弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人らの負担とする。
         理    由
 上告代理人前野宗俊、同三浦久、同吉野高幸、同高木健康、同中尾晴一、同住田
定夫、同配川寿好、同臼井俊紀、同横光幸雄、同尾崎英弥、同安部千春、同田邊匡
彦、同諫山博、同小泉幸夫、同小島肇、同井手豊継、同内田省司、同津田聡夫、同
林田賢一、同椛島敏雄、同宮原貞喜、同田中久敏、同田中利美の上告理由第一点に
ついて
 上告人Aの出生した昭和四七年当時、未熟児網膜症(以下「本症」という。)に
対する治療法として光凝固法を実施することがいまだいわゆる臨床医学の実践にお
ける医療水準にまで達していたものとはいえないとした原審の認定判断は、原判決
挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法
はない。論旨は、採用することができない。
 同第二点及び第三点について
 人の生命及び健康を管理すべき業務に従事する者は、その業務の性質に照らし、
実験上必要とされる最善の注意義務を要求されるのであるが(最高裁昭和三一年(
オ)第一〇六五号同三六年二月一六日第一小法廷判決・民集一五巻二号二四四頁参
照)、右注意義務の基準となるべきものは、一般的には診療当時のいわゆる臨床医
学の実践における医療水準であるというべきところ(最高裁昭和五四年(オ)第一
三八六号同五七年三月三〇日第三小法廷判決・裁判集民事一三五号五六三頁参照)、
上告人Aの出生した昭和四七年当時、本症に対する治療法として光凝固法を実施す
ることが右医療水準にまで達していたといえないことは前示のとおりであるから、
原審の適法に確定した事実関係のもとにおいて、小児科医D及び眼科医Eに過失が
あつたものとはいえないとしたうえ、被上告人の不法行為責任を認めることはでき
ないとした原審の判断は正当として是認することができる。D医師及びE医師の有
していた本症に対する治療法としての光凝固法に関する知識について、上告人らが
原審において主張するところは、具体性に乏しく、右の結論を左右するに足りるも
のではない。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官伊藤正己の補
足意見があるほか、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
 裁判官伊藤正己の補足意見は、次のとおりである。
 私も診療行為にあたる医師の注意義務の基準となるべきものは、一般的には、診
療当時の「いわゆる臨床医学の実践における医療水準」(以下、単に「医療水準」
という。)であると解するものであるが、この医療水準をどう考えるかについて若
干補足しておきたい。
 人の生命及び健康を管理すべき業務に従事する医師は、その業務の性質に照らし、
実験上必要とされる最善の注意義務を要求されるのであつて(最高裁昭和三一年(
オ)第一〇六五号同三六年二月一六日第一小法廷判決・民集一五巻二号二四四頁参
照)、右の義務を果たすためには、絶えず研さんし、新しい治療法についてもその
知識を得る努力をする義務(以下「研さん義務」という。)を負つているものと解
すべきである。もとより、医師は、必ずしもすべての診療を自ら行う必要はないが、
自ら適切な診療をすることができないときには、患者に対して適当な診療機関に転
医すべき旨を説明し、勧告すれば足りる場合があり、また、そうする義務(以下「
転医勧告義務」という。)を負う場合も考えられるのである。医療水準は、医師の
注意義務の基準となるものであるから、平均的医師が現に行つている医療慣行とで
もいうべきものとは異なるものであり、専門家としての相応の能力を備えた医師が
研さん義務を尽くし、転医勧告義務をも前提とした場合に達せられるあるべき水準
として考えられなければならない。そして、このような医療水準は、特定の疾病に
対する診療に当たつた医師の注意義務の基準とされるものであるから、当該医師の
置かれた諸条件、例えば、当該医師の専門分野、当該医師の診療活動の場が大学病
院等の研究・診療機関であるのか、それとも総合病院、専門病院、一般診療機関な
どのうちのいずれであるのかという診療機関の性格、当該診療機関の存在する地域
における医療に関する地域的特性等を考慮して判断されるべきものである。右のよ
うにいうべきものとすれば、特定の疾病に対する有効かつ安全な新しい治療法が一
般に普及して行く過程において、右治療法を施す義務ないしは右治療法を施すこと
を前提とした措置を講ずる義務又は転医勧告義務の存否が問題とされる場合には、
例えば大学病院等の研究・診療機関においては右治療法を施すこと等が義務とされ
ても、一般の診療機関においては自ら右治療法を施すこと等が義務とされないのは
もとより、右治療法を施すために大学病院等への転医を勧告することも義務とはさ
れない段階など、診療機関の性格等前記の諸条件に応じて種々の段階を想定するこ
とができるのであつて、前記の諸条件を考慮することなく、右治療法を施すこと等
が義務であるか否かを一律に決することはできないものといわざるをえない。この
意味において、医療水準は、全国一律に絶対的な基準として考えるべきものではな
く、前記の諸条件に応じた相対的な基準として考えるべきものである。
 これを本件についてみるに、未熟児網膜症(以下「本症」という。)に対して光
凝固法を実施することないし光凝固法を実施することを前提とした措置を講ずるこ
と又は光凝固法を実施することを前提として転医を勧告することが全国的にみて医
療水準にまで達したといえる段階に至るまでには、種々の段階があることはいまさ
らいうまでもないところである。全国的にみて医療水準に達したといえる段階に至
らなければ、本症に対する治療法としての光凝固法について知見を有しない眼科、
小児科、産婦人科等未熟児の診療に関係を有する専門分野の医師のすべてについて
責任を問われないと解するとするならば、本症に罹患した場合には失明という重大
な結果に至ることが予想されるだけに、余りにも狭すぎる解釈というべきである。
前述したところによれば、右のような段階に至る前の段階においても、眼科等特定
の専門分野の、あるいは特定の性格、機能を有する診療機関の、更には特定の地域
の医師等の医療水準に照らして、本症に対して光凝固法を実施し若しくはこれを実
施することを前提とした措置を講じ、あるいは患者等に対して適当な診療機関への
転医を勧告すること等が要求される場合もありうるのである。その場合に、当該特
定の専門分野、診療機関又は地域等の臨床医が、光凝固法について知見を有しない
ため適切な措置を講じなかつたときには、研さん義務を怠つたものとして法的責任
を問われることになるというべきである。原判決は右の観点からの検討が必ずしも
十分ではないといわなければならない。しかし、原判決挙示の証拠関係を検討して
みると、右の観点からしても、上告人Aが出生した当時の北九州市におけるF病院
のような総合病院の眼科医又は小児科医にとつて、本症に対する治療法として光凝
固法を実施することが医療水準にまで達していたとはいえないとすることも首肯し
えないものではないので、結局、原判決の結論は是認することができるものという
べきである。
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    坂   上   壽   夫
            裁判官    伊   藤   正   己
            裁判官    安   岡   滿   彦
            裁判官    長   島       敦

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