弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

         主    文
     原判決を破棄する。
     被告人を罰金六、〇〇〇円に処する。
     右罰金を完納することができないときは、金二〇〇円を一日に換算した
期間被告人を労役場に留置する。
     原審及び当審における訴訟費用は、全部被告人の負担とする。
         理    由
 本件控訴の趣意及びこれに対する答弁は、それぞれ、末尾に添付した大森区検察
庁検察官事務取扱検事富田正典作成名義の控訴趣意書と題する書面及び弁護人定塚
脩作成名義の答弁書と題する書面に記載してあるとおりであるから、各所論を対比
検討の上、次のとおり判断する。
 原審第六回公判調書に顕われた被告人の供述、原審第四回公判調書に顕われた証
人Aの供述、原審第五回公判調書に顕われた証人Bの供述、当審における証人Bに
対する尋問調書中の供述記載、原審及び当審における各検証調書中の記載、被告人
の検察官及び司法巡査に対する各供述調書中の供述記載、Cの司法巡査に対する供
述調書中の供述記載及び医師D作成のEに対する診断書の謄本の記載<要旨(イ)>
を総合すれば、本件十字路については、被告人の進行していた道路の幅は約五・九
八米、Cの進行していた道路の幅は約五・六米であるが、被告人の進
行していた方面からCの進行していた道路を見る場合やその逆の場合においては、
間に介在する建造物にさえぎられて、交叉点の入口に近付かなければ相互に見通し
がきかない状況にあつて、右各道路を進行する自動車等が右交又点において事故を
起す危険があるので、自動車を運転して被告人の進行した方面から右交叉点に向か
う場合は、一時停止叉は徐行し、他の交叉道路の左右から交叉点に進入して来る車
馬等の有無を見定めて適宜な措置を講じ、交叉点における事故を未然に防止すべき
業務上の注意義務があるものといわなければならないのであるが、被告人は、当
時、小型貨物自動車を運転して右交叉点に向かうにあたり、右業務上必要な注意を
怠り、交叉点の手前約六・六七米の地点で警笛を鳴らしただけで時速約二八粁で進
行し、交叉点の手前約二米の地点において、他の交叉道路の右側から時速約三二粁
で交叉点に進入しようとしていたCの運転する自動三輪車を発見し、急停車の措置
を講じたが、まにあわず、右交叉点において、被告人の自動車を避けようとしてハ
ンドルを右に切つていた右自動三輪車の左側に自己の自動車の右前部を衝突させ、
これによる衝撃が加わつたため、右自動三輪車は、右側斜前方の交叉点角にあるD
外科病院の表玄関入口に乗り上げ、同病院内部からそこへ出て来たEに衝突してこ
れに傷害を与えたものであつて、この傷害は被告人の業務上の過失によつて生じた
ものであることが認められるのである。もつとも、前記証拠によれば、右Cは、自
己の進行する道路が交叉道路よりも広いと信じて、交叉道路の交通を顧慮すること
なく、漫然時速約三二粁で右交叉点に進入して来たものであつて、同人にも自動車
運転者としての業務上の過失の存することは明らかであるが、これがため被告人の
過失やこれと右傷害との因果関係を否定することはできず、右傷害は、Cと被告人
との両名の過失が競合した結果生じたものといわなけ<要旨(ロ)>ればならない。
なお、被告人の進行した道路の幅は、Cの進行した道路の幅よりも広く、被告人
は、C広の左側にいたのであるから、道路交通取締法によれば、C
は、被告人に進路を譲るべきものではあるが、道路の幅員の差異は、前記のように
僅少であつて、目測によつてにわかに広狭の別を識別し難い程度のものであり、か
つ、本件現場は、前記のように、交叉点の入口に近付かなければ相互に見通しのき
かない所であるから、このような場所においては、右のような法規上の理由から、
被告人について、前記のような注意義務はないものとし、又これを軽減すべきもの
とするわけにはいかない。弁護人は、被告人がCの自動三輪車を発見する前の被告
人の自動車の速度は時速二〇粁以下であつて、交叉点にさしかかつたCの自動三輪
車の速度は時速三五粁以上であつたとし、本件傷害は、交叉点に関する注意をして
いなかつたCが交叉点間近になつて左側から被告人の車が進行して来るのを発見し
