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         主    文
     一 本件控訴を棄却する。
     二 控訴費用は控訴人の負担とする。
         事    実
 第一 当事者の申立
 一 控訴の趣旨
 1 原判決を取り消す。
 2 アメリカ合衆国ミネソタ州地区連邦地方裁判所が、昭和六三年四月一九日、
控訴人、被控訴人間の損害賠償請求事件につき、言い渡した原判決添付別紙記載の
判決に基づいて、控訴人が被控訴人に対し、強制執行をすることを許可する。
 3 訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。
 二 控訴の趣旨に対する答弁
 1 本件控訴を棄却する。
 2 控訴費用は控訴人の負担とする。
 第二 当事者の主張
 当事者双方の主張は、次に付加する外は、原判決二枚目表六行目から八枚目表末
行までに記載のとおりであるから(但し、原判決二枚目表末行の「アメリカ合衆国
ミネソタ州地方裁判所」とあるのを「アメリカ合衆国ミネソタ州地区連邦地方裁判
所」と改める。)、これを引用する。
 一 控訴人の主張
 1 民訴法二〇〇条一号の解釈としては、日本に専属管轄のある事件について
は、たとえ判決国の裁判所が判決国法に従い管轄権を有する場合であっても、民訴
法二〇〇条一号に従い、執行判決を拒むべきであるが、そうでない場合には、判決
国の裁判所が一般裁判管轄権を有していれば、二〇〇条一号の要件は充たされたも
のと解すべきところ、本件のような損害賠償請求事件は、日本の専属管轄に属さな
いことは明らかであるから、本件損害賠償請求事件については、ミネソタ地裁に国
際裁判管轄権があると解すべきである。
 2 被控訴人は、ミネソタ地裁において自らの権利保護をすることを放棄してお
きながら、日本の裁判所で権利保護を求めることは許されない。
 被控訴人としては、ミネソタ地裁に管轄権がないとか、或いは、管轄権があると
しても、同裁判所で裁判を受けるのが、不便であるというのであれば、ミネソタ地
裁にその旨の主張をすべきであったのである。
 二 被控訴人の答弁
 控訴人の右主張は争う。
 第三 証拠関係(省略)
         理    由
 一 控訴人が、アメリカ合衆国ミネソタ州法に準拠して設立された会社であり、
被控訴人が、日本国の商法に準拠して設立された株式会社であること、被控訴人
は、控訴人に対し、継続的にナイロン皮膜を売り渡していたが、昭和六二年に、控
訴人は、右売買契約の目的物件であるナイロン皮膜に瑕疵があると主張して、アメ
リカ合衆国ミネソタ州地区連邦地方裁判所(ミネソタ地裁)に対し、その損害賠償
を求める訴訟を提起したことは、当事者間に争いがなく、右争いのない事実に、各
成立の真正につき争いのない甲第一号証の一、二、第二号証、第三号証の一、二を
総合すると、昭和六三年四月一九日、ミネソタ地裁は、被控訴人に対し、原判決添
付の別紙に記載のとおりの内容の本件外国判決を言い渡し、右判決は、同年五月二
〇日ころ、被控訴人から控訴のないまま確定したことが認められ、右認定を左右す
るに足りる証拠はない。
 <要旨>二 次に、民訴法二〇〇条所定の「法令又ハ条約ニヨリ外国裁判所ノ裁判
権ヲ否認セザルコト」とは、当該外国の裁判所が、わが国の国際民訴法の原
則からみて、その事件につき、国際裁判管轄権を有すると積極的に認められること
を要するものと解すべきところ、わが国においては、現在、明文の国際民訴法規は
ないので、わが国の国際裁判管轄権は、条理としての国際民訴法によってこれを定
める外はない。そして、民事・商事の渉外的な要素を含む紛争解決についての土地
管轄に関する国際裁判管轄権は、各国が協力して裁判機能を分担するための国際的
規模の土地管轄の問題であるから、係争物の所在地、証拠収集の便宜、当事者の住
所地、その他生活または経済活動の拠点となっている地等を勘案した上、裁判の適
正、他国間に所在する両当事者の実質的公平、訴訟処理の迅速、能率化等の諸点を
総合的に勘案し、条理に照らして、その国際裁判管轄権を決すべきところ、この観
点からすれば、わが民訴法二条(被告の住所地)、同法四条一項前段(法人等の主
たる事務所または営業所の所在地)は、管轄の規定によって保護された被告の利
益、すなわち、民事訴訟は、原則として、原告が被告の関係する土地に赴いて提起
すべきであるとの被告の利益を不当に害しないから、国際裁判管轄の基準となる
が、同法二条二項(被告の居所・最後の住所)、同法五条(義務履行地)等の規定
は、右被告の利益を不当に害することになるから、これを制限的に解すべきであ
る。なぜなら、もし、このように解さなければ、外国に居住している外国人に、被
