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平成24年8月29日判決言渡
平成24年(ネ)第1342号損害賠償請求控訴事件
主文
1原判決中被控訴人A及び被控訴人株式会社銀蔵に関する部分を次
のとおり変更する。
(1)被控訴人A及び被控訴人株式会社銀蔵は,控訴人に対し,連帯して33
0万円及びこれに対する平成20年6月15日から支払済みまで年5分の
割合による金員を支払え。
(2)控訴人の被控訴人A及び被控訴人株式会社銀蔵に対するその余の請求を
棄却する。
2控訴人の被控訴人Bに対する控訴を棄却する。
3訴訟費用中,控訴人と被控訴人A及び被控訴人株式会社銀蔵との間におい
て生じたものは,第1,2審を通じ,これを20分し,その1を被控訴人A
及び被控訴人株式会社銀蔵の,その余を控訴人の負担とし,控訴人と被控訴
人Bとの間において生じた控訴費用は,控訴人の負担とする。
4この判決は,第1項の(1)に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1控訴の趣旨
1原判決を取り消す。
2被控訴人らは,控訴人に対し,連帯して8815万0617円及びこれに対
する平成20年6月15日から支払済みまで年5パーセントの割合による金員を支
払え。
3仮執行宣言
第2事案の概要等(略語は,新たに定義するものを除き,原判決の例による。以
下,本判決において同じ。)
1本件は,平成19年10月から,被控訴人株式会社銀蔵(被控訴人会社被控訴人会社被控訴人会社被控訴人会社)
のC店でアルバイトとして勤務し,平成20年1月中旬からは正社員として同店で
の勤務を開始したが,同年6月15日に被控訴人会社を退職した控訴人が,在職当
時の被控訴人会社の社長であった被控訴人A及びC店店長であった被控訴人Bから
性行為を強要されるなどしたため,肉体的精神的苦痛を受けた,また,被控訴人会
社の会長であるDの上記性行為の強要についての言動によっても肉体的精神的苦痛
を受けた,更に,被控訴人会社は,セクシュアルハラスメントの防止に関し,被用
者にとって働きやすい環境を保つよう配慮する注意義務を怠ったとして,被控訴人
A及び同Bに対しては民法709条に基づき,被控訴人会社に対しては民法709
条及び同法715条に基づき,損害賠償として,連帯して8815万0617円の
支払を求める事案である。
2原審は,控訴人の請求をいずれも棄却した。
当裁判所は,控訴人の被控訴人A及び被控訴人会社に対する請求については,連
帯して330万円及びこれに対する平成20年6月15日から支払済みまで年5分
の割合による金員の支払を命じる限度でこれを認容すべきであるが,控訴人の被控
訴人A及び被控訴人会社に対するその余の請求及び控訴人の被控訴人Bに対する請
求は,棄却すべきものと判断した。
3争いのない事実等及び争点(当事者の主張を含む。)は,当審における当事
者の主張を後記4のとおり加えるほかは,原判決の事実及び理由の「第2事案の
概要」1及び2(原判決2頁8行目~9頁1行目)に記載のとおりであるから,こ
れを引用する。
4当審における当事者の主張
(1)被控訴人A及び被控訴人Bの責任
((((控訴人控訴人控訴人控訴人))))
職場における性的自由の侵害行為の場合には,職場での上下関係(上司と部下の
関係)による抑圧や,同僚との友好的関係を保つための抑圧が働き,このために,
被害者は必ずしも身体的抵抗という手段を採らない要因として働くことが知られて
いる。控訴人は,顔見知りの社長である被控訴人Aが平成19年12月11日の深
夜に自宅を訪問した際,仕事の話と考えて断ることができず,部屋で押し倒され体
を触られキスをされても見知らぬ加害者に対するような抵抗を示すことができなか
ったものであり,同月下旬の夜に被控訴人Aが控訴人の自宅を訪問した際も,前回
のことで逃げられない気持ちになっていたため,性行為をさせられたものである。
また,控訴人は,被控訴人Bに性交渉を求められた際にも,被控訴人Bが被控訴人
Aとグルになって会社ぐるみでセクシュアルハラスメントをしていると考えて異常
な心理状態になり(急性ストレス障害),なすすべもなくマインドコントロールさ
