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平成25年3月25日判決言渡同日原本領収裁判所書記官
平成23年(ワ)第32776号損害賠償請求事件
口頭弁論終結日平成24年12月19日
判決
徳島県阿南市<以下略>
原告日亜化学工業株式会社
同訴訟代理人弁護士古城春実
同牧野知彦
同高橋綾
同訴訟代理人弁理士鮫島睦
同田村啓
同玄番佐奈恵
同訴訟復代理人弁護士加治梓子
東京都台東区<以下略>
被告燦坤日本電器株式会社
同訴訟代理人弁護士松田純一
同大橋君平
同近森章宏
同伊藤卓
同西村公芳
同訴訟復代理人弁護士篠森重樹
同大坂憲正
同西脇怜史
台湾,台北<以下略>
被告補助参加人ユニティーオプトテクノロジー
カンパニーリミテッド
同訴訟代理人弁護士升永英俊
同補佐人弁理士佐藤睦
主文
1原告の請求をいずれも棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
被告は,原告に対し,2000万円及びこれに対する平成23年10月19
日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要
1本件は,「発光ダイオード」に関する特許権(特許第3995011号。平
成23年11月25日存続期間満了。以下以下以下以下「「「「本件特許権本件特許権本件特許権本件特許権」」」」といいといいといいといい,,,,本件本件本件本件特許権特許権特許権特許権
にににに係係係係るるるる特許特許特許特許をををを「「「「本件特許本件特許本件特許本件特許」」」」というというというという。。。。)を有していた原告が,被告に対し,被告
が輸入販売していた別紙物件目録記載のLED電球((((以下以下以下以下,,,,同目録同目録同目録同目録1111記載記載記載記載のののの物物物物
件件件件をををを「「「「イイイイ号物件号物件号物件号物件」,」,」,」,同目録同目録同目録同目録2222記載記載記載記載のののの物件物件物件物件をををを「「「「ロロロロ号物件号物件号物件号物件」」」」といいといいといいといい,,,,併併併併せてせてせてせて「「「「被告被告被告被告
製品製品製品製品」」」」というというというという。)。)。)。)は,本件特許権に係る発明の技術的範囲に属し,本件特許権
を侵害すると主張して,民法709条,特許法102条3項に基づく損害賠償
請求又は民法703条に基づく不当利得返還請求として2000万円及びこれ
に対する訴状送達の日の翌日である平成23年10月19日から支払済みまで
民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
2前提となる事実(証拠等を付した以外の事実は当事者間に争いがない。)
(1)原告は,半導体及び関連材料,部品,応用製品の製造販売等を目的とす
る株式会社である(弁論の全趣旨)。
(2)被告は,家庭電化製品の販売,輸入等を目的とする株式会社である。
補助参加人は,台湾に本店を有する外国法人である。
被告は,少なくとも本件特許が登録された平成19年8月10日から本件
特許権の存続期間が満了した平成23年11月25日まで,補助参加人の製
造する被告製品を輸入し,譲渡し,譲渡の申出をしていた。
(3)本件特許
原告は,以下の特許権(本件特許権)を有している(本件特許に係る特許
公報(甲2)を末尾に添付し,以下以下以下以下,,,,本件特許本件特許本件特許本件特許のののの請求請求請求請求のののの範囲範囲範囲範囲,,,,明細書及明細書及明細書及明細書及びびびび図図図図
面面面面をををを合合合合わせてわせてわせてわせて「「「「本件明細書本件明細書本件明細書本件明細書」」」」というというというという。。。。)。
特許番号第3995011号
発明の名称発光ダイオード
原出願日平成3年11月25日
出願日平成17年10月31日
(特願2005-317711号)
(特願2005-158166号の分割)
登録日平成19年8月10日
存続期間満了日平成23年11月25日
(4)本件特許に係る手続の経緯は以下のとおりである(甲26の2,28,
乙2)。
平成3年11月25日原出願(特願平3-336011号。甲26の
1,乙1,丙1。以下以下以下以下「「「「本件最初本件最初本件最初本件最初のののの原出願原出願原出願原出願」」」」といいといいといいといい,,,,本件最初本件最初本件最初本件最初のののの原出願原出願原出願原出願
にににに係係係係るるるる明細書明細書明細書明細書((((特許請求特許請求特許請求特許請求のののの範囲範囲範囲範囲をををを含含含含むむむむ。。。。))))及及及及びびびび図面図面図面図面をををを合合合合わせてわせてわせてわせて「「「「当初明当初明当初明当初明
細書細書細書細書」」」」というというというという。。。。)
平成9年10月20日分割出願(第1世代)(特願平9-306393
号,特許第2900928号。甲11の1・2,26の5・13,乙
5,13。以下以下以下以下,「,「,「,「本件第本件第本件第本件第1111分割出願分割出願分割出願分割出願」」」」というというというという。。。。)
平成10年12月28日分割出願(第2世代)(特願平10-3771
28号。甲26の6,乙6)
平成13年9月3日分割出願(第3世代)(特願2001-31328
6号。甲26の7,乙7)
平成15年2月4日分割出願(第4世代)(特願2003-67318
号。甲26の8,乙8)
平成16年9月27日分割出願(第5世代)(特願2004-2802
88号。甲26の9,乙9)
平成17年5月30日分割出願(第6世代)(特願2005-1581
66号。甲26の10,乙10)
平成17年10月31日分割出願(第7世代)(特願2005-317
711号,特許第3995011号。甲1,2,20の2ないし4,2
6の11,35,乙11。本件特許)
(5)本件特許の請求項1は,次のとおりである。
基板上にn型及びp型に積層されてなる窒化ガリウム系化合物半導体から
なる発光素子と,
電極となる第1のメタル及び第2のメタルと,
前記発光素子を包囲する樹脂と,
前記発光素子からの青色の可視光に励起されて,励起波長よりも長波長の
可視光を発して前記発光素子の色補正をする,前記樹脂中に含有されてなる
蛍光染料又は蛍光顔料と,
前記窒化ガリウム系化合物半導体をエッチングしてn型層を表面に露出さ
せてn電極を付け,該n電極と前記第1のメタル及び第2のメタルの一方と
を電気的に接続させてなる金線と,を有する発光ダイオード。
(6)本件発明
本件特許の請求項1に係る発明((((以下以下以下以下「「「「本件発明本件発明本件発明本件発明」」」」というというというという。)。)。)。)を構成要件
に分説すると,次のとおりである。
A基板上にn型及びp型に積層されてなる窒化ガリウム系化合物半導体か
らなる発光素子と,
B電極となる第1のメタル及び第2のメタルと,
C前記発光素子を包囲する樹脂と,
D前記発光素子からの青色の可視光に励起されて,励起波長よりも長波長
の可視光を発して前記発光素子の色補正をする,前記樹脂中に含有されて
なる蛍光染料又は蛍光顔料と,
E前記窒化ガリウム系化合物半導体をエッチングしてn型層を表面に露出
させてn電極を付け,該n電極と前記第1のメタル及び第2のメタルの一
方とを電気的に接続させてなる金線と,
Fを有する発光ダイオード
(7)被告製品の構成
被告製品の構成は,以下のとおりである(弁論の全趣旨)。
(イ号物件)
a1SiC基板上にn型及びp型に積層されてなる,発光層がInGaN
である青色LEDチップと,
b1電極となる第1のメタル及び第2のメタルと,
c1前記青色LEDチップを包囲するシリコーン樹脂と,
d1前記青色LEDチップの447nm付近に発光ピークを有し,420
nm~490nm程度に広がる光の一部によって励起されて,励起波
長よりも長波長の緑色波長の可視光を出す前記シリコーン樹脂中に含
有されてなる緑色蛍光体,及び,前記青色LEDチップの447nm
付近に発光ピークを有し,420nm~490nm程度に広がる光の
一部によって励起されて,励起波長よりも長波長の赤色波長の可視光
を出す前記シリコーン樹脂中に含有されてなる赤色蛍光体であり,前
記緑色波長の可視光と前記赤色波長の可視光と前記青色LEDの発光
との混色によって,前記青色LEDチップの発光色を電球色に変化さ
せる緑色蛍光体及び赤色蛍光体と,
e1前記青色LEDチップをエッチングしてn型層を素面に露出させてn
電極を付け,該n電極と前記第1のメタルとを電気的に接続させてな
る金線と,
f1を有する発光ダイオード。
(ロ号物件)
a2SiC基板上にn型及びp型に積層されてなる,発光層がInGaN
である青色LEDチップと,
b2電極となる第1のメタル及び第2のメタルと,
c2前記青色LEDチップを包囲するシリコーン樹脂と,
d2前記青色LEDチップの453nm付近に発光ピークを有し,420
nm~500nm程度に広がる光の一部によって励起されて,励起波
長よりも長波長の緑色波長の可視光を出す前記シリコーン樹脂中に含
有されてなる緑色蛍光体,及び,前記青色LEDチップの453mm
付近に発光ピークを有し,420nm~500nm程度に広がる光の
一部によって励起されて,励起波長よりも長波長の赤色波長の可視光
を出す前記シリコーン樹脂中に含有されてなる赤色蛍光体であり,前
記緑色波長の可視光と前記赤色波長の可視光と前記青色LEDの発光
との混色によって,前記青色LEDチップの発光色を昼白色に変化さ
せる緑色蛍光体及び赤色蛍光体と,
e2前記青色LEDチップをエッチングしてn型層を素面に露出させてn
電極を付け,該n電極と前記第1のメタルとを電気的に接続させてな
る金線と,
f2を有する発光ダイオード。
(原告は,c1及びc2の「前記青色LEDチップ」につき「前記窒化ガリ
ウム系青色LEDチップ」,d1及びd2の「前記青色LEDチップの発光
色」につき「前記青色LEDチップからの発光色」とする特定を主張する
が,対比には影響しない。)
被告製品の構成要件B,C,E,F充足性
被告製品が,それぞれ本件発明の構成要件B,C,Eを充足すること,構
成要件Fにいう「発光ダイオード」であることは,被告及び補助参加人にお
いて明らかに争わない。
(9)仮処分
原告は,被告に対し,被告製品の譲渡等の仮の差止めを求める仮処分を申
し立て(当庁平成22年(ヨ)第22058号),当庁は,平成23年9月
16日,原告の申立てを認容する決定をした(甲27,乙22の1)。
被告は保全異議(当庁平成23年(モ)第40037号)及び保全執行停
止(当庁平成23年(モ)第40038号)を申し立て,当庁は,平成23
年11月18日,被告の保全執行停止申立てを却下した(乙22の2)が,
保全異議係属中に本件特許の存続期間が満了し,原告は仮処分申立てを取り
下げた(乙40・4,5頁)ため,上記仮処分決定は効力を有しない。
(10)無効審判
被告は,本件特許に分割要件違反に基づく新規性・進歩性欠如の無効理由
があるとして無効審判を請求し(無効2011-800191),特許庁
は,平成24年3月16日,請求不成立の審決をした(甲28)。
被告は,審決取消訴訟を提起し(知財高裁平成24年(行ケ)第1014
4号),知的財産高等裁判所は,平成25年2月27日,被告(審決取消訴
訟原告)の請求を棄却する判決をした(当裁判所に顕著)。
3争点
(1)構成要件Aの充足性(争点1)
(2)構成要件Dの充足性(争点2)
(3)分割要件違反に基づく新規性・進歩性欠如の有無(争点3)
(4)乙3に基づく進歩性欠如の有無(争点4)
(5)甲11に基づく重複特許の有無(争点5)
(6)損害(又は不当利得額)(争点6)
第3争点に関する当事者の主張
1争点1(構成要件Aの充足性)について
(原告の主張)
(1)構成要件Aの「窒化ガリウム系化合物半導体」は,「一般式GaXAl1
-XN(但しXは0≦X≦1である。)((((以下以下以下以下「「「「本件組成本件組成本件組成本件組成」」」」というというというという。)。)。)。)で表
される窒化ガリウム系化合物半導体」や「発光ピークが430nm付近及び
370nm付近にある窒化ガリウム系化合物半導体」に限定されず,特に組
成や発光波長に限定のない,ガリウム(Ga)の窒素(N)化合物からなる
半導体を意味する。
(2)被告製品における「発光層がInGaNである青色LEDチップ」は,
いずれも構成要件Aの「窒化ガリウム系化合物半導体」に当たる。
(被告の主張)
(1)当初明細書には,「本件組成で表される窒化ガリウム系化合物半導体」
