弁護士法人ITJ法律事務所

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主文
1本件控訴を棄却する。
2控訴費用は控訴人らの負担とする。
事実及び理由
第1控訴の趣旨
1原判決を取り消す。
2被控訴人の請求を棄却する。
3訴訟費用は,第1,2審とも,被控訴人の負担とする。
第2事案の概要等
1事案の概要
本件は,H炭鉱I鉱(以下「本件炭鉱」という。)において石炭を採掘して
いた被控訴人が,その採掘やこれに伴う坑内揚水によって,その所有に係る福
岡県柳川市(以下「柳川市」といい,福岡県の市町については,単に市町名を
使用する。)所在の不動産に地盤沈下が生じたとして,被控訴人に対する鉱業
法109条に基づく鉱害賠償請求権の存在を主張する控訴人らに対し,鉱害賠
償債務の不存在の確認を求めた事案である。
原判決は,被控訴人の請求を認容し,控訴人らはこれを不服として控訴した。
2前提事実
(1)当事者
ア被控訴人は,石炭の採掘及び売買等を目的とする株式会社であったが,
平成□年□月□日株主総会の決議により解散され,同月□日特別清算が開
始された。
(甲1,弁論の全趣旨)
イZは,別紙物件目録記載1から4までの各不動産(以下「本件不動産
A」という。)を所有していたが,平成13年□月□日死亡し,控訴人X
1がこれらを相続した。(甲2ないし5,9,11ないし13,15,乙
1,4の1・4・5・8,5)
ウ控訴人X2は,別紙物件目録記載5から7までの各不動産(以下「本件
不動産B」という。)を所有している。
(甲6ないし8)
(2)本件訴訟に至る経緯
ア本件炭鉱における石炭採掘
被控訴人(当初は,××株式会社)は,昭和□年ころから平成□年ころ
まで,本件炭鉱において,鉱業権者として石炭採掘を行っていた。本件炭
鉱は,大牟田市Aの□□川河口付近から掘進された坑道に沿って,柳川市
B町沖の有明海海底に展開しており,B町に最も近接する石炭採掘箇所は,
B町から水平距離で約600メートルの距離に位置していた。本件炭鉱は,
平成□年□月に閉山された。
(甲20の1ないし4,22,23,乙9,弁論の全趣旨)
イ本件地域の概要及び地盤沈下
(ア)本件各不動産は,いずれも柳川市C町に所在している。同町は,△
△川と▲▲川とに挟まれた干拓地に位置しており,南西でB町に接して
いる。C町及びその周辺の位置関係は,別添地図記載のとおりである。
C町を始めとする柳川市南部地域(以下「本件地域」という。)にお
いては,有明海側に面する平野部のかなりの部分は干拓地である。これ
を含む●●川南部地域(原則として,後記第3の1(7)イの調査(以下
「農政局調査」という。)に係る柳川市,大川市,大牟田市の一部,D
町,E町,F町の一部をいう。以下同じ。)も同様であり,干拓地は,
北から南に向かって,●●川と△△川間は▽▽干拓(又は▽▽干拓地,
以下同様。),△△川間と▲▲川間は,G(干拓)・B干拓,▲▲川と
□□川間はD干拓,□□川左岸はH干拓とそれぞれ呼ばれている。
地層構造等をみると,最上層部に干拓土壌が位置し,表層部の第四紀
層が新第三紀層又は古第三紀層を覆っている。
(イ)本件地域においては,遅くとも,昭和□年ころから,地盤沈下が生
じるようになり,これにより,地上建造物の基礎の抜け上がり,道路等
の不陸,水田の傾斜などの被害が生じた。
(甲3,6ないし8,23,27,乙2,4の1・4・5・8,9,1
8)
ウ控訴人らによる旧石炭鉱害賠償等臨時措置法に基づく裁定の申請等
(ア)平成□年□月の本件炭鉱の閉山に伴い,同年□月,新エネルギー・
産業技術総合開発機構(NEDO)が,旧石炭鉱業構造調整臨時措置法
35条の2に基づき,本件炭鉱に関する鉱害賠償請求権の申出を催告す
る公示をしたところ,同年7月,Z及び控訴人X2を含めた柳川市民7
71名並びに柳川市は,NEDOに対し,本件炭鉱に関する鉱害賠償請
求権の申出書を提出した。
(イ)その後,平成□年□月から平成□年□月にかけて,NEDO九州支
部内に設置された弁済計画調整委員会において,本件地域における地盤
沈下の原因に関する審議が行われ,結論として,「申出地域に係わる被
害は,H炭鉱の石炭採掘に因るものとは認め難い」と判断された。NE
DOは,この結論を受け,平成□年□月,柳川市民及び柳川市に対し,
沈下被害は鉱害と認め難いとの最終的見解を説明した。
(ウ)平成14年□月□日,Z及び控訴人X2名義で,このNEDOの説
明を不服として,九州地方鉱業協議会に対し,旧石炭鉱害賠償等臨時措
置法11条の2に基づき,石炭鉱害賠償紛争の裁定の申請がなされた。
なお,このとき既にZは死亡していたことから,Z名義の申請について
は,Zの被控訴人に対する鉱害賠償請求権を単独相続した控訴人X1が
申請主体とみなされることとなった。
(甲17,18,27,乙9,弁論の全趣旨)
エ本件訴訟の提起
被控訴人は,控訴人らによる上記裁定の申請を受けて,控訴人らの被控
訴人に対する鉱害賠償請求権の存否が法的紛争となったとして,平成14
年□月□日,本件訴訟を提起した。
(弁論の全趣旨,顕著な事実)
3争点及び当事者の主張
(1)被控訴人の石炭採掘又はこれに伴う揚水と,本件各不動産の地盤沈下と
の間に相当因果関係があるか(争点1)
ア控訴人らの主張
(ア)石炭採掘と地盤沈下との因果関係について
一般に,石炭採掘行為そのものに起因する地盤沈下は,石炭採掘跡の
端から約60度の限界角度の範囲内において生じるとされているとの理
論は,地盤の固い地方では妥当するが,有明粘土層のような軟弱な地盤
には妥当しない。
(イ)石炭採掘に伴う揚水と地盤沈下との因果関係について
以下の各点からすれば,被控訴人の石炭採掘に伴う揚水が本件地盤沈
下の原因であり,両者の間には相当因果関係があるというべきである。
a地下水圧と静水圧の乖離について
●●川南部地域の地下水頭と静水圧の関係を見ると,地下120メ
ートル付近から深くなるにつれて両者の乖離が大きくなっている。さ
らに,地下250メートルを超えて掘削されているGの観測井では,
深くなればなるほど地下水頭が低下するという現象が起こっており,
これは,その位置にある古第三紀層から被控訴人の石炭採掘のための
坑道に湧水し,これが排水されたことによるものと考えられる。
そして,第四紀層の地下水は,上記の古第三紀層の脱水により,下
方に引き寄せられるが,古第三紀層と第四紀層の境は不整合面であっ
て,透水性が小さいから,第四紀層の最深部の負圧は,古第三紀層ほ
どには大きくならない。さらに第四紀層の最深部での負圧は,それよ
り上方の第四紀層の水をその地点に流入させる。これらの第四紀層の
脱水が第四紀層全体の圧密沈下の原因である。
古第三紀層には多くの亀裂があり,相互に連絡している。また,本
件地域の古第三紀層には,断層が縦横に走っており,これらの断層と
境界面(不整合面)が接する付近では,第四紀層中の水がこれらの断
層を通って古第三紀層に流入する。本件地域においては,△△川南岸
の地盤沈下が大きいが,この付近は,日本でも有数の厚い粘土層が存
在することに加え,古第三紀層と第四紀層が直接接している部分に近
く,西北西から東南東方向にかけて吉ヶ池断層から派生した断層が存
することが理由となっている。
b坑内水の揚水量について
本件炭鉱において,坑内水は,年間1000万立方メートルないし
