弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
1原判決中,控訴人の敗訴部分を取り消す。
2前項の取消に係る被控訴人の請求を棄却する。
3被控訴人の予備的請求を棄却する。
4訴訟費用は,補助参加によって生じた費用を含めて,第1,2審
とも被控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1当事者の求めた裁判
1控訴人
主文同旨
2被控訴人
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
なお,被控訴人は,予備的請求として次の裁判を求めている。
()控訴人は,Aに対し,40万円及びこれに対する平成15年4月1日か1
ら支払済みまで年5分の割合による金員を支払うよう請求せよ。
()控訴人は,Bに対し,60万円及びこれに対する平成15年4月1日か2
ら支払済みまで年5分の割合による金員を支払うよう請求せよ。
()控訴人は,Cに対し,40万円及びこれに対する平成15年4月1日か3
ら支払済みまで年5分の割合による金員を支払うよう請求せよ。
()控訴人は,Dに対し,60万円及びこれに対する平成15年4月1日か4
ら支払済みまで年5分の割合による金員を支払うよう請求せよ。
()控訴人は,Eに対し,40万円及びこれに対する平成15年4月1日か5
ら支払済みまで年5分の割合による金員を支払うよう請求せよ。
()控訴人は,Fに対し,40万円及びこれに対する平成15年4月1日か6
ら支払済みまで年5分の割合による金員を支払うよう請求せよ。
()控訴人は,Gに対し,20万円及びこれに対する平成15年4月1日か7
ら支払済みまで年5分の割合による金員を支払うよう請求せよ。
()控訴人は,Hに対し,40万円及びこれに対する平成15年4月1日か8
ら支払済みまで年5分の割合による金員を支払うよう請求せよ。
()控訴人は,Iに対し,60万円及びこれに対する平成15年4月1日か9
ら支払済みまで年5分の割合による金員を支払うよう請求せよ。
()控訴人は,Jに対し,20万円及びこれに対する平成15年4月1日か10
ら支払済みまで年5分の割合による金員を支払うよう請求せよ。
()控訴人は,Kに対し,20万円及びこれに対する平成15年4月1日か11
ら支払済みまで年5分の割合による金員を支払うよう請求せよ。
()控訴人は,Lに対し,20万円及びこれに対する平成15年4月1日か12
ら支払済みまで年5分の割合による金員を支払うよう請求せよ。
第2事案の概要
事案の概要は,次のとおり付加訂正するほかは,原判決の当該欄記載のとおり
であるから,これを引用する(なお,地財再建法24条2項は,本件支出当時の
ものをいう。。)
1原判決の訂正
()原判決3頁18行目末尾に「なお,予備的請求は,地財再建法違反ではな1
く,M市立病院による支出が医師派遣の対価であり,贈賄に当たる違法なもの
であることを理由とする請求である」を加える。。
()原判決4頁14,15行目の「平成10年5月13日から同15年1月22
1日までに,以下のとおり」を「以下のとおり,平成10年5月13日から同
15年1月21日までに(ただし,<>及び<>は月日不詳」に改める。2223)
2当審における主張
()監査請求の適法性について1
ア控訴人の主張
(ア)被控訴人が本件支出を知り得た時期
平成15年9月22日のNの記事(以下「本件記事」という)はM市。
立病院がO財団に対し10万円の寄附をしていると報じているから,その
ころには塩竈市の一般住民が相当の注意力をもって調査すれば客観的にみ
て監査請求をするに足りる程度に当該支出の存在及び内容を知ることがで
。,,きたというべきであるこの記事はO財団に対する寄附の報道であるが
これに先立つ同月11日及び同月13日付けNによりP市民病院は医局
(教授)とO財団の双方に寄附を行っていたことが報じられていたのであ
るから,注意深い市民ならばM市立病院についてもO財団と医局の双方に
寄附がなされている可能性が大きいことを知り得た。
仮に,被控訴人がO財団に対する寄附しか知らなかったとしても,相当
の注意力を持った住民は,本件記事を手がかりとして,情報公開請求をす
ることにより,塩竈市において通常情報公開がなされる期間である13日
間を経過した同年10月5日ころには,本件支出の存在及び内容を知るこ
とができた。
遅くともQが石巻市で監査請求をした同月22日ころには,本件支出の
存在及び内容を知ることができた。
(イ)正当理由の有無
被控訴人が本件監査請求をしたのは,(ア)の知り得た時期から115日
,。ないし85日後であって本件監査請求に正当な理由があるとはいえない
イ被控訴人の主張
(ア)本件記事は,O財団に対する寄附についてのもので,その金額も10
万円にすぎず,これから医局に対する多額の寄附をしていたことは知り得
なかった。
一般的に違法不当とはされていない財団への寄附金支出を知ったからと
いって,そこから直接医局への寄附がなされている可能性を疑って情報公
開請求をすることを一般市民に期待することは不可能である。
(イ)被控訴人は一般市民であって,Qが石巻市に対して監査請求をしたか
らといって,被控訴人が客観的にみて監査請求をするに足りる程度に当該
支出の存在及び内容を知り得たということはできない。
()本件支出の違法性2
ア控訴人及び補助参加人の主張
,,(ア)医局は主に医学研究を目的として研究と診療を円滑に進めるための
研究科(具体的には各分野)に属する職員や大学院生と,R病院で診療に
従事する常勤の医師,非常勤の医師らの任意の集団であるから,不特定の
医師をも含み,研究科そのものではないし,R病院の診療科とも東北大学
とも別個の組織である。
研究科の組織である臨床系講座(分野)の教官は,診療科を兼務し,研
究,治療を目的としており,医局を構成する中心的存在である。さらに,
