弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
1近畿運輸局長が平成21年7月10日付けで原告Xに対してした輸送
施設使用停止処分を取り消す。
2近畿運輸局長が平成21年7月6日付けで原告Yに対してした輸送施
設使用停止処分を取り消す。
3原告X及び原告Yのその余の請求をいずれも棄却する。
4訴訟費用はこれを2分し,その1を被告の負担とし,その余を原告X
及び原告Yの負担とする。
事実及び理由
第1請求
1甲事件
主文1項と同旨
2乙事件
主文2項と同旨
3丙事件
(1)被告は,原告Xに対し,94万2345円及びこれに対する平成21年7
月10日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2)被告は,原告Yに対し,339万0880円及びこれに対する平成21年
7月6日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要
1事案の骨子
(1)甲事件及び乙事件は,一般乗用旅客自動車運送事業者である原告X及び原
告Y(以下「原告ら」という。)が,近畿運輸局長からそれぞれ道路運送法
40条に基づく輸送施設使用停止処分を受けたため,その根拠とされた違反
事実の認定には事実誤認があり,また,減車していないことや増車したこと
を理由として処分を加重することは,行政手続法32条違反であり,考慮す
べきでない事情を考慮するものであるから,上記各処分は裁量権の範囲を逸
脱し又は濫用した違法なものであるなどと主張して,それぞれ上記各処分の
取消しを求めている事案である。
(2)丙事件は,原告らが,上記各処分は国家賠償法上も違法であると主張して,
被告に対し,同法1条1項に基づき,上記各処分による逸失利益及び弁護士
費用の損害賠償(遅延損害金を含む。)をそれぞれ求めている事案である。
2法令の定め等
(1)道路運送法40条は,国土交通大臣は,一般旅客自動車運送事業者が,①
道路運送法若しくは同法に基づく命令若しくはこれらに基づく処分又は許可
若しくは認可に付した条件に違反したとき(1号),②正当な理由がないの
に許可又は認可を受けた事項を実施しないとき(2号),③同法7条1号,
3号又は4号に該当することとなったとき(3号)には,6月以内において
期間を定めて自動車その他の輸送施設の当該事業のための使用の停止若しく
は事業の停止を命じ,又は許可を取り消すことができる旨規定する。
なお,一般乗用旅客自動車運送事業について,同法40条に基づく処分を
行う国土交通大臣の権限は,同法88条2項,道路運送法施行令1条2項に
より地方運輸局長に委任されている。
(2)道路運送法27条1項は,一般旅客自動車運送事業者は,事業計画の遂行
に必要となる員数の運転者の確保,事業用自動車の運転者がその休憩又は睡
眠のために利用することができる施設の整備,事業用自動車の運転者の適切
な勤務時間及び乗務時間の設定その他の運行の管理,事業用自動車の運転者,
車掌その他旅客又は公衆に接する従業員の適切な指導監督,事業用自動車内
における当該事業者の氏名又は名称の掲示その他の旅客に対する適切な情報
の提供その他の輸送の安全及び旅客の利便の確保のために必要な事項として
国土交通省令で定めるものを遵守しなければならない旨規定する。
旅客自動車運送事業運輸規則(平成22年国土交通省令第30号による改
正前のもの。以下「運輸規則」という。)は,旅客自動車運送事業の適正な
運営を確保することにより,輸送の安全及び旅客の利便を図ることを目的と
して(1条),過労防止等(21条),点呼等(24条),乗務記録(25
条),運行記録計による記録(26条)等について,旅客自動車運送事業者
が遵守すべき事項を定めている。
(3)近畿運輸局長は,道路運送法40条に基づく行政処分につき,「一般乗用
旅客自動車運送事業者に対する行政処分等の基準について」(甲2,乙1。
近運監一公示第6号,近運自二公示第51号,近運技安公示第8号。以下「処
分基準公示」という。)及び「一般乗用旅客自動車運送事業者に対する違反
条項ごとの行政処分等の基準について」(甲3,乙2。近運自監公示第7号,
近運自二公示第52号,近運技安公示第9号。以下「個別基準公示」という。)
を定めている。また,近畿運輸局は,処分基準公示の解釈運用に関し,平成
20年6月19日付け「『一般乗用旅客自動車運送事業者に対する行政処分
等の基準について』の解釈運用について」(乙37。以下「解釈運用通達」
という。)を定めている。
処分基準公示の内容は別紙2記載のとおりであり,個別基準公示の内容は
別紙3記載のとおりである(なお,個別基準公示の別添の基準を「個別基準
別添表」という。)。
(4)処分基準公示及び個別基準公示の内容
ア違反行為ごとの行政処分等の原則的な基準
一般乗用旅客自動車運送事業者の法令に反する行為については,①当該
違反を確認した日から過去3年以内に同一営業所において同一の違反によ
る行政処分等を受けていない場合を「初違反」,②1度受けている場合を
「再違反」,③2度以上受けている場合を「再々違反以上の累違反」(以
下「累違反」という。)と分類された上(処分基準公示1(2)),個別の違
反行為ごとに,それぞれ,相当とする行政処分等についての原則的な基準
が定められている(処分基準公示1(2),(4),(7),個別基準別添表)。
イ違反行為の個別事情を考慮した行政処分等の加減
次に,違反行為の個別事情を考慮し,その原因となった一般乗用旅客自
動車運送事業者の法令に反する行為が同じであっても,行政処分等を加減
することとされている。
(ア)違反行為の内容による加重
輸送の安全確保義務に関する規定に違反した場合のうち一定の場合に
該当する場合に限っては,初違反の場合は再違反の基準を,再違反の場
合は累違反の基準をそれぞれ適用し(処分基準公示1(5),(4)),当該
輸送の安全確保義務違反により,又は同違反に伴い引き起こした事故の
死傷者数に応じ,基準日車等が2倍を上回らない範囲で加重する(処分
基準公示1(5))。
(イ)違反行為が行われた営業所の地域による加重
a特定特別監視地域に指定された大阪市域交通圏(大阪市,豊中市,
吹田市,守口市,門真市,東大阪市,八尾市,堺市〔旧南河内郡美原
町の区域を除く。〕及び池田市のうち大阪国際空港の区域)を始めと
する地域等については,タクシーの供給過剰により労働条件の悪化や
輸送の安全性の低下の問題が生じ,又は生じるおそれがある地域であ
るため,当該地域内の営業所における一般乗用旅客自動車運送事業者
の労務管理や安全管理等に係る一定の違反(個別基準別添表中に(※),
(◎)等が付されている違反行為等)については,指定地域の種類や
監査時における事業者の車両数の増減状況等に応じ,基準日車等が加
重されることとなっている(処分基準公示1(3),同別表,個別基準別
添表欄外(注)3,解釈運用通達1(2))。
b具体的には,処分基準公示1(3)は,特別監視地域(特定特別監視地
域を含む。)及び緊急調整地域に指定された地域内の営業所における
一定の違反については,処分日車数を別表のとおり取り扱うものとす
る旨規定し,同別表は,特別監視地域(特定特別監視地域を含む。)
の場合の処分日車数の加重の倍数等につき,次のとおり定めている(以
下,①から④までをまとめて「本件加重」という。)。
①特別監視地域に指定されたときに当該事業者の当該営業区域内の
営業所に現に配置していた事業用自動車の総数(以下「基準車両数」
という。)を特別監視地域に指定された後に増加させず,基準車両
数の5%以上を減少させていない者による違反(上記別表1)
1.5倍の加重
②基準車両数を特別監視地域に指定された後に増加させた者による
違反(同別表4)
3倍の加重
③基準車両数を特別監視地域に指定された後に増加させず,基準車
両数の5%以上を減少させている者による違反(同別表5)
1倍の加重
④特別監視地域の上記②等に該当する違反に対する処分基準が警告
の場合にあっては,10日車の自動車等の使用停止とする(同別表
適用欄)。
cなお,大阪地区(大阪市,豊中市,吹田市,守口市,門真市,東大
阪市,八尾市,堺市〔旧南河内郡美原町の区域を除く。〕)を始めと
する運輸規則22条1項に基づく乗務距離の最高限度規制に係る指定
地域(乙16)内の一般乗用旅客自動車運送事業者が,個別基準別添
表中に(※)が付されている違反行為を行った場合についても,基準
日車等が加重されることとなっている(個別基準別添表,同表欄外(注)
1)。
(ウ)違反行為の態様等による加減
上記ア並びに上記(ア)及び(イ)による加重の可否の判断は,形式的,機
械的に行われるものであるところ,各個別の事案に応じた柔軟な運用を
行わせるという道路運送法40条の趣旨に鑑み,違反行為の態様等によ
り,行政処分等の加重・軽減を行うことができることとされている(処
分基準公示1(6))。
ウ違反行為が2つ以上ある場合における基準日車数等の合算方法
違反行為が2つ以上ある場合の処分日車数は,①運輸規則38条1項の
運転者に対する指導監督に係る違反(以下「指導監督義務違反」という。)
のうち,その最も重い違反の基準日車等にその他の違反の基準日車等の2
分の1をそれぞれ加え,②上記①以外の違反のうち,その最も重い違反の
基準日車等にその他の違反の基準日車等の2分の1をそれぞれ加えて算出
することとされている(処分基準公示3(3))。
そして,算出された処分日車数が5の整数倍以外となった場合には,処
分日車数を5の整数倍に切り上げることとされている(解釈運用通達3
(2))。
3前提となる事実(当事者間に争いのない事実及び証拠等により容易に認めら
れる事実。以下,書証番号は特に断らない限り枝番号を含むものとする。)
(1)原告Xに関する経緯(甲A1,6~13,16~22,弁論の全趣旨)
ア原告Xは,近畿運輸局長から,平成20年6月27日,営業区域を大阪
市域交通圏とする一般乗用旅客自動車運送事業許可を受け,同日,中型車
2.0キロメートルまでの初乗運賃を500円とすること等を内容とする
同事業の運賃及び料金の認可を受けた。
イ原告Xは,同年10月18日,上記許可に係る一般乗用旅客自動車運送
事業について,事業用自動車12両をもって運輸を開始し,同年11月4
日,近畿運輸局長に対し,上記開始の届出をした。
ウ原告Xは,平成21年2月2日,近畿運輸局大阪運輸支局長に対し,同
年4月2日(実施予定日)に事業用自動車(タクシー)を29両増車する
旨の事業計画(事業用自動車の数)変更の事前届出書を提出した。
エ近畿運輸局大阪運輸支局長は,原告Xに対し,同年2月25日,上記事
前届出による増車の実施は,実働率が基準を満たすこととなるまで見合わ
せるよう勧告した。
オ近畿運輸局大阪運輸支局は,同年3月3日,原告Xの本社営業所の監査
を実施した。
カ原告Xは,近畿運輸局大阪運輸支局長に対し,上記エの勧告に対し同年
3月25日付けで代理人弁護士作成の質問書を送付した上,同年4月2日
頃,前記ウの事前届出書のとおり事業用自動車を29両増車した。
キ原告Xは,近畿運輸局大阪運輸支局長に対し,同年5月18日,自動車
車庫の増設を内容とする事業計画変更申請を行い,さらに,同日,同年7
月18日(実施予定日)に事業用自動車(タクシー)を52両増車する旨
の事業計画(事業用自動車の数)変更の事前届出書を提出した。
ク近畿運輸局長は,原告Xに対し,同年5月19日,道路運送法40条に
基づく輸送施設(事業用自動車)の使用停止処分を行う予定であるとして,
弁明書の提出についての通知をした。
ケ原告Xは,近畿運輸局長に対し,同年6月2日付けで弁明書を提出する
とともに,代理人弁護士作成の意見書を提出した。
コ近畿運輸局長は,原告Xに対し,同年7月10日,道路運送法40条に
基づき,事業用自動車6両につき,うち5両については同月16日から2
0日までの5日間,うち1両については同月16日から25日までの10
日間(合計35日車),輸送施設の当該事業のための使用を停止すること
を命じた(近運自監第157号。以下「本件X処分」という。甲A1)。
別紙4は本件X処分の通知書(以下「X通知書」という。)であり,本
件X処分において根拠とされた違反事実等はX通知書別紙の番号1及び2
に記載のとおりである(以下,同違反事実等を上記番号順に「X違反事実
1」「X違反事実2」という。)。なお,同別紙の番号3及び4の違反事
実については,警告又は勧告にとどまり,本件X処分の根拠とはされてい
ない。
(2)本件X処分における処分日車数の算定根拠
本件X処分における処分日車数の算定根拠は,次のとおりである(なお,
X違反事実1及び2の存否については,後述のとおり,当事者間に争いがあ
る。)。
ア各違反事実ごとの基準日車等
(ア)X違反事実1(点呼の記録義務違反・記録事項の不備)
違反事実及び適用条項はX通知書別紙番号1記載のとおり。
上記違反については,①初違反であったから,その基準日車等は,記
録の不備率50パーセント以上の場合における初違反の基準日車等であ
る10日車を基準として検討され(個別基準別添表4枚目。以下略),
②上記違反については,個別基準別添表中に(※)が付されている違反
行為であったところ,原告Xが運輸規則22条1項に基づく乗務距離の
最高限度規制に係る地域に指定されていた大阪地区内の一般乗用旅客自
動車運送事業者であった(以下「加重要件※」という。原告Yについて
も同じ。)から,初違反10日車の違反は初違反15日車に加重され(個
別基準別添表欄外(注)1。),さらに,③上記違反に係る本社営業所
が特定特別監視地域に指定されていた大阪市域交通圏内の営業所であっ
たため,処分基準公示別表に従って加重(本件加重)されることとなっ
たが,原告Xは,基準車両数を特定特別監視地域に指定された後に増加
させず,基準車両数の5パーセント以上減少させていなかったため,そ
の基準日車等は,15日車を1.5倍して22.5日車となった(処分
基準公示別表1)。
(イ)X違反事実2(乗務等の記録義務違反・記録事項の不備)
違反事実及び適用条項はX通知書別紙番号2記載のとおり。
上記違反については,①初違反であったから,その基準日車等は,記
録の不備率50パーセント以上の場合における初違反の基準日車等であ
る10日車を基準として検討され,②上記違反については,個別基準別
添表中に(※)が付されている違反行為であったから,加重要件※によ
り,初違反10日車の違反は初違反15日車に加重され,さらに,③本
件加重により,その基準日車等は15日車を1.5倍して22.5日車
となった。
イ基準日車数の合算
原告Xの本社営業所における違反行為は2つ以上であったところ,その
中に指導監督義務違反はなかったから,最も重い違反の1つであったX違
反事実1の基準日車等(22.5日車)にその他の違反の基準日車等の2
分の1(11.25日車)が加えられ,処分日車数は,33.75日車と
5の整数倍以外となったため,5の整数倍に切り上げ35日車とされた。
(3)原告Yに関する経緯(甲B1,2,4,5,乙76,弁論の全趣旨)
ア原告Yは,平成18年3月30日,近畿運輸局長から,営業区域を大阪
市域交通圏とする一般乗用旅客自動車運送事業許可を受け,同年11月7
日,中型車2.0キロメートルまでの初乗運賃を500円とすること等を
内容とする同事業の運賃及び料金の認可を受けた。
イ原告Yは,平成20年11月19日,近畿運輸局大阪運輸支局長に対し,
事業用自動車(タクシー)を増車する旨の事業計画(事業用自動車の数)
変更の事前届出書を提出した。
ウ近畿運輸局大阪運輸支局長は,原告Yに対し,同年12月3日,上記事
前届出による増車の実施は,実働率が基準を満たすこととなるまで見合わ
せるよう勧告した。
エ近畿運輸局大阪運輸支局は,平成21年1月7日,原告Yの本社営業所
の監査を実施した。
オ原告Yは,その後,上記イの事前届出書のとおり事業用自動車を増車し
た。
カ近畿運輸局長は,原告Yに対し,同年5月13日,道路運送法40条に
基づく輸送施設(事業用自動車)の使用停止処分を行う予定であるとして,
弁明書の提出についての通知をした。
キ原告Yは,近畿運輸局長に対し,同月27日付けで弁明書を提出した。
ク近畿運輸局長は,原告Yに対し,同年7月6日,道路運送法40条に基
づき,事業用自動車17両につき,うち16両については同月10日から
16日までの7日間,うち1両については同月10日から27日までの1
8日間(合計130日車),輸送施設の当該事業のための使用を停止する
ことを命じた(近運自監第155号。以下「本件Y処分」といい,本件X
処分と併せて「本件各処分」という。甲B1)。
別紙5は本件Y処分の通知書(以下「Y通知書」という。)であり,本
件Y処分において根拠とされた違反事実等は概ねY通知書別紙の番号1か
ら6までに記載のとおりである(以下,同違反事実等を上記番号順に「Y
違反事実1」などとそれぞれ記載する。)。なお,同別紙の番号7の違反
事実については,警告にとどまり,本件Y処分の根拠とはされていない。
(4)本件Y処分における処分日車数の算定
本件Y処分における処分日車数の算定根拠は,次のとおりである(なお,
Y違反事実4,5及び6の存否については,当事者間に争いがある。)。
ア各違反事実ごとの基準日車等