2000万立方メートル排水されており,そのうち,30パーセント
が第四紀層からの水であるとしても,その量は300万ないし600
万立方メートルとなり,●●川南部地域全体の全地下水利用量に匹敵
する。他に,第四紀層から古第三紀層に脱水しながら,排水されない
ものもあることを考慮すれば,その量はさらに大量である。これ以外
に上記の深部での静水圧の低下の原因は考えられない。
c地盤沈下場所の移動について
本件炭鉱における石炭採掘場所が有明海の南から北に移動するのに
符合して,●●川南部地域における地盤沈下場所も南から北へ移動し
ている。
すなわち,本件炭鉱は南から北へと石炭掘削を進行させたものであ
るが,昭和□年ころから昭和□年ころまでに,南側のH干拓,D干拓
で先行して沈下が始まり,次いで昭和□年以降,その北側にあるB干
拓,Gで沈下が始まった。そして,H干拓,I坑口ではその北側より
も早期に安定に向かい,昭和□年以降はピークを過ぎた。B干拓も昭
和□年まで沈下量が多かったが,その後安定に向かっている。しかし,
その北側にあるGでは同時期に沈下が大きく進行している。沈下を始
めた時期,沈下量を描く曲線が時の経過とともに安定していく状況を
南北で比較すれば,沈下が南から北へ進行していることは明らかであ
る。
d沿岸部の沈下量について
●●川南部地域における地盤沈下量の大きな場所は,内陸部よりも
本件炭鉱に近接する有明海沿岸部に集中している。
本件地域では内陸部にも沈下が比較的大きい場所もあるが,全体と
してみれば,沈下量の等量線はほとんどが海岸に沿っているか,海岸
に向かって開いており,沿岸部ほど沈下が大きいことが明らかであり,
坑道により近いところがより沈下しているということができる。
e閉山後の地盤隆起について
本件地域では,本件炭鉱閉山後,有明海沿岸部を中心に地盤隆起が
生じている。すなわち,平成□年以降,Gの地下水位は,年を経るに
従って静水圧に近づいており,その近づき方は深い箇所であればある
ほど急激である。上記の地盤隆起は,これにつれて,沈下していた地
盤が膨潤,隆起したものであると考えられる。
f井戸による揚水を原因とする可能性について
(a)本件地域に存在する井戸からは地盤沈下を生じさせるほどの過
剰揚水はされていない。また,浅い井戸からの揚水が地盤沈下の原
因であれば,その影響は狭い範囲にとどまるため,井戸の周辺に地
盤沈下がみられるはずであるが,井戸の位置と地盤沈下の場所は全
く一致しない。
(b)井戸による揚水の場合,上記aのような地下水圧と静水圧の乖
離を生じることはない。すなわち,本件地域の井戸は深さ50メー
トルほどまでであり,70メートルを超えるものはほとんどないし,
井戸による揚水が圧密沈下の原因であれば,この50メートル以浅
の地下水圧が最も静水圧と乖離していなければならないが,そのよ
うな観測結果は報告されていない。
(c)井戸水の利用を地盤沈下の原因と考えると,上記d及びeの現
象の説明ができない。
(d)本件地域の地盤沈下については,J地区と異なり,渇水年の影
響がなく,また,農業用水の利用の多い夏季には地下水位の低下が
ない一方で,これが少ない冬季に地下水位の低下があり,農業用水
のための揚水が原因とは考え難い。
(e)本件地域に海苔小屋があり,海苔洗浄用水のための地下水利用
があるとしても,柳川市の地下水の塩化物イオンは基準値を大幅に
超える高濃度であり,海苔の洗浄用水には適さないし,柳川市全体
の揚水量がある程度あるとしても,本件地域で大量の揚水があった
とは考え難い。
(ウ)因果関係の立証が十分であること
以上からすれば,控訴人らの主張は十分に立証されているものであり,
これらを単なる推論として,因果関係の立証が不十分であるとすること
は許されない。
イ被控訴人の主張
(ア)因果関係の立証責任について
本件における被控訴人の石炭採掘又はこれに伴う揚水と,本件各不動
産の地盤沈下との間の相当因果関係の挙証責任は,損害賠償責任を主張
する控訴人らにあるところ,控訴人らの主張は,学術論文に基づく推論
にすぎず,挙証責任を尽くしているものではないから,これによって,
因果関係が認められるものではない。
(イ)石炭採掘との因果関係について
石炭採掘跡・坑道の陥没によりその直上又はその周辺において地盤沈
下が発生するが,これによる影響範囲は,水平層において,石炭採掘跡
の端から約60度の限界角度の範囲内である。ところが,本件各不動産
は,上記の限界角度の範囲のかなり外であって,本件地盤沈下が石炭採
掘跡・坑道の陥没によって発生したものではないことは明らかである。
(ウ)石炭採掘に伴う揚水と地盤沈下との因果関係について
a井戸水の揚水
(a)柳川市においては,井戸水の揚水による地盤沈下が激しかった
昭和□年代のJ地区と単位面積当たりの揚水量を比較しても,ほと
んど変わらないほどの高水準の井戸水の揚水がなされており,これ
が地盤沈下の原因と考えられる。
(b)特に,本件地域においては,多数の海苔小屋が分布しており,
昭和□年代に井戸水の塩水化が始まるまでは,海苔の洗浄のための
井戸水の揚水が多量に行われており,その量は年に20万トンない
し40万トンであったと推計される。また,これについては,冬季
に揚水されており,冬季に地盤沈下量が多いことと符合する。
(c)海苔小屋を含め,井戸の分布と内陸部における地盤沈下の激し
い場所との間には相関関係が認められる。
b第四紀層中の水の脱水について
(a)昭和□年代後半に,B町において,ボーリング調査が行われて
おり,深度265メートル付近以深では,数か所にわたり逸水がみ
られており,この時期から,古第三紀層の水頭低下があったもので
あるが,地盤沈下はこの時期にはみられていない。
(b)第四紀層の水と古第三紀層の水は,水質が異なっており,本件
炭鉱の坑内水の水質からみて,第四紀層の水が古第三紀層に漏出し
たとはいえない。仮に,本件炭鉱内の排水が,古第三紀層の水と第
四紀層の水が混合したものとすると,坑内水の塩化物イオンの値の
方が,干拓地の井戸水のそれよりも高いのであるから,時間の経過
に伴って同一場所における坑内水の塩化物イオンの値は低減してい
くはずであるが,実際にはそのようになっていない。
また,海底部の坑内水と海水との水質も異なっており,これらが
それぞれ容易には通じていないことを示している。
(c)Gにおける水頭は,本件炭鉱において採掘をしていた平成□年
までの間の経年変化において一定であり,この期間において,古第
三紀層中の水頭の低下が地盤沈下の原因になったとは考えられない。
c沈下場所の北進の主張について
昭和□年以降本件地域における地盤沈下量の多い場所が南から北に
移動したということはない。
また,D干拓周辺は,本件炭鉱の本格的稼働以前から沈下しており,
石炭採掘の進行とは無関係である。
d沿岸部の沈下について
沿岸部には河口周辺においては堆積作用によって粘土層が厚いこと,
堤防の重さによる沈下があること等から,沈下量が多いものと考えら
れる。このことは,J地区でも同様であり,本件地域だけの問題では
ない。
e閉山後の隆起について
J地区でも,最近のほぼ同じ時期に地下水位の回復と地盤の隆起が
認められており,本件地域に特有のことではない。
(2)損害及び損害額(争点2)
ア控訴人らの主張
