弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
         理    由
 弁護人篠原由宏の上告趣意第一は、憲法三七条二項違反をいう点を含め、その実
質は、公務所照会によつて送付を受けた文書の取扱及び証人の採否決定に関して刑
訴法違反をいう単なる法令違反の主張であり、同第二のうち、憲法三四条、三六条、
三八条一項、二項違反をいう点は、記録を調査すると、Aの逮捕、勾留及び取調に
所論のごとき違法があるとは認められず、その検察官に対する供述調書の任意性を
肯認した原判断は正当と認められるから、所論は前提を欠き、その余は単なる法令
違反の主張であり、同第三のうち、憲法三八条二項違反をいう点は、記録を調査す
ると、被告人の取調に所論のごとき違法があるとは認められず、その検察官に対す
る供述調書の任意性を肯認した原判断は正当と認められるから、所論は前提を欠き、
その余は単なる法令違反の主張であり、同第四は、憲法一四条、三一条違反をいう
が、原審においてなんら主張、判断を経ていない事項についての憲法違反の主張で
あり、同第五は、憲法三一条違反をいう点を含め、その実質は、公職選挙法の解釈
適用の誤りをいう単なる法令違反の主張及び事実誤認の主張であり、同第六及び第
七は、それぞれ事実誤認の主張であり、同第八は、量刑不当の主張であつて、いず
れも刑訴法四〇五条の上告理由に当たらない。
 なお、公職選挙法二二一条三項四号にいう「当該地域における選挙運動を主宰し
た者」とは、当該公職の候補者が立候補届出により候補者としての地位を有するに
至つたとき以後の当該地域における選挙運動を推進するについて、その地域の中心
的存在としてこれを掌握指揮する立場にあつた者をいい、同項一号に掲げる者(以
下「候補者」という。)又は同項二号に掲げる者(以下「総括主宰者」という。)
が、当該地域を含む当該選挙の行われる全区域に共通するものとして、選挙運動の
推進に関する事項全般にわたり、具体的かつ詳細な指示をしたような場合であつて
も、当該地域における選挙運動推進の中心的存在として、それらの者の指示を実施
するための事務その他当該地域における選挙運動を推進するについての諸般の事務
を掌握指揮した者は、「当該地域における選挙運動を主宰した者」に該当すると解
するのが相当である。
 また、同項四号にいう「地域における選挙運動を主宰すべき者として候補者又は
総括主宰者から定められ」とは、当該公職の候補者の立候補届出により候補者又は
総括主宰者としての地位を取得するに至つた者から、明示的又は黙示的に当該地域
における選挙運動を主宰すべき者として定められたことをいい、立候補届出後にお
いてその旨が明示的に定められた場合はもとより、候補者又は総括主宰者としての
地位を取得するに至つた者と当該地域における選挙運動を主宰した者との立候補届
出前後を通じての言動等に照らし、両者が意を通じ合い、互いにその地位役割を了
解し、これに従つて行動していたと認められる場合をも含むと解するのが相当であ
る。
  そして、(一) 本件選挙運動の推進母体たる「Bを育てる会」の活動が、立
候補届出の前後を通じ、運動担当者の選任及び指揮監督並びに活動資金の調達配布
等の面において、東日本と西日本の二つの地域に分けて行われたこと、(二) 被
告人が、公示前の段階から、右「育てる会」の西日本地域における活動を統括する
「西日本本部」の中心的存在として、西日本各地区の運動担当者に対し選挙運動の
進め方等について具体的な指示、指導等を行い、西日本各地区における活動資金の
配分を計画、実行し、各種会合への出席その他の対外的活動面においても、西日本
地域における活動の中心となつてこれを推進する者として行動し、立候補届出後に
おいても、西日本全域にわたる選挙運動の情勢把握、連絡調整等に当たるとともに、
西日本各地区の運動責任者多数に対し広範な買収行為を行い、ひきつづき西日本地
域における運動推進の中心的存在として行動し、その地位、役割は選挙終了に至る
まで変更がなかつたこと、(三) 総括主宰者となつたAは、被告人との接触等を
通じて公示前の段階から、被告人が前記のごとき地位、役割を果すことを了解して
おり、公示直前の各種会合においても、「西日本については、ひきつづき被告人に
責任者になつてもらう」旨の発言をするなどして立候補届出後においても被告人が
西日本地域において従前と同様の地位、役割を果すべき旨の意思を表明していたこ
と、など原判決が認定した本件事実関係のもとにおいて、被告人が、東日本と西日
本の二つに分けられた地域のうち西日本地域における選挙運動を主宰すべき者とし
て総括主宰者であるAから定められ、現に同地域における選挙運動を主宰したとし
て、公職選挙法二二一条三項四号にいわゆる「地域主宰者」に該当すると認めた原
判断は、正当として是認することができる。
 よつて、刑訴法四一四条、三八六条一項三号により、裁判官全員一致の意見で、
主文のとおり決定する。
  昭和六一年二月二四日
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    高   島   益   郎
            裁判官    谷   口   正   孝
            裁判官    角   田   禮 次 郎
            裁判官    大   内   恒   夫

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