弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決中上告人敗訴部分を破棄する。
     前項の部分につき本件を大阪高等裁判所に差し戻す。
         理    由
 上告代理人中村健太郎、同中村健の上告理由第一点について
 原審が適法に確定したところによれば、(1) 上告人は、被上告人との間の本件
当座勘定取引契約において、被上告人が当座勘定取引用として届け出た印鑑(以下
「本件取引印」という。)が押捺された手形、小切手について被上告人の当座預金
から支払をすることの委託を受けるとともに、偽造にかかる手形、小切手について
はその支払をしてはならないとの債務を負担していた、(2) ところが、上告人は、
本件取引印ではなく、本件当座勘定取引契約の締結及び本件取引印の届出に際して
使用された被上告人の実印(以下「本件実印」という。)が押捺された偽造にかか
る手形、小切手四通(以下「本件手形、小切手」という。)について、うち二通に
ついては実印が押捺されていれば本件取引印が押捺されていなくてもよいとして印
鑑照合手続をしたうえ、いずれも被上告人に対して支払委託の意思を照会すること
なくその当座預金から支払をした、というのである。
 右事実によれば、本件当座勘定取引契約においては、少なくとも日常的な手形、
小切手の取引は本件取引印のみで行う趣旨であつたということができるから、上告
人が、たとえ本件実印が押捺されているとはいえ、本件取引印の押捺されていない
偽造にかかる本件手形、小切手の支払をしたことは、本件当座勘定取引契約に基づ
いて被上告人に対して負担する前記債務の不履行にあたり、しかも、右支払に際し
て被上告人に対しとくに支払委託の意思を照会していない以上、右債務の不履行に
ついて過失のあることを免れえないものといわなければならない。右と同旨の原審
の判断は正当であつて、その過程に所論の違法はなく、論旨は採用することができ
ない。
 同第三点について
 民法四一八条は、「債務ノ不履行二関シ債権者ニ過失アリタルトキハ裁判所ハ損
害賠債ノ責任及ヒ其金額ヲ定ムルニ付キ之ヲ勘酌ス」と定めるところ、ここに「債
権者ニ過失アリタルトキ」とは、債権者自身に故意・過失があつたときだけでなく、
受領補助者その他取引観念上債権者と同視すべき者に故意・過失があつたときも含
むと解するのが相当である。これを本件についてみると、原審が適法に確定したと
ころによれば、(1) 本件手形、小切手は、本件当座勘定取引契約の当事者である
被上告人の経理担当事務員であつたDが、被上告人の大金庫に保管されていた手形、
小切手用紙とダイヤル式手提金庫に入れて被上告人代表者の机の引出しに保管され
ていた本件実印とを冒用して偽造したものである、(2) Dは、被上告人の売掛金、
買掛金等の記帳、集計、小口現金払等の業務を担当するほか、被上告人名義の手形、
小切手の振出についても、請求書等に基づいて本件取引印を押捺する以外のすべて
の事務を担当し、最後に被上告人の代表者に帳簿、請求書に基づいて説明したうえ、
右代表者みずから本件取引印を押捺して振出行為を完成するのが通常であつた、(
3) 被上告人の代表者は、本件実印をダイヤル式手提金庫に入れて自己の机の引
出しに入れ右引出しに鍵をかけて保管し、その鍵を手形、小切手用紙とともにダイ
ヤル及び鍵付大金庫の中に保管していたが、Dは、右手提金庫及び大金庫のダイヤ
ルナンバーを記憶し、かつ、常に大金庫の鍵を所持していた、(4) Dは、本件手
形、小切手を偽造するよりも以前から被上告人の代表者と特別の関係にあり、また、
右代表者の指示に基づき休眠会社を買収してその代表者に就任したりしていた、と
いうのである。
 右事実によれば、Dは、被上告人名義の手形、小切手の振出に関しては、被上告
人の経理担当事務員として、右手形、小切手に本件取引印を押捺することを除きそ
の余の一切の事務を処理していたもので、本件当座勘定取引契約に基づいて具体的
に被上告人名義の手形、小切手の支払委託に関する債権債務関係を発生せしめるに
ついては、右支払委託者である被上告人の補助者としてこれに関与する立場にあつ
たことが明らかであり、しかも、Dは、右のような立場を利用して本件手形、小切
手を偽造し、本件当座勘定取引契約に基づく具体的な支払委託の債権債務関係を発
生せしめたのであるから、上告人において本件手形、小切手の支払をしたことが本
件当座勘定取引契約上の債務不履行にあたり、かつ、それについて上告人に過失の
あることを免れえないとしても、これに対しては被上告人の補助者であるDがした
本件手形、小切手の偽造が直接的な原因を与えたものといわざるをえず、したがつ
て、上告人の右債務不履行に基づく損害賠償責任の有無及びその金額を算定するに
あたつては、Dの右行為を取引観念上債権者である被上告人と同視すべき者の有責
行為として斟酌しなければならないものと解するのが相当である。
 しかるに、原審は、上告人の過失相殺の主張について判断するにあたつては、被
上告人の代表者は、Dを信頼するの余り被上告人の経理面の細部を専ら同女に任せ
きりにしてその監督を十分にせず、手形、小切手の振出状況についても、上告人か
ら定期的に送付されてくる当座勘定元帳写や当座勘定照合表によりこれを把握する
ことを怠つていたものとし、右のような被上告人代表者のみの過失を斟酌して、上
告人が前記債務不履行によつて負担すべき損害額から本件(二)、(三)の小切手につ
いては一割五分、本件(四)の小切手については三割を減額するにとどまり、取引観
念上債権者である被上告人と同視すべき立場にあるDが本件手形、小切手を偽造し
上告人の債務不履行に対して直接的な原因を与えたこと自体についてなんら斟酌し
た形跡がないのであつて、原審の右判断には、過失相殺に関する民法の解釈適用を
誤り、ひいて理由不備の違法があるものといわなければならない。したがつて、右
と同旨に帰する論旨は理由があり、原判決はこの点において破棄を免れない。そし
て、本件については更に審理させる必要があるから、これを原審に差し戻すのが相
当である。
 よつて、その余の論旨に対する判断を省略し、民訴法四〇七条一項に従い、裁判
官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    谷   口   正   孝
            裁判官    団   藤   重   光
            裁判官    藤   崎   萬   里
            裁判官    中   村   治   朗
            裁判官    和   田   誠   一

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