),(3)の場合は図3(3)の波形が好ましく,上記の(2)の
場合は図3(2)の波形が好ましい。なお,上記の1.25倍はあく
までも1例であり,要は上記(1)(3)の場合はVp1>Vp2に
することが必要である。」(段落【0054】)との記載があり,ま
た,本件発明3−1,3−5がその効果を奏するには,第1の透過率
から第2の透過率に変化させる際の電圧比Vp1/Vp2を第2の透
過率に応じて適正化することが必要であり,第2の透過率の値によっ
ては「Vp1>Vp2とはしないこと」が必要とされ,かかる第2の
透過率に応じた電圧比Vp1/Vp2の適正化によってはじめて,①
黒表示から低輝度中間調表示に切り替える場合の応答時間の短縮と,
②黒表示から中間調表示又は白表示に切り替える場合のオーバーシュ
ートの低減という本件発明の効果を奏することが可能となる旨(段落
【0008】∼【0013】)の記載がある。
一方で,本件発明3−1,3−5の特許請求の範囲(請求項1,
5)との記載中には,「画素を第1の透過率から該第1の透過率より
大きい第2の透過率に変化させる場合,前記画素電極に対して,前記
第2の透過率に変化させる第1の期間に前記第2の透過率に対応する
第1の目標駆動電圧より大きい電圧を印加し」との記載部分からは,
第2の透過率の値によらずVp1>Vp2となるように駆動電圧制御
がされることとなる。
そうすると,本件発明3−1,3−5の特許請求の範囲(請求項
1,5)の記載は,発明の詳細な説明に記載した以外の態様のものを
含むこととなるので,特許法36条6項1号に適合せず,また,いか
なる場合にVp1>Vp2と電圧制御をすれば本件発明3−1,3−
5の効果を奏することとなるのかが不明であって発明が不明確であ
り,同項2号に適合しない。
(2)原告の反論
ア無効理由1(進歩性の欠如)に対し
被告は,本件発明3−1,3−5は,乙19ないし21に記載された
発明に基づいて当業者が容易に想到することができたから,本件特許3
には,特許法29条2項に違反する無効理由がある旨主張する。しか
し,被告の主張は,以下のとおり理由がない。
(ア)乙19には,広視野角,高コントラスト比,高速応答性を有する
MVA方式の液晶表示装置が開示されているが,具体的な駆動方法に
ついては記載されていない。また,乙19には,本件発明3−1及び
3−5が解決しようとする,ドメイン規制手段を有するMVA方式の
液晶表示装置において特有の黒表示から低輝度中間調表示に切り替え
る場合の応答速度がTN方式よりも遅いという課題についての記載も
示唆もない。
(イ)乙20は,PDLC(高分子分散型液晶)方式の液晶表示装置及
びその駆動方法に関するものであるところ(段落【0015】),P
DLC方式の液晶表示装置は,散乱方式の液晶表示装置であり,電圧
を印加すると,画素領域の高分子中に分散された液晶ドロップレット
が同時に電界に応答し,一定の方向に配向することで光を透過する方
式のものであり,本件発明3−1,3−5のようなVA方式の液晶表
示装置とは,電圧印加時における液晶分子の動作が異なるものであ
る。
また,乙21は,TN方式の液晶表示装置及びその駆動方法に関
し,初めに高電圧を印加し,次に低い電圧を印加する駆動方法を開示
するものであるが,TN方式の液晶表示装置は,ラビング処理を施し
た配向膜によって液晶分子の配向方向が90°捩れた螺旋状に規制さ
れており,電圧を印加すると,画素領域内の液晶分子が電界に対し同
時に応答し,基板に対し垂直な方向に配向することで光を透過する方
式であり,VA方式の液晶表示装置とは,電圧印加時における液晶分
子の動作が異なるものである。
ところで,VA方式の液晶表示装置では,ドメイン規制手段によっ
て一部の液晶分子の配向方向が規制されているに過ぎず,電圧を印加
すると,ドメイン規制手段によって配向方向が規制された一部の液晶
分子がトリガとなり,その影響で画素領域内の他の液晶分子の配向方
向が順に規制されていくものであり,また,VA方式の液晶表示装置
は,液晶分子の複屈折性を利用するため,液晶分子の配向方向が偏光
板の偏光軸と特定の条件を満たす必要があり,単に液晶分子が垂直配
向から電圧に応じた傾きの配向となるだけでは所定の透過率の表示に
はならず,画素領域内の液晶分子の配向が基板面内において所定の方
向に規制されて初めて所定の透過率の表示となる。そして,当業者
は,通常,VA方式の液晶表示装置に対し,電圧印加時における液晶
分子の動作が異なる技術分野の液晶駆動方法を適用しないから,乙1
9に,乙20記載の散乱方式の液晶表示装置における液晶駆動方法や
乙21記載のTN方式の液晶表示装置における液晶駆動方法を適用し
ようとしない。
(ウ)以上によれば,当業者といえども,乙19ないし21に記載され
た発明に基づいて本件発明3−1,3−5を容易に想到できたもので
はないから,被告主張の無効理由1は理由がない。
イ無効理由2(特許法36条6項1号,2号違反)に対し
被告は,本件発明3−1,3−5の特許請求の範囲(請求項1,5)
の記載は,発明の詳細な説明に記載した以外の態様のものを含むことと
なるので特許法36条6項1号に適合せず,また,明確性を欠くので,
同項2号に適合しない旨主張する。しかし,被告の主張は,理由がな
い。
すなわち,本件明細書3の段落【0014】には,本件発明3−1の
構成が開示されており,また,段落【0015】には,「本発明によれ
ば,画素内の液晶を第1の透過率から第2の透過率に変化させる場合,
第1の期間に第1の目標駆動電圧より大きい電圧を印加し,その後の第
2の期間から第1の目標表示電圧を印加するので,微小領域の液晶の配
向方向が電圧を印加した状態で種々の方向を向くMVA型液晶パネル内
の液晶の配向方向を変更する時の応答時間を短縮することができる。従
って,視野角が広く且つ応答特性の良い液晶表示装置を提供することが
できる。」との記載がある。
したがって,被告の主張に係る「黒表示から低輝度中間調表示に切り
替える場合の応答時間の短縮」の効果を奏する本件発明3−1及び3−
5は,本件明細書3の発明の詳細な説明に記載されている。
したがって,本件明細書3は,特許法36条6項1号,2号に適合す
るから,被告主張の無効理由2は理由がない。
第4当裁判所の判断
本件の事案に鑑み,まず,原告の被告に対する本件特許権2に基づくイ号
液晶テレビ,ロ号液晶モニター及びハ号液晶モニターに関する差止請求につ
いて判断する。
1イ号液晶モジュールの本件発明2の構成要件充足性(争点1)について
(1)イ号液晶モジュールの構成
甲7(添付資料を含む。),10によれば,①イ号液晶モジュールのパ
ネル部分であるイ号液晶パネルは,観察面側に配置された対向基板とバッ
クライト側に配置されたTFT基板との間に,負の誘電率異方性を有する
液晶を狭持する構造を有し,対向基板の表面には,赤(R),緑(G),
青(B)のカラーフィルター,対向電極及び垂直配向膜が順に形成され,
TFT基板の表面には,絶縁膜,画素電極及び垂直配向膜が順に形成され
ていること,②対向電極は,対向基板にパターン加工されており,別紙図
面イ−1に示すような形状の対向電極のスリット(対向電極の切れ目)
が,連続して繰り返し規則的に配置されていること,③画素電極は,TF
T基板にパターン加工されており,別紙図面イ−2に示すような形状の画
素電極のスリット(画素電極の切れ目)が,連続して繰り返し規則的に配
置されていること,④対向基板とTFT基板を重畳させた状態とした場
合,対向電極のスリットと画素電極のスリットは,別紙図面イ−3に示す
ように,平行かつ交互の配置となること,⑤イ号液晶モジュールでは,S
−PVA(SuperPatterned-ITOVerticalAlignment)技術が採用されて
いることが認められる。
上記認定事実に加えて,甲7の添付資料2(原文52頁)には,「S−
PVA技術へ進化」の見出しの下に,「・・・S−PVAでは,1ピクセ
ルを二つのサブピクセルで構成する。最も単純なマルチドメイン構造の場
合は1ピクセルを2ドメインで構成するが,S−PVAでは8ドメインを
利用した(図2)。これにより,画像表示の視野角依存性の補正効果を向
上させている。」,「図3にS−PVA技術の基本動作原理を示す。ま
ず,画素を構成する赤(R),緑(G),青(B)の各ピクセルを二つに
分割し・・・RGBの各ピクセルは,AとBの二つのサブピクセルから成
る。サブピクセルAとBは異なった電圧が加えられるため,液晶分子の傾
斜角も異なる。AとBの二つのサブピクセルにより実効的に8ドメインの
VAセルが構成されることになる。」との記載があることを総合すると,
イ号液晶パネルでは,別紙図面イ−2に示すような形状の画素電極のスリ
ットで囲まれた部分(点線で囲まれた部分)が一つのピクセル(画素)を
構成し,このピクセルは,異なった電圧が加えられる二つのサブピクセル
から成ることが認められる。
(2)構成要件充足性
ア構成要件Aについて
前記(1)の認定事実によれば,イ号液晶パネルは,観察面側に配置さ
れた対向基板とバックライト側に配置されたTFT基板との間に,負の
誘電率異方性を有する液晶を狭持する構造を有し,対向基板の表面には
対向電極及び垂直配向膜が,TFT基板の表面には画素電極及び垂直配
向膜が形成されているのであるから,イ号液晶モジュールは,対向基
板(第1の基板)とTFT基板(第2の基板)との間に誘電率異方性が
負の液晶を挟持し,電圧を印加しない時には液晶が対向基板及びTFT
基板に垂直な方向に配向する液晶表示装置であることが認められ,本件
発明2の構成要件A,Hを充足する。
イ構成要件B,Cについて
原告は,イ号液晶モジュールの対向電極のスリット及び画素電極のス
リットは,いずれも,電圧を印加した時に液晶が配向する方向を規制す
るから,対向電極のスリットは「前記第1の基板に設けられ,前記液晶
に電圧を印加した時に前記液晶が配向する方向を規制する,第1のドメ
イン規制手段」(構成要件B)に,画素電極のスリットは「前記第2の
基板に設けられ,前記液晶に電圧を印加した時に前記液晶が配向する方
向を規制する,第2のドメイン規制手段」(構成要件C)に当たる旨主
張する。
これに対し被告は,「第1のドメイン規制手段」及び「第2のドメイ
ン規制手段」のいずれかは斜面を有する形態のものでなければならない
が,イ号液晶モジュールの対向電極のスリット及び画素電極のスリット
は,このような形態のものではないから「第1のドメイン規制手段」な
いし「第2のドメイン規制手段」に当たらず,また,「第1の基板」な
いし「第2の基板」に設けられたものではない旨主張して争っているの
で,以下において判断する。
(ア)本件発明2の特許請求の範囲(請求項1)の記載中には,「前記
第1の基板に設けられ,前記液晶に電圧を印加した時に前記液晶が配
向する方向を規制する,第1のドメイン規制手段」,「前記第2の基
板に設けられ,前記液晶に電圧を印加した時に前記液晶が配向する方
向を規制する,第2のドメイン規制手段」,「前記第1のドメイン規
制手段は,第1の方向に延びる直線状成分と前記第1の方向と略90
°異なる第2の方向に延びる直線状成分とを有し」,「前記第2のド
メイン規制手段は,前記第1の方向に延びる直線状成分と前記第2の
方向に延びる直線状成分とを有し」との記載はあるが,「第1のドメ
イン規制手段」及び「第2のドメイン規制手段」のいずれかが,斜面
を有する形態のものでなければならないことを規定する文言はない。
(イ)本件明細書2(甲4)には,次のような記載がある。
a特許請求の範囲として,「【請求項1】第1の基板と第2の基
板との間に誘電率異方性が負の液晶を挟持し,電圧を印加しない時
には前記液晶が前記第1及び第2の基板に垂直な方向に配向する液
晶表示装置であって,前記第1の基板に設けられ,前記液晶に電圧
を印加した時に前記液晶が配向する方向を規制する,第1のドメイ
ン規制手段と,前記第2の基板に設けられ,前記液晶に電圧を印加
した時に前記液晶が配向する方向を規制する,第2のドメイン規制
手段とを備え,前記第1のドメイン規制手段は,第1の方向に延び
る直線状成分と前記第1の方向と略90°異なる第2の方向に延び
る直線状成分とを有し,前記第2のドメイン規制手段は,前記第1
の方向に延びる直線状成分と前記第2の方向に延びる直線状成分と
を有し,前記第1及び第2の基板に垂直な方向から見た時に,前記
第1のドメイン規制手段の直線状成分と前記第2のドメイン規制手
段の直線状成分とが,互いに平行かつ交互に配置されており,前記
第1及び第2のドメイン規制手段により,前記液晶の配向方向が略
90°異なる4種類のドメインが形成されることを特徴とする液晶
表示装置。」,「【請求項8】前記第1及び第2のドメイン規制
手段は,電極に設けられたスリットである請求項1又は2に記載の
液晶表示装置。」
b「以上説明したように,TN方式の視角特性の問題を解決するも
のとして提案されているIPS方式は,視角特性以外の特性の点で
十分でないという問題があった。そこで,垂直配向膜を使用するV
A(Verticallyaligned)方式(VAモード液晶)が提案されてい
る。VA方式では,TN方式のような旋光モードではなく複屈折モ
ードとなる。・・・VA方式は,負の誘電率異方性を有するネガ型
液晶材料と垂直方向の配向膜を組み合わせた方式で,図7の(1)
に示すように,電圧無印加時には液晶分子は垂直方向に配向し,黒
表示になる。図7の(3)に示すように,所定の電圧を印加すると
液晶分子は水平方向に配向し,白表示になる。VA方式は,TN方
式に比べて表示のコントラストが高く,黒白レベル応答速度も速
い。・・・・」(段落【0010】),「しかし,VA方式で中間
調表示を行う場合には,表示状態の視角依存が生じるというTN方
式と同様の問題がある。VA方式で中間調を表示する場合には,白
表示の時より小さな電圧を印加するが,その場合図7の(2)に示
すように,液晶分子は斜めの方向に配向することになる。この場
合,図示のように,右下から左上に向かう光に対しては液晶分子は
平行に配向されることになる。従って,液晶はほとんど複屈折効果
