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平成27年8月6日判決言渡
平成26年(行ケ)第10268号審決取消請求事件
口頭弁論終結日平成27年6月4日
判決
原告オルガノ株式会社
訴訟代理人弁護士永島孝明
安國忠彦
朝吹英太
安友雄一郎
野中信宏
訴訟代理人弁理士若山俊輔
平尾和女
被告オルガノサイエンス株式会社
訴訟代理人弁理士山本健男
主文
1特許庁が無効2014-890019号事件について平成26年10月31
日にした審決を取り消す。
2訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
第1原告の求めた判決
主文同旨
第2事案の概要
本件は,商標登録無効審判請求に対する不成立審決の取消訴訟である。争点は,
①被告の有する下記本件商標と原告の有する下記引用商標との同一性又は類似性(商
標法4条1項11号)の有無及び②本件商標が原告の業務に係る商品・役務と混同
を生じるおそれ(商標法4条1項15号)の有無である。
1本件商標
被告は,下記の本件商標の商標権者である(甲1,2)。
オルガノサイエンス(標準文字)
①登録番号第5325691号
②出願日平成20年4月28日
③登録日平成22年5月28日
④商品及び役務の区分並びに指定商品及び指定役務
第1類芳香族有機化合物,脂肪族有機化合物,有機ハロゲン化物,アルコール
類,フェノール類,エーテル類,アルデヒド類及びケトン類,有機酸及びその塩類,
エステル類,窒素化合物,異節環状化合物,有機リン化合物,有機金属化合物,化
学剤,原料プラスチック,有機半導体化合物,導電性有機化合物
第40類有機化合物・化学品・原料プラスチックの合成及び加工処理
2特許庁における手続の経緯
原告は,平成26年3月27日,特許庁に対し,本件商標が商標法4条1項11
号及び同15号に該当するとして,その登録を無効とすることについて審判を請求
した(無効2014-890019号)。
特許庁は,平成26年10月31日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との
審決(本件審決)をし,その謄本は,同年11月10日に原告に送達された(弁論
の全趣旨)。
3本件審決の理由の要点
(1)引用商標(甲3ないし6)
登録番号第1490119号
出願日昭和51年4月5日
登録日昭和56年11月27日
更新登録平成4年2月27日,平成13年8月28日,平成23年10月1
8日
商品及び役務の区分並びに指定商品及び指定役務昭和56年11月27日の設
定登録時には第1類「化学品(他の類に属するものを除く)」,昭和57年7月2
6日に指定商品中「無機工業薬品,有機工業薬品,のり及び接着剤」について放棄
による一部抹消の登録がされ,平成14年10月16日に指定商品を第1類「界面
活性剤,化学剤」とする書換登録がされた。
(2)「オルガノ」(使用商標)の著名性について
原告は,「オルガノ」と略称されて水処理装置事業の分野において広く知られてお
り,また,使用商標は,純水製造装置,超純水製造装置,排水処理装置等の商品を
含む水処理装置事業について使用する原告の商標として,本件商標の登録出願時に
は既に
使用商標が,原告の薬品事業を表示するものとして,周知著名になっているものと
まではいえない。
(3)商標法4条1項11号該当性
本件商標は,「オルガノサイエンス」の片仮名を同書同大に同間隔でまとまりよく
一連一体に表してなるものであり,これより生ずる「オルガノサイエンス」の称呼
もよどみなく一連に称呼し得るものである。「オルガノ」は「器官の,有機の」を意
味する英語「organo」に通じ,「サイエンス」が「科学」を意味する英語「s
cience」に通ずるものであって,「organo」が連結形として用いられる
ものであるから,本件商標は,「organoscience」の欧文字を表音表記
したものと理解され,全体として一体不可分のものとして認識される。「オルガノサ
イエンス」の文字は,成語ではない。「オルガノ」の部分と「サイエンス」の部分と
に,外観上及び観念上の軽重の差は認められない。
したがって,本件商標は,全体をもって,一体不可分の一種の造語として認識し
把握されるとみるのが自然であり,「オルガノサイエンス」の一連の称呼のみを生じ,
既成の観念を有しない。