て右ヘハンドルを切つて車を斜行させたために生じたものであつて、全くCの過失
によるものであり、被告人の車がCの車に衝突してこれを斜行させたものではない
ばかりか、右傷害について被告人の責任を問うべき筋合ではない旨主張するのであ
るが、前掲証拠に徴すれば、この主張は、とうてい採用することはできないのであ
る。原審における審理の結果及び当審における事実の取調の結果をかれこれ照らし
合わせて検討しても、前記認定を左右するに足るものはない。従つて、被告人の過
失やその過失により本件傷害を生じたことは認められないものとして、被告人に対
し無罪を言い渡した原判決は、事実の誤認をおかし、これが判決に影響を及ぼした
ものといわなければならないのであつて、検察官の論旨は、理由があるから、刑事
訴訟法第三九七条第一項により原判決を破棄し、同法第四〇〇条但書により当審に
おいて左のとおり判決をすることとする。
 第一 罪となるべき事実
 被告人は、昭和三二年中から自動車運転の業務に従事しているものであるが、昭
和三三年四月一七日午後六時二〇分頃小型貨物自動車(トヨペツト五七年型)を運
転して、東京都大田区東京急行電鉄池上線F駅から呑川方面に至る幅約五・九八米
の道路を西方より東方に向かい、同区a町b番地先の交叉点にさしかかつた。この
道路は、この交叉点において同区c町から同区d町に至る幅約五・六米の道路と交
叉して十字路を形成するものであるが、この十字路については、被告人の進行して
きた方面からこの交叉道路を見る場合やその逆の場合においては、間に介在する建
造物にさえぎられて、交叉点の入口に近付かなければ相互に見通しがきかない状況
にあつて、右各道路を進行する自動車等が右交叉点において事故を起す危険がある
ので、自動車運転の業務に従事する被告人としては、右のように右交叉点にさしか
かる場合には、一時停止又は徐行をし、右交叉道路の左右から交叉点に進入して来
る車馬等の有無を規定めて適宜な措置を講じ、交叉点における事故を未然に防止す
べき業務上の注意義務があつたにかかわらず、被告人は、かかる業務上必要な注意
を怠り、交叉点の手前約六・六七米の地点で警笛を鳴らしただけで時速約二八粁で
進行をつづけ、交叉点の手前約二米の地点に至つて、はじめて、右交叉道路の右側
から時速約三二粁で交叉点に進入しようとしていたCの運転する自動三輪車を発見
し、急停車の措置を講じたが、時すでにおそく、右交叉点において、被告人の自動
車を避けようとしてハンドルを右に切つていた右自動三輪車の左側に自己の自動車
の右前部を衝突させ、これによる衝撃が加わつたため、右自動三輪車は、右側斜前
方の交叉点東北角にある同区a町b番地D外科病院の表玄関入口に乗り上げ、たま
たま同病院内部からそこへ出て来たEに衝突して同人に加療約三箇月を要する右下
腿骨骨折を生ぜしめたものである。
 第二 証 拠
 右の事実は、
 一、 原審第六回公判調書中被告人の供述記載
 一、 原審第四回公判調書中証人Aの供述記載
 一、 原審第五回公判調書中証人Bの供述記載
 一、 当審における証人Bに対する尋問調書中の供述記載
 一、 原審及び当審における各検証調書中の記載
 一、 被告人の検察官及び司法巡査に対する各供述調書中の供述記載
 一、 Cの司法巡査に対する供述調書中の供述記載
 一、 D作成のEに対する診断書の謄本の記載
 を総合して、これを認める。
 第三 法令の適用
 被告人の判示所為は、刑法第二一一条前段、罰金等臨時措置法第二条第一項、第
三条第一項第一号に該当するから、所定刑中罰金刑を選択し、その金額の範囲内で
被告人を罰金六、〇〇〇円に処し、この罰金を完納することができないときは、刑
法第一八条に則り、金二〇〇円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置するこ
ととし、原審及び当審における訴訟費用は、刑事訴訟法第一八一条第一項本文によ
り、全部これを被告人に負担させることとする。
 以上のとおりであるから、主文のとおり判決する。
 (裁判長判事 尾後貫荘太郎 判事 堀真道 判事 堀義次)

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