を発揮しないため左側から見ると黒く見えることになる。これに対
して,左下から右上に向かう光に対しては液晶分子は垂直に配向さ
れるので,液晶は入射した光に対して大きな複屈折効果を発揮し,
白に近い表示になる。このように,表示状態の視角依存が生じると
いう問題があった。」(段落【0011】)
c「VA方式においても,液晶分子の配向方向を画素内で複数の異
なる方向に分割することにより,視角特性が改善されることが知ら
れている。特開平6−301036号公報は・・・液晶分子の配向
方向を2方向又は4方向に分割するVA方式の液晶表示装置を開示
している。しかし,特開平6−301036号公報に開示された液
晶表示装置では,応答速度が遅いという問題があり,特に電圧を印
加していない状態から印加する状態に変化する時の応答速度が遅い
ということが分かった。・・・また,特開平7−199193号公
報は,電極上に方向の異なる傾斜面を設けることにより液晶の配向
方向を画素内で複数の領域に分割するVA方式の液晶表示装置を開
示している。しかし,開示された構成では,傾斜面が画素全体に設
けられているため,電圧を印加しない時には配向面に接触する液晶
は全て傾斜面に沿って配向されるため,完全な黒表示を得ることが
できず,コントラストが低下するという問題が生じた。また,傾斜
面が画素全体に設けられているため,傾斜面が緩く,液晶の配向方
向を規定するには十分とはいえないことが分かった。傾斜面を急峻
にするには構造物を厚くする必要があるが,誘電体の構造物を厚く
すると装置の動作中に構造物に電荷が蓄積され,蓄積された電荷の
ために電極間に電圧を印加しても液晶分子の方向が変化しないとい
う,いわゆる焼き付きと言われる現象が生じることが分かっ
た。」(段落【0014】,【0015】),「このように,VA
方式の液晶表示装置においては,視角特性を改善するための画素内
での配向分割を実現する場合に,各種の問題があった。本発明の目
的は,VA方式の液晶表示装置における視角特性を改善することで
あり,コントラスト,動作速度などは従来と同様に良好なままで,
視角特性もIPS方式と同程度かそれ以上に良好なVA方式の液晶
表示装置を実現することを目的とする。」(段落【0016】)
d「図9は,本発明の原理を説明する図である。図9に示すよう
に,本発明によれば,従来の垂直配向膜を使用し,液晶材料として
ネガ型液晶を封入したVA方式において,電圧を印加した時に,液
晶が斜めに配向される配向方向が,1画素内において,複数の方向
になるように規制するドメイン規制手段を設ける。ドメイン規制手
段は2枚の基板の少なくとも一方に設ける。また,ドメイン規制手
段として機能するものとしては各種あるが,少なくとも1つのドメ
イン規制手段は,斜面を有するものである。・・・」(段落【00
17】)
e「液晶の配向が斜めになる方向はドメイン規制手段により決定さ
れる。図11は,ドメイン規制手段として突起を使用した場合の配
向方向を示す図である。図11の(1)は,2つの斜面を有する土
手であり,土手を境に180度異なる2つの方向に配向される。図
11の(2)は四角錐であり,四角錐の頂点を境に90°ずつ異な
る4つの方向に配向される。図11の(3)は半球であり,液晶の
配向は,基板に垂直な半球の軸を中心として,回転対称になる。図
11の(3)であれば,全視角に対して同じ表示状態になる。しか
し,ドメインの数及び向きは多ければ多いほどよいというものでは
ない。偏光板の偏光方向との関係で,斜めの液晶の配向が回転対称
になる場合には,光の利用効率が低いという問題が生じる。これ
は,液晶が放射状に無段階にドメインを形成した場合,偏光板の透
過軸及び吸収軸の方向の液晶はロスとなり軸に対して45°方向の
液晶がもっとも効率がよいためである。光の利用効率を高めるため
には,液晶の配向が斜めになる方向が,主として4つ以下の方向で
あり,4つの方向の場合には液晶表示装置の表示面への投影成分が
90°ずつ異なる方向になるようにすることが望ましい。」(段落
【0022】)
f「図12の(1)では,両側あるいは片側の基板のITO電極1
2,13にスリットを設ける。・・・電圧を印加しない状態では,
液晶分子は基板表面に対して垂直に配向するが,電圧を印加すると
電極スリット部(電極エッジ部)で基板表面に対して斜めの方向の
電界が発生する。この斜めの電界の影響で液晶分子の傾斜方向が決
定され,図示のように左右方向に液晶の配向方向が分割される。こ
の例では電極のエッジ部に生じる斜めの電界で液晶を左右方向に配
向するので,斜め電界方式と呼ぶこととする。・・・」(段落【0
024】)
g「図12の(2)では,両側の基板上に突起20を設ける。・・
・電圧を印加しない状態では液晶分子は基本的には基板表面に対し
て垂直に配向するが,突起の傾斜面上では若干の傾斜を持って配向
する。電圧を印加すると液晶分子はその傾斜方向に配向する。ま
た,突起に絶縁物を用いると電界が遮断され(斜め電界と方式に近
い状態:電極にスリットを設けたのと同じ),更に安定な配向分割
が得られる。この方式を両面突起方式と呼ぶこととする。」(段落
【0025】)
h「この場合,各突起又は窪み又はスリットを所定のサイクルで屈
曲した複数本の突起又は窪み又はスリットとすることにより,配向
分割をより安定的に行うことが可能である。また,両側の基板に突
起又は窪み又はスリットを配置する場合には,それらを半ピッチず
れて配置するようにする事が好ましい。」(段落【0028】)
i「図40は,電気的接続部分における液晶の配向分布を説明する
図であり,突起20Aとスリット21が平行に設けられている部分
では,上から見ると突起及びスリットの延びる方向に垂直な方向に
液晶が配向するが,・・・」(段落【0059】)
j「第6実施例のパネルは,第5実施例のパネルにおける突起20
Aとセル電極13のスリット21の形状を変更したものである。図
42は,第6実施例における突起20Aとセル電極13をパネルに
垂直な方向から見た時の基本的な形状を示す図である。図示のよう
に,突起20Aをジグザグに屈曲させており,それに応じてセル電
極13のスリット21もジグザグに屈曲させている。これにより,
図43に示すように規則的に4分割されたドメインが生成される。
・・・」(段落【0060】),「図47と図48は第6実施例に
おける視角特性を示す図である。このように,視角特性は非常に良
好であり,配向異常部もほとんど認められなかった。また,応答速
度はスイッチング速度τが17.7msで,超高速スイッチングが
可能である。」(段落【0064】)
(ウ)上記(イ)の各記載と図面(甲4)を総合すれば,本件明細書2に
は,①負の誘電率異方性を有するネガ型液晶材料を使用し,電圧無印
加時には液晶分子が垂直方向に配向し,電圧印加時には液晶分子が水
平方向に傾斜するVA方式の液晶表示装置においても,表示状態の視
角依存が生じるという問題があったが,電圧印加時の液晶分子の配向
方向(液晶分子の傾斜方向ないし液晶の配向が斜めになる方向)を1
画素内で複数の異なる方向に分割することにより,視角特性を改善す
ることができること,液晶の配向方向は,「ドメイン規制手段」によ
り生じる斜め電界(基板表面に対して斜めの方向の電界)の効果によ
り規制できること,液晶の配向方向は,偏光板の透過軸及び吸収軸の
方向に対して45°方向とすることが最も効率が良いこと(複屈折効
果が最大となること),光の利用効率を高めるためには,液晶の配向
方向が,主として4つ以下の方向であり,4つの方向の場合(4つの
ドメインを形成する場合)には,液晶表示装置の表示面への投影成分
が90°ずつ異なる方向になるようにすることが望ましいこと(4つ
の方向のそれぞれが偏光板の透過軸及び吸収軸の方向に対して45°
方向となるため)が開示され,②このように1画素内に液晶分子の配
向方向が異なる4つのドメインを形成し,液晶の配向方向が液晶表示
装置の表示面への投影成分が90°ずつ異なる方向になるようにする
ことを実現するための構成として,本件発明2は,「前記第1の基板
に設けられ,前記液晶に電圧を印加した時に前記液晶が配向する方向
を規制する,第1のドメイン規制手段」(構成要件B)と「前記第2
の基板に設けられ,前記液晶に電圧を印加した時に前記液晶が配向す
る方向を規制する,第2のドメイン規制手段」(構成要件C)を備
え,「前記第1のドメイン規制手段は,第1の方向に延びる直線状成
分と前記第1の方向と略90°異なる第2の方向に延びる直線状成
分」を,「前記第2のドメイン規制手段は,前記第1の方向に延びる
直線状成分と前記第2の方向に延びる直線状成分」を有し,前記第1
及び第2の基板に垂直な方向から見た時に,「前記第1のドメイン規
制手段の直線状成分と前記第2のドメイン規制手段の直線状成分と
が,互いに平行かつ交互に配置されており,前記第1及び第2のドメ
イン規制手段により,前記液晶の配向方向が略90°異なる4種類の
ドメインが形成される」構成(構成要件DないしG)を採用したこ
と,すなわち,第1のドメイン規制手段と第2のドメイン規制手段と
がジグザグに屈曲するように配置され,しかも,第1のドメイン規制
手段と第2のドメイン規制手段は,それぞれ第1の方向に延びる直線
状成分と前記第1の方向と略90°異なる第2の方向に延びる直線状
成分を有しているため,その屈曲部は略90°となること,電圧が印
加された時の斜め電界の効果により液晶の配向方向は,4方向で,そ
れぞれが偏光板の透過軸及び吸収軸の方向に対して45°方向となる
ことが開示されていることが認められる。
加えて,本件明細書2の段落【0028】(「この場合,各突起又
は窪み又はスリットを所定のサイクルで屈曲した複数本の突起又は窪
み又はスリットとすることにより,配向分割をより安定的に行うこと
が可能である。また,両側の基板に突起又は窪み又はスリットを配置
する場合には,それらを半ピッチずれて配置するようにする事が好ま
しい。」),段落【0059】(「図40は,電気的接続部分におけ
る液晶の配向分布を説明する図であり,突起20Aとスリット21が
平行に設けられている部分では,上から見ると突起及びスリットの延
びる方向に垂直な方向に液晶が配向するが,・・・」)の各記載(前
記(イ)h,i)と,図40(スリット接続部における配向分布の例を
示す図)には,2本の突起部分とその中間の1本のスリット部分に挟
まれた領域(間隙部分)の複数の液晶分子が,電圧をかけたときに,
いずれも突起及びスリットの延びる方向に垂直な方向に(液晶分子が
端部に向けて)配向することが図示されていることとを総合すれば,
本件明細書2に接した当業者であれば,本件発明2においては,第1
の基板に設けられた第1のドメイン規制手段と第2の基板に設けられ
た第2のドメイン規制手段は,それぞれ第1の方向に延びる直線状成
分と前記第1の方向と略90°異なる第2の方向に延びる直線状成分
を有し,第1のドメイン規制手段の直線状成分と第2のドメイン規制
手段の直線状成分とが互いに平行かつ交互に配置されているため(構
成要件DないしF),第1のドメイン規制手段により生じる斜め電界
の効果による液晶分子の傾斜方向(配向規制方向)と,当該第1のド
メイン規制手段と平行に配置された第2のドメイン規制手段により生
じる斜め電界の効果による液晶分子の傾斜方向(配向規制方向)とが
一致し,第1のドメイン規制手段と第2のドメイン規制手段によって
形成されたドメイン内の液晶分子が安定的に配向するという技術的意
義を読み取れることは自明であるものと認められる。
(エ)そして,①前記(ウ)のとおり,本件発明2における電圧印加時の
液晶の配向方向の規制は,「ドメイン規制手段」により生じる斜め電
界の効果によるものであること,②本件明細書2の段落【0024
】(前記(イ)f)及び図12の(1)(上側基板と下側基板の両基板
に電極に設けられたスリットが図示されもの)には,電圧印加時に「
電極スリット部(電極エッジ部)」に生じる斜め電界を利用して液晶
を配向させる原理が示されていること,③本件明細書2の段落【00
28】(前記(イ)h)には,「配向分割をより安定的に行うこと」を
可能とする構成として「突起又は窪み又はスリット」の3種類が開示
されておいること,④前記(ア)のとおり,本件発明の特許請求の範
囲(請求項1)の記載中に,「第1のドメイン規制手段」及び「第2
のドメイン規制手段」のいずれかが,斜面を有する形態のものでなけ
ればならないことを規定する文言はなく,また,請求項1を引用する
請求項8は,「前記第1及び第2のドメイン規制手段は,電極に設け
られたスリット」である液晶表示装置の発明であること(前記(イ)
a),以上の①ないし④によれば,電極のスリット部が本件発明2
の「ドメイン規制手段」に当たることは明らかであるから,イ号液晶
モジュールの対向基板にパターン加工されて形成された対向電極のス
リット及び同TFT基板にパターン加工されて形成された画素電極の
スリットは,斜面を有する形態かどうかを検討するまでもなく,原告
が主張するとおり,それぞれ「前記第1の基板に設けられ,前記液晶
に電圧を印加した時に前記液晶が配向する方向を規制する,第1のド
メイン規制手段」(構成要件B)及び「前記第2の基板に設けられ,
前記液晶に電圧を印加した時に前記液晶が配向する方向を規制する,
第2のドメイン規制手段」(構成要件C)に当たるものと認められ
る。
(オ)aこれに対し被告は,本件明細書2には,「ドメイン規制手段と
して機能するものとしては各種あるが,少なくとも1つのドメイン
規制手段は,斜面を有するものである。」(段落【0017
】),「(本発明を適用すればこれらの問題を解決し,)IPS型
LCDの視角特性を有すると共にTN型LCDを凌ぐ応答速度のL
CDが実現できる。しかも,それぞれの基板に突起又は窪みを設け
るだけで実現できるため,製造面でも容易に実現できる。」(段落
【0303】)との記載があるとおり,突起又は窪みによって形成
されたドメイン規制手段によって,初めて本件発明2の効果が得ら