本件商標と引用商標を対比すると,称呼,外観及び観念のいずれの点からみても
相紛れるおそれのない非類似の商標である。
(4)商標法4条1項15号該当性
本件商標と使用商標も非類似の商標であること,使用商標は独創性の程度がそれ
ほど高いものではないこと,使用商標は原告の水処理装置事業について使用する商
標として著名であるとしても,本件商標の指定商品及び指定役務の分野においては
必ずしも周知著名性を獲得しているとまではいえないこと,本件商標の指定商品及
び指定役務と使用商標が
定商品等について使用した場合,需要者が出所混同を生じるおそれはない。
(5)まとめ
本件商標の登録は,商標法4条1項11号及び同15号に違反してされたもので
はないから,同法46条1項1号により無効とすることはできない。
第3原告主張の審決取消事由
1商標法4条1項11号該当性についての判断の誤り(取消事由1)
(1)本件審決は,原告の使用商標は,原告の薬品事業を表示するものとして周
知著名になっているとまではいえないとする。しかし,この判断は,原告の事業に
おける薬品事業が,その水処理装置事業と比較して相対的に小さいという内部的事
情に依拠しただけである。原告の薬品事業の規模は,年間売上額150億円に及ぶ
ものであり,原告の水処理装置と水処理薬品は相互に密接に関連してしばしば一体
的に販売されるため,原告が永年にわたり広汎に行っている水処理事業に関する宣
伝広告は,同時に水処理薬品の宣伝広告でもあり,原告がイオン交換樹脂の販売会
社として著名であることともあいまって,原告の使用商標は,薬品事業においても
著名である。
(2)「オルガノ」の文字からなる商標は,需要者,取引者の間のみならず,一
般通常人の間でも,一般用語として認識されることはなく,原告の事業を示す著名
な商標として認識されており,自他商品・役務の識別力を強く発揮している。一方,
「サイエンス」からなる文字は,「科学」等の意味を有する英語「science」
を端的に示す言葉として,一般的に日本人の間で広汎に定着し,とりわけ工業分野,
先端技術分野,化学品分野の企業の商号中に多用されており,自他商品・役務の識
別力を有しない文字である。したがって,本件商標のうち,「オルガノ」部分が要部
となり,本件商標は引用商標と類似する。
(3)本件商標の商標法4条1項11号該当性に関する本件審決の認定判断は誤
っており,本件審決は取消しを免れない。
2商標法4条1項15号該当性についての判断の誤り(取消事由2)
(1)「オルガノ」の文字からなる商標は著名であって,本件商標においては「オ
ルガノ」部分が要部となるから,本件商標は「オルガノ」の文字からなる商標と類
似している。
(2)「organo」自体を独立した言語として掲載した辞書は存在せず,「オ
ルガノ」の片仮名文字も,日本語辞書や化学事典にも掲載されていないことからし
て,いずれも一般用語としては認識されていない独創性のある語である。
(3)広義の混同を生ずるおそれを判断するに当たっては,薬品事業における「オ
ルガノ」の著名性のみを判断要素とするのではなく,水処理事業その他広汎に「オ
ルガノ」が著名であることを考慮すべきである。
(4)原告は,水処理装置事業と薬品事業を密接不可分な事業として営んでおり,
薬品事業として,様々な有機化合物や無機化合物を含む薬剤を製造販売している。
原告の使用商標に係る商品又は役務と,本件商標の指定商品及び指定役務は,いず
れも化学に関する技術を活かした商品及び役務である点で同一分野に属するもので
あり,原告の製造・販売する薬品の中の多くは,本件商標の指定商品である様々な
種類の有機化合物を混合することにより得られるものであることからすれば,密接
に関連している。
(5)原告の事業の需要者,取引者と,本件商標の指定商品及び指定役務の需要
者,取引者とは,その多くが共通している。
(6)原告は,化学工学及び工業化学分野での広汎な事業を行っており,多数の
子会社,孫会社を設立して多角的に事業運営を行っている。
(7)これらの点からすれば,本件商標の商標法4条1項15号の該当性に関す
る本件審決の認定判断は誤っており,本件審決は取消しを免れない。
第4被告の反論
1引用商標ないし使用商標の周知著名性について
(1)「オルガノ」は周知著名のハウスマークであり,本件商標と類似するとの
原告の主張は,重大な誤認であり,この判断には誤謬があることは,本件審決から