(ア)Y違反事実1(事故の未届,虚偽届出・自動車事故報告規則第2条第
2号の事故を引き起こしたもの)
違反事実及び適用条項はY通知書別紙番号1記載のとおり。
上記違反については,初違反であったから,その基準日車等は,未届
出件数1件の場合における基準日車等である20日車とされた。
(イ)Y違反事実2(改善基準告示の遵守違反)
違反事実及び適用条項はY通知書別紙番号2記載のとおり。
上記違反については,①初違反であったから,その基準日車等は,各
事項の未遵守計5件以下の場合における初違反の基準日車等である警告
を基準として検討され,②上記違反については,個別基準別添表中に(※)
が付されている違反行為であったから,加重要件※により,初違反警告
の違反は初違反10日車に加重され,さらに,③上記違反に係る本社営
業所が特定特別監視地域に指定されていた大阪市域交通圏内の営業所で
あったため,処分基準公示別表に従って加重(本件加重)されることと
なったが,原告Yは,大阪市域交通圏が特定特別監視地域に指定された
後に基準車両数を増加させていたから,その基準日車等は,10日車を
3倍して30日車となった(同別表4)。
(ウ)Y違反事実3(点呼の記録義務違反・記録事項の不備)
違反事実及び適用条項はY通知書別紙番号3記載のとおり。
上記違反については,①初違反であったから,その基準日車等は,記
録の不備率50パーセント未満の場合における初違反の基準日車等であ
る勧告を基準として検討され,②上記違反については,個別基準別添表
中に(※)が付されている違反行為であったから,加重要件※により,
初違反勧告の違反は初違反警告に加重され,さらに,③本件加重により,
その基準日車等は10日車となった(処分基準公示別表適用欄)。
(エ)Y違反事実4(乗務等の記録義務違反・記録の改ざん)
違反事実及び適用条項はY通知書別紙番号4記載のとおり(ただし,
被告は,本件訴訟において,サンプル調査の対象とされたコード№XXX
Xの運転者(以下「本件運転者」という。)に係る乗務記録のうち,平成
20年11月18日,同月19日,同月20日,同月22日,同年12月
5日,同月15日の各運転日報6件についてのみ改ざんであると主張し,
本件運転者に係る同月11日,同月12日の各運転日報の記録については,
改ざんされた旨の主張はしていない。)。
上記違反については,①初違反であったから,その基準日車等は,記
録の改ざん6件以上の場合における初違反の基準日車等である20日車
を基準として検討され,②上記違反については,個別基準別添表中に(※)
が付されている違反行為であったから,加重要件※により,初違反20
日車の違反は初違反30日車に加重され,さらに,③本件加重により,
その基準日車等は30日車を3倍して90日車とされた。
(オ)Y違反事実5(運行記録計による記録義務違反・記録)
違反事実及び適用条項はY通知書別紙番号5記載のとおり。
上記違反については,①初違反であったから,その基準日車等は,記
録なし率が20パーセント未満の場合における初違反の基準日車等であ
る警告を基準として検討され,②上記違反については,個別基準別添表
中に(◎)が付されている違反行為であったため,本件加重により,そ
の基準日車等は10日車とされた。
(カ)Y違反事実6(運行記録計による記録義務違反・記録の保存)
違反事実及び適用条項はY通知書別紙番号6記載のとおり。
上記違反については,①初違反であったから,その基準日車等は,記
録保存なし率20パーセント未満の場合における初違反の基準日車等で
ある警告を基準として検討することとされ,②上記違反については,個
別基準別添表中に(◎)が付されている違反行為であったため,本件加
重により,その基準日車等は10日車とされた。
イ基準日車数の合算
原告Yの本社営業所における違反行為は2つ以上であったところ,その
中に指導監督義務違反はなかったから,最も重い違反であったY違反事実
4の基準日車等(90日車)にその他の違反の基準日車等の2分の1(4
0日車)を加えると,処分日車数は130日車となった。
(5)本件訴訟の提起等(顕著な事実)
ア原告Xは,平成21年9月16日,本件X処分の取消しを求める訴え(甲
事件)を提起した。
イ原告Yは,同日,本件Y処分の取消しを求める訴え(乙事件)を提起し
た(同年11月13日に甲事件に弁論併合)。
ウ原告らは,平成23年7月29日,被告に対しそれぞれ損害賠償の支払
を求める訴え(丙事件)を提起した(同年8月10日に甲事件及び乙事件
に弁論併合)。
第3主たる争点
1本件X処分に係る違反事実の存否等
(1)X違反事実1(点呼の記録義務違反・記録事項の不備)の存否
(2)X違反事実2(乗務等の記録義務違反・記録事項の不備)の存否
(3)信義則違反の有無
2本件Y処分に係る違反事実の存否等
(1)Y違反事実4(乗務等の記録義務違反・記録の改ざん)の存否
(2)Y違反事実5及び6(運行記録計による記録義務違反)の両方を違反事実
とすることの可否等
3本件加重の是非(裁量権の範囲の逸脱又はその濫用の有無)
4国家賠償請求の成否
第4当事者の主張
主たる争点に係る当事者の主張は,別紙1当事者の主張記載のとおりである。
第5当裁判所の判断
1本件X処分に係る違反事実の存否等
(1)X違反事実1(点呼の記録義務違反・記録事項の不備)の存否
ア運輸規則24条3項は,旅客自動車運送事業者は,同条1項(乗務前)
及び2項(乗務後)の規定により点呼を行い,報告を求め,指示をしたとき
は,運転者ごとに点呼を行った旨,報告及び指示の内容並びに同条3項各号
に掲げる事項を記録し,かつ,その記録を1年間保存しなければならない旨
規定し,同項3号は,上記記録すべき事項として「点呼の日時」を掲げてい
る。
イ原告Xは,点呼の際に運転者にアルコールチェッカーを使った飲酒検査
を義務付けており,同検査時刻を点呼実施時刻として記載したものであり,
誤差といってもわずかなものにすぎないなどとして,点呼の記録における
点呼の日時の記載に不備はない旨主張するようである。
しかし,証拠(甲A14,乙65~67,70,証人P1,証人P2)及び
弁論の全趣旨によれば,原告Xは,調査対象期間平成21年2月1日から
同月28日までにおいて,アルコールチェッカーの検査時刻をもって点呼
実施時刻として記載していたところ,原告Xが当時使用していたアルコー
ルチェッカーの時刻表示は,正しい時刻よりも10分程度進んでいたこと
が認められる(なお,原告Xも,以上の点を特に争っている訳ではない。)。
そして,運輸規則24条3項は,旅客自動車運送事業者に対し,点呼を
行ったときはその「点呼の日時」等を記録すべきことを求めているところ,
上記「点呼の日時」とは,点呼が行われた正しい日時を意味するものであ
ることは言うまでもない。さらに,適正な運行の管理を図り,もって輸送
の安全を確保するという道路運送法27条1項及び運輸規則24条の趣旨
も踏まえれば,社会通念上やむを得ない範囲といえる一,二分程度の違い
であればともかく,正しい時刻から約10分も異なる時刻を点呼簿に記載
することは,正しい「点呼の日時」を記載しなかったものとして,運輸規
則24条3項に違反するものと評価されてもやむを得ないというべきであ
る。
したがって,上記認定のとおり,原告Xは,正しい時刻から約10分も
進んでいる時刻を点呼実施時刻として記録していたというのであるから,
点呼実施時刻と飲酒検査時刻との乖離の有無及び程度を論ずるまでもなく,
運輸規則24条3項に違反するものと認めるのが相当であり,原告Xの上
記主張は採用することができない。
(2)X違反事実2(乗務等の記録義務違反・記録事項の不備)の存否
ア運輸規則25条3項は,一般乗用旅客自動車運送事業者は,事業用自動
車の運転者が乗務したときは,同条1項1号から7号までに掲げる事項のほ
か,旅客が乗車した区間並びに乗務した事業用自動車の走行距離計に表示さ
れている乗務の開始時及び終了時における走行距離の積算キロ数を運転者
ごとに記録させ,かつ,その記録を事業用自動車ごとに整理して1年間保存
しなければならない旨規定し,同条1項3号は,上記記録すべき事項として,
「乗務の開始及び終了の地点及び日時並びに主な経過地点及び乗務した距
離」を掲げている。
イ原告Xは,乗務前後の点呼の際に運転者にアルコールチェッカーを使っ
た飲酒検査を義務付けており,同検査時刻を出庫時刻及び入庫時刻として
運転日報に記載させたものであり,拘束時間等の運行管理のうえで何ら支
障はなく,運転日報上の出庫時刻及び入庫時刻の記載に不備はない旨主張
するようである。
しかし,前記(1)で認定したとおり,原告Xが調査対象期間平成21年2
月1日から同月28日までにおいて使用していたアルコールチェッカーの
時刻表示は,正しい時刻よりも10分程度進んでいたことが認められる。
そして,運輸規則25条3項は,一般乗用旅客自動車運送事業者に対し,
事業用自動車の運転者に「乗務の開始及び終了の地点及び日時並びに主な
経過地点及び乗務した距離」等を記録させることを求めているところ,上
記「乗務の開始及び終了の…日時」とは,乗務の開始及び終了の正しい日
時を意味するものであることは言うまでもない。さらに,適正な運行の管
理を図り,もって輸送の安全を確保するという道路運送法27条1項及び
運輸規則25条3項の趣旨に照らせば,社会通念上やむを得ない範囲とい
える一,二分程度の違いであればともかく,正しい時刻から約10分も異
なる時刻を出庫時刻及び入庫時刻に記載させたことは,正しい「乗務の開
始及び終了の…日時」を記載させなかったものとして,運輸規則25条3
項に違反するものと評価されてもやむを得ないというべきである。
したがって,上記主張及び認定のとおり,原告Xは,正しい時刻から約
10分も進んでいる時刻を出庫時刻及び入庫時刻として運転日報に記録さ
せていたというのであるから,出庫時刻及び入庫時刻と飲酒検査時刻との乖
離の有無及び程度を論ずるまでもなく,運輸規則25条3項に違反するもの
と認めるのが相当であり(なお,原告Xからは,同条4項に基づいて運行記
録計をもって運転者ごとの記録に代えた旨の主張立証もされていない。),
原告Xの上記主張は採用することができない。
(3)信義則違反の有無
ア原告Xは,アルコールチェッカーによる検査時刻を点呼実施時刻等とし
て記載し又は記載させる取扱いは,近畿運輸局自動車旅客二課の担当官によ
る回答を信頼して行われたものであるから,これを法令違反であるとして行
政処分を加えることは信義則違反(禁反言)にあたり,許されないと主張す
る。
しかし,前述のとおり,原告Xが当時使用していたアルコールチェッカ
ーの時刻表示は,正しい時刻よりも10分程度進んでいたことが認められ,
このことは平成21年3月3日の監査の際に判明したのであるから(乙7
0,証人P1,証人P2),仮に上記監査の前に原告Xが主張するようなやり
取りがあったとしても,原告Xの信頼の対象はあくまでもアルコールチェ
ッカーの作動時刻を点呼実施時刻等として記載することにとどまるのであ
って,原告Xに運輸規則24条3項違反並びに25条3項及び4項違反の
各事実が認められる旨の上記認定説示を左右するものではない。
イなお付言するに,アルコールチェッカーによる飲酒検査と,点呼又は出
庫・入庫とが同時又はほぼ同時に行われている場合には,アルコールチェ
ッカーによる検査時刻を点呼実施時刻等として記録し又は記録させること
も許容されるというべきであり,仮に原告Xが主張するようなやり取りが
担当官との間であったとすれば,その内容は,飲酒検査と点呼等とが同時
又はほぼ同時に行われることを前提とするものであったというべきである。
しかし,アルコールチェッカーの時刻表示が約10分誤っていたことをひ
とまず措くとしても,原告Xの当時の運用として,飲酒検査が常に点呼と
同時か又はその直前直後に行われていたと認めるに足りる十分な証拠はな
く,また,飲酒検査が常に出庫・入庫と同時か又はその直前直後に行われ
ていたと認めるに足りる十分な証拠もない。したがって,原告Xにおいて,
当時,アルコールチェッカーによる検査時刻を点呼実施時刻等とするため
の前提条件を備えていたとはいえないから,ここに信義則違反を観念する
余地はなく,いずれにしても,原告Xの上記主張は採用することができな
い。
2本件Y処分に係る違反事実の存否等
(1)Y違反事実4(乗務等の記録義務違反・記録の改ざん)の存否
ア証拠(甲B4,乙44~52,71~73,証人P3)及び弁論の全趣旨
によれば,以下の事実が認められ,これに反する証拠は採用しない。
(ア)原告Yに在籍していた本件運転者は,平成20年11月18日,午後
8時45分頃に乗務を開始し,同日の運転日報に出庫時刻として「20時
50分」と記載した。
原告Yの統括運行管理者P3は,上記運転日報の出庫時刻の記載のうち
「50分」の「0」に棒を書き足して「9」とし,出庫時刻の記載を「2
0時59分」に改ざんした。
(イ)本件運転者は,同月19日,午後9時10分頃に乗務を開始し,同日
の運転日報に出庫時刻として「21時10分」と記載した。
P3は,上記運転日報の出庫時刻の記載のうち「10分」の「0」に丸
を書き足して「8」とし,出庫時刻の記載を「21時18分」に改ざん
した。
(ウ)本件運転者は,同月20日,午後9時5分頃に乗務を開始し,同日の
運転日報に出庫時刻として「21時05分」と記載した。また,本件運転
者は,同月21日午前8時55分頃に乗務を終了し,入庫時刻として「8
時55分」と記載した。
P3は,上記運転日報の出庫時刻の記載のうち「05」に二重線を引い
て訂正印を押し,その上部に「15」と記載し,出庫時刻の記載を「2
1時15分」に改ざんした。また,上記運転日報の入庫時刻の記載に二
重線を引いて訂正印を押し,その上部に「9:05」と記載して改ざん
した。
(エ)本件運転者は,同月22日,午後9時20分頃に乗務を開始し,同日
の運転日報に出庫時刻として「22時55分」と記載した。
P3は,上記運転日報の出庫時刻の記載に二重線を引いて訂正印を押し,
その上部に「21」「34」と記載し,出庫時刻の記載を「21時34
分」に改ざんした。
(オ)本件運転者は,同年12月5日,午後9時20分頃に乗務を開始し,
同日の運転日報に出庫時刻として「21時20分」と記載した。また,本
件運転者は,同月6日午前9時頃に乗務を終了し,上記運転日報に入庫時
刻として「9時00分」と記載した。
P3は,上記運転日報の出庫時刻の記載のうち「20」に二重線を引い
て訂正印を押し,その上部に「31」と記載し,出庫時刻の記載を「2
1時31分」に改ざんした。また,上記運転日報の入庫時刻の記載のう
ち「00」に二重線を引いて訂正印を押し,その上部に「11」と記載
し,入庫時刻の記載を「9時11分」に改ざんした。
(カ)本件運転者は,同月16日午前8時50分頃に乗務を終了し,同月1
5日の運転日報に入庫時刻として「8時50分」と記載した。
P3は,上記運転日報の入庫時刻の記載のうち「50」に二重線を引い
て訂正印を押し,その上部に「40」と記載し,入庫時刻の記載を「8
時40分」に改ざんした。
イ事実認定の補足説明(原告Yの主張について)
(ア)原告Yは,明らかに運転者の誤記と分かる場合に,その誤記を訂正す
ることがあったにすぎず,改ざんと指摘される理由はないと主張する。
しかし,本件運転者に係る運行記録計から読み取ることができる出庫
時刻及び入庫時刻が誤っていたことをうかがわせるような証拠は見当た
らない。かえって,証人P3は,運転者に対し,運行記録計の時計を正確
な時刻に合わせるよう指導していた旨証言している上,運行記録計から
読み取ることができる出庫時刻及び入庫時刻は,平成20年11月22
日の出庫時刻を除き,本件運転者が運転日報に記載した出庫時刻及び入
庫時刻とほぼ一致しているし,運行記録計から読み取ることができる休
憩時間は運転日報に記載されている休憩時間とほぼ一致している。これ
らの点からすれば,本件運転者に係る運行記録計から読み取ることがで
きる時刻は,ほぼ正しい時刻であると認めるのが相当である。
そうすると,上記ア記載の6件については,上記認定のとおり,運行
記録計から読み取ることができる時刻とは異なる時刻に変更されている
と認められるから,正しくない時刻へと記載内容が変更されたものとい
うべきである。したがって,これらは正しい時刻への「訂正」ではなく,
正しくない時刻への「改ざん」であると認めるのが相当であり,これに
反する原告Yの上記主張は採用することができない。
(イ)原告Yは,本件運転者に係る平成20年11月19日の運転日報(乙
47の1)の出庫時刻について,「0」に丸を書き足して「8」に改ざん
したものではなく,本件運転者が「1」と「0」を連続して書いたために,
「0」が「8」のように見えるだけであるなどと主張する。
しかし,上記運転日報に記載されている上記数字の形状からすれば,
被告が主張するように,「0」の上部に丸を加え「8」としたように見
えることは事実である。しかも,本件運転者に係る他の運転日報(乙4
4の2など)において,「1」の次に「0」が続く部分は複数箇所ある
が,いずれも「0」が「8」に見えるような形状とはなっていない(な
お,原告Yが指摘する本件運転者の筆跡の特徴は,「00」の記載につ
