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平成25年3月13日判決言渡同日原本領収裁判所書記官
平成23年(ワ)第34272号特許専用実施権に基づく損害賠償請求事件
口頭弁論終結日平成24年12月5日
判決
群馬県藤岡市<以下略>
原告株式会社スター
同訴訟代理人弁護士橋爪健
同訴訟代理人弁理士近藤豊
大分県日田市<以下略>
被告三幸スラッシャーこと

同訴訟代理人弁護士伊藤真
同平井佑希
同訴訟代理人弁理士梶原克彦
主文
1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
被告は,原告に対し,金8000万円及びこれに対する平成23年10月2
9日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要
本件は,発明の名称を「板金用引き出し具」とする2つの特許権について,
独占的通常実施権ないし専用実施権を有する原告が,被告の製造販売に係る板
金用引出装置が当該各特許権を侵害しているなどと主張して,不法行為に基づ
く損害賠償請求(特許法102条1項による推定)として,2億5634万6
000円の一部である8000万円(附帯請求として訴状送達日の翌日である
平成23年10月29日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延
損害金)の支払を求めた事案である。
1前提事実(後記(6)を除いて証拠等を掲記した事実以外は当事者間に争いが
ない。)
(1)当事者
ア原告
原告は,自動車のボディ,ドア等の補修に用いる板金用引出具の製造販
売等を業とする株式会社である。
(甲7,弁論の全趣旨)
イB
Bは,原告の代表取締役を務める者である。
(当裁判所に顕著)
ウ被告
被告は,「三幸スラッシャー」の商号を使用して,自動車の板金面の凹
部補修に使用する器具の製造販売等を業とする者である。
(2)特許第2131886号
アBは,次の特許権を有する(当該特許権を「本件特許権1」という。本
件特許権1に係る特許公報〔甲2〕を末尾に添付し,これを「本件1明細
書」という。)。
特許番号第2131886号
出願日平成3年11月24日
出願番号特願平7-134722
出願公告日平成8年3月27日
公告番号特公平8-29343
発明の名称板金用引出し具
登録日平成9年9月5日
実願平3-104265を原出願とする分割出願(実願平4-6535
7)の変更出願である。
イ(ア)Bと原告は,本件特許権1について,下記の各契約日に,下記の各
期間において,地域を日本全国及び内容を全部とする完全独占的通常実
施権を設定する旨の契約をそれぞれ締結した。
a契約日平成9年9月5日
期間平成9年9月5日から平成14年9月4日まで
b契約日平成14年9月5日
期間平成14年9月5日から平成23年11月24日まで
(甲5の1及び2)
(イ)また,Bは,原告に対し,本件特許権1について,下記の各設定日
に,下記の各期間において,地域を日本全国及び内容を全部とする専用
実施権をそれぞれ設定し,下記の各登録日に登録をした。
a設定日平成11年10月14日
登録日平成11年12月21日
期間平成11年10月14日から平成16年10月13日まで
b設定日平成19年9月12日
登録日平成19年10月29日
期間平成19年9月12日から平成23年11月24日まで
(甲1)
ウ本件特許権1の請求項1に係る発明(以下「本件発明1」という。)は,
次のとおりである。
「【請求項1】ねじ部が刻設されたシャフトと,該シャフトの一端に設け
たシャフト回動用のハンドルと,前記シャフトの先端部に配設し板金面に
溶着可能なビットを備えた第1の操作手段と,
該第1の操作手段のシャフトのねじ部が螺合し前記第1の操作手段を回
動自在に支持する支持部を備え,手動操作により前記第1の操作手段を引
き上げる第2の操作手段と,
前記第2の操作手段を支承する脚体とを具備し,
前記第2の操作手段が,メインレバーと,セカンドレバーと,このメイ
ンレバーとセカンドレバーとを連結する連結アームとより構成され,
前記第1の操作手段に電源コードを接続するためのコード接続部が形成
され,
前記シャフトに圧縮コイルばねを巻装しかつこの圧縮コイルばねを前記
メインレバーとセカンドレバー間に介在させて前記セカンドレバーを付勢
させ,前記セカンドレバーを前記圧縮コイルばねに抗しながら引き上げて
板金面の引き出しを行うことを特徴とする板金用引出し具。」
(3)特許第2876402号
アBは,次の特許権を有する(当該特許権を「本件特許権2」という。本
件特許権2に係る特許公報〔甲4〕を末尾に添付し,これを「本件2明細
書」という。)。
特許番号第2876402号
出願日平成3年11月24日
出願番号特願平9-124950
発明の名称板金用引出し具
登録日平成11年1月22日
実願平3-104265を原出願とする本件特許権1に係る特許出願の
分割出願である。
イ(ア)Bと原告は,本件特許権2について,下記の各契約日に,下記の各
期間において,地域を日本全国及び内容を全部とする完全独占的通常実
施権を設定する旨の契約をそれぞれ締結した。
a契約日平成11年1月22日
期間平成11年1月22日から平成16年1月21日まで
b契約日平成16年1月22日
期間平成16年1月22日から平成23年11月24日まで
(甲6の1及び2)
(イ)また,Bは,原告に対し,本件特許権2について,下記の各設定日
に,下記の各期間において,地域を日本全国及び内容を全部とする専用
実施権をそれぞれ設定し,下記の各登録日に登録をした。
a設定日平成11年10月14日
登録日平成11年12月21日
期間平成11年10月14日より平成16年10月13日まで
b設定日平成19年9月12日
登録日平成19年10月29日
期間平成19年9月12日より平成23年11月24日まで
(甲3)
ウ本件特許権2の請求項1~3に係る発明(以下,順に「本件発明2」
「本件発明3」「本件発明4」という。)は,次のとおりである。
「【請求項1】シャフトと,該シャフトの先端部に配設し板金面に溶着可
能なビットを備えた第1の操作手段と,該第1の操作手段のシャフトを支
持する支持部を備え,手動操作により前記第1の操作手段を引き上げる第
2の操作手段と,
該第2の操作手段を支承する脚体とを具備し,
前記第2の操作手段を,メインレバーと,セカンドレバーと,このメイ
ンレバーとセカンドレバーとの間に介在させたばねを含んで構成し,この
ばねにより前記セカンドレバーを付勢させ,前記メインレバーとセカンド
レバー間を前記ばねに抗しながらつぼめて板金面の引き出しを行うことを
特徴とする板金用引出し具。」
「【請求項2】前記支持部に前記シャフトを保持する貫通部が形成されて
いる請求項1に記載の板金用引出し具。」
「【請求項3】シャフトの先端部に配設し板金面に溶着可能なビットを備
えた第1の操作手段と,
該第1の操作手段を支持する支持部と,
前記第1の操作手段の引き上げを行う第2の操作手段と,
該第2の操作手段を支承する脚体とを具備し,
前記第2の操作手段を,メインレバーと,セカンドレバーと,このメイ
ンレバーとセカンドレバーとの間に介在させたばねを含んで構成し,この
