弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
被告人を懲役6年に処する。
未決勾留日数中80日をその刑に算入する。
押収してある金属バット1本(平成15年押第14号の1)及び庭ホウキ1本(同
号の2)を没収する。
理由
(罪となるべき事実)
 被告人は,平成14年12月初旬ころから平成15年1月14日ころまでの間,大分県別
府市大字ab番地c所在のAアパートd号室の自宅において,次女B(当時5歳)に対し,
その頭部,背部,腰部,臀部及び両足等を金属バット(平成15年押第14号の1),庭ホ
ウキ(同号の2)及び手拳で殴打したり,足蹴りするなどの暴行を加え,同女に腰部,脊
椎部及び仙骨部打撲に起因する出血等の傷害を負わせ,よって,同月25日午後零時
22分ころ,大分県大分郡e町fg丁目h番地所在のC病院において,同女を上記傷害に
基づく低酸素性虚血性脳症により死亡するに至らせたものである。
(法令の適用)
 被告人の判示所為は刑法205条に該当するので,その所定刑期の範囲内で被告人
を懲役6年に処し,同法21条を適用して未決勾留日数中80日をその刑に算入し,押収
してある金属バット1本(平成15年押第14号の1)及び庭ホウキ1本(同号の2)は,判
示傷害致死の用に供した物で被告人以外の者に属しないから,同法19条1項2号,2
項本文を適用してこれらを没収し,訴訟費用については,刑事訴訟法181条1項ただし
書を適用して被告人に負担させないこととする。
(量刑の理由)
1 本件は,被告人が,自宅において,約1か月半にわたり,次女である被害者に対し,
金属バット等で腰部等を殴るなどの暴行を加えた結果,腰部等の打撲に起因する出
血に基づく低酸素性虚血性脳症により死亡するに至らせたという傷害致死の事案で
ある。
2 被告人は,本件以前から,長女及び被害者に対し,躾と称して体罰を加えていたとこ
ろ,被害者が,被告人の姉の子供のお金20円を持ち出したり,姉方のお菓子を勝手
に食べたりしたことに立腹し,これを契機として被害者に対し,金属バット等をも用い
る激しい暴力を振るうようになったものである。
  被告人は,母子家庭だからと馬鹿にされないように厳しい躾をしようとして体罰に及
んだなどと供述しているが,被告人は,短気な性格で飲酒すると言動が荒くなる傾向
があり,被害者が離婚した夫に似ていたことと相まって,被害者が被告人の気に入ら
ない行動をすると直ちに激しい暴行を加え,これを繰り返すうちに,躾目的ではなく,
暴行を加えること自体が暴行の目的となってしまった節すら窺われる。被告人は,幼
稚園へ通う長女と異なり,被害者は外部との接触が少ないことをいいことに,感情の
赴くままに後記のような激しい暴行を加えており,被害者の被る苦痛や恐怖に思いや
った形跡はない。結局,被告人の本件犯行は,躾の名の下に正当化される余地など
ない,被告人の感情にまかせた極めて理不尽かつ非情なものであって,その動機に
酌量の余地はない。
  そして,被告人は,5歳の子供に対して,平成14年12月初旬ころから翌15年1月半
ばまで約1か月半もの間,ほぼ毎日のように次のような多種多様な暴行等を加えてい
る。すなわち,道具を用いた暴行としては,金属バットや庭ホウキで頭部,背部,腰
部,臀部及び足などを殴打したり,金属バットの先端部分で被害者の足指を突きたた
いたりしており,道具を用いない暴行としては,髪の毛をつかんでむしったり,手拳や
平手で頭部及び顔面等を殴打し,つめで顔面及び腕等をつねりあげ,倒れた被害者
の腹部及び顔面等を足蹴にする等の暴行を執拗に繰り返していた。さらに被告人は,
自宅の玄関土間と居間を仕切る扉にかぎを取り付け,夜間寒冷な玄関土間に被害者
を幾度となく放置し,食事を1日1回程度しか与えず,場合によってはそれさえ抜くな
どし,長女が自分の食事を被害者に分けて与えようとした際にさえ,これを叱責して制
止するなどしていたものである。
  被害者はそのような中で衰弱し,前記暴行等により背中がぶよぶよに腫れ,頭髪
は,いわゆるまだらはげの状態になり,平成15年1月初旬には立つことも排便のた
めに移動することさえも自力でできなくなっていたが,被告人は自己の行為の発覚を
恐れて被害者に外出を禁じ,被害者の様子を見た姉夫婦の助言にもかかわらず,病
院に連れていくなどの必要な措置を講ぜず,まだらはげを隠すため女児である被害
者の頭髪を丸刈りにし,便や尿を垂れ流す被害者を汚いと罵ってさらに暴行を加えた
上,前記土間に放置していたものである。
  被害者は,このような被告人の虐待の末に死亡したのであって,被害者の遺体に残
った無数の打撲傷,出血斑,皮下血腫及び四肢の凍傷がその凄惨さを物語ってい
る。自宅という密室で一切の抵抗をしえない幼児に対して暴行を繰り返した被告人の
犯行態様は,残虐かつ陰湿というべきである。
  そして,本件犯行により,被害者は,わずか5歳でその短い生涯を終えざるを得なく
なったもので,生じた結果は重大である。のみならず,被害者は,本来なら慈しみ庇
護してもらえるはずの母親から,死に至るまでの間長期にわたって暴行等を受け続け
ていたものであり,その間に被害者が被った肉体的,精神的苦痛は極めて大きい。
  また,被告人の長女は,母親による妹に対する暴力を日々目の当たりにしていた
上,妹を失っているもので,本件により被った深刻な精神的打撃も看過できず,現在
は母親の不在によって児童相談所に入所を余儀なくされ,肉親の愛情のもとで育ま
れる可能性を奪われているものであって,本件が被告人の長女に与えた影響も大き
い。さらに,本件は前記のように実母が娘を虐待し続けた挙げ句死亡させた児童虐待
の事案であって,社会に与えた衝撃も軽視できない。
  なお,被告人は,公判廷において,犯行の動機や犯行時の感情等を自らの言葉で語
ろうとしないなど,本件犯行を直視するという観点からは,被告人の内省が十分でな
い面も窺われる。
  以上によれば,被告人の刑事責任は重大である。
3 他方,被告人は,一貫して本件犯行を認め,被害者らに対して謝罪し,被害者の冥
福を祈りたい旨述べていること,幼いころに両親が離婚して,長期間,施設での生活
を余儀なくされ,母親からの愛情を受けられず,また父親から強い暴力を受けるな
ど,生育歴に恵まれなかったこと,被告人には幼い長女がおり,同女を心配する様子
も見られること,被告人にはこれまで前科前歴がないこと,被告人の義理の叔母が当
公判廷に出廷し,被告人を支援する旨述べていることなど,被告人のために酌むべき
事情も認められるので,これらの事情を総合考慮して,主文のとおり刑の量定をした。
(求刑 懲役7年)
平成15年6月16日
大分地方裁判所刑事部
裁判長裁判官   鈴木浩美
裁判官   瀧岡俊文
裁判官   駒田秀和

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