いてのものであり,「10」の記載に妥当するものではない。)。しか
も,上記認定事実(ア(ア))のとおり,原告Yは,平成20年11月18
日の運転日報の出庫時刻の記載のうち「50分」の「0」に棒を書き足
して「9」とし,出庫時刻の記載を「20時59分」に改ざんしたと認
められる(なお,この点については,上記運転日報の上記数字の形状が
不自然であること,各運転日報における出庫時刻及び入庫時刻は,改ざ
んを指摘されているものを除いては全て5分刻みの時刻となっているの
に,この日だけ半端な時刻となっているのは不自然であること,原告Y
もこの運転日報の改ざんについて具体的に争っていないことなどから,
上記のとおり改ざんされたことは明らかである。)ところ,原告Yが「0」
が「8」に見えるだけであると主張する運転日報(乙47の1)はその
翌日のものであることからすると,数字に手を加えることによる改ざん
行為が連続して行われたと疑われても仕方がないといえる。また,本件
運転者に対する同月19日の乗務前点呼が「21:18」に行われた旨
点呼簿に記録されているところ(乙52),乗務前点呼が実際に行われ
ていれば出庫時刻が点呼時刻より前になるはずはないから,原告Yには,
運転日報の時刻を「21時10分」から「21時18分」に改ざんする
動機もあったということができる。
以上によれば,同月19日の運転日報の出庫時刻は改ざんされたもの
であると認められ,原告Yの上記主張は採用することができない。
(ウ)原告Yは,本件運転者の平成20年11月20日の運転日報(乙48
の1)と同年12月5日の運転日報(乙50の1)は,いずれも,出庫時
刻と入庫時刻が10分又は11分ずつずれているにすぎず,乗務時間は短
くなっていないから,改ざんされたものではないなどと主張する。
しかし,本件運転者に対する同年11月20日の乗務前点呼は「21:
15」に行われた旨点呼簿に記録されており(乙73),同じく同年1
2月5日の乗務前点呼は「20:31」に行われた旨点呼簿に記録され
ている(乙72)。そうすると,原告Yには,運転日報上の出庫時刻が
乗務前点呼の時刻より前にならないように体裁を整える必要があり,改
ざんの動機があったというべきである。したがって,乗務時間が短くな
っていないことを指摘する原告Yの上記主張は採用することができない。
ウ以上によれば,原告Yは,本件運転者に係る運転日報の出庫時刻及び入
庫時刻の記載を6件改ざんしたものと認められ,運輸規則24条3項に違反
することはもちろん,個別基準公示における「記録の改ざん・6件以上」に
該当するものと認められ,Y違反事実4に関し,近畿運輸局長が本件Y処分
において基礎とした事実の認定に誤りはないというべきである。
(2)Y違反事実5及び6(運行記録計による記録義務違反)の両方を違反事実
とすることの可否等
ア運輸規則26条2項は,事業用自動車の運行の管理の状況等を考慮して
地方運輸局長が指定する地域内に営業所を有する一般乗用旅客自動車運送
事業者は,地域の指定があった日から一年を超えない範囲内において地方運
輸局長が定める日以後においては,指定地域内にある営業所に属する事業用
自動車の運転者が乗務した場合は,当該自動車の瞬間速度,運行距離及び運
行時間を運行記録計により記録し,かつ,その記録を運転者ごとに整理して
一年間保存しなければならない旨規定する。
イ原告Yは,全ての乗務を運行記録計によりチャート紙に記録しており,
見つからなかった記録(以下「本件記録」という。)は他の運転者の箱の中
に紛れて入っている可能性が高いなどと主張して,Y違反事実5(運行記録
計による記録義務違反・記録)の存在を争っているので,この点について以
下検討する。
確かに,本件記録が平成21年1月7日の監査時点において見当たらな
かったことについては当事者間に争いがなく,その後に本件記録が発見さ
れた旨の主張立証もない。
しかし,原告Yが主張するように,本件記録が他の記録に混ざって発見
できないとか,誤って廃棄されたといった可能性も一概に否定できないの
であるから,本件記録が監査時点において見当たらず,その後も発見され
ていないという事実だけでは,原告Yにおいて本件記録が作成されていな
かったと推認することはできない。また,原告Y作成の平成21年5月2
7日付け弁明書(甲B2,乙43)には,「(Y違反事実)5及び6,運
行記録計による記録が確実になされていなかったとのご指摘について」
「ご指摘の通りであり,今後こうしたことのないよう運行記録計による記
録の保存に関しては遺漏なきよう管理に万全をつくします。」と記載され
ているが,この弁明書の記載内容は,専ら本件記録の保存が適切にされて
いなかったことを認めるものであって,原告Yが本件記録を作成していな
かったことを積極的に認めたとまではいえない。また,監査の時点で本件
記録が見当たらなかったことは事実であり,違反事実として比較的軽微で
あることも考慮すると,原告Yが弁明書においてY違反事実5を積極的に
争わなかったことが必ずしも不自然ということはできず,この点をもって,
本件記録が作成されていなかったと推認することも困難である。
かえって,本件記録は,調査対象期間(平成20年11月16日から同
年12月15日まで)のサンプル調査51件のうち,わずか1件にすぎない
のであるから,原告Yの日常の業務においては,運行記録計による記録が行
われていたとみるのが自然である。また,本件記録が作成されなかった経緯
や理由などについて被告から具体的な主張立証はなく,他に本件記録が作成
されなかったと認めるに足りる証拠もない。
以上によれば,本件記録が作成されなかったと認めるに足りる十分な根
拠や証拠はなく,むしろ,本件の証拠関係の下では,本件記録は通常の場
合と同様に作成されたものの,その整理及び保存が適切にされていなかっ
た(Y違反事実6)と認めるのが相当である。
ウしたがって,本件Y処分は,Y違反事実5(運行記録計による記録義務
違反・記録)を判断の基礎とする点において,事実の誤認があるというべ
きである。
なお,原告Yは,同一の記録について,記録しなかったことと保存しな
かったことの両方を処分事由とすることは,二重処罰であって許されない
とか,記録がなければそれについての保存ということもあり得ず,記録と
保存の両方の違反を問われる理由はないなどと主張するが,上記のとおり,
Y違反事実5が認められない以上,上記主張については判断することを要
しない。
3本件加重の是非(裁量権の範囲の逸脱又はその濫用の有無)
(1)需給調整規制の廃止とその後の増車抑制対策等について
前記法令の定め等及び前提となる事実,並びに証拠(甲4,15,乙1~
6,28,35,55~57,59,74),顕著な事実及び弁論の全趣旨
によれば,以下の事実等が認められる。
ア平成12年法律第86号(平成14年2月1日施行)による道路運送法
の改正(以下「平成12年改正」という。)
(ア)平成12年改正前の道路運送法は,一般乗用旅客自動車運送事業の新
規参入及び事業計画の変更(増車)に関し,次のとおり定めていた(な
お,一般乗用旅客自動車運送事業は,一般旅客自動車運送事業の一類型
である(同法3条1号ハ)。平成12年改正後の道路運送法も同じ。)。
一般旅客自動車運送事業を経営しようとする者は,運輸大臣の免許を
受けなければならない(4条1項)。運輸大臣は,一般旅客自動車運送
事業の免許をしようとするときは,当該事業の開始が輸送需要に対し適
切なものであること(6条1項1号),当該事業の開始によって当該事
業区域に係る供給輸送力が輸送需要量に対し不均衡とならないものであ
ること(同項2号),当該事業の遂行上適切な計画を有するものである
こと(同項3号),当該事業を自ら適確に遂行するに足る能力を有する
ものであること(同項4号),その他当該事業の開始が公益上必要であ
り,かつ,適切なものであること(同項5号),の基準に適合するかど
うかを審査して,これをしなければならない。
一般乗用旅客自動車運送事業者は,事業計画を変更しようとするとき
は,国土交通大臣の認可を受けなければならない(15条1項本文)。
同法6条の規定は,上記認可について準用する(15条2項)。
(イ)平成12年改正後の道路運送法は,上記の点に関し,次のとおり定め
ている(なお,以下の各規定に関しては,平成12年改正から本件各処
分に至るまで,実質的な改正は行われていない。)。
一般旅客自動車運送事業を経営しようとする者は,国土交通大臣の許
可を受けなければならない(4条1項)。国土交通大臣は,一般旅客自
動車運送事業の許可をしようとするときは,当該事業の計画が輸送の安
全を確保するため適切なものであること(6条1号),1号に掲げるも
ののほか,当該事業の遂行上適切な計画を有するものであること(同条
2号),当該事業を自ら適確に遂行するに足る能力を有するものである
こと(同条3号),の基準に適合するかどうかを審査して,これをしな
ければならない。
一般旅客自動車運送事業者は,事業計画の変更(営業所ごとに配置す
る事業用自動車の数その他の国土交通省令で定める事項に関する事業計
画の変更等を除く。)をしようとするときは,国土交通大臣の認可を受
けなければならない(15条1項)。一般旅客自動車運送事業者は,営
業所ごとに配置する事業用自動車の数その他の国土交通省令で定める事
項に関する事業計画の変更をしようとするときは,あらかじめ,その旨
を国土交通大臣に届け出なければならない(同条3項)。
国土交通大臣は,特定の地域において一般乗用旅客自動車運送事業の
供給輸送力が輸送需要量に対し著しく過剰となっている場合であって,
当該供給輸送力が更に増加することにより,輸送の安全及び旅客の利便
を確保することが困難となるおそれがあると認めるときは,当該特定の
地域を,期間を定めて緊急調整地域として指定することができ(8条1
項),国土交通大臣は,上記の緊急調整地域の指定をした場合には,一
般旅客自動車運送事業の許可の申請が一般乗用旅客自動車運送事業に係
るもので,かつ,当該申請に係る営業区域が当該緊急調整区域の全部又
は一部を含むものであるときは,当該許可をしてはならず(同条3項),
また,一般乗用旅客自動車運送事業を経営する者(一般乗用旅客自動車
運送事業者)は,上記の緊急調整地域の指定がされた場合には,当該緊
急調整地域における供給輸送力を増加させるものとして国土交通省令で
定める事業計画の変更をすることができない(同条4項)。
(ウ)平成12年改正は,上記(ア)(イ)のとおり,一般乗用旅客自動車運送事
業の新規参入及び増車につき,①同事業への新規参入を免許制から許可制
として,輸送の安全,事業の適切性等を確保する観点から定めた一定の基
準に適合している場合に新規参入を認めることとし,その事業の開始によ
って事業の供給輸送力が輸送需要量に対し不均衡とならないものである
か否か等についての審査(いわゆる需給調整規定)を廃止し,②一般旅客
自動車運送事業者の増車に係る事業計画の変更を,認可制から届出制とし
て,増車を各事業者の自由な判断にゆだねることとし,その一方で,③国
土交通大臣は,特定の地域において供給輸送力が輸送需要量に対し著しく
過剰となり,当該地域における輸送の安全及び旅客の利便を確保すること
が困難となるおそれがあると認められるときは,当該地域を,期間を定め
て緊急調整地域として指定し,新規参入及び増車を認めないこととする緊
急調整措置を講ずることができることとした,ということができる。
イ平成13年10月26日付け自動車交通局長通達「緊急調整措置の発動
要件等について」(乙3。平成13年国自旅第102号)は,「緊急調整
措置は極めて権利制限性の強い規制であることから,このような事態を可
能な限り抑止するためのいわば予防措置が必要であり,このため,別途,
監査や行政処分の運用上の制度としての特別監視地域の指定制度を設ける
こととする。」として,特別監視地域の指定制度を設けた(なお,上記通
達は,平成18年2月9日に改正され,以後その標題は「緊急調整措置の
指定等について」となっている。)。
上記通達によると,特別監視地域の指定制度は,指定された地域におい
て,重点的な監査や行政処分の運用の厳格化等の措置を講ずることにより,
緊急調整措置が発動になるような事態を可能な限り抑止することを目的と
するものであり(同通達1),地方運輸局長が営業区域単位で指定してこ
れを公示するものとされ,期間は原則として1年間であり(同通達2(1)(2)
(4)(5)),その指定要件は,①実車率及び日車営収のいずれもが,前年度
と比較して減少した結果,前5年間の当該地域の平均値を10%以上下回
っている(平成9~12年度の全国平均を20%以上下回っている場合を
含む。)場合(ただし以下略),②前年度と比較して供給輸送力が急激に
増加した結果,①の要件を満たすことが確実とみられる場合,とされてい
た(同通達2(3))。そして,特別監視地域においては,重点的な監査を実
施することとし,特に事故や違反・利用者からの苦情の多い事業者,増車
実施事業者については重点的に監査を実施するとともに,行政処分及び点
数制による点数の付加について,「特別監視地域指定後に…増車を行った
事業者については,行政処分及び点数制による点数の付加についてさらに
厳しく取り扱う」,「特別監視地域指定後に自主的に一定以上の減車を行
った事業者…については行政処分及び点数制の取扱いについて考慮する」
ことなどを勘案し,運用することととされた(同通達4(1),同②③)。
ウ平成15年3月28日付け近畿運輸局長公示「一般乗用旅客自動車運送
事業者に対する行政処分等の基準について」(処分基準公示)は,特別監
視地域の指定制度を前提として,特別監視地域内の営業所における一定の
違反については,処分日車数を別表のとおり取り扱うものとし(同公示1
(3)),同別表は,基準車両数を特別監視地域に指定された後に増加させず,
基準車両数の5%以上を減少させていない者による違反や,基準車両数を
特別監視地域に指定された後に増加させた者による違反につき,それぞれ
1.5倍又は3倍の加重とすることなど(本件加重)を定めた。
エ平成19年11月20日付け自動車交通局長通達「特定特別監視地域等
において試行的に実施する増車抑制対策等の措置について」(乙4。平成
19年国自旅第208号)は,「今般,平成19年度の特別監視地域の指
定に伴い,試行的な措置として,別紙のとおり,特別監視地域の指定を受
けた地域及び特別監視地域の指定を解除された地域のうち,一定の営業区
域をそれぞれ特定特別監視地域及び準特定特別監視地域として指定し,特
別重点監視地域を含めたこれらの地域において,著しい供給過剰を未然に
防止するための各種施策を講じることとする」として,特定特別監視地域
等の指定制度を設けた。
上記通達によると,地方運輸局長は,平成19年度に特別監視地域とし
て指定する営業区域のうち,タクシーの供給拡大により運転者の労働条件の
悪化等を通じた輸送の安全及び旅客の利便の低下を招く懸念が特に大きな
地域として,概ね人口30万人以上の都市を含む営業区域を特定特別監視地
域として指定することができるものとし,当該指定は公示により行うものと
された(同通達Ⅰ1)。そして,特定特別監視地域における増車に関する措
置(同通達Ⅱ)として,①増車実施の際の労働条件等に関する報告制度(同
Ⅱ1),②増車届出事業者に対する事前監査制度(同Ⅱ2),及び③基準車
両数内の増車に対する監査の特例(同Ⅱ3)が定められ,具体的には,特定
特別監視地域等において一定の増車を実施しようとする事業者に対し,運転
者の労働条件等に関する計画の提出を求めるとともに,増車実施から一定期
間経過した後にその実績の提出を求め,計画と比較して乖離がある場合には,
必要に応じて公表や減車の勧告を行うものとされ(上記①),また,特定特
別監視地域等において一定の増車を実施しようとする事業者について法令
遵守状況の確認を行うため,増車の実施前に監査を実施し,その結果,法令
遵守状況に問題がある場合には,当該事業者に対して減車の勧告を行うなど
の措置を講じるものとされた(上記②)。
オ近畿運輸局長は,同年12月14日付けで「一般乗用旅客自動車運送事
業の準特定特別監視地域(個別指定)の指定について」(乙6。平成19年
近運自二公示第48号)を公示し,同日から平成20年8月31日までの間,
大阪市域交通圏を特定特別監視地域等と同様の措置を講じることが必要と
認める地域として個別指定した。
なお,平成19年度に特別監視地域に指定されたのは全国の営業区域6
45地域のうち67地域(うち特定特別監視地域6地域)であり,大阪支
局では豊能郡のみが特別監視地域に指定された。
カ平成20年7月11日付け自動車交通局長通達「『緊急調整地域の指定
等について』及び『特定特別監視地域等において試行的に実施する増車抑
制対策等の措置について』の一部改正について」(乙5。平成20年国自
旅第148号)は,上記イ及びエの措置等の見直しを行い,特別監視地域
及び特定特別監視地域の指定要件等を変更するとともに,上記エの「特定
特別監視地域等において試行的に実施する増車抑制対策等の措置につい
て」が定める「増車届出事業者に対する事前監査制度」においては,増車
実施前の監査を実施した結果,輸送施設使用停止以上の処分を課すことに
なる法令違反が確認された場合には,処分確定までに増車見合わせ勧告を,