ばねにより前記セカンドレバーを付勢させ,前記メインレバーとセカンド
レバー間を前記ばねに抗しながらつぼめて板金面の引き出しを行うことを
特徴とする板金用引出し具。」
(4)構成要件の分説
本件各発明を構成要件に分説すると,次のとおりである(以下「構成要件
A」などという。)。
ア本件発明1
Aねじ部が刻設されたシャフトと,該シャフトの一端に設けたシャフト
回動用のハンドルと,前記シャフトの先端部に配設し板金面に溶着可能
なビットを備えた第1の操作手段と,
B該第1の操作手段のシャフトのねじ部が螺合し前記第1の操作手段を
回動自在に支持する支持部を備え,手動操作により前記第1の操作手段
を引き上げる第2の操作手段と,
C前記第2の操作手段を支承する脚体とを具備し,
D前記第2の操作手段が,メインレバーと,セカンドレバーと,このメ
インレバーとセカンドレバーとを連結する連結アームとより構成され,
E前記第1の操作手段に電源コードを接続するためのコード接続部が形
成され,
F前記シャフトに圧縮コイルばねを巻装しかつこの圧縮コイルばねを前
記メインレバーとセカンドレバー間に介在させて前記セカンドレバーを
付勢させ,
G前記セカンドレバーを前記圧縮コイルばねに抗しながら引き上げて板
金面の引き出しを行うことを特徴とする
H板金用引出し具。
イ本件発明2
Iシャフトと,該シャフトの先端部に配設し板金面に溶着可能なビット
を備えた第1の操作手段と,
J該第1の操作手段のシャフトを支持する支持部を備え,手動操作によ
り前記第1の操作手段を引き上げる第2の操作手段と,
K該第2の操作手段を支承する脚体とを具備し,
L前記第2の操作手段を,メインレバーと,セカンドレバーと,このメ
インレバーとセカンドレバーとの間に介在させたばねを含んで構成し,
Mこのばねにより前記セカンドレバーを付勢させ,
N前記メインレバーとセカンドレバー間を前記ばねに抗しながらつぼめ
て板金面の引き出しを行うことを特徴とする
P板金用引出し具。
ウ本件発明3
Q前記支持部に前記シャフトを保持する貫通部が形成されている
R請求項1に記載の板金用引出し具。
エ本件発明4
Sシャフトの先端部に配設し板金面に溶着可能なビットを備えた第1の
操作手段と,
T該第1の操作手段を支持する支持部と,
U前記第1の操作手段の引き上げを行う第2の操作手段と,
V該第2の操作手段を支承する脚体とを具備し,
W前記第2の操作手段を,メインレバーと,セカンドレバーと,このメ
インレバーとセカンドレバーとの間に介在させたばねを含んで構成し,
Xこのばねにより前記セカンドレバーを付勢させ,
Y前記メインレバーとセカンドレバー間を前記ばね抗しながらつぼめて
板金面の引き出しを行うことを特徴とする
Z板金用引出し具。
(5)被告の行為
被告は,業として,①「サンコーパンチ」,②「ハンドプーラー」を製造
販売している(なお,原告は,上記①について,被告が「パンチプーラ」の
商品名も使用している旨を主張する。)。
(6)被告製品の特定と説明
原告は,上記(5)①と②を併せて「板金用引出装置」(以下「イ号製品」
という。),上記(5)②を「引出補助カセット」(以下「ロ号製品」といい,
イ号製品と併せて「被告製品」という。)として特定し,別紙原告イ号製品
説明書記載のとおりイ号製品を,別紙原告ロ号製品説明書記載のとおりロ号
製品をそれぞれ説明する。
他方で,被告は,上記(5)①を「引出具」,上記(5)②を「引出補助具」と
して特定し,別紙被告引出具説明書記載のとおり「引出具」を,別紙被告引
出補助具説明書記載のとおり「引出補助具」をそれぞれ説明する(なお,甲
12(特許第4551587号公報)を末尾に添付する。)。
2争点
(1)被告製品が本件各発明の技術的範囲に属するか。
アイ号製品の本件発明1の充足性(争点1-1)
イイ号製品の本件発明2の充足性(争点1-2)
ウイ号製品の本件発明3の充足性(争点1-3)
エイ号製品の本件発明4の充足性(争点1-4)
オロ号製品の間接侵害の有無(争点1-5)
(2)本件発明2~4に係る特許が特許無効審判により無効にされるべきもの
であるか。
ア記載要件違反の有無(争点2-1)
イ進歩性要件違反の有無(争点2-2)
(3)損害額(争点3)
3争点に関する当事者の主張
(1)被告製品が本件各発明の技術的範囲に属するか。
以下,被告製品について,括弧が付されていない符号は別紙原告イ号製品
説明書及び原告ロ号製品説明書の図面のもの,括弧が付された符号は甲12
(特許第4551587号公報)の図のものである。
アイ号製品の本件発明1の充足性(争点1-1)
(原告の主張)
(ア)構成要件Aの充足性
aイ号製品の構成要件Aに対応する構成は,別紙原告イ号製品説明書
記載a-1である。
bイ号製品が板金を引き出す作業を行うに際しては,シャフト装着部
13は,シャフト12と一体となっており,板金面を引き上げる引出
具としての構成を具備することになる。
この点,本件発明1においては,シャフトにねじ部を形成(刻設)
しているのに対し,イ号製品においては,シャフト装着部13にねじ
部13Bを形成し,シャフト12とシャフト装着部13を別体により
形成し部品点を「2」として形成したものである。
cイ号製品におけるハンドル11は溶接チップ先端と板金面との溶着
を解除するためのものであるところ(甲12【0043】),本件発
明1における「ハンドル11」もビット先端と板金面との溶着を解く
ためのものでもある(本件1明細書【0037】参照)。
dさらに,イ号製品のシャフトは板金面に溶着可能な溶接チップを備
えている。
eよって,イ号製品は構成要件Aを充足する。
(イ)構成要件Bの充足性
aイ号製品の構成要件Bに対応する構成は,別紙原告イ号製品説明書
記載b-1である。
b本件発明1においては,シャフトにねじ部を形成(刻設)している
のに対し,イ号製品においては,シャフト装着部13にねじ部13B
を形成し,シャフト12とシャフト装着部13を別体により形成し部
品点を「2」として形成したものである。被告の主張は,イ号製品に
よる荒出し作業後の細部の引き出しや,狭い(小さい)凹部の補修を
行なう場合のメカニズム,その際のシャフト12とシャフト装着部1
3の一体性を無視するものである。
c本件発明1の第2の操作手段20は,第1の操作手段10を支持し
手動操作により第1の操作手段10を引き上げる手段であり,板金作
業時に板金面が平滑化したことを確認した後にハンドル11を回動さ
せてビット先端と板金面の溶着を解くものである(本件1明細書【0
037】参照)。この点,イ号製品の引出補助具20も引出具10を
支持し,引出補助具20は引出具10と協動してはじめて板金面を引
き出すことに寄与し,引出具10を引出補助具20に取り付けた状態
において,引出具10は引出補助具20に回動自在に支持されるとこ
ろ,板金作業時に板金面が平らになったことを確認した後に引出具2
0をねじって(回動させ),溶接チップ15の先端と板金面との溶接を
解除するものである(甲12【0043】参照)。
dイ号製品の引出補助具20は,手動操作により引出具10を引き上
げ,引出具10と協働して板金面の引き出しに寄与するものである。
eよって,イ号製品は構成要件Bを充足する。
(ウ)構成要件Cの充足性
イ号製品の構成要件Cに対応する構成は,別紙原告イ号製品説明書記