臨床系講座に属する大学院生や研究生は研究科の職員ではないが,臨床医
学教育,研究を目的として医局を構成している。診療科の医員(非常勤医
師)や研修登録医は診療科の職員ではないが医学研究や医療技術の向上を
目的として医局を構成している。そのほか,他院に所属する大学院生や研
究生,研修登録医や,同窓会員である開業医や勤務医等も医学研究や医療
技術の向上を目的として医局費を支払って医局員となることができる。医
局は,以上のように構成員からみても研究科や診療科とは別個であること
は明らかである。本件支出は医局に対するものであって,国に対する寄附
とは同視できない。
(イ)控訴人の主張
地財再建法24条2項で禁止されている寄附の対象は,国等の負担すべ
き経費に限られるところ,本件支出は,医局に対する研究助成という使途
に負担の付いた寄附金でなく,医局に対する感謝の趣旨を表す使途に負担
の付いていない謝金であり,寄附金には該当しない。すなわち,M市立病
院では医局からの派遣医師が同病院の医療スタッフの手術指導を行ったり
,。,していたし他方で同スタッフが医局で研修を受けたりしていた例えば
日常の診療に対して応援を受けたり,診療や手術の指導を受けたりし,当
直業務を応援してもらったり,医学を学ぶ場を提供してもらったりもして
いた。M市立病院は,医局の同病院に対する種々の配慮に対する感謝を意
図して謝礼をしたのである。謝礼として支出するのであるから,相手方の
使途を拘束する意図はない。したがって,当該支出は,地財再建法24条
2項にいう寄附金等には当たらない。
(ウ)補助参加人の主張
地財再建法24条2項で禁止されている寄附の対象は,国等の負担すべ
き経費に限られるところ,本件支出は,実質的には,研究者に対する自由
な研究のための経費であって,国等の負担すべき経費に対する寄附とはい
えない。
すなわち,大学の研究者の研究課題は自主的独立的に設定されるのを常
とする。国が本来研究者の自由な発想に基づく知的,創造的活動であるべ
き研究のための費用や研究資金を全面的に負担することは,研究の自由に
少なからざる影響を与えるおそれがないとはいえない。国は,研究者個人
の知的活動である研究に要する費用については,研究環境の整備充実に努
める限度で研究費用を支援することを意味する。研究者の研究のための知
的活動,創造的活動に要する費用について,研究者の研究の自由を保障す
る上で国の関与は最小限にとどまるべきであるから,本来国が負担すべき
経費ではない。
イ被控訴人の主張
(ア)本件支出は医師確保のためのほか,医局の運営費のためになされてい
る。そして,医局は東北大学と実質的に同一の組織として医学研究等を行
っている。このことからすれば,控訴人の解釈によったとしても,本件支
出は寄附金等に当たる違法な支出なのである。控訴人は,本件支出は使途
に負担のついた寄附金ではなく,謝金に過ぎないと主張するけれども,仮
にM市立病院が医局から支援を受けたとしても,これについては当然報酬
が支払われているはずで,それとは別に謝礼を支払うべき理由はない。
(イ)大学の研究者の研究の自由が憲法の保障する学問の自由に属すること
は補助参加人主張のとおりであり,国がみだりに干渉することは許されな
い。しかしながら,そのことから大学法人の研究費を国が全面的に負担し
てはならないとか国の関与は最小限にとどまるべきであるなどという学説
は聞いたことがない。研究の自由の問題と研究に要する費用負担の問題
は全く次元を異にする。控訴人の主張は,国立大学法人の研究費は本来国
が負担すべき費用ではないという結論を導き出すための牽強付会な論理と
言わなければならない。事実として国立大学法人の研究のために外部資金
が使われているが,これはあくまで国の財政規模の限界と(地方自治体か
らのものを除き)外部資金の導入を禁じる理由もないからである。
()地財再建法24条2項違反の行為の私法上の効力について3
ア控訴人及び補助参加人の主張
(ア)仮に,本件支出が地財再建法24条2項に違反するとしても,その政
治責任は別として,寄附が直ちに無効になるものではなく,私法上有効に
成立する。したがって,本件支出の受領に法律上の原因がないとはいえな
い。
地方財政法28条の2に違反する地方公共団体に対しては,地方自治法
245条の4の規定による技術的な助言又は勧告などをするか,同法24
5条の5ないし7の規定による是正の要求,是正の勧告,是正の指示など
をするとされており,地方財政法28条の2に違反する行為の効力が無効
なものでないことを前提としていることは明らかである(最高裁平成15
年11月14日第二小法廷判決・裁判所時報1352号3頁(以下「平成
15年最高裁判決」という。地財再建法24条2項は,地方財政法2。))
8条の2と立法趣旨を同じくするものであるから,その法的解釈も同一に
されるべきであるし,法令違反行為の私法上の効力についての民法90条
の解釈でも,法令違反からただ単にその法令違反行為を基礎とする私法上
の契約の効力を無効とする判断を導いていないことからすれば,平成15
年最高裁判決は,地財再建法24条2項にも当てはまるというべきであっ
て,地財再建法24条2項違反の行為も,これが直ちに無効となるもので
はない。
また,最高裁昭和62年5月19日第三小法廷判決・民集41巻4号6
87頁は,普通地方公共団体が随意契約の制限に関する法令に違反して締
結した契約の効力について,私法上当然に無効になるものではなく,当該
契約の効力を無効としなければ随意契約の締結に制限を加える地方自治法
及び同施行令の規定の趣旨を没却する結果となる特段の事情が認められる
場合に限り,私法上無効になるものと解するのが相当であると判示してい
る。本件支出も,仮に違法であったとしてもO財団の職員はもちろん研究
者の代表者として研究助成金を受けた教授らも,その支出が違法であるこ
とを知り,又は容易に知り得たとはいえず,私法上は有効というべきであ
る。