処分確定後には減車勧告をそれぞれ行い,それでも当該事業者が減車を行
わない場合には,処分基準公示の定めるところによりその後の違反行為に
係る処分日車数を4倍に加重することとされた。
上記通達による変更後の特別監視地域及び特定特別監視地域の指定要件
は次のとおりである。
(ア)特別監視地域の指定要件
次の①から④までのいずれかに該当する営業区域
①次のaからcまでのいずれにも該当している場合
a1日1車当たりの実車キロ(以下「日車実車キロ」という。)及
び1日1車当たりの営業収入(以下「日車営収」という。)のいず
れもが,前年度と比較して減少している場合
b日車実車キロ若しくは日車営収が,当該年度の前5年間の当該地
域の平均値を10パーセント以上下回っている場合,又は日車実車
キロ及び日車営収が,当該年度の前5年間の当該地域の平均値を5
パーセント以上下回っている場合であって,その率が,全国におけ
る当該年度の日車実車キロ若しくは日車営収の平均値が全国におけ
るそれらの前5年間の平均値を下回っている率を10パーセント以
上上回って減少している場合
c延べ実働車両数が,前年度と比較して増加している場合
②前年度と比較して延べ実働車両数が急激に増加した結果,上記①a
及びbの要件を満たすことが確実と見られる場合
③日車実車キロ又は日車営収が,平成13年度と比較して減少してい
る場合
④平成19年4月以降に運賃改定(上限運賃の改定の公示)を実施し
た地域(既に当該運賃改定実施による労働条件の改善状況の公表が行
われた地域に限る。)において,当該運賃改定後における日車営収の
対前年同期と比較した上昇率が,運賃改定率の1/2を下回っている
場合
(イ)特定特別監視地域の指定要件
次の①から③までのいずれかに該当する営業区域
①当該年度に上記(ア)①又は②に基づいて特別監視地域として指定す
る営業区域のうち,タクシーの供給拡大により運転者の労働条件の悪
化等を通じた輸送の安全及び旅客の利便の低下を招く懸念が特に大き
な地域として,おおむね人口30万人以上の都市を含む営業区域
②当該年度に上記(ア)③に基づいて特別監視地域として指定する営業
区域のうち,タクシーの供給拡大により運転者の労働条件の悪化等を
通じた輸送の安全及び旅客の利便の低下を招く懸念が比較的大きな地
域として,おおむね人口10万人以上の都市を含む営業区域
③特別監視地域として指定する営業区域のうち,上記①又は②に準ず
るものとして,地方運輸局長が指定する営業区域
キ近畿運輸局長は,上記通達を受けて,同日付けで「特別監視地域の指定
等について」の改正(平成20年近運自二公示第26号。乙55)及び「特
別監視地域等の指定に伴い試行的に実施する増車抑制対策等の措置につい
て」の改正(同年近運自二公示第28号。乙59)を公示した。
ク近畿運輸局長は,同日付け公示「一般乗用旅客自動車運送事業の特別監
視地域の指定について」(乙56。平成20年近運自二公示第27号)及
び同日付け公示「一般乗用旅客自動車運送事業の特定特別監視地域の指定
について」(乙57。平成20年近運自二公示第29号)を公示し,大阪
市域交通圏を特定特別監視地域として指定した。
なお,大阪市域交通圏は,日車営収が平成13年度の3万1712円か
ら平成19年度には2万9696円に減少しており,上記カ(ア)③の要件
(日車実車キロ又は日車営収が,平成13年度と比較して減少している場
合)に該当していたことから特別監視地域として指定され,かつ,同交通
圏内の各市はいずれも人口10万人以上の都市であることから,上記カ(イ)
②の要件(当該年度に上記カ(ア)③に基づいて特別監視地域として指定す
る営業区域のうち,タクシーの供給拡大により運転者の労働条件の悪化等
を通じた輸送の安全及び旅客の利便の低下を招く懸念が比較的大きな地域
として,おおむね人口10万人以上の都市を含む営業区域)に該当してい
るとして特定特別監視地域に指定されたものである。また,上記カの特別
監視地域の指定要件の緩和に伴い,全国の営業区域644地域のうち53
7地域が特別監視地域に指定され,そのうち特定特別監視地域として10
9地域が指定された。そして,近畿運輸局大阪支局内では,大阪市域交通
圏,北摂交通圏,河北交通圏,河南B交通圏,泉州交通圏及び豊能郡の6
地域が特別監視地域に指定され,このうち豊能郡を除く5地域が特定特別
監視地域にも指定された。
ケ近畿運輸局長は,原告Yに対し,平成21年7月6日,本件Y処分を行
い,原告Xに対し,同月10日,本件X処分を行った。
コ国会において,同年6月26日,「特定地域における一般乗用旅客自動
車運送事業の適正化及び活性化に関する特別措置法」(以下「特措法」と
いう。)が成立し,同年10月1日施行された。これにより,国土交通大
臣は,特定の地域を,期間を定めて特定地域として指定することができる
こととされ(3条1項),特定地域においては,一般乗用旅客自動車運送
事業者が当該特定地域内の営業所に配置するその事業用自動車の合計数を
増加させる事業計画の変更については,届出ではなく,国土交通大臣の認
可を要するものとされた(15条1項)。
サ国土交通大臣は,同日,国土交通省告示第1038号(乙74)により,
大阪市域交通圏を特措法上の特定地域として指定した。
(2)違法性判断の枠組み
ア道路運送法40条は,国土交通大臣は,一般旅客自動車運送事業者が,
①道路運送法若しくは同法に基づく命令若しくはこれらに基づく処分又は
許可若しくは認可に付した条件に違反したとき(1号),②正当な理由が
ないのに許可又は認可を受けた事項を実施しないとき(2号),③同法7
条1号,3号又は4号に該当することとなったとき(3号)には,6月以
内において期間を定めて自動車その他の輸送施設の当該事業のための使用
の停止若しくは事業の停止を命じ,又は許可を取り消すことができる旨規
定するところ,輸送施設使用停止等に関する国土交通大臣の権限がその裁
量により行使されるべきことは上記の規定上明らかであり,同条各号に該
当する事実が認められる場合に,輸送施設使用停止,事業の停止及び事業
許可の取消しのうちいずれかの処分をするか否か,するとしてどの処分を
選択し,その停止期間等の内容をどのように定めるかといった点は,国土
交通大臣の専門的判断に基づく合理的裁量にゆだねられているというべき
である。そして,このことは,国土交通大臣から権限の委任を受けた地方
運輸局長(以下,国土交通大臣と併せて「国土交通大臣等」という。)に
ついても同様であると解される。
イところで,道路運送法は,貨物自動車運送事業法と相まって,道路運送
事業の運営を適正かつ合理的なものとし,並びに道路運送の分野における
利用者の需要の多様化及び高度化に的確に対応したサービスの円滑かつ確
実な提供を促進することにより,輸送の安全を確保し,道路運送の利用者
の利益の保護及びその利便の増進を図るとともに,道路運送の総合的な発
達を図り,もって公共の福祉を増進することを目的とするものである(同
法1条)。そして,同法40条が,国土交通大臣に一般旅客自動車運送事
業者に対する監督処分権限を付与している趣旨は,一般旅客自動車運送事
業に係る許可制度並びに同法に基づく規制,命令等の実効性を確保し,そ
のことを通じて,輸送の安全を確保し,道路運送の利用者の利益の保護及
びその利便の増進を図るという同法の目的の実現を図る点にあるというこ
とができる。
そうであるところ,同法40条に基づく監督処分については,上記アの
とおり,国土交通大臣等に裁量権が認められるが,この裁量権は道路運送法
が国土交通大臣等に監督処分権限を付与した上記の趣旨,目的に沿って適切
に行使されなければならないのであって,その趣旨,目的から逸脱した目的
や動機に基づき,又は上記目的を達成するに当たり考慮すべきでない事項を
考慮するなど不合理な方法で上記裁量権を行使することは,裁量権の範囲を
逸脱し又は濫用したものとして,違法となるというべきである。
(3)本件加重の違法性について
ア目的について
(ア)処分基準公示1(3)は,特別監視地域(特定特別監視地域を含む。)及
び緊急調整地域に指定された地域内の営業所における一定の違反につい
ては,処分日車数を別表のとおり取り扱うものとする旨規定し,同別表
は,特別監視地域(特定特別監視地域を含む。)の場合の処分日車数の
加重の倍数等につき,①特別監視地域に指定されたときに当該事業者の
当該営業区域内の営業所に現に配置していた事業用自動車の総数(基準
車両数)を特別監視地域に指定された後に増加させず,基準車両数の5%
以上を減少させていない者による違反(同別表1)については,1.5
倍の加重とし,②基準車両数を特別監視地域に指定された後に増加させ
た者による違反(同別表4)については,3倍の加重とし,③基準車両
数を特別監視地域に指定された後に増加させず,基準車両数の5%以上
を減少させている者による違反(同別表5)については,1倍の加重と
し,④特別監視地域の上記②等に該当する違反に対する処分基準が警告
の場合にあっては,10日車の自動車等の使用停止とする(同別表適用
欄)ものとしている(本件加重)。
以上のとおり,本件加重は,端的にいえば,特別監視地域等の地域内
の営業所における一定の違反が確認された事業者につき,当該事業者が
特別監視地域に指定された後に基準車両数を一定程度減少させていない
こと(上記①),あるいは,特別監視地域に指定された後に基準車両数
を増加させたこと(上記②及び④)を不利益に考慮して,道路運送法4
0条に基づく監督処分を加重するものである。
このような本件加重の内容に加えて,上記(1)(需給調整規制の廃止と
その後の増車抑制対策等について)で認定した,国土交通省の通達によ
る規制の経緯及びその内容等を踏まえれば,本件加重は,輸送の安全の
確保等が最終的な目的であるにしても,直接的には,特別監視地域又は
特定特別監視地域の指定制度の実効性を高めるため,すなわち,供給過
剰の兆候のある特別監視地域等における減車勧奨及び増車抑制を目的と
して,増車届出事業者に対する事前監査や減車勧告等と相まって,その
実効性を高めるために設けられたものであると認められる。
(イ)そこで次に,特別監視地域等における減車勧奨及び増車抑制を目的と
する本件加重が,道路運送法40条の趣旨,目的に照らし許容されるも
のであるかどうかにつき検討する。
そもそも,平成12年改正前の道路運送法は,一般乗用旅客自動車運
送事業(タクシー事業)につき,需給調整規制により過当競争を防止し
需要に見合った供給力を設定することにより,秩序ある安定的なサービ
スの提供を確保するという立法政策を採用していた。しかし,平成12
年改正は,経済構造の転換や国民生活の向上を背景とした輸送ニーズの
高度化,多様化に適切に対応していく必要性が高まっている状況を踏ま
え,需給調整規制を廃止し,事業者間の競争を促進することにより,事
業者の創意工夫を活かした多様なサービスの提供や事業の効率化,活性
化を図り,もって,多様化した利用者の需要に適合し,利用者の利便の
確保,向上を図るという,利用者保護に重点を置いた立法政策に転換し
たものであり,また,特定の地域において供給輸送力が輸送需要量に対
して著しく過剰となり,当該地域における輸送の安全及び旅客の利便を
確保することが困難となるおそれがあると認められるときに,期間を定
めて新規参入及び増車を認めないこととする緊急調整措置を講ずること
ができることとして,需給調整規制という事前規制から緊急調整措置と
いう事後規制へと立法政策を転換したものである。このように,平成1
2年改正後の道路運送法は,事業者間の競争を促進し,事業の効率化,
活性化を図るべく,事前規制である需給調整規制を廃止したのであるか
ら,事実上の需給調整である減車勧奨及び増車抑制を目的とする本件加
重が,平成12年改正後の道路運送法の趣旨,目的に合致しないもので
あることは明らかである。
また,道路運送法40条が,国土交通大臣に一般旅客自動車運送事業
者に対する監督処分権限を付与している趣旨は,前述のとおり,一般旅
客自動車運送事業に係る許可制度並びに同法に基づく規制,命令等の実
効性を確保し,そのことを通じて,輸送の安全を確保し,道路運送の利
用者の利益の保護及びその利便の増進を図るという同法の目的の実現を
図る点にあるものと解される。しかし,特別監視地域等における減車勧
奨及び増車抑制という本件加重の目的は,上述のとおり,平成12年改
正後の道路運送法の趣旨,目的に合致しないものであるから,道路運送
法の目的の実現を図るという同法40条の上記趣旨,目的からもかけ離
れているといわざるを得ない。また,許可制度の実効性を確保するとい
う観点から見ても,一般乗用旅客自動車運送事業の許可基準等において,
供給輸送力が輸送需要量に対し不均衡とならないものであるかどうかと
いった需給調整に関する基準は,平成12年改正後の道路運送法6条に
は一切掲げられておらず,本件加重の目的は,許可制度の趣旨,目的と
は何ら関係のないものである。また,同法に基づく規制,命令等の実効
性を確保するという観点から見ても,一般乗用旅客自動車運送事業者は,
道路運送法上,特別監視地域等の地域内であるか否かにかかわらず,減
車すべき義務を一切負わないことはもちろん,増車することについても
事前の届出が要求されているにすぎない(なお,特措法施行後は,特定
地域内の増車については認可が必要とされたが,その場合であっても,
当該事業の計画が輸送の安全を確保するため適切なものであることなど
道路運送法6条各号所定の要件を満たしていれば,当然に認可されるべ
きものである。)のであって,当該事業者が基準車両数を一定程度減少
させず,又はこれを増加させたという行為は,道路運送法上適法なもの
であって,規制の対象となるものではないし,このような事業規模の維
持又は拡大に関する適法行為を根拠として,当該事業者の違反行為の悪
質性,重大性が高まるという訳でもない。本件加重の目的は,同法に基
づく規制,命令等の実効性を確保するという観点とも何ら関係がない。
以上によれば,特別監視地域等における減車勧奨及び増車抑制を目的
とする本件加重は,道路運送法40条の趣旨,目的から逸脱しているも
のであって,許容されないというべきである。
イ方法としての合理性
さらに,輸送の安全確保等の目的達成のための方法としての本件加重の
合理性について検討すると,前記のとおり,本件加重は,特別監視地域等
において基準車両数を減少させず,又は増加させたことを理由に不利益処
分を加重するものであり,需給調整に関する規定を排除した平成12年改
正後の道路運送法の趣旨に反するのみならず,基準車両数を減少させず,
又は増加させる行為は,許可制度や命令等の実効性の確保とも関連性を有
するものではない。上記行為は適法なものであり,行政庁による需給調整
は,本来相手方の任意の協力によってのみ実現される行政指導の内容とな
る事項であり,このような事項について,不利益処分の加重事由として不
利益な取扱いをすることは,行政手続法32条の趣旨にも反する不合理な
取扱いといわざるを得ない。基準車両数を一定程度減少させず,又はこれ
を増加させた事業者を不利益に取り扱うことは,道路運送法40条の監督
処分を行うに際して本来考慮にいれるべきでない事情を考慮するものであ
り,裁量権の行使を誤るものというほかはない。
ウまとめ
したがって,本件加重を適用してされた本件各処分は,同条の趣旨,目
的から逸脱した減車勧奨及び増車抑制という目的に基づき,基準車両数を
一定程度減少させず,又はこれを増加させたという考慮すべきでない事情
を考慮して加重された不合理なものというべきであるから,原告らのその
他の主張(行政手続法32条違反,比例原則・平等原則違反等)を検討す
るまでもなく,いずれも国土交通大臣等に付与された裁量権の範囲を逸脱
し又は濫用したものであって,違法である。
(4)被告の主張について
ア被告は,交通政策審議会が取りまとめた「タクシー事業を巡る諸問題へ
の対策について」と題する答申(乙33)を踏まえ,供給過剰の状態にあ
る地域における労務管理や安全管理等に係る一定の違反については,厳格
に対処する必要があったとか,大阪市域交通圏が本件各処分当時供給過剰
の状態にあったため,一般乗用旅客自動車運送事業者の労務管理や安全管
理等に係る一定の違反に厳格に対処する必要があったと主張する。
しかし,供給過剰の状態にある地域における一定の違反について他の地
域におけるそれよりも厳格に対処する必要があるとしても,そのことは,
基準車両数を一定程度減少させておらず又はこれを増加させたタクシー事
業者に対する処分を,基準車両数を一定程度減少させているタクシー事業
者のそれよりも1.5倍ないし3倍に加重すべき根拠となるものではない
のであり,上記主張は採用することができない。
イ被告は,タクシーの供給過剰の状況が進行している特別監視地域及び特
定特別監視地域において,基準車両数を一定程度減少させず,又はこれを
増加させたタクシー事業者は,タクシーの供給過剰の状況を維持し,又は
悪化させているとの評価を免れず,収益基盤の確保を優先する余り,法令
の規制を軽視して,労働条件の悪化や輸送の安全性の低下等の問題を招く
おそれが類型的に高いとした上,このようなタクシー事業者に対しては,