れるような感じで強姦されたものである。平成20年2月には被控訴人Bと週に2
回程度性交渉を行ったが,これは,執拗な被控訴人Bからのセクシュアルハラスメ
ント攻撃に抵抗する力を失ってしまい,これを拒めば次は仕事上でも嫌がらせをう
けるのではないかと思わされ,「心理的監禁状態」となって意に反したセックスを
強要され続けたものである。
((((被控訴人被控訴人被控訴人被控訴人らららら))))
控訴人の主張は争う。
(2)被控訴人会社の責任
((((控訴人控訴人控訴人控訴人))))
ア使用者責任(民法715条)
被控訴人Aは,俗にいう雇われ社長であり,被控訴人Bと共に被控訴人会社がそ
の事業のために使用する者であるところ,被控訴人Aは被控訴人会社の代表取締役
社長として,被控訴人Bは被控訴人会社のC店の店長として,人事を決定する協議
に参加する立場にあったこと,被控訴人Aは,勤務時間中に勤務場所で控訴人と仕
事の話を聞くことを継続していたところ,勤務場所では話しづらいことを聞いて控
訴人を元気づけるために控訴人宅を訪れ,控訴人から愚痴や仕事への不安を聞いた
後,性行為に及んだものであること,控訴人は,実家を離れて単身大阪で生活して
おり,正社員として勤務する予定のアルバイト社員であったから,社長及び店長で
ある被控訴人両名の要求を拒絶した場合,どのような制裁がなされるか分からない
と考え,抵抗できなかったこと等の事実からすれば,被控訴人両名によるセクシュ
アルハラスメントは被控訴人会社の事業の執行と密接な関連性を有するものである
から,被控訴人会社は,その使用者責任を免れない。
イ環境配慮義務違反(民法709条)
およそ事業主は,被用者にとって働きやすい環境を保つように配慮する注意義
務があり,セクシュアルハラスメントの防止に関しても,職場における対応方針を
明確化し,これを周知徹底するための啓発活動を行うなど,適切な措置を講じるこ
とが要請されるところ,被控訴人会社においてはセクシュアルハラスメントを防止
すべき措置が講じられた形跡はなく,社長である被控訴人A及び店長である被控訴
人Bが自らセクシュアルハラスメントを行っているのであるから,被控訴人会社が
上記注意義務を怠ったことは明白である。
したがって,被控訴人会社は,民法709条に基づき,控訴人に生じた損害を賠
償する義務を負う。
((((被控訴人被控訴人被控訴人被控訴人らららら))))
控訴人の主張は争う。
(3)損害
((((控訴人控訴人控訴人控訴人))))
控訴人は,被控訴人会社を退職した後,医師から「うつ病」「外傷後ストレス障
害」と診断され,PSTD(心的外傷後ストレス障害)の症状が認められ,現在も
改善には長期間の通院加療を要すると診断されている。控訴人は,就業はおろか日
常生活にも支障があり,その治療のための治療費の支出も余儀なくされているが,
上記の症状は,精神的ショックに由来するものであり,被控訴人らに意に反する性
的関係を強要されたことがその原因であると考えられるから,本件では,慰謝料の
みならず,治療費,逸失利益等の賠償が認められるべきである。
((((被控訴人被控訴人被控訴人被控訴人AAAA))))
控訴人は,平成21年4月26日付けの「うつ病」及び「外傷後ストレス障害」,
平成22年11月12日付けの「外傷後ストレス障害」,平成23年4月12日付
けの「うつ病」及び「PTSD」の各診断書を提出しているが,いずれも被控訴人
Aとの性交渉から1年4か月もの期間が経過した後に作成されたものであり,控訴
人が被控訴人Aによるセクシュアルハラスメントによってこれらの症状を発症した
とは認め難い。
第3当裁判所の判断
1111当裁判所の判断は,後記2ないし5記載のとおり補充し,次のとおり改め
るほかは,原判決の事実及び理由の「第3当裁判所の判断」1~4(原判決9頁
3行目~18頁21行目)に記載のとおりであるから,これを引用する。
(1)原判決9頁21行目の「引越しをした。」を「引越し,被控訴人会社が女
性従業員用の社宅として用意したワンルームマンションに入居した。」と改める。
(2)原判決9頁25行目の「メンバーであった。」の後に,「被控訴人Aは,
被控訴人会社の代表取締役を務め,被控訴人会社の経営の一端を担ってはいたが,
被控訴人会社の実質的な代表者は,被控訴人会社の親会社の代表者で,被控訴人会