(ア)Zについては,昭和□年から所有建物(自宅)の玄関のひび割れが
生じ,その後西南方向に約20センチメートル地盤が沈下したため,柱
が約10度傾き,昭和□年に2000万円かけて自宅を建て直した。ま
た,Z所有の田4反については,約1メートル沈下しており,その復旧
には1200万円が必要である。控訴人X1は,Zの上記損害賠償債権
を単独で相続した。
(イ)控訴人X2は,昭和□年ころから工場敷地としている所有地の地盤
沈下が始まり,昭和□年には,20センチメートルほど床が下がったた
め,ブロックによるかさ上げ工事を行い,その後の沈下により,平成□
年にも25センチメートル床が下がったため,約1000万円の費用を
かけてかさ上げ工事を行った。また,工場に設置している精密機械類の
調整に約1000万円を要し,全面的な補修には約1億円を要する。
同控訴人の事務所は沈下のため,5000万円をかけて新築すること
を要した。
同控訴人の自宅は,昭和□年□月に新築したが,昭和□年から沈下が
始まり,平成□年にも25センチメートル下がったため,地盤改良を含
め2000万円ほどかけて修理をした。
イ被控訴人の主張
損害及び損害額については争う。
第3当裁判所の判断
1認定事実
証拠(各項目末尾掲記)及び弁論の全趣旨によれば,次の各事実を認めるこ
とができる。
(1)本件地域及び周辺の状況
本件地域は,●●川左岸河口の有明海に面した干拓地であり,本件各不動
産も干拓地に所在している。
本件地域を含む●●川南部地域一帯の地層構造等をみると,最上層部の干
拓土壌の下に第四紀層が位置するが,これは,表層部の沖積層と下位の洪積
層とに分かれており,沖積層は主として含水比の高い軟弱な粘土層(有明粘
土層)から成り,有明粘土層は,全体的傾向として,有明海側に層厚を増し
ている。沖積層の地層厚は,場所によって異なるが,5メートルから30メ
ートル程度であり,極めて軟弱であることから脱水圧密による地盤沈下の素
因となっている。
洪積層はいくつかの砂礫層と粘土層との互層から成り,その層相の変化は
大きい。大きく見て3層の帯水層が存在する。C町における帯水層の最も浅
い層(第1層)は,深さ50メートル程度まで,第2層は約100メートル
まで,第3層は150メートル余までの深さにある。帯水層は難透水層であ
る粘土,シルト層に挟まれ,地下水は加圧されている。
洪積層全体の地層厚は,場所によって異なるが,140メートルないし2
40メートル程度である。
新第三紀層は,●●川南部地域の南東側では欠如し,北西側では古第三紀
層を覆って分布し,北に行くほど厚くなる。本件地域には分布しない。
第四紀層と古第三紀層が接する面は,不整合面であり,難透水性であると
考えられている。
古第三紀層は,上から280メートルないし360メートルの層厚を有す
る万田層群,100メートルないし150メートルの層厚を有する大牟田層
群等からなる。万田層群は主に泥質砂岩が分布し,局部的に海緑石を含み,
炭層を挟む。大牟田層群は,上部は砂岩勝ち,下部は頁岩が主となる。炭層
は9枚挟在する。
(甲19,23,乙2,12,18)
(2)本件炭鉱における採掘等
ア本件炭鉱の掘削,採掘及び排水の状況
K株式会社は,昭和□年□月ころ,本件炭鉱の掘削を開始し,大牟田市
Aの□□川河口付近から,基盤に当たる320メートル坑道の掘削を開始
したが,坑道掘進の進展に伴い坑内湧水量が増加し,昭和□年□月坑道掘
進をいったん中止した。その後昭和□年度までは,本件炭鉱全体の排水量
は年間180万立方メートルないし410万立方メートルで推移した。
昭和□年□月××株式会社によって,坑道掘進が再開された。昭和□年
までに,採掘ないし坑道が掘削された地域は,それぞれ水平距離でD干拓
から約500メートル,本件各不動産からは5キロメートル以上離れてい
た。
昭和□年□月坑道掘進が基盤から第三紀層に入り,排水量は増加し,昭
和□年□月まで増加傾向にあった。
昭和□年度までに坑道は北北西に掘進され,その先端は,それぞれ水平
距離でB干拓まで約1キロメートル,本件各不動産まで約3.5キロメー
トルの地点に達した。
本件炭鉱全体の排水量は,昭和□年度には570万立方メートル,昭和
□年度には1100万立方メートルであり,その後漸増し,昭和□年度の
2150万立方メートルをピークにその後は漸減した。
(甲20の1ないし4,21の1ないし3,22,乙11)
イH炭鉱の地層状況等
(ア)H炭鉱のうち,本件炭鉱の南に位置する地域の地層状況についてみ
ると,海底採掘部の沖積層の厚さは1ないし15メートルであり,洪積
層の厚さは,70メートル以上で,西に厚化し,最大300メートルに
達する。新第三紀層の層厚は0ないし16メートルである。
古第三紀層の万田層群は,さらに四山層,勝立層に区分され,前者の
層厚は0ないし260メートルで東部及び北部では勝立層が最上部とな
る。四山層は,頁岩,シルト岩を交える極細粒砂岩を主とし,上,下部
に海緑石を含む。勝立層は約130メートルの層厚で,頁岩を交える泥
質の細粒砂岩を主とし,最下部に海緑石,中部に稼行炭層である第二上
層を有する。
大牟田層群の最上層は,七浦層と呼ばれ,約130メートルの層厚で,
細粒∼粗粒砂岩を主とし,中央部に稼行炭層である上層を有する。
その下部は稲荷層と呼ばれ,層厚は25ないし75メートル程度であ
り,粗粒砂岩及び礫岩・泥質細粒砂岩を主とし,稼行炭層である本層を
有する。
(イ)古第三紀層の岩質は,砂岩が圧倒的に優勢で,炭層の上下盤のみに
若干の頁岩及び砂質頁岩を挟む。砂岩には亀裂があり,ときには1キロ
メートル以上も連絡していることが確認されている。砂岩の透水係数は,
四山層では10のマイナス5乗ないし6乗(センチメートル/秒)で難
帯水層,勝立層では第二上層上位の粗粒砂岩は10のマイナス3乗ない
し4乗(センチメートル/秒),最下部微細粒砂岩は10のマイナス7
乗(センチメートル/秒)で,一部が帯水層であるほかは,難帯水層,
七浦層は10のマイナス3乗ないし4乗(センチメートル/秒)で帯水
層である。
これらの状況はおおむね本件炭鉱でも同様であったと考えられる。
(甲19,21の1ないし3,23,乙12,13,九州経済産業局に対
する調査嘱託)
(3)本件地域における地下水利用
ア柳川市の地下水利用
柳川市における地下水の総揚水量は,昭和□年度には,年間2027万
立方メートルであったが,漸減して昭和□年度には1568万立方メート
ルとなった。昭和□年度には,前年度に比較して,総量についてはほぼ半
減し,農業用水については約3分の1に低減した。その後,昭和□年度ま
では,同様の水準で漸減した。
上記のうち,水産用の地下水揚水は,昭和□年度から昭和□年度までの
間,181万立方メートルないし209万立方メートルであり,微増の傾
向にあった。
なお,昭和□年代以前の地下水利用に関する証拠は提出されていない。
(甲30の1ないし3)
イ●●川南部地域の地下水利用
(ア)同地域には,昭和□年当時,井戸が約1600本あり,年間の全地
下水利用量は,少なくとも1140万立方メートルあった。そのうち,
水道,建築物用が全体の39パーセントを占め,次いで工業用の28パ
ーセント,農業用の16パーセント,農水産加工用の10パーセント等
となっていた。
(イ)同地域全体の地下水利用の季節的変化の傾向をみると,6月ないし