労務管理や安全管理の徹底がより強く求められ,それにもかかわらず労務
管理や安全管理等に係る一定の法令違反を犯した場合には,正にタクシー
の供給過剰による諸問題が現実化したものとみることができ,特別監視地
域及び特定特別監視地域において基準車両数を一定程度減少させているタ
クシー事業者や,これらの地域以外の地域に所在するタクシー事業者に比
べて,当該法令違反の悪質性は高く,これを禁圧することによってタクシ
ー運転者の労働条件や輸送の安全を確保する必要性もまた高いものという
べきであるなどと主張する。
しかし,特別監視地域等において,基準車両数を一定程度減少させず,
又はこれを増加させたタクシー事業者が,法令の規制を軽視するなどのおそ
れが類型的に高いというべき十分な根拠はない。また,仮にそのようなおそ
れがあるとしても,そのようなタクシー事業者の法令違反が,基準車両数を
一定程度減少させている事業者による法令違反と比較して,悪質性が高いと
いうべき実質的な根拠も見当たらない。
前述したとおり,本件加重の内容や国土交通省による増車抑制対策等の
経緯に照らせば,本件加重が,増車届出事業者に対する監査の重点実施,
増車見合わせ勧告・減車勧告等と相まって,タクシー事業者に減車勧奨と
増車抑制を間接的に強制するためのものであることが認められるのであり,
本件加重が,実質的に増車抑制政策に反する行為を理由として不利益な取
扱いをするものであることを否定することはできない。
ウまた,被告は,供給過剰の状態にある地域において増車することは,タ
クシー運転者の労働条件の悪化や違法・不適切な事業運営の横行などの問題
を更に深刻化させる原因となるところ,急激な増車を行った一般乗用旅客自
動車運送事業者は,規模の拡大に対し,運行管理面での対応が追いつかない
ことが懸念され,現に,このような一般乗用旅客自動車運送事業者が法令違
反を犯す傾向が高いことがうかがわれる(乙75)とした上,供給過剰の状
態にある地域においてあえて増車を行った一般乗用旅客自動車運送事業者
が上記問題を現実化させないようにするため,このような一般乗用旅客自動
車運送事業者の労務管理や安全管理等に係る一定の違反については,より一
層厳格に対処することとし,基準日車等を更に加重することとしたとも主張
する。
確かに,被告が最終準備書面とともに提出した「タクシー事業に係る運
賃制度について」(乙75)によれば,急激な増車を実施した事業者(平成
18年度末車両数が平成13年度末車両数の2倍以上となっている事業者)
につき,全事業者平均よりも行政処分件数や事故件数が多い傾向が認められ
る。しかし,本件加重の発想は,平成12年改正法が施行される前の平成1
3年10月26日付け自動車交通局長通達「緊急調整措置の発動要件等につ
いて」において既に明確に現れているのであって,本件加重が平成12年改
正法施行後の現状認識に基づくものとは考え難く,上記のような説明は後付
けのものといわざるを得ない。これまでに述べたとおり,本件加重は,特別
監視地域等における減車勧奨及び増車抑制を目的として,これらに反する行
為を理由に不利益な取扱いをするものと認められるのであって,これに反す
る被告の上記主張は採用することができない。
4小括
(1)以上によれば,①本件各処分は,道路運送法40条の趣旨,目的から逸脱
した減車勧奨及び増車抑制という目的に基づき,考慮すべきでない事情を考
慮して加重された不合理なものというべきであり,また,②本件Y処分は,
Y違反事実5(運行記録計による記録義務違反・記録)を判断の基礎とする
点において事実の誤認があるというべきであるから,いずれも国土交通大臣
等に付与された裁量権の範囲を逸脱し又は濫用したものとして違法であり,
取り消されるべきである。
(2)なお,本件各処分を取り消すべき範囲については,処分基準公示及び個別
基準公示を踏まえて,本件加重及びY違反事実5の部分に限って取り消す(す
なわち,本件加重及びY違反事実5がないものとして処分基準公示等に当て
はめ,処分日車数を算出し,その差の部分を取り消す)という考え方もあり
得る。しかし,処分基準公示等はあくまでも処分基準であって法令ではない
から,裁判所がこれを法令のごとく当てはめて処分の一部を適法,一部を違
法とすることが可能かどうか疑問があるし,また,裁量処分における行政庁
の判断は,処分基準が明確に定められている場合であっても,最終的には個
別の事情を全体として考慮し判断すべき部分があると解されるから,処分基
準により裁量処分の一部のみを違法とすることが可能であるようにみえると
きであっても,裁量権の行使としてされた処分全体が瑕疵を帯びるというべ
きである。したがって,主文1項及び2項のとおり,本件各処分の全部を取
り消すのが相当である。
5国家賠償請求の成否
(1)輸送施設使用停止処分に基づく営業損害について
ア法人である一般乗用旅客自動車運送事業者が輸送施設使用停止処分を受
け,その営業用のタクシー車両の一部を使用することができない場合であ
っても,当該事業者において,使用停止対象車両以外の代替可能な遊休車
両を有しており,それを利用することが可能であった場合には,それを利
用することによって営業損害の発生を回避することができたはずであるか
ら,遊休車両により代替可能であった使用停止対象車両に係る営業利益の
喪失については,当該処分と相当因果関係のある営業損害であるとは認め
られないというべきである。
イ原告Xについて
原告Xは,本件X処分により,保有していたタクシー車両のうち5両に
つき平成21年7月16日から同月20日までの5日間,うち1両につき
同月16日から同月25日までの10日間,使用に供することを停止され
て使用することができず,その間の営業収入を失ったと主張する。
しかし,原告Xが近畿運輸局長に対して報告した平成21年7月度の輸
送実績(乙79)によれば,本件X処分が行われた当該月度の実働率は6
9.8パーセント(延実在車両数1271日車,延実働車両数887日車
(小数点第2位四捨五入,以下同じ。))であることから,同月度に本社
営業所に配置されていた事業用車両数41両に上記実働率を乗じると,1
日当たりの実働車両数は28.6両となり,1日当たりの遊休車両数は1
2.4両となる。
そうすると,原告Xにおいては,使用停止を命じられた1日当たり車両
数6両を優に上回る,1日当たり12.4両もの遊休車両があったという
ことができるところ,原告Xから,本件X処分による使用停止期間におい
て遊休車両が6両未満であった旨の具体的な主張立証はない。したがって,
原告Xは,この遊休車両を利用することによって営業損害の発生を回避す
ることができたはずであるから,原告Xが主張する上記営業損害は,本件
X処分と相当因果関係のある損害であるとは認められない。
ウ原告Yについて
原告Yは,本件Y処分により,保有していたタクシー車両のうち16両
を平成21年7月10日から同月16日までの7日間,うち1両につき同年
7月10日から同月27日までの18日間,使用に供することを停止され使
用できず,その間の営業収入を失ったと主張する。
しかし,原告Yが近畿運輸局長に対して報告した平成21年7月度の輸
送実績等(乙80)によれば,本件Y処分が行われた当該月度の実働率は
62.0パーセント(延実在車両数2573日車,延実働車両数1594
日車)であることから,同月度に本社営業所に配置されていた事業用車両
数83両に上記実働率を乗じると,1日当たりの実働車両数は51.5両
となり,1日当たりの遊休車両数は31.5両となる。
そうすると,原告Yにおいては,使用停止を命じられた1日当たり車両
数17両を優に上回る,1日当たり31.5両もの遊休車両があったとい
うことができるところ,原告Yから,本件Y処分による使用停止期間にお
いて遊休車両が17両未満であった旨の具体的な主張立証はない。したが
って,原告Yは,この遊休車両を利用することによって営業損害の発生を
回避することができたはずであるから,原告Yが主張する上記営業損害は,
本件Y処分と相当因果関係のある損害とは認められない。
エ原告らの主張
(ア)原告らは,原告らはいずれも乗務員1人についてタクシー車両1両を
専属的に割り当て運用する1車1人制を基本として営業をしており,使
用停止を命じられた車両の代わりに他の車両を使用することにより営業
損害の発生を回避し得たとはいえないと主張する。
しかし,原告らのこのような1車1人制の運用は,あくまでも会社内
の事実上の取扱いにすぎず,原告らが,自己の雇用する運転者を遊休車
両に臨時に割り当てることは当然に可能というべきであって,これを妨
げる事情も特に見当たらない。したがって,原告らの上記主張は採用す
ることができない。
(イ)原告らは,乗務員の大半は土日の勤務を休むため,平日の実働率は高
く,他の乗務員が乗れる遊休車両が日々多数存在していたかのような主張
には理由がないと主張する。
しかし,原告らにおいて,乗務員の大半が土日の勤務を休んでいると
か,それによって平日の実働率が高くなっていると認めるに足りる十分
な証拠はない。なお,原告Yの平成21年7月10日から同月16日ま
での点呼簿(甲B8~14)をみても,マーカーが引いてある使用停止
対象車両は11両であるが,いずれの日においても,その他に11両以
上の稼働していない事業用車両があることがうかがわれるのであり,遊
休車両は十分にあったものと認められる。
(2)弁護士費用について
原告らは,損害賠償請求に係る訴え(丙事件)の提起並びに遂行を原告ら
訴訟代理人に依頼したとして,その弁護士費用のうち上記(1)の営業損害の約
1割に相当する金額(原告Xにつき10万円,原告Yにつき30万円)の損
害賠償を求めている。しかし,上記(1)のとおり,原告らが主張する営業損害
は,本件各処分と相当因果関係のある損害とは認められないから,上記各弁
護士費用についても,本件各処分と相当因果関係のある損害とは認められな
い。
(3)小括
以上によれば,原告らの被告に対する国家賠償法1条1項に基づく損害賠
償請求は,本件各処分の国家賠償法上の違法性(同法上違法となる範囲を含
む。)や故意又は過失の有無について検討するまでもなく,いずれも理由が
ない。
6結論
以上によれば,原告Xが本件X処分の取消しを求める請求(甲事件)及び原
告Yが本件Y処分の取消しを求める請求(乙事件)はいずれも理由があるから
これを認容し,原告らのその余の請求(丙事件)はいずれも理由がないからこ
れを棄却することとし,主文のとおり判決する。
大阪地方裁判所第2民事部
裁判長裁判官山田明
裁判官徳地淳
裁判官内藤和道
(別紙1)
当事者の主張
第1本件X処分に係る違反事実の存否等
1X違反事実1(点呼の記録義務違反・記録事項の不備)の存否
(被告の主張)
(1)運転者については乗務前及び乗務後に点呼を義務付けられているが,その
実施に当たり,運転者ごとに点呼実施事実につき点呼の日時等を正確に記録
すべきところ(道路運送法27条1項,運輸規則24条1項,2項,同条3
項各号),原告Xは,調査対象期間(平成21年2月1日から同月28日ま
で)において,全ての点呼記録につき点呼の日時を正確に記録しておらず(不
備率100パーセント),運輸規則24条3項に違反した。
(2)原告Xも認めるとおり,原告Xは,平成21年2月1日から同月28日ま
での調査期間において,アルコールチェッカーの時刻表示が約10分早かっ
たにもかかわらず,これを修正することなく漫然放置し,これを基に不正確
な点呼実施時刻を点呼簿に記載していたものである。また,原告Xの主張に
よれば,乗務前及び乗務後の点呼の前にアルコールチェッカーによる飲酒検
査が行われているというのであるから,アルコールチェッカーの表示時刻は,
これを正確な時刻に修正したとしても,点呼実施時刻と一致しないはずであ
る。
(原告Xの主張)
原告Xは,点呼時の運転手に対する飲酒の検査として,全ての運転者に乗務
前及び乗務後の点呼の際にアルコールチェッカーを使った飲酒検査を義務付け
ており,アルコールチェッカーには検査日時が明示されて結果がプリントされ
るため(甲A3),同検査時刻をもって点呼実施時刻として記載したものであ
る(甲A2)。運転者は点呼前にアルコールチェッカーで飲酒検査を受けるの
で,誤差といってもわずかなものにすぎない。道路運送法27条1項が求めて
いるのは,運転者の適切な勤務時間及び乗務時間の設定その他の運行管理(拘
束時間等の管理)であり,同一の機械(アルコールチェッカー)の時刻を記載
するよう統一しても,拘束時間等の運行管理のうえで何ら支障はなく,かえっ
て運行管理の目的に適うものである。
2X違反事実2(乗務等の記録義務違反・記録事項の不備)の存否
(被告の主張)
(1)事業者は,事業用自動車の運転者の乗務については,運転者ごとに乗務の
開始及び終了の日時等を正確に記録させるべきところ(運行記録計による記
録が可能な場合には,運行記録計による記録に運行記録計によるもの以外の
所定事項を付記させなければならない。道路運送法27条1項,運輸規則2
5条3,4項),原告Xは,調査対象期間(平成21年2月1日から同月2
8日まで)において,全ての乗務記録につき乗務の開始及び終了の日時を正
確に記録をさせておらず(不備率100パーセント),運輸規則25条3,
4項に違反した。
(2)原告Xも認めるとおり,原告Xは,平成21年2月1日から同月28日ま
での調査期間において,アルコールチェッカーの時刻表示が約10分早かっ
たにもかかわらず,これを修正することなく漫然放置し,これを基に不正確
な乗務の開始時刻及び終了時刻を運転日報に記載していたものである。また,
原告Xの主張によれば,乗務前及び乗務後の点呼の前にアルコールチェッカ
ーによる飲酒検査が行われているというのであるから,アルコールチェッカ
ーの表示時刻は,これを正確な時刻に修正したとしても,乗務の開始時刻及
び終了時刻と一致しないはずである。
(原告Xの主張)
原告Xは,全ての運転者に乗務前及び乗務後の点呼の際にアルコールチェッ
カーを使った検査を義務付けており,同検査の時刻をもって出庫時刻及び入庫
時刻として運転日報に記載したものである(甲A4)。実際には,運転者は点
呼前にアルコールチェッカーで検査を受けるので,その分拘束時間としては長
く計上されることになるが,同一の機械を通して時間管理が統一でき,拘束時
間等の運行管理のうえで何ら支障はなく,運行管理の目的に適うものである。
3信義則違反
(原告Xの主張)
原告Xが上記1及び2のような取扱いを行うようになったのは,グループ会
社であるZ株式会社のP2専務取締役が,平成20年12月頃又は平成21年1
月頃,近畿運輸局自動車交通部旅客第二課の担当官に対し,点呼実施時刻等の
記載につき,営業所の掛時計,腕時計,卓上時計,アルコールチェッカーの表
示する時刻など表示時刻が分かれ,統一できないので,アルコールチェッカー
の表示時刻を記載して良いかと確認したところ,同担当係官からそれで構わな
い旨の回答を受けたため,原告Xにおいても,アルコールチェッカーの検査時
刻を,点呼実施時刻並びに乗務開始時刻及び乗務終了時刻として記載するよう
統一したものである。
上記取扱いは,近畿運輸局自動車交通部旅客第二課の担当官による上記回答
を信頼して行われたものであるから,監査において間違いであるとの指導,是
正勧告を受けることはあっても,法令違反であるとして行政処分を加えること
は信義則違反(禁反言)にあたり,許されないというべきである。
(被告の主張)
原告Xは,アルコールチェッカーの作動時刻を出庫前点呼時刻及び入庫後点
呼時刻並びに出庫時刻及び入庫時刻としたことをもって直ちに,原告Xが点呼
実施事実につき点呼の日時を正確に記録しておらず,また,乗務記録につき乗
務の開始及び終了の日時を正確に記録させていなかったと判断されているわけ
ではなく,個別・具体的事情を踏まえて上記各事実の存在が認められているに
すぎないから,原告Xが指摘する教示の有無を検討するまでもなく,原告Xの
上記主張は失当というほかない。
また,原告Xが,アルコールチェッカーの作動時刻を出庫前点呼時刻及び入
庫後点呼時刻並びに出庫時刻及び入庫時刻として記載しても構わないなどとい
う教示を担当係官から受けたとは認め難い。また,仮に,アルコールチェッカ
ーの作動時刻を出庫前点呼時刻及び入庫後点呼時刻並びに出庫時刻及び入庫時
刻として記載しても構わないなどという教示がされていたとしても,それは,
せいぜい,これらの記載の際に依拠すべき時計をアルコールチェッカーの作動
時刻とするという限度での信頼が成り立つにすぎず,アルコールチェッカーの
作動時刻の正確性につき何の確認もせずに使用してよいことについてまで信頼
が成り立つものではなく,原告Xには法を曲げてまで保護すべき利益は認めら
れず,その点につき,信義則適用の前提を欠くというべきである。
第2本件Y処分に係る違反事実の存否等
1Y違反事実4(乗務等の記録義務違反・記録の改ざん)の存否
(被告の主張)
(1)事業者は,事業用自動車の運転者の乗務については,運転者ごとに所定事
項を記録させるべきであるところ(運行記録計による記録が可能な場合には,
運行記録計による記録に運行記録計によるもの以外の所定事項を付記させな
ければならない。道路運送法27条1項,運輸規則25条3,4項),原告