(イ)本件では,M市立病院としては,あくまでも医局に対する支出と認識
し金員を交付したものであり,支払側として地財再建法24条2項に反す
るとの認識は全くなかった。受領する側としても,同様に本件支出を受領
することが地財再建法24条2項に反するなどという認識はなかった。
また,本件支出は,各医局に対し数年に一回20万円程度を研究協力金
として支出するものにすぎず,しかも各医局からはM市立病院の運営に対
して有形無形の恩恵を受けているものであるから,感謝の念を表すために
持参し交付する金員としての社会的相当性の範囲を逸脱するようなもので
もない。仮に本件支出が地財再建法24条2項に反するとしても,平成1
5年最高裁判決の事案と比較してその違法性が重大とはいえない。
さらには,医局に対し自治体病院から本件支出類似の支出が全国的に多
数なされていることからその判断が及ぼす影響は広範なものとなる。むろ
ん,違法性が重大なものであれば,無効という結果もやむをえないが,本
件支出の違法性が重大であるとまではいえない。
,,したがって仮に本件支出が地財再建法24条2項に該当したとしても
本件各支出の私法上の効力は否定されない。
(ウ)地財再建法24条2項は,国と地方との負担区分をみだすことになる
寄附金等の支出を禁止するものであるが,負担区分をみだすか否かは経費
の負担区分を定める法令の規定と異なる結果となるか否かによって形式的
に判断されるのではなく,地方財政の健全性を損なうか否かといった観点
からする評価が含まれる。地財再建法24条2項ただし書も,寄附が当該
地方公共団体の財政的利益のためになされる場合,専ら当該地方公共団体
のための施設の設置費用を負担するものである場合等,その支出が実質的
にみて地方財政の健全性を害するおそれがないものについては例外的に許
されるものとしている。平成14年11月1日の地財再建法施行令12条
の3第7号の改正は,国立大学,総務省令で定める独立行政法人が地方公
共団体の要請に基づき科学技術に関する研究もしくは開発又はその成果の
普及で地域住民の福祉に寄与しかつ地方公共団体の重要な施策を推進する
ために必要であるものを行う場合には,研究開発等の実施に要する経費を
地方公共団体から国立大学に支出することを可能にしたが,この改正は,
かような支出は国と地方との経費の負担区分を乱し,地方財政の健全性を
損なうものでないことを明文で確認したものである。本件支出は,地財再
建法24条2項ただし書に該当する場合であり,単に総務大臣の同意を欠
いているにすぎないから,これを無効にしなくても同条項の趣旨を没却し
ない。
イ被控訴人の主張
平成15年最高裁判決は,地方財政法28条の2に関するものであって地
財再建法24条2項に関するものではない。
地方財政法28条の2は,地方公共団体間の負担区分をみだす行為を禁止
するものであるところ,負担区分は事務の種類によって様々であり,みだす
行為というものも多種多様に想定され,また,同条違反の行為を前提に種々
の法律関係が形成されることも多く,同条違反の行為については端的に民事
。,的な法律効果を無効と定めることが必ずしも妥当でない場合があるそこで
同条違反に対しては,総務大臣が技術的な助言又は勧告をするか,違反の是
正又は改善のため必要な措置を講ずることを求めるなどの措置がなされるこ
とになり,そのような事後的な措置によって是正を期待しうる以上,直ちに
民事的効力を無効とする必要もない。
他方,地財再建法24条2項は,地方公共団体から国等に対する寄附等を
端的に禁止するものである。同条項には,負担区分やみだす行為といった不
確定要素は全くなく,また,単なる贈与であるからそれを前提に種々の法律
関係が形成されるということもなく,寄附金等の贈与行為を端的に無効とし
ても弊害は一切ない。
むしろ,国と地方公共団体の力関係の差から任意の寄附さえも一切禁止す
るという立法趣旨からすれば,この贈与行為を端的に無効にしなければ,そ
の趣旨を達成することはできない。
また,地方財政法28条の2違反の場合は,総務大臣が是正措置をとるこ
とができるが,地財再建法24条2項違反の場合は,寄附の受入れ側は国で
あり,総務大臣の助言や勧告に期待することはできない。
したがって,地財再建法24条2項違反の贈与行為を無効とする必要があ
る。
第3当裁判所の判断
1監査請求の適法性について
(,()原判決13頁5行目冒頭から17頁2行目末尾までを引用するただし1
原判決15頁23行目の「また,遅くとも」を「他方」に改める。,。)
()原審の主張に対する判断の補足及び当審における主張に対する判断2
ア本件記事は,M市立病院がO財団に対し10万円の寄附をしたことを報
じたにすぎないから,これから塩竈市の一般住民が相当の注意力をもって
調査すれば客観的にみて同病院から医局に対する本件支出について監査請
求をするに足りる程度に当該支出の存在及び内容を知ることができたとい
うことはできない。
証拠(乙11の1ないし9)によれば,これに先立つ平成15年9月1
1日及び同月13日付けNはP市民病院が医局(教授)とO財団の双方に
寄附を行っていたことを報じていたけれども,これらを含めて本件記事に
至るまでの新聞報道によっても,東北地方の同病院以外の自治体病院から
の寄附先はO財団にとどまるものであったことが認められ,本件記事に係
るM市立病院の寄附は10万円にすぎず,外に寄附先があることをうかが
わせるような金額ともいえないことを考え併せれば,P市民病院に関する
上記記事からM市立病院についてもO財団と医局の双方に寄附がなされて
いる可能性が大きいことを知り得たということはできない。
イ控訴人は,塩竈市情報公開条例が施行された平成11年1月1日以降は
M市立病院の会計文書等を入手すれば本件支出を知ることができた旨主張
する。
しかしながら,単に情報公開制度の下で請求によって当該情報に接する
ことができる機会を与えられているとの一事をもってしては,各支出のこ