「発光ピークが430nm付近及び370nm付近にある窒化ガリウム系化
合物半導体」のみ記載され,組成や発光波長に限定のない窒化ガリウム系化
合物半導体は記載されていなかった。
仮に本件特許に分割要件違反がないとすれば,構成要件Aの「窒化ガリウ
ム系化合物半導体」は,「本件組成で表される窒化ガリウム系化合物半導
体」又は「発光ピークが430nm付近及び370nm付近にある窒化ガリ
ウム系化合物半導体」でなければならない。
(2)被告製品における発光素子は,発光層がInGaNで表されるから「本
件組成で表される窒化ガリウム系化合物半導体」ではなく,またイ号物件の
発光素子の発光ピークは447nm付近に,ロ号物件の発光素子の発光ピー
クは453nm付近にあるから,「発光ピークが430nm付近及び370
nm付近にある窒化ガリウム系化合物半導体」でもない。
したがって,被告製品は構成要件Aを充足しない。
(補助参加人の主張)
(1)本件明細書の【発明が解決しようとする課題】(段落【0004】~
【0006】)は,「発光ピークが430nm付近及び370nm付近にあ
る窒化ガリウム系化合物半導体材料よりなる発光素子を有するLEDの視感
度を良くし,またその輝度を向上させること」である。
本件明細書の唯一の実施例は,「GaAlNがn型及びp型に積層されて
なる青色発光素子」に関する実施例であって(段落【0009】),その発
光波長は「主として430nm付近にあ」る(段落【0005】)。
加えて,当初明細書の【課題を解決するための手段】には,「本発明は,
ステム上に発光素子を有し,それを樹脂モールドで包囲してなる発光ダイオ
ードにおいて,前記発光素子が,一般式GaXAl1-XN(但しXは0≦X
≦1である。)で表される窒化ガリウム系化合物半導体よりなり」と明確に
記載されていた。当初明細書に引用された応用物理60巻2号の記載は,上
記一般式GaXAl1-XNのX=1の場合を述べたものにすぎない。
以上によれば,本件特許の構成要件Aの「窒化ガリウム系化合物半導体」
とは,「本件組成で表される窒化ガリウム系化合物半導体」を意味する。
これを「窒化ガリウム系化合物半導体」一般とすると,視感度の高い緑色
(発光ピーク約550nm)を発光する発光素子をも含んでしまうことにな
り,本件発明の目的と矛盾する。
(2)被告製品は,GaInNからなる発光素子であり,本件発明の目的外の
製品であって,構成要件Aを充足しない。
2争点2(構成要件Dの充足性)について
(原告の主張)
(1)構成要件Dにいう「色補正」とは,所望の発光色を基準に,これと現在
の発光色との差を修正して所望の発光色にするという意味であり,「発光色
を変えない程度の変換」,「青色波長の範囲内」には限定されない。
(2)被告製品の構成d1及びd2は,構成要件Dを充足する。
(被告の主張)
(1)本件明細書の「その発光素子の発光色を変換する目的で,あるいは色を
補正する目的で」(段落【0003】),「従来,樹脂モールドに着色剤を
添加して波長を変換するという技術はほとんど実用化されておらず,着色剤
により色補正する技術がわずかに使われているのみである。なぜなら,樹脂
モールドに,波長を変換できるほどの非発光物質である着色剤を添加する
と,LEDそのもの自体の輝度が大きく低下してしまうからである。(段落
【0004】)等の記載からすると,「色補正をする」ことは「発光色を変
換する」ことの対概念であり,構成要件Dにいう「色補正をする」の意義
は,「発光色を変えない程度の発光波長の変換」あるいは「青色波長の範囲
内における発光波長の変換」と解するほかない。
(2)イ号物件の蛍光体は,青色発光の一部を緑色又は赤色に波長変換し,青
色発光全体を電球色に波長変換するものであり,ロ号物件の蛍光体は,青色
発光の一部を緑色又は赤色に波長変換し,青色発光全体を昼白色に波長変換
するから,これらの変換は「発光色を変えない程度の発光波長の変換」や
「青色波長の範囲内における発光波長の変換」に当たらない。
したがって,被告製品は構成要件Dを充足しない。
(補助参加人の主張)
(1)被告も主張する,本件明細書の段落【0004】の記載によれば,本件
明細書では小さいレベルの色の変化である「色補正」と大きいレベルの色の
変化である「波長の変換」を異なる意味で用いている。加えて,本件明細書
に「青色LEDの色補正はいうにおよばず,蛍光染料,蛍光顔料の種類によ
って数々の波長の光を変換することができる。」(段落【0008】)とあ
ること,原告が,本件特許の最初の原出願に「白色光を得るという発想は
無」かったこと,本件明細書に「白色光が発光可能」の開示がないことを自
認していること(乙36)などからしても,「色補正」とは,「ある色」の
範囲内での(例えば,青色の範囲内での)種々の色の変化をいい,「ある
色」の範囲を超えた,別の色(例えば,白色)への変化(「数々の波長の光
の変換」)を含まない。
(2)被告製品は,構成要件Dを充足しない。
3争点3(分割要件違反に基づく新規性・進歩性欠如の有無)について
(被告の主張)
(1)本件特許出願は,本件最初の原出願から第1世代から第7世代までの7
回の分割を経た後の分割出願であるところ,本件最初の原出願に対する本件
第1分割出願(乙5,甲11の1・2)は,その請求項1において,本件最
初の原出願で「一般式がGaxAl1-xN(但しXは0≦X≦1である。)
で表される窒化ガリウム系化合物半導体」よりなるとされていた発光素子
が,単に「窒化ガリウム系化合物半導体」を備えるとされている。
当初明細書には,「本件組成で表される窒化ガリウム系化合物半導体」あ
るいは「発光ピークが430nm付近及び370nm付近にある窒化ガリウ
ム系化合物半導体」だけが記載され,それ以外の窒化ガリウム系化合物半導
体は記載されていなかったのであるから,第1世代の分割出願において「本
件組成で表される窒化ガリウム系化合物半導体」を「窒化ガリウム系化合物
半導体」に変更したことは,「発明の構成に関する技術的事項」の実質的変
更に当たり,当初明細書の記載の範囲内で分割されたものではない。
(2)本件第1分割出願は,本件最初の原出願に対して新規事項を追加したも
ので分割要件に違反するから,その出願日は本件最初の原出願の出願日まで
遡及せず,現に出願された平成9年10月20日である。
したがって,本件第1分割出願から6世代後の分割出願である本件特許出
願についても,その出願日が本件最初の原出願の出願日まで遡及することは
なく,最先でも平成9年10月20日まで遡及するにすぎない。
(3)本件特許出願の出願日前に頒布された特開平5-152609号公報
(乙1)には,以下の発明((((以下以下以下以下「「「「乙乙乙乙1111発明発明発明発明」」」」というというというという。)。)。)。)が記載されてい
る。
A1サファイア基板上にGaAlNがn型及びp型に積層されてなる一般
式GaXAl1-XN(但しXは0≦X≦1である)で表される窒化ガリウム
系化合物半導体からなる青色発光素子11と,
B1電極となるメタルポスト2(第1のメタル)及びメタルステム3(第
2のメタル)と,
C1青色発光素子11を包囲する樹脂モールド4と,
D1青色発光素子11からの青色の可視光に励起されて,励起波長よりも
長波長の可視光を発して青色発光素子11の色補正をする,樹脂モールド
4中に含有されてなる蛍光染料又は蛍光顔料と,
E1前記窒化ガリウム系化合物半導体をエッチングしてn型層を表面に露
出させてn電極を付け,該n電極とメタルポスト2及びメタルステム3の
一方とを電気的に接続させてなる金線と,
F1を有する発光ダイオード。
(4)本件発明の構成要件B,C,D,E,Fは,乙1発明の構成要件B1,
C1,D1,E1,F1に相当する。本件発明と乙1発明は,乙1発明が窒
化ガリウム系化合物半導体を本件組成で表されるものに限定しているのに対
し,本件発明はそのような限定がない点で相違する。
本件発明は,乙1発明の上位概念の発明であるから,新規性を有しない。
仮に,新規性が否定されない場合であっても,窒化ガリウム系化合物半導体
がGaAlNに限られないとしただけの本件発明は,乙1発明に基づいて当
業者が容易に発明をすることができたものであるから,進歩性を有しない。
(原告の主張)
当初明細書の段落【0005】【0006】【0009】には,本件組成の
限定のない「GaN」(窒化ガリウム系化合物半導体)について記載がされて
いる。
本件第1分割出願は,当初明細書に記載した事項の範囲内のものであり,分
割要件違反はない。
4争点4(乙3に基づく進歩性欠如の有無)について
(被告の主張)
(1)1974年6月25日に発行された米国特許文献である米国特許第38
19974号公報(乙3)には,以下の発明((((以下以下以下以下「「「「乙乙乙乙3333発明発明発明発明」」」」というというというという。)。)。)。)
が記載されているとともに,これが「人間の視感度の高いスペクトル領域の
光を発光するのにも適している」ことが記載されている。
A2基板上にn型及びi型に積層されてなる窒化ガリウム系化合物半導体か
らなる発光素子と,
D2前記発光素子からの青色の可視光に励起されて,励起波長よりも長波長
の可視光を発する蛍光体と,
E2前記窒化ガリウム系化合物半導体のn型層を表面に露出させてn電極を
付け,該n電極と電極とを電気的に接続させてなる導線と,
F2を有する発光ダイオード
(2)本件発明と乙3発明との間には,以下の相違点がある。
①乙3発明では発光素子がMIS接合型であるのに対し,本件発明ではp
n接合型である点(相違点①)
②乙3発明では導線の接続先である電極が明記されていないのに対し,本
件発明では金線の接続先である第1のメタル及び第2のメタル(電極)が
明記されている点(相違点②)
③乙3発明では蛍光体の配設態様が特定されていないのに対し,本件発明
では蛍光染料又は蛍光顔料(蛍光体)が発光素子を包囲する樹脂中に含有
されている点(相違点③)
④乙3発明ではn型層の露出方法が特定されていないのに対し,本件発明
ではその方法がエッチングとされている点(相違点④)
なお,本件明細書の段落【0009】に「発光素子11の裏面はサファ
イヤ絶縁基板であり」と記載されているところから,本件発明でn型層が
露出する「表面」とは,「基板とは反対側の面」を意味し,乙3発明にお
いてもn型層は基板と反対側の面に露出するから,n型層を表面に露出す
る点は相違点ではない。
(3)相違点①(発光素子の接合型に関する相違点)について
pn接合素子を発光ダイオードに用いることについては,「応用物理」
(乙15),特開平2-177577号公報(乙27),特開平3-203
388号公報(乙28)等の相当多数の公知文献が存在していたのであるか
ら,少なくとも周知技術であったといえる。
pn接合素子を発光ダイオードに用いることは技術常識,技術水準であっ
たから,当業者にとって,乙3の発光ダイオードにおける発光素子をpn接
合素子とすることは,通常の創作能力の発揮にほかならず,乙3のMIS型
をpn接合型に変えようとする動機は十分に存在した。
仮に,pn接合素子を発光ダイオードに用いることが周知技術といえなか
ったとしても,原告が「GaNはp型化が困難であったという事情のため,
一般的な半導体を用いた発光ダイオードとは異なり,窒化ガリウム系化合物
半導体では,pn接合型ではなく,p型半導体を使わないMIS型(min
構造とも称される)と呼ばれる方式が検討されていた」(準備書面(原告そ
の1)24頁)というように,MIS接合型はpn接合型の代わりに消極的
に用いられていたのであるから,当業者が,事業化レベル(工業的量産化レ
ベル)ではなく技術的思想の創作レベルで,pn接合型の発光素子を乙3の
発光ダイオードに適用することには,強い動機があったといえる。
したがって,相違点①に係る構成の容易想到性は明らかである。
(4)相違点②(電気的接続の取り方に関する相違点)について
ア発光ダイオード(のみならず,電源供給を要する全ての電子部品等)に
電極は必須であり,乙3の発光ダイオードも,導線の接続先に電極を有す
ることは明らかである(乙3に接した当業者が,その導線の先に電極が存
しないと考えることなどあり得ない。)。
この点は,実開平3-67448号公報(乙29)において,「金属細
線19」及び「第2の金属層14」として,導線が電源側の2つの金属製
電極に電気的に接続されることが示されているからも明らかである。
原告は,乙3のリード19が本件発明のメタルポスト3に該当すると主
張するが,導線が電極に相当することはなく,乙3のリード19は本件発
明の金線に相当する。