載c-1である。
イ号製品は,引出補助具20を支承する脚体90を具備するから,構
成要件Cを充足する。
(エ)構成要件Dの充足性
イ号製品の構成要件Dに対応する構成は,別紙原告イ号製品説明書記
載d-1である。
イ号製品は,グリップ30と操作レバー40とを連絡する補助具本体
60を備え,本件発明1の「連結アーム」は,イ号製品の「グリップ」の
延長部分である補助具本体に対応するから,イ号製品は構成要件Dを充
足する。
(オ)構成要件Eの充足性
イ号製品の構成要件Eに対応する構成は,別紙原告イ号製品説明書記
載e-1である。
イ号製品は,引出具10に電源コード105を接続するためのコード
接続部10Aが形成されているから,構成要件Eを充足する。
(カ)構成要件Fの充足性
イ号製品の構成要件Fに対応する構成は,別紙原告イ号製品説明書記
載f-1である。
イ号製品は,引出具のシャフトを引出補助具に装着してはじめて板金
用引出装置として機能するところ,引出具10を引出補助具20に取り
付けた状態では,圧縮コイルばね14は,シャフト装着部13と支持部
50とシャフト12を巻装し,少なくともシャフト12を巻装する。
圧縮コイルばね14の下端は,支持部50に形成されるフランジ部5
3の頂面に当接し,一方,前記圧縮コイルばね14の上端は,補助具本
体60の第1の貫通孔62の周縁に形成される下向段部64に当接し,
前記圧縮コイルばね14をグリップ30と操作レバー40との間に介在
させて前記操作レバー40を付勢させる。
よって,イ号製品は構成要件Fを充足する。
(キ)構成要件Gの充足性
イ号製品の構成要件Gに対応する構成は,別紙原告イ号製品説明書記
載g-1である。
イ号製品は,操作レバー40を圧縮コイルばね14に抗しながら引き
上げて板金面の引き出しを行なうものであるから,構成要件Gを充足す
る。
(ク)構成要件Hの充足性
イ号製品の構成要件Hに対応する構成は,別紙原告イ号製品説明書記
載h-1である。
「ハンドプーラー」は,「ハンドプーラー」自体では板金作業に何ら
寄与せず,また,「サンコーパンチ」もそれのみでは,凹部の引き出し
に要する力を調整しながら凹部の補修を行うことができない。「サンコ
ーパンチ」と「ハンドプーラー」を合体させ「板金用引出装置」を構成
してはじめて,凹部の引き出しに要する力を調整しながら凹部の補修を
行うことを可能とする。
よって,イ号製品は構成要件Hを充足する。
(被告の主張)
(ア)構成要件Aの充足性について
a原告主張のシャフト装着部13は,引出具のシャフトを着脱自在に
保持する装着部(35)を構成する部材であり,被告引出具が備える
ものではない。
そもそも原告主張のねじ部13Bは,引出具のシャフトを着脱自在
に保持する装着部(35)を構成する筒状の調整部(354)の外周
面に形成されており,被告引出補助具を使用する際には,当該ねじ部
を備えている筒状の調整部は被告引出補助具の筒状の装着部本体(3
52)に螺合された状態のまま使用される。原告は,被告引出補助具
から前記調整部(354)をわざわざ取り外し,被告引出具のシャフ
トに挿通して,あたかも被告引出具の一部であるかのように主張する
が,被告引出具と前記調整部(354)は何ら固定されておらず,ま
た,固定できるようにもなっておらず,被告引出具の部材と評価する
ことは明らかに失当である。
以上のとおり,被告引出具は「ねじ部が刻設されたシャフト」を備
えていない。
b本件1明細書には,以下の記載がある。
「【0010】
本発明の更にもう一つ他の目的は,板金面の凹部の具合に最適な引
き出し加減をあらかじめセットでき,」
「【0040】
【発明の効果】…
⑦第2の操作手段の支持部に第1の操作手段が回動自在に支持され,
第1の操作手段のハンドルを回動してビットを昇降させることにより,
板金面の凹部の深さに応じてビットの位置を自由に調節しうる構成と
なっているため,最適な引き出し加減を板金前にあらかじめセットで
き,板金作業を極めて的確に行うことができる。」
このように,本件発明1における「シャフト回転用のハンドル」と
は,第1の操作手段のねじ部が刻設されたシャフトが第2の操作手段
の支持部に螺合されて支持されていることから,第1の操作手段のね
じ部が刻設されたシャフトを回動させ,第1の操作手段の先端に設け
られた溶着用ビットを昇降させて板金面の凹部の深さに応じてビット
の位置を自由に調節するためのハンドルであると解される。
そうすると,被告引出具のグリップ(21)を回動させても,引出
具の先端に設けられた溶接チップ(23)は昇降せず,板金面の凹部
の深さに応じてチップの位置を自由に調節することはできないから,
被告引出具は,「シャフト回転用のハンドル」を備えていない。
c被告引出具のシャフト(24)には,ねじ部が刻設されておらず,
また,シャフトの一端にシャフト回動用のハンドルも設けられていな
い。したがって,被告引出具のシャフトが「前記シャフト」に該当し
ない点を措いて,その先端部に板金面に溶着可能なチップ(チップが
本件発明1のビットに相当することは認める)を備えている点は認め
る。
(イ)構成要件Bの充足性について
a構成要件Aの充足性で主張したとおり,被告引出具のシャフト(2
4)には,ねじ部が刻設されていないから,「該第1の操作手段のシ
ャフトのねじ部が螺合」する支持部を備えていない。
b本件発明1における「回動」及び「回動自在」並びに「支持」とは,
上記(ア)の「シャフト回転用ハンドル」と同様に,本件1明細書【0
040】の記載から,第1の操作手段の先端に設けられた溶着用ビッ
トを昇降させて板金面の凹部の深さに応じてビットの位置を自由に調
節するために螺合されたシャフトを回転させること及びそのような回
動が自在であること,螺合して支えることと解される。
そうすると,被告引出具のシャフトを回転させても,引出具の先端
に設けられた溶接チップ(23)は昇降せず,板金面の凹部の深さに
応じてチップの位置を自由に調節することはできないし,被告引出補
助具は被告引出具と螺合して支えているものではないので,被告引出
具は支持部に「回動自在」に「支持」されているとはいえず,被告引
出補助具も被告引出具を回動自在に支持する支持部を備えているとは
いえない。
c被告引出具が本件発明1の「第1の操作手段」に,被告引出補助具
から脚部(甲12の脚部(34))を除いたものが本件発明1の「第
2の操作手段」にそれぞれ該当しないという点を措いて,手動操作に
より被告引出具を被告引出補助具が引き上げるという限りにおいて認
める。
(ウ)構成要件Cの充足性について
被告引出補助具から脚部(甲12の脚部(34))を除いたものが本
件発明1の「第2の操作手段」に該当しないという点を措いて,かかる
部分を脚部が支持しているという限りにおいて認める。
(エ)構成要件Dの充足性について
本件発明1における「第2の操作手段」は,構成要件D,本件1明細
書【0024】や各図面に記載のとおり,「メインレバー」,「セカン
ドレバー」及び「連結アーム」の3つの部材から構成されているが,被
告引出補助具(から脚部を除いた部分)は,引出補助具本体(31)と,
シャフトを着脱自在に保持する装着部(35)と,操作レバー(32)
から構成されている。
この点,原告は,被告引出補助具の補助具本体(31)を恣意的にグ