ろに住民が相当の注意力をもって調査すれば客観的にみて各支出の存在及
び内容を知ることができたと解することは相当でない。
確かに,塩竈市民が,積極的に情報公開条例を利用し同病院の会計処理
等に関する情報を収集調査すれば,その時点から相当期間内に本件支出の
存在と内容を知ることができた可能性が高いことは否定できない。
しかしながら,塩竈市の住民が,ある財務会計上の行為について同条例
に基づく開示請求をするのが相当であると考えるべき,あるいはそう考え
る端緒となり得べき事情が存在しないにもかかわらず,当該財務会計上の
行為について監査請求をする前提として,同条例に基づく開示請求をして
いなければ,相当の注意力をもって調査したとはいえないというのは,住
民に過度の要求をすることになるから妥当ではなく,マスコミ報道等によ
って知った情報を含めて,情報公開条例に基づく開示請求をするのが相当
であると考える端緒となるべき事情が存在する場合に初めて,開示請求を
することも相当の注意力をもってする調査の範囲に含まれると解するのが
相当である。
控訴人は,相当の注意力を持った住民は,本件記事を手がかりとして,
情報公開請求をすることにより,塩竈市において通常情報公開がなされる
期間である13日間を経過した平成15年10月5日ころには,本件支出
の存在及び内容を知ることができた旨主張する。しかしながら,地方公共
団体は,その公益上必要がある場合においては,寄附をすることができる
のであって(地方自治法232条の2,私的財団に対する寄附が一般的)
に違法不当とされているわけではないから,被控訴人がM市立病院からO
財団への寄附金支出を知ったからといって,そこから直接医局への本件支
出がなされている可能性を疑って情報公開請求をすることを一般市民に期
待するのは無理があり,本件記事が情報公開条例に基づく開示請求をする
のが相当であると考える端緒になるとはいえない。してみれば,控訴人の
主張は採用できない。
ウ控訴人は,遅くともQが石巻市で監査請求をした同月22日ころには,
被控訴人は,本件支出の存在及び内容を知ることができた旨主張するけれ
ども,Qが石巻市に対してS市立病院のO財団に対する寄附につき監査請
求をしたからといって,これから直ちに一般市民である被控訴人がM市立
病院から医局に対する寄附につき客観的にみて監査請求をするに足りる程
度に当該支出の存在及び内容を知り得た根拠となるものとはいえないか
ら,控訴人の主張は採用できない。
2本件支出について
()本件支出が,いずれもM市立病院から補助参加人の医学部にある各医局1
に対してされたものであることは前示のとおりである。
()本件支出の研究助成のための寄附性について2
ア証拠(甲3,乙2の3・4,3の1ないし4,8,丙4,12,16な
いし18,証人T,同B,同H,同K)に弁論の全趣旨を総合すれば,次
の事実が認められる。
(ア)本件支出は,支出負担行為書の摘要・明細欄に,たとえば第三内科
に対するものであれば「東北大学医学部第三内科への研究協力金」と記
載してされたもので,支出命令書及び支払証明書にも同じ記載がある。
(イ)M市立病院長は,支出先の医局を選定し「件名」として「研究協,
力金の支出について」と記載された起案文書や,摘要・明細欄に「当該
診療科への研究協力金」と記載された支出負担行為書の幾つかに院長と
して押印した。金額は各回20万円であったが,これは従前からの例を
踏襲したものであった。
(ウ)同病院事務部長は,本件支出の際はその都度その資金の前渡しを受
け,同病院長と同道して予約の日に東北大学へ行き,大抵の場合,教授
に面会の上これを手交していた。
その際,病院側は,教授側に対し,医局の運営のためにお役立てくだ
さいとの口上を述べたが,医局は大学の組織そのものではなく,医局に
対して本件支出をしても地財再建法24条2項には抵触しないと考え
て,地域医療の維持を図るため医局との良好な関係を保持することを願
って本件支出をしたものであった。教授側も,本件支出が国に対して寄
附されるべきものとの明確な認識までは有していなかった。
(エ)本件支出を受領した各医局(ただし,消化器内科の医局を除く。消
化器内科の医局は本件支出⑰及び⑳の報告をしなかったが,これは研究
助成金は医局の運営費を含まないと理解したために過ぎない)は,同。
大学研究科の調査委員会がした公立病院等からの受入れ資金の収支状況
調査に対し,受け入れた金銭が研究助成金であることを前提として,M
市立病院からの受入金の趣旨はすべて「医療技術向上のため受入」で,
使途は「研究費及び教育費へ支出「大学院生等の学会参加旅費・研」,
究実施旅費等へ支出「委任経理金へ支出「研究消耗品,東北大学」,」,
整形外科談論会運営費,大学院生の学会発表時の旅費援助「整形外」,
科関連病院協議会で支出」あるいは「研究費として支出」であって,残
金は「医療技術向上のため費用として管理保管中」であると回答した。
調査委員会は,これらの回答が信用できると判断し,調査報告書にこれ
を記載し公表した。
(オ)東北大学の評議会が部局長を構成員として設置した医学部問題小委
員会は,平成16年3月16日,医学部問題中間報告書を公表したが,
その内容も,本件支出を含む公立病院等から受け入れた金員はすべて研
究助成金であることを前提とした記述になっている。
(カ)本件支出により受領した金員は,研究費及び教育費として医局で実
際に使用され,又は研究助成金として医局から国庫に納入されて委任経
理金になり,あるいは医療技術向上のための費用として医局に管理保管
されている。
イ以上のようなM市立病院側の支出の名目,支出態様,医局側の本件支出
の趣旨の理解のしかた,実際の支出内容等を考え併せれば,本件支出は医
局に対する研究助成という使途の負担が付いた寄附金であると認められ
る。
証拠(丙12,証人H)によれば,本件支出⑳は,消化器内科の医局に
おいて,公立・民間の病院や医院などが直接に同医局へ持参して寄附した
