弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件各上告を棄却する。
         理    由
 被告人A、同B、同C、同Dの弁護人上田誠吉、同福田力之助の上告趣意につい
て。
 所論は要するに被告人等が憲法三八条一項に基づきその氏名を黙秘し、監房番号
の自署、拇印等により自己を表示し弁護人が署名押印した弁護人選任届を適法な弁
護人選任届でないとしてこれを却下し結局自己の氏名を裁判所に開示しなければな
らないようにした第一審の訴訟手続及びこれを認容した原判決は憲法三八条一項の
解釈を誤り、且つ同三七条三項に違反するものであるというに帰着する。
 記録によれば第一審において被告人等はそれぞれ被疑者又は被告人として所論の
ような弁護人選任届を提出したが、その届出はいずれも不適法として却下され、裁
判所において各被告人のため国選弁護人を選任したところ、被告人等はそれぞれそ
の氏名を開示して私選弁護人選任の届出をなすに至つたことは所論のとおりである。
 しかし、被告人Bを除くその余の被告人等については、いずれも第一審第一回公
判期日以降その私選弁護人立会の下に審理が行われているのであり、また被告人B
についても第一回公判期日は国選弁護人立会の下に開廷され若干の審理がなされ弁
論の続行となつたのであるが、第二回公判期日以降はその私選弁護人立会の下に証
拠調をはじめその他すべての弁論が行われているのであり、しかも、所論弁護人選
任届却下決定に対して被告人の一部からなされた特別抗告も取下げられ、この点に
ついては爾後別段の異議もなく訴訟は進行され第一審の手続を了えたのであつて、
被告人等においてその弁護権の行使を妨げられたとは認められない。それ故憲法三
七条三項違反の所論は採るを得ない。(昭和二四年(れ)二三八号同年一一月三〇
日大法廷判決、判例集三巻一一号一八五七頁以下参照)。
 次にいわゆる黙秘権を規定した憲法三八条一項の法文では、単に「何人も自己に
不利益な供述を強要されない。」とあるに過ぎないけれど、その法意は、何人も自
己が刑事上の責任を問われる虞ある事項について供述を強要されないことを保障し
たものと解すべきであることは、この制度発達の沿革に徴して明らかである。され
ば、氏名のごときは、原則としてここにいわゆる不利益な事項に該当するものでは
ない。そして、本件では、論旨主張にかかる事実関係によつてもただその氏名を黙
秘してなされた弁護人選任届が却下せられたためその選任の必要上その氏名を開示
するに至つたというに止まり、その開示が強要されたものであることを認むべき証
跡は記録上存在しない。(昭和二三年(れ)一〇一〇号同二四年二月九日大法廷判
決、判例集三巻二号一四六頁以下参照)。それ故、論旨はすべて理由がない。
 被告人Aの上告趣意について。
 論旨は本件被告人等の行動は無法なるレツド・パージに対して労働者が多数結集
して反対の意思を表示し、その交渉をなすためになされた団体行動であり、憲法二
八条の保障するところであると主張する。しかし事実審の確定した事実によれば、
E株式会社がその労働組合の承諾を得て人員の整理を発表した際、被整理者及びそ
の人員整理に反対する労働組合の一部のもの、その他外部の友誼団体員等約一五〇
名がF駅構内にある同会社労働組合本部に赴き労組委員長以下の幹部に対してさき
になした人員整理承諾の決議の取消その他の要求をなし、同委員長等においてその
協議をなす間、同駅中央ホームで気勢をあげていたとき、右交渉応援のため同所に
来集していた被告人等は集団の威力を背景にその業務に従事中の新聞記者又は警察
職員に対し判示のように殴る蹴る等の暴行を加え傷害したというのである。かくの
如き労働組合員相互間の交渉のため、しかもその組合員以外の多数の者が参加して
なされた集団行動は憲法二八条の保障する団体行動には該当しないのみならず、判
示の如き暴行罪、傷害罪等を構成するような行為はたとえそれが憲法二八条にいわ
ゆる動労者の団体行動の際行われたとしてもこれを正当化するいわれはない。(昭
和二二年(れ)三一九号同二四年五月一八日大法廷判決、判例集三巻六号七七二頁
以下参照)。それ故、所論違憲の主張はその理由がない。またレツド・バージその
ものが憲法に違反するか否かも本件犯行の成否を左右するものではない。その他の
所論は畢竟事実誤認の主張に帰し、論旨はすべて採るを得ない。
 よつて刑訴四〇八条に従い裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。
  昭和三二年二月二〇日
     最高裁判所大法廷
         裁判長裁判官    田   中   耕 太 郎
            裁判官    真   野       毅
            裁判官    小   谷   勝   重
            裁判官    島           保
            裁判官    斎   藤   悠   輔
            裁判官    藤   田   八   郎
            裁判官    河   村   又   介
            裁判官    小   林   俊   三
            裁判官    入   江   俊   郎
            裁判官    池   田       克
            裁判官    垂   水   克   己
 裁判官本村善太郎は退官につき署名押印することができない。
         裁判長裁判官    田   中   耕 太 郎

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