明らかである。
(2)原告ないし原告の関連会社以外を権利者とする,「オルガノ」を含む登録
商標が複数存在する(「ORGANOGOLD」,「ORGANOTEX」,「ORG
ANON」,「オルガノン」など)。このうち,「ORGANOGOLD」は,その
指定商品が原告の登録商標の指定商品と類似の関係にあるが,原告の登録商標の存
在や原告と広義混同の恐れがあるという理由で拒絶通知されたものではない。
「オルガノ」を含む商標・商号は,「オルガノ(ORGANO)―穴吹/フレンチ
[食べログ]」,「【ORGANOCoffee】コーヒーのオルガノゴールドジャ
パン・・・」,「バイオオルガノメタリクス研究部門東京理科大学総合研究機構」,
「オルガノクレイ-ボルクレイ・ジャパン」等として,ネット上で原告ら以外も使
用しており,これを「有機」の意味で使用しているものもある。
(3)原告の国内関連会社7社のうち,3社の社名は「オルガノ」が付されてい
ない。原告は,「オルガノ」を含まない商標も多く登録している。したがって,「オ
ルガノ」は,原告のハウスマークとはいえない。
(4)特許庁電子図書館の日本国内周知著名商標に,「オルガノ」は含まれてい
ない。「オルガノ」の登録防護標章も存在しない。したがって,「オルガノ」は,周
知著名商標ではない。
(5)周知度は,会社の従業員数や資本金額に必ずしもよるものではなく,最終
需要者が日常触れないような製品を提供している原告や被告は,衣料品などの会社
に比べて周知度は低い。原告の薬品事業の規模が年間150億円であるとしても,
これを凌駕する企業は多々あり,これによって原告が周知著名であるとはいえない。
(6)原告の水処理薬品は,水処理装置と相互に密接に関連するから,水処理技
術に秀でた原告の事業としては,薬品事業は周知著名とはいえない。
(7)新聞等の印刷物の記載は,興味のあるものしか目に入らないものであるか
ら,原告の題字広告によって原告が周知著名であるとはいえない。
2取消事由1について
本件審決が正しく認定判断したとおり,本件商標は,全体をもって,一体不可分
の造語として把握され,「オルガノサイエンス」の一連の称呼のみを生じ,既成の観
念を有しないのであるから,引用商標と類似しない。
3取消事由2について
(1)本件審決が正しく認定判断したとおり,本件商標は,全体をもって,一
体不可分の造語として把握され,「オルガノサイエンス」の一連の称呼のみを生じ,
既成の観念を有しないのであるから,使用商標と類似しない。
(2)被告の業務は,石油等を原料とした市販品の有機材料を使って,目的の有
機化合物を生産する有機合成であり,産業の基礎となる有機材料物質を生産してい
る。被告が生産した有機合成物質は,有機半導体であれば半導体素子に,液晶材料
であればテレビ等の画面に,有機ELであればスマートフォンやテレビ等の画面に,
直接使われる材料である。他方,原告の薬品等は,電子産業には必要であるものの,
使用目的,用途が被告の製品と全く異なる。原告は,東ソー株式会社の関連会社で
あるところ,有機化成品関係ではなく,エンジニアリング関係の会社と分類されて
いる。
したがって,原告と被告とは,競合することはなく,需要者及び取引者は競合し
ない。
(3)引用商標ないし使用商標は,著名とはいえず,原告の取り扱う薬品につい
ては周知商標ともいえず,本件商標「オルガノサイエンス」と非類似であって別異
の商標であり,狭義・広義の出所の混同は生じ得ない。
第5当裁判所の判断
1引用商標及び使用商標の周知著名性について
(1)原告は,昭和21年に株式会社日本オルガノ商会として設立され,同41
年に現商号である「オルガノ株式会社」に商号変更した。原告は,純水製造装置,
超純水製造装置,排水処理装置,発電所向けの復水脱塩装置,官公需向けの上下水
設備等の製造,納入,メンテナンスといった水処理装置事業と,水処理薬品,イオ
ン交換樹脂,食品添加物等の製造,販売といった薬品事業を主に行っており(甲7,
8),本件商標の登録出願時(平成20年)には資本金が約82億円に達し,該期の
売上高は735億9200万円(そのうち,水処理装置事業が581億7200万
円,薬品事業が154億2000万円)に及ぶ(甲10)。特に,超純水製造装置は,
水処理事業の主力商品であり,市場シェアの3割以上を占める(甲15)。また,原
告は,多数の子会社,孫会社を有しており,これら子会社,孫会社のほとんどがそ