れることを明らかにし,また,VA方式の液晶表示装置であっても
動作速度を従来と同様の良好さを確保するという本件発明2の目
的(段落【0016】)は,少なくとも1つのドメイン規制手段が
斜面を有する形態であることで,電圧印加時に同斜面近傍の液晶が
トリガとなって他の部分の液晶についても直ちに配向させることに
より実現されるのであり,単にスリットを設けただけでは,トリガ
を得ることができず,本件発明2の効果を奏することはできないか
ら,本件発明2における「第1のドメイン規制手段」及び「第2の
ドメイン規制手段」のいずれかは,斜面を有する形態のものでなけ
ればならない旨主張する。
しかし,本件明細書2の段落【0024】に,両側あるいは片側
の基板の電極にスリットを設けた場合,「電圧を印加すると電極ス
リット部(電極エッジ部)で基板表面に対して斜めの方向の電界が
発生」し,「この斜めの電界の影響で液晶分子の傾斜方向が決定さ
れ」,「電極のエッジ部に生じる斜めの電界で液晶を左右方向に配
向する」との記載(前記(イ)f)があるとおり,電極のスリット部
が斜め電界の効果を生じさせるドメイン規制手段であることは明ら
かであって,単にスリットを設けただけでは,本件発明2の効果を
奏することはできないとはいえないし,また,本件明細書2の段落
【0017】の「ドメイン規制手段として機能するものとしては各
種あるが,少なくとも1つのドメイン規制手段は,斜面を有するも
のである。・・・」との記載(前記(イ)d)は,実施例として示し
たものが斜面を有するものであることを指摘したにすぎず,電極の
スリット部が斜め電界の効果を生じさせるドメイン規制手段である
ことを否定するものではない。
したがって,被告の上記主張は,採用することができない。
b次に,被告は,イ号液晶モジュールのTFT基板及び対向基板に
は,絶縁膜ないしカラーフィルターがそれぞれ設けられているにす
ぎず,「第1のドメイン規制手段」ないし「第2のドメイン規制手
段」は設けられていないから,イ号液晶モジュールは,「前記第1
の基板に設けられ,前記液晶に電圧を印加した時に前記液晶が配向
する方向を規制する,第1のドメイン規制手段」(構成要件B)及
び「前記第2の基板に設けられ,前記液晶に電圧を印加した時に前
記液晶が配向する方向を規制する,第2のドメイン規制手段」(構
成要件C)の構成を有しない旨主張する。
しかし,①本件発明2の特許請求の範囲(請求項1)の記載に
は,「第1のドメイン規制手段」及び「第2のドメイン規制手段」
が基板に「直接」設けられたものに限定する文言はないこと,②前
記(1)のとおり,イ号液晶モジュールにおいては,対向基板の表面
に,赤(R),緑(G),青(B)のカラーフィルター,対向電極
及び垂直配向膜が順に形成され,TFT基板の表面に,絶縁膜,画
素電極及び垂直配向膜が順に形成されていることに照らすならば,
イ号液晶モジュールの対向電極のスリットは「前記第1の基板に設
けられ」た「第1のドメイン規制手段」(構成要件B)に,画素電
極のスリットは「前記第2の基板に設けられ」た「第2のドメイン
規制手段」(構成要件C)に当たるといえるから,被告の上記主張
は,採用することができない。
(カ)以上によれば,イ号液晶モジュールは,本件発明2の構成要件
B,Cを充足する。
ウ構成要件DないしGについて
(ア)前記(1)の認定事実によれば,①イ号液晶モジュールの対向電極
のスリット(第1のドメイン規制手段)は,別紙図面イ−1に示すよ
うに,a軸と平行な方向(第1の方向)に延びる直線状のa軸成分(
直線状成分)とa軸と略90°異なるb軸と平行な方向(第2の方
向)に延びる直線状のb軸成分(直線状成分)とを有していること(
構成要件D),②イ号液晶モジュールの画素電極のスリット(第2の
ドメイン規制手段)は,別紙図面イ−2に示すように,a軸と平行な
方向に延びる直線状のa軸成分(直線状成分)とb軸と平行な方向に
延びる直線状のb軸成分(直線状成分)とを有していること(構成要
件E),③イ号液晶モジュールは,別紙図面イ−3に示すように,対
向基板及びTFT基板に垂直な方向から見た時に,対向電極のスリッ
ト(第1のドメイン規制手段)のa軸成分及びb軸成分と画素電極の
スリット(第2のドメイン規制手段)のa軸成分及びb軸成分とが,
それぞれ互いに平行かつ交互に配置されていること(構成要件F),
④イ号液晶モジュールは,別紙図面イ−3に示すように,対向電極の
スリット(第1のドメイン規制手段)及び画素電極のスリット(第2
のドメイン規制手段)によって,液晶の配向方向が略90°異なる4
種類のドメイン(別紙図面イ−3記載の①ないし④の領域)が形成さ
れること(構成要件G)が認められる。
したがって,イ号液晶モジュールは,本件発明2の構成要件Dない
しGをいずれも充足する。
(イ)aこれに対し被告は,本件発明2は,画素内での配向分割を実現
し,視覚特性を改善することを目的とするものであるから(本件明
細書2の段落【0016】),本件発明2の構成要件の充足性を判
断するに当たっては,画素電極は,TFT基板側に形成され,同一
電圧が印加される1枚の電極としてとらえるべきであって,イ号液
晶モジュールの画素電極は,1画素(RGBの各画素)につきそれ
ぞれ異なる電圧が印加される2枚の画素電極により形成されている
のであるから,第1の画素電極のスリットの形状及び第2の画素電
極のスリットの形状を前提に,本件発明2の構成要件Eの充足の有
無を判断すべきであるところ,第1の画素電極及び第2の画素電極
は,直線状のa軸成分や直線状のb軸成分を有していないから,イ
号液晶モジュールは,構成要件Eを充足しない旨主張する。
しかし,被告の主張は,以下のとおり理由がない。
すなわち,前記イ(ウ)認定のとおり,本件発明2は,1画素内に
液晶分子の配向方向(傾斜方向)が略90°ずつ異なる4種類のド
メインを形成するための構成として,第1の基板に設けた第1のド
メイン規制手段と第2の基板に設けた第2のドメイン規制手段は,
それぞれ第1の方向に延びる直線状成分と前記第1の方向と略90
°異なる第2の方向に延びる直線状成分を有し,第1のドメイン規
制手段の直線状成分と第2のドメイン規制手段の直線状成分とを互
いに平行かつ交互に配置したものであるから,本件発明2における
ドメインは,1画素内において液晶分子の配向方向(傾斜方向)が
規制された領域を意味し,第1のドメイン規制手段及び第2のドメ
イン規制手段は,1画素内において,液晶分子の配向方向(傾斜方
向)が異なる4つの方向となるように規制するものであることを理
解できる。
しかるに,イ号液晶モジュールで採用されたS−PVA技術にお
いては,「画素を構成する赤(R),緑(G),青(B)の各ピク
セルは,AとBの二つのサブピクセルから成る。サブピクセルAと
Bは異なった電圧が加えられるため,液晶分子の傾斜角も異な
る。」こと(前記(1)),甲7の添付資料2の図5,6(原文55
頁)には,サブピクセルAとサブピクセルBとで,液晶の配向方向
は,z軸に対する傾斜角がθA,θBと異なるものの,x−y平面
内の角度は異ならない態様が示されていることに照らすならば,イ
号液晶モジュールにおいては,1画素(1ピクセル)は異なる電圧
が加えられる二つの「サブピクセル」で構成されているが,二つの
サブピクセル間では,電圧印加時における電圧の違いにより液晶分
子の傾斜角が異なるように規制されるものの,基板に垂直な方向か
ら見た液晶分子の配向方向(傾斜方向)が異なるように規制される
ものではないから,イ号液晶モジュールにおいては,第1のドメイ
ン規制手段及び第2のドメイン規制手段の形状及び配置は,1画
素(1ピクセル)を一つのまとまりとしてみるべきであって,これ
をサブピクセルごとに一つのまとまりとしてみることは,本件発明
2の技術思想に合致しないものであって,相当ではない。
したがって,イ号液晶モジュールの画素電極を,1画素内の第1
の画素電極のスリットの形状及び第2の画素電極のスリットの形状
を前提として,本件発明2の構成要件Eの充足性を否定する被告の
主張は,その前提において失当であり,採用することができない。
なお,被告は,イ号液晶モジュールの画素電極の欠損部(スリッ
ト)は,直線状のa軸成分と直線状のb軸成分を有していない旨主
張するが,別紙図面イ−2から明らかなとおり,被告の上記主張は
理由がない。
b被告は,イ号液晶モジュールは,「第1のドメイン規制手段」な
いし「第2のドメイン規制手段」を有するものではないから,「ド
メイン規制手段」によって形成される「ドメイン」がイ号液晶モジ
ュールに存在することもなく,本件発明2の構成要件Gを充足しな
い旨主張する。
しかし,前記イにおいて説示したとおり,イ号液晶モジュール
は,「第1のドメイン規制手段」及び「第2のドメイン規制手段」
を備えているから,被告の上記主張は,その前提を欠くものであっ
て,採用することができない。
(3)まとめ
以上によれば,イ号液晶モジュールは,構成要件AないしHをすべて充
足するから,本件発明2の技術的範囲に属するものと認められる。
2ロ号液晶モジュールの本件発明2の構成要件充足性(争点2)について
(1)ロ号液晶モジュールの構成
甲8(添付資料を含む。),10によれば,①ロ号液晶モジュールのパ
ネル部分であるロ号液晶パネルは,観察面側に配置された対向基板とバッ
クライト側に配置されたTFT基板との間に,負の誘電率異方性を有する
液晶を狭持する構造を有し,対向基板の表面には,赤(R),緑(G),
青(B)のカラーフィルター,対向電極及び垂直配向膜が順に形成され,
TFT基板の表面には,絶縁膜,画素電極及び垂直配向膜が順に形成され
ていること,②対向電極は,対向基板にパターン加工されており,別紙図
面ロ−1に示すような形状の対向電極のスリット(対向電極の切れ目)
が,連続して繰り返し規則的に配置されていること,③画素電極は,TF
T基板にパターン加工されており,別紙図面ロ−2に示すような形状の画
素電極のスリット(画素電極の切れ目)が,連続して繰り返し規則的に配
置されていること,④対向基板とTFT基板を重畳させた状態とした場
合,対向電極のスリットと画素電極のスリットは,別紙図面ロ−3に示す
ように,平行かつ交互の配置となることが認められる。
(2)構成要件充足性
ア構成要件Aについて
前記(1)の認定事実によれば,ロ号液晶パネルは,観察面側に配置さ
れた対向基板とバックライト側に配置されたTFT基板との間に,負の
誘電率異方性を有する液晶を狭持する構造を有し,対向基板の表面には
対向電極及び垂直配向膜が,TFT基板の表面には画素電極及び垂直配
向膜が形成されているのであるから,ロ号液晶モジュールは,対向基
板(第1の基板)とTFT基板(第2の基板)との間に誘電率異方性が
負の液晶を挟持し,電圧を印加しない時には液晶が対向基板及びTFT
基板に垂直な方向に配向する液晶表示装置であることが認められ,本件
発明2の構成要件A,Hを充足する。
イ構成要件B,Cについて
(ア)前記1(2)イ(エ)のとおり,電極のスリット部が本件発明2のド
メイン規制手段に当たることは明らかであるから,ロ号液晶モジュー
ルの対向基板にパターン加工されて形成された対向電極のスリット及
び同TFT基板にパターン加工されて形成された画素電極のスリット
は,斜面を有する形態かどうかを検討するまでもなく,それぞれ「前
記第1の基板に設けられ,前記液晶に電圧を印加した時に前記液晶が
配向する方向を規制する,第1のドメイン規制手段」(構成要件B)
及び「前記第2の基板に設けられ,前記液晶に電圧を印加した時に前
記液晶が配向する方向を規制する,第2のドメイン規制手段」(構成
要件C)に当たるものと認められる。
これに反する被告の主張は,前記1(2)イ(オ)において説示したの
と同様の理由により,いずれも採用することができない。
(イ)したがって,ロ号液晶モジュールは,本件発明2の構成要件B,
Cを充足する。
ウ構成要件DないしGについて
(ア)前記(1)の認定事実によれば,①ロ号液晶モジュールの対向電極
のスリット(第1のドメイン規制手段)は,別紙図面ロ−1に示すよ
うに,a軸と平行な方向(第1の方向)に延びる直線状のa軸成分(
直線状成分)とa軸と略90°異なるb軸と平行な方向(第2の方
向)に延びる直線状のb軸成分(直線状成分)とを有していること(
構成要件D),②ロ号液晶モジュールの画素電極のスリット(第2の
ドメイン規制手段)は,別紙図面ロ−2に示すように,a軸と平行な
方向に延びる直線状のa軸成分(直線状成分)とb軸と平行な方向に
延びる直線状のb軸成分(直線状成分)とを有していること(構成要
件E),③ロ号液晶モジュールは,別紙図面ロ−3に示すように,対
向基板及びTFT基板に垂直な方向から見た時に,対向電極のスリッ
ト(第1のドメイン規制手段)のa軸成分及びb軸成分と画素電極の
スリット(第2のドメイン規制手段)のa軸成分及びb軸成分とが,
それぞれ互いに平行かつ交互に配置されていること(構成要件F),
④ロ号液晶モジュールは,別紙図面ロ−3に示すように,対向電極の
スリット(第1のドメイン規制手段)及び画素電極のスリット(第2
のドメイン規制手段)によって,液晶の配向方向が略90°異なる4
種類のドメイン(別紙図面ロ−3記載の①ないし④の領域)が形成さ
れること(構成要件G)が認められる。
したがって,ロ号液晶モジュールは,本件発明2の構成要件Dない
しGをいずれも充足する。
(イ)被告は,ロ号液晶モジュールは,「第1のドメイン規制手段」な
いし「第2のドメイン規制手段」を有するものではないから,「ドメ
イン規制手段」によって形成される「ドメイン」がロ号液晶モジュー
ルには存在せず,構成要件Gを充足しない旨主張する。
しかし,前記イのとおり,ロ号液晶モジュールは,「第1のドメイ
ン規制手段」ないし「第2のドメイン規制手段」を備えているから,
被告の上記主張は,その前提を欠くものであって,採用することがで
きない。
(3)まとめ
以上によれば,ロ号液晶モジュールは,構成要件AないしHをすべて充
足するから,本件発明2の技術的範囲に属するものと認められる。