イ半導体素子の実装(ワイヤボンディング)において,導線(ワイヤ)と
して金(Au)が用いられるのは一般的である(乙33ないし35)。
ウしたがって,相違点②は実質的な相違点とはいえない。
(5)相違点③(蛍光体の配設態様に関する相違点)について
発光素子を包囲する樹脂を設け,その中に蛍光体を含有させることは,周
知・慣用技術で,技術水準を構成するものであった(乙30,31)。本件
明細書(甲2)にも,従来技術として,発光素子を包囲する樹脂を設け,そ
の樹脂中に色補正をする材料を入れる技術が記載されている。
乙3発明においても,蛍光体が発光素子を包囲する樹脂中に含有されてい
ることが想定されており,相違点③は実質的な相違点とはいえない。
(6)相違点④(n型層の露出に関する相違点)について
半導体の製造プロセスにおいて,薄膜の除去がエッチングにより行われる
ことは一般的であるから(乙28,32,33),相違点④は実質的な相違
点とはいえない。
(7)以上のとおり,相違点①ないし④は周知・慣用技術の付加としか評価し
得ず,青色の可視光の視感度を良くするという本件発明の効果も,乙3発明
により既に達成されている。
よって,本件発明は,乙3発明に基づいて,当業者が容易に発明すること
ができたものである。
(原告の主張)
(1)本件発明と乙3発明の技術思想の違いについて
乙3発明の目的は,あくまで紫色発光が可能なMIS型発光ダイオードを
実現することにあり,その紫色発光ダイオードを蛍光体の励起源として使う
ことは記載されていても,発光ダイオードの内部(発光素子を被う樹脂中)
に蛍光体を導入して発光ダイオード自身の発光色を変えるという思想は示さ
れていない。もともと赤,緑,青色という3原色の全てがMIS型発光ダイ
オードによって発光可能であるという認識のもとに乙3は記載されているか
ら,それを短波長化して紫色発光ダイオードを実現した後,その紫色発光ダ
イオードの内部に蛍光体を入れて長波長化し,再び赤,緑,青色発光ダイオ
ードに戻す,という迂遠なことを乙3が提案しているはずがない。
これに対して本件発明は,MIS型ではなく,pn接合型の窒化ガリウム
系化合物半導体発光ダイオードにおいては視感度の悪い短波長の発光しか実
現できていないとの認識の下,発光ダイオードの内部に蛍光体を入れて発光
ダイオード自身の発光波長を長波長化し,発光ダイオードの発光する色を変
えること(色補正)を目的とするものであり,乙3発明とは基本的な技術思
想が異なる。
(2)本件発明と乙3発明には,以下の相違点がある(乙3では,発光素子か
ら紫色の発光が得られると記載されているが,この紫色の発光が,本件発明
の「青色」に該当し得ることは争わない。)。
i本件発明では,「基板上にn型及びp型に積層されてなる窒化ガリウム系
化合物半導体からなる発光素子」(=pn接合型発光素子)を有するのに対
し,乙3発明では,「基板上にn型及びi型に積層されてなる窒化ガリウム
系化合物半導体からなる発光素子」(=MIS接合型発光素子)を有する点
(相違点i)
ii本件発明では,「前記窒化ガリウム系化合物半導体をエッチングしてn
型層を表面に露出させてn電極を付け」ているのに対し,乙3発明では,
「前記窒化ガリウム系化合物半導体を除去してn型層を裏面に露出させて
n電極を付け」る点(相違点ii)
ここでいう「表面」及び「裏面」とは,それぞれ「発光ダイオードにお
いて発光面となる側の面」及び「他の部材等に実装される側の面」を意味
する。
iii本件発明では,「該n電極と前記第1のメタル及び第2のメタルの一方と
を電気的に接続させてなる金線」を有するのに対し,乙3発明では,「該n
電極とリード19を直接接続した」点(相違点iii)
iv本件発明では,発光素子を包囲する樹脂を有し,蛍光染料及び蛍光顔料が
樹脂中に含有されているのに対し,乙3発明には,発光素子を包囲する樹脂
がなく,蛍光体の位置が特定されていない点(相違点iv)
(3)相違点i(発光素子の接合型に関する相違点)について
本件最初の原出願がされた1991年当時において,名古屋大学の天野等
の発表した低エネルギー電子線照射によるp型化しか世の中には知られてい
なかったところ,低エネルギー電子線照射によるp型化は,スポット径が数
10μmの電子ビームをウエーハ全面にスキャンしながら照射する必要があ
るため,ウエーハを面内方向と深さ方向を均一にp型化することが難しく,
また発光出力も低いという問題があった。また,処理時間が非常に長く,工
業的な量産に向いた技術ではなかった。このため,GaNのp型化は可能で
はあるものの,それを使ってpn接合型の発光ダイオードを量産することは
容易ではなかった。乙15,27,28は,いずれも,1991年当時,G
aNのpn接合型が「周知慣用技術」であることを示すものではない。
乙3発明において,その技術的特徴ともいうべきMIS型発光素子を全く
別の発光原理により発光するpn接合型のGaN系化合物半導体発光素子に
置き換えることは,乙3発明の技術的特徴それ自体を没却する大幅な変更を
伴うから,当業者であっても,なんの動機付けもなくこのような変更を行う
はずがない。しかるところ,1991年当時において,pn接合型のGaN
系化合物半導体発光ダイオードが試作レベルで実現されていたにすぎない状
況を考慮すれば,乙3発明の技術的特徴それ自体を変えてまで,試作レベル
でしかないpn接合型を適用する積極的な動機があったといえないことは明
らかである。
(4)相違点ii(n型層の露出に関する相違点)について
乙3には,「窒化ガリウム系化合物半導体層」であるi型層を一部除去し
てインジウム接触(IndiumContact)を形成してもよい旨の記載はあるが
(乙3,甲36),その教示に従って「窒化ガリウム系化合物半導体」であ
るi型層(=i-GaN:Mg)を除去してn型層(n-GaN)を露出さ
せたとしても,発光素子の「裏面」(=実装面)にn型層が露出するだけ
で,「表面」(=発光面)に露出することはない。
このような素子の実装形態が乙3発明において採用されているのは,乙3
発明がMIS型発光ダイオードだからである。MIS型では,i型層の電極
から離れて横方向に電流が流れないため,i型層に形成した電極の直下での
み発光が起きる。したがって,電極側から発光を取りだそうとしても全て遮
られてしまうため,乙3の図3のように,基板側を素子の表面(=発光面)
にしてパッケージに実装しなければならない。一方,本件発明における「前
記窒化ガリウム系化合物半導体をエッチングしてn型層を表面に露出させて
n電極を付け」との要件は,電極側を発光素子の表面(=発光面)にして実
装することを意味している。したがって,乙3において「前記窒化ガリウム
系化合物半導体をエッチングしてn型層を表面に露出させてn電極を付け」
との構成を採用すること(すなわち,電極側を発光素子の表面にして実装す
ること)には阻害要因がある。
(5)相違点iii(電気的接続の取り方に関する相違点)について
ア本件発明において,「第1のメタル及び第2のメタル」は明細書から明
らかなとおり,本件明細書の図2のメタルステム2とメタルポスト3を指
している(なお,本件明細書の段落【0009】の「メタルステム2」は
「メタルポスト3」の,「メタルポスト3」は「メタルポスト2」の,そ
れぞれ明白な誤記である。)。そして,本件明細書の図2と乙3の第3図
を対比すれば,本件のメタルステム(=第1のメタル及び第2のメタルの
いずれか一方)に対応するのは,リード21と金属ホルダ18の一部であ
り,メタルポスト3(=第1のメタル及び第2のメタルの他方)に対応す
るのはリード19である。また,リード21と金属ホルダ,およびリード
19はいずれも,第3図において外部に延出し,外部の電源と接続され
て,MIS型の発光素子に外部から電流を供給することを可能にする部材
であるから,これらが第3図の発光ダイオードの「電極」として機能し得
ることはいうまでもない。
本件発明の「n電極」はn型層に直接付けられた電極を指すところ,そ
れに対応するのは,乙3のn-GaN層に接続された「インジウム接触
(INDIUMCONTACT)」である。乙3において,n電極に相当する「インジ
ウム接触(INDIUMCONTACT)」と第1又は第2のメタルに相当する「リー
ド19」とは直接接続されているので,本件発明の「該n電極と前記第1
のメタル及び第2のメタルの一方とを電気的に接続されてなる金線」は乙
3にはない。
イこれは乙3発明がMIS型であるからである。MIS型では,i型層を
横方向に電流が流れないため,n電極とi層が接触しても電気的なショー
トが起きない。したがって,n電極である「インジウム接触」の位置や大き
さを厳密に制御する必要がなく,「インジウム接触」をハンダ付のような大
きさに形成して太い導線19を直接固定することができる。
本件発明のように金線を使ってn電極とメタルを接続するのは,電気的
ショート防止のために,n電極とそこに接続する導電部材の大きさと位置
を極めて正確に制御する必要があるからである。しかし,乙3のようなM
IS型では,電気的ショートがそもそも問題とならないため,わざわざ高
価な「金線」を使用して「該n電極と前記第1のメタル及び第2のメタルの
一方とを電気的に接続」する積極的な動機がない。
(6)相違点iv(蛍光体の配設態様に関する相違点)について
ア乙3には,そもそも発光素子を包囲する樹脂がない。
乙3発明では,発光素子を樹脂によって包囲する代わりに,金属ホルダ
18内に収納しているから,乙3発明の発光ダイオードに蛍光体を配置す
るとすれば,例えば,金属ホルダ18の上に透明板を設置して,その透明
板に蛍光体層を形成するような構成が自然である。
イ乙3において,蛍光体を金属ホルダ18の中に配置することも可能では
あるが,蛍光体が発光素子の近くに存在すると,発光素子からの光や熱に
よる蛍光体の劣化は早く進む。特に,本件発明や乙3発明におけるGaN
系半導体は短波長の紫色光を発光するため,赤外光や黄色光や赤色光に比
べて光のエネルギーが高い。このため,乙3発明では,蛍光体を発光素子
の至近に配置すると蛍光体の劣化が早く進むであろうことは当業者に自明
であり,乙3発明では蛍光体を発光素子から離す動機があったと言える。
ウさらに言えば,乙3発明の目的は,あくまで紫色発光が可能なMIS型
発光ダイオードを実現することにあり,その紫色発光ダイオードを蛍光体
の励起源として使うことは記載されていても,発光ダイオードの内部に蛍
光体を導入して発光ダイオード自身の発光色を変えるという思想は示され
ていない。したがって,乙3発明には,そもそも,蛍光体を備えた発光ダ
イオードが開示されていない,とさえいえる。
1991年当時に存在した蛍光染料または蛍光顔料を用いる技術として
は,ブラウン管および蛍光灯のように,励起源と蛍光染料または蛍光顔料
とが必ずしも近接していないものが通常であったのであり,発光素子,特
にエネルギーが大きい短波長の光を発光する発光素子からの光を,蛍光染
料または蛍光顔料によって波長変換するにあたり,発光素子を包囲する樹
脂中に蛍光染料等を含有させる構成が1991年当時において周知・慣用
されていたなどとはいえない。まして,蛍光染料または蛍光顔料を発光素
子の周囲に配置することにより,青色光の金線による吸収を減らし,もっ
て発光素子の発光効率を高くするなどという思想が存在していたはずがな
い。
したがって,乙3の発光ダイオードにおいて発光素子を樹脂で包囲する
動機があったとしても,樹脂中に,短波長の光により励起されて長波長の
可視光を発する蛍光染料または蛍光顔料を樹脂中に含有させることまでも
が,当業者にとって当然の選択であるとはいえず,蛍光体の位置が特定さ
れていない乙3発明において,発光素子を樹脂で包囲し,さらに樹脂に蛍
光染料または蛍光顔料を含有させるという構成を想到することが容易であ
ったとはいえない。
(7)相違点iないしivは互いに有機的に関連して,乙3には記載も示唆もな
い技術的効果を奏すること
相違点iないしiv,いずれも乙3発明から容易に導かれると言えないもの
であるが,さらに言えば,本件発明では,相違点iないしivが互いに有機的
に関連して,発光素子の安定した固定が可能になると共に,pn接合型の発
光素子からの青色光の金線による吸収を減らし,発光強度の低下を抑制す
る,という,乙3には記載も示唆もない技術的な効果が得られる。
5争点5(甲11に基づく重複特許の有無)について
(被告の主張)
(1)原告は,「色補正をする」と「視感度を良くする」を同義と捉えている
ようである。
そうであれば,本件発明は,以下の特許番号2900928号の特許(甲