の商号中に「オルガノ」の文字を含んでいる(甲7)。
原告発行にかかる総合カタログ及び個別商品カタログには,いずれの表紙にも,
図形と「ORGANO」又は「オルガノ」の文字との組合せからなる標章が表示さ
れている(甲30ないし79)。そして,かかる図形と「ORGANO」又は「オル
ガノ」の文字とは,常に不可分一体のものとして認識し把握されるべき格段の理由
は見いだし難いから,それぞれが独立して出所識別標識としての機能を果たし得る
ものといえる。
昭和39年から現在に至るまで50年以上にわたり,新聞の題字広告(1面の新
聞紙名の真下に表示される広告)として「オルガノ」の文字からなる使用商標が,
「総合水処理・イオン交換装置」,「純水装置・排水処理装置」,「水の高度処理全シ
ステム」,「すべての水は資源」,「水のプラントメーカー」,「水のトータルエンジニ
アリング」,「工場の節水支援排水処理・水リサイクル技術」,「心と技で水の価値
を創造する」等の語句とともに定期的に掲載されており,近年では朝日新聞,読売
新聞及び日本経済新聞の3紙に掲載されている(甲80ないし83)。
図形と「ORGANO」又は「オルガノ」の文字との組合せからなる標章を表示
した原告の企業広告が,昭和51年頃から平成24年頃まで,日本経済新聞,朝日
新聞等に不定期に掲載されているが,これらは,原告の薬品事業やその製造販売に
係る薬品に限定された広告ではなく,原告の水処理関連技術,装置ないしシステム
や,原告の事業全体を抽象的に広告したものと認められる(甲89ないし91)。そ
して,原告の広告は,日本工業新聞広告大賞(日本工業新聞),日本産業広告賞(日
刊工業新聞)を度々受賞している(甲86,87)。
原告については,各種雑誌,新聞等の記事に取り上げられ,多くは「オルガノ」
として紹介され,中には,図形と「ORGANO」又は「オルガノ」の文字との組
合せからなる標章を表示した広告が共に掲載されているものもある(甲99ないし
127)。これらは主に,原告の水処理関連事業ないし装置に言及したものであるが,
超純水の製造には薬剤が使用される場合があるとされ(甲106),また,大手水処
理メーカーとして原告と並び称される栗田工業が,超純水システムを販売した顧客
とメンテナンスや薬品販売で長期関係を築くと紹介される(甲114)など,水処
理事業には薬品販売が伴うものであると認識されていたものと認められる。その他,
2007年に社団法人日本産業機械工業会主催の「第33回優秀環境装置表彰」に
おいて,原告の電子部品洗浄用機能水製造装置が経済産業大臣賞を受賞し,そのこ
とが新聞報道された(甲130ないし132)。
以上より,引用商標及び使用商標は,本件商標登録出願時には,原告及び原告の
事業ないし商品・役務を示すものとして相当程度周知となっており,原告の事業は
水処理関連事業であるが,これには薬品事業が伴うものと認識されていたものと認
められる。
(2)これに対して被告は,①原告ないし原告の関連会社以外を権利者とする,
「オルガノ」を含む登録商標が複数存在し,「ORGANOGOLD」が原告の登
録商標を理由に拒絶通知されておらず,「オルガノ」を含む商標・商号は,ネット上
で原告ら以外も使用しており,これを「有機」の意味で使用しているものもあるこ
と,②特許庁電子図書館の日本国内周知著名商標に,「オルガノ」は含まれておらず,
「オルガノ」が防護標章登録されていないこと,③原告の国内関連会社7社のうち,
3社の社名は「オルガノ」が付されておらず,原告は,「オルガノ」を含まない商標
も多く登録していること,④最終需要者が日常触れないような製品を提供している
原告や被告は,衣料品などの会社に比べて周知度は低く,原告の薬品事業の年商を
凌駕する企業は多々あること,⑤原告の水処理薬品は,水処理装置と相互に密接に
関連するから,水処理技術に秀でた原告の事業としては,薬品事業は周知著名とは
いえないこと,⑥新聞等の印刷物の記載は,興味のあるものしか目に入らないもの
であるから原告の題字広告によって原告が周知著名であるとはいえないことから,
引用商標及び使用商標は周知著名商標ではないと主張する。
しかし,被告の上記各主張は,以下のとおり,いずれも理由がなく,前記(1)の証
拠に基づく認定事実を左右するに足りるものではない。すなわち,①第三者の「オ
ルガノ」を含む登録商標の存在,それらが原告の登録商標を理由に拒絶査定されて