社の会長を務めていたDであり,被控訴人Aは被控訴人会社の被用者であった。」
を加える。
(3)原判決10頁24行目の「その他」から25行目の「せず,」までを削除
する。
(4)原判決10頁25行目の「同意の上」を削除する。
(5)原判決11頁22行目の「同意の上」を削除する。
(6)原判決14頁末行の「(1)」を削除する。
(7)原判決15頁2行目の「しかしながら」を「そして,」に改め,3行目の
「言うのみで,」から5行目までを「言ったが,結局,被控訴人Aと性交渉に至っ
た。」と改める。
(8)原判決15頁6行目から19行目までを次のとおり改める。
「被控訴人Aは,このような控訴人の態度から,控訴人は,同意の上で被控訴人A
との性行為を行ったと主張する。しかしながら,控訴人は,心理的に抵抗できなか
ったのであり,同意したわけではない旨供述している(控訴人本人)。そして,控
訴人は,翌年4月に被控訴人会社に入社することが内定した大学4年生であったの
であり,被控訴人会社の人事担当者から,同年11月のC店のオープンに備えてア
ルバイトとして働くことを勧められ,在学中でありながら,親元を離れて単身で大
阪で生活し,翌年入社予定のアルバイトして被控訴人会社に勤務するようになった
ものであるのに対して,被控訴人Aは控訴人に対して人事権を有する被控訴人会社
の代表取締役であったのであるから,控訴人が被控訴人Aが訪問することを受け入
れ,被控訴人Aの要求に応じて性行為を受け入れたことについては,それが控訴人
の望んだことではないことは明らかであり,控訴人は自分の置かれた立場を考えて
やむなく受け入れたものと認めるのが相当である。したがって,控訴人が被控訴人
Aの要求を拒絶することは不可能であったとまではいえないが,心理的に要求を拒
絶することが困難な状況にあったものと認められ,控訴人が性行為を受け入れたか
らといって,控訴人の自由な意思に基づく同意があったと認めることはできな
い。」
(9)原判決15頁20行目から16頁4行目までを削除する。
(10)原判決18頁8行目の「被告Aとの関係の点も含め,」を削除する。
(11)原判決18頁10~14行目を削除する。
(12)原判決18頁15行の「及び被告会社の使用者責任」及び「いずれも」を削
除する。
(13)原判決18頁18行目の「Dは」から同頁21行目までを次のとおり改める。
「証拠(甲15,乙ハ1,証人D)によれば,Dは,平成20年4月23日に大
阪市内の百貨店の喫茶店で,対応策を協議するための控訴人との2回目の面談を行
ったこと,その際,E専務が同席し,他の客とは話の内容までは分からない程度に
席が離れていたこと,Dは,被控訴人Aを解雇し,被控訴人Bは降格の上,減給3
か月の処分を行うことを控訴人に伝える一方,控訴人が被控訴人Aに妻子があるこ
とを知りながら被控訴人Aと性交渉を持ったことを非難したこと,また,控訴人か
ら社宅になっているマンションの使用を継続することや生活費や引越費用の負担に
ついての希望が出されたため,被控訴人会社側は,控訴人が当分の間社宅の使用を
続けること及び生活費等として50万円を控訴人に支払うことを了承したことが認
められる。上記の面談におけるDの発言中には,控訴人の心情を傷つけるものが含
まれていたことがうかがわれるが,他の客には気付かれないような態様で発言され
ていること等に照らし,Dの発言が,社会通念上許容される限度を超える違法なも
のであるとまではいえず,控訴人に対する不法行為を構成すると認めることはでき
ない。」
2被控訴人Aの責任
控訴人は,被控訴人Aから,平成19年12月に,2度にわたり,性行為を強要
されるなどのセクシュアルハラスメントを受けたと主張しているのに対し,被控訴
人Aは,控訴人が被控訴人Aの来訪を拒否せず,オートロックを解錠して寝間着姿
で被控訴人Aを迎え入れ,性行為の際も控訴人の方がむしろ積極的で拒否的な態度
では無かったこと等を指摘し,控訴人の同意の上で性交渉を行ったものであると主
張している。
しかしながら,当時置かれていた控訴人と被控訴人A双方の立場を考慮すれば,
控訴人の自由な意思に基づく同意があったと認めることはできないことは,前記引
用に係る原判決(前記1で改めた後のもの)の説示するとおりであり,被控訴人の