リップ(30)と補助具本体(60)などと分けて論じているが,被告
引出補助具(から脚部を除いた部分)は,メインレバーとセカンドレバ
ーと,このメインレバーとを連結する連結アームとにより構成されてい
るとはいえない。
以上により,被告引出補助具は構成要件Dを充足しない。
(オ)構成要件Eの充足性について
被告引出具は構成要件Eに相当するコード接続部を備えていない。構
成要件Eのコード接続部は,第1の操作手段に備わっているものである
が,本件1明細書【0023】に記載されているように,シャフトの一
端部12Aが螺着する構造のものであり,図1~5に示すように,クラ
ンプ式接続具100が取着される部分である。クランプ式接続具100
は,第1のクランプ手段101と第2のクランプ手段102を備えてな
るものである(【0032】)。構成要件Eのコード接続部には上記ク
ランプ接続具以外の接続具が接続されるという記載は,本件1明細書に
はない。
そして,本件発明1の効果として,
「【0040】
【発明の効果】…
②引出し具本体に装着した状態でクランプ部分が自在に回動するため,
常に板金用引出し具の最適な位置どりを自由に選定できる。
③引出し具本体と電源との電気的接続をクランプ部分を介して行うた
め,安定した電気的接触が得られるとともに,接続コードの損傷が少な
く,又使用時にクランプ部分が回動するためクランプ式接続具の疲労も
少ない。」との記載がある。
上記のように,シャフトを回動させてビットの高さを調整するために
は,上記②③の作用効果を奏する必要があるところ,被告引出具のグリ
ップにはコードが固着されるのである。
したがって,被告引出具は,構成要件Eのコード接続部が形成されて
いるということはできない。
(カ)構成要件Fの充足性について
a甲12の各図や別紙原告イ号製品説明書第2図でも明らかなとおり,
被告引出具のシャフトには,圧縮コイルばねが巻装されていない。被
告引出具を被告引出補助具に支持させた状態においても,ばね(3
6)は,シャフトを着脱自在に保持する装着部(35)に巻装されて
おり,シャフトに巻装されているものではない。
被告引出具及び被告引出補助具は,「前記シャフトに圧縮コイルば
ねを巻装し」たものではない。
b被告引出補助具は,補助具本体(31)と,シャフトを着脱自在に
保持する装着部(35)と,操作レバー(32)から構成されている
ため,「連結アーム」を含めて3つの部材の存在を前提とした「メイ
ンレバー」及び「セカンドレバー」に対応する部材がない。
さらに,被告引出補助具においては,ばねは,引出具のシャフトを
着脱自在に保持する装着部(35)に巻装され,装着部本体(35
2)のフランジ(351)と引出補助具本体(31)の中空部(31
0)側の内面に形成された溝部(315)との間に介在し,前記装着
部(35)を付勢している。
したがって,被告引出補助具においては,ばねは引出補助具(のグ
リップ)と操作レバーとの間に介在しておらず,また操作レバーを付
勢しているものでもない。
また,原告の主張を前提としても,被告引出補助具のばねは,第1
の貫通孔62の存する補助具本体60の内部に存在するのであり,グ
リップ30と操作レバー40との間に存在しているものではない。
被告引出具及び被告引出補助具は,「この圧縮コイルばねを前記メ
インレバーとセカンドレバー間に介在させて前記セカンドレバーを付
勢させ」るものではない。
c以上により,被告引出具及び被告引出補助具は構成要件Fを充足し
ない。
(キ)構成要件Gの充足性について
被告引出補助具の操作レバーが本件発明1の「セカンドレバー」に該
当しないという点及び圧縮コイルばねの介在箇所の差異,ばねが付勢し
ているのが引出具のシャフトを着脱自在に保持する装着部である点を措
いて,被告引出補助具の操作レバーを圧縮コイルばねに抗しながら引き
上げて板金面の引き出しを行うという限りにおいて認める。
(ク)構成要件Hの充足性について
被告引出具と被告引出補助具とは全く別個の製品であり,2つが一体
として板金用引出装置を構成するものではない。両者を組み合わせて使
用できることをもって,1つの板金用引出装置と評価することはできな
い。
したがって,被告引出具と被告引出補助具は構成要件Hを充足しない。
イイ号製品の本件発明2の充足性(争点1-2)
(原告の主張)
(ア)構成要件Iの充足性
イ号製品の構成要件Iに対応する構成は,別紙原告イ号製品説明書記
載a-1である。
本件2明細書【0005】【0006】【0008】【0012】
【0014】【0015】【0018】【0030】【0032】の記
載に照らすならば,本件発明2のシャフトには,ねじ部が刻設されてい
ないシャフトも含まれるものと解される。文理上も,本件発明2のシャ
フトにはねじ部が刻設されていないシャフトを含むものと解される。
さらに,イ号製品のシャフトは板金面に溶着可能な溶接チップを備え
ている。
よって,イ号製品は構成要件Ⅰを充足する。
(イ)構成要件Jの充足性
イ号製品の構成要件Jに対応する構成は,別紙原告イ号製品説明書記
載b-1である。
支持部の「支持」とは「ささえること。ささえて持ちこたえるこ
と。」(広辞苑:岩波書店)」を意味し,本件発明2における「支持
部」の技術的意義は明確である。
本件2明細書【0005】【0006】【0008】【0012】
【0014】【0015】【0018】【0030】【0032】の記
載に照らすならば,本件発明2における第2の操作手段の支持部は,第
1の操作手段のシャフトを支持するものである。本件発明2における第
2の操作手段の支持部は,第1の操作手段のシャフトに刻設されたねじ
部と螺合することで,第1の操作手段を回動自在に支持する部材である
と解釈しなければならない合理的な理由はない。
イ号製品の引出補助具20は,手動操作により引出具10を引き上げ,
引出具10と協働して板金面の引き出しに寄与するものである。
よって,イ号製品は構成要件Jを充足する。
(ウ)構成要件Kの充足性
イ号製品の構成要件Kに対応する構成は,別紙原告イ号製品説明書記
載c-1である。
イ号製品は,引出補助具20を支承する脚体90を具備するから,構
成要件Kを充足する。
(エ)構成要件Lの充足性
イ号製品の構成要件Lに対応する構成は,別紙原告イ号製品説明書記
載d-1,f-1である。
イ号製品は,グリップ30と,操作レバー40と,このグリップ30
と操作レバー40を連絡する補助具本体60を具備している。
圧縮コイルばね14の下端は,支持部50に形成されるフランジ部5
3の頂面に当接し,一方,前記圧縮コイルばね14の上端は,補助具本
体60の第1の貫通孔62の周縁に形成される下向段部64に当接し,
前記圧縮コイルばね14をグリップ30と操作レバー40との間に介在
させて前記操作レバー40を付勢させる。
よって,イ号製品は構成要件Lを充足する。
(オ)構成要件Mの充足性
イ号製品の構成要件Mに対応する構成は,別紙原告イ号製品説明書記
載f-1である。
圧縮コイルばね14の下端は,支持部50に形成されるフランジ部5
3の頂面に当接し,一方,前記圧縮コイルばね14の上端は,補助具本
体60の第1の貫通孔62の周縁に形成される下向段部64に当接し,
前記圧縮コイルばね14をグリップ30と操作レバー40との間に介在