11の1。出願日:平成3年11月25日)の請求項1の発明(甲11の2
による訂正後のもの。以下以下以下以下「「「「甲甲甲甲11111111発明発明発明発明」」」」というというというという。。。。)と実質的に同一であ
る。
甲11発明を分説すると,以下のとおりである。
A3メタル上の発光素子(11)と,
B3この発光素子(11)全体を包囲する樹脂モールド中に発光素子(1
1)からの波長により励起されて,励起波長と異なる波長の蛍光を出す蛍
光染料又は蛍光顔料が添加された発光ダイオードにおいて,
C3前記蛍光染料又は蛍光顔料(5)は,発光素子からの可視光により励
起されて,励起波長よりも長波長の可視光を出して発光ダイオードの視感
度を良くすると共に,
D3前記発光素子はサファイア基板上に青色の可視光を発光するn型およ
びp型に積層されてなる窒化ガリウム系化合物半導体を備え,
E3この窒化ガリウム系化合物半導体からなる発光素子(11)は,メタ
ルに対向する面の反対側に位置する同一面側に,一対の電極を金線により
ワイヤボンドして接続しており,一方の電極はn型窒化ガリウム系化合物
半導体の表面を露出させた部分に接続されたオーミック電極であること
F3を特徴とする発光ダイオード。
(2)本件発明の構成要件Aは,甲11発明の構成要件D3と同一であり,構
成要件Bは,構成要件E3の「一対の電極」と同一であり,構成要件Cの
「樹脂」は,構成要件B3の「樹脂モールド」と同一であり,構成要件Dの
「蛍光染料又は蛍光顔料」は,構成要件B3及びC3の「蛍光染料又は蛍光
顔料」と同一であり(構成要件Dの「色補正をする」は,上記のように,構
成要件C3の「視感度を良くする」と同義である。),構成要件Eの「n電
極」は,構成要件E3の「オーミック電極」と同一であり,構成要件Eの
「金線」は,構成要件E3の「金線」と同一であり,構成要件Fの「発光ダ
イオード」は,構成要件F3の「発光ダイオード」と同一である。
(3)よって,本件発明は,甲11発明と実質的に同一であるから,特許法3
9条1項(本件特許について分割要件違反により出願日が遡及しない場合)
又は2項(本件特許について出願日が遡及する場合)の規定により特許を受
けることができないものであり,本件特許は同法第123条1項2号に該当
して特許無効審判により無効とされるべきものである。
(原告の主張)
(1)「色補正をする」とは,所望の発光色を基準として,これと現在の発光
色との差を修正して所望の発光色にするという意味である一方,「視感度を
良くする」における「視感度」とは,人間の視覚における,明るさに対する
感覚のことであり,両者は技術的な概念が全く異なっており,その結果,本
件発明と甲11発明とでは,技術的思想が異なり,権利範囲も全く異なって
いる。
例えば,甲11発明のように視感度を問題とする場合であれば,450n
mの発光を700nmの発光に変換してしまえば「視感度」が悪化すること
になるから,甲11発明の権利範囲には含まれないが,この場合であっても
発光色は「青色」から「赤色」に変化している(現在の発光色である「青
色」が「赤色」という所望の色に修正されている)から,「色補正」には含
まれることとなり,本件発明の権利範囲には含まれる。
したがって,本件発明における「色補正をする」と,甲11発明における
「視感度を良くする」とは技術的意義が異なっており,本件発明と甲11発
明とが実質的に同一とはいえない。
(2)さらに,本件発明と甲11発明を対比すると,「色補正をする」か「視
感度を良くする」か以外にも,少なくとも以下の相違点がある。
①甲11発明では,「メタル上の発光素子」との限定がある(構成要件A
3)のに対して,本件発明では,発光素子とメタルの位置関係は限定され
ていない(構成要件A)点。
②甲11発明では,「サファイア基板」に限定されている(構成要件D
3)のに対して,本件発明では「基板」とだけ特定されている(構成要件
A)点。
③甲11発明では,「メタルに対抗する面の反対側に位置する同一面側
に,一対の電極を金線によりワイヤボンド接続しており,一方の電極はn
型窒化ガリウム系化合物半導体の表面を露出させた部分に接続されたオー
ミック電極である」(構成要件E3)とされ,p,n両方の電極に金線を
接続することが要件であるのに対し,本件発明では,「前記窒化ガリウム
系化合物半導体をエッチングしてn型層を表面に露出させてn電極をつ
け,該n電極と第1のメタル及び第2のメタルの一方とを電気的に接続さ
せてなる金線」(構成要件E)とされ,n側電極に金線を接続することの
みが要件である点。
6争点6(損害(又は不当利得額))について
(原告の主張)
(1)被告製品の売上は年間約1億円を下回らないので,平成19年8月10
日(本件特許登録日)から平成23年10月6日(訴状提出日)までの売上
げの合計は,4億円を下らない。
原告は,特許法102条3項に基づき,本件発明の実施に対し受けるべき
金銭の額に相当する額について,自己が受けた損害の額として賠償を請求す
ることができるところ,本件特許発明の実施に対し受けるべき金銭の額は,
少なくとも被告製品の販売額の5%に相当する2000万円を下らない。し
たがって,原告は,被告に対し,特許権侵害の不法行為に基づく同額の損害
賠償請求権を有する。
(2)また,原告は,被告による特許権侵害行為により,本件特許発明の実施
により通常受けるべき実施料を受けられなかった損失を被っている反面,被
告は通常支払うべき実施料の支払いを免れたという利得を得ており,この利
得・損失の額は,上記の損害額と同額である。したがって,原告は,被告に
対し,同額の不当利得返還請求権を有する。
(3)よって,原告は,被告に対し,損害賠償請求又は不当利得返還請求とし
て,2000万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成23年1
0月19日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支
払を求める。
(被告の主張)
争う。
第4当裁判所の判断
1争点1(構成要件Aの充足性)について
(1)被告及び補助参加人は,構成要件Aの「窒化ガリウム系化合物半導体」
は,「本件組成で表される窒化ガリウム系化合物半導体」に限定すべきであ
る,あるいは,「発光ピークが430nm付近及び370nm付近にある窒
化ガリウム系化合物半導体」に限定すべきであると主張する。
(2)しかし,本件発明の「特許請求の範囲」には,組成に特段の限定のない
「窒化ガリウム系化合物半導体」とのみ記載され,その意義は「ガリウム
(Ga)の窒素(N)化合物からなる半導体」を意味するものとして明確で
ある(発光波長についても,構成要件Dで「青色の可視光」を発光するもの
とされているが,それ以上に発光ピークを限定する文言はない。)。
(3)構成要件Aの「窒化ガリウム系化合物半導体からなる発光素子」の解釈
に関して本件明細書の記載を検討すると,本件明細書には,以下のとおりの
記載がある(下線部は強調のため裁判所で付した。以下同じ)。
ア「現在,LEDとして実用化されているのは,赤外,赤,黄色,緑色発
光のLEDであり,青色または紫外のLEDは未だ実用化されていない。
青色,紫外発光の発光素子はII-VI族のZnSe,IV-IV族のSiC,III-
V族のGaN等の半導体材料を用いて研究が進められ,最近,その中でも
一般式がGaxAl1-xN(但しXは0≦X≦1である。)で表される窒
化ガリウム系化合物半導体が,常温で,比較的優れた発光を示すことが発
表され注目されている。また,窒化ガリウム系化合物半導体を用いて,初
めてpn接合を実現したLEDが発表されている(応用物理,60巻,2
号,p163~p166,1991)。それによるとpn接合の窒化ガリ
ウム系化合物半導体を有するLEDの発光波長は,主として430nm付
近にあり,さらに370nm付近の紫外域にも発光ピークを有している。
その波長は上記半導体材料の中で最も短い波長である。しかし,そのLE
Dは発光波長が示すように紫色に近い発光色を有しているため視感度が悪
いという欠点がある。」(段落【0005】)
イ「本発明はこのような事情を鑑みなされたもので,その目的とするとこ
ろは,発光ピークが430nm付近,および370nm付近にある窒化ガ
リウム系化合物半導体材料よりなる発光素子を有するLEDの視感度を良
くし,またその輝度を向上させることにある。」(段落【0006】)
ウ「本発明は……窒化ガリウム系化合物半導体である発光素子と……を有
することを特徴とする発光ダイオードである。」(段落【0007】)。
エ「前記したように窒化ガリウム系化合物半導体はLEDに使用される半
導体材料中で最も短波長側にその発光ピークを有するものであり,しかも
紫外域にも発光ピークを有している。そのためそれを発光素子の材料とし
て使用した場合,その発光素子を包囲する樹脂モールドに蛍光染料,蛍光
顔料を添加することにより,最も好適にそれら蛍光物質を励起することが
できる。」(段落【0008】)
オ「図2は本発明のLEDの構造を示す一実施例である。11はサファイ
ア基板の上にGaAlNがn型およびp型に積層されてなる青色発光素子
……である。」(段落【0009】)
(4)本件特許に分割要件違反がないことは後記のとおりであるが,適法に分
割がなされた以上,分割後の明細書の用語の意味は当業者の理解する普通の
意味に従って理解すれば十分であり,分割前の原出願の明細書の記載を参酌
して理解しなければならないものではない。
本件明細書の記載を当業者の理解する普通の意味に従って読めば,本件明
細書の段落【0005】や【0006】に記載された「一般式がGaxAl
1-xN(但しXは0≦X≦1である。)で表される窒化ガリウム系化合物半
導体」や「発光ピークが430nm付近および370nm付近にある窒化ガ
リウム系化合物半導体」は,単なる例示あるいは発明の動機付けとなった素
材を示すものにすぎず,本件発明自体は組成や発光ピークの限定のないもの
として出願されていることを明確に読み取ることができるというべきであ
る。
(5)本件発明の課題や作用効果との関係において,「窒化ガリウム系化合物
半導体」との要件の有する技術的意義について考えてみても,「窒化ガリウ
ム系化合物半導体」は,短波長の光(紫色に近い青色)を発光するため視感
度が悪く,また着色剤を大量に添加すると輝度が低下する,という課題を抱
えており(段落【0004】【0005】),その課題を解決するために,
本件発明は,「窒化ガリウム系化合物半導体」からなる発光素子からの光を
蛍光染料又は蛍光顔料により長波長に色補正することによって,輝度を低下
させることなく視感度を良くする,という効果を奏することに意義があるの
であって(段落【0007】【0008】),具体的な組成がどのようなも
のであり,発光波長が具体的にどのような範囲にあるかは特段の意義を有さ
ないというべきである。
(6)本件最初の原出願から本件特許出願に至る出願や分割の経過,関連する
無効審判における原告の主張を精査しても,原告が本件発明における「窒化
ガリウム系化合物半導体」の意義を限定した形跡は見当たらず,出願経過等
から「窒化ガリウム系化合物半導体」の意義を限定解釈すべき根拠もない。
(7)以上によれば,本件発明の構成要件Aの「窒化ガリウム系化合物半導
体」の意義は,特に組成や発光ピークに限定のない「ガリウム(Ga)の窒
素(N)化合物からなる半導体」一般と解するのが相当である。
(8)被告製品の発光素子は,いずれもSiC基板上にn型及びp型に積層さ
れてなる,発光層がInGaN(窒化インジウムガリウム)である青色LE
Dチップであり,「窒化ガリウム系化合物半導体」からなる発光素子である
から,構成要件Aを充足する。
2争点2(構成要件D充足性)について
(1)本件発明に係る【特許請求の範囲】【請求項1】の記載によると,構成
要件Dにおける蛍光染料又は蛍光顔料は「発光素子からの青色の可視光に励
起されて,励起波長よりも長波長の可視光を発して前記発光素子の色補正を
する」と記載され,「色補正」が,「発光素子からの青色の可視光に励起さ
れて,励起波長よりも長波長の可視光を発して」なす行為であることは記載
されているが,それ以上に「色補正」を定義した記載はない。
(2)そこで,構成要件Dの「色補正」の解釈に関して本件明細書の記載を検
討すると,本件明細書には,以下のとおりの記載がある。
ア「通常,樹脂モールド4は,発光素子の発光を空気中に効率よく放出す
る目的で,屈折率が高く,かつ透明度の高い樹脂が選択されるが,他に,
その発光素子の発光色を変換する目的で,あるいは色を補正する目的で,