代表取締役であるという立場を利用して控訴人との性行為に及んだ被控訴人Aの行
為は,控訴人の性的自由及び人格権を侵害した違法な行為であり,控訴人に対する
不法行為を構成するものというべきである。
3被控訴人Bの責任
控訴人は,平成19年12月20日に,控訴人を自宅に強引に連れて行き,「嫌
だ」「触らないで」と抵抗した控訴人を強姦したほか,平成20年2月中には,週
2回ほどの割合で控訴人宅で控訴人を強姦した旨主張している。
しかしながら,証拠(甲15,乙ロ1,控訴人本人,被控訴人B本人)によれば,
被控訴人Bは独身であり,控訴人に好意を抱いていたが,平成19年12月16日
の懇親会の後,被控訴人Bが控訴人に控訴人の自宅を訪ねることの可否を電話で尋
ねたところ,控訴人は,これを承諾し,控訴人の自宅で2人だけで酒を飲んだこと,
12月20日に,被控訴人Bと控訴人はいったん自宅に戻った後,近所のおでん屋
で落ち合い,酒を飲んだこと,その後,被控訴人Bの自宅で飲み直すことになり,
控訴人も歩いて被控訴人B宅に赴き,2人で酒を飲んだ後,性交渉を持ったこと,
控訴人は当日そのまま被控訴人B方に泊まり,翌日,被控訴人Bが出勤した後に被
控訴人B方を出たこと,その後,控訴人と被控訴人Bは休日に2人で水族館やアウ
トレットに出掛けるようになり,平成20年2月中には,週2回ほどの頻度で,控
訴人宅で2人で酒を飲んだ後性交渉を持ったことなどの事実が認められ,これらの
事実からすれば,控訴人は,平成19年12月中旬から平成20年2月までの間,
被控訴人Bと極めて親密な関係にあったと認められ,控訴人は,自由な意思に基づ
いて,被控訴人B控訴人と性交渉を持ったものと認めるのが相当である。
したがって,控訴人の上記主張を採用することはできず,他に被控訴人Bの言動
が控訴人に対する不法行為を構成することを認めるに足りる証拠はない。
4被控訴人会社の責任
(1)控訴人は,被控訴人Aのセクシャルハラスメントは,その地位に基づき,被
控訴人会社の事業の執行についてなされたものである,と主張し,被控訴人会社が
これを争うので検討する。
前記のとおり,被控訴人Aは,被控訴人会社の代表取締役を務めていたが,実質
的には被控訴人会社の被用者であったところ,証拠(甲15,乙イ1,控訴人本人,
被控訴人A本人)及び弁論の全趣旨によれば,被控訴人Aは,日頃から新入社員が
被控訴人会社に適応できるかどうかについて気に掛け,随時面接等を行っていたが,
控訴人は,面接の度に,「スタッフとの関係がうまくいかない。」「仕事が覚えら
れるか不安」などと後ろ向きの発言をしていたため,控訴人のことを気に掛けてい
たこと,被控訴人Aは,平成19年12月11日に,業務用のメールを控訴人に送
信したが,控訴人が直ちに対応することができなかったことから,控訴人を元気づ
ける目的で当日の深夜に控訴人の自宅に訪ねることを思い立ったこと,控訴人は,
被控訴人Aから深夜に電話で自宅を訪問することを告げられた際,被控訴人Aから
業務用メールに対する対応の件で注意を受けるのではないかとも思い,来訪を了承
したこと,控訴人の住居は,被控訴人会社が女性従業員用の社宅として用意したワ
ンルームマンションで,控訴人は,一人暮らしの生活ぶりや部屋の整頓の状況を抜
き打ちでチェックするために来訪するのではないかと思ったことが認められる。こ
れらの事実によれば,被控訴人Aが控訴人の自宅を訪問した行為は被控訴人会社の
事業の執行と密接な関連性を有すると認められるから,被控訴人会社は,被控訴人
Aの控訴人に対する前記不法行為につき,民法715条に基づき,被控訴人Aの使
用者として,損害賠償責任を負うと解すべきである。
(2)事業主は,職場において行われる性的な言動により労働者の就業環境が害さ
れることのないよう雇用管理上必要な措置を講ずる義務を負っているところ(雇用
の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律11条(平成18
年法律第82号による改正後のもの)),被控訴人Aは,控訴人が被控訴人会社に
勤務していた当時被控訴人会社の代表取締役の立場にありながら,深夜控訴人の自
宅を訪ね,性行為を強要したものと認められる。そして,証拠(甲15,証人D,