させて前記操作レバー40を付勢させる。
よって,イ号製品は構成要件Mを充足する。
(カ)構成要件Nの充足性
イ号製品の構成要件Nに対応する構成は,別紙原告イ号製品説明書記
載g-1である。
イ号製品は,操作レバー40を圧縮コイルばね14に抗しながら引き
上げて板金面の引き出しを行なうものであるから,構成要件Nを充足す
る。
(キ)構成要件Pの充足性
イ号製品の構成要件Pに対応する構成は,別紙原告イ号製品説明書記
載h-1である。
「ハンドプーラー」は,「ハンドプーラー」自体では板金作業に何ら
寄与せず,また,「サンコーパンチ」もそれのみでは,凹部の引き出し
に要する力を調整しながら凹部の補修を行うことができない。「サンコ
ーパンチ」と「ハンドプーラー」を合体させ「板金用引出装置」を構成
してはじめて,凹部の引き出しに要する力を調整しながら凹部の補修を
行うことを可能とする。
よって,イ号製品は構成要件Pを充足する。
(被告の主張)
(ア)構成要件Iの充足性について
a本件2明細書【0007】【0032】には,以下のとおり記載さ
れている。
「【0007】
本発明の更にもう一つ他の目的は,板金面の凹部の具合に最適な引
き出し加減をあらかじめセットでき,」
「【0032】
【発明の効果】本発明は以上の如く構成され,本発明によれば次の
効果を奏する。

③第2の操作手段の支持部に第1の操作手段が回動自在に支持され,
第1の操作手段のハンドルを回動してビットを昇降させることにより,
板金面の凹部の深さに応じてビットの位置を自由に調整し得る構成と
なっているため,最適な引き出し加減を板金前にあらかじめセットで
き,」
そして,本件2明細書に開示された唯一の実施例をみても,【00
15】【0018】には,
「【0015】
…又このシャフト12の略中央部から基端部にかけてねじ部13が
刻設され,このねじ部13が後述する第2の操作手段20の支持部5
0に螺合し,前記第1の操作手段10は前記第2の操作手段20に回
動自在に支持される。」
「【0018】
…前記支持部50は,中央貫通孔(貫通部)52にめねじ部を形成
した支持部材51を前記くり抜き部42内に収容しねじ48,49に
より前記セカンドレバー40に固定して構成される。かくして,前記
支持部材51の貫通孔(貫通部)52と前記シャフト12のねじ部1
3が螺合し,前記第1の操作手段10は前記第2の操作手段に20に
回動自在に支持される。」
と記載され,図5においても,シャフト12には,ねじ部13が刻設
されている。
このように,本件発明2におけるシャフトとは,発明の詳細な説明
からは,ねじ部が刻設されたシャフトを意味すると解釈せざるを得な
い。
そうすると,被告引出具のシャフトにはねじ部が刻設されていない
ことから,被告引出具は,本件発明2の「シャフト」を備えていない。
b上記ア(被告の主張)(ア)と同様,被告引出具のシャフト部には,
ねじ部が刻設されておらず,被告引出具のシャフトが「前記シャフ
ト」に該当しない点を措いて,その先端部に板金面に溶着可能なチッ
プ(チップが本件発明2のビットに相当することは認める)を備えて
いる点は認める。
c被告引出具は,「シャフトと,該シャフトの」の部分を充足しない
から,被告引出具は構成要件Iを充足しない。
(イ)構成要件Jの充足性について
a上記(ア)の本件2明細書【0007】【0032】【0015】
【0018】の記載から,本件発明2の内容を理解するとすれば,本
件発明2における第2の操作手段の「支持部」とは,第1の操作手段
のシャフトに刻設されたねじ部と螺合することで,第1の操作手段を
回動自在に支持する部材であると解釈せざるを得ない。
そうすると,被告引出具のシャフトにはねじ部が刻設されておらず,
被告引出補助具もこれと螺合する支持部を備えていない。また,被告
引出具のシャフトを回転させても,引出具の先端に設けられた溶接チ
ップ(23)は昇降せず,板金面の凹部の深さに応じてビットの位置
を自由に調節することはできないため,最適な引き出し加減を板金前
にあらかじめセットできないのであるから,被告引出補助具は,本件
発明2における「支持部」を備えていない。
b上記ア(被告の主張)(イ)と同様,被告引出具が本件発明2の「第
1の操作手段」に,被告引出補助具から脚部(甲12の脚部(3
4))を除いたものが本件発明2の「第2の操作手段」にそれぞれ該
当しないという点を措いて,手動操作により被告引出具を被告引出補
助具が引き上げるという限りにおいて認める。
c被告引出具は,「該第1の操作手段のシャフトを支持する支持部を
備え」の部分と,「第2の操作手段と」の部分を充足しないから,被
告引出具は構成要件Jを充足しない。
(ウ)構成要件Kの充足性について
上記ア(被告の主張)(ウ)と同様,被告引出補助具から,脚部(甲1
2の脚部(34))を除いたものが本件発明2の「第2の操作手段」に
該当するという点を措いて,かかる部分を脚部が支持しているという限
りにおいて認める。
(エ)構成要件Lの充足性について
a下記のように,メインレバーとセカンドレバー間をつぼめるために
は,メインレバーとセカンドレバーの先端側が拡がっており,その反
対側端はメインレバーとセカンドレバーとの間隔が変わらないように
固定されている必要があり,そうすると,上記ア(被告の主張)(エ)
と同様,本件発明2における「第2の操作手段」も,本件2明細書
【0016】や各図面に記載のとおり,「メインレバー」,「セカン
ドレバー」及びメインレバーとセカンドレバーとの間隔が変わらない
ように固定する「連結アーム」の3つの部材が必要となる。これに対
して被告引出補助具(から脚部を除いた部分)は,引出補助具本体
(31)と,シャフトを着脱自在に保持する装着部(35)と,操作
レバー(32)を含んで構成されており,被告引出補助具には,「連
結アーム」で連結されるような本件発明2の「メインレバー」,「セ
カンドレバー」に相当する部材がない。
b上記ア(被告の主張)(カ)と同様,被告引出補助具は2つの部材か
ら構成されており,本件発明2の「メインレバー」及び「セカンドレ
バー」に相当する構成を備えていないこと,被告引出補助具において
ばねは,シャフトを着脱自在に保持する装着部(35)に巻装され,
装着部本体(352)のフランジ(351)と補助具本体(31)の
中空部(310)側の内面に形成された溝部(315)との間に介在
していること,原告の主張によっても,被告引出補助具のばねは,補
助具本体60の内部に存在するのであり,グリップ30と操作レバー
40との間に存在しているものではない。
c以上のとおり,被告引出具は構成要件Lを充足しない。
(オ)構成要件Mの充足性について
上記ア(被告の主張)(カ)と同様,被告引出補助具のばね(36)が
付勢しているのはシャフトを着脱自在に保持する装着部(35)であり,
操作レバーではない。
したがって,被告引出補助具の操作レバーが本件発明2の操作レバー
に該当しないという点を措いても,被告引出補助具は構成要件Mを充足
しない。
(カ)構成要件Nの充足性について
上記ア(被告の主張)(キ)と同様,被告引出補助具本体のグリップが
本件発明2の「メインレバー」に,被告引出補助具の操作レバーが本件
発明2の「セカンドレバー」にそれぞれ該当しないという点及び圧縮コ
