弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人臼居直道の上告理由について
 原判決の引用する第一審判決添付別紙目録記載の土地(以下「本件土地」という。)
は、昭和一四年四月二七日上告人が家督相続によりその所有権を取得したものであ
るが、かねてより訴外Dが小作人としてこれを耕作し、その小作料は、同人から本
件土地の管理人のように振舞つていた訴外Eに支払われていたところ、昭和三一年
七月二三日ごろ、上告人の代理人と称するEとDとの間で、上告人がDに本件土地
を代金六〇万円で売り渡す旨の合意が成立し、Dは、右譲受につき農地法三条所定
の許可を受けたうえで、昭和三二年三月九日その所有権移転登記を経由し、そのこ
ろ代金全額を支払つた。
 かくしてDが本件土地の所有権を取得したものと信じてその占有を始めたが、本
件土地の一部についてはその後Dによつてされた売買、交換に基づいてこれを取得
した者がDの占有を承継している。
 なお、Eには上告人を代理するなんらかの権限を有していたと認めるに足りる証
拠はない。
 以上は、原審が適法に確定したところであつて、本件土地の譲渡につきされた農
地法所定の許可及び所有権移転登記の各申請手続になんらかの瑕疵があつたことは
確定されていないところ、土地所有者である上告人には、すくなくとも、Eに公然
と本件土地の管理人のような行動をする余地を与えた(事柄の性質上長期にわたる
ものであつたと推測することができ、原審認定の趣旨もここにあるものと考えられ
る。)等の点において権利者として本件土地につき適切な管理を怠つていたものと
いわれてもやむをえないところがあり、これらの点からすると、右所有権移転登記
を経由したDがEを通じて適法に本件土地を譲り受けることができるものと信じ、
その代金を支払つたことは無理ではないといえる。従つて、以上の事実関係のもと
においては、Eに上告人を代理する権限がなかつたことを考慮に入れても、本件土
地の小作人としてこれを他主占有していたDは、遅くとも右の登記がされた昭和三
二年三月九日には民法一八五条にいう新権原により所有の意思をもつて本件土地の
占有を始めたものであり、かつ、その占有の始めに土地所有権を取得したものと信
じたことには過失がなかつたものというべきである。これと同旨の原審の判断は正
当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、採用するこ
とができない。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主
文のとおり判決する。
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    岸       盛   一
            裁判官    下   田   武   三
            裁判官    岸   上   康   夫
            裁判官    団   藤   重   光

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