8月(夏季)と12月及び1月(冬季)にほぼ同等のピークがみられる。
夏季のピークは農業用水の増加によるもの,冬季のピークは農水産加工
用水の増加によるものであると考えられる。
(ウ)井戸の位置は,本件不動産から北北東に2ないし3キロメートル離
れた△△川流域や,西に約2キロメートル離れた▲▲川流域に多く分布
し,地盤沈下の累積量の多い場所に井戸が多く分布するという関係はみ
られない。しかし,地盤沈下量の多いG,C町やその周辺にも昭和□年
当時井戸が少数確認されており,他に,井戸を有する海苔小屋が相当数
あった。
(甲31,38,39,乙2)
ウD町における地下水利用
D町の総揚水量は,昭和□年度には,年間約3360立方メートルに及
んでいたが,漸減して昭和□年度には,1472万立方メートルとなり,
昭和□年度には前年度に比較して約9割減となる165万立方メートルと
なった。その後昭和□年度までは同水準で推移した。
D干拓においては,農業用井戸は4か所にあり,昭和□年から揚水が開
始されたが,昭和□年度に年間9万6800立方メートル揚水され,漸増
して昭和□年度には約20万9000立方メートル揚水されたが,翌年度
には約11万立方メートルに減り,昭和□年度からは地下水位が低下した
ため,昭和□年度に若干の揚水が行われたほか,昭和□年ころまでには揚
水の実績はない。
(甲30の1ないし3,乙11)
エJ地区における地下水利用
J地区の揚水量は,昭和□年度ないし昭和□年度において,年間360
万立方メートルないし2281万立方メートルであった。また,昭和□年
度,昭和□年度,平成□年度においては,渇水のため,揚水量が多く,平
成□年度においては,1601万立方メートルと,昭和□年度以降最大で
あった。
これを柳川市の揚水量と比較すると,1ヘクタール当たりの揚水量は,
柳川市においては,昭和□年度に53万4000立方メートルで,その後
漸減して昭和□年度には41万3000立方メートルとなり,昭和□年度
にはほぼ半減し,その後も漸減したのに対し,J地区では,年度によりば
らつきがあり,1ヘクタール当たりの揚水量は11万5000立方メート
ルないし72万9000立方メートルの範囲であり,上記の比較に係る年
度においては,おおむね同水準であったものということができる。
(甲30の1ないし3,乙18)
(4)地下水位の状況等
ア昭和□年代におけるボーリング調査
K株式会社は,昭和□年□月□日から同年□月□日までの間に,B町に
おいて,ボーリング調査を行ったが,地層構造はおおむね上記(1)及び(2)
イと同様であったほか,深度208メートル付近で古第三紀層(勝立層)
に入り,深度265メートル以深で数回にわたり,循環泥水が全量逸水し
た。
(甲33,36,42,43)
イ海上試錐による調査
昭和□年までに行われた海上試錐の際には,最寄りの坑道より数キロメ
ートルも離れた未稼行区域にあっても,古第三紀層を掘進中の水位の低下
が著しいことが確認された。
(乙12)
ウD干拓におけるボーリング調査
昭和□年□月から昭和□年□月までの間に,D干拓において深度198
メートルのボーリングを行い,これを利用して間隙水圧測定を行ったとこ
ろ,深度178メートル付近の古第三紀層内で,完全逸水が生じた。間隙
水圧は,深度25メートル,同60メートル,同82メートル,同126.
5メートル,同175.7メートルの地点で測定され,第四紀層中に設置
された前の4地点中では,深度82メートルの間隙水圧の水圧低下が最も
著しく,深度126.5メートルでは逆に水圧低下は小さくなった。
(乙11)
エ農政局調査におけるボーリング調査等
昭和□年度から昭和□年度にかけて行われた農政局調査に際し,C,四
平,Gのボーリング調査が行われ,また,福岡県によりD干拓におけるボ
ーリング調査が行われた。
その結果,地下水圧は,第四紀層内においても,静水圧よりも低下して
おり,古第三紀層においては,さらに水位の低下が著しかった。
その後,Gにおける地下水位は,平成□年から平成□年ころまではおお
むね一定であったが,平成□年ないし□年ころから深さを問わず,上昇し
ており,古第三紀層に設置されたと考えられる地点の水位の上昇が最も大
きい。
(乙2,3,18)
(5)地盤沈下の状況
ア本件地域における地盤沈下
(ア)昭和□年代までの地盤沈下の有無,程度を認めるに足りる証拠はな
い。
しかし,本件地域に近接する,大川市や佐賀県L町においては,遅く
とも,昭和□年ころから地盤沈下が生じており,その沈下量も多いとこ
ろで,年間5センチメートル近くに達していた。
(イ)本件地域では,昭和□年ころから地盤沈下が顕在化し,昭和□年こ
ろまでには,既に,洪積層における地下水の塩化物イオン濃度の上昇が
みられた。なお,控訴人らも,地盤沈下の被害が昭和□年ころから明ら
かになったと主張している。
昭和□年より前の地盤沈下の程度を認めるに足りる証拠は提出されて
おらず,昭和□年□月から平成□年□月まで(柳川市I町においては,
昭和□年□月から)の累積沈下量は,少ないところでは100ミリメー
トル未満であるが,多いところでは1000ミリメートルを超える。特
に,GからC町にかけての一帯の沈下が大きく,いわゆる等深線の目玉
を形成している。また,B干拓の南西岸中央部にも沈下の大きい場所が
ある。
昭和□年ころまでには,G,Cを中心に地下水中の塩化物イオン濃度
はさらに上昇し,1リットル当たり3000ミリグラム以上に達した。
(甲25,40,乙2,9,18,弁論の全趣旨)
イ●●川南部地域における地盤沈下
同地域全体についてみると,上記アのほか,累積沈下量は,D干拓東半
部とD町○○付近,F町I立坑を中心とする範囲において大きく,これら
もいわゆる等深線の目玉を形成している。沈下量は,昭和□年□月までに
最大で1000ミリメートルを超える。
(乙2,3,18)
ウD干拓における地盤沈下
D干拓では,昭和□年ころから田面の沈下,昭和□年ころから地下水位
低下による井水の使用不能等の被害を生じた。D干拓では,昭和□年から
測量が開始され,沈下量は,年間45ないし80ミリメートル程度で推移
したが,昭和□年以降沈静化に向かい,年間15ないし30ミリメートル
となっている。この時期,Gを中心に,沈下量の大きなところは,年間4
0ないし90ミリメートルの沈下が生じていた。
(乙2,3,11,18)
エ地盤隆起の状況
その後,F町及びD干拓においては,平成□年から平成□年にかけて,
B干拓及びG干拓においては,平成□年ないし平成□年に地盤の隆起が生
じた。その隆起量は,大きいところで1年間に6ないし7センチメートル
に及んだ。平成□年から平成□年の本件地域の隆起状況をみると,B干拓
において,約6センチメートル隆起したところがあるが,G∼C間はこれ
に及ばず,上記の地盤沈下の激しかったところほど隆起しているという関
係はみられず,両者の間で,等量線図の形状は異なっている。
(甲25,乙2,3,18)
(6)坑内水,地下水の水質等
本件炭鉱の坑内水の水質とD干拓における井戸水の水質は異なっており,
塩化物イオン濃度は坑内水において高く,井戸水において低い。本件炭鉱の
坑内水の塩化物イオン濃度は全体として,経年的にはむしろ上昇しており,
低下したと認めるに足りる証拠はない。
(乙11)
(7)調査及び知見