3ハ号液晶モジュールの本件発明2の構成要件充足性(争点3)について
(1)ハ号液晶モジュールの構成
甲9(添付資料を含む。),10によれば,①ハ号液晶モジュールのパ
ネル部分であるハ号液晶パネルは,観察面側に配置された対向基板とバッ
クライト側に配置されたTFT基板との間に,負の誘電率異方性を有する
液晶を狭持する構造を有し,対向基板の表面には,赤(R),緑(G),
青(B)のカラーフィルター,対向電極及び垂直配向膜が順に形成され,
TFT基板の表面には,絶縁膜,画素電極及び垂直配向膜が順に形成され
ていること,②対向電極は,対向基板にパターン加工されており,別紙図
面ハ−1に示すような形状の対向電極のスリット(対向電極の切れ目)
が,連続して繰り返し規則的に配置されていること,③画素電極は,TF
T基板にパターン加工されており,別紙図面ハ−2に示すような形状の画
素電極のスリット(画素電極の切れ目)が,連続して繰り返し規則的に配
置されていること,④対向基板とTFT基板を重畳させた状態とした場
合,対向電極のスリットと画素電極のスリットは,別紙図面ハ−3に示す
ように,平行かつ交互の配置となること,⑤ハ号液晶モジュールでは,S
−PVA技術が採用されていることが認められる。
また,上記認定事実と甲7の添付資料2(原文52頁)の記載(前記1
(1))を総合すると,ハ号液晶パネルでは,別紙図面ハ−2に示すような
形状の画素電極のスリットで囲まれた部分(点線で囲まれた部分)が一つ
のピクセル(画素)を構成し,このピクセルは,異なった電圧が加えられ
る二つのサブピクセルから成ることが認められる。
(2)構成要件充足性
ア構成要件Aについて
前記(1)の認定事実によれば,ハ号液晶パネルは,観察面側に配置さ
れた対向基板とバックライト側に配置されたTFT基板との間に,負の
誘電率異方性を有する液晶を狭持する構造を有し,対向基板の表面には
対向電極及び垂直配向膜が,TFT基板の表面には画素電極及び垂直配
向膜が形成されているのであるから,ハ号液晶モジュールは,対向基
板(第1の基板)とTFT基板(第2の基板)との間に誘電率異方性が
負の液晶を挟持し,電圧を印加しない時には液晶が対向基板及びTFT
基板に垂直な方向に配向する液晶表示装置であることが認められ,本件
発明2の構成要件A,Hを充足する。
イ構成要件B,Cについて
(ア)前記1(2)イ(エ)のとおり,電極のスリット部が本件発明2のド
メイン規制手段に当たることは明らかであるから,ハ号液晶モジュー
ルの対向基板にパターン加工されて形成された対向電極のスリット及
び同TFT基板にパターン加工されて形成された画素電極のスリット
は,斜面を有する形態かどうかを検討するまでもなく,それぞれ「前
記第1の基板に設けられ,前記液晶に電圧を印加した時に前記液晶が
配向する方向を規制する,第1のドメイン規制手段」(構成要件B)
及び「前記第2の基板に設けられ,前記液晶に電圧を印加した時に前
記液晶が配向する方向を規制する,第2のドメイン規制手段」(構成
要件C)に当たるものと認められる。
これに反する被告の主張は,前記1(2)イ(オ)において説示したの
と同様の理由により,いずれも採用することができない。
(イ)したがって,ハ号液晶モジュールは,本件発明2の構成要件B,
Cを充足する。
ウ構成要件DないしGについて
(ア)前記(1)の認定事実によれば,①ハ号液晶モジュールの対向電極
のスリット(第1のドメイン規制手段)は,別紙図面ハ−1に示すよ
うに,a軸と平行な方向(第1の方向)に延びる直線状のa軸成分(
直線状成分)とa軸と略90°異なるb軸と平行な方向(第2の方
向)に延びる直線状のb軸成分(直線状成分)とを有していること(
構成要件D),②ハ号液晶モジュールの画素電極のスリット(第2の
ドメイン規制手段)は,別紙図面ハ−2に示すように,a軸と平行な
方向に延びる直線状のa軸成分(直線状成分)とb軸と平行な方向に
延びる直線状のb軸成分(直線状成分)とを有していること(構成要
件E),③ハ号液晶モジュールは,別紙図面ハ−3に示すように,対
向基板及びTFT基板に垂直な方向から見た時に,対向電極のスリッ
ト(第1のドメイン規制手段)のa軸成分及びb軸成分と画素電極の
スリット(第2のドメイン規制手段)のa軸成分及びb軸成分とが,
それぞれ互いに平行かつ交互に配置されていること(構成要件F),
④ハ号液晶モジュールは,別紙図面ハ−3に示すように,対向電極の
スリット(第1のドメイン規制手段)及び画素電極のスリット(第2
のドメイン規制手段)によって,液晶の配向方向が略90°異なる4
種類のドメイン(別紙図面ハ−3記載の①ないし④の領域)が形成さ
れること(構成要件G)が認められる。
したがって,ハ号液晶モジュールは,本件発明2の構成要件Dない
しGをいずれも充足する。
(イ)aこれに対し被告は,本件発明2の構成要件の充足性を判断する
に当たっては,画素電極は,TFT基板側に形成され,同一電圧が
印加される1枚の電極としてとらえるべきであって,ハ号液晶モジ
ュールの画素電極は,1画素(RGBの各画素)につきそれぞれ異
なる電圧が印加される2枚の画素電極により形成されているのであ
るから,第1の画素電極のスリットの形状及び第2の画素電極のス
リットの形状を前提に,本件発明2の構成要件Eの充足の有無を判
断すべきであるところ,第1の画素電極及び第2の画素電極は,直
線状のa軸成分や直線状のb軸成分を有するスリットを備えていな
いから,ハ号液晶モジュールは,構成要件Eを充足しない旨主張す
る。
しかし,前記1(2)ウ(イ)aにおいて説示したのと同様の理由に
より,ハ号液晶モジュールの画素電極を,1画素内の第1の画素電
極のスリットの形状及び第2の画素電極のスリットの形状を前提と
して,本件発明2の構成要件Eの充足性を否定する被告の主張は,
その前提において失当であり,採用することができない。
なお,被告は,ハ号液晶モジュールの画素電極の欠損部(スリッ
ト)は,a軸及びb軸という2つの軸に平行に延びる直線状の欠損
部が設けられていない旨主張するが,別紙図面ハ−2から明らかな
とおり,被告の上記主張は理由がない。
b被告は,ハ号液晶モジュールは,「第1のドメイン規制手段」な
いし「第2のドメイン規制手段」を有するものではないから,「ド
メイン規制手段」によって形成される「ドメイン」がイ号液晶モジ
ュールには存在せず,構成要件Gを充足しない旨主張する。
しかし,前記イのとおり,ハ号液晶モジュールは,「第1のドメ
イン規制手段」及び「第2のドメイン規制手段」を備えているか
ら,被告の上記主張は,その前提を欠くものであって,採用するこ
とができない。
(3)まとめ
以上によれば,ハ号液晶モジュールは,構成要件AないしHをすべて充
足するから,本件発明2の技術的範囲に属するものと認められる。
4本件特許権2に基づく権利行使の制限の有無(争点5)について
(1)無効理由1(新規性の欠如)について
ア被告は,本件発明2は,乙12(特開平6−301036号公報)に
記載された発明(乙12記載発明)と同一であるから,本件特許2に
は,特許法29条1項3号に違反する無効理由(同法123条1項2
号)があると主張する。
すなわち,被告は,乙12記載の液晶表示装置(乙12記載発明)
は,「第1の基板と第2の基板との間に誘電率異方性が負の液晶を挟持
し,電圧を印加しない時には前記液晶が前記第1及び第2の基板に垂直
な方向に配向する液晶表示装置」(本件発明2の構成要件A,H)であ
って,TFT基板(22)上に設けられた画素電極(22a)の端部(
エッジ)及び対向電極(26)側に設けられた開口部(26A)の端
部(エッジ)は,「ドメイン規制手段」(構成要件B,C)であって,
それぞれ「第1の方向に延びる直線状成分と前記第1の方向と略90°
異なる第2の方向に延びる直線状成分」とを有し(構成要件D,
E),「前記第1及び第2の基板に垂直な方向から見た時に,前記第1
のドメイン規制手段の直線状成分と前記第2のドメイン規制手段の直線
状成分とが,互いに平行かつ交互に配置されており」(構成要件F),
別紙図面(乙12)の図2の修正図の領域1ないし4に示すように又は
図4に1画素につき4本のディスクリネーションラインが図示されてい
るように,画素電極(22a)の端部(エッジ)及び開口部(26A)
の端部(エッジ)により「前記液晶の配向方向が略90°異なる4種類
のドメインが形成される」構成(構成要件G)を備えているから,本件
発明2と乙12記載発明は同一である旨主張する。
しかし,被告の主張は,以下のとおり理由がない。
イ(ア)乙12には,次のような記載がある。
a「このとき,図13に示すように,画素電極(2a)の形成領域
では,当該装置の背面から照射される光が透過されるが,これ以外
の領域にはコントラスト向上のための遮光膜が形成されており〔以
下この領域を遮光領域(8)と称する〕,この遮光領域(8)で
は,光は透過されない。しかし,光が透過する画素電極(2a)の
形成領域においても,図13に示すように,液晶分子の配向方向の
境界を示す縞〔以下ディスクリネーションライン(9)と称する〕
が各画素上にあらわれ,この部分は遮光されている。」(段落【0
010】),「ところで,垂直配向膜間に液晶を封入する際に,液
晶分子の配向方向がどうしても不均一になってしまうために,初期
条件における各画素の液晶分子の配向方向にバラツキが生じる。こ
のため,たとえ同一条件の電圧を各画素に印加したとしても,図1
3に示すようにディスクリネーションライン(9)が各画素に対し
て同じ箇所に現れずに,不均一に現れる。」(段落【0011
】),「よってディスクリネーションライン(9)の出現箇所が各
画素についてまちまちであるために,画像のザラツキ(表示画像が
黒い画面なら,その黒い部分に白い砂を撒いたように見える現象)
があらわれるといった問題が生じていた。」(段落【0012】)
b「従って,開口部(14)の形成領域に存在する液晶分子が鉛直
方向にかつ安定に立ちきっているので,開口部(14)の形成領域
にある液晶分子との相互作用により,開口部(14)の形成領域周
辺にある液晶分子の配向性もまた安定する。よって,各画素の液晶
分子の配向方向が,例えば,画素の中心に向かって配向するという
ように,ある規則性をもって配向される。」(段落【0016
】),「これにより,各画素形成領域の同じ位置に開口部(14)
を設ければ,液晶分子が全画素について同じように配向されるの
で,画素ごとに液晶分子の配向方向が多少ばらついていたとして
も,液晶分子の配向方向を示すディスクリネーションラインが各画
素についてほぼ同じ箇所に均一に現れる。よって,画像のザラツキ
を抑止することが可能になる。」(段落【0017】)
c「このとき,開口部(26A)には対向電極(26)が存在しな
いので,その領域内での電界は微弱であり,開口部(26A)の形
成領域に存在する液晶分子(24A)は,電界の影響を殆ど受けな
い。よってこの領域内の液晶分子は,当初の垂直配向の状態を保持
し,垂直に立ちきっており,かつ安定である。従って,開口部(2
6A)の形成領域に存在する液晶分子(24A)が安定に垂直に立
ちきっているので,開口部(26A)の形成領域にある液晶分子(
24A)との相互作用により,開口部(26A)の形成領域周辺に
ある液晶分子(24A)の配向性もまた安定になる。よって,各画
素の液晶分子(24A)の配向方向が,図5(判決注・「図2」の
誤り)に示すように,画素の中心部に向かうように配向する。」(
段落【0022】)
d「これにより,各画素形成領域の同じ位置に開口部(26A)を
設ければ,液晶分子(24A)が全画素について同じように配向さ
れるので,多少画素ごとに液晶分子の配向方向がばらついていたと
しても,図4に示すように,液晶分子(24A)の配向方向の境界
線を示すディスクリネーションラインが各画素について均一に現れ
る。よって,画像のザラツキを抑止することが可能になる。」(段
落【0023】)
e「TFT基板(22)上にITO膜からなり,縦300μm,横
200μmの画素電極(32a)が形成され,・・・垂直配向され
た液晶分子(24A)を有する液晶層が形成され,その上にITO
膜からなる対向電極(26)が形成されてなる。」(段落【003
3】),「・・・対向電極(26)には,画素の両方の対角線に沿
った領域に,幅5μmの長方形の形状を有する開口部(46A)が
X字状に設けられ」(段落【0034】)
f図2には,第1の実施例に係る液晶表示装置の構成が,図2のA
−A’線断面図として示されている図3には,TFT基板(22)
上に設けられた画素電極(22a)の端部(エッジ)が,図4に
は,「ディスクリネーションライン(29)」がそれぞれ図示され
ている。
(イ)上記(ア)の記載を総合すれば,乙12においては,画素電極(2
2a)の端部(エッジ)及び開口部(26A)の端部(エッジ)によ
って,図2に示すように,画素の液晶分子(24A)の配向方向が画
素の中心部に向かうように配向することが開示されており,画素電
極(22a)の端部(エッジ)及び開口部(26A)の端部(エッ
ジ)は,本件発明2の「ドメイン規制手段」として機能することが認
められる。
しかし,画素電極(22a)の端部(エッジ)及び開口部(26
A)の端部(エッジ)によって形成されるドメインは,図2から明ら
かなとおり(液晶分子(24A)が放射状8方向に配向することが示
されている。),「前記液晶の配向方向が略90°異なる4種類のド
メイン」(構成要件G)には当たらない。
ウ以上によれば,乙12の液晶表示装置(乙12記載発明)は,本件発
明2の構成要件Gの構成を備えていないから,本件発明2は,乙12記
載発明と同一であるとの被告の主張(無効理由1)は,理由がない。
(2)無効理由2(進歩性の欠如①)について
ア被告は,本件発明2は,乙16(特開平8−29812号公報),乙
17(特開平7−234414号公報)及び乙27(特開平8−313
923号公報)に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到するこ
