弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
 一 原判決中、第一審判決別紙株式目録記載一ないし四及び六の各株式の分割請
求及び株券の引渡請求に係る部分を破棄する。
 二 前項の部分につき、本件を東京高等裁判所に差し戻す。
 三 上告人のその余の上告を棄却する。
 四 前項に関する上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 一 事案の概要
 本件は、亡Dの共同相続人の一人であり相続財産全部の包括遺贈を受けた上告人
に対して、遺留分減殺請求をした他の共同相続人である被上告人らが、共有に帰し
た相続財産中の株式等について共有物の分割及び分割された株式に係る株券の引渡
し等を請求したものである。
 二 上告代理人高崎英雄の上告受理申立て理由第一について
 1 上告人は、遺贈を受け被上告人らからの遺留分減殺請求の対象となっている
財産の一部である第一審判決別紙株式目録記載六の株式のみについて、本件訴訟で
民法一〇四一条一項に基づく価額の弁償を主張している。
 2 原審は、同項の「贈与又は遺贈の目的の価額」とは、贈与又は遺贈された財
産全体の価額を指すものと解するのが相当であり、贈与又は遺贈を受けた者におい
て任意に選択した一部の財産について価額の弁償をすることは、遺留分減殺請求権
を行使した者の承諾があるなど特段の事情がない限り許されないものというべきで
あり、そう解しないときは、包括遺贈を受けた者は、包括遺贈の目的とされた全財
産についての共有物分割手続を経ないで、遺留分権利者の意思にかかわらず特定の
財産を優先的に取得することができることとなり、遺留分権利者の利益を不当に害
することになるとして、上告人の価額弁償の主張を排斥し、右株式を被上告人ら三、
上告人五の割合で分割した上、上告人に対し、この分割の裁判が確定したときに、
右分割株式数に応じた株券を被上告人らに引き渡すよう命じた。
 3 しかし、【要旨1】受贈者又は受遺者は、民法一〇四一条一項に基づき、減
殺された贈与又は遺贈の目的たる各個の財産について、価額を弁償して、その返還
義務を免れることができるものと解すべきである。
 なぜならば、遺留分権利者のする返還請求は権利の対象たる各財産について観念
されるのであるから、その返還義務を免れるための価額の弁償も返還請求に係る各
個の財産についてなし得るものというべきであり、また、遺留分は遺留分算定の基
礎となる財産の一定割合を示すものであり、遺留分権利者が特定の財産を取得する
ことが保障されているものではなく(民法一〇二八条ないし一〇三五条参照)、受
贈者又は受遺者は、当該財産の価額の弁償を現実に履行するか又はその履行の提供
をしなければ、遺留分権利者からの返還請求を拒み得ないのであるから(最高裁昭
和五三年(オ)第九〇七号同五四年七月一〇日第三小法廷判決・民集三三巻五号五
六二頁)、右のように解したとしても、遺留分権利者の権利を害することにはなら
ないからである。このことは、遺留分減殺の目的がそれぞれ異なる者に贈与又は遺
贈された複数の財産である場合には、各受贈者又は各受遺者は各別に各財産につい
て価額の弁償をすることができることからも肯認できるところである。そして、相
続財産全部の包括遺贈の場合であっても、個々の財産についてみれば特定遺贈とそ
の性質を異にするものではないから(最高裁平成三年(オ)第一七七二号同八年一
月二六日第二小法廷判決・民集五〇巻一号一三二頁)、右に説示したことが妥当す
るのである。
 そうすると、原審の前記判断には民法一〇四一条一項の解釈を誤った違法がある
というべきである。
 三 同第二の三について
 1 原審は、第一審判決別紙株式目録一ないし四記載のF製鉄株式会社外三社の
各株式について、株式は一株を単位として可分であり、かつ、分割することによる
価値の減少が認められないことを理由として、右各株式を被上告人ら三、上告人五
の割合で分割した上、上告人に対し、この分割の裁判が確定したときに、右分割株
式数に応じた株券を被上告人らに引き渡すよう命じた。
 2 しかし、右各株式は証券取引所に上場されている株式であることは公知の事
実であり、これらの株式については、一単位未満の株券の発行を請求することはで
きず、一単位未満の株式についてはその行使し得る権利内容及び譲渡における株主
名簿への記載に制限がある(昭和五六年法律第七四号商法等の一部を改正する法律
附則一五条一項一号、一六条、一八条一、三項)。したがって、【要旨2】分割さ
れた株式数が一単位の株式の倍数であるか、又はそれが一単位未満の場合には当該
株式数の株券が現存しない限り、当該株式を表象する株券の引渡しを強制すること
はできず、一単位未満の株式では株式本来の権利を行使することはできないから、
新たに一単位未満の株式を生じさせる分割方法では株式の現物分割の目的を全うす
ることができない。
 そうすると、このような株式の現物分割及び分割された株式数の株券の引渡しの
可否を判断するに当たっては、現に存在する株券の株式数、当該株式を発行する株
式会社における一単位の株式数等をも考慮すべきであり、この点について考慮する
ことなく、右各株式の現物分割を命じた原審の判断には、民法二五八条二項の解釈
を誤った違法があり、これを前提として株券の引渡しを命じた原審の判断にも違法
があるというべきである。
 四 結論
 以上によれば、原判決中、第一審判決別紙株式目録記載一ないし四及び六記載の
各株式の分割及び株券の引渡しを命じた部分には、判決に影響を及ぼすことが明ら
かな法令の違反がある。したがって、論旨は理由があり、原判決中、右部分は破棄
を免れず、同目録記載一ないし四の各株式に関する請求については、現に存在する
株券の株式数、当該株式を発行する株式会社における一単位の株式数等を考慮した
現物分割の可否について、同目録記載六の株式に関する請求については、弁償すべ
き価額について、更に審理判断させるため、本件を原審に差し戻すこととする。
 なお、その余の請求に関する上告については、上告受理申立ての理由が上告受理
の決定において排除されたので、棄却することとする。
 よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 金谷利廣 裁判官 千種秀夫 裁判官 元原利文 裁判官 奥田
昌道)

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