その樹脂モールド4の中に着色剤として無機顔料,または有機顔料が混入
される場合がある。例えば,GaPの半導体材料を有する緑色発光素子の
樹脂モールド中に,赤色顔料を添加すれば発光色は白色とすることができ
る。」(段落【0003】)
イ「しかしながら,従来,樹脂モールドに着色剤を添加して波長を変換す
るという技術はほとんど実用化されておらず,着色剤により色補正する技
術がわずかに使われているのみである。なぜなら,樹脂モールドに,波長
を変換できるほどの非発光物質である着色剤を添加すると,LEDそのも
の自体の輝度が大きく低下してしまうからである。」(段落【000
4】)
ウ「本発明は……青色を発光する発光素子からの第1の可視光により励起
されて,励起波長よりも長波長の第2の可視光を出して発光ダイオードの
視感度を良くする蛍光顔料を有することを特徴とする発光ダイオードであ
る。またn型及びp型に積層された窒化ガリウム系化合物半導体である発
光素子からの光を変換する蛍光染料又は蛍光顔料が添加された波長変換発
光ダイオード用樹脂において,前記波長変換発光ダイオード用樹脂は,前
記発光素子が配設されている凹状部分内に配置しており,前記波長変換発
光ダイオード用樹脂中の蛍光染料又は蛍光顔料は,発光素子からの青色の
可視光により励起されて,励起波長よりも長波長の可視光を出して発光ダ
イオードの視感度を良くして成ることを特徴とする蛍光染料又は蛍光顔料
が添加された波長変換発光ダイオード用樹脂である。」(段落【000
7】)
エ「蛍光染料,蛍光顔料は,一般に短波長の光によって励起され,励起波
長よりも長波長光を発光する。逆に長波長の光によって励起されて短波長
の光を発光する蛍光顔料もあるが,それはエネルギー効率が非常に悪く微
弱にしか発光しない。前記したように窒化ガリウム系化合物半導体はLE
Dに使用される半導体材料中で最も短波長側にその発光ピークを有するも
のであり,しかも紫外域にも発光ピークを有している。そのためそれを発
光素子の材料として使用した場合,その発光素子を包囲する樹脂モールド
に蛍光染料,蛍光顔料を添加することにより,最も好適にそれら蛍光物質
を励起することができる。したがって,青色LEDの色補正はいうにおよ
ばず,蛍光染料,蛍光顔料の種類によって数々の波長の光を変換すること
ができる。さらに,短波長の光を長波長に変え,エネルギー効率がよい
為,添加する蛍光染料,蛍光顔料が微量で済み,輝度の低下の点からも非
常に好都合である。」(段落【0008】)
オ「樹脂モールド4には420~440nm付近の波長によって励起され
て480nmに発光ピークを有する波長を発光する蛍光染料5が添加され
ている。」(段落【0009】)
(3)本件明細書において本件発明の内容を説明した段落【0007】では,
構成要件Dの「色補正をする」に対応するものとして,「青色を発光する発
光素子からの第1の可視光により励起されて,励起波長よりも長波長の第2
の可視光を出して発光ダイオードの視感度を良くする」,「発光素子からの
光を変換する」,「発光素子からの青色の可視光により励起されて,励起波
長よりも長波長の可視光を出して発光ダイオードの視感度を良くして成る」
などの語が使用されており,「色補正」とは,これらの説明と類似の概念で
あると理解することができる。
本件明細書にはそれ以上に「色補正」を定義した記載はなく,段落【00
04】【0008】の記載を含め,「色補正」を「発光色を変えない程度の
波長変換」であるとか「同じ色(青色)の範囲内での波長変換」であるとか
読み取れるような記載は存在しない。
(4)広辞苑(第5版)によれば,「補正」とは,「おぎないただすこと」で
あり(甲17の2),現在の状態を所望の状態に修正するといった意味を有
するのであるから,構成要件Dにいう「色補正をする」とは,「所望の発光
色を基準に,これと現在の発光色との差を修正して所望の発光色にする」と
いう意味と解するのが相当である。
上記解釈を覆して,構成要件Dにおける「色補正」を「発光色を変えない
程度の波長変換」であるとか「同じ色(青色)の範囲内での波長変換」であ
るとか限定すべき根拠はない。
(5)本件発明の課題や作用効果との関係において,「色補正」との要件の有
する技術的意義について考えてみても,「輝度を低下させることなく視感度
を良くする」という効果は「発光色を変えない程度の波長変換」や「同じ色
(青色)の範囲内での波長変換」に限られるものではないから,「色補正」
の意義を限定すべき根拠はない。
(6)本件最初の原出願から本件特許出願に至る出願や分割の経過,関連する
無効審判における原告の主張を精査しても,原告が本件発明における「色補
正」の意義を「発光色を変えない程度の波長変換」であるとか「同じ色(青
色)の範囲内での波長変換」であるとか限定した形跡は見当たらず,むし
ろ,「色補正」の要件を追加した甲20の3・4,甲35の補正において,
原告は,「とくに,蛍光染料又は蛍光顔料は,発光素子の青色可視光の発光
を変更するように,すなわち色補正する程度に樹脂中に含有されます。」
(甲20の4・4頁),「蛍光染料又は蛍光顔料は,発光ダイオードの発光
色を,青色可視光から長波長の可視光に波長変換することで,発光素子とは
異なる発光色にできます。」(同5頁),「青色可視光である450nmに
おける金線の分光反射率は,わずかに38.7%ですが,青色可視光よりも
長波長の可視光である550nmにおける分光反射率は81.7%と飛躍的
に向上します。このことは,450nmから550nmの長波長になると,
金線の光の吸収率が,約60%以上から,約20%以下と半分以下に極減さ
れることを意味します。このため,窒化ガリウム系化合物半導体の発光素子
から放射されます青色可視光が,蛍光染料又は蛍光顔料を励起して長波長に
変換されますと,この光は,金線で2倍以上も効率よく反射されて,金線に
吸収されることなく,外部に放射されることになります。」(同5頁)な
ど,「色補正」を,青色光である450nmから,緑色光である(甲6の2
・294頁,甲40・8頁)550nmへの波長変換を含むものとして使用
していた。
明細書に表れないこの記載を構成要件Dの解釈に用いるのは相当でない
が,少なくとも,「色補正」につき,「発光色を変えない程度の波長変換」
や「同じ色(青色)の範囲内での波長変換」を意味するといった技術常識が
あったとはいえないことは明らかであるし,出願経過等から「色補正」の意
義を限定解釈すべき根拠もない。
(7)イ号物件における緑色蛍光体及び赤色蛍光体は,それぞれ青色LEDチ
ップからの青色の可視光に励起されて,励起波長よりも長波長の光(緑色蛍
光体にあっては緑色の可視光,赤色蛍光体にあっては赤色の可視光)を発し
て,青色LEDチップの発光色を所望の発光色である電球色に変化させる
(色補正をする)ものであるから,イ号物件は構成要件Dを充足する。
ロ号物件における緑色蛍光体及び赤色蛍光体は,それぞれ青色LEDチッ
プからの青色の可視光に励起されて,励起波長よりも長波長の光(緑色蛍光
体にあっては緑色の可視光,赤色蛍光体にあっては赤色の可視光)を発し
て,青色LEDチップの発光色を所望の発光色である昼白色に変化させる
(色補正をする)ものであるから,ロ号物件は構成要件Dを充足する。
(8)被告製品がそれぞれ構成要件B,C,E,Fを充足することは前提とな
る事実(8)のとおりである。
したがって,被告製品はいずれも本件発明の技術的範囲に属する。
3争点3(分割要件違反に基づく新規性・進歩性欠如の有無)について
(1)前提となる事実(4)のとおり,本件特許出願は,本件最初の原出願から第
1世代から第7世代までの7回の分割を経た後の分割出願であるところ,被
告は,本件最初の原出願に対する本件第1分割出願(乙5)には当初明細書
にない新規事項を追加した分割要件違反があるから,本件特許の出願日が本
件最初の原出願の出願日まで遡及することはない,と主張する。
(2)そこで,本件第1分割出願に係る甲11発明が,当初明細書に開示され
ていたといえるか検討する(甲11発明は,甲11の2の訂正により当初の
乙5から訂正されたものであるが,分割要件違反の判断に当たっては,訂正
後の甲11発明が当初明細書に開示されているかを検討すれば足りる。)。
甲11発明を分説すると,以下のとおりである。
A3メタル上の発光素子(11)と,
B3この発光素子(11)全体を包囲する樹脂モールド中に発光素子(1
1)からの波長により励起されて,励起波長と異なる波長の蛍光を出す蛍
光染料又は蛍光顔料が添加された発光ダイオードにおいて,
C3前記蛍光染料又は蛍光顔料(5)は,発光素子からの可視光により励
起されて,励起波長よりも長波長の可視光を出して発光ダイオードの視感
度を良くすると共に,
D3前記発光素子はサファイア基板上に青色の可視光を発光するn型およ
びp型に積層されてなる窒化ガリウム系化合物半導体を備え,
E3この窒化ガリウム系化合物半導体からなる発光素子(11)は,メタ
ルに対向する面の反対側に位置する同一面側に,一対の電極を金線により
ワイヤボンドして接続しており,一方の電極はn型窒化ガリウム系化合物
半導体の表面を露出させた部分に接続されたオーミック電極であること
F3を特徴とする発光ダイオード。
(3)甲11発明の構成要件D3によれば,甲11発明の発光素子はサファイ
ア基板上に青色の可視光を発光するn型およびp型に積層されてなる窒化ガ
リウム系化合物半導体を備えている。
当初明細書(乙1)の段落【0008】には,「サファイア基板の上に
GaAlNがn型およびp型に積層されてなる青色発光素子」が開示され
ている。
しかし,段落【0008】は本件最初の原出願に係る乙1発明の実施例と
して記載されているところ,乙1発明は,本件組成で表される窒化ガリウム
系化合物半導体に係る発明であり(乙1の【特許請求の範囲】【請求項
1】),段落【0008】も「本発明にいうLEDの構造を示す一実施例で
ある」以上,そこでいう「GaAlN」も,本件組成を前提としたものと読
むのが相当である。
そこで,本件組成に限定されない「窒化ガリウム系化合物半導体」が当初
明細書に開示されているか,さらに検討する。
(4)当初明細書(乙1)には,次の記載がある。
「従来,樹脂モールドに着色剤を添加して波長を変換するという技術はほと
んど実用化されておらず,着色剤により色補正する技術がわずかに使われて
いるのみである。なぜなら,樹脂モールドに,波長を変換できるほどの非発
光物質である着色剤を添加すると,LEDそのもの自体の輝度が大きく低下
してしまうからである。」(【0004】【発明が解決しようとする手
段】)
「蛍光染料,蛍光顔料は,一般に短波長の光によって励起され,励起波長よ
りも長波長光を発光する。逆に長波長の光によって励起されて短波長の光を
発光する蛍光顔料もあるが,それはエネルギー効率が非常に悪く微弱にしか
発光しない。前記したように窒化ガリウム系化合物半導体はLEDに使用さ
れる半導体材料中で最も短波長側にその発光ピークを有するものであり,し
かも紫外域にも発光ピークを有している。そのためそれを発光素子の材料と
して使用した場合,その発光素子を包囲する樹脂モールドに蛍光染料,蛍光
顔料を添加することにより,最も好適にそれら蛍光物質を励起することがで
きる。したがって青色LEDの色補正はいうにおよばず,蛍光染料,蛍光顔
料の種類によって数々の波長の光を変換することができる。さらに短波長の
光を長波長に変え,エネルギー効率がよい為,添加する蛍光染料,蛍光顔料
が微量で済み,輝度の低下の点からも非常に好都合である。」(【000
9】【発明の効果】)
(5)さらに,当初明細書の段落【0005】には,本件組成を備えた窒化ガ
リウム系化合物半導体が注目されていることを述べた後,「また,窒化ガリ
ウム系化合物半導体を用いて,初めてpn接合を実現したLEDが発表され
ている(応用物理,60巻,2号,p163~166,1991)。……そ
の波長は上記半導体材料の中で最も短い波長である。しかし,そのLEDは
発光波長が示すように紫色に近い発光色を有しているため視感度が悪いとい
う欠点がある。」との記載がある。
ここでいう「窒化ガリウム系化合物半導体」は,本件組成に限定されない
ものであることは文言上明らかである(補助参加人は,X=1の場合の具体
例を意味する,と主張するが,ここで言及されている応用物理の論文(甲1
4,乙15)は本件組成と無関係に発表されたものであって,本件組成の具
体例と見ることはできない。)。
(6)以上の当初明細書の【0004】【0005】【0009】の記載に照