とができたものであるから,本件特許2には,特許法29条2項に違反
する無効理由(同法123条1項2号)があると主張する。
しかし,被告の主張は,以下のとおり理由がない。
イ乙16の記載事項
(ア)乙16には,次のような記載がある。
a「この液晶表示素子は各画素の電極形状および配置の特有性から
基板平面方向の電界成分をもたせ,すなわち液晶層内に斜め電界を
生じるようにしており,このため各画素内において斜め電界の方向
が2以上となり,その電界の境界部に積極的に分子配列の乱れを形
成して光散乱状態を得て高いコントラスト比を達成するものであ
り,前述した諸々の問題点を解決し得るものである。」(段落【0
011】),「すなわち,この液晶表示素子によれば,電極への電
圧印加制御により素子を透過する光を透過と散乱のいずれかに制御
することができる。」(段落【0012】)
b「本発明に用いる液晶表示素子の電極は,第1の基板の第1の電
極が一画素内に導電体部と非導電体部を有し,第2の基板の記第2
の電極が一画素内に導電体部と非導電体部を有し,第1の電極の導
電体部が第2の電極の非導電体部の少なくとも一部に面するように
対向しており,第2の電極の導電体部が第1の電極の非導電体部少
なくともの一部に面するように対向している。」(段落【0020
】),「すなわち,これら電極間に電圧を印加すると,基板面に平
行な電界成分をもつ電界である斜め電界がゲストホストの二色色素
として染料が添加された液晶層内に形成される。」(段落【002
1】),「第1および第2の電極の導電体部と非導電体部の対面配
置によって,傾き方向が相互に逆となる2方向の斜め電界が生じ,
これら電界に沿って再配列する液晶分子およびゲストの染料分子は
電界の境界領域で分子配列が乱れる。このためこの領域を通過する
光は散乱状態になる。一画素内で多くの分子配列の乱れが生じるよ
うにすることで,画素ごとに光透過と光散乱を制御することができ
て,高コントラスト比の表示画像を得ることが可能になる。」(段
落【0022】)
c「また,ベンド配列を図5(b)に示す。上下基板11,12の
配向膜15,16に垂直配向膜を用い,これら膜をラビング処理
し,その方向F,Rを一致されるように基板を組み合わせると,負
の誘電異方性のネマティック液晶の液晶分子Mは図のように配向膜
付近で処理方向F,Rに僅かに傾いた液晶配列部分と液晶層中央部
の垂直方向配列部分の組み合わせになる。」(段落【0026】)
d「スプレイ配列,ベンド配列ともに,基板間に基板面方向に成分
をもつ斜め電界を印加すると,液晶分子が電界方向に沿って再配列
しやすく,近接する領域で方向の異なる斜め電界が発生すると,境
界部に液晶分子と染料分子の乱れが生じて,透過する光を散乱す
る。」(段落【0027】)
e「以上から,本発明の液晶表示素子は,入射する光の振動方位が
電圧無印加時の液晶分子配列方位の振動方向に偏っていればいるほ
ど,すなわち実質的に平行であれば全入射光に対する光の散乱度合
いを高めることができる。高いコントラスト比を得るには,前記2
つの光散乱現象が生じない光成分を20%以下に抑えることが望ま
しく,これを実現するには入射させる光の偏光度合いを80%以上
として,その偏光方向(偏光軸または振動面)を電圧無印加時の液
晶分子配列方位の振動方向とすればよいこととなる。具体的には入
射光側の基板の配向膜の配向処理方向であり,偏光方向をこの配向
処理方向に対して±10°以内に収めるようにする。」(段落【0
036】)
f「(実施例1)図4(a)に示すような構造からなる上基板11
として非画素部全域にクロムからなるブラックマトリクスを形成
し,各画素に屈曲ストライプパターンの非導電体部13bと導電体
部13aからなるITOの共通電極13を形成したガラス基板を用
い,下基板12として,導電体部14aと非導電体部14bを屈曲
ストライプパターンとした,・・・画素電極14を有するガラス基
板を用いた。」(段落【0039】)
g「図4(c)は下電極14の一画素のパターンを示しており,導
電体部の幅は5μm,非導電体部の幅は10μmである。上下基板
を対向させた状態で,上電極の導電体部13aと下電極の非導電体
部14bが対面し,下電極の導電体部14aと上電極の非導電体部
13bが対面する。図中,矢印Rはラビング方向で上基板の処理方
向Fと同一方向としている。」(段落【0041】)
h図4には,1画素内で上下基板に複数のストライプ状に形成され
た電極を備えた液晶表示装置が図示されている。
(イ)被告は,乙16の液晶表示装置の上下基板に形成された「屈曲ス
トライプパターン」は,液晶に電圧を印加した時に液晶が配向する方
向を規制する「ドメイン規制手段」(構成要件B,C)に当たり,仮
に上基板側の「屈曲ストライプパターン」(図4(b))を「第1の
ドメイン規制手段」,下基板側の「屈曲ストライプパターン」(図
4(c))を「第2のドメイン規制手段」とすると,「第1のドメイ
ン規制手段」は「第1の方向に延びる直線状成分と前記第1の方向と
異なる第2の方向に延びる直線状成分とを有し」(構成要件D),「
第2のドメイン規制手段」は「前記第1の方向に延びる直線状成分と
前記第2の方向に延びる直線状成分とを有し」(構成要件E)てお
り,これらの「屈曲ストライプパターン」を上下基板に垂直な方向か
ら見た時には,「前記第1のドメイン規制手段の直線状成分と前記第
2のドメイン規制手段の直線状成分とが,互いに平行かつ交互に配置
されて」(構成要件F)いることが開示されているから,乙16に
は,構成要件AないしFの開示がある旨主張する。
aそこで検討するに,上記(ア)の記載によれば,乙16の液晶表示
装置においては,上基板11に形成された「屈曲ストライプパター
ン」(導電体部13a,非導電体部13b)と下基板12に形成さ
れた「屈曲ストライプパターン」(導電体部14a,非導電体部1
4b)とによって,電圧印加時に斜め電界を発生させて「液晶分子
が電界方向に沿って再配列」することを規制しているから,「屈曲
ストライプパターン」は,液晶の配向方向(傾斜方向)を規制す
る「ドメイン規制手段」(構成要件B,C)に相当することが認め
られ,また,図4から,「屈曲ストライプパターン」を上下基板に
垂直な方向から見た時には,「前記第1のドメイン規制手段の直線
状成分と前記第2のドメイン規制手段の直線状成分とが,互いに平
行かつ交互に配置されて」いること(構成要件F)が認められる。
bしかし,図4に示された「屈曲ストライプパターン」の屈曲角度
は,「略90°」であるとはいえないから,「ドメイン規制手段」
が「第1の方向に延びる直線状成分と第1の方向と略90°異なる
第2の方向に延びる直線状成分」(構成要件D,E)を有していな
い。
cまた,乙16には,「屈曲ストライプパターン」の屈曲角度を「
略90°」に設定することについての記載や示唆はない。
かえって,乙16の段落【0036】に,「入射する光の振動方
位が電圧無印加時の液晶分子配列方位の振動方向に偏っていればい
るほど,すなわち実質的に平行であれば全入射光に対する光の散乱
度合いを高めることができ」るので,「高いコントラスト比を得る
には,前記2つの光散乱現象が生じない光成分を20%以下に抑え
ることが望ましく,これを実現するには入射させる光の偏光度合い
を80%以上として,その偏光方向(偏光軸または振動面)を電圧
無印加時の液晶分子配列方位の振動方向とすればよい」こととな
り,「具体的には入射光側の基板の配向膜の配向処理方向であり,
偏光方向をこの配向処理方向に対して±10°以内に収めるように
する。」との記載があることに照らすならば,「屈曲ストライプパ
ターン」の屈曲角度を「略90°」に設定すると,偏光方向は入射
光側の基板の配向膜の配向処理方向に対して45°となり,偏光方
向を「±10°以内に収める」ようにして高いコントラスト比を得
ることができなくなるから,乙16において,「屈曲ストライプパ
ターン」の屈曲角度を「略90°」に設定することは,発明の効果
を阻害することとなる。
dしたがって,乙16には,少なくとも「前記第1のドメイン規制
手段は,第1の方向に延びる直線状成分と前記第1の方向と略90
°異なる第2の方向に延びる直線状成分とを有し」,「前記第2の
ドメイン規制手段は,前記第1の方向に延びる直線状成分と前記第
2の方向に延びる直線状成分とを有し」,「前記第1及び第2のド
メイン規制手段により,前記液晶の配向方向が略90°異なる4種
類のドメインが形成される」との構成(構成要件D,E,G)の開
示がないというべきである。これに反する限度で被告の上記主張
は,理由がない。
(ウ)以上によれば,乙16には,本件発明2の構成要件AないしC,
Fが開示されている。
ウ乙17の記載事項
(ア)乙17には,次のような記載がある。
a「【発明が解決しようとする課題】・・・従来のLCDは透過率
が低く,狭い視角依存性を有するか,または高い駆動電圧を要し,
応答速度も遅いといった問題をもっていた。本発明は,このような
課題に対処するためになされたもので,光散乱特性が高く,駆動電
圧が低く,明るくコントラスト比が高く階調性に優れ,かつ階調表
示しても表示が反転することがなく,視野角の極めて広い新規な構
成のLCDを提供することを目的とする。」(段落【0009】)
b「本発明に係わる液晶組成物および液晶分子配列としては,液晶
組成物は正または負の誘電率異方性を有する液晶からなり,電界を
印加した際に取り得る2方向以上のチルト方向は,正の誘電率異方
性を有する液晶の場合チルトアップ方向であり,負の誘電率異方性
を有する液晶の場合チルトダウン方向であり,・・・」(段落【0
015】)
c「・・・本発明のLCDは,各画素において,実効的に一様な分
子配列とすることにより光透過状態を実現し,また2種以上の電界
方向をもって,屈折レンズ効果や回折格子効果を得ることにより光
散乱状態を実現する。ここで,屈折レンズ効果とは,液晶層厚方向
に液晶分子が連続的に傾きを変え液晶層の屈折率が連続的に変化す
ることにより入射した光を屈折させる効果をいう。また,回折格子
効果とは,液晶分子の異常光屈折率neと常光屈折率noとが液晶
平面において規則的に交互に出現することにより液晶層に回折格子
が形成され,その結果平行光が散乱する効果をいう。このような屈
折レンズ効果や回折格子効果による光散乱は,2種以上の電界方向
の境界部にウォール(壁)状の分子配列を形成することにより得ら
れる。」(段落【0020】)
d「本発明のLCDの一画素における分子配列構造の一例を図1(
b)に示す。この図1(b)に示す分子配列構造は,スプレイ配列
およびそれに捩じれを加えた分子配列であり,なおかつ上下基板表
面における液晶分子プレチルト角が上下でほぼ等しいことを特徴と
している。また電圧を印加した場合の分子配列構造を示している。
すなわち,上,下基板11,12にそれぞれ画素単位で複数のスト
ライプを形成する電極13,14を配置し,各電極の導電部13
a,14aと非導電部13b,14bを等間隔とし,1/2ピッチずら
して対向させる。上,下配向膜15,16の配向方向を同じ方向と
し,液晶層20の液晶分子Mをスプレイ配列としている。」(段落
【0021】)
e「・・・液晶組成物として負の誘電率異方性をもつネマティック
液晶組成物を用い,液晶分子配列を上下基板におけるプレチルト角
が90°である完全な垂直配列としても同様の効果を得ることがで
きる。・・・」(段落【0022】)
f「また,本発明のLCDを捩じれ角0°で作成し,直交した2枚
の偏光板間に各ラビング方向(セル平面で考えて上下基板で同一方
向である)と一方の偏光板の吸収軸が平行となるように組み合わせ
ると,散乱光源を用いた場合でも透過型のディスプレイとなり得
る。この場合,複屈折効果を利用した光学モードとなり,前述した
透過率は低下するが,光透過状態を液晶層の光散乱状態によって実
現するため視角依存性が少ないといった効果を得る。特に,階調表
示をした際に表示が反転するような現象が生じないため,直視型の
ディスプレイとして,従来のTN−LCD等より優れた表示特性を
得ることができる。」(段落【0051】)
g「また,図15(b)に示すものは,図13(b)の電極構造の
変化形であり,素子平面方向での電極形状がいわゆるストライプ状
の形状をなしている場合の電極構造である。つまり,図15(b)
に示す電極構造は導電部と非導電部の形状が直線形状をなして平行
配列している場合の電極構造を描いたものである。・・・」(段落
【0060】),「また,「隙間付き入子」,「重複入子」に比較
して,「隙間付きストライプ入子」および「重複ストライプ入子」
はウォール(図13(c),図14(c),図15(c)のDLで
示した配向不連続点)の出現形状が図17に示すようなギザギザ形
状となる。この形状は直線形状と比較して光散乱強度を高めること
となる。こうしたギザギザ形状は電極パターンが整然としたストラ
イプ形状である程,よりギザギザとなることを我々は種々の実験に
より確認している。このことから,これら「隙間付きストライプ入
子」および「重複ストライプ入子」の電極構造は,結果的に強い光
散乱強度を得るといった特長をもつ電極構造であるといえる。」(
段落【0063】)
h「実施例3図24(a)は本実施例において,電極を相対向さ
せた液晶セルの略断面図,図24(b)は1画素領域の上電極パタ
ーンを,図24(c)は1画素領域の下電極パターンを示す。図2
4(a)および図24(b)に示すように,上基板11として各画
素に屈曲ストライプパターンの非導電部13bと導電部13aから
なるITOの共通電極13を形成したガラス基板を用いる。なお,
非画素部全域にクロムからなるブラックマトリクスを形成する。図
24(a)および図24(c)に示すように,下基板12として各
画素に屈曲ストライプパターンの非導電部14bと導電部14aか
らなるITOの共通電極14およびTFTからなるスイッチング素
子を形成したガラス基板を用いる。・・・」(段落【0078】)
i「・・・回折格子の光散乱効果は,GALE,M.etal.:1979,J.appl.