Yは,調査対象期間(平成20年11月16日から同年12月15日まで)
において,「コードNo.XXXX」の運転者(本件運転者)に係る乗務記
録につき出入庫時刻を改ざんしており(記録の改ざん8件:本件運転者に係
る平成20年11月18日,同月19日,同月20日,同月22日,同年1
2月5日,同月11日,同月12日,同月15日の各運転日報),運輸規則
25条3,4項に違反した(ただし,被告は,本件訴訟において,本件運転
者に係る平成20年12月11日,同月12日の各運転日報の記録について
は,改ざんされたものである旨の主張はせず,記録の改ざんはこれらを除く
6件であることを前提に主張する。)。
(2)上記6件の各違反の態様は以下のとおりである。
ア本件運転者の平成20年11月18日の運転日報(乙46の1)には,
出庫時刻が「20時50分」と記載された後,「50分」の「0」に棒を
書き足して「9」として「20時59分」と記載してあり,明らかに改ざ
んされたことが認められるが,運行記録計の記載に照らせば,実際には,
当該運転者の乗務する事業用自動車は,同日午後8時40分ころから運行
を開始しており(乙46の2),実際に乗務した時間より約19分短く記
載されていたことになる。
イ同月19日の運転日報(乙47の1)には,出庫時刻が「21時10分」
と記載された後,「10分」の「0」の上部に「○」を書き足して「8」
として「21時18分」と記載してあり,明らかに改ざんされたことが認
められるが,運転記録計の記載に照らせば,実際には,当該運転者の乗務
する事業用自動車は,同日午後9時10分ころから運行を開始しており(乙
47の2),実際に乗務した時間より約8分短く記載されていたことにな
る。
ウ同月20日の運転日報(乙48の1)には,当初出庫時刻が「21時0
5分」と,入庫時刻が「8時55分」とそれぞれ記載され,これらは,実
際の運行の開始時刻及び終了時刻とおおむね一致していたにもかかわらず
(乙48の2),その後,出庫時刻が「21時15分」と,入庫時刻が「9
時05分」とそれぞれ改ざんされたことが認められる。
エ同月22日の運転日報(乙49の1)には,出庫時刻が「21時34分」
と記載されているが,実際には,当該運転者の乗務する事業用自動車は,
同日午後9時25分ころから運行を開始しており(乙49の2),実際に
乗務した時間より約9分短く記載されていたことになる。
オ同年12月5日の運転日報(乙50の1)には,当初出庫時刻が「21
時20分」と,入庫時刻が「9時00分」とそれぞれ記載され,これらは,
実際の運行の開始時刻及び終了時刻とおおむね一致していたにもかかわら
ず(乙50の2),その後,出庫時刻が「21時31分」と,入庫時刻が
「9時11分」とそれぞれ改ざんされたことが認められる。
カ同月15日の運転日報(乙51の1)には,入庫時刻が「8時50分」
と記載された後,「8時40分」と改ざんされたことが認められるが,実
際には,当該運転者の乗務する事業用自動車は,同月16日午前8時50
分ころに運行を終了しており(乙51の2),実際に乗務した時間より約
10分短く記載されていたことになる。
(原告Yの主張)
(1)原告Yは,乗務前及び乗務後の点呼の際,アルコールチェッカーによる検
査を実施しており,検査結果に検査時刻が表示されるところ,アルコールチ
ェッカーの作動時刻よりも前の時刻を出庫時刻に記載しているなど明らかに
運転者の誤記と分かるケースで,その誤記を訂正することがあったにすぎな
い。あくまでも単純に誤記と思われる記載の訂正であって,乗務時間を短く
みせようなどと意図したものは一切なく,改ざんと指摘される理由はない。
(2)被告は,平成20年11月19日の運転日報(乙47の1)の出庫時刻「2
1時10分」の「10分」の「0」の上に「○」を書き足して「8」にし「2
1時18分」と記載して,改ざんしたと主張するが,それはその前の「1」
を書いたペン先が1の下端から跳ね上がってきた手で「0」を連続して書い
ているにすぎず,「0」の上に「○」を書き足して「8」に改ざんしたもの
ではない。被告の主張は事実を誤認したものである。
被告は,平成20年11月18日の運転日報(乙46の1)につき,出庫
時刻「20時50分」の記載が「59分」に改ざんされたと主張するが,他
の場合には運行管理者による訂正印をもって堂々と訂正されており,疑問が
ある。また,平成20年11月20日及び同年12月5日の各運転日報(乙
48の1,50の1)は,訂正後も乗務時間が短くなるようには訂正されて
おらず,実際の乗務時間を短くするために改ざん等を行ったのではなく,原
告Yにおいてもアルコールチェッカーによる飲酒検査を点呼の際実施してい
たが,アルコールチェッカーの検査時刻から,乗務員の記載が不正確であっ
たため,間違い等を訂正したものであって,改ざんではない。
2Y違反事実5及び6(運行記録計による記録義務違反)の両方を違反事実と
することの可否等
(被告の主張)
(1)事業者は,事業用自動車の運転者の乗務については,運行記録計により,
当該自動車の瞬間速度,運行距離及び運行時間を記録すべきところ(道路運
送法27条1項,運輸規則26条2項),原告Yは,調査対象期間(平成2
0年11月16日から同年12月15日まで)において,一部の運転者につ
いて,上記事項を運行記録計により記録せず(記録なし率1.96パーセン
ト〔51件中1件〕),運輸規則26条2項に違反した。
事業者は,事業用自動車の運転者の乗務については,上記のとおり記録義
務があり,かつ,その記録を運転者ごとに整理して1年間保存しなければな
らないところ(道路運送法27条1項,運輸規則26条2項),原告Yは,
上記のとおり,乗務した一部の運転者について,上記事項を運行記録計によ
り記録していなかったため,これに伴い記録を保存していないこととされ(記
録保存なし率1.96パーセント),運輸規則26条2項に違反した。
(2)運輸規則26条2項は,「当該自動車の瞬間速度,運行距離及び運行時間
を運行記録計により記録し,かつ,その記録を運転者ごとに整理して一年間
保存しなければならない」と,所定事項の記録義務とは別個に当該記録の保
存義務を規定している一方,同規則上,記録義務を懈怠した一般乗用旅客自
動車運送事業者が保存義務を免除される旨の規定がなく,このような一般乗
用旅客自動車運送事業者が当然に保存義務を免除されると解釈すべき理由も
ないことに照らせば,記録義務を懈怠した一般乗用旅客自動車運送事業者に
対し,保存義務懈怠を問うことができると解することができるのは明らかで
ある。
また,実質的にも,記録義務を履行していたが,保存義務を懈怠した一般
乗用旅客自動車運送事業者と,記録義務すら懈怠した一般乗用旅客自動車運
送事業者を比較した場合,輸送の安全のために運行管理を徹底する観点から
は,後者の方がはるかに悪質であり,重い処分を課すべきであることはいう
までもないから,後者に対する処分日車数を算定するに当たって,運行記録
計による記録義務違反(記録)に関する基準日車等のみならず,運行記録計
による記録義務違反(記録の保存)に関する基準日車等を課したからといっ
て,過重であるとはいえない。
(原告Yの主張)
(1)原告Yは,全ての乗務を運行記録計により記録している。運行記録計によ
る記録(チャート紙)の保管については,乗務員ごとにチャート紙をまとめ
て保管しているため,見つからなかったチャート紙は他の運転者の箱の中に
紛れて入っている可能性が非常に高いのであるが,監査という限られた時間
内のため,他の運転者のチャート紙を保管している箱の中身全部をひっくり
返してまで1枚のチャート紙を探し出すようなことを断念したにすぎない。
(2)近畿運輸局長は,原告Yに対し,運行記録計による記録がなかったとして
違反を処分し,また運行記録計による記録がないため記録の保存もなかった
として各々を別個に違反処分をしているが,記録ということがなければそれ
についての保存ということもあり得ず,記録がされていなかったとして処分
し,さらに記録がないものを保存していないとして別個に処分することは二
重処罰というべきである。原告Yにおいては,記録しているものの,保管が
十分でなかったため見つけられなかったというのが実態であり,違反を問わ
れるとしても,保存についての違反を問うか,記録がないとして記録につい
ての違反を問われるかのどちらかをもってすべきであり,限りなく前者の方
であったのであるから,これらを別々の違反事実として処分を課される理由
はないというべきである。
第3本件加重の是非(裁量権の範囲の逸脱又はその濫用の有無)
(原告らの主張)
1特定特別監視地域等の指定後,当該地域内にある営業所の法令違反につき,
基準車両数の一定(5%以上)の減車をしていない者による違反,あるいは増
車を行っている者による違反であることを理由とする本件加重は,道路運送法
上許容し得ないものであること
(1)本件各処分の根拠となる道路運送法は,平成12年改正で,目的を「貨物
自動車運送事業法(平成元年法律第83号)と相まって,道路運送事業の運
営を適正かつ合理的なものとすることにより,道路運送の利用者の利益を保
護するとともに,道路運送の総合的な発展を図り,もって公共の福祉を増進
すること」(1条)とし,タクシー事業について許可制を採用して(4条1
項)それまでの免許制を廃止し,タクシー台数の増車,減車については,従
来の許可制に変えて届出制を導入し(15条3項),さらに許可や事業計画
変更の基準が大幅に改正され,「当該事業の計画が輸送の安全を確保するた
め適切なものであること」(6条1号),「前号に掲げるもののほか,当該
事業の遂行上適切な計画を有するものであること」(同2号),「当該事業
を自ら適確に遂行するに足る能力を有するものであること」(同3号)とい
う基準とされ,需給調整に関する条項が原則として廃止された。ただ,供給
輸送力が「輸送需要量に対し著しく過剰となっている場合であって,供給輸
送力が更に増加することにより,輸送の安全及び旅客の利便を確保すること
が困難となるおそれがあると認める」とき,「緊急調整地域」を指定するこ
とができる(8条1項)との緊急調整措置が設けられ,その場合に限り当該
地域での新規事業許可や増車を禁じる(同条3項,4項)ことができるとさ
れている。平成18年の道路運送法の改正では,その目的を「貨物自動車運
送事業法(平成元年法律第83号)と相まって,道路運送事業の運営を適正
かつ合理的なものとし,並びに道路運送の分野における利用者の需要の多様
化及び高度化に的確に対応したサービスの円滑かつ確実な提供を促進するこ
とにより,輸送の安全を確保し,道路運送の利用者の利益の保護及びその利
便の増進を図るとともに,道路運送の総合的な発展を図り,もって公共の福
祉を増進すること」(1条)と定め,事業認可制,運賃認可制,認可基準は
平成12年改正と同一であるが,利用者の利益の保護及び利便の増進を図る
という目的をさらに明確に定める内容となっている。これらの一連の改正法
は,タクシー事業を大幅に自由化するものであり,台数の増減,運賃の新規
参入等に関して,それまでの需給調整規制を大幅に緩和して,タクシー事業
への新規参入や事業者間の競争を促進する役割を果たすものであった。
これらの道路運送法の改正に通じるものは,新規参入を容易にして,事業
者間の競争を促進し,事業者の創意工夫を活かした多様なサービスの提供や
事業の効率化,活性化を図り,もって,多様化した利用者の需要に適合し,
利用者の利便の確立,向上を図るという立法政策にあったことは明らかであ
り,平成21年に特措法が制定された後においても,上記道路運送法の目的
や,基本的な枠組みは変更されていない。
したがって,仮に需給調整を意図する行政指導を行う場合にも,これら法
の趣旨を踏まえ,かつ,行政指導がなされた時点における法令の趣旨目的,
法の内容を否定し,あるいは法の想定する範囲を超えてはならないことは当
然である。
(2)ところで,道路運送法8条に基づき緊急調整地域として指定された場合に
は,増車が一切できなくなるが,現存のタクシー台数を減車させることは道
路運送法はもとより現行法体系の下では一切認められていない。
特別監視地域や特定特別監視地域の指定は,国土交通省の主張によるなら
ば,権利制限性の強い緊急調整地域の指定をする事態を可能な限り抑止する
ための予防措置として行われるのであるから,緊急調整地域の要件を満たさ
ない場合,すなわち未だ「供給輸送力が輸送需要量に対し著しく過剰となっ
て」いないか,または「供給輸送力が更に増加したとしても,輸送の安全及
び旅客の利便を確保することが困難となるおそれが」ない場合となる。この
ような場合に需給調整が必要だとするのは文字どおり矛盾であり,台数規制
や,増車抑制や減車を強制するかのような規制は法的にも政策的にも許され
るはずがない。
通達による制度である特別監視地域等の指定により,増車をさせない勧告
(増車見合わせ勧告)のみならず,減車の勧告を行い,これに応じていない
場合,法令違反の処分が1.5倍あるいは3倍等に加重されるという特殊か
つ強力な法的効果が付与される。このような通達による地域指定を処分の加
重要件に連動させる方式は,法が正面から規定する緊急調整地域の指定の脱
法行為にとどまらず,法の趣旨を潜脱して,法の想定しない,より強い権利
制限と私人に対するより重い不利益な取扱いを持ち込むものと評価できる。
平成21年に制定された特措法により,国土交通大臣は,供給過剰の状況
(同法3条1項1号),1台当たりの収入の状況(同2号),法令の違反そ
の他不適正な運営の状況(同3号),事故の発生の状況(同4号)等に照ら
して,輸送の安全,利用者の利便を確保する等のために特定地域を指定する
ことができるとされ(同法3条1項),特定地域の増車に係る事業計画変更
については認可制に変更された点が大きな変更点であるが(道路運送法15
条1項),増車を含む事業計画変更の認可は,「当該事業の計画が輸送の安
全を確保するため適切なものであること」(道路運送法6条1号),「前号
に掲げるもののほか,当該事業の遂行上適切な計画を有するものであること」
(同条2号),「当該事業を自ら適確に遂行するに足る能力を有するもので
あること」(同条3号)の各適合性を審査して行われるが,ここでの審査対
象は,増車に関していえばあくまでも増車に係る「当該事業の計画」や「当
該事業の遂行能力」そのものであって,特定地域全体における供給過剰の状
況の考慮や,特定地域の全体の交通事故,法令違反,タクシー1台当たりの
収入状況といった,特措法3条1項所定の特定地域の指定段階の要件では考
慮することが必須となっている要素については,その後,指定地域内で増車
を認可する段階での審査の場面では考慮されることはない。ましてや,当該
増車計画が特定地域内の供給過剰を招くこととなるかどうか,当該増車申請
事業者が過去に増車したかどうか,その際行政指導に従っていたか否かとい
った個別申請事業者に係る要素は,認可基準上何ら考慮事項になっていない。
言い換えれば,当該増車が特定地域の市況に対し供給過剰の影響を与える恐
れがあり,ひいては特定地域全体でのタクシー事故の発生や旅客の安全性低
下に結びつくかもしれない,あるいは過去に行政指導に従わないで適法に増
車をした事業者は安全のための法令の規制を軽視する傾向も強いといった考
慮を,認可に際しての消極的な要素とすることを法は許していない。特措法
が特定地域指定制度を導入した趣旨は,供給過剰,事故発生等の懸念が生じ
得る地域にあっては,それのみを理由に新規参入を広く許さない趣旨ではな
く,これまでの単なる届出により,容易にいかなる地域にも増車が可能であ
ったことのみを見直したのであって,当該事業者の当該増車に係る事業計画
が適切である場合に限って,増車を認めることができ,そのことで当該特定
地域における安全性確保,旅客の利便向上に貢献するものと想定したにほか
ならない。特措法による特定地域指定制度は,行政による需給調整措置の復
活という性格を一切持つものではない。特定地域において,仮に増車に係る
事業計画の変更認可申請があった場合でも,同認可制度を需給調整的な趣旨
に解して増車そのものに対し抑圧的,禁圧的に運用することを法は許してお
らず,まして,事前の減車指導に従わなかったこと等を認可に当たって不利
に考慮することなど認可基準上許されていない。
(3)以上のような道路運送法の数次にわたる改正,特措法の制定等一連の法令
の制定経緯に鑑みれば,法の趣旨・目的,原則は一貫しており,特定の事業
者の行政指導への不服従の有無といった不透明な要素によってその事業者の
増車に対し不利益取扱いを許す趣旨や手掛かりは法令上どこにも含まれてい
ない。法は,ある増車事業者が,他の事業者と異なる,何らかの特殊な立場
にあったり,何らかの悪質性の兆表があったり,何らかの禁圧されるべき非
難可能性があったりするといった特異な位置づけを一切許容していないので
ある。
緊急調整地域指定の法律上の直接の効果は,増車を禁止し抑えることにあ
り,かつそれに止まるものである。ところが,行政指導にすぎない特別監視
地域制度の指定がなされた効果として,緊急調整地域制度ですら法律上想定
していない法令違反に対する加重処分がなされることは,単に増車ができな
いということに止まらず,道路運送法が正面から認める営業の自由に対する