イルばねの介在箇所の差異,ばねが付勢しているのがシャフトを着脱自
在に保持する装着部(35)である点を措いて,被告引出補助具の操作
レバーを圧縮コイルばねに抗しながらつぼめて板金面の引き出しを行う
という限りにおいて認める。
(キ)構成要件Pの充足性について
上記ア(被告の主張)(ク)と同様,被告引出具と被告引出補助具とは
全く別個の製品であり,2つが一体として板金用引出装置を構成するも
のではない。両者を組み合わせて使用できることをもって,1つの板金
用引出装置と評価することはできない。
したがって,被告引出具と被告引出補助具は構成要件Pを充足しない。
ウイ号製品の本件発明3の充足性(争点1-3)
(原告の主張)
上記イ(原告の主張)(イ)のとおり,イ号製品は構成要件Qを充足する。
イ号製品は,本件発明2を充足するから,構成要件Rを充足する。
(被告の主張)
上記イ(被告の主張)(イ)と同様,本件2明細書の記載から,本件発明
3を理解するとすれば,本件発明3における第2の操作手段の「支持部」
も,第1の操作手段のシャフトに刻設されたねじ部と螺合することで,第
1の操作手段を回動自在に支持する部材と解釈せざるを得ず,被告引出補
助具は構成要件Qを充足しない。
エイ号製品の本件発明4の充足性(争点1-4)
(原告の主張)
(ア)構成要件Sの充足性
イ号製品の構成要件Sに対応する構成は,別紙原告イ号製品説明書記
載a-1である。
上記ア(原告の主張)(ア)及び上記イ(原告の主張)(ア)のとおり,
イ号製品は構成要件Sを充足する。
(イ)構成要件Tの充足性
イ号製品の構成要件Tに対応する構成は,別紙原告イ号製品説明書記
載b-1である。
上記イ(原告の主張)(イ)及び上記ウ(原告の主張)のとおり,イ号
製品は構成要件Tを充足する。
(ウ)構成要件Uの充足性
イ号製品の構成要件Uに対応する構成は,別紙原告イ号製品説明書記
載b-1である。
上記ア(原告の主張)(キ)及び上記イ(原告の主張)(カ)のとおり,
イ号製品は構成要件Uを充足する。
(エ)構成要件Vの充足性
イ号製品の構成要件Vに対応する構成は,別紙原告イ号製品説明書記
載c-1である。
上記ア(原告の主張)(ウ)及び上記イ(原告の主張)(ウ)のとおり,
イ号製品は構成要件Vを充足する。
(オ)構成要件Wの充足性
イ号製品の構成要件Wに対応する構成は,別紙原告イ号製品説明書記
載d-1,f-1である。
上記ア(原告の主張)(エ),(カ)及び上記イ(原告の主張)(エ)のと
おり,イ号製品は構成要件Wを充足する。
(カ)構成要件Xの充足性
イ号製品の構成要件Xに対応する構成は,別紙原告イ号製品説明書記
載f-1である。
上記ア(原告の主張)(カ)及び上記イ(原告の主張)(オ)のとおり,
イ号製品は構成要件Xを充足する。
(キ)構成要件Yの充足性
イ号製品の構成要件Yに対応する構成は,別紙原告イ号製品説明書記
載g-1である。
上記ア(原告の主張)(キ)及び上記イ(原告の主張)(カ)のとおり,
イ号製品は構成要件Yを充足する。
(ク)構成要件Zの充足性
イ号製品の構成要件Zに対応する構成は,別紙原告イ号製品説明書記
載h-1である。
上記ア(原告の主張)(ク)及び上記イ(原告の主張)(キ)のとおり,
イ号製品は構成要件Zを充足する。
(被告の主張)
(ア)構成要件Sの充足性について
上記ア(被告の主張)(ア)及び上記イ(被告の主張)(ア)と同様,被
告引出具のシャフト部には,ねじ部が刻設されておらず,被告引出具の
シャフトが「シャフト」に該当しない点を措いて,その先端部に板金面
に溶着可能なチップ(チップが本件発明4のビットに相当することは認
める)を備えている点は認める。
(イ)構成要件Tの充足性について
上記イ(被告の主張)(イ)及び上記ウ(被告の主張)と同様,本件2
明細書の記載から,本件発明4における「支持部」も,第1の操作手段
のシャフトに刻設されたねじ部と螺合することで,第1の操作手段を回
動自在に支持する部材としか解釈され得ず,被告引出補助具は構成要件
Tを充足しない。
(ウ)構成要件Uの充足性について
上記ア(被告の主張)(キ)及び上記イ(被告の主張)(カ)と同様,被
告引出具が本件発明4における「第1の操作手段」に該当しないという
点,被告引出補助具が本件発明4の「第2の操作手段」に該当しないと
いう点を措いて,被告引出補助具で被告引出具を引き上げて板金面の引
き出しを行うという限りにおいて認める。
(エ)構成要件Vの充足性について
上記ア(被告の主張)(ウ)及び上記イ(被告の主張)(ウ)と同様,被
告引出補助具から脚部(甲12の脚部(34))を除いたものが本件発
明4の「第2の操作手段」に該当しないという点を措いて,かかる部分
を脚部が支持しているという限りにおいて認める。
(オ)構成要件Wの充足性について
a上記ア(被告の主張)(エ)及び上記イ(被告の主張)(エ)と同様,
本件発明4における「第2の操作手段」も,本件2明細書【001
6】や各図面に記載のとおり,「メインレバー」,「セカンドレバ
ー」及び「連結アーム」の3つの部材から構成されているが,被告引
出補助具(から脚部を除いた部分)は,引出補助具本体と操作レバー
の2つの部材から構成されている。
b上記ア(被告の主張)(エ)及び上記イ(被告の主張)(エ)と同様,
被告引出補助具は2つの部材から構成されており,本件発明2の「メ
インレバー」及び「セカンドレバー」に相当する構成を備えていない
こと,被告引出補助具においてばねは,装着部本体(352)のフラ
ンジ(351)と補助具本体(31)の中空部(310)側の内面に
形成された溝部(315)との間に介在していること,原告の主張に
よっても,被告引出補助具のばねは,補助具本体60の内部に存在す
るのであり,グリップ30と操作レバー40との間に存在しているも
のではない。
c以上から,被告引出具及び被告引出補助具は構成要件Wを充足しな
い。
(カ)構成要件Xの充足性について
上記ア(被告の主張)(カ)及び上記イ(被告の主張)(オ)と同様,被
告引出補助具のばねが付勢しているのはシャフトを着脱自在に保持する
装着部(35)であり,操作レバーではない。
したがって,被告引出補助具の操作レバーが本件発明4の操作レバー
に該当しないという点を措いても,被告引出補助具は構成要件Xを充足
しない。
(キ)構成要件Yの充足性について
上記ア(被告の主張)(キ)及び上記イ(被告の主張)(カ)と同様,被
告引出補助具本体のグリップが本件発明4の「メインレバー」に,被告
引出補助具の操作レバーが本件発明4の「セカンドレバー」にそれぞれ
該当しないという点及び圧縮コイルばねの介在箇所の差異,ばねが付勢
しているのがシャフトを着脱自在に保持する装着部である点を措いて,
被告引出補助具の操作レバーを圧縮コイルばねに抗しながらつぼめて板
金面の引き出しを行うという限りにおいて認める。
(ク)構成要件Zの充足性について
上記ア(被告の主張)(ク)及び上記イ(被告の主張)(キ)と同様,被
告引出具と被告引出補助具とは全く別個の製品であり,2つが一体とし
て板金用引出装置を構成するものではない。両者を組み合わせて使用で
きることをもって,1つの板金用引出装置と評価することはできない。
したがって,被告引出具と被告引出補助具は構成要件Zを充足しない。