Photogr.Engng,4,41によると次式で示される。T=cos2(π
△nd/λ)ここで,Tは散乱される光の強度(入射光に対する
強度)であり,λは入射光波長である。この式から回折格子の光散
乱効果は△ndに依存する。・・・このように,本実施例は他の実
施例と同様に液晶分子配列が形成する屈折レンズ効果(前述したウ
ォール配列:液晶層厚方向に液晶分子が連続的に傾きを変え屈折率
が連続的に変化することにより入射した光を屈折させる効果)に加
え,明確に回折格子効果が得られる構造としている。」(段落【0
103】),「・・・電圧無印加状態(図33(a))では,液晶
分子は一様に配列(垂直配向)している。これに対して電圧印加状
態(図33(b))では,ITOが上下基板で対向しているところ
ではラビング方位にチルトダウンし,逆にTFT基板のITOがな
い領域では斜め電界が電極ストライプ方向と直交した方向に発生す
るため,その方向にチルトダウンする。・・・図示するように本実
施例のLCDは実施例14に示したLCD同様,電圧を印加した状
態において電極ストライプ方向,およびその直交方向偏光成分に対
する屈折率が液晶分子の異常光屈折率neと常光屈折率n0が電極ス
トライプ方向の直交方向に規則的に交互に配列し,その結果,液晶
層に回折格子が形成され,平行光を散乱させることができる。」(
段落【0106】),「本実施例は,実施例14と同様に回折格子
効果および屈折レンズ効果を得る構成となっており,実施例14と
比較して電圧無印加時の分子配列が逆(水平配向に対して垂直配
向)であり,用いた液晶組成物の誘電率異方性も逆(正に対して
負)としたものである。このように本発明のLCDは電圧を印加し
た状態において電極ストライプ方向およびその直交方向の偏光成分
に対する屈折率が液晶分子の異常光屈折率neと常光屈折率n0が一
定方向(一方向以上)に規則的に交互に配列するようにすれば,液
晶層には回折格子が形成され,平行光を散乱させる効果を得ること
ができる。この効果を直交した2方向の偏光成分に対して得るよう
にすれば,非偏光の光を散乱させることができ高いコントラスト特
性が得られるようになる。こうした構成を実現させるには液晶分子
のチルト方向(チルト方向およびチルトダウン方向)の自由度が無
限大である初期垂直配向に誘電率異方性が負の液晶組成物を用いる
と容易に実現できる。」(段落【0107】)
j図15,24,28には,上下基板に複数のストライプ状に形成
された電極を備えた液晶表示装置が,図17には,ウォール(DL
で示した配向不連続点)の出現形状が,図33には,実施例15の
LCDの電圧無印加時及び電圧印加時の平面的にみた液晶分子配列
がそれぞれ図示されている。
(イ)上記(ア)の記載によれば,乙17の液晶表示装置においては,
上,下基板にそれぞれ形成された「屈曲ストライプパターン」は,乙
16の「屈曲ストライプパターン」(導電部13a,14a,非導電
部13b,14b)と同様に,液晶の配向方向(傾斜方向)を規制す
る「ドメイン規制手段」(構成要件B,C)に相当し,図24,28
に示すように,「屈曲ストライプパターン」を上下基板に垂直な方向
から見た時には,「前記第1のドメイン規制手段の直線状成分と前記
第2のドメイン規制手段の直線状成分とが,互いに平行かつ交互に配
置されて」いること(構成要件F)が認められる。
(ウ)a一方で,図24,28に示された「屈曲ストライプパターン」
の屈曲角度は,「略90°」であるとはいえないから,「ドメイン
規制手段」が「第1の方向に延びる直線状成分と第1の方向と略9
0°異なる第2の方向に延びる直線状成分」(構成要件D,E)を
有していない。
bまた,乙17には,「屈曲ストライプパターン」の屈曲角度を「
略90°」に設定することについての記載や示唆はない。
かえって,乙17の段落【0060】,【0063】及び図1
5,17には,「導電部と非導電部の形状が直線形状をなして平行
配列している場合」や,「電極パターンが整然としたストライプ形
状である程」,ウォール(DLで示した配向不連続点)の出現形状
がより「ギザギザ」となり,光散乱強度を強めることの開示がある
ことに照らすならば,「屈曲ストライプパターン」の屈曲角度を「
略90°」に設定すると,「ギザギザ」形状が弱まり,光散乱強度
が低下することが予想されるから,乙17において,「屈曲ストラ
イプパターン」の屈曲角度を「略90°」に設定することは,発明
の効果を阻害することとなる。
したがって,乙17には,少なくとも「前記第1のドメイン規制
手段は,第1の方向に延びる直線状成分と前記第1の方向と略90
°異なる第2の方向に延びる直線状成分とを有し」,「前記第2の
ドメイン規制手段は,前記第1の方向に延びる直線状成分と前記第
2の方向に延びる直線状成分とを有し」,「前記第1及び第2のド
メイン規制手段により,前記液晶の配向方向が略90°異なる4種
類のドメインが形成される」との構成(構成要件D,E,G)の開
示がないというべきである。
cこれに対し被告は,乙17の段落【0107】等を根拠に,第1
の方向と略90°異なる第2の方向に延びる直線状成分を有する電
極を用いることにより「異常光屈折率領域(ne領域)」と「常光
屈折率領域(no領域)」を直交した2方向の偏光成分に沿うよう
に交互に配置させることで,高いコントラスト特性の液晶表示装置
が得られることの記載ないし示唆がある旨主張する。
しかし,乙17の段落【0107】は,実施例15に関する記
載(前記(ア)i)であり,実施例15の電極パターン(図33)
は,そもそも,「第1の方向に延びる直線状成分と第1の方向と略
90°異なる第2の方向に延びる直線状成分」を有していないし,
互いに平行かつ交互に配置されているものではないから,被告の上
記主張は,採用することができない。
(エ)以上によれば,乙17には,乙16と同様に,本件発明2の構成
要件AないしC,Fが開示されている。
エ乙27の記載事項
(ア)乙27には,次のような記載がある。
a「【請求項1】互いに対向する2枚の基板と,これら基板面上
に形成された縦方向配線および横方向配線により規定される複数の
画素の各々に対応して形成された複数の素電極を有し各素電極の主
面が前記2枚の基板面と略直交し,かつ隣り合う素電極の主面が互
いに対極をなす櫛型壁電極と,前記2枚の基板間に設けられた櫛型
壁電極の間隙に充填された液晶とを具備したことを特徴とする液晶
表示素子。」
b「本発明の液晶表示素子の原理を図1を参照して説明する。図1
は1つの画素上に形成された櫛型壁電極の一部を示す斜視図であ
る。画素100は,互いに対向する2枚の基板(図示せず)のうち
一方の基板面上に形成された縦方向配線および横方向配線によって
規定される複数の画素のうちの1つである。各々の画素に対応して
薄膜トランジスタ(TFT),薄膜ダイオード(TFD,MIM素
子)などの能動素子(図示せず)が設けられている。図1に示した
矢印は画素に対する法線方向を示し,人はこの矢印の先端方向から
ディスプレイを見る。各々の画素内には,主面が2枚の基板面と略
直交し,かつ隣接する主面が互いに対極をなすように,それぞれ複
数の壁状の素電極11および素電極12が交互に配置され,かつこ
れらが1つおきに接続部で結合されて櫛型をなす櫛型壁電極10が
設けられる。・・・上記のようなディメンションで櫛型壁電極10
を設ける場合,画素内に合計15本の素電極11,12が形成され
ることになる。さらに,2枚の基板間に設けられた櫛型壁電極10
の間隙には液晶13が充填される。なお,本発明の液晶表示素子に
おいて,素電極11,12間を1つおきに結合する接続部について
は壁状であってもなくてもかまわない。」(段落【0009
】),「この液晶表示素子では,対極の一方の電極となる素電極1
1は能動素子に接続され,対極の他方の電極となる素電極12は例
えば対向基板に形成された共通電極に接続される。すなわち,電圧
印加時にはこれらの対極をなす素電極11,12がそれぞれ従来の
液晶表示素子の画素電極および共通電極に対応するものとして機能
する。ここで,能動素子は基板面上に形成された縦方向配線および
横方向配線,具体的には例えばゲート線(走査線)と信号線を通じ
て制御が行なわれる。なお,能動素子の構造を改良して一方の基板
側からのみ櫛型壁電極の素電極11,12に電圧を印加し,対向す
る基板上の共通電極をなくしてもよい。そして,櫛型壁電極10の
素電極11と素電極12に印加する電圧のオン・オフを制御してこ
れらの間に充填された液晶分子の配向を制御することにより表示が
可能になる。」(段落【0010】)
c「まず,ゲスト・ホスト型液晶を用いる場合について説明する。
例えば,液晶として負の誘電異方性を示すn型液晶を用い・・
・」(段落【0016】)
d「また,液晶として正の誘電異方性を示すp型液晶を用い,これ
に対して分子の短軸方向で偏光の吸収が大きいn型2色性色素を添
加し,溝のない櫛型壁電極を用いてもよい。この場合,電圧無印加
時には液晶分子も色素分子もランダムな方向を向いているため,画
面上で色素分子の色を認識できる。一方,電圧印加時には液晶分子
は電極に垂直すなわち画面に平行に配列し,色素分子もそれになら
って平行に配列し分子の短軸方向が画面に垂直に配向するため,色
素分子の色が見えなくなる。」(段落【0017】)
e「・・・視野角を拡大するために,1画素内を複数のドメインに
分割し,それぞれのドメインで櫛型壁電極を構成する素電極が異な
る方向へ延びるようにしてもよい。・・・」(段落【0040】)
f「・・・各々の画素内には,主面が2枚の基板面と直交し,かつ
隣接する主面が互いに対極をなすように,それぞれ複数の素電極1
1および素電極12が交互に配置され,かつこれらが1つおきに接
続部で結合されて櫛型をなす櫛型壁電極10が設けられる。・・
・」(段落【0042】)
g「図15に示すように,視野角を拡大するために,1画素内を例
えば4つのドメインに分割し,それぞれのドメインで櫛型壁電極1
0を構成する素電極11,12が異なる方向へ延びるようにしても
よい。」(段落【0050】)
(イ)上記(ア)の記載と図面(乙27)によれば,①乙27の液晶表示
装置は,1つの画素内に,主面が2枚の基板面と略直交し,かつ隣接
する主面が互いに対極をなすように,それぞれ複数の壁状の素電極1
1及び素電極12が交互に配置され,かつこれらが1つおきに接続部
で結合されて櫛型をなす櫛型壁電極10が設けられ,櫛型壁電極10
の間隙には液晶13が充填され,電圧印加時にはこれらの対極をなす
素電極11,12が,液晶分子の配向を制御する液晶表示装置であ
り,電圧無印加時にはランダムに配向していた液晶分子が,電圧印加
時には電極に垂直すなわち画面に平行に配列させるものであること,
②櫛形壁電極10の横方向部分は,素電極11,12と垂直に接して
いるものの,液晶分子の配向方向(傾斜方向)を規制していないこと
が認められる。
上記認定事実によれば,素電極11及び素電極12は,液晶の配向
方向を規制するものではあるが,電圧印加時に斜め電界を発生させて
液晶の配向方向を規制する構成のものではないから,本件発明2の「
ドメイン規制手段」に相当するものではなく,また,仮に素電極11
及び素電極12が「ドメイン規制手段」であるといえるとしても,乙
27の液晶表示装置は,「第1の方向に延びる直線状成分と前記第1
の方向と略90°異なる第2の方向に延びる直線状成分」を有する「
ドメイン規制手段」を備えるものではないから,少なくとも「前記第
1のドメイン規制手段は,第1の方向に延びる直線状成分と前記第1
の方向と略90°異なる第2の方向に延びる直線状成分とを有
し」,「前記第2のドメイン規制手段は,前記第1の方向に延びる直
線状成分と前記第2の方向に延びる直線状成分とを有し」,「前記第
1及び第2の基板に垂直な方向から見た時に,前記第1のドメイン規
制手段の直線状成分と前記第2のドメイン規制手段の直線状成分と
が,互いに平行かつ交互に配置されており」,「前記第1及び第2の
ドメイン規制手段により,前記液晶の配向方向が略90°異なる4種
類のドメインが形成されること」との構成(構成要件DないしG)を
有していない。
これに反する被告の主張は採用することができない。
オ容易想到性の有無
(ア)被告は,VA方式の液晶表示装置の構成及び他方式の液晶表示装
置の動作原理との相違,VA方式の液晶表示装置における「マルチド
メイン化」の必要性を技術常識として備える当業者であれば,乙1
6,17,27に基づいて,本件発明2を容易に想到することができ