強力かつ恣意的・不透明な制限であり,さらに行政処分を受けることに伴う
対外的な不名誉といった不利益を勘案するならば,減車をしないことや増車
をしたことは不利益に考慮すべき何らの法令上の根拠がないにもかかわらず,
一連の法を逸脱し,一省庁の通達のみにより創設され,増車抑制策として行
政指導をもって行われる特別監視地域制度に基づき,法令違反について,他
の事業者に比べてことさら不利に加重処分を行うものであって,道路運送法
上許容し得ないものである。国土交通省の一連の法を逸脱した特別監視地域
の指定と行政指導と,加重処分を連動した増車抑制策は,行政処分における
比例原則,平等原則にも反し,裁量権を濫用逸脱するものである。
2事前の増車あるいは減車の有無と,法令違反の悪質性に何ら相関関係がなく,
行政処分においてこれらを考慮することは「他事考慮」となること
(1)平成12年改正後の道路運送法は,行政による需給調整規制を原則廃止し
た上で,同法8条による緊急調整地域は,タクシーの台数増加が輸送の安全
確保の困難につながるおそれがある場合にのみ,それを想定して直接にこれ
を規制する措置を設けたものである。原告らの本件各処分後の平成21年に
施行された特措法による特定地域の指定(同3条1項)も,タクシーの供給
過剰の状況を踏まえて指定がなされ,当該特定地域における増車は認可事項
とされるものの,認可に当たり,当該申請事業者の過去の増車等が勘案され
ることはない。
以上のような法令の仕組みに鑑みれば,道路運送法等には,増車をした者
の法令違反と増車をしなかった者の法令違反,あるいは減車をした者の法令
違反と減車をしなかった者の法令違反,ないし行政指導に従わないで増車を
した者か否かで法令違反や悪質性を区別する趣旨は全く含まれていないと解
釈される。個別事業者による増車や減車それ自体について,それが悪質性や
違法性,危険性の兆表であるという位置付けを法令の仕組み上一切前提とさ
れていない。
(2)大阪市域交通圏が通達により特別監視地域に指定された後,原告Xが減車
していないことは適法行為であって,道路運送法上何ら非難されるべきこと
ではない。また,原告Yが増車を届け出て増車をしたことも適法行為であっ
て,法律上非難されるべきいわれは全くない。道路運送法は,増車や減車の
有無それ自体が悪質性の兆表であるとの位置付けを一切しておらず,増車し
た者による法令違反がより危険性が大きいとか悪質であると想定しているこ
とを伺わせる法令の条文上の手掛かりも一切認められない。不利益処分に際
して,適法行為を行ったことを不利に考慮して,さらに営業を制約して不利
益処分の程度を増大させる運用は,法律による行政の原理,憲法の保障する
営業の自由に反しており,端的に違法というべきである。
法が直接禁じない限り増車が自由であり,減車すべき義務もない以上,増
車をした場合,増車をした者による違反を理由として処分を加重,あるいは
減車していない場合の,減車していない者による違反を理由として処分を加
重するといった処分基準を法令に明記することは,比例原則,平等原則,憲
法等に照らして許されない。
不利益処分にあたって考慮してよいのは,最低限関連する違法行為があっ
た場合に限られるべきである。
(3)被告は,一定の減車を実施したタクシー事業者には監査を免除するなどの
特典を与える一方,行政指導に従わずに増車を実施したタクシー事業者に対
しては監査を繰り返し実施するなど通告している(甲B6)。いわば,おと
なしく行政指導に従って増車をしなかった,あるいは減車をした事業者は,
適切な労務管理や安全管理が不徹底でもよく,多少の法令違反は目こぼしし
ても構わないが,行政指導に従わず増車を実施したタクシー事業者に対して
は,狙い撃ちの監査を繰り返し強行するというのであるから,行政処分の基
準のみならず,法の執行段階においても不合理な取扱いの強行であり,裁量
の濫用逸脱という違法があるというべきである。
原告らに対する本件各処分の対象となった,点呼や乗務記録,自動車報告
書などは,それらが現実に因果関係を持ってどの程度タクシー運転手による
事故の軽減や輸送の安全の確保に具体的に結びつくかはともかくとして,こ
のような記録等を正確に行うことが,一定の安全な走行に対する貢献がある
という想定に立っている。仮にこれらの安全管理義務が,安全コストの削減
等何らかの事情によって十分に遵守されなくなったときは,その不遵守の程
度それ自体によって一定の危険が引き起こされたものと法は想定していると
いえ,法令違反をした事業者が以前に行政指導に従わずに増車をしていたか
どうかといった事情が法令違反そのものの危険性の大小に影響するわけでは
ない。交通事故やサービス低下などの形でタクシー利用者や通行人に影響を
及ぼすかもしれない危険性・利便性の低下の水準については,法令違反その
ものの量及び程度が影響するのであって,それ自体適法であるところの増車
等が法令違反による安全性や利便性の低下に対し独自の法的効果を持つとい
う想定は,経済的にも,法的にも成り立たない。
(4)行政処分を,違法でも何でもない事業者の属性を基準に類型的に行うこと
はできず,特別監視地域において,一定数減車させず,また増車させたタク
シー事業者は,法令を軽視し,労働条件の悪化や輸送の安全の低下等の問題
を招くおそれが類型的に高いとの被告の仮定する理由をもって,個々の事業
者に対する処分を加重することは許されず,そのような理由で加重を行うこ
とは「他事考慮」にあたり,また比例原則,平等原則にも反することは明ら
かであるから,裁量権の濫用逸脱であり,違法であることも明らかである。
3本件処分は行政手続法32条1項,2項に反すること
(1)行政手続法32条2項は,「行政指導に携わる者は,その相手方が行政指
導に従わなかったことを理由として,不利益な取扱いをしてはならない」と
規定しているが,これには,許認可についての差別的扱いなどのほか,事実
上の行為である情報提供の拒否も含まれ,行政指導に対する不服従の事実の
公表も,それが制裁目的としてなされることは許されない。
被告は,処分の加重事由は「特定特別監視地域において基準車両数を一定
程度減少させず,又はこれを増加させた者による違反であることであって,
基準車両を減少させず,又はこれを増加させたことそのものではないし,増
車見合わせ勧告や減車の勧告に従わなかったことでもない」とするが,法令
違反による保護法益の侵害や法令が目的とする安全性の確保と直接関連のな
い処分の加重である以上,被告の主張は詭弁である。増車を届け出た原告ら
に対し,監査を実施し,増車見合わせ勧告や減車の勧告を行い,加重処分を
加えるとの前提があって,従わなければ繰り返し監査を行うとしており(甲
B6),その手続きの一環に則って本件加重の上で本件各処分が行われてい
るのであり,実質的にも行政指導に従わなかったことを理由とする不利益取
扱いにほかならず,端的に行政手続法32条2項違反である。
(2)被告は,道路運送法40条は具体的な処分内容,軽重の決定について,国
土交通大臣の広範な裁量に委ねられているかのような主張をしているが,法
令違反がもたらす安全性確保への影響それ自体に着目した同条の処分が行わ
れることこそ,タクシーの運行の安全性や旅客の利便に合致するのであって,
増車したか,減車に応じた業者であるかで処分に差異を設けて,従わない事
業者に対しては繰り返し監査を行うが,一定の減車を行った事業者には監査
を免除して行政処分の運用を行うなどというのは,かえって安全性の水準が
低下しかねず,道路運送法40条の趣旨と正面から衝突することになるので
あるから,そのような内容についてまで裁量が許されるはずがない。
行政手続法32条1項は,「行政指導に携わる者は,いやしくも当該行政
機関の任務又は所掌事務の範囲を逸脱してはならないこと及び行政指導の内
容があくまでも相手方の任意の協力によってのみ実現されるものであること
に留意しなければならない」と規定しているが,行政指導との位置付けしか
持ち得ない特別監視地域等の指定や運用が,需給調整を目的に行われるとい
うのであれば,道路運送法その他の法令が国土交通省に許した権限行使の限
界を超えるものである。すなわち,特別監視地域等の指定及びその運用は,
道路運送法8条1項の緊急調整地域の指定をする要件を満たさないときに,
法ですら可能でない「減車」を行政指導で要請し,しかも行政指導に従わな
い場合に追加的に監査を行い,発覚した法令違反に対して処分を加重するこ
とを予定するものであり,このように加重処分を加えるという内容で行政指
導を強制する権限は,道路運送法により国土交通大臣が適法に発動できる権
限の前提ではあり得ない。特別監視地域等の指定とその運用は,増車見合わ
せ勧告や減車勧告に従わない事業者には繰り返し監査を実施すると脅し(甲
B6),その一方で一定の減車を実施した事業者は監査を免除するなどとし
ていることから明らかなように,監査並びに行政処分や行政指導として行わ
れる内容は,法令違反を禁圧し,輸送の安全や旅客の利便の確保,向上のた
めに行われるのではなく,増車の抑制,減車の推進という需給調整そのもの
を主眼にしたものであると言わざるを得ない。
行政による需給調整を廃止した道路運送法その他法令上,処分を加重する
という形で行政指導を強制し,個人の権利を制限する権限があるとは到底認
められず,増車の見合わせ勧告や減車の勧告はそれが処分の際には加重処分
という不利益を伴って強制されるという意味合いで行われているのであるか
ら,そのような行政指導は道路運送法が許す権限行使の限界を超えるもので
あり,処分庁の「任務」又は「所掌事務の範囲」を逸脱したものであり,相
手方の任意の協力によってのみ実現されるようにとの配慮は全くなく,むし
ろ加重処分を突きつけて,任意の協力の範囲を逸脱し,強制するものであり,
行政手続法32条1項にも違反することは明らかである。
(3)以上のように,特別監視地域等に指定された地域において,増車を届け出
た事業者に対する増車見合わせ勧告や減車勧告が,単なる行政指導として行
われるならともかく,行政指導という範囲を超えて,法律上強制できない増
車禁止や,減車の強制を行政指導の形で行い,従わない者には監査で判明し
た法令違反について処分を加重して制裁して事実上強制することは,行政指
導を強制してはならないとする行政手続法32条1項違反,及び行政指導に
従わなかったことを理由として不利益な取扱いをしてはならないとする同条
2項違反である。
そして,道路運送法40条の規定に基づいて行われる行政処分は,あくま
でも同条1号で規定される「この法律若しくはこの法律に基づく命令若しく
はこれらに基づく処分又は許可若しくは認可に付した条件に違反したとき」
についてのものであり,処分事由は「この法律」「この法律に基づく命令」
「これらに基づく処分又は許可若しくは認可に付した条件」の違反であるほ
か,当該処分の際の加重事由,その根拠も同様に「この法律」「この法律に
基づく命令」「これらに基づく処分又は許可若しくは認可に付した条件」の
違反に求められなければならない。
特別監視地域等の指定自体が,法令上根拠となる規定はなく,あくまでも
通達に基づいているにすぎず,行政指導たる位置付けしか持ち得ないことは
明らかであるのに,そのような地域において行われる減車の推奨や増車見合
わせ勧告,減車勧告について,それらに従っていないこと,あるいは従って
いない業者であることを理由に処分を加重するとの処分基準を作成して運用
をすることは,法律上の根拠もなく,また本来強制されない性質のものをも
って処分が加重されて事実上行政指導が強制されるのであって,そのような
処分基準の作成やその適用自体,道路運送法40条が許容しているとは解し
得ないし,行政手続法32条1項,2項に反することは明らかである。
(4)原告らに対する本件各処分は,法律上の根拠もなく,加重処分の事由とし
て評価することが許されない内容をもって処分を加重し,行政指導を強制し,
従わない者には不利益を与えるとの内容以外のなにものでもなく,行政手続
法32条1項,2項に反し,違法である。
4まとめ
特別監視地域等の指定や運用は,法令上根拠となる規定はなく,あくまでも
通達に基づく制度である。当該特別監視地域等指定を受けた地域にある原告ら
が増車の届出をして増車すること,あるいは減車していないことについて,減
車指導・増車抑制を加重処分で強制することは,業界にカルテルを行わせよう
とすることと同じであって,独占禁止法に違反する行政指導である。
増車を行い,あるいは減車していないことと法令軽視とは関係はなく,労働
条件の悪化・輸送の安全性と当該事業者が減車していないこと,増車したこと
との関係も認められない。法令違反を理由とする処分基準において,当該法令
違反とは関係のない,法律上許されている減車拒否,増車の状況を原告らに不
利に考慮することは,恣意的であり,他事考慮である。また,加重処分は違反
の程度と制裁との間の合理的な関連を害しているため比例原則違反であり,同
じ違反でも,減車せず,又増車していると制裁が重くなるのであるから,平等
原則にも違反する。さらに,法令上認められている増車の実施や減車に従わな
いことを,行政処分において考慮し,処分基準を設定することに合理性がなく,
明白な裁量濫用である。その上,行政指導である減車推奨,増車抑制を,処分
の加重事由という形で強制するものであるから,明らかに行政手続法32条違
反である。
(被告の主張)
1輸送の安全の確保及び道路運送の利用者の利益を図るための広範な裁量
道路運送法40条においては,一般乗用旅客自動車運送事業者が,「この法
律若しくはこの法律に基づく命令若しくはこれらに基づく処分又は許可若しく
は認可に付した条件に違反したとき」,「正当な理由がないのに許可又は認可
を受けた事項を実施しないとき」,同法「第七条第一号,第三号又は第四号に
該当することとなつたとき」のいずれかの要件に該当するときは,「六月以内
において期間を定めて自動車その他の輸送施設の当該事業のための使用の停止
若しくは事業の停止を命じ,又は許可を取り消すことができる」と定められる
にとどまり,上記各要件充足の有無の判断基準や,上記各要件を満たすと判断
した際に実際に処分するかどうかの基準,更には同条において定められる各処
分を選択する上での基準等は,政令への委任を含め,何ら定められていない。
このことは,輸送の安全を確保し,道路運送の利用者の利益の保護及びその利
便の増進を図るとともに,道路運送の総合的な発達を図るべく,道路運送事業
の運営を適正かつ合理的なものにするため(同法1条参照),同法40条に基
づく行政処分の適用について,行政庁の専門技術的な知識・経験を基礎とする
公益上の判断を尊重し,各個別の事案に応じた柔軟な運用を行わせる趣旨であ
り,その具体的な運用は広く近畿運輸局長の裁量に委ねられていると解される。
2基準日車等を加重する目的
(1)大阪市域交通圏内の営業所における改善基準告示の遵守違反,点呼の記録
義務違反,乗務等の記録義務違反について,基準日車等を加重する目的
ア供給過剰の状態にある地域における労務管理や安全管理等に係る一定の
違反については,厳格に対処する必要があったこと
(ア)供給過剰の状態にある地域における諸問題
交通政策審議会が取りまとめた「タクシー事業を巡る諸問題への対策
について」と題する答申(乙33)において,タクシー事業については,
一般的に,①タクシー事業の収益基盤の悪化,②運転者の労働条件の悪
化,③違法・不適切な事業運営の横行,④道路混雑等の交通問題,環境
問題,都市問題,⑤利用者サービスが不十分であることの各問題が生じ
ていると指摘され,それらの諸問題の原因は,①タクシーの輸送人員の
減少,②過剰な輸送力の増加,③過度な運賃競争,④タクシー事業の構
造的要因(利用者の選択可能性の低さ,歩合制主体の賃金体系等)にあ
り,これらの諸問題の深刻化を招いた大きな原因が①タクシーの輸送人
員の減少と②過剰な輸送力の増加が相まって生じる供給過剰にあると指
摘されている(同3~5頁)ところ,このような問題点が指摘されてい
る地域においては,違法・不適切な事業運営を排除するため,一定の悪
質な法令違反を行った一般乗用旅客自動車運送事業者に対し,厳格な行
政処分を行う必要があるとされている(同16頁)。
(イ)供給過剰の状態にある地域の諸問題への対策
このように供給過剰の状態にある地域においては,タクシー運転者の
労働条件の悪化や違法・不適切な事業運営の横行などの問題が深刻化し
ており,タクシー運転者の労働条件の悪化や違法・不適切な事業運営の
横行を防止し,ひいては輸送の安全を確保し,道路運送の利用者の利益
を保護するため,一般乗用旅客自動車運送事業者の労務管理や安全管理
等に係る一定の違反については厳格に対処する必要があることに鑑み,
供給過剰の状態にある地域,すなわち緊急調整地域,特別監視地域,特
定特別監視地域においては,それぞれの地域の供給過剰の状況に応じて,
他の地域における上記違反の基準日車等と比較して,基準日車等を加重
することとした。
この点,処分基準公示別表1~8を通覧すると,違反に係る営業所が
特定特別監視地域内の営業所である場合については,当該一般乗用旅客
自動車運送事業者が,基準車両数を特定特別監視地域に指定された後に