オロ号製品の間接侵害の有無(争点1-5)
(原告の主張)
ロ号製品は,被告引出具(のシャフト)を支承して用いるように設計さ
れた板金用引出装置専用の引出補助カセットである。
したがって,被告が業としてロ号製品を個別に製造販売等する場合には,
本件各発明を間接侵害するものである。
(被告の主張)
原告の主張は争う。
(2)本件発明2~4に係る特許が特許無効審判により無効にされるべきもの
であるか。
ア記載要件違反の有無(争点2-1)
(被告の主張)
(ア)本件2明細書【0007】【0032】には,以下のとおり記載さ
れている。
「【0007】
本発明の更にもう一つ他の目的は,板金面の凹部の具合に最適な引き
出し加減をあらかじめセットでき,」
「【0032】
【発明の効果】本発明は以上の如く構成され,本発明によれば次の効
果を奏する。

③第2の操作手段の支持部に第1の操作手段が回動自在に支持され,
第1の操作手段のハンドルを回動してビットを昇降させることにより,
板金面の凹部の深さに応じてビットの位置を自由に調整し得る構成とな
っている」
そして,本件2明細書に開示された唯一の実施例をみても,【001
5】【0018】には,
「【0015】
…又このシャフト12の略中央部から基端部にかけてねじ部13が刻
設され,このねじ部13が後述する第2の操作手段20の支持部50に
螺合し,前記第1の操作手段10は前記第2の操作手段20に回動自在
に支持される。」
「【0018】
…前記支持部50は,中央貫通孔(貫通部)52にめねじ部を形成し
た支持部材51を前記くり抜き部42内に収容しねじ48,49により
前記セカンドレバー40に固定して構成される。かくして,前記支持部
材51の貫通孔(貫通部)52と前記シャフト12のねじ部13が螺合
し,前記第1の操作手段10は前記第2の操作手段に20に回動自在に
支持される。」
と記載されている。
そうすると,本件2明細書【0007】【0032】に記載された本
件発明2~4の目的や作用効果は,シャフトにねじ部が刻設され,その
ねじ部が支持部に螺合されて,第1の操作手段が第2の操作手段に回動
自在に支持されることによって初めて奏するものである。
(イ)しかしながら,本件発明2~4においては,特許請求の範囲の記載
としては,シャフトにねじ部が刻設されていることも,第2の操作手段
の支持部がこれと螺合することで,第2の操作手段が第1の操作手段を
回動自在に支持することも記載されていない。
特に,本件発明4については,特許請求の範囲において,「該第1の
操作手段を支持する支持部と,」と記載されているのみで,支持部が第
1の操作手段のいかなる部位を,いかなる方法によって支持するのか,
一切記載されていない。
そうすると,仮に特許請求の範囲の記載に忠実に,上記以外の支持態
様まで本件発明2~4の技術的範囲に含むとすれば,本件発明2~4が
本件2明細書の発明の詳細な説明に記載されたものではない技術思想を
も含むことになる。また,いかなる支持態様であればいいのか不明確で
あり,特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項が記
載されていないことになる。
(ウ)したがって,本件発明2~4に係る特許は,平成6年法律第116
号による改正前の特許法(以下「平成6年改正前特許法」という。)3
6条5項1号及び2号の規定に違反し,特許無効審判において無効とさ
れるべきものである。
(原告の主張)
(ア)本件発明2~4においては,発明の詳細な説明に記載された発明の
課題を解決するための手段が請求項の記載に反映されていることが明ら
かである。
本件2明細書によると,本件発明2~4は,発明の詳細な説明におい
て,従来の板金引出具の構成の,①ハンマー打撃時のショックで溶着部
からビット825が外れ易い,②ビットにショックによる引き出し力を
加えながら作業を進めるため,引き出し後の引き出し面に凹凸起伏が生
じ易い,③引き出し時に加える力の調整が難しく引き出し過ぎる傾向が
ある,④短時間のうちに平滑な引き出しを得ることが難しい(【000
3】),操作用アームを閉成する力に抗するように作用するばねが配設
されていないため,細やかな(微妙な)力を加えながら引き出すことに
は必ずしも適していなかった(【0004】)という複数の課題を解決
するために,「板金作業を熟練を要することなく迅速かつ確実に行うこ
とができ,しかも板金面の平滑化を容易に達成できる板金用引出し具」
(【0005】),「荒出し作業を終えた後に更に細部の引き出しを必
要とする場合,引き出し箇所が比較的小領域凹部である場合,あるいは
引き出し箇所が極めて特殊な場所である場合にも,細やかな(微妙な)
力を加えながら板金面を引き出すのに便利な板金用引出し具」(【00
06】),「板金を必要とする箇所の金属疲労が少ない板金用引出し
具」(【0008】)を提供することを目的としている。
そして,上記複数の課題について,本件発明2~4の構成をとること
により,上記各目的を達成し,「①ビットの溶着,引き上げ,取り外し
という一連の作業により板金面の引き出し作業を行なえるため,板金作
業を熟練を要することなく迅速かつ確実にして効率よく行うことができ,
しかも板金面の平滑化を容易に達成できる。②シャフト先端部に設けた
ビットの先端を板金面に溶着させた状態で第2の操作手段を手動操作す
ることにより,引き出し箇所(例えば,細部や比較的小領域の凹部や特
殊な場所)に細やかな(微妙な)力を加えながら引き出すことが可能で
ある。…④ビットを板金面へ溶着する際に弱い溶着でよくビット溶着時
に板金面裏面へのこげつきがほとんど生じないとともに板金を行う凹部
をゆっくりと引き出すことが可能なため板金箇所の金属疲労が少な
い。」(【0032】)という効果を奏するものである。
上記複数の課題の解決は,本件発明2~4のシャフト,支持部,第2
操作手段の具体的態様に左右されるものではない。
したがって,本件発明2~4に係る特許請求の範囲の記載は,平成6
年改正前特許法36条5項1号の要件を満たすものである。
(イ)本件発明2(請求項1)には,「該第1の操作手段のシャフトを支
持する支持部を備え,手動操作により前記第1の操作手段を引き上げる
第2の操作手段」と記載され,本件発明3(請求項2)には,「前記支
持部に前記シャフトを保持する貫通部が形成されている」と記載されて
おり,本件発明2及び3の「支持部」が「第1の操作手段のシャフト」
を支持するものであり,かつ,「第2の操作手段」が備えるものである
ことに加え,本件発明3における「支持部」が「シャフトを保持する貫
通部」が形成されていることが明確に把握できるものである。各請求項
において,第1の操作手段,シャフト,支持部,第2の操作手段それぞ
れの構造的関係は明確に規定されており,明細書及び図面の記載並びに
出願時の技術常識を考慮すれば,「シャフト」「支持部」「第2の操作
手段」の技術的意味を十分理解することができる。本件発明2及び3が,
発明の詳細な説明に記載された支持態様以外のものを含むものであると
しても,それをもって不明確であるといえない。
また,本件発明4(請求項3)は,「該第1の操作手段を支持する支
持部と」記載されており,本件発明4における「支持部」は「第1の操