らせば,乙1発明の課題及び解決手段は,窒化ガリウム系化合物半導体であ
る発光素子を包囲する樹脂モールド中に蛍光染料又は蛍光顔料を添加するこ
とにより,蛍光染料又は蛍光顔料から発光素子からの光の波長よりも長波長
の可視光を出して,発光素子からの光の波長を変換し,LEDの視感度を良
くする点にあると合理的に理解できる。
そうすると,たとえ,当初明細書の【特許請求の範囲】には窒化ガリウム
系化合物半導体を本件組成のものに限定した記載がされているとしても,当
業者は,乙1発明自体の課題及び解決手段と共通する窒化ガリウム系化合物
半導体である発光素子全般の課題及び解決手段として,窒化ガリウム系化合
物半導体である発光素子を包囲する樹脂モールド中に蛍光染料又は蛍光顔料
を添加することにより,蛍光染料又は蛍光顔料から発光素子からの光の波長
よりも長波長の可視光を出して,発光素子からの光の波長を変換し,LED
の視感度を良くし,またその輝度を向上させることを理解するものと解され
る。
このように,当業者は,当初明細書の記載に照らして,「窒化ガリウム系
化合物半導体」全般について,乙1発明自体の課題及び解決手段と共通の課
題及び解決手段を理解するものと解されるから,当初明細書には,(本件組
成や発光ピークの限定のない)窒化ガリウム系化合物半導体からなる発光素
子を樹脂モールドで包囲し,前記窒化ガリウム系化合物半導体の発光により
励起されて蛍光を発する蛍光染料又は蛍光顔料を添加する,という発明につ
いても開示があると認めるのが相当である。
(7)そうすると,甲11発明の構成要件D3は当初明細書に開示されてお
り,他の構成要件も当初明細書にすべて開示されているから,本件第1分割
出願に分割要件違反があるとは認められない。
したがって,分割要件違反があることを前提に本件発明の新規性欠如をい
う被告の主張はその前提を欠き,理由がない。
4争点4(乙3に基づく進歩性欠如の有無)について
(1)乙3(甲36)は,1974年6月25日に発行された,「窒化ガリウ
ム金属半導体接合発光ダイオード」に関する米国特許(第3819974
号)の特許公報である。
ア乙3には次の記載がある。
(ア)「特許請求の範囲
1.窒化ガリウムからなる第1の領域と,その一表面に形成されそれと
整流接合を形成するマグネシウムがドープされた窒化ガリウムからなる
第2の領域と,前記第2の領域と整流接合を形成する金属と,前記第1
の領域とオーミック接触を形成することにより前記金属への電圧印加を
可能にする手段であって,前記接合にわたって電圧が印加されるように
オーミック接触を形成する手段とを含む発光ダイオード。」
(イ)「発明の背景
本発明は一般に発光ダイオードに関し,特に紫色発光ダイオードに関
する。ドープされていない窒化ガリウムでは高濃度のn型(n>
1018
cm-3
)しか得られないので,伝導性p型はこれまでのところ
作られていない。しかし,ドナーの補償および絶縁性窒化ガリウム結晶
の作製には,亜鉛などの深いアクセプターが用いられている。このドー
パントは,窒化ガリウム結晶の成長時に導入することができる。ドーパ
ントを非ドープ材料の最初の蒸着後に導入すると,i-n接合が形成さ
れる。先行技術においては,i-n接合を形成する亜鉛がドープされた
絶縁領域を備えた,赤色,黄色,緑色および青色の発光ダイオードが得
られている。」
(ウ)「本発明の目的及び概要
本発明の一般的な目的は,紫色発光ダイオードを提供することであ
る。本発明の別の目的は,窒化ガリウム層と接合を形成する真性のマグ
ネシウムがドープされた窒化ガリウム層との整流金属接触により形成さ
れる紫色発光ダイオードを提供することである。
本発明の上記及び他の目的は,窒化ガリウムからなる第1の層と,そ
れと接合を形成しマグネシウムがドープされた窒化ガリウムからなる第
2の層と,前記第2の層と整流接合を形成する金属層と,前記接合にわ
たって電圧を印加して光を発生/発光する手段とを含む発光ダイオード
により達成される。」
(エ)「好適な実施形態の説明
図1は,接合型窒化ガリウム発光ダイオードの形成工程を示す。基板
11としては,単結晶の火炎溶融法で成長したサファイアのウェハまた
はスライスが用いられ得る。ウェハ11の一表面には,高温(およそ9
00℃~950℃)で気体の一塩化ガリウムをアンモニアの成長域に輸
送し窒素を導入することにより高濃度n型窒化ガリウム層12が形成さ
れ,これにより,GaN層12がエピタキシャル成長する。……層12
の成長後,その層を成長させながら金属マグネシウムを導入することに
より大気雰囲気をドープして,マグネシウムがドープされた窒化ガリウ
ム層13を形成する。ドーパント原子は,通常n型成長を補償し,実質
的に真性のGaN:Mg層13を形成する。層13は,層12と共にi
-n接合14を形成する。……同様の技術を用いてn層12の縁部に金
属オーミック接触16を形成する。この構造の変形例として,サファイ
ア基板または真性層の一部を除去することにより,n型層16の表面の
一部に接触を形成してもよい。
装置は,例えば,図3に示すようなカップ形状の金属ホルダーからな
るホルダー18に載置し得る。インジウム接触17の一表面とホルダー
とでオーミック接続を形成する。リード19および21はインジウム接
触16およびホルダー18に対して電気的接続を行うことにより,領域
13,接合14および15にわたって電圧が印加される。
上記のように構成された装置においては,順バイアスと逆バイアスの
両方(つまり,正又は負のいずれかのi層バイアス)でエレクトロルミ
ネセンス,すなわち発光が得られる。……順方向では,10ボルトで実
質的な伝導が起こり,20ボルトで紫色光が明るい部屋でも簡単に見ら
れる。逆バイアスでは,40~60ボルトの範囲で伝導が起こり,緑色
を帯びた光が発光される。
……このように,スペクトルの紫色領域の発光が可能な改善された発
光ダイオードが提供されることがわかる。この装置は,紫色のスペクト
ル領域が適切である用途において紫色光の光源として用いることができ
る。この光を,有機および無機蛍光体を用いて良好な変換効率で低周波
数(低エネルギー)に変換してもよい。このような変換は,美観を目的
とした様々な異なる色を出すのに適しているだけでなく,人間の視感度
の高いスペクトル領域の光を発光するのにも適している。異なる蛍光体
を用いることにより,この同じ基本装置から全ての原色を出すことがで
きる。」
イ以上によれば,乙3には,以下の発明(乙3発明)が開示されている。
A2基板上にn型及びi型が積層されてなる窒化ガリウム系化合物半導体
からなる発光素子と,
B2電極となる,リード19並びにリード21及び金属ホルダー18と,
D2前記発光素子からの紫色(本件発明の「青色」に相当することに争い
がない。)の可視光に励起されて,励起波長よりも長波長の可視光を発し
て前記発光素子の色補正をする蛍光体と,を有し,
E2前記窒化ガリウム系化合物半導体のn型層を表面に露出させてn電極
を付け,該n電極とリード19を直接接続した,
F2発光ダイオード
(2)相違点の認定について
ア本件発明の解釈及び乙3発明との対応関係
本件発明と乙3発明の相違点を認定する前提として,原告と被告では,
本件発明における「n型層を表面に露出させ」の「表面」の意義について
の解釈の相違及び電気的接続の取り方についての本件発明と乙3発明の対
応のさせ方についての相違があるので,以下,この点について検討する。
(ア)n型層の露出に関する「表面」の意義について
a本件発明は,「n型層を表面に露出させ」るものである(構成要件
E)が,そこでいう「表面」の意義につき争いがある。
原告は,本件発明における「表面」及び「裏面」は,発光素子の
「表面」及び「裏面」,すなわち,発光ダイオードにおいて発光面となる
側の面及び他の部材等に実装される側の面をそれぞれ意味するのであ
り,乙3発明においては,i型層を除去してn型層を露出させたとして
も,「裏面」にn型層が露出するだけで,「表面」(発光面)に露出す
ることはない,と主張する。
これに対し,被告は,本件明細書の段落【0009】で「裏面」が
「基板」であると明示されているのであるから,「裏面」と反対側の面
である「表面」は「基板と反対側の面」を意味するのであり,乙3発明
においてもn型層は「表面」(基板と反対側の面)に露出する,と主張
する。
bそこで本件発明の構成要件Eにいう「表面」の技術的意義について検
討するに,本件明細書には,「表面」及び「裏面」を定義した箇所はな
い。
本件明細書の段落【0009】には,「発光素子11の裏面はサファ
イアの絶縁基板であり裏面から電極を取り出せないため,GaAlN
層のn電極をメタルステム2と電気的に接続するため,GaAlN層
をエッチングしてn型層の表面を露出させてオーミック電極を付け,
金線によって電気的に接続する手法が取られている」との記載があ
る。
「発光素子11の裏面は……基板であり」との記載からすれば,こ
の「裏面」を基板を基準に定義されるものと解するのは不合理であ
り,発光素子を基準に定義されるものと解するのが相当である。すな
わち,段落【0009】でいう「裏面」とは,「発光ダイオードにお
いて発光面となる側の反対側」の意義と解するのが相当である。
しかし,続く「n型層の表面」における「表面」は,「発光素子1
1の表面」ではなく「n型層の表面」と記載されているのであるか
ら,発光素子を基準に定義されるものと解する必要はなく,また,基
板を基準に定義すべき根拠もないから,「n型層の表面」は,専らn
型層を基準に定義されるものと解するのが相当である(続く「p型層
の表面でワイヤボンドされている。」にいう「p型層の表面」も同様
である。)。n型層はエッチングしなければ外部に露出しないのであ
るから,「n型層の表面」とは,単に「n型層の外部(樹脂側)に露
出する側」(「p型層の表面」は,「p型層の外部に露出する側」)
と解するのが相当である。
c上記を前提に本件明細書の【特許請求の範囲】【請求項1】をみる
と,「n型層を表面に露出させて」とあるのみで,「何の」表面か
(「発光素子の」表面か,「n型層の」表面か)は明示されていな
い。
しかし,本件発明の内容は【発明の詳細な説明】として開示されて
いるはずであるから,「n型層を表面に露出させて」というのは,段
落【0009】でいう「n型層の表面を露出させて」と同義とみるの
が相当である。
すなわち,構成要件Eでいう「n型層を表面に露出させて」とは,
「n型層の表面(n型層の外部に露出する側)を外部に露出させて」
という意義に解するのが相当である。
d乙3の訳文3頁には,「サファイア基板または真性層の一部を除去
することにより,n型層16の表面の一部に接触を形成してもよ
い。」(甲36の訳文5,6頁では,「サファイア基板又は真性層の
一部を除去し,n型層16の表面の一部に電極を取り付けられるよう
にする」)との記載があり,乙3発明には,「n型層の表面(n型層
の外部に露出する側)を外部に露出する」構成が開示されている。
本件明細書の【図2】ではn型層は図の上方(発光面)に露出して
いるのに対し,乙3に開示された構成ではそうなるとは限らないが,
上記のとおり,本件発明の構成要件Eはn型層を露出させる「表面」
と発光面との関係について何ら規定するものではない。
(イ)電気的接続の取り方について
a原告は,本件発明の構成要件Eにいう「前記第1のメタル及び第2の
メタル」は本件明細書の【図2】でいうメタルステム2とメタルポスト
3を指しており,乙3でメタルステム2に対応するのは,リード21と
金属ホルダ18の一部であり,メタルポスト3に対応するのは,乙3の
第3図でいう「リード19」であると主張する。そして,n電極に相当
する「インジウム接触」と「リード19」とは直接接続されているの
で,乙3発明には「前記第1のメタル及び第2のメタルの一方とを電気
的に接続されてなる金線」が存在しない,と主張する。
bこれに対し,被告は,乙3の第3図でいう「リード19」は本件発明
の「金線」に対応するものであり,乙3発明には「リード19」「リー
ド21」の接続先に「電極となる第1のメタル及び第2のメタル」が明
記されていない,と主張する。
cそこで検討するに,被告は,乙3の第3図の「リード19」「リード
21」の接続先には必ず電極が存在することを前提に,「リード19」
「リード21」を電極間を結ぶ「金線」に対応するものとしていると解
される。
しかし,「リード19」「リード21」をそのまま発光ダイオードの
外部に延出し,外部の電源と接続する構成(甲40・35頁)もあり得
ないとはいえない。
そうであれば,そのような構成を取った場合には,「リード19およ
