弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人板井一治および同鍛治利一の各上告理由書は、末尾に添えた別紙の通
りであるが、争点は(1)本件賃貸借は一時使用を目的としたものであつたかどう
かということ、および(2)本件賃貸借契約の解約申入れは借家法第一条ノ二のい
わゆる「正当ノ事由」があつたかどうかということ、である。
 (一)前記(1)の問題につき、上告人A(原告、控訴人)は、本件建物は「手
持の瀬戸物を売るまでの間」という一時使用の目的で貸したのだと主張し、被上告
人B1同B2(被告、被控訴人)は「B2がこゝで営業を継続する限り賃貸すると
いう特約」があつたと主張したが原判決はそのいずれをも是認せず、「期間の定な
く」賃貸借が行われたものと認定した。鍛治上告理由第一点はこの認定を非難する
が論旨は一応考慮の価値がある。上告人は甲乙二個の建物を持つており、乙はやが
て売るつもりであり、甲は貸してもよいつもりだつたというのなら被上告人からの
借家の申入に対しては、乙は留保して甲を貸すのが常識と思われる。それをことさ
らに乙を貸し、約二ヶ月後乙が売れることになると、甲を貸して被上告人を引越さ
せたのは、少くとも当初一時貸しという話があつたのではないかと疑わせる。なお、
上告人の他の貸家については賃貸借証書が作成されているのに本件賃貸借について
は契約書のないことなどにも、一時貸のにおいがしないでもない。しかし他方、手
持の瀬戸物が売り切れるまで貸すというのはかなり特異な事であり、賃貸借の契約
証書も常に必ず作成するものとも限らず、また乙建物を最初に貸したのも、それが
いつ売れるかわからず、あけて置くのももつたいないし、売れそうになつたら甲建
物に移つてもらつてもよい、というくらいの考へだつたと言えないこともないから、
原判決が本件賃貸借を期間の定めなきものと認定したのも、必ずしも経験則に反す
るものとはなし得ない。要するに右所論の事実その他論旨指摘の事実から本件賃貸
借が借家法第八条の「一時使用ノ為建物ノ賃貸借ヲ為シタルコト明ナル場合」であ
ることを当然に認めなければならないものではなく、論旨は結局原審の適法な事実
認定を攻撃するに外ならず、上告の理由とならぬ。
 (二)板井論旨および鍛治論旨第二点は、前記(2)の問題につき原審が上告人
の解約申入れを「正当ノ事由」あるものと認めなかつたことを非難する。上告人が
わでは、上告人が問題の建物で文房具商を営もうと計画していたことおよび、住居
の定まらぬため結婚ができないことを明渡請求の理由としたが、原判決ば、右主張
の営業等についての具体的の計画も立てられておらず、開業がさし迫つていたとい
う状態ではなかつたこと、および上告人は現在まで独身で配偶者たるべき人もきま
つておらず、かつ父の家に余裕があつてそこに同居して何等の不都合も生じない状
態であること、を認定したのである。この二つの点は結局相対的の判断であつて、
論旨も言う通り、住宅店舗がきまらないから商売の具体的計画も立たず縁談も起ら
ないのだ、と言えないことはないが、本件の具体的事情を綜合して借家法第一条ノ
二の「正当ノ理由」に当らぬと判断した原判決が経験則に反するとまでは言い得な
い。
 (三)鍛治論旨第三点は、原判決が借家法第一条ノ二の「正当ノ事由」の有無は
解約申入の時を標準として判断すべきものと解し、上告人がわで主張した被上告人
がDデパートで瀬戸物営業をしていること及びE百貨店における営業準備のことは、
「いずれも右解約申入の時たる昭和二十二年四月のみならずその効力発生の時たる
同年十二月末日以後に生じたと称する事実であるから、これを判断の資料とすべき
ものではない」と判示したことを非難する。この非難は理論上は理由ありと思われ
る。なるほど法文には「正当ノ事由アル場合ニ非サレハ……解約ノ申入ヲ為スコト
ヲ得ス」とあるけれども、「正当ノ事由」はひつきよう解約の申入の効力発生のた
めの一要件にほかならないのだから、事実審の口頭弁論終結当時までに「正当ノ事
由」があることになれば解約の申入は効力を生じたもの、と判断すべきである。そ
れゆえこの誤つた見解によつて解約申入後の事情を判断の資料に供しなかつたのは、
判断を遺脱したことになる。しかしながら、借家法第一条ノ二には賃貸人がわに「
自ラ使用スルコトヲ必要トスル場合其ノ他正当ノ事由アル場合」とあるところ、本
件では、上告人(原告)が家屋明渡を請求する事由自体が正当の事由にならないこ
とを原審が認定しており、仮りに賃貸借解約申入後の被上告人がわの事情が論旨主
張の通りであつたとしてもその認定をくつがえすに足らず、従つてその事情につき
判断しなかつたことが判決に影響を及ぼすこととならないのであつて、原判決には
結局判断遺脱の違法なきに帰するのである。
 (四)鍛治論旨第四点は、被上告人B2が第一審においてはDデパートで瀬戸物
店を開いていることを認めながら、原審に至つて右営業は弟Fがやつているもので
あると主張するに至つたことを指摘し、自白が取消し得るかどうかについて原判決
が何らの判示をしなかつたことを違法なりと非難する。しかし、原審は右営業者は
弟Fなる旨の主張を採用していないのであり、かつ前段に述べた通り、本件におい
てはその点はいづれにせよ問題にならないのであるから論旨は結局上告の理由にな
らない。
 (五)鍛治論旨第五点は、E百貨店における瀬戸物営業についての原判決の判示
を非難するが、これまた前段と同様、本件においては上告の理由にならない。
 よつて民事訴訟法第四〇一条第八九条第九五条により、主文の通り判決する。
 以上は当法廷裁判官全員一致の意見である。
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    長 谷 川   太 一 郎
            裁判官    井   上       登
            裁判官    島           保
            裁判官    河   村   又   介
            裁判官    穂   積   重   遠

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