弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人鶴見祐策の上告理由第一点ないし第六点、並びに上告人の上告理由第
一、第二点について
 原審が適法に確定した事実関係によれば、本件税理士顧問契約は、被上告会社が、
税理士である上告人の高度の知識及び経験を信頼し、上告人に対し、税理士法二条
に定める租税に関する事務処理のほか、被上告会社の経営に関する相談に応じ、そ
の参考資料を作成すること等の事務処理の委託を目的として締結されたというので
あるから、全体として一個の委任契約であるということができる。
 ところで、委任契約は、一般に当事者間の強い信頼関係を基礎として成立し存続
するものであるから、当該委任契約が受任者の利益をも目的として締結された場合
でない限り、委任者は、民法六五一条一項に基づきいつでも委任契約を解除するこ
とができ、かつ、解除にあたつては、受任者に対しその理由を告知することを要し
ないものというべきであり、この理は、委任契約たる税理士顧問契約についてもな
んら異なるところはないものと解するのが相当である。
 所論は、税理士顧問契約においては、税理士が受任事務を処理するにあたつては
税理士法により諸種の規制を受けており、これによつて委任者の民法六五一条一項
に基づく解除権は制限されていると主張する。しかしながら、税理士法による規制
は、税理士顧問契約の委任契約としての性質をなんら変更するものでないから、同
法による規制があるからといつて、委任者の契約解除権が制限されていると解する
ことはできない。論旨は、独自の見解であつて、採用することができない。
 所論は、さらに、本件税理士顧問契約は、顧問料を支払う旨の特約があるから、
受任者の利益をも目的として締結された契約であると主張する。しかしながら、委
任契約において委任事務処理に対する報酬を支払う旨の特約があるだけでは、受任
者の利益をも目的とするものといえないことは、当裁判所の判例とするところであ
り(最高裁昭和四二年(オ)第一三八四号同四三年九月三日第三小法廷判決・裁判
集民事九二号一六九頁)、また、税理士顧問契約における受任事務は、一般に、契
約が長期間継続することがその的確な処理に資する性質を有し、当事者も、通常は、
相当期間継続することを予定して税理士顧問契約を締結するものであり、本件税理
士顧問契約において、依頼者たる被上告会社から継続的、定期的に支払われていた
顧問料が上告人の事務所経営の安定の資となつていた等の原判決判示の事由も、こ
れをもつて受任者の利益に該当するものということはできない。論旨は、独自の見
解であつて、採用することができない。
 以上説示したところによれば、本件税理士顧問契約は、被上告会社が民法六五一
条一項に基づき、いつでも解除しえたものであるから、被上告会社がした本件解除
の意思表示により終了したものというべきであり、これと結論を同じくする原審の
判断は、結局、正当として是認することができる。所論中その余の点は、判決の結
論に影響を及ぼさない原判決の説示部分を論難するか、又は独自の見解に基づいて
原判決の不当をいうものにすぎず、論旨はいずれも採用することができない。
 上告代理人鶴見祐策の上告理由第七点及び第八点、並びに上告人の上告理由第三
点について
 所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当とし
て是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、ひつきよう、原審
の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するか、又は独自の見解に基づ
いて原判決を論難するものにすぎず、いずれも採用することができない。
 よつて、民訴法四〇一条、三九六条、三八四条、九五条、八九条に従い、裁判官
全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    木 戸 口   久   治
            裁判官    横   井   大   三
            裁判官    伊   藤   正   己
            裁判官    安   岡   滿   彦

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