告として応訴を強いることになって不合理な結果を招くことになるからである。
 したがって、渉外取引における紛争解決のための国際裁判管轄権は、不動産等に
関する事件を除き、原則として、訴え提起の相手方である被告の住所地、支店、営
業所の所在地の裁判所に属し、それ以外の裁判所には属さないものと解すべきとこ
ろ、これを本件についてみるに、前記一の事実に、弁論の全趣旨により成立の真正
が認められる乙第七号証の一、二、第九号証、弁論の全趣旨によれば、本件は、控
訴人と被控訴人との商取引上の紛争に基づく損害賠償請求事件であるところ、被控
訴人は、日本国内に本店を有し、アメリカ合衆国のミネソタ州は勿論のこと、アメ
リカ合衆国内にも、支店や営業所はなく、本件取引は、単に、被控訴人が、信用状
に基づいて、控訴人に対し、商品を輸出していたに過ぎないことが認められるか
ら、前記の条理に基づくわが国の国際民訴法の原則からみて、ミネソタ地裁には、
控訴人と被控訴人との本件商取引上の紛争に基づく損害賠償請求事件につき、原判
決添付別紙に記載の内容の本件外国判決をする国際裁判管轄権はないと解すべきで
ある。そして、控訴人主張の如く、被控訴人が、本件売買契約に基づいて、控訴人
に送った商品が、ミネソタ州に保管されており、また、そこで右商品の検査が行わ
れている等の事実があるにしても、経験則上、右各証拠は、簡単にわが国の裁判所
にも提出することができるから、前記控訴人主張のような事実がある場合でも、右
のように解するのが相当であることに変わりはないというべきである。
 三 のみならず、控訴人の本訴請求は、次の点からも、理由がない。
 1 前掲甲第一号証の一、二、第二号証、第三号証の一、二、乙第七号証の一、
二、第九号証、各成立の真正につき争いのない甲第四号証、第五号証の一ないし
八、第七号証、乙第一号証の二、第二号証、第三号証の二、第四、第五号証、第六
号証の一、二、並びに弁論の全趣旨を総合すると、次のとおりの事実が認められ
る。
 (一) 本件取引は、昭和五八年四月ころ、控訴人からの引き合いにより、商談
が進められ、同年中及び翌五九年の二度にわたって来日した控訴人の社長A本人と
被控訴人の担当課長との間で細部にわたった打ち合わせが行われたうえ、両者間に
成立した見本売買契約であり、控訴人の社長は、二度目に来日したときに、被控訴
人の商品仕入先である株式会社理麗光栗東工場を訪問するなど、契約締結に至るま
での事務レベル以上の折衝は専ら日本国内で行われた。本件商品は、ヘリュウム気
球を作成するために使用されるナイロンの皮膜であって、興人、東洋紡、ユニチカ
の大手三社が特許権を有し、独占的に製造しているフイルムを蒸着し、ポリエチレ
ン・ラミネート加工を施したものである。
 このような経過により、被控訴人は、控訴人に対し、控訴人の注文にかかる右ナ
イロンの皮膜を継統的に販売していたが、昭和六〇年一一月ころになって、控訴人
は、被控訴人に対して、右商品には欠陥があると主張し、右欠陥により控訴人が被
った損害の賠償を求めた。
 (二) これに対して、被控訴人は、当初から一貫して、売却見本と変わらない
商品を納入していると主張し、控訴人のクレイムは、被控訴人の製品より接着強度
の高い商品が市場に出回るようになっつたことから、市場競争に耐えられなくなっ
たことに基づくものであろうとの判断のうえに立って、控訴人と、事態の収拾に努
めるべく交渉を重ねたが、妥結に至らず、控訴人は、昭和六二年七月八日、ミネソ
タ地裁に、被控訴人を被告として、控訴人が、被控訴人から買い受けた商品に欠陥
があっつたことにより二五万〇七二一ドル四七セントの損害を被ったと主張して、
その賠償を求める訴えを提起した。 (三) 被控訴人は、ミネソタ州はおろか、
アメリカ合衆国内に支店、出張所等を持たない日本商法に準拠して設立された株式
会社であり、これに対して、控訴人は、前記認定のとおり、ミネソタ州法に準拠し
て設立された外国法人である。被控訴人は、昭和六二年五月ころ、その事務所が東
京都内にある系列会社アナグラム・インターナショナル・ジャパン株式会社を設立
し、A社長も年に一、二回は右会社の事務所に立ち寄っている。
 (四) 本件売買契約書によれば、本件契約は、いすれもCIF契約であり、商
品の船積の時点で危険が控訴人に移転するものと定められ、品質検査は、わが国の
輸出法令に基づき、製造業者あるいは被控訴人がわが国において最終的に行うもの
と定められていた。
 また、本件契約からあるいは本件契約に関して生ずる論争や意見の相違又はそれ
から生ずる不履行は、できる限り当事者間の直接の協議によって解決されるべきで
あるが、それができないときは、右紛争等は、わが国において、日本商事仲裁協会