現金を入れる口座に入れたところ,同口座からは,研究用器具の購入代金
が支払われたほか,多くの場合内部の懇親的費用に支出されていたことが
認められるけれども,その妥当性はともかく医局の運営と全く無関係に使
用されたものとまではいい難いから,本件支出が研究助成目的でされたこ
とを否定する根拠として十分ではない。
3本件支出に係る寄附が地財再建法に違反することを理由とする主位的請求に
ついて
()医局と東北大学の関係について1
ア各項末尾に挙示の証拠によれば,次の事実が認められる。なお,以下の
認定の個別具体的な部分の多くは,消化器病態学分野の医局についてのも
のであるが,その他の医局についても,その本質的な性格については異な
ることはないと思われる。
(ア)一般に,大学の医学部には,教育研究組織として講座(東北大学大
学院においては分野)が,医学部の附属病院には,診療組織として診療
科が置かれているが,両者が一体となって教育研究,診療を遂行すると
いう観点から,多くの場合,附属病院の各診療科長は,医学部講座の教
授が兼ねており,医局とは,これら教授を中心とした講座,診療科に所
属する医師の集団を指す言葉であり,法令上あるいは予算上位置づけら
れた組織や仕組みではない。医局は,教育研究,診療を円滑に進めるた
めの一つのまとまりとして,地域医療機関への医師の紹介あるいは研究
発表会,新しい医療技術の普及などの活動の機能を果たしている(丙。
28)
(イ)東北大学大学院においても,臨床系の各分野の教授が各診療科の科
長を兼任しており,各分野の他の教官(助教授,講師,助手)もすべて
診療科兼務が発令されている。
上記兼任の教官のほか,各分野には,大学院生,大学院研究生が在籍
しており,各診療科(R病院)には,診療科専任の教官と医員,研修医
がいる。
医局は,上記の各分野の構成員及び各診療科の構成員によって構成さ
れている(丙12ないし15)。
(ウ)一般に,大学における教官の地位は,次のとおりとされており,研
究も職務の一部である(平成17年法律第83号による改正前の学校教
育法58条6ないし9号。)
①教授は,学生を教授し,その研究を指導し,又は研究に従事する。
②助教授は教授の職務を助ける。
③助手は,教授及び助教授の職務を助ける。
④講師は,教授又は助教授に準じる職務に従事する。
また,国立大学病院の医員の職務内容は,次のとおりである。
附属病院において診療に従事するものとし,必要に応じ,診療を通じ
ての臨床教育の補助的職務及び診療に関して研究にも従事するものとす
る(丙26)。
他方,医局は,臨床医療においては,研究,教育,診療が有機的一体
的に連携することが必要であることから,医局員の親睦を図りながら医
学研究を行ったり診療に当たることや医局員の相互扶助などを目的と
し,診療科の役職である医局長がその長となり,消化器病態学分野の医
局の場合は,助教授2名と医局長の3名の執行部と教授とのミーティン
グで意思決定がされている。ミーティングでは,学会のリハーサル,医
療事故やそれに近い事象に対する対応,医局運営などについて協議して
おり,医局員である医師の就職についても協議して,本人と面談してい
る。また,医局は,後記の委任経理金及び医局管理の寄附金の使途にお
いて説示するとおり,有機的一体的に研究,教育,診療を実施するため
に,秘書,臨床検査技師等(パラメディカル)を雇用し,研究用医療機
器を購入したり,大学院研究生の学費の支援や大学院生等の留学,学会
参加等の旅費の支援をしている(丙12,証人H)。
(エ)医学の教育,研究には多額の研究費を必要とするが,東北大学の医
学研究費用としては,校費,科研費,委任経理金,O財団からの助成金
を含むその他の寄附金がある。校費は,国からの教育研究費で各分野に
支給されるが,試薬や備品,実験資材の購入等の費用に充てられて,大
学院生の教育費にも足りない額である。科研費は,具体的な研究計画,
研究方法,研究代表者,研究分担者等を明らかにして,文部科学省から
委託を受けたUに申請し,認められれば支払われるもので,研究費の大
きな部分を担っているが,概ね申請額の3分の1が認められるかどうか
である。委任経理金は,民間企業,団体,個人等から寄附された寄附金
であり,各分野の寄附金ごと(研究ごと)の寄附金別委任経理金受払簿
によって管理されている(なお,手続としては,寄附者から奨学寄附金
として一旦国庫に寄附され,国庫から寄附を受け入れた部局の部局長に
支出されて歳入歳出外現金となっている。そして,上記のほかに,。)
本件支出にかかるもののように,国庫を通す手続がされず,教授名義等
で受領する寄附金があるが,これは,医局において管理されている(以
下「医局管理の寄附金」という。。)
委任経理金は,教育研究費や科研費の不足分を補うため,上記同様試
薬や備品,実験資材の購入等の費用に充てられるほか,研究用医療機器
,,()の購入や医局で雇用している秘書臨床検査技師等パラメディカル
の賃金などに充てられている。
公立病院等からの研究助成金の受け入れ状況等に関する調査報告書や
,,,医学部問題中間報告書によれば医局管理の寄附金の支出先は研究会
,,,,学会への支出国内外の著名な教授の講義患者回診症例検討の謝礼
書籍等,研究消耗品への支出,研究費及び教育費への支出(地域病院に
勤務する大学院研究生の入学料及び授業料への支援並びに大学院生等の
留学旅費の援助,大学院生等の学会参加旅費,研究実施旅費等への支)
出,委任経理金への支出とされている(甲3,4,丙2ないし7,1。
0ないし13,証人H,同K,同B)
(オ)また,医局は,医局員から医局費を徴収して,医局運営の費用に充
てている。
消化器病態学分野の医局では,医局費を歓送迎会等の懇親会費用,通
信費,新聞・書籍・V受信料,教室論文製本代,各種研究会・学会の会
,,,費等に充てておりそのほか医局員の臨時当直手当の受領・支払いや
医局員の教室員会費,W会費,同窓会の会費の徴収支払いをしている。
