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平成22年6月2日判決言渡同日原本領収裁判所書記官
平成22年(行ケ)第10037号審決取消請求事件
口頭弁論終結日平成22年5月26日
判決
原告X
同訴訟代理人弁護士齋藤祐次郎
被告佐賀製薬株式会社
同訴訟代理人弁護士渡辺春己
近藤俊之
同弁理士津国肇
山村大介
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
特許庁が取消2009−300352号事件について平成21年12月28日に
した審決を取り消す。
第2事案の概要
本件は,原告が,下記1のとおりの手続において,原告の本件商標の不使用を理
由とする登録の取消しを求める被告の審判請求について,特許庁が同請求を認めた
別紙審決書(写し)の本件審決(その理由の要旨は下記2のとおり)には,下記3
のとおりの取消事由があると主張して,その取消しを求める事案である。
1特許庁における手続の経緯
(1)本件商標(甲1,2)
本件商標(登録第2015748号商標)は,「久遠水」の文字を書してなり,
昭和60年7月12日に登録出願,第1類「液剤」を指定商品として,昭和63年
1月26日に設定登録され,平成9年11月25日,同20年1月22日にそれぞ
れ商標権の存続期間の更新登録がされ,現に有効に存続しているものである。
(2)審判請求及び本件審決(乙3,4)
被告は,平成21年3月25日,継続して3年以上日本国内において商標権者,
専用使用権者又は通常使用権者のいずれも本件商標を使用した事実がないことをも
って,不使用による取消審判を請求し,当該請求は平成21年4月17日に登録さ
れた。
特許庁は,これを取消2009−300352号事件として審理し,平成21年
12月28日,「登録第2015748号商標の商標登録は取り消す。」との本件
審決をし,同22年1月7日にその謄本が原告に送達された。
2本件審決の理由の要旨
本件審決の理由は,要するに,本件商標が本件審判の請求の登録前3年以内に指
定商品について使用されたとは認められず,かつ,その不使用について商標法50
条2項ただし書の「正当な理由」があったとも認められない,というものである。
3取消事由
本件商標の不使用について前記「正当な理由」が認められないとした判断の誤り
第3当事者の主張
〔原告の主張〕
(1)商標法50条2項ただし書の「正当な理由」について
商標法50条2項ただし書の「正当な理由」とは,登録商標を使用していないこ
とについて,当該商標を取り消すことが社会通念上商標権者に酷であるような場合
をいう。
(2)本件商標の不使用に係る「正当な理由」の存否について
本件商標につき,商標権者,専用使用権者及び通常使用権者のいずれもが指定商
品についての登録商標の使用をしていないが,それは,本件商標の指定商品である
「液剤」が「液状の薬剤」であって,「薬剤」を製造販売するためには,薬事法上,
厚生労働大臣の承認を得なければならず,同承認審査では「販売名」も対象となる
ところ,医療用医薬品については,一般原則として「既承認品目のブランド名と同
一のブランド名は認められない」とされ(甲8),また,一般用医薬品についても,
「既承認品目の販売名と同一の販売名は認められない」とされているところ(甲9),
本件商標と「久遠水」の文字部分が共通する「身延久遠水」を販売名とした薬事法
の既承認品目が存在し,それ故,本件商標の使用を予定する医薬品の製造販売の承
認審査を受ければ,市場の混乱が生じる可能性が高いという理由でその製造販売が
承認されないであろうと予見されたからである。
これに対し,本件審決は,本件商標の使用を予定する医薬品の製造販売の承認審
査において,販売名に関しての審査結果についての予測が必ずしも定かでないとし
ても,少なくとも,承認申請を行うことが可能であったということができ,原告の
予見のみをもって,直ちに原告が本件商標の使用をすることができない客観的・法
律的な障害事由として,不使用に係る「正当な理由」があったとすることはできな
いと判断した。
本件審決の判断によれば,仮に,本件商標の不使用に係る「正当の理由」があっ
たとするためには準備行為として医薬品の承認申請を行うことまで求められるべき
であるとすると,原告は,承認されないことが明らかである承認申請の手数料とし
て数十万円から数百万円を負担しなければならなくなる。加えて,パッケージや容
器の作成代や最低ロット数の製造委託料など,少なくとも数百万円もの負担をも余
儀なくされるのであって,このような実情を考慮すると,単に形式的に承認申請が
可能であったというだけで,不使用に係る「正当な理由」が認められないとして,
本件商標の登録を取り消すことは,社会通念上,商標権者である原告に酷である。
したがって,原告の本件商標の不使用には「正当な理由」が存在するというべき
である。
〔被告の主張〕
(1)商標法50条2項ただし書の「正当な理由」について
商標法50条2項ただし書の「正当な理由」とは,登録商標を使用していないこ
とについて,商標権者の責に帰することができないやむを得ない事情,例えば,天
災地変等の不可抗力事由その他法的規制等があり,当該登録商標を取り消すことが
社会通念上商標権者に酷であるような場合をいうものと解される。
そして,この「天災地変等の不可抗力事由その他法的規制等」とは,その商標の
使用をする予定の商品の生産の準備中に天災地変等によって工場等が損壊した結果
その使用ができなかったような場合,時限立法によって一定期間(3年以上)その
商標の使用が禁止されたような場合等がこれに当たる。