の規則に則り、仲裁に付され解決されなければならないものと定められているほ
か、取引条件は、最新の国際商業条件(貿易条件の解釈に関する国際規則)の規定
により、規律され、解釈される、本件契約は、その有効性、解釈、履行を含むすべ
ての事項につき、日本法によって規律されるものとされている。
 以上のとおり認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。
 2 そうとすれば、控訴人と被控訴人との間において、本件商取引により生じた
紛争の解決は、わが国において、日本商事仲裁協会の規則に則り、仲裁に付して解
決する旨の仲裁契約があったものというべきであるから、被控訴人の妨訴抗弁によ
り、裁判によって紛争の解決を求めることはできないのであって、この点からも、
わが国の国際民訴法の原則からみて、本件について、ミネソタ地裁が、国際裁判管
轄権を有していたものとは認め難い。
 控訴人は、右仲裁契約の存在は、妨訴抗弁であるところ、被控訴人が、本件外国
判決手続で右主張をしていない以上、本件損害賠償事件について、ミネソタ地裁の
裁判管轄権を否定し得ないと主張する。しかし、前掲乙第七号証の一、二、弁論の
全趣旨により成立の真正が認められる乙第八号証の一、二によれば、被控訴人は、
弁護士に依頼することなく、本人で、ミネソタ地裁に対し、右仲裁契約の存在を主
張して、いわゆる妨訴抗弁を提出したが、ミネソタ地裁は、弁護士強制制度をとる
ミネソタ地裁の規則により、被控訴人本人の提出した右妨訴抗弁を取り上げなかっ
たことが認められるから、弁護士強制制度をとらない条理に基づくわが国の国際民
事訴訟法に照らし、右仲裁契約の存在を理由に、ミネソタ地裁の国際裁判管轄権を
否定することは許されるものと解すべきである。したがって、右控訴人の主張は採
用できない。
 また、控訴人は、被控訴人は、黙示に仲裁の利益を放棄したと主張するが、本件
における全証拠によるも、控訴人の右主張事実を認めることはできないから、控訴
人の右主張は、理由がない。
 3 さらに、事案の適切な解明、両当事者の公平、能率的な裁判等を実現するた
めの条理としてのわが国の国際民事訴訟法の一般原則からも、本件商取引に関し、
控訴人のA社長自身が来日した上、被控訴人の担当課長との間において、本件ナイ
ロン皮膜の継統的売買についての折衝を重ね、基本的合意が成立したこと、その他
前記1に認定の諸事実等からすれば、被控訴人の本店事務所の存在するわが国の裁
判所に一般国際管轄権が存在し、ミネソタ地裁には、右管轄権がないと解するの
が、適正、迅速な裁判を図り、当事者の公平にも合致する相当な方法であるという
べきであるから、この点からも、ミネソタ地裁には、本件についての国際裁判管轄
権がないと解するのが相当である。
 四 控訴人は、(1)国際裁判管轄権については、当該外国裁判所が、当該外国
法上裁判管轄権を有した上、わが国の法令又は条約がこれを否認していなければ足
りるとか、(2)わが国の民訴法五条が義務履行地に裁判管轄権を認めているとこ
ろから、被控訴人の本件損害賠償事件の義務履行地は、本件売買契約の準拠法であ
る日本民法四八四条により、控訴人の住所地であるミネソタ州であるから、ミネソ
タ地裁に、その国際裁判管轄権があるとか、(3)日本に専属管轄のある事件以外
の事件については、判決国の裁判所が一般裁判管轄権を有していれば、二〇〇条一
号の要件は充たされたものと解すべきであるとか等種々の主張をするが、いずれも
前記説示に照らして採用し難い。
 また、控訴人は、被控訴人は、ミネソタ地裁において自らの権利保護をすること
を放棄しておきながら、日本の裁判所で権利保護を求めることは許されない等とも
主張するが、被控訴人がミネソタ地裁で自ら権利保護を受けることを放棄したとの
事実を認めることはできないのみならず、前記のとおり、ミネソタ地裁には、もと
もと、本件損害賠償請求事件について、国際裁判管轄が認められないから、被控訴
人が、右裁判所に出頭しなかったとしても、そのことは、何ら非難されるべきこと
ではないというべきである。したがって、控訴人の右主張も採用し難い。
 五 以上のとおりであって、控訴人の本訴請求は、その余の点について判断する
までもなく、民訴法二〇〇条一号所定の要件を欠如するので、失当であり、これを
棄却すべきものである。これと同旨の原判決は正当であり、本件控訴は、理由がな
いので、これを棄却することとし、控訴費用の負担につき民訴法九五条、八九条に
従い、主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 後藤勇 裁判官 東條敬 裁判官 小原卓雄)

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