また,同医局では,上記医局管理の寄附金の口座のほか,同窓会の口座
や,各種研究会・学会の口座も管理している(丙11)。
イ上記のとおり,医局は,大学医学部の臨床系講座の教授を中心とした講
,,座診療科に所属する医師の集団として一般に認められた存在であること
その構成員は,臨床系講座の各分野の構成員とも,各診療科の構成員とも
異なるものであるが,臨床系講座の各分野と各診療科の構成員を統合した
ものとほぼ一致すること,医局の活動は,臨床系講座の各分野及び各診療
(,,),科の職員としての職務遂行教育研究診療とみられるもののほかに
秘書,臨床検査技師等を雇用したり,医局員である医師の就職についても
協議面談するなど,その職務権限・職務内容の範囲外のものや,大学院研
究生や大学院生に対し学費や旅費等の支援をするなど相互扶助的活動,そ
の他親睦会的活動を行っていること,医局の活動資金は,委任経理金から
も医局の雇用者に対する賃金を支払っているが,医局管理の寄附金や医局
費など,独自の資金を管理使用していることが認められる。
これらの事実からすれば,医局の構成員は臨床系講座の分野とも診療科
,(,とも異なりこれを臨床系講座の分野と診療科との統合体とみるただし
東北大学の組織としてそのような機関があるわけではない)としても,。
その活動内容は分野及び診療科の活動と相当部分で重なり合うとはいえ,
これにとどまらないものであって,独自の資金管理もされているのである
から,医局を東北大学の臨床系講座の分野,診療科又はその統合体と同視
することは困難である。
ウしかしながら,本件支出に係る寄附が東北大学とは別個の医局に対する
ものであるとしても,医局の活動内容は臨床系講座の分野及び診療科の活
動と相当部分で重なり合い,医局の活動資金の一部(秘書の賃金等)は委
任経理金(歳入歳出外現金であり,国(現在は東北大学)の所有と解され
る)から支出されており,医局管理の寄附金からは研究消耗品への支出。
等上記重なり合う部分の活動のための支出がされていることから,そのよ
うな性質を持つ医局に対する寄附が地財再建法24条2項ないし地方財政
法4条の5の趣旨に反するのではないかとの観点からの検討が必要であ
る。
()本件支出の違法性について2
ア地方自治法232条の2は「普通地方公共団体は,その公益の必要が,
ある場合においては,寄附又は補助をすることができる」と規定してお。
り,公益上の必要がある場合には市町村が第三者に対して寄附を行うこと
を認めている。
しかし,地財再建法24条2項は「地方公共団体は,当分の間,国,,
……に対し,寄附金,法律又は政令の規定に基づかない負担金その他これ
(。「」。)らに類するものこれに相当する物品等を含む以下寄附金等という
を支出してはならない。ただし,地方公共団体がその施設を国,独立行政
法人若しくは国立大学法人等又は会社等に移管しようとする場合その他や
むを得ないと認められる政令で定める場合における国,独立行政法人若し
くは国立大学法人等又は会社等と当該地方公共団体との協議に基づいて支
出する寄附金等で,あらかじめ総務大臣に協議し,その同意を得たものに
ついては,この限りでない」と規定している。。
これは,従来,地方財政法4条の5において,国が地方公共団体から強
制的に寄附金を徴収することを禁止していたが,同条は,地方公共団体の
任意自発的な寄附を規制対象とするものではないため,国等がその優越的
な地位を背景として,本来自己の負担とすべき経費に付き自発的寄附とい
う名目で地方公共団体にその負担を転嫁したり,あるいは地方公共団体の
側においても,国等の施設等誘致のために寄附することが頻発したため,
地方公共団体の国等に対する自発的寄附又は任意負担をも原則禁止とする
ことによって財政の健全化を図る一方,寄附等を一律禁止することによる
公益上又は社会通念上の不合理を回避するため,一定の場合には事前に総
務大臣の同意を得た上で寄附等をなしうるものとしたものと解される。
そうだとすれば,地財再建法24条2項は,ただし書にあたる場合を除
き,強制的なものであるか任意的なものであるか,国が本来負担すること
を予定しているものか否か,それが当該地方公共団体にとって必要ないし
利益であるか否かに関わりなく,全てこれを禁止したものと解される。
イ補助参加人は,地財再建法24条2項で禁止されている寄附の対象は,
国等の負担すべき経費に限られるところ,本件支出は,実質的には,研究
者に対する自由な研究のための経費であって,国等の負担すべき経費に対
する寄附とはいえないと主張する。
しかし,地財再建法24条2項は,国が本来負担することを予定してい
るものか否かに関わりなく適用されると解すべきである。そして,大学の
教官も附属病院の医員も,研究が職務の一部とされているのであるから,
大学の教官等が全く私人として研究活動をすることができるとしても,場
所的側面や時間的側面等により,職務としての活動と切り離されて全く私
人としての研究であることが明らかにされているなど特段の事情のない限
り(教官等が医局員としても活動していることは特段の事情として十分で
ない,大学の教官等の研究はその職務(公務)であるかあるいはその。)
職務としての性質を含むことを否定されるものではない。研究の内容や方
法が教官等個人の裁量判断に全く委ねられているからといって,これから
直ちにその研究が全くの私的活動と評価されるべきものではない。その研
究のために費やされた資金は国の費用に充てられたものあるいはその側面
を有するものと評価すべきである。国の予算としては校費と科研費としか
予定されておらず,その他の研究資金を国庫において負担することは予定
されていないとしても,それは,民間等から資金を受け入れ研究活動に使
用されたときに,これらの資金が国の費用に充てられたことあるいはその
側面を有することを肯認する妨げとなるものではない。
前記のとおり奨学寄附金は国に寄附される(さらに国立大学法人に支出
