弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人らの負担とする。
         理    由
 上告代理人渡辺弥三次の上告理由について
 所論にかんがみ考えるのに、民訴法二三七条二項は、終局判決を得た後に訴を取
下げることにより裁判を徒労に帰せしめたことに対する制裁的趣旨の規定であり、
同一紛争をむし返して訴訟制度をもてあそぶような不当な事態の生起を防止する目
的に出たものにほかならず、旧訴の取下者に対し、取下後に新たな訴の利益又は必
要性が生じているにもかかわらず、一律絶対的に司法的救済の道を閉ざすことをま
で意図しているものではないと解すべきである。したがつて、同条項にいう「同一
ノ訴」とは、単に当事者及び訴訟物を同じくするだけではなく、訴の利益又は必要
性の点についても事情を一にする訴を意味し、たとえ新訴が旧訴とその訴訟物を同
じくする場合であつても、再訴の提起を正当ならしめる新たな利益又は必要性が存
するときは、同条項の規定はその適用がないものと解するのが、相当である。
 本件についてみるのに、原審の適法に確定したところによれば、(一) 本件第一
審判決第一物件目録(一)の土地(原判決において更正のもの)は、被上告人の所有
である、(二) 本件第一審被告D(以下「D」という。)は、昭和二一年ころ右土
地の一部である同目録(三)の(10)の土地(以下「(10)土地」という。)上に平
家建の同目録(二)の(10)の建物(以下「(10)建物」という。)を建築所有し、
その一部である同(7)の建物(以下「(7)建物」という。)を訴外Eに、昭和二六
年ころからは上告人A1に、同(8)の建物(以下「(8)建物」という。)を上告人
A2及びA3に、同(9)の建物(以下「(9)建物」という。)を上告人A4に、そ
れぞれ賃貸した、(三) 昭和二三年二月ころいずれもDの承諾を得て、Eが(7)建
物の西側に同目録(4)の建物(以下「(4)建物」という。)の一階部分、ついで昭
和二六年二階部分を増築して同(1)の建物(以下「(1)建物」という。)とし、上
告人A2、同A3は、同じころ(8)建物の西側に同(5)の建物(以下「(5)建物」
という。)の一階部分、ついで二階部分を増築して同(2)の建物(以下「(2)建物」
という。)とし、上告人A4は、(9)建物の西側に同(6)の建物(以下「(6)建物」
という。)を増築して同(3)の建物(以下「(3)建物」という。)としたうえ、D
は昭和二四年一一月一二日(10)建物につき、上告人A2は昭和三〇年一二月一四
日(5)建物につき、それぞれ自己名義の保存登記をし、上告人A1は(4)建物につ
き、上告人A4はF名義で(6)建物につき、それぞれ家屋補充課税台帳に登録をし
た、(四) 右賃借人らが増築した(4)建物ないし(6)建物は、一階部分がそれぞれ
(7)建物ないし(9)建物に接着し、外部との出入りはいずれもそれぞれ(7)建物な
いし(9)建物を通過してするほかなく、(4)建物ないし(6)建物と(7)建物ないし
(9)建物はそれぞれ一体として店舗兼居宅として利用されており、構造的にも機能
的にも(4)建物ないし(6)建物は建物としての独立性を欠き、(4)建物と(7)建物、
(5)建物と(8)建物、(6)建物と(9)建物はそれぞれ不可分の状態にある、(五)被
上告人は、昭和二九年Dを被告として(10)建物の収去、土地明渡の訴訟を提起し
(大阪地裁昭和二九年(ワ)第二四三四号事件)、勝訴の判決を得たが、その控訴
審(大阪高裁昭和三〇年(ネ)第一三二一号事件)において、Dからその所有にか
かる旧建物((7)建物ないし(9)建物を含む、(10)建物)は、賃借人らの増改築
によつて現状が著しく変更され、実在しなくなつた旨の主張がされたため、被上告
人はもはや(10)建物につきその収去を求めて土地の明渡の請求を維持することは
不可能であると誤認判断して、本件第一審判決目録(三)の(11)の土地についての
賃借権不存在確認請求に訴の変更をし、昭和三九年二月一四日被上告人勝訴の判決
が確定した、というのである。右事実関係に照らすと、(10)建物はDの所有に属
し、(7)建物ないし(9)建物は(10)建物の一部であつて、その賃借人である上告
人らが増築した(4)建物ないし(6)建物は、民法二四二条本文の規定により、(7)
建物ないし(9)建物に従として附合し、それぞれ(1)建物ないし(3)建物となり、
Dの所有に帰したものというべく(最高裁昭和四二年(オ)第五八五号同四三年六
月一三日第一小法廷判決・民集二二巻六号一一八三頁参照)、かつ、控訴審におい
てされた訴の交換的変更の場合には旧訴については訴の取下があつたものと認める
べきであるから(大審院昭和一五年(オ)第一四二三号同一六年三月二六日判決・
民集二〇巻六号三六一頁参照)、被上告人のDに対する、(1)建物ないし(3)建物
を収去してその敷地の明渡を求める本件第一次請求は、前記別件訴訟において取下
げられた請求とその訴訟物を同一にするものといわなければならない。
 しかしながら、原審の確定した前記事実関係のもとにおいては、被上告人が建物
の附合関係等につき誤認して前記のように訴の変更をしたのには無理からぬところ
があつたものというべく、しかも、別件訴訟の確定後に至つて、Dが従前の主張を
変えて(7)建物ないし(9)建物は自己の所有であると主張するに至つた以上、被上
告人としては、Dを相手方として、(1)建物ないし(3)建物を収去してその敷地を
明渡すべきことを求めるため本訴を提起し維持する新たな必要があるものというべ
きである。
 してみれば、本件建物収去土地明渡請求が民訴法二三七条二項により許されない
ものであるとはいえないとした原審の判断は正当として是認することができ、原判
決に所論の違法はない。論旨は、採用することができない。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員一致の意
見で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    服   部   高   顯
            裁判官    天   野   武   一
            裁判官    江 里 口   清   雄
            裁判官    高   辻   正   己
            裁判官    環       昌   一

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