アD干拓地地盤沈下に関する調査
昭和□年D干拓地地盤沈下等原因調査委員会が設置され,W1熊本大学
名誉教授らによる調査が行われ,昭和□年□月調査報告書がまとめられた。
その調査結果の結論部分の概要は次のとおりである。
(ア)D干拓の沈下現象は,隣接する干拓地でも生じており,広域の地盤
沈下現象である。
(イ)この地区の沈下体積は173万立方メートルに及び,その沈下の規
模から推測すると通例であれば相当量の揚水が第四紀層中の帯水層から
行われたものと考えざるを得ないが,井戸による揚水実績はこの規模に
達するとは推測できない。
(ウ)間隙水圧測定結果では,地表下深度82メートルの第四紀層中の水
圧低下が最も著しい。これは,主要帯水層からの揚水等による水圧低下
と考えられる。ただし,この結果は一試錐調査によるものであり,広域
的な被害原因を判断するには不十分である。
(エ)地下水の利用状況については関係資料不備のため判断できなかった
が,福岡県の調査によれば昭和□年から昭和□年までの間に年間約20
0万立方メートルが揚水されており,一方,本件炭鉱の揚水も年間10
00ないし2000万立方メートルの坑内排水の実績がある。
(オ)干拓内の井戸水(第四紀層)と坑内水(第三紀層)の水質は型が相
違しており,水質からみた関連性は認められない。
(カ)この地区の地盤沈下は,軟弱地盤の脱水による圧密沈下であること
は明確であるが,その原因については特定できない。
(乙11)
イ九州農政局による調査
九州農政局○○部××課は,昭和□年□月から昭和□年□月にかけて,
本件地域を含む●●平野南部地域の地盤沈下について解析するため,調査
を行い,同年□月に調査結果を「●●南部地区地盤沈下調査報告書」にま
とめた。その結論部分の概要は次のとおりである。
(ア)●●川南部地域の地盤沈下は,沈下量が年間数ミリメートル程度の
オーダーで広範囲に発生するものと,沈下量が年間数十ないし数百ミリ
メートルのオーダーである狭い範囲に集中して急激に発生するものとが
ある。
(イ)広範囲に発生するタイプの沈下は地下水位に連動しており,その沈
下量は一般に冬季に大きく夏季に小さい。この沈下は地下水揚水に伴う
表層の有明粘土層など浅層部を主とした圧密沈下によるものである。
(ウ)狭い範囲で集中して発生するタイプの沈下については,次のように
考察される。
aD干拓及びGのボーリングは,古第三紀層又は基盤に入ると異常な
水位低下と完全逸水を経験している。このことは,古第三紀層も基盤
の一部が透水性であったり,断層破砕帯を有していること等により,
古第三紀層及び基盤の地下水がかなりの速度で移動できることを示し
ている。
b各観測井の水圧測定によれば,深度100メートルを超えると深さ
が増すにつれ,静水圧に対する水圧が低下している。本地区の地下水
利用は極めて少なく,利用している場合でもその採取深度はほとんど
が深さ50メートルまでであることから,この揚水が深部における減
圧の要因となっているとは考えられない。
c観測井と同点又は近傍の水準点の沈下量を比較すると両者の間には
食い違いが認められる。この沈下量の食い違いは,それぞれの観測井
深度よりさらに深層で沈下が発生していることを示唆している。
以上のようにこのタイプの沈下は,地下水の利用が極めて少ないにも
かかわらず地下水位が低く,また,沈下が地盤沈下観測井の最大深度以
深で起きている可能性があるなど,異常な沈下形態を示しており,地下
水揚水による影響のみで説明することは困難である。
(乙2)
ウW2名誉教授らによる報告
被控訴人は,平成□年,W2九州大学名誉教授らに,本件炭鉱における
採掘と本件地域における地盤沈下の関係についての見解を求め,同年□月,
「柳川市南部有明海沿岸地域の地盤沈下とH炭鉱の採掘との関連につい
て」と題する報告書の作成を得た。その結論部分の概要は次のとおりであ
る。
(ア)石炭採掘による地盤沈下
本件炭鉱における採掘方式による地盤沈下は,その採掘の直上及び限
界角(通常60度)によって区分される領域に盆状の沈下が生じる。地
表又は海底に厚い粘土層が存在する場合は,限界角が若干小さくなるこ
とも考えられる。B町に最も近接した採掘は,約600メートル離れた
部分の採掘であり,B町は影響範囲外である。
また,H炭鉱の主要坑道は断面積約15平方メートルの規格であり,
通常2本の坑道が掘削されるが,一般的には坑道掘削による地表の沈下
は深さが40メートル以上になると発生しない。B町に最も近接した坑
道は深さが320メートルであり,地表沈下は生じない。
(イ)採掘に伴う脱水圧密沈下
石炭の採掘の際に排出される古第三紀層中の地層水は地化学的に第四
紀層中の地下水とは異なるものであり,本件炭鉱における排水も第四紀
層の地下水とは水質が異なっており,このことは,古第三紀層中の地層
水が第四紀層の地下水と通じていないことを意味する。
このことは,海底下採掘の場合に海水が浸透していないことによって
裏付けられる。
本件炭鉱における採掘場所付近の岩石の透水係数は,10のマイナス
6乗(センチメートル/秒)程度であり,水頭低下の影響範囲は,30
0メートル程度と推定されるが,この範囲の第四紀層からの漏水は,当
地域の水理地質状況,第三紀層の厚さからみて生じ難い。
以上から本件地域は採掘による水位低下の影響範囲外にあるので,粘
土層の脱水圧密沈下は採掘に起因するものではないと考える。
(ウ)本件地域の地盤沈下の特徴と原因
断層破砕帯では影響範囲は広がるが,坑道掘削中に出水事故はなく,
大きな断層も認められていない。
Kによる海底試錐探査によると,古第三紀層における逸水が確認され
ており,古第三紀層中の水頭が低いこと及び第四紀層との地下水の連通
は考え難いことを示している。
佐賀県L町から柳川市にかけての粘土層堆積地域においては,昭和□
年以降年々沈下が継続しており,これを昭和□年以降加速させたのは,
灌漑用水,漁業揚水等のための第四紀層中に設けられた井戸の過剰揚水
のためと考えられる。揚水量が規制されている佐賀県に比較して揚水量
は大きいと推定される。そうでなければ局所的な沈下が生じる説明がで
きない。
(エ)結論
本件地域の地盤沈下は,坑内出水や坑内排水の影響で生じているもの
ではない。
本件地域の地盤沈下は,本件炭鉱の採掘開始以前(昭和□年)より継
続して生じており,近年の沈下の加速は地区内の井戸の過剰揚水のため
と考えられる。
(甲23,弁論の全趣旨)
エW3教授らによる研究
W3佐賀大学理工学部都市工学科教授(以下「W3教授」という。)ら
は,柳川市民らからの相談を受け,調査研究を行った結果,平成□年□月,
「柳川市南部の地盤沈下とM炭鉱による海底石炭採掘の関係」と題する報
告書を作成し,また,同研究は平成□年□月ころまでに論文にまとめられ,
発表された。その結論は要旨次のとおりである。
(ア)昭和□年から昭和□年にかけて始まった●●川南部地域の地盤沈下
は佐賀平野に匹敵するスケールである。
(イ)同地域の経年的地盤沈下には渇水年の影響がないこと,深い井戸が
少ないこと,干拓地には井戸がほとんどないことからすれば,同地域の
地盤沈下に及ぼす地下水くみ上げの影響はほとんどないと判断できる。
(ウ)同地域における深度が深い観測井の水位は,坑道への逸水のため,
静水圧よりかなり低下した。海底の古第三紀層には亀裂等のため,大き