される)ものであり,研究者の移動により転出先の国立学校に委任経理金
等が移動されるとしても,それは,学校間の移動であって,研究者個人に
帰属することを意味するものではない(丙33。また,寄附金(委任経)
理金)の具体的な使用者をみても,上記のように委任経理金から医局の経
費である秘書等の賃金が支出されているのであるから,医局のために使用
される奨学寄附金も存在すると解される(医局の構成員が研究グループと
して寄附を受けているとみれば,控訴人の主張とも整合性がないとはいえ
ない。医局とは別の研究者個人ないし研究者グループがこれを受領し。)
たと認めるに足りる証拠はない。
,,,前記のとおり委任経理金は教育研究費や科研費の不足分を補うため
試薬や備品,実験資材の購入等の費用に充てられ,校費や科研費と使途が
明確に区分されていない。医局管理の寄附金も,委任経理金に納入される
ことがあるほか,研究消耗品への支出がされたり,研究のために必要な機
器の購入が予定されたりしており,委任経理金とも,校費や科研費とも使
途が明確に区分されていない。本件支出による寄附金も,大部分が研究費
及び教育費として使用され,又は研究助成金として国庫に納入されて委任
経理金になり,あるいは医療技術向上のための費用として医局に管理保管
されている。したがって,各寄附金は公務(国)の費用に充てる側面があ
ったことは否定できないというべきである。
以上の事情からすれば,本件支出に係る寄附は,医局にされたものであ
るところ,医局は東北大学とは別個の実体をもつものではあるものの,医
局管理の寄附金は,国の所有管理にかかる資金(校費,科研費,委任経理
金)と別個に管理されているとはいえ,使途が截然と区分されておらず,
国の費用に充てられることも予想されたというべきである(結果的にも国
の費用に充てられている部分がある)から,医局管理の寄附金に該当する
寄附を地方公共団体がすることは,国と地方公共団体との間の経費負担区
分を乱して地方財政の健全化を妨げる行為を防止しようという地財再建法
24条2項ないし地方財政法4条の5の規定に抵触するものであった疑い
が払拭できない。
()地財再建法24条2項違反の行為の私法上の効力について3
ア地財再建法24条2項は,国と地方公共団体,地方公共団体相互間等の
財政秩序を定めた地方財政法4条の5の実効性をはかるための条項であっ
て,これに違反する行為が,直ちに私法上無効であるということはできな
いというべきである。地方公共団体相互間についての同趣旨の規定である
()。同法28条の2についても同様に解されている平成15年最高裁判決
イそして,事情によっては地財再建法24条2項違反の行為が私法上無効
となる余地があるとしても,本件の場合,公序良俗に反するなどこれを無
効とすべき特段の事情があるものということはできない。すなわち,本件
支出は繰り返し行われた寄附の一環であって,その額も少額とはいえない
ものの,M市立病院側も医局側も,これが違法であることを明確に認識し
ながら授受がされたものとは断じ難い。そして,本件支出に係る寄附が医
局の運営のために使われたことは前示のとおりであるところ,これが医局
の活動を通して地域医療の充実に寄与してきた面があることは否定できな
い。もとより,本件支出は,国が割り当てて強制的に徴収したもの,ある
いはこれに相当するものとさえいえない。以上の事情のほか証拠上顕れた
一切の事情を考慮しても,本件支出に係る寄附を私法上無効とすべき特段
の事情があるということはできない。
ウ被控訴人は,地財再建法24条2項は,地方公共団体から国に対する寄
附等を端的に禁止するものであって,単なる贈与であるからそれを前提に
種々の法律関係が形成されることもなく,これを無効としても弊害はない
,,し地方自治法上の総務大臣の助言や勧告による是正を期待できないから
同条項違反は無効とされるべきであると主張する。
しかし,単なる贈与であっても,それを費消した後にその贈与を無効と
して返還義務を負わせる場合を考えると,弊害がないと断定することはで
きないし,地財再建法24条2項違反の場合にも,地方公共団体の側には
地方自治法上の総務大臣の助言や勧告による是正を,国等の側には上級庁
や監督官庁等による監督指導による是正を図る方策がある(本件において
も,医学系研究科においては,今後公立病院からの研究助成を一切受けな
いとの決定を自律的にしているし,文部科学省の指導により寄附金を国庫
納入に統一する旨改められている(甲3,18,弁論の全趣旨)こと)。
を考慮すると,地財再建法24条2項違反の行為を無効と解するだけの十
分な理由はないというべきである。
してみれば,本件支出に係る寄附が私法上無効とはいえず,医局におい
て本件支出に係る寄附を受ける法律上の原因がないとは認められない。
()以上によれば,本件支出に係る寄附が地財再建法に違反することを理由4
に東北大学に対して返還請求することを求める主位的請求は理由がないとい
うべきである。
4本件支出が賄賂であることを理由とする予備的請求について
()被控訴人は,本件支出は教授がM市立病院へ医師を派遣する対価として1
された旨主張する。
()しかしながら,本件支出が東北大学の各医局に対してされたものと認め2
られることは前示のとおりであるところ,本件支出を受け入れた後の処理及
び受け入れ後の使途をみても,これが実質的には各教授個人に対してされた
ものと認めるのは困難である。もっとも,その趣旨が教授個人がその自由裁
量で特段の制約なく使用できるような場合や,従前同趣旨の金員が教授個人
あてに交付されていたのが,首肯できる理由もなく形式的に医局あてに交付
されたような場合であれば,これを実質的に教授個人に対して交付したのと
同視する余地がないわけではないけれども,本件支出がこのようなものであ
ったと認めるべき根拠はない。ほかにこれが各教授個人に対してされたもの
と認めるに足りる証拠はない。