び21はインジウム接触16およびホルダー18に対して電気的接続を
行うことにより,領域13,接合14および15にわたって電圧が印加
される」(乙3・訳文3頁,甲36・訳文6頁)とされている「リード
19」及び「リード21とホルダー18」は,いずれも導電性を有する
金属と考えられ,電極として機能し得るものと考えられる。
そうすると,問題は,「リード19」「リード21」を「金線」に対
応させて,「リード19及びリード21を金線とし,その先に電極とな
る2つのメタルを設ける構成」の容易想到性を判断するか,「リード1
9」「リード21及びホルダー18」を「電極となる第1のメタルおよ
び第2のメタル」に対応させて,「インジウム接触16とリード19の
間に金線を設ける構成」の容易想到性を判断するか,という判断方法の
違いに尽きる。
電極間を導線でつなぐこと(乙29),その導線を金線とすること
(乙33ないし35)は,いずれも周知技術であり,組合せの容易想到
性判断は上記いずれの判断方法で判断してもそれほど変わらないと思わ
れるが,ここでは原告の主張に従い,本件発明の構成要件Eにいう「前
記第1のメタル及び第2のメタルの一方」に対応するのは,乙3の第3
図でいう「リード19」であるとして検討を進める。
(3)以上を前提として乙3発明と本件発明を対比すると,乙3発明と本件発明
は,
A2’基板上にn型層が設けられてなる窒化ガリウム系化合物半導体からな
る発光素子と,
B2’電極となる2つの金属と,
D2’前記発光素子からの青色の可視光に励起されて,励起波長よりも長波
長の可視光を発して前記発光素子の色補正をする蛍光体と,
E2’前記窒化ガリウム系化合物半導体のn型層を表面に露出させて付けた
n電極と,
F2’を有する発光ダイオード
である点で一致し,以下の点で相違する。
①本件発明では,「基板上にn型及びp型に積層されてなる窒化ガリウム系
化合物半導体からなる発光素子」(=pn接合型発光素子)を有するのに対
し,乙3発明では,「基板上にn型及びi型に積層されてなる窒化ガリウム
系化合物半導体からなる発光素子」(=MIS接合型発光素子)を有する点
(相違点1)
②本件発明ではn型層の露出方法がエッチングとされているのに対し,乙
3発明ではその方法が特定されていない点(相違点2)
③本件発明では,「該n電極と前記第1のメタル及び第2のメタルの一方と
を電気的に接続させてなる金線」を有するのに対し,乙3発明では,「該n
電極とリード19を直接接続した」点(相違点3)
④本件発明では,発光素子を包囲する樹脂を有し,蛍光染料及び蛍光顔料が
樹脂中に含有されているのに対し,乙3発明には,発光素子を包囲する樹脂
がなく,蛍光体の位置が特定されていない点(相違点4)
(4)相違点1(発光素子の接合型に関する相違点)の容易想到性について
ア本件最初の原出願当時の公知文献について
(ア)乙15(甲14)は,平成3年2月5日に公刊された「GaNpn接
合青色・紫外発光ダイオード」と題する論文であり,pn接合型GaN-
LED(pn接合型の窒化ガリウム系化合物半導体からなる発光素子を有
する発光ダイオード)の作製方法が開示されている。
具体的には,次の記載がある。
「LEDの作製方法について示す。サファイヤ基板上にAlN緩衝層を堆
積の後,n型GaNを約3μm育成していったん成長炉から取り出し,表
面の一部にSiO2マスクを堆積する。GaNはSiO2上に堆積せず,露
出したGaN表面にのみ選択的に成長するため,n層の電極はプロセス終
了後,マスクであるSiO2をはく離することにより,ウエハー上部から容
易に取ることができる。次に,ウエハーを成長炉に戻し,GaN:Mgを
約0.5μm育成したのち,表面から電子線照射処理する。」(165頁
左欄下から6行~右欄3行)
「作製したLEDの立ち上がり電圧は,だいたい3Vから3.5Vの間に
あり,pn接合界面での拡散電位を考慮すれば,妥当な値である。pn接
合構造ではn層およびp層の抵抗率を制御することにより,mis構造と
比較して,低電圧動作するLEDを容易に作製できる。」(165頁右欄
11~15行)
(イ)乙27は,平成2年7月10日に公刊された,シャープ株式会社が出
願した発光ダイオードに関する特許(特願昭63-333698号)の公
開特許公報(特開平2-177577号公報)であり,「n型窒化ガリウ
ム(GaN)結晶を含む結晶と,p型炭化珪素(SiC)結晶とのヘテロ
接合を有するpn接合型発光ダイオード」が開示され,また,「発光ダイ
オードの素子構造としてはpn接合型の発光ダイオードが適しているこ
と」が開示されている。
具体的には,次の記載がある。
「2.特許請求の範囲
1.n型窒化ガリウム(GaN)結晶,n型窒化アルミニウム(Al
N)結晶,及びn型アルミニウムガリウム(GaXAl1-XN:0<x<
1)結晶からなる群から選択された結晶と,p型炭化珪素(SiC)結晶
とのヘテロ接合を有するpn接合型発光ダイオード。」(1頁)
「(発明が解決しようとする課題)
発光ダイオードの素子構造としてはpn接合型の発光ダイオードが適し
ている。その理由は,電子や正孔を発光領域へ高効率で注入できるからで
ある。しかしながら,上記の各材料の中でSiC以外はp型結晶を得るこ
とが困難であったり,得られても高抵抗であったり,又は極めて不安定で
あるため,これらのp型結晶を用いてpn接合型の発光ダイオードを作製
することはできない。」(2頁左上欄8~15行)
(ウ)乙28は,平成3年9月5日に公刊された,松下電器産業株式会社が
出願した「半導体発光素子およびその製造方法」に関する特許(特願平1
-342779号)の公開特許公報(特開平3-203388号公報)で
あり,「GaxIn1-xN層(0≦X≦1)のpn接合構造とを備える半
導体発光素子」が開示され,当該発光素子を発光ダイオードに用いるこ
とが示唆されている。
具体的には,次の記載がある。
「2.特許請求の範囲
(1)窒化処理した基板と,この基板上に形成したバッファ層と,こ
のバッファ上に形成したGaXIn1-XN層(0≦X≦1)のpn接合
構造とを備え,前記バッファ層がAlN層およびAlN/GaN歪超格
子層およびAlZGa1-Z層(0≦z≦1)のうち少なくとも一層であ
る半導体発光素子。」(1頁)
「[発明の効果]
この発明の半導体発光素子およびその製造方法によれば,窒化処理さ
れた基板上に,バッファ層として,AlN層およびAlN/GaN歪超
格子層およびAlZGa1-Z層(0≦z≦1)のうち少なくとも一層を
形成した後に,この表面にGaXIn1-XN層(0≦X≦1)を形成す
ることによって,窒素を充分に含む高品質,かつ結晶性の良いGaX
In1-XN層を形成することができ,pn接合構造を容易に形成する
ことができる。」(4頁右下欄11~20行)
「上記バッファ層の形成は,青色の半導体発光素子だけ限らず,緑色お
よび黄色の半導体発光素子の適用も可能であり,半導体発光素子(可視
光発光ダイオード)への応用は,極めて広く,その効果は大きい。」
(5頁左上欄7~11行)
(エ)乙15,28によれば,本件最初の原出願当時である平成3年11月
25日時点において,「pn接合型の窒化ガリウム系化合物半導体」とい
う技術は,発光ダイオードという技術分野において公知であったことが認
められる(なお,乙27の技術は,n型GaNとp型SiCからなるpn
結合型発光ダイオードに関する技術であるから,「pn接合型の窒化ガリ
ウム系化合物半導体」という技術が公知であった証拠となるものではな
い。)。
イ組み合わせの容易想到性について
(ア)原告は,乙3発明においてMIS発光素子を全く別の発光原理により
発光するpn接合型のGaN系化合物半導体発光素子に置き換えること
は,乙3発明の技術的特徴それ自体を没却する大幅な設計変更を伴うもの
であり,本件特許の原出願当時においてpn接合型のGaN系化合物半導
体発光ダイオードが試作レベルで実現されているにすぎない状況を考慮す
れば,乙3発明の技術的特徴それ自体を変えてまで,試作レベルでしかな
いpn接合型を適用する積極的な動機があったといえない,などと主張す
る。
(イ)しかし,乙27によれば,「発光ダイオードの素子構造としてはpn
接合型の発光ダイオードが適していること」が認められ,1991年当
時,「一般的な半導体を用いた発光ダイオードとは異なり,窒化ガリウム
系化合物半導体では,pn接合型ではなく,p型半導体を使わないMIS
型が検討されていた」のは,「GaNのp型化が困難であったという事情
のため」にすぎなかったものと認められる(甲29ないし32(枝番含
む。),弁論の全趣旨・準備書面(原告その1)24頁)。
すなわち,MIS型は,窒化ガリウム系化合物半導体についてpn接合
型の実用化が実現されるまでの過渡的技術として位置づけられていたもの
と理解できる。
したがって,乙3発明と乙15,28の公知文献に接した当業者は,M
IS接合型の窒化ガリウム系化合物半導体からなる発光ダイオードである
乙3発明にpn接合型という公知技術を組み合わせる動機があり,容易に
想到し得たものと認められ,特に阻害要因も認められない。実施可能性を
備えれば特許出願は可能であるから,公知文献に記載された副引例が周知
技術,慣用技術となっていたか否かは,組み合わせの容易想到性の判断に
影響しない。
ウしたがって,相違点1は,当業者において容易に想到し得る相違点であ
る。
(5)相違点2(n型層の露出に関する相違点)の容易想到性について
ア半導体のn型層表面をエッチングにより露出させることは周知技術であ
り,表面露出の技術として当業者が一般的に使用していたものと認められる
から(乙28・4頁,乙32・3頁,乙33・2頁),相違点2は,当業者
において容易に想到し得る相違点と認められる。
イ原告は,乙3発明において,MIS型発光素子をpn接合型のGaN系
化合物半導体発光素子にあえて置き換えたとしても,本件発明の出願当時
の技術常識を考慮すれば,当業者が想到し得る構成はpn接合型のGaN
系化合物半導体発光素子を基板側を表面(発光面)にして実装する構成で
あり,本件発明のようにpn接合型の半導体層側を表面(発光面)にして
実装する構成を採用する動機がない,などと主張する。
しかし,前記のとおり,本件発明はn型層を露出させる方向を「発光素
子の表面」と特定した発明であるとは認められないから,原告の主張はそ
の前提を欠く。
当業者において,「pn接合型のGaN系化合物半導体発光素子のn型
層をエッチングにより外部(n型層の表面)に露出させる」構成を想到す
れば,該n型層の露出面が発光面であれその反対側(基板側)であれ,相
違点2は克服されたものと判断される。
ウしたがって,相違点2は,容易に想到し得る相違点である。
(6)相違点3(電気的接続の取り方に関する相違点)の容易想到性について
ア発光ダイオードという技術分野において,電極間を導線でつなぐこと(乙
29・第4図),その導線を金線とすること(乙33・第1図ほか,乙34
・第1図ほか,乙35・第1図ほか)は,いずれも周知技術であり,当業者
が一般的に使用していた技術であったと認められる。
本件明細書の段落【0002】でも,従来技術として,「発光素子1の表
面電極を他端子であるメタルポスト3から延ばされた金線によりその表面で
ワイヤボンドする」技術が開示されており(甲2),当初明細書においても
同様である(乙1)。
イ組み合わせの容易想到性について
原告は,乙3のようなMIS型では,電気的ショートがそもそも問題と
ならないため,わざわざ高価な「金線」を使用して「該n電極と前記第1の
メタル及び第2のメタルの一方とを電気的に接続」する積極的な動機がな
い,と主張する。
しかし,相違点1について判断したとおり,乙3発明に「pn接合型窒
化ガリウム系化合物半導体」の公知技術を組み合わせることは容易想到で
あるから,乙3発明に「pn接合型窒化ガリウム系化合物半導体」を組み
合わせた当業者にとっては,該発明に「電極間を金線でつなぐ公知技術」
を組み合わせる動機があり,容易に想到し得る構成であると認められる。
ウしたがって,相違点3は,容易に想到し得る相違点である。
(7)相違点4の容易想到性について
ア本件最初の原出願時の周知技術について
(ア)乙30は,昭和54年12月5日発行の実用新案公報(実公昭54-
41660号)であるが,半導体発光素子の技術分野において,「赤外光
を可視光に変換する蛍光体を混入した樹脂で形成した樹脂レンズで発光素
子を覆う」技術が開示され,「赤外光が全て樹脂レンズを通るよう,……
赤外発光素子ペレットを覆うよう樹脂を滴下するので,赤外発光素子ペレ