な透水性がうかがえ,その結果,深層部の第四紀層や第三紀層が収縮し,
地盤沈下を引き起こした。
(エ)平成□年の本件炭鉱の閉山後は,地下水位は上昇し,沿岸部で地盤
の隆起が認められた。閉山2年後の平成□年ころ,地下水の坑道への流
動がなくなり,その後水位が回復し地盤が隆起したものといえる。
(オ)上記は,同地域における地盤沈下現象は,海底石炭採掘によるもの
であることを示している。
(乙3,18,証人W3)
オ弁済計画調整委員会における検討
平成□年□月から平成□年□月にかけて,NEDO九州支部内に設置さ
れた弁済計画調整委員会において,本件地域における地盤沈下の原因に関
する審議が行われ,見解が示された。その結論は要旨次のとおりである。
(ア)本件地域における第三紀層中の水頭低下の現象は昭和□年代後半に
は確認されているが,このことはH炭鉱の坑内採掘がそれ以前からなさ
れていることを考慮すると関連性が推定される。
(イ)第三紀層の水頭低下が上部の第四紀層中の水頭低下に影響を与えた
可能性は明確には否定できない。
(ウ)本件地域は,顕著な地盤沈下被害が発生している佐賀県J地区と同
様に第三紀層の上部に相当程度の第四紀層(有明粘土層を含む。)が堆
積している。
第四紀層の脱水圧密沈下の要因としては,自重による圧密,域内の地
下水利用による脱水の影響のほかに本件地域においては,第三紀層中の
水頭低下による第四紀層の脱水の影響などが複合したものと考えられる
が,第三紀層中の水頭低下による影響がどの程度寄与しているのかは判
断し難い。
(エ)鉱害被害の原因として,第三紀層中の水頭低下が与えた第四紀層中
の水頭低下による脱水圧密を仮定する場合,既に昭和□年代後半には第
三紀層の水頭低下が認められていることから,その影響があったとすれ
ば,この時期からも同様の被害現象が認められなければならないが,被
害が顕著になったのは昭和□年代に入ってからとされている。
(オ)被害現象として指摘されている,建造物の基礎の抜け上がり,道路
等の不陸,水田の傾斜などは地表近くの粘土層の不均等な沈下が原因と
考えられる。特に基礎の抜け上がり現象は基礎の支持部より上の層の圧
密を示しており,地表部に近い上部の粘土層に第三紀層の水頭低下が直
接作用したとは考えられない。
(カ)また,道路等の不陸,局部的地域の浸水被害といった現象を第三紀
層の水頭低下による水頭差で生じた第四紀層の地下水の移動によるもの
と仮定した場合,第三紀層の水頭低下は地域全体に及んでいるはずであ
ることから,第四紀層の一部に集中した局部的に圧密を起こすメカニズ
ムが説明できない。
(キ)このようなことから,本件炭鉱の採掘に伴う坑内排水が第三紀層内
の水頭低下を生じさせた可能性は推定されるが,これに伴う第四紀層か
らの多少の漏水があったとしても,地上の物件に効用阻害の被害を引き
起こすほどの著しい地表の沈下が生じると認めることは困難である。
以上を総合し,本件地域に関わる被害は,本件炭鉱の石炭採掘による
ものとは認め難いと判断する。
(甲27,弁論の全趣旨)
2争点1(因果関係)に対する判断
(1)因果関係の立証責任について
鉱業法109条は,鉱物の掘採のための土地の掘さく等によって他人に損
害を与えたときは鉱業権者等がその損害を賠償する責に任ずる旨規定してお
り,その損害賠償債務の不存在確認訴訟においては,損害賠償を請求する者
において,鉱物の掘採のための土地の掘さく等と損害の間の相当因果関係を
主張,立証する責任を負うものと解するのが相当である。
そして,訴訟上の因果関係の立証は,特定の事実が特定の結果発生を招来
した関係を是認し得る高度の蓋然性を証明することであり,その判定は,通
常人が疑いを差し挟まない程度に真実性の確信を持ち得るものであることを
必要とし,かつ,それで足りるものである(最高裁昭和50年10月24日
第二小法廷判決・民集29巻9号1417頁参照)。
そこで,以下,このような観点から,上記因果関係を認め得るかどうかに
ついて検討する。
(2)石炭採掘と地盤沈下との因果関係について
ア上記認定のとおり,石炭採掘行為そのものに起因する地盤沈下は,理論
上,石炭採掘跡の端から約60度の限界角度の範囲内において生じるとさ
れており,この理論によれば,本件各不動産は本件炭鉱の採掘場所や坑道
からは2キロメートル以上離れており,上記範囲を大幅に超える位置にあ
るから,本件各不動産に生じた地盤沈下の原因が被控訴人の本件炭鉱にお
ける石炭採掘行為そのものにあったとは認められない。
イ控訴人らは,上記の一般理論は,地盤の固い地方では妥当するが,有明
粘土層のような軟弱な地盤には妥当しないとも主張するが,何ら,本件各
不動産付近の地盤を前提として,石炭採掘跡の端から約60度の限界角度
の範囲内を超えて本件各不動産に影響を与えた蓋然性を示す知見について
主張,立証していないし,また,上記1(5)認定のとおり,本件地域の地
盤沈下の程度と本件炭鉱の坑道又は採掘場所との距離との間には必ずしも
相関関係が認められないことからすれば,控訴人らの上記主張によっても
上記認定は左右されないというべきである。
ウなお,控訴人らは,本件炭鉱が柳川市陸地部の地下にも展開されていた
可能性があるともいうが,九州経済産業局に対する調査嘱託の結果に照ら
し,柳川市陸地部の地下において,石炭採掘や坑道掘削がなされたとは認
められない。
(3)坑内水の揚水と地盤沈下との因果関係について
ア坑内水の排水と地下水位の低下について
上記各認定事実及び上記1(7)エのW3教授らの研究結果を併せ考慮す
れば,本件炭鉱における坑内水の排水によって,本件地域における古第三
紀層の水頭が低下し,これが上部の第四紀層中の水頭低下に影響を与えた
可能性を肯定することができ,少なくともこれを明確に否定するに足りる
証拠があるとはいえない。
イ坑内水の排水と本件各不動産の地盤沈下について
しかしながら,上記アの可能性が認められるとしても,坑内水の排水と
本件各不動産の地盤沈下との関係についてみると,以下のように,これに
ついて否定的に働く各事実及び知見が認められ,これらを考慮するとき,
被控訴人の本件炭鉱採掘に伴う揚水が控訴人らの損害をもたらしたという
関係を是認し得る高度の蓋然性が認められるとまではいえず,結局,本件
全証拠によっても,上記相当因果関係を認めるに足りないというべきであ
る。
(ア)控訴人ら主張の損害の態様等との関係
控訴人らは,本件各不動産における地盤沈下の原因を,第四紀層中の
深い部分又は古第三紀層における沈下であるとするW3教授らの見解を
援用している。
しかしながら,控訴人らの主張する本件各不動産における損害は,同
一敷地内といった狭い範囲での不同沈下によるものと解され,これは,
本件地域で被害現象としてみられる建造物の基礎の抜け上がり,道路等
の不陸,水田の傾斜などと,被害の態様を同一にするものとみることが
できるところ,上記1(7)オの知見のとおり,これらは地表近くの粘土
層,すなわち,有明粘土層の不均等な沈下である可能性が高く,特に,
基礎の抜け上がり現象は基礎の支持部より上の層の圧密を示していると
いうべきであり,これを覆すに足りる証拠はないから,これらの被害に
ついて,W3教授らの見解のように,第四紀層中の深い部分の圧密や古
第三紀層の沈下によるものということは困難である。