増加させず,基準車両数の5パーセント以上を減少させている場合(同
別表5)以外については,基準日車等が最低1.5倍加重されることと
されている。
イ大阪市域交通圏が本件各処分当時供給過剰の状態にあったため,一般乗
用旅客自動車運送事業者の労務管理や安全管理等に係る一定の違反に厳格
に対処する必要があったこと
大阪市域交通圏が,①平成19年12月14日,ⅰ)下限割れ運賃を始め
とする多種多様な運賃・料金が設定され,事業者間の競争が激化している
こと,ⅱ)規制緩和後の車両数の増加数が著しいこと,ⅲ)交通事故件数が
全国平均より高いことから,特定特別監視地域(供給過剰の兆候のある営
業区域である特別監視地域のうち,供給拡大により運転者の労働条件の悪
化を招く懸念が特に大きな地域等)等と同様の措置を講じる必要性が認め
られる地域として個別指定され,さらに,平成20年7月11日,タクシ
ーの供給拡大により運転者の労働条件の悪化等を通じた輸送の安全及び旅
客の利便の低下を招く懸念が比較的大きいため,特定特別監視地域として
指定されたこと,②平成21年10月1日に特措法が施行され,供給過剰
の状況,法令の違反その他の不適正な運営の状況,事業用自動車の運行に
よる事故の発生の状況等に照らし,タクシーが地域公共交通としての機能
を十分に発揮できるようにするため,タクシー事業の適正化及び活性化を
推進することが特に必要であると認める地域として,国土交通大臣に特措
法3条所定の特定地域に指定されたこと(乙74)のほか,③需給調整規
制を実施していた平成12年度において,大阪市域交通圏の地域需給動向
は,3546両の供給過剰であり,その後,大阪府下全域においては,需
要と供給の格差が拡大しており,法人タクシーの日車営収は,この10年
間で約2割減少したことなどの各指標(乙7~13)に照らせば,大阪市
域交通圏が,本件各処分当時,供給過剰の状態にあったことは明らかであ
り,輸送の安全を確保し,道路運送の利用者の利益を保護するため,労務
管理や安全管理等に係る違反である改善基準告示の遵守違反,点呼の記録
義務違反,乗務等の記録義務違反について,厳格に対処する必要があった
というべきである。
(2)違反した一般乗用旅客自動車運送事業者が増車していた場合について,よ
り一層厳格に対処する必要があったこと
供給過剰の状態にある地域において増車することは,タクシー運転者の労
働条件の悪化や違法・不適切な事業運営の横行などの問題を更に深刻化させ
る原因となるところ,急激な増車を行った一般乗用旅客自動車運送事業者は,
規模の拡大に対し,運行管理面での対応が追いつかないことが懸念され,現
に,このような一般乗用旅客自動車運送事業者が法令違反を犯す傾向が高い
ことがうかがわれるところである(乙75)。そこで,供給過剰の状態にあ
る地域においてあえて増車を行った一般乗用旅客自動車運送事業者が上記問
題を現実化させないようにするため,このような一般乗用旅客自動車運送事
業者の労務管理や安全管理等に係る一定の違反については,より一層厳格に
対処することとし,基準日車等を更に加重することとした。
そのため,処分基準公示別表1~8を通覧すると明らかであるとおり,違
反に係る営業所が特定特別監視地域内の営業所である場合について,当該一
般乗用旅客自動車運送事業者が,基準車両数を特定特別監視地域に指定され
た後に増加させている場合(同別表4)については,基準日車等を増車を行
っていない一般乗用旅客自動車運送事業者の基準である1.5倍より更に加
重し,3倍まで加重することとされている。
(3)基準日車等を加重する目的が合理的であること
そうすると,労務管理や安全管理等に係る違反である改善基準告示の遵守
違反,点呼の記録義務違反,乗務等の記録義務違反に対する行政処分を行う
に当たって,供給過剰の状態にある地域で行われたことや違反事業者が供給
過剰の状態にある地域下で増車したものであることを考慮することは,供給
過剰の状態の中において,輸送の安全を確保し,道路運送の利用者の利益を
保護するために最も重視すべき諸般の事情の一つを考慮したことにほかなら
ず,本来考慮すべきでない事情を考慮したとか,本来過大に評価すべきでな
いことを過大に評価したなどといった場合に当たらないことは明白であり,
近畿運輸局長の裁量権濫用の事由には当たらないというべきである。
3原告らの主張に対する反論
(1)原告らは,違反に係る営業所が特定特別監視地域であったことや違反に係
る一般乗用旅客自動車運送事業者が,特定特別監視地域内の営業所において
基準車両数を特定特別監視地域に指定された後に増加させていたり,基準車
両数を特定特別監視地域に指定された後に増加させず,基準車両数の5パー
セント以上減少させていないことは,改善基準告示の遵守違反,点呼の記録
義務違反,乗務等の記録義務違反と無関係であると主張する。
しかし,特定特別監視地域に指定された地域内における労務管理や安全管
理等に係る運輸規則違反行為(改善基準告示の遵守違反,点呼の記録義務違
反,乗務等の記録義務違反等)について,供給過剰の状態にある地域で行わ
れた場合や違反事業者が供給過剰の状態にある地域下で増車したものである
場合に基準日車等を加重する目的と改善基準告示の遵守,点呼の記録義務,
乗務等の記録義務の目的は同一というべきである。したがって,原告らの上
記主張は失当である。
(2)原告らは,平成12年改正により需給調整規制の廃止を柱とする規制緩和
が行われたことに鑑みると,違反に係る営業所が法律上の制度ではない特定
特別監視地域であったことや違反に係る一般乗用旅客自動車運送事業者が特
定特別監視地域に指定された後に増車させていたり,5パーセント以上減車
させていないことをもって上記基準日車等を加重することは,他事考慮をし
ているというべきであると主張する。
特定特別監視地域においては,安易な供給拡大を防止するため,新規参入
については,許可基準のうち最低車両数に係る基準を引き上げるとともに,
増車については,増車見合わせ勧告や減車勧告を行い,事業者の慎重な判断
を求めることとしている。しかしながら,これらの措置はいずれも新規参入
及び増車を禁止するものではなく,新規参入については,許可基準を満たせ
ば許可されるものであるし,増車についても,そもそも勧告を受けることな
く増車することも可能であり,勧告を受けたとしてもこれに従わずに増車す
ることが可能であるから,新規参入につき免許制から許可制に,増車につき
認可制から届出制にするなど需給調整規制の廃止を柱とする規制緩和を行っ
た平成12年改正の趣旨に反するものではない。また,道路運送法40条に
基づく行政処分を行うに当たって,考慮すべき事情が法定されていなければ
ならないものではない。以上の点に照らせば,原告らの上記主張は失当であ
る。
(3)原告らは,上記基準日車等の加重(本件加重)は,増車見合わせ勧告や減
車勧告という行政指導に従わなかったことを理由とするものであるから行政
手続法32条2項に違反すると主張する。
しかし,行政手続法32条は,行政指導の内容の実現については相手方の
協力の任意性が確保されねばならないことを規定するものであるところ,処
分基準公示別表の1及び4を見れば明らかなように,特定特別監視地域に指
定された地域内の営業所における改善基準告示の遵守違反,点呼の記録義務
違反,乗務等の記録義務違反について,基準日車等を1.5倍ないし3倍す
るか否かは,当該一般乗用旅客自動車運送事業者が行政指導を受けたか否か
や行政指導を受けた場合にこれに従ったか否かを問わず,基準車両数を特定
特別監視地域に指定された後に増加させず,基準車両数の5パーセント以上
を減少させている一般乗用旅客自動車運送事業者であるか否か,基準車両数
を特定特別監視地域に指定された後に増加させた一般乗用旅客自動車運送事
業者であるか否かだけを考慮するものである。
この点,原告らは,増車見合わせ勧告及び減車勧告を受けた実績があるこ
とから,実質的にこれらの勧告に従わなかったことに対し不利益な取扱いを
するものに相違ないと主張するが,増車見合わせ勧告及び減車勧告は,増車
実施前の監査において法令違反が確認された一般乗用旅客自動車運送事業者
や増車の際の運転者の確保状況や実働率が基準を下回る一般乗用旅客自動車
運送事業者に対し発出するものであり,このような勧告を受けていない一般
乗用旅客自動車運送事業者であっても,監査時車両数を基準車両数より増加
させている場合は加重された基準を適用するのであるから,原告らの主張は
前提を誤るものであり失当である。
以上の諸点に照らせば,特定特別監視地域に指定された地域内の営業所に
おける改善基準告示の遵守違反,点呼の記録義務違反,乗務等の記録義務違
反について,基準日車等が加重されることとなっていることは,増車見合わ
せ勧告や減車勧告という行政指導に従わなかったことに起因して不利益な取
扱いをするものではないから,行政手続法32条2項に違反するという原告
らの上記主張は失当である。
第4国家賠償請求の成否
(原告らの主張)
1責任原因(国家賠償法上の違法性及び故意過失)
本件各処分は,上記第1から第3までの原告らの主張のとおり,違法であっ
て取消しを免れない内容のものであり,国家賠償法上も違法というべきである。
また,処分行政庁は,本件各処分が違法であり,許されないことを当然知って
おり,また知り得たのであるから,故意又は過失により違法に原告らの権利を
侵害したことは明らかである。
よって,被告は,国家賠償法1条1項に基づき,原告らが被った損害につき,
これを賠償する責任がある。
2損害の発生及びその額
(1)原告X(合計94万2345円)
ア逸失利益84万2345円
原告Xは,本件X処分により,保有していたタクシー車両のうち5両に
つき平成21年7月16日から同月20日までの5日間,うち1両につき
同月16日から同月25日までの10日間,使用に供することを停止され
て使用することができず,その間の営業収入を失った。
本件X処分前の3か月間の総運送収入4928万9170円から燃料代
(LPガス代)312万9151円を控除した稼動1日1台当たりの収益
は,平均2万4067円であったから,原告Xは,本件X処分により,合
計84万2345円の得べかりし利益を喪失した(甲A25)。
2万4067円×35日車=84万2345円
イ弁護士費用10万円
原告Xが本件損害賠償請求訴訟の提起並びに遂行のため負担した弁護士
費用のうち,損害額の約1割に相当する10万円は相当な損害として認め
られるべきである。
(2)原告Y(合計339万0880円)
ア逸失利益309万0880円
原告Yは,保有していたタクシー車両のうち16両を平成21年7月1
0日から同月16日までの7日間,うち1両につき同年7月10日から同
月27日までの18日間,使用に供することを停止され使用できず,その
間の営業収入を失った。本件Y処分前の3か月間の総運送収入1億229
7万7646円から燃料代(LPガス代)906万6530円を控除した
稼動1日1台当たりの収益は,平均2万3776円であったから,本件Y
処分により,原告Yは,合計309万0880円の得べかりし利益を喪失
した(甲B7)。
2万3776円×130日車=309万0880円
イ弁護士費用30万円
原告Yが本件損害賠償請求訴訟の提起並びに遂行のため負担した弁護士
費用のうち,損害額の約1割に相当する30万円は相当な損害として認めら
れるべきである。
(被告の主張)
1責任原因(国家賠償法上の違法性及び故意過失)
(1)本件において国家賠償法上の違法性が認められるためには,本件各処分に
ついて,近畿運輸局長に職務上の法的義務違反があったか否かが問題となる
ところ,この法的義務違反の有無については,本件各処分の法的要件充足性
の有無のみならず,被侵害利益の種類,性質,侵害行為の態様及びその原因,
行政処分の発動に対する原告側の関与の有無,程度並びに損害の程度等の諸
般の事情を総合的に判断して決せられるから,原告らは,近畿運輸局長が原
告らに対して負担する職務上の法的義務の内容を具体的に特定した上で,上
記法的義務違反を基礎付ける具体的な事実ないし事情を主張・立証する必要
がある。ところが,原告らは,上記法的義務違反を基礎付ける具体的な事実
ないし事情について何ら主張・立証を行っていないから,原告らの国家賠償
法に基づく損害賠償請求は,そもそも要件となる事実の主張・立証を欠くも
のであり,失当である。
(2)また,第1から第3までの被告の主張記載のとおり,本件各処分はいずれ
も適法であって,取り消されるべき処分ではないから,原告らの国家賠償法
1条1項に基づく請求は,近畿運輸局長が本件各処分をしたことが職務上の
法的義務違反との評価を受けるものであるか否かを検討するまでもなく,理
由がないというべきである。
2損害の発生及びその額
(1)道路運送法40条に基づく輸送施設(タクシー車両)使用停止処分を受け
た一般乗用旅客自動車運送事業者が遊休車両を保有している場合には,原則
として,営業損害の発生が否定されること
交通事故により営業用車両が損傷を受けて修理,買換えを要するなどとし
て,これを事業に供することができない場合の休車損害について,裁判実務
における考え方(大阪地裁民事交通訴訟研究会「大阪地裁における交通損害
賠償の算定基準〔第2版〕69ページ,佐久間邦夫ほか編「リーガル・プロ
グレッシブ・シリーズ交通損害関係訴訟」235,236ページ)が固まっ
てきているところであるが,これと同様に,道路運送法40条に基づく輸送
施設(タクシー車両)使用停止処分を受けた一般乗用旅客自動車運送事業者
が休車損害を主張する場合においても,同事業者が遊休車両を保有している
場合には,これを活用することによって当該処分による営業損害の発生を回
避することができるから,当該事業者が遊休車両を活用しなかったために発
生した営業損害は,遊休車両を活用し得ない特段の事情がない限り,当該処
分と相当因果関係のある損害と認めることはできないというべきである。
(2)原告らが使用停止を命じられた車両数以上の遊休車両を保有していたこと
ア原告Xについて
原告Xは,本件X処分により,平成21年7月16日から同月20日ま
での6日間については5両の使用を,同月21日から同月25日までの5
日間については1両の使用を,それぞれ停止させられている。
しかしながら,上記処分による輸送施設停止が行われた当該月につき,
原告Xが近畿運輸局長に対し報告している平成21年7月度の輸送実績
(乙79)によれば,同月度の実働率(延実働車両数÷延実在車両数×100)
は,約70パーセント(887÷1271×100≒70〔小数点以下四捨五入〕)で
あることから,同月度に本社営業所に配置されていた事業用車両数(41
両〔1271÷31〕)に100パーセントから実働率を減じた割合(100-70=
30)を乗じて同月中に稼働していなかった事業用車両の台数を割り出すと,
本件X処分の期間(平成21年7月16日から同月25日までの間)を含
む同月中には,使用停止を命じられた車両数(6両)を優に上回る,1日
当たり約12両(41×0.30≒12〔小数点以下切捨て〕)もの事業用車両が
稼働していなかったと考えられる。
したがって,原告Xは,使用停止を命じられた車両の代わりに遊休車両
を稼働させることによって本件X処分による営業損害の発生を回避するこ
とができたのに,あえてこれを行わなかったにすぎないものというべきで
ある。
イ原告Yについて
原告Yは,本件Y処分により,平成21年7月10日から同月16日ま
での7日間については17両の使用を,同月17日から同月27日までの
11日間については1両の使用を,それぞれ停止させられている(甲B1)。
しかしながら,原告Yが近畿運輸局長に対し報告している平成21年7
月度の輸送実績(乙80)によれば,同月度の実働率は,約62パーセン
ト(1594÷2573×100≒62〔小数点以下四捨五入〕)であるから,同月度に
本社営業所に配置されていた事業用車両数(83両〔2573÷31〕)に10
0パーセントから実働率を減じた割合(100-62=38)を乗じて同月中に稼
働していなかった事業用車両の台数を割り出すと,本件Y処分期間(平成
21年7月10日から同月27日までの間)を含む同月中には,使用停止
を命じられた車両数(17両)を優に上回る,1日当たり約31両(83×0.
38≒31〔小数点以下切捨て〕)もの事業用車両が稼働していなかったと考
えられる。
したがって,原告Yは,使用停止を命じられた車両の代わりに遊休車両
を稼働させることによって本件Y処分による営業損害の発生を回避するこ
とができたのに,あえてこれを行わなかったにすぎないものというべきで
ある。

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採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

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履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
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