ットが発した赤外光は全部樹脂レンズを通り,従って可視光への変換効率
が高い」(2頁左欄末行~右欄5行)ことが開示されている。
(イ)乙31は,平成3年3月27日発行の公開特許公報(特開平3-71
680号)であるが,発光ダイオードの技術分野において,「蛍光染料や
蛍光顔料を含む蛍光色素よりなる樹脂組成物で可視発光ダイオードを封止
する」技術が開示されている。
具体的には,次の記載がある。
「本発明の可視発光ダイオードの封止に用いられる樹脂組成物の他の成分
は蛍光色素である。蛍光色素としては蛍光染料や蛍光顔料として用いられ
ている公知の化合物が何ら制限なく採用される。」(2頁右下欄12~1
5行)
「(課題を解決するための手段)
可視発光ダイオードの明るさは,発光ダイオード素子の発光効率と発光
ダイオードの発光に対する視感度の積で示される。本発明者らは,この可
視発光ダイオードの明るさの改善について研究を続けてきた結果,同一の
発光ダイオード素子を使用しても,それを封止している樹脂の性状によっ
て,可視発光ダイオードの明るさが向上することを見出し,本発明を完成
させるに至った。」(1頁右欄10~18行)
(ウ)以上によれば,本件最初の原出願時である平成3年11月25日時点
において,「発光素子を蛍光染料や蛍光顔料を含有する樹脂で包囲する」
技術は周知技術であった上,可視発光ダイオードの樹脂の性状によって明
るさの向上が可能であるとの認識が当業者の間に存在したものと認められ
る。
イ組み合わせの容易想到性について
(ア)乙3の訳文3,4頁(甲36の訳文6,7頁)には,「この装置は,
紫色のスペクトル領域が適切である用途において紫色光の光源として用い
ることができる。この光を,有機および無機蛍光体を用いて良好な変換効
率で低周波数(低エネルギー)に変換してもよい。このような変換は,美
観を目的とした様々な異なる色を出すのに適しているだけでなく,人間の
視感度の高いスペクトル領域の光を発光するのにも適している。異なる蛍
光体を用いることにより,この同じ基本装置から全ての原色を出すことが
できる。」との記載があり,発光素子からの紫色(本件発明でいう「青
色」に相当することに争いがない。)の可視光を,より視感度の高い(=
より長波長の)光や,全ての原色の光(青色,緑色,赤色。いずれも紫色
よりも長波長である。甲40・8頁)に変換する,との課題と,当該課題
の解決手段として,発光素子からの可視光に励起されて励起波長よりも長
波長の可視光に色補正する蛍光体を用いる,という技術が開示されている
が,該蛍光体をどこに配置するかについては記載がない。
(イ)蛍光体の配置方法としては,甲34(第1図参照)のように樹脂を用
いず発光素子の前面に設置した透明板に蛍光体層を形成する構成も考え得
るが,前記のとおり「発光素子を蛍光染料や蛍光顔料を含有する樹脂で包
囲する」技術も周知技術であったのであり,そのような構成も当業者は当
然技術的に選択し得るものである。
そして,「発光素子を蛍光染料や蛍光顔料を含有する樹脂で包囲する」
技術には,「発光素子からの発光が全部蛍光体を含有する樹脂を通り,変
換効率が高くなる」という効果があることが乙30に開示されているので
あり,また,可視発光ダイオードの明るさの改善について研究を続けてき
た当業者が,同一の発光ダイオード素子を使用しても,それを封止してい
る樹脂の性状によって,可視発光ダイオードの明るさが向上するという知
見を提供していたのであるから,乙3発明と乙30,31の周知技術とに
接した当業者は,これを組み合わせて発光ダイオード素子からの光の視感
度の向上を図る動機があり,発光素子を蛍光染料や蛍光顔料を含有する樹
脂で包囲する構成は容易に想到し得る構成であると認められ,特に阻害要
因も認められない。
ウしたがって,相違点4は,容易に想到し得る相違点である。
(8)本件発明による顕著な作用効果について
ア本件明細書に記載された本件発明の効果は,本件明細書に記載された課題
・目的と対比すると,「青色の光をより長波長の光に色補正して視感度を良
くする」という効果と,「蛍光染料,蛍光顔料が微量で済み,輝度の低下の
点から好都合である」という効果であると認められる(甲2・【0004】
~【0006】,【0008】)。
前者の効果は,青色の光をより長波長の所望の光に色補正すれば視感度が
良くなることは当業者に公知であるから,乙3において既に開示されてい
る。
後者の効果も,「発光素子を蛍光染料や蛍光顔料を含有する樹脂で包囲す
る」技術から当業者において当然予測し得る効果を出るものではない。
イ原告は,本件発明では乙3には示唆も記載もない技術的な効果が得られる
と主張し,より具体的には,本件発明は,基板側及び半導体層側のいずれ
も実装面とできるpn接合型のGaN系化合物発光素子が安定してメタル
に固定されるように,あえて当時の常識に反して,2本の金線ワイヤーに
よって光が部分的に遮光される,半導体層側を表面にした発光素子の実装
方法を採用した上で,蛍光体を用いて発光ダイオードの色補正をするに止
まらず,蛍光染料又は蛍光顔料を発光素子を包囲する樹脂中に含有させる
構成とすることで,発光素子の光を,それが金線ワイヤーによって吸収さ
れる前に,蛍光体によって金線によって吸収されにくい長波長光に変換し
て,発光素子からの青色光の金線による吸収を減らし,発光強度の低下を
抑制する,という,乙3には記載も示唆もない技術的な効果が得られると
主張する。
しかし,前記のとおり,本件発明の構成要件Eにいう「表面」とは「n
型層の外部に露出する側」を意味し,本件発明はn型層を露出させる方向
を「発光素子の表面」と特定した発明であるとは認められないから,原告
の主張はその前提を欠く。
n型層の表面を実装面側に露出させ,実装面側にn電極及び金線を配置
すれば,原告の主張する効果は表れないことになる。
また,原告は,n型層を実装面側に露出させると,金線でn電極とメタ
ルとを接続することができないと主張する(準備書面(原告その2)34
頁)。
原告の主張は,実装面側からn電極と金線をワイヤーボンディングする
現実的困難をいうものと思われる(甲40・32頁参照)が,実装面側に
露出したn電極とメタルとを金線で接続することが物理的に不可能である
とは認められないから,原告の主張は失当である。
ウまた,本件発明における蛍光染料又は蛍光顔料は,「樹脂中に含有され
て」いれば足り,樹脂全体にわたって含有されている態様に限定されてい
ないから,必ずしも発光素子と金線との間に蛍光染料又は蛍光顔料が色補
正に十分な量で存在しているとは限らず,この場合にも原告の主張する効
果は表れないことになる。
エしたがって,本件発明に,顕著な作用効果があるとも認められない。
(9)以上によれば,本件発明は乙3発明から容易に想到可能な発明であって進歩
性を欠き,特許法29条2項(進歩性判断の基準時は平成3年11月25日で
あるから,平成11年法律第41号による改正前のもの)により無効となるべ
きものであるから,特許法104条の3により,原告は特許権を行使すること
はできない。
5争点5(重複特許の有無)について
(1)甲11の2による訂正後の甲11の1には,以下の発明(特許番号29
00928号の特許の請求項1の発明。甲11発明)が記載されている。
A3メタル上の発光素子(11)と,
B3この発光素子(11)全体を包囲する樹脂モールド中に発光素子(1
1)からの波長により励起されて,励起波長と異なる波長の蛍光を出す蛍
光染料又は蛍光顔料が添加された発光ダイオードにおいて,
C3前記蛍光染料又は蛍光顔料(5)は,発光素子からの可視光により励
起されて,励起波長よりも長波長の可視光を出して発光ダイオードの視感
度を良くすると共に,
D3前記発光素子はサファイア基板上に青色の可視光を発光するn型およ
びp型に積層されてなる窒化ガリウム系化合物半導体を備え,
E3この窒化ガリウム系化合物半導体からなる発光素子(11)は,メタ
ルに対向する面の反対側に位置する同一面側に,一対の電極を金線により
ワイヤボンドして接続しており,一方の電極はn型窒化ガリウム系化合物
半導体の表面を露出させた部分に接続されたオーミック電極であること
F3を特徴とする発光ダイオード。
(2)本件発明における蛍光染料又は蛍光顔料は,「前記発光素子からの青色
の可視光に励起されて,励起波長よりも長波長の可視光を発して前記発光素
子の色補正をする」ものである(構成要件D)のに対し,甲11発明におけ
る蛍光染料又は蛍光顔料は,「発光素子からの可視光により励起されて,励
起波長よりも長波長の可視光を出して発光ダイオードの視感度を良くする」
ものである(構成要件C3)。
前記のとおり,本件発明にいう「色補正」とは,「所望の発光色を基準
に,これと現在の発光色との差を修正して所望の発光色にする」という意味
である。
「所望の発光色」は,励起波長よりも長波長である以外に特に限定はない
から,「所望の発光色」が赤色である場合,励起波長である青色可視光より
も視感度が良くなるとは限らない(甲6の2(甲7の2)・294頁,甲4
0・9頁)。このことは,甲11の1において「励起波長よりも長波長の可
視光を出す」とされていたのを,甲11の2で「励起波長よりも長波長の可
視光を出して視感度を良くする」と限定する訂正をし,この点が特許性(進
歩性)を肯定する理由として用いられている(甲11の2・3,4,10,
11頁)ことからも明らかである。
「色補正」には,結果として「視感度を良くする」場合が多いとはいえ,
結果として視感度を良くしない場合も含んでいるのであるから,本件発明が
甲11発明と同一の発明であるとはいえない。
(3)さらに,本件発明と甲11発明を対比すると,「色補正をする」か「視
感度を良くする」か以外にも,少なくとも以下の相違点がある。
①甲11発明では,「メタル上の発光素子」との限定がある(構成要件A
3)のに対して,本件発明では,発光素子とメタルの位置関係は限定され
ていない(構成要件A)点。
②甲11発明では,「サファイア基板」に限定されている(構成要件D
3)のに対して,本件発明では「基板」とだけ特定されている(構成要件
A)点。
③甲11発明では,「メタルに対抗する面の反対側に位置する同一面側
に,一対の電極を金線によりワイヤボンド接続しており,一方の電極はn
型窒化ガリウム系化合物半導体の表面を露出させた部分に接続されたオー
ミック電極である」(構成要件E3)のに対し,本件発明では,「前記窒
化ガリウム系化合物半導体をエッチングしてn型層を表面に露出させてn
電極をつけ,該n電極と第1のメタル及び第2のメタルの一方とを電気的
に接続させてなる金線」(構成要件E)とされ,
③-1甲11発明では一対の電極が要件であるのに対し,本件発明ではn
電極のみが要件となっている点
③-2甲11発明では一対の電極が「メタルに対抗する面(実装面)の反
対側(発光面)に位置する同一面側」に位置するのに対し,本件発明では
n電極の方向は限定されていない点
③-3甲11発明では金線の接続方法がワイヤボンドに特定されているの
に対し,本件発明では接続方法が特定されていない点
③-4本件発明ではn型層の露出方法が「エッチング」に特定されている
のに対し,甲11発明では露出方法が特定されていない点
③-5甲11発明ではn電極が「オーミック電極」に特定されているのに
対し,本件発明ではそのような特定がない点
(4)したがって,本件発明が甲11発明と同一の発明であるとはいえない。
6以上によれば,本件特許は進歩性を欠き無効となるべきものであるから,原
告の請求はいずれも理由がない。
よって,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第29部
裁判長裁判官大須賀滋
裁判官小川雅敏
裁判官西村康夫

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学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
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71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
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経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
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