被控訴人A本人,被控訴人B本人)によれば,被控訴人会社においては,幹部社員
の間でも職場におけるセクシュアルハラスメントがあってはならないとの意識が希
薄であり,セクシュアルハラスメントの防止に向けた方針の明確化やその周知,啓
発が十分になされていなかったことが認められ,被控訴人会社が上記義務に違反し
ていたことは明らかであり,前記認定事実によれば,その結果,控訴人に対するセ
クシュアルハラスメントという事態に至ったことが認められるから,被控訴人会社
は,控訴人に対し,民法709条に基づく損害賠償義務も負うと解すべきである。
5控訴人の損害
(1)慰謝料
被控訴人Aの不法行為の態様,その後の経緯等の諸事情を総合して勘案すれば,
控訴人が被った精神的苦痛を慰謝するための額としては300万円が相当である。
(2)控訴人は,医師から「うつ病」「外傷後ストレス障害」と診断され,抑う
つ状態にあり,最近の診断ではPSTDに至り,改善には長期間の通院加療を要す
ると診断されているから,本件では,慰謝料のみならず,治療費,逸失利益等の賠
償が認められるべきであると主張し,医師の作成した平成21年4月26日付けの
診断書(甲2)には,「病名」として「うつ病」「外傷後ストレス障害」と記載さ
れ,「発病から現在までの病歴」の欄には,平成19年12月に社長にレイプされ
たために抑うつ状態に陥ったとの記載がある。
しかしながら,上記の診断書は,被控訴人Aが控訴人との性行為に及んだ1年4
か月後に控訴人の供述のみに基づいて作成されたものであるから,上記の診断書の
記載から,直ちに控訴人の現在の症状が平成19年12月に被控訴人Aと性交渉を
持ったことによって生じたと認めることはできない。そして,証拠(甲4の2ない
し5,甲15,乙イ1,乙ハ1,被控訴人A本人,被控訴人B本人)によれば,控
訴人は,被控訴人Aとの性交渉を持った後も平成20年2月までは通常どおり出勤
していたこと,平成20年1月上旬に控訴人が被控訴人Aに被控訴人Bとの関係を
打ち明けた後,被控訴人Aは控訴人に性交渉を求めなくなったが,その後も控訴人
は被控訴人Bと性交渉を含む親密な交際を続けたこと,控訴人は,平成20年3月
に,大学の卒業式に出席し,大学の友人との卒業旅行に出掛けることを希望してい
たが,被控訴人会社の勤務スケジュールのために参加できなかったことに不満を抱
き,また,先輩従業員が相次いで退職したことや,C店の売上げが良くないことな
どに対する不安等から被控訴人会社を退職することを決意したこと,平成20年9
月1日には別の会社に就職し,平成21年6月末に就職するまで勤務を続けていた
こと,控訴人は,本訴において,平成20年9月6日以降の治療費を請求している
が,平成20年4月にDと面談した際には治療費を請求していないこと等の事実が
認められ,これらの事実からすれば,控訴人に平成21年4月26日当時「うつ
病」「外傷後ストレス障害」の症状が認められたとしても,平成19年12月に被
控訴人Aと性交渉を持ったことと上記の症状との間に相当因果関係があるとは認め
難い。
(3)弁護士費用
本件事案の内容,審理経過,認容額等を考慮すると,弁護士費用の額としては,
30万円が相当である。
6以上によれば,控訴人の請求は,被控訴人A及び被控訴人会社に対し,連帯
して330万円及びこれに対する被控訴人Aによる不法行為の日の後である平成2
0年6月15日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払
を求める限度で理由があり,被控訴人A及び被控訴人会社に対するその余の請求並
びに被控訴人Bに対する請求は理由がないから,原審の判断のうち,被控訴人Bに
対する請求を棄却した部分は相当であるが,被控訴人A及び被控訴人会社に対する
請求を棄却した部分は一部不相当というべきである。
第4結論
よって,原判決のうち,控訴人の被控訴人A及び被控訴人会社に対する請求に関
する部分を変更し,控訴人の被控訴人Bに対する控訴を棄却することとして,主文
のとおり判決する。
東京高等裁判所第1民事部
裁判長裁判官福田剛久
裁判官孝橋宏
裁判官中野琢郎

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