弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決中上告人の敗訴部分を破棄する。
     前項の部分につき本件を福岡高等裁判所那覇支部に差し戻す。
         理    由
 一 上告代理人中村光彦の上告理由第一、第二について
 1 原審が確定した事実関係は、次のとおりである。
 (1) 被上告人及び訴外Dは、昭和五一年四月A町立E中学校に入学し、本件事
故当時同校二年生として在籍していた。
 (2) 昭和五二年一〇月五日、E中学校においては、運動会の予行演習を翌日に
控え、同日午後から運動会練習の日課が実施されたが、同日午後四時五〇分頃生徒
は解散となつた。その後、被上告人は、友人ら一〇名位と共に体育館に行つたとこ
ろ、体育館内においては、いずれも課外のクラブ活動であるバレーボール部とバス
ケツトボール部とが両側に分かれて練習していた。
 (3) ところで、平常は、バレーボール部顧問の教諭が同部の部活動を指導、監
督していたが、当日は、右教諭は運動場において運動会予行演習の会場の設営、用
具類の確認等をしていて体育館にはおらず、また、他の教諭も体育館には居合わせ
なかつたところ、被上告人らはトランポリンを体育館内の倉庫から無断で持ち出し、
これをバレーコートとバスケツトコートのほぼ中間の壁側に設置してしばらくこれ
で遊んでいた。
 (4) 同日午後五時過ぎ頃、Dが被上告人に対し、バレーボールの練習の邪魔に
なるからトランポリン遊びを中止するように注意したところ、被上告人がこれに反
発したためDが被上告人を体育館内の倉庫に連れ込み、手拳で被上告人の左顔面を
二、三回殴打し、そのため被上告人は左眼がチラチラして涙が止まらなかつた。
 (5) 被上告人は、前記暴行を受けてから約一週間後に左眼の視野の一部が黒く
かすみ、徐々にこれが広がり、一か月近くで全く視力を失つた。そして、被上告人
は、昭和五二年一一月一一日沖縄県立F病院において外傷性網膜全剥離と診断され
た。
 (6) 被上告人が失明した当時、前記暴行を受けたほかに外傷性網膜剥離を惹起
するような事故に遭遇した事実はない。
 2 1に記載した事実関係のもとにおいて、原審は、次のとおり判示して、上告
人は、国家賠償法一条一項に基づき、本件事故による被上告人の損害を賠償すべき
責任があるとした。
 (1) 本件事故当時バレーボール部とバスケツトボール部が体育館を共同で使用
し、また、右各部員以外の生徒も体育館を使用していたのであるから、体育館の使
用方法あるいは使用範囲等について生徒間において対立、紛争が起ることが予測さ
れた。そのほか生徒の練習方法が危険であつたり、練習の度を過ごすことも予測さ
れた。
 (2) したがつて、バレーボール部顧問の教諭には、体育館内においてバレーボ
ール部が部活動をしている時間中は生徒の安全管理のため体育館内にあつて生徒を
指導、監督すべき義務があり、当該教諭に支障があれば他の教諭に依頼する等して
代わりの監督者を配置する義務があつたというべきところ、バレーボール部顧問の
教諭はこれを尽くしていなかつたから、右の点について過失があつたといわざるを
えない。
 (3) そして、本件事故は体育館内で発生したものであるところ、バレーボール
部顧問の教諭が体育館内でバレーボール部の部活動を指導、監督していれば、トラ
ンポリン遊びは当然制止され、本件事故は未然に防止できたものと推測されるから、
本件事故の発生と同教諭の前記過失との間には因果関係があるというべきである。
 3 しかしながら、本件事故について、バレーボール部顧問の教諭に過失を認め
た原審の判断は、たやすく首肯することができない。その理由は、次のとおりであ
る。
 前記事実関係によれば、本件事故当時、体育館内においては、いずれも課外のク
ラブ活動であるバレーボール部とバスケツトボール部とが両側に分かれて練習して
いたのであるが、本件記録によれば、課外のクラブ活動は、希望する生徒による自
主的活動であつたことが窺われる。もとより、課外のクラブ活動であつても、それ
が学校の教育活動の一環として行われるものである以上、その実施について、顧問
の教諭を始め学校側に、生徒を指導監督し事故の発生を未然に防止すべき一般的な
注意義務のあることを否定することはできない。しかしながら、課外のクラブ活動
が本来生徒の自主性を尊重すべきものであることに鑑みれば、何らかの事故の発生
する危険性を具体的に予見することが可能であるような特段の事情のある場合は格
別、そうでない限り、顧問の教諭としては、個々の活動に常時立会い、監視指導す
べき義務までを負うものではないと解するのが相当である。
 ところで、本件事故は、体育館の使用をめぐる生徒間の紛争に起因するものであ
るところ、本件事故につきバレーボール部顧問の教諭が代わりの監督者を配置せず
に体育館を不在にしていたことが同数諭の過失であるとするためには、本件のトラ
ンポリンの使用をめぐる喧嘩が同教諭にとつて予見可能であつたことを必要とする
ものというべきであり、もしこれが予見可能でなかつたとすれば、本件事故の過失
責任を問うことはできないといわなければならない。そして、右予見可能性を肯定
するためには、従来からのE中学校における課外クラブ活動中の体育館の使用方法
とその範囲、トランポリンの管理等につき生徒に対して実施されていた指導の内容
並びに体育館の使用方法等についての過去における生徒間の対立、紛争の有無及び
生徒間において右対立、紛争の生じた場合に暴力に訴えることがないように教育、
指導がされていたか杏か等を更に綜合検討して判断しなければならないものという
べきである。しかるに原審は、これらの点について審理を尽くすことなく、単に、
前記2、(1)・(2)のような説示をしたのみで同教諭の過失を肯定しているのであ
つて、原審の右判断は、国家賠償法一条一項の解釈適用を誤り、ひいて審理不尽、
理由不備の違法を犯したものというべきであり、その違法が原判決に影響を及ぼす
ことは明らかである。
 二 以上のとおりであつて、論旨第一、第二は理由があり、原判決中上告人の敗
訴部分は、その余の論旨につき判断するまでもなく、破棄を免れない。そして、本
件事故の過失責任について、更に審理を尽くさせる必要があるから、右破棄部分に
つき本件を原審に差し戻すのが相当である。
 よつて、民訴法四〇七条一項に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判
決する。
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    大   橋       進
            裁判官    木   下   忠   良
            裁判官    鹽   野   宜   慶
            裁判官    宮   崎   梧   一
            裁判官    牧       圭   次

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