た旨主張する。
しかし,被告の主張は,以下のとおり理由がない。
a前記イ,ウのとおり,乙16及び乙17の液晶表示装置において
は,ドメイン規制手段である「屈曲ストライプパターン」が互いに
平行かつ交互に配置されており,乙16,17は,本件発明2の構
成要件AないしC,Fを開示しているが,「屈曲ストライプパター
ン」の屈曲角度は「略90°」でないため,構成要件D,E,Gの
構成の開示がない。
そして,前記イ,ウのとおり,乙16,17には,「屈曲ストラ
イプパターン」の屈曲角度を「略90°」に設定することについて
の記載や示唆はないし,また,「屈曲ストライプパターン」の屈曲
角度を「略90°」に設定すると,発明の効果を阻害することとな
るので,当業者が,「屈曲ストライプパターン」の屈曲角度を「略
90°」に設定して,本件発明2に想到することは容易であるとは
いえない。
bまた,前記エのとおり,乙27においても,構成要件DないしG
の構成の開示がない。
cさらに,本件発明2は,VA方式の液晶表示装置において,1画
素内に液晶分子の配向方向が異なる4つのドメインを形成し,液晶
の配向方向が液晶表示装置の表示面への投影成分が90°ずつ異な
る方向になるようにすることを実現するための構成として,構成要
件DないしGをすべて備える構成を採用し,これにより第1のドメ
イン規制手段及び第2のドメイン規制手段によって形成されたドメ
イン内の液晶分子を安定的に配向させた点において技術的意義があ
ること(前記1(2)イ(ウ))に照らすならば,構成要件DないしGを
すべて備える構成とすることが,本件発明2の技術的思想の中核を
成す特徴的部分であるものと認められる。
しかし,乙16,17,27のいずれにおいても,構成要件Dな
いしGをすべて備える構成を採用することを示唆する記載は認めら
れない。
d上記aないしcによれば,当業者といえども,乙16,17,2
7に基づいて,本件発明2を容易に想到することができたものとは
認められない。
したがって,被告の上記主張は,理由がない。
(イ)以上によれば,乙16,17,27に記載された発明に基づいて,
本件発明2を容易に想到することができたとの被告の主張(無効理由
2)は,理由がない。
(3)無効理由3(進歩性の欠如②)について
ア被告は,本件発明2は,乙9(特開平6−43461号公報)又は乙
15(特開平7−311383号公報)に記載された発明と,乙12(
特開平6−301036号公報),乙16(特開平8−29812号公
報),乙17(特開平7−234414号公報)又は乙18(特開平7
−43968号公報)に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到
することができたものであるから,本件特許2には,特許法29条2項
に違反する無効理由(同法123条1項2号)があると主張する。
しかし,被告の主張は,以下のとおり理由がない。
イ乙9の記載事項
(ア)乙9には,次のような記載がある。
a「【発明が解決しようとする課題】本発明の主要な目的は,広い
視角に渡って高いコントラストが得られる液晶表示装置を提供する
ことである。」(段落【0005】),「本発明のさらに別の目的
は,ドメインの境界が確実に固定されており,かつ局所的なセル条
件の変動によって変化しないようなマルチドメイン・セルを有す液
晶表示装置を提供することである。」(段落【0007】)
b「・・・本発明による液晶表示装置は,アクティブ・マトリクス
方式の一つである。それは,マルチドメイン・ホメオトロピック液
晶表示装置か,あるいはマルチドメイン・ツイスト・ネマチック液
晶表示装置でもよい。・・・」(段落【0010】),「【実施例
】図1を参照すると,汎用的な液晶表示装置20は,ガラス等の透
明な材料で形成される第1の基板22と第2の基板24を含む。こ
れら2枚の基板は,非常に精確に互いに平行になるよう配置されて
おり,通常,ほぼ4から7ミクロンの距離で互いに離れている。そ
して2枚の基板間に閉じられた内部空間を形成するため,それらの
端部(図示せず)は封止されている。基板24は,その上に連続的
な電極28が蒸着されており,この電極はパターンが無いかまたは
空き部分のあるパターンを有し,好ましくは,電気伝導性である酸
化錫インジウム(ITO)等の透明薄膜層で形成されているもので
ある。基板22は,その上にアレー状電極26が蒸着されており,
この電極は液晶表示装置の画素を形成するものである。基板22上
にはさらに,電極膜が蒸着されていない選択された領域に,ダイオ
ードまたは薄膜トランジスタ(TFT)30等の半導体素子が形成
されている。公知のように,1つの画素のために1個またはそれ以
上のTFT30が設けられている。・・・」(段落【0011】)
c「図2から図9には,マルチドメイン・ホメオトロピック・セル
による液晶表示装置の様々な電極の実施例が記載されている。・・
・本発明においては,ホメオトロピック・セルは,電極間に電場が
印加されていないときに,基板に対して垂直な方向に液晶材料の分
子が配向することに依っている。汎用的な液晶表示装置とは対照的
に,僅かなプレティルトが不必要であり,従ってラビング処理も行
われない。この液晶表示装置は,誘電異方性が負でなければならな
い。・・・」(段落【0018】),「ホメオトロピック液晶表示
装置のセルの電極間に電場を印加すると,それによって分子は実質
的に電場に垂直な方向に配列する。本発明は,画素電極の端部にお
けるのと同様に,電極の中の空き部分において横向きの電場を発生
するような電極形状を形成することによって,この効果を利用して
マルチドメイン液晶表示装置セルを得ている。このドメインの特性
は,電極のパターンの形状によって決まる。」(段落【0020
】)
d「底面電極60の外周の大きさを,上面電極62よりも小さくす
ることによって,画素の周囲及び切り取り部分の縁における電場の
方向を,それぞれの画素が4個のドメインに分割されるような方向
にすることができる。それぞれのドメインにおいて液晶表示装置の
分子のディレクタは,(電場の無いときは基板に対して垂直なって
いるのに対し)電場が印加されたときは,常に画素の中心へ向かっ
て傾くように配向している。しかしながら,X型の切り取り部64
が,4個の明瞭な液晶ドメインⅠ,Ⅱ,Ⅲ,Ⅳを定めている。これ
らのドメインは,それぞれの液晶表示装置セル内の局所的な条件に
関わらず,X形の切り取り部64によって正確に決定される。なぜ
なら一定の境界条件と明確な傾斜方向が,個々の液晶分子に対して
確立されるからである。」(段落【0023】),「上下の補償膜
の外側にはそれぞれ偏光膜が設けられており,それらの透過軸は互
いに直交しているが,液晶表示装置の側端に対してはそれぞれ45
度の角度になっている。より一般的には,偏光方向は,電場が印加
されているときに分子の傾く方向に対して45度の角度である。例
えば図2において,2枚の偏光膜の透過軸は,液晶表示装置の側端
に対してやはり45度の角度であり,矢印66及び68で表現され
ている。」(段落【0024】)
e「図5では,底面電極90は,最適幅10ミクロンの長方形の切
り取り部91を有し,画素の幅方向に沿ってその長方形の長い方の
辺が置かれている。上面電極は,2つの「2重Y」型の切り取り部
94a及び94bを有し,その末端部分における幅Yは,5ミクロ
ンが最適であり,中心部分の幅Xは,10ミクロンが最適である。
切り取り部94aは,図5の電極90の長方形の切り取り部91か
ら上の半分を覆うように配置され,切り取り部94bは,電極90
の切り取り部91から下の半分を覆うように配置されている。」(
段落【0029】)
f「図5の画素電極パターンによって,液晶表示装置セルは,8個の
ドメインに分割することができる。偏光膜の透過軸は,矢印96及び
98によって表されている。汎用的な単ドメイン・セルと比較して,
相対的な透過効率は81%である。」(段落【0030】)
g「図7の電極パターンは,底面電極110が,図5及び図6におけ
るそれぞれの切り取り部91及び101と同様の2つの長方形の切り
取り部111a及び111bを有していることを除いて,多くの点で
図6に類似している。上面電極112は,3つのX型切り取り部11
4a,114b,114cを有し,底面電極110の上部,中部,下
部の上に配置されている。中部とは,切り取り部111aと111b
の間の部分のことである。図7の電極パターンは,全部で12個の明
確なドメインを形成する。この液晶セルは,汎用的な単ドメイン液晶
表示セルと比較すると,相対的透過効率は72%である。偏光膜の透
過軸は,矢印116及び118で示されている。」(段落【0032
】)
(イ)a上記(ア)の記載と図面(乙9)によれば,乙9の液晶表示にお
いては,底面電極に形成された長方形の切り取り部と,上面電極に
形成されたX型の切り取り部は,電圧印加時における液晶の配向方
向(傾斜方向)を規制する「ドメイン規制手段」として機能し,上
面電極に形成されたX型の切り取り部は,「前記第1の基板に設け
られ,前記液晶に電圧を印加した時に前記液晶が配向する方向を規
制する,第1のドメイン規制手段」(構成要件B)に,底面電極に
形成された長方形の切り取り部は「前記第2の基板に設けられ,前
記液晶に電圧を印加した時に前記液晶が配向する方向を規制する,
第2のドメイン規制手段」(構成要件C)に相当し,「第1のドメ
イン規制手段」であるX型の切り取り部は,図7に示すように,「
第1の方向に延びる直線状成分と前記第1の方向と略90°異なる
第2の方向に延びる直線状成分」(構成要件D)を有することが認
められる。
bしかし,一方で,「第2のドメイン規制手段」である長方形の切
り取り部は,「前記第1の方向に延びる直線状成分と前記第2の方
向に延びる直線状成分」(構成要件E)を有するものとはいえない
し,また,図7に示すように,基板に垂直な方向から見た時に,X
型の切り取り部の直線状成分と長方形の切り取り部の直線状成分と
が,「互いに平行かつ交互に配置されて」(構成要件F)いるとは
いえないから,「前記第1及び第2のドメイン規制手段により,前
記液晶の配向方向が略90°異なる4種類のドメインが形成さ
れ」(構成要件G)ているものでもない。
また,乙9には,構成要件EないしGの構成についての記載や示
唆はない。
(ウ)以上によれば,乙9には,本件発明2の構成要件AないしDが開
示されている。
ウ乙15の記載事項
(ア)乙15には,次のような記載がある。
a「この構造のセルを駆動すると,液晶ダイレクター(121)
は,下側電極(101)の周縁部で配向制御傾斜部(103)に従
って,左右両側の領域で互いに反対側へ傾けられる。また,上側電
極(111)の中央部でも配向制御傾斜部(113L,113R)
によってそれぞれ反対側へ傾けられる。即ち,液晶の連続体性のた
めに,図11の左側のゾーンでは,液晶層(120)を挟んだ上下
の配向制御傾斜部(113L,103)の作用により,液晶ダイレ
クター(121)は全て右側へ傾けられるとともに,右側のゾーン
では配向制御傾斜部(113R,103)の作用により,液晶ダイ
レクター(121)は全て左側へ傾けられる。このように配向制御
傾斜部(103,113L,113R)を配置することにより,表
示画素が配向ベクトルの異なる複数のゾーンに分割されるととも
に,それぞれのゾーンで均一な配向状態となる。」(段落【003
6】)
b「図12は表示画素部の平面図であり,上下両電極(101,1
11)の対向部分を上から見た構造を示している。表示画素の周縁
を囲って下側の配向制御傾斜部(103)の帯状領域があり,内部
には表示画素の対角線に沿って上側に形成された配向制御傾斜部(
113L,113R,113U,113D)のX字型の領域があ
る。太矢印は中間調での配向ベクトルの平面射影であり,液晶ダイ
レクーは全階調について平均的にこの状態にあると見なされる。
尚,矢印方向は,液晶ダイレクターが,その上側を傾ける方向を表
している。図から明らかな如く,配向制御傾斜部(113L,11
3R,113U,113D)により上下左右に分割された4つのゾ
ーン(U,D,L,R)では,配向ベクトルはそれぞれの4つの方
向へ向けられる。即ち,液晶ダイレクターは同じ初期垂直配向状態
から,上下左右のゾーン(U,D,L,R)で,4つのそれぞれの
方向へ傾けられる。尚,上で図11を用いて説明した作用は,図1
2においてL−R領域の断面に関するものであったが,U−D領域
の断面についても全く同じ作用があることは言うまでもない。」(