(2)本件商標の不使用に係る「正当な理由」の存否について
原告は,本件商標使用の準備行為としての薬事法上の承認申請が承認されないこ
とが明らかであったとして,本件商標を使用できなかったと主張する。
しかしながら,厚生労働省による承認審査における「医薬品製造販売指針」(甲
8,9)によると,医療用医薬品に関しては「同一のブランド名」,一般用医薬品
に関しては「同一の販売名」が認められないのみである。
しかるところ,原告の登録商標は「久遠水」であり,他方,被告が薬事法上の承
認を受けている販売名は「身延久遠水」であるから,両者が同一でないことは明ら
かであって,原告が,薬事法上の承認が得られないとして不使用の「正当の理由」
があると主張することは失当である。
また,原告は,承認されないことが明らかである承認申請の手数料として数十万
から数百万円を負担することになり,加えて,パッケージや容器の作成代や最低ロ
ット数の製造委託料など,少なくとも数百万円の負担を余儀なくされると主張する
が,一般用医薬品においては,いわゆる「一物多名称」(複数の品目について,承認
申請内容が同一であり,販売名のみが異なること)(乙1)として承認申請すれば,
たとえ多く見積もってもせいぜい十数万円の負担で済むものである。
しかるところ,原告は,現に「日朝水」という目薬を販売しており,この「日朝
水」との一物多名称として本件の登録商標である「久遠水」を申請することが可能
だったはずであり,また,パッケージや容器の作成及び医薬品の製造は,承認確認
後に行うことが可能である。
したがって,いずれにしても,原告には,本件商標の不使用について,「正当な
理由」が認められないというべきである。
第4当裁判所の判断
1本件商標の不使用に係る「正当な理由」の有無について
(1)証拠及び弁論の全趣旨によると,次の事実を認めることができる。
ア平成19年から同22年にかけて,被告が製造する「身延久遠水」との販売
名の点眼薬が一般薬として薬事法による承認を得て存在している(甲3∼5)。
イ医薬品製造販売指針2005(甲8,9)によると,医療用医薬品について
は,「医薬品の販売名は当該製造販売業者が自由に命名して差し支えないのが原則
であるが,医薬品としての品位を保つとともに国民の保健衛生を確保する見地から,
次の点に十分留意すべきである。」「特に,医療用医薬品の販売名については,販
売名の一部を省略して記載した場合に,省略された販売名と同一の販売名の医薬品
があること等が誤投与を招く原因となるおそれがあるため,その取扱いが規定され
ている。」「販売名の一部が省略された場合に,他に該当する製剤が存在しないこ
と。」「既承認品目のブランド名と同一のブランド名は認められない。」とされ,
また,一般用医薬品については,「医薬品の販売名は原則として当該製造販売業者
が自由に命名して差し支えないが,医薬品としての品位を保つとともに国民の保健
衛生を確保する見地から,次のような場合には承認されないことがある。」「既承
認品目の販売名と同一の販売名は認められない。」とされている。
(2)原告は,以上の事実を踏まえ,原告が本件商標を使用しなかったのは,本件
商標と「久遠水」の文字部分が共通する「身延久遠水」を販売名とした薬事法の既
承認品目が存在し,それ故,本件商標の使用を予定する医薬品の製造販売の承認審
査を受ければ,市場の混乱が生じる可能性が高いという理由でその製造販売が承認
されないであろうと予見されたからであって,本件商標を使用していないことにつ
いて商標法50条2項ただし書の「正当な理由」があると主張する。
しかしながら,上記「正当の理由」とは,商標権者,専用使用権者又は通常使用
権者(以下「商標権者等」という。)の責に帰すことができない事由が発生したた
めに,商標権者等が登録商標をその指定商品又は指定役務について使用することが
できなかった場合をいうものであるところ,本件において,原告が,実際に,本件
商標を販売名とする医薬品の製造販売を企図しながら,薬事法上の製造販売の承認
との関係で,その製造販売やその準備手続を見合わせざるを得なかったとの事実を
認めるに足りる証拠はなく,そうである以上,本件商標の使用を予定する医薬品の
製造販売の承認審査を申請しても前記指針によって承認がされないとの原告の見込
みも,要は,原告の憶測にとどまるものであったといわざるを得ないのであって,
そのような憶測を理由に,本件商標の不使用について原告の責に帰すことができな
い事由があったとまでいうことはできない。
さらに,原告は,そのような見込みの下において,承認審査を申請するとすれば,
その手数料として数十万円から数百万円を負担しなければならなくなることに加え
て,パッケージや容器の作成代や最低ロット数の製造委託料など,少なくとも数百
万円もの負担をも余儀なくされるのであって,単に形式的に承認申請が可能であっ
たというだけで,その承認申請がない以上,本件商標の不使用について正当な理由
が認められないというのは,原告に酷であるとも主張するが,原告の見込みが前記
説示のとおり憶測の域を出るものではない本件において,以上の認定判断が覆され
るものではない。
(3)したがって,本件商標をその指定商品に使用していないことについて正当な
理由があるとの原告の主張は,これを採用することができない。
2結論
以上の次第であるから,原告の請求は棄却されるべきものである。
知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官滝澤孝臣
裁判官本多知成
裁判官荒井章光

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