いないことや,第三者の「オルガノ」を含む商標・商号の使用は,それ自体では引
用商標及び使用商標の周知性を否定するものではなく,その周知性の有無は,前記
(1)に認定とおり,引用商標及び使用商標の具体的な使用の程度,内容に基づいて判
定されなければならない。また,「オルガノ」を「有機」の意味で使用することがあ
るとしても,後に認定のとおり(第5の2(2)),本件商標登録出願時に「有機」の
意味での使用が一般に浸透していたとは認められない。②特許庁電子図書館の日本
国内周知著名商標に「オルガノ」が含まれていないこと,及び,「オルガノ」が防護
標章登録されていないことは,それのみでは,引用商標の周知性を認定する妨げと
はならない。③原告は,引用商標ないし使用商標以外の商標も登録しており,また,
使用しているが,これらの登録商標の使用により,引用商標及び使用商標の周知性
が減殺されていると認めるに足る証拠はない。④薬品事業や水処理事業を営む企業
が,幅広い需要者を有する衣料品などを取り扱う企業より,一般市民に対して相対
的に周知著名性が低くなることはあり得るが,このことが,当該企業の商品又は役
務の需要者に対する周知著名性を否定する根拠となるものではない。原告の年商を
上回る企業が多々あるとしても,原告の年商は相当程度大きく,また,このことが,
引用商標及び使用商標の周知性を否定する理由とはならない。⑤原告の水処理事業
が著名であるとしても,上記認定のとおり,そのことにより,薬品事業の周知性が
否定されるものではない。⑥印刷物について興味があるものしか目に入らないとす
る主張は,印刷物を利用した宣伝効果を否定するものであって,採用できない。原
告による引用商標及び使用商標についての永年にわたる題字広告は,本件商標の指
定商品及び指定役務の取引者・需要者のみならず,一般の消費者に対しても一定の
宣伝効果を有したものと推認される。
(3)したがって,引用商標ないし使用商標は,原告の薬品事業を含む原告の事
業ないし商品・役務を示すものとして相当程度周知であったものと認められる。
2取消事由1(商標法4条1項11号該当性についての判断の誤り)について
(1)上記のとおり,引用商標「オルガノ」は,本件商標登録出願当時,相当程
度周知であったものと認められる。
(2)本件商標「オルガノサイエンス」は,「オルガノ」と「サイエンス」の結
合商標と認められるところ,その全体は,9字9音とやや冗長であること,後半の
「サイエンス」が科学を意味する言葉として一般に広く知られていること,前半の
「オルガノ」は,「有機の」を意味する「organo」の読みを表記したものと解
されるものの,本件商標登録出願時の広辞苑に掲載されていない(甲133)など,
「サイエンス」に比べれば一般にその意味合いが十分浸透しているものとは考えら
れないことが認められ,さらに,上述のような引用商標の周知性からすれば,本件
商標のうち「オルガノ」部分は,その指定商品及び指定役務の取引者,需要者に対
し,商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められ,
他方,「サイエンス」は,一般に知られている「科学」を意味し,指定商品である化
合物,薬剤類との関係で,出所識別標識としての称呼,観念が生じにくいと認めら
れる(最(二)判平成20年9月8日,裁判集民事228号561頁参照。)。した
がって,本件商標については,前半の「オルガノ」部分がその要部と解すべきであ
る。
(3)本件商標の要部「オルガノ」と,引用商標とは,外観において類似し,称
呼を共通にし,一般には十分浸透しているとはいえないものの,いずれも「有機の」
という観念を有しているものと認められる。したがって,両者は,類似していると
認められる。
(4)本件商標の指定商品と,引用商標の指定商品とは,いずれも「化学剤」を
含んでいる点で共通している。
3したがって,原告の主張する取消事由1は理由があるから,その余の点を判
断するまでもなく,原告の請求には理由がある。
第6結論
よって,本件審決を取消すこととして,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第2部
裁判長裁判官
清水節
裁判官
片岡早苗
裁判官
新谷貴昭

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