段落【0037】)
(イ)a上記各記載と図面(乙15)によれば,乙15の液晶表示装置
においては,上側電極に形成された配向制御傾斜部(113L,1
13R,113U,113D)のX字型の領域と下側電極に形成さ
れた配向制御傾斜部(103)の帯状領域は,電圧印加時における
液晶の配向方向(傾斜方向)を規制する「ドメイン規制手段」とし
て機能するから,それぞれ「前記第1の基板に設けられ,前記液晶
に電圧を印加した時に前記液晶が配向する方向を規制する,第1の
ドメイン規制手段」(構成要件B)及び「前記第2の基板に設けら
れ,前記液晶に電圧を印加した時に前記液晶が配向する方向を規制
する,第2のドメイン規制手段」(構成要件C)に相当し,「第1
のドメイン規制手段」である配向制御傾斜部のX字型の領域は,図
12に示すように,「第1の方向に延びる直線状成分と前記第1の
方向と略90°異なる第2の方向に延びる直線状成分」(構成要件
D)を有することが認められる。
bしかし,一方で,「第2のドメイン規制手段」である下側の配向
制御傾斜部の帯状領域は,「前記第1の方向に延びる直線状成分と
前記第2の方向に延びる直線状成分」(構成要件E)を有するもの
とはいえないし,また,図12に示すように,基板に垂直な方向か
ら見た時に,X型の切り取り部の直線状成分と長方形の切り取り部
の直線状成分とが,「互いに平行かつ交互に配置されて」(構成要
件F)いるとはいえないから,「前記第1及び第2のドメイン規制
手段により,前記液晶の配向方向が略90°異なる4種類のドメイ
ンが形成され」(構成要件G)ているものでもない。
また,乙15には,構成要件EないしGの構成についての記載や
示唆はない。
(ウ)以上によれば,乙15には,本件発明2の構成要件AないしDが
開示されている。
エ乙18の記載事項
(ア)乙18には,次のような記載がある。
a「(実施例1)図1は,本発明を適用したTN型アクティブマト
リクス液晶表示装置の一部を示す断面図であり,図2はその液晶表
示装置を構成するアクティブマトリクス基板を示す平面図である。
この液晶表示装置は,対向配設されたアクティブマトリクス基板3
1と対向基板32との間に液晶層33が封入されており,アクティ
ブマトリクス基板31には,ガラス基板31a上に,透明電極(画
素電極)31c,線状絶縁膜31dおよび配向膜31eが形成さ
れ,対向基板32にはガラス基板32a上に,カラーフィルタ32
b,透明電極32cおよび配向膜32eが形成されている。液晶層
33の液晶分子は,基板31と32との間で90°ねじれるように
配向させられている。上記基板31,32の端部(図示せず)は樹
脂等により封止され,周辺回路(図示せず)などが実装されてい
る。」(段落【0025】)
b「上記のように構成された本実施例の液晶表示装置においては,
線状絶縁膜31dが並設されており,その線状絶縁膜31dの長辺
各部の向く方向の平均値が,基板上に投影した液晶分子の配向方向
の平均値と交差している。このため,図2に示すように液晶層33
を挟む画素電極31cと透明電極32cとに電圧を印加すると,線
状絶縁膜31dが存在しない液晶層部分と線状絶縁膜31dが存在
する液晶層部分とで,液晶層にかかる電界強度が異なる。その結果
として,線状絶縁膜31dが存在しない液晶層部分,つまり線状絶
縁膜31dの間隔b部分において印加電圧に応じて液晶分子が立ち
上がる角度(矢印)と,線状絶縁膜31dが存在する液晶層部分,
つまり線状絶縁膜31dの線幅a部分において同様の条件で液晶分
子が立ち上がる角度(矢印)とが異なるものとなる。」(段落【0
031】),「上述した立ち上がる角度の異なる部分が1画素内に
存在するため,1つの画素内で液晶分子の配向状態が異なる。この
とき,斜めから液晶表示装置に入射する光(図2の大きい矢印)
は,複数の異なった配向状態の液晶層を通過することになり,旋光
性が完全に失われず,これにより中間調の反転現象を抑制すること
ができ,ノーマリホワイトモードの液晶表示装置においても視野角
依存性を改善することができる。・・・」(段落【0032】)
c「なお,本実施例は線状絶縁膜として波線状のものを形成した
が,三角波状や他の曲がった形状の線状絶縁膜などに形成したりし
てもよい。」(段落【0038】)
d「図7は,本実施例にかかる液晶表示装置を示す断面図である。
この液晶表示装置は,アクティブマトリクス基板31に線状絶縁膜
31dが形成され,対向基板32に線状絶縁膜32dが形成されて
おり,線状絶縁膜31dと32dとが線状絶縁膜の幅方向にずれて
いる。・・・」(段落【0054】)
e「【発明の効果】・・・本発明によれば,1つの画素に対応する
部分において,電極上に,線状の絶縁膜,又は材質の異ならせた絶
縁膜,又は厚みを異ならせた絶縁膜が形成されているので,電界強
度が異なることにより配向状態が異なっている部分を1つの画素に
おいて形成することができる。・・・」(段落【0064】)
(イ)上記各記載と図面(乙18)によれば,乙18には,液晶タイプ
がTN型の液晶表示装置において,図7のとおり,上下の基板(3
1,32)に線状絶縁膜(31dと32d)が設けられているものが
記載されていることが認められる。
しかし,線状絶縁膜31d,32dは,電極上に配置され,液晶に
印加される電界強度を異なるものとし,液晶分子が立ち上がる角度を
変化させるものであって,電圧印加時における液晶分子の配向方向を
規制する「ドメイン規制手段」に相当するものではないから,本件発
明2の「第1のドメイン規制手段」(構成要件B)又は「第2のドメ
イン規制手段」(構成要件C)に当たらない。
また,乙18には,構成要件BないしGの構成についての記載や示
唆はない。
これに反する被告の主張は,採用することができない。
オ容易想到性の有無
(ア)被告は,乙9,12,15ないし18に開示された液晶表示装置
は,「ドメイン規制手段」を備えた液晶表示装置である点で技術分野
が共通することに照らすならば,当業者であれば,乙9記載発明②又
は乙15記載発明において,乙12,16ないし18に基づいて,相
違点に係る本件発明2の構成要件E(「第2のドメイン規制手段」
が「前記第1の方向に延びる直線状成分と前記第2の方向に延びる直
線状成分とを有」する構成)及び構成要件F(「前記第1及び第2の
基板に垂直な方向から見た時に,前記第1のドメイン規制手段の直線
状成分と前記第2のドメイン規制手段の直線状成分とが,互いに平行
かつ交互に配置され」る構成)を採用し,本件発明2を容易に想到す
ることができた旨主張する。
しかし,被告の主張は,以下のとおり理由がない。
a前記イ,ウのとおり,乙9及び15には,構成要件EないしGの
構成についての記載や示唆はない。
b前記(1)イのとおり,乙12の液晶表示装置には,構成要件Gの構
成についての開示がない。
なお,被告は,乙12の図8を根拠に,図8には,構成要件Gの
構成の開示がある旨主張する。しかし,図8に示されたX型の開口
部(26A)は,X型の交わる部分の角度は「略90°」とはいえ
ないから,「第1の方向に延びる直線状成分と前記第1の方向と略
90°異なる第2の方向に延びる直線状成分」(構成要件D)を有
するものではなく,また,図8に示された液晶分子は,画素の中心
部に向かうように放射状に配向し,「4種類のドメイン」が形成さ
れているものではないから,構成要件Gの開示があるものとは認め
られず,被告の上記主張は失当である。
c前記(2)イ,ウのとおり,乙16及び乙17には,構成要件D,
E,Gの構成の開示がなく,また,乙16及び乙17の「屈曲スト
ライプパターン」の屈曲角度を「略90°」に設定することは,各
発明の効果を阻害することとなる。
d前記エのとおり,乙18には,構成要件BないしGの構成につい
ての記載や示唆はない。
eさらに,本件発明2は,VA方式の液晶表示装置において,1画
素内に液晶分子の配向方向が異なる4つのドメインを形成し,液晶
の配向方向が液晶表示装置の表示面への投影成分が90°ずつ異な
る方向になるようにすることを実現するための構成として,構成要
件DないしGをすべて備える構成を採用し,これにより第1のドメ
イン規制手段及び第2のドメイン規制手段によって形成されたドメ
イン内の液晶分子を安定的に配向させた点において技術的意義があ
ること(前記1(2)イ(ウ))に照らすならば,構成要件DないしGを
すべて備える構成とすることが,本件発明2の技術的思想の中核を
成す特徴的部分であるものと認められる。
しかし,乙9,12,15ないし18のいずれにおいても,構成
要件DないしGをすべて備える構成を採用することを示唆する記載
は認められない。
f上記aないしeによれば,当業者といえども,乙9又は乙15に
記載された発明と,乙12,16ないし18に記載された発明に基
づいて,本件発明2を容易に想到することができたものとは認めら
れない。
(イ)以上によれば,乙9又は乙15に記載された発明と,乙12,1
6ないし18に記載された発明に基づいて,本件発明2を容易に想到
することができたとの被告の主張(無効理由3)は,理由がない。
(4)まとめ
以上のとおり,被告主張の無効理由1ないし3はいずれも理由がないか
ら,特許法104条の3第1項の規定により,本件特許権2の行使の制限
を主張する被告の主張は理由がない。
5結論
(1)差止めの必要性
前記1ないし3のとおり,イ号液晶モジュール,ロ号液晶モジュール及
びハ号液晶モジュールは,本件発明2の技術的範囲に属するから,被告に
よるイ号液晶モジュールを搭載するイ号液晶テレビ,ロ号液晶モジュール
を搭載するロ号液晶モニター及びハ号液晶モジュールを搭載するハ号液晶
モニターの輸入,販売,販売の申出は,いずれも本件特許権2の侵害に当
たる。
そして,被告は,イ号液晶テレビ,ロ号液晶モニター及びハ号液晶モニ
ターを譲渡し,貸し渡し,若しくは輸入し,又はその譲渡若しくは貸渡し
の申出(譲渡又は貸渡しのための展示を含む。)を行って原告の本件特許
権2を侵害するおそれがあるものと認められるから,原告は,被告に対
し,上記各行為の差止めを求める必要性がある。
また,被告が占有するイ号液晶テレビ,液晶モニター及びハ号液晶モニ
ターについて,原告は,被告に対し,侵害の予防に必要な行為として廃棄
を求めることができる。
一方で,被告の販売にかかるイ号液晶テレビ,ロ号液晶モニター及びハ
号液晶モニターは,被告が,韓国法人のサムスン電子から輸入したもので
あって,被告が自ら上記各製品を製造していることを認めるに足りる証拠
はなく,また,被告が上記各製品の半製品を占有していることを認めるに
足りる証拠もない。
したがって,原告が,被告に対し,イ号液晶テレビ,ロ号液晶モニター
及びハ号液晶モニターの生産の差止め並びにその半製品の廃棄を求める必
要性は,いずれも認められない。
(2)まとめ
以上によれば,原告の本件特許権2に基づく請求は,被告に対し,イ号
液晶テレビ,ロ号液晶モニター及びハ号液晶モニターの生産の差止めを求
める部分及びその半製品の廃棄を求める部分を除き,いずれも理由がある
からこの限度で認容することとし,原告の本件特許権1及び3に基づく請
求のうち,上記生産の差止めを求める部分及び上記半製品の廃棄を求める
部分は,本件特許権2に基づく請求と同様に,差止め及び廃棄の必要性が
認められないから,その余の点について判断するまでもなくこれを棄却す
ることとし,訴訟費用の負担について民事訴訟法64条ただし書,61条
を適用して被告に全部負担させることとし,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第46部
裁判長裁判官大鷹一郎
裁判官関根澄子
裁判官杉浦正典
別紙イ号物件目録
サムスン電子株式会社製の型番LTA400WTの液晶モジュールを搭載する
液晶テレビ(製品型番LN40R71Bの40型液晶テレビを含む。)
別紙ロ号物件目録
サムスン電子株式会社製の型番LTM190E4の液晶モジュールを搭載する
液晶モニター(製品型番SyncMaster971Pの19型液晶モニターを
含む。)
別紙ハ号物件目録
サムスン電子株式会社製の型番LTM300M1P01の液晶モジュールを搭
載する液晶モニター(製品型番SyncMaster305Tの30型液晶モニ
ターを含む。)

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残り応募人数(2019年5月1日現在)
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