(イ)昭和20年代におけるボーリング調査の結果等について
a控訴人らは,本件地域における古第三紀層の水頭低下が,本件炭鉱
の昭和□年以降の掘進,採掘に伴う揚水によって生じたと主張するも
のと考えられるが,上記1(4)ア認定のとおり,既に,昭和□年には,
B町の地下の古第三紀層において,水頭低下が生じていたこと,上記
1(5)ア認定のとおり,本件地域周辺における地盤沈下は昭和□年こ
ろからも認められていたものの,柳川市における地盤沈下の被害が顕
在化したのは,昭和□年ころからのことであることからすれば,古第
三紀層の水頭低下が本件地域の地盤沈下の原因であるとするには疑問
がある。
bこの点,控訴人らは,ボーリングにおける完全逸水と水頭低下は別
の現象であり,昭和□年代から本件地域の水頭低下があったとはいえ
ないと主張するが,上記1(4)及び(7)認定のとおり,各調査において,
ボーリングにおける完全逸水をもって,広範囲で古第三紀層の水頭低
下が存在したことが認められており,W3教授らもボーリングの際の
完全逸水を援用して,その水頭低下を主張している(乙18)のであ
って,控訴人らの上記主張は失当である。
(ウ)第四紀層の水の脱水の主張について
a控訴人らの主張
次に,控訴人らは,本件地域の第四紀層中において地下水圧が低下
していることから,古第三紀層における揚水が順次上の層に影響を及
ぼしたとし,本件各不動産における被害の原因について,本件炭鉱に
おける揚水が,比較的浅い部分の水圧低下にも影響し,地盤沈下をも
たらしたという関係についても主張している。
b第四紀層から古第三紀層への地下水の移動について
(a)しかしながら,まず,上記1(2)及び(7)ウ認定のとおり,第四
紀層最下部と古第三紀層の接する面は,不整合面で難透水層である
と考えられており,不透水層ではないから地下水の流動があるとは
考えられるものの,その量が大量であるとは考えにくい。
控訴人らはこの点について,本件地域に第三紀層が欠如し,また,
断層が存在するとして,そのために不整合面から大量の脱水があっ
たと主張するが,甲25及び乙21によれば,断層の存在が確認さ
れているのは,GからC町にかけての地盤沈下の激しかった地域よ
り,北に離れた場所であり(吉ヶ池断層ないし崩道断層),また,
B干拓においても南東端付近を断層(谷垣断層)が横断していると
されているが,当該部分の沈下量はむしろ少なく,断層の存在と地
盤沈下量の間には関連性が認め難いから,控訴人らの上記主張には
疑問が存する。
(b)また,上記1(6)及び(7)ア,ウ認定のとおり,本件炭鉱の坑内
水と,D干拓の井戸の水質,海水の水質はいずれも異なっており,
同一地点における坑内水の水質が第四紀層の地下水や海水の水質に
時間が経過するにつれて近づいたというような調査結果や知見もみ
られない。
この点,控訴人らは,坑内水は,古第三紀層と第四紀層の各地下
水の混合水とみて矛盾しないと主張し,確かに坑内水や井戸水の一
時点の水質だけを見て混合水であることを否定することはできない
が,経年的ないし経時的に古第三紀層の地下水が第四紀層の地下水
によって希釈されるなどの関係が何ら立証されていないことに変わ
りはない。
c第四紀層中における地下水の移動について
第四紀層中の地下水の移動についてみても,上記1(1)認定のとお
り,本件地域には,帯水層が少なくとも三層あって,その間には,粘
土層等からなる難透水層が存在すると考えられるのであるから,控訴
人らがいうように容易にこれを通って地下水が下方に移動するとする
ことには疑問があるし,W3教授らの指摘によっても,Gにおける地
下水圧について,そのような難透水層を通って地下水が下方に移動し
ていることを示すような深度と水圧の相関関係も見受けられない。
また,仮に,古第三紀層中の地下水圧の低下によって第四紀層中の
地下水が容易に下方に移動するのであれば,本件炭鉱のような海底炭
鉱にあっては,海水が第四紀層を通って古第三紀層に移行することに
なるはずであるが,上記1(7)ウ(イ)認定のとおり,坑内水と海水の水
質は明らかに異なっており,そのような現象はみられていない。
さらに,D干拓にあっては,第四紀層中の水圧低下が著しいのは,
深度82メートルの帯水層であり,さらに深い部分の水圧低下はこれ
に及ばないし,Gにおける地下の水圧低下も,深度20メートルから
120メートルの間の水圧低下の程度と,120メートルから240
メートルの間の水圧低下の程度では,前者の方が著しいことが読み取
れる(乙18の650頁図13)ことからすれば,第2層と考えられ
る帯水層からの揚水が地下水圧低下の原因である可能性が高いと考え
られる。
d以上に照らし,控訴人らの上記aの主張には疑問があり,直ちに採
用することができないというべきである。
(エ)坑内水の揚水量について
a控訴人らは,坑内水の揚水量が大量であって,それ以外に地盤沈下
の原因は考えられないと主張し,上記1(2)認定のとおり,昭和□年
度以降本件炭鉱において大量の坑内水が揚水されたことはこれを認め
ることができる。
bしかしながら,坑内水は,古第三紀層中の地下水が中心であると考
えられており,上記(ウ)のとおり,大量の第四紀層中の地下水が古第
三紀層中に移動したとは考えにくく,どの程度,第四紀層中の地下水
が排水されたかは明らかでない。
また,本件炭鉱は海底にあって,その水平方向における影響が陸地
側のみに及ぶとする知見ないし証拠は見当たらず,揚水量を論ずる上
では,海側の影響範囲内にある古第三紀層からの排水も含まれること
を考慮する必要がある。
さらに,上記1(3)認定のとおり,本件地域及びその周辺における
井戸による揚水量も大量に上っている。
これらのことからすれば,坑内水の揚水量をもって,本件地域の地
盤沈下の原因であるとすることはできず,控訴人らの上記aの主張は
採用できない。
(オ)地盤沈下場所の北進の主張について
a控訴人らは,本件炭鉱における石炭採掘場所が有明海の南から北に
移動するのに符合して本件地域における地盤沈下場所も南から北へ移
動しているとし,これを本件炭鉱の坑内水の揚水と地盤沈下の関係の
根拠としている。
そして,上記1(5)認定のとおり,I坑口やD干拓においては,昭
和□年以前から地盤沈下の被害が生じ,約10年間は沈下量が大きか
ったが,昭和□年以降沈静化に向かったこと,本件地域にあっては,
昭和□年以降も,Gを中心に,大きな沈下が生じていたとの事実はこ
れを認めることができる。
bしかしながら,
(a)D干拓等における地盤沈下の原因については,本件全証拠によ
っても必ずしも明らかでなく,D干拓等の地盤沈下は,遅くとも昭
和□年以前から始まったとされているところ,上記1(2)アのとお
り,昭和□年までは本件炭鉱における揚水量は比較的少ない量で推
移していたのであり,このことからすれば,本件炭鉱における揚水
とD干拓の地盤沈下の関連性には疑問がある。
また,乙11によれば,同時期にD町全体では,大量の地下水の
利用があり,昭和□年までにD干拓の浅い井戸が使用不能になるほ
どの地下水位低下があったものであること,D干拓においては,主
要帯水層と考えられる深度における地下水位の低下がみられている
こと,D干拓は,昭和□年に完成した新しい干拓地であり,完成後
しばらくの間干拓土壌や堤防等の荷重による圧密が関与した可能性