()さらに,証拠(甲3,乙1ないし7(各枝番を含む,8ないし10,3。)
丙10,12,13,証人T,H,B,K)に弁論の全趣旨を総合すれば,
次の事実が認められる。
アM市立病院と各医局との関係
(ア)本件支出がされた当時,M市立病院には,次の15の診療科が設け
られていた。
内科,消化器科,呼吸器科,循環器科,神経内科,小児科,外科,産
婦人科,整形外科,泌尿器科,耳鼻咽喉科,眼科,皮膚科,麻酔科,リ
ハビリ科
(イ)各医局からM市立病院への医師派遣の実態
M市立病院独自に医師を確保することは難しいことから,その多くを
東北大学の医局からの医師派遣に頼ってきた。
平成10年度から平成15年度までの間で,常勤医師は14名ないし
17名いたが,このうち11名ないし15名が東北大学の医局から派遣
された医師であった。そのほかに,30人前後の医師が定期又は不定期
に非常勤として派遣されていた。
(ウ)このほか,M市立病院では,東北大学の医局から,常勤医師が学会
出席で不在になる際など日常の診療に対して応援を受けたり,医局から
の派遣医師が同病院の医師の手術指導を行ったりしたほか,当直業務を
応援してもらうこともあった。
また,M市立病院の内科や眼科の医師が,週1回医局で研修を受ける
など,医学を学ぶ場を提供してもらっていた。さらに,医局に対して個
別の診療について相談し,助言を受けることもあった。
他方で,東北大学側からM市立病院に対して学生の高次修練を受け入
れてもらったり,共同で臨床研究を行うことがあった。
イ本件支出の態様・当事者の認識
(ア)M市立病院の院長は,アのような深い関係から,地域医療の維持の
観点から東北大学の医局と良好な関係を保つことを心がけ,(ア)の診療
科に対応する各医局に対して,地場産品の普及を兼ねて地酒を持参して
訪問するなどしていたほか,1年ないし数年に一度本件支出同様の研究
,,協力金を持参して医局の運営に役立ててもらいたいとの趣旨を告げて
これを教授等に手渡していた。
ただし,その際に,常勤医師等に欠員が生じることが見込まれる診療
科については,病院側から後任医師の派遣を依頼する話がされたことは
否定できない。
(イ)M市立病院は,本件支出を病院事業費用中の交際費の中から支出負
担行為,支出命令等正規の手続を踏んで支出していた。もっとも,支出
伺いの起案文書には,件名として「医師派遣依頼について」との記載が
されているけれども,これは,従前からこの件名で同様の支出がなされ
,。ていたため予算からの支出が容易なように前例を踏襲したに過ぎない
(ウ)他方,本件支出金を受領した教授側も,これが医師派遣につき便宜
を図ってもらいたいとの趣旨の金員とは考えず(証人Bは,そのような
趣旨が判明し,受け取るのを断った例を紹介している,これを医局。)
管理の預金口座に入金して,随時前示のような医局の運営費用に使用し
てきた。
ウ本件支出と医師派遣の関連性の有無
(ア)平成14年度に,M市立病院において,整形外科,耳鼻咽喉科及び
神経内科で常勤医師に欠員が生じ,前2科では非常勤医師の派遣を受け
て一部その補充をしたが,神経内科は補充がつかなかった。平成15年
には,糖尿病内科の医師が退職したが,その補充ができなかった。
平成13年度の本件支出⑭ないし⑯,平成14年度の本件支出<>は21
以上の診療科に対応する各医局に対してされているが,医師の補充とこ
の支出との一義的な関連性は認められないし,同じ期間に欠員が生じて
いない診療科に対応する医局にも本件支出⑫,⑰,⑱,⑳等がされてい
るのであって,これらについては,医師派遣との関連性を肯認するのは
一層困難である。
(イ)平成13年度以前の本件支出についても,これを医師派遣の対価と
認めるに十分な根拠はない。
(ウ)東北大学の医局や教授側から,医師派遣を示唆して金員を要求した
ようなことはなく,その趣旨でM市立病院から飲食等の接待を受けたよ
うな経緯も存在しない。わずかに,イ(ア)の機会に常勤医師等に欠員が
生じることが見込まれる診療科について,病院側から後任医師の派遣を
依頼する話が出されたことがうかがわれるにとどまる。
(エ)医学部問題中間報告書(甲3)は,助成金を受けていないが医師が
派遣された公立病院が多数あり,医師の派遣数は各病院における年間の
手術数を目安にして自動的に決められ,寄附金の授受にかかわりなく,
全体としてここ10年来医師派遣数はほぼ安定的に推移してきているよ
うに,教授・診療科長の裁量の余地はないとの実態から,助成金の受入
れと医師派遣との間には関連性がないものと判断した。
(オ)(ア)ないし(エ)からは,本件支出を医師派遣の対価と認めるに十分
な根拠があるとはいえない。
()()のM市立病院と各医局との関係,本件支出の態様・当事者の認識,本43
件支出を医師派遣の対価と認めるに十分な根拠はないことに徴すれば,本件
支出は,研究助成目的の寄附金であって,その支出に不法性はないと認める
のが相当である。
もっとも,本件支出金を交付する際に,常勤医師等に欠員が生じることが
見込まれる診療科については,病院側から後任医師の派遣を依頼する話が出
されたことは否定できず,この限度では本件支出が医師派遣の依頼の趣旨を
含むものであったことを全く否定し去ることはできないけれども,本件支出
は医局に対してされたものであって,教授個人に対するものとは認め難い以
上,これを教授個人に対する賄賂とみることはできない。
()してみれば,被控訴人の本件支出が賄賂であることを理由とする予備的5
請求は,その余の点につき判断するまでもなく理由がない。
5よって,原判決中,控訴人敗訴の部分(被控訴人の請求を認容した部分)を
取り消して,取消に係る被控訴人の請求を棄却し,さらに被控訴人の予備的請
求を棄却することとし,主文のとおり判決する。
仙台高等裁判所第1民事部
裁判長裁判官小野貞夫
裁判官信濃孝一
裁判官大垣貴靖

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