もあることが認められ,さらに,上記1(3)認定のとおり,D町に
おける揚水量は,昭和□年度までに漸減し,昭和□年度からは激減
しており,昭和□年以降の地盤沈下の安定が井戸による揚水量の低
下によるものである可能性も否定できないことを併せ考慮すれば,
D干拓における地盤沈下の原因が本件炭鉱における揚水にあった可
能性は低いというべきである。
なお,控訴人らは,D干拓等の地盤沈下が早期に始まったのは,
H炭鉱の本件炭鉱より南の部分の採掘等の影響であるから矛盾はな
いともいうが,これを裏付けるに足りる証拠は見当たらない。
そうすると,D干拓における地盤沈下の進行状況と本件地域にお
ける地盤沈下の進行状況を比較して,本件炭鉱における揚水がそれ
らの原因であることの根拠とすることは困難であるというべきであ
る。
(b)また,控訴人らやW3教授らが,本件炭鉱の坑道掘削等により,
どのような範囲に,どの程度の時間的遅滞をもって影響を及ぼした
ものと推定しているのかは必ずしも明らかでないが,まず,控訴人
らは本件地域における沈下が昭和□年ころから始まったかのように
いうが,これは,本件地域での沈下の計測が開始された時期である
にすぎず,控訴人らの上記主張は,上記1(5)認定の事実に反し,
自ら主張する損害発生の時期とも矛盾するもので到底採用できない。
また,本件炭鉱での揚水量が増加したのは昭和□年のことであると
ころ,まず,上記(イ)のとおり,H炭鉱における排水の影響範囲が
昭和□年代から本件地域に及んでいたものとすれば,そもそも,本
件炭鉱の揚水と●●川南部地域の地盤沈下の関連性は疑問であるこ
とになる。
この点をおくとしても,柳川市では,昭和□年ころから地盤沈下
が顕在化したとされているが,その当時は,上記1(2)ア認定のと
おり,本件炭鉱の坑道ないし採掘が行われていた場所から本件各不
動産付近までの距離は5キロメートル以上あったのであり,本件炭
鉱の揚水の増加から間もなく地盤沈下が始まっていることになるか
ら,沈下場所が北進したという主張は疑問であることになる。
一方,さらに狭い範囲の影響を想定するのであれば,柳川市にお
ける昭和□年ころからの沈下の原因を他に求める必要があることに
なる。
さらに,昭和□年ころ以降も本件炭鉱の坑道は北に掘進されてい
るが,地盤沈下がさらに北に向けて進行したと認めるに足りる証拠
もない。
(c)以上に照らし,控訴人らの上記aの主張は採用できない。
(カ)沿岸部の沈下の主張について
a控訴人らは,本件地域における地盤沈下量の大きな場所が内陸部よ
りも本件炭鉱に近接する有明海沿岸部に集中していると主張する。
bしかしながら,上記1(5)認定のとおり,累積地盤沈下量の等量線
は,おおむね海岸に向かって開いているものの,内陸部にその中心が
ある部分もある上,G付近においては,西側の海岸に向かって開いて
おり,本件炭鉱の坑道の方向に向かって開いているものではなく,本
件炭鉱に近接するにつれて沈下量が多いという関係は認められない。
また,これをJ地区と比較しても,海岸に向かって上記等量線が開
いている点,内陸部に局所的沈下がある点において共通しており,特
に差異があるともいい難い(甲23,25,乙2)。
さらに,上記1(1),(7)ア,ウ,オに認定した事実及び知見によれ
ば,本件地域の地盤沈下の原因は,主として,有明粘土層の脱水圧密
沈下である可能性が高いと考えられるところ,有明粘土層は,有明海
周辺において,全体的傾向として,有明海側に層厚を増している傾向
にあるのであって,内陸部より沿岸部において地盤沈下量が大きいこ
とは,内陸部より沿岸部において有明粘土層が厚いことを意味するに
すぎないものとも考えられる。
なお,沿岸部には一般にコンクリート製堤防が築造されており,そ
の重さによる沈下が複合していることも考えられる。
以上に照らし,控訴人らの上記aの主張は採用できない。
(キ)最近の地盤の隆起について
a控訴人らは,本件地域では,本件炭鉱閉山後,地下水位が上昇する
とともに,有明海沿岸部を中心に地盤隆起が生じており,これは,沈
下していた地盤が地下水位の回復につれて膨潤,隆起したものである
等と主張し,上記1(5)エ認定のとおり,控訴人ら主張の時期に,地
下水位の上昇及び地盤の隆起があったことが認められる。
bしかしながら,同認定のとおり,地盤沈下の累積量が大きかった場
所において,隆起が大きいという関係は必ずしも認められず,地下水
位の低下が原因で地盤が沈下し,その上昇が原因で隆起したという関
係があるとまではいえない。
また,同認定のとおり,F町及びD干拓においては,本件炭鉱にお
ける揚水が継続していた平成□年から隆起が始まったというのであり,
炭鉱の閉鎖と地盤の隆起に関連性があることには疑問がある。
以上からすれば,控訴人らの上記aの主張は採用できない。
(ク)井戸による揚水を原因とする可能性について
a控訴人らは,本件地域において,井戸の位置と地盤沈下の場所が一
致しないこと,井戸の深さからも深部の地下水圧の低下は考え難いこ
と,冬季に地盤沈下が激しく,渇水年の影響がみられないなどのこと
からすれば,本件地域の地盤沈下が井戸水の揚水によるものとは考え
られないと主張し,本件地域において,井戸が多い場所において地盤
沈下が著しいという関係は認められないこと,本件地域においては,
浅い井戸が多いこと,冬季に地盤沈下量が多く,渇水年の影響がみら
れないことは,これらを認めることができる(乙2,18)。
bしかしながら,柳川市全体の揚水量をみると,上記1(3)認定のと
おり,少なくとも昭和□年度までは,J地区に匹敵する大量の揚水が
なされており,また,本件地域にも相当数の井戸があり,地盤沈下の
激しい場所にも分布していること,後背地における揚水が離れた場所
における同一の帯水層の水位低下に与える影響は無視できないものと
考えられること,農政局調査は,揚水量が減少した後の状態を調査し
たという面があること,冬季に沈下が多いのは,水産用の揚水が冬季
にみられ,少なくとも昭和□年ころまでは,相当量に上っていたこと
が原因とも考えられること,渇水年とされる昭和□年についてみても,
農業用の揚水量に前後の年との変化がみられないこと(甲30の1及
び3)によるとも考えられることなどからすれば,控訴人らの主張に
よっても,井戸による揚水が本件地域における地盤沈下の原因でない
ということはできないというべきである。
ウ小括
以上によれば,本件炭鉱における揚水が,本件地域における第四紀層中
の地下水位の低下ひいては地盤沈下に何らかの関与をした可能性は否定で
きないが,前者がなければ控訴人らの損害が発生しなかったという関係を
高度の蓋然性をもって認めることは困難であり,結局,本件においては,
相当因果関係の立証がないというべきである。
3結論
以上によれば,控訴人らの主張は,その余の争点について判断するまでもな
く,理由がないから,被控訴人の請求を認容した原判決は相当であり,本件控
訴は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。
福岡高等裁判所第4民事部
裁判長裁判官牧弘二
裁判官川久保政徳
裁判官増田隆久
(別紙物件目録及び別添地図省略)

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