作手段」を支持するものである。「支持部」が第1の操作手段を支持し
ているかどうか,両者の構造的関係は明確に把握できるため,支持部と
当該支持部によって支持されるものとの相互関係が不明確であるとはい
えない。
したがって,本件発明2~4に係る特許請求の範囲の記載は,平成6
年改正前特許法36条5項2号の要件を満たすものである。
イ進歩性要件違反の有無(争点2-2)
(被告の主張)
本件発明2~4は,その出願前に頒布された刊行物である乙1の1(以
下,単に「乙1」という場合がある。なお,訳文は乙1の2である。)に
記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたもの
である。
(ア)乙1の記載
乙1には,別紙1のとおり記載がある。
(イ)乙1に記載された発明
乙1の記載及び図面から見て,乙1には,以下の発明(以下「乙1発
明」という。)が記載されている。
1Aチャックアセンブリ(70)と,該チャックアセンブリの先端部
に配設し硬質外板のくぼみにねじ係合可能な係合部材(100)を
備えた引き込み部分と,
1B該引き込み部分のチャックアセンブリを支持するフレーム部材
(12)を備え,手動操作により前記引き込み部分を引き込む引き
込み操作部分と,
1C該引き込み操作部分を支持するベースプレートアセンブリ(4
0)のフレーム部材(44)とを具備し,
1D前記引き込み操作部分を,静止ハンドル(16)と,可動ハンド
ル(20)と,フレーム部材とチャックアセンブリとの間に介在さ
せたバネ(80)を含んで構成し,
1Eこのバネにより,チャックアセンブリを介して前記可動ハンドル
を付勢させ,
1F前記静止ハンドルと可動ハンドル間を前記バネに抗しながら旋回
して硬質外板のくぼみの引き出しを行うことを特徴とする
1G硬質外板のくぼみ矯正装置。
(ウ)本件発明2と乙1発明との一致点及び相違点
a本件発明2の「第1の操作手段」も乙1発明の「引き込み部分」も,
シャフトあるいはチャックアセンブリの先端部に,板金面に取り付け
可能な部材が配設され,この部材を板金面に取り付けて,スライドさ
せることで,板金面の引き出しを行うものである点で一致する。
そうすると,本件発明2の構成要件Iと乙1発明の構成1Aとでは,
「板金面に取り付ける部材が,本件発明2では溶着可能なビットであ
るのに対し,乙1発明では板金面にねじ係合可能な係合部材である
点」において相違する(以下,被告の主張において「相違点1」とい
う。)ものの,その余の点においては一致する。
b構成要件J
本件発明2の「第2の操作手段」も乙1発明の「引き込み操作部
分」も,第1の操作手段のシャフト(引き込み部分のチャックアセン
ブリ)を支持する支持部(フレーム部材)を備え,手動操作により,
前記第1の操作手段(引き込み部分)を引き上げる点で一致する。
そうすると,本件発明2の構成要件Jと乙1発明の構成1Bとは一
致する。
c構成要件K
本件発明2の「脚体」も,乙1発明のベースプレートアセンブリの
フレーム部材も,第2の操作手段(引き込み操作部分)を支持する点
で一致する。
そうすると,本件発明2の構成要件Kと乙1発明の構成1Cとは一
致する。
d構成要件L
本件発明2の「第2の操作手段」が被告引出補助具のような2つの
部材しか備えないものも含むとすれば,乙1発明も,静止ハンドルと,
可動ハンドルを備えており,これらが本件発明2の第2の操作手段の
メインレバーとセカンドレバーに相当するといい得る。
また,同様に,被告引出補助具のように,直接操作レバーを付勢す
るものではなく,シャフトを着脱自在に保持する装着部を付勢し,そ
の結果として操作レバーが付勢するような態様も含むとすれば,乙1
発明のバネもチャックアセンブリが付勢される結果として可動ハンド
ルを付勢しており,これが本件発明2の「ばね」に相当すると言い得
る。
そうすると,本件発明2の構成要件Lと乙1発明の構成1Dとは,
ばねの位置について,「本件発明2においては,ばねをメインレバー
とセカンドレバーとの間に介在させているのに対し,乙1発明におい
ては,フレーム部材とチャックアセンブリとの間に介在させている
点」において相違する(以下,被告の主張において「相違点2」とい
う。)ものの,その余の点においては一致する。
e構成要件M
上記dと同様,被告引出補助具のように,直接操作レバーを付勢す
るものではなく,シャフトを着脱自在に保持する装着部を付勢し,そ
の結果として操作レバーが付勢するような態様も含むとすれば,乙1
発明のバネもチャックアセンブリが付勢される結果として可動ハンド
ルを付勢しており,ばねが可動ハンドルを付勢しているといい得る。
そうすると,本件発明2の構成要件Mと乙1発明の構成1Eとは一
致する。
f構成要件N
本件発明2も,乙1発明もメインレバー(静止レバー)とセカンド
レバー(可動レバー)を上記ばねに抗しながらつぼめて板金面の引き
出しを行う点で一致する。
そうすると,本件発明2の構成要件Nと乙1発明の構成1Fとは一
致する。
g構成要件P
本件発明2も,乙1発明も板金用引出具である点で一致する。
そうすると,本件発明2の構成要件Pと乙1発明の構成1Gとは一
致する。
(エ)相違点1について
a乙2~8の開示事項
本件発明2~4の出願前に頒布された刊行物である乙2~8には,
別紙2のとおりの記載がある。
b容易想到性
以上のとおり,乙2~8の記載から先端に溶着可能な電極(ビッ
ト)を備えスポット溶接する引出具は,周知・慣用技術である。
乙1も,乙2~8もいずれも板金引出具という,同一の技術分野に
属する技術であり,また,乙2~8のように板金面に取り付ける部材
として溶着可能な電極を備えることが当該技術分野で周知・慣用であ
ることからすれば,乙1と乙2~8を組み合わせて,乙1の板金引出
具に,乙2~8のような溶着可能なビットを配することは,当業者に
とって容易に想到可能である。
そうすると,相違点1に係る本件発明2~4の構成は,同じく板金
面に取り付け可能な係合部材に代えて,周知・慣用技術である溶着可
能なビットを採用することにより,当業者が容易に想到し得るもので
ある。
(オ)相違点2について
a乙9~13の開示事項
本件発明2~4の出願前に頒布された刊行物である乙9~13には,
別紙3のとおりの記載がある。
b容易想到性
被告引出補助具のように,補助具本体(31)の中空部(310)
側の内面に形成された溝部(315)と引出具本体とシャフトを着脱
自在に保持する装着部(35)の装着部本体(352)のフランジ
(351)との間にばねを介在させることも,本件発明2~4にいう
「メインレバーとセカンドレバーとの間に介在」させることにあたる
とすれば,乙9~13の記載から,板金の分野を含め,手動工具の分
野においては,対向する把手の間隔を,手動操作によってすぼめ(近
づけ)たり離したりする場合に,把手と把手の間(本件発明2~4で
いえばメインレバーとセカンドレバーとの間)にばねを介在させるこ
とは,周知・慣用技術である。
乙1も,乙9~13もいずれも手動工具という,同一の技術分野に
属する技術であり,また,乙9~13のように対向する把手の間隔を,
手動操作によってすぼめ(近づけ)たり離したりする場合に,把手と
把手の間にばねを介在させることが,当該分野で周知・慣用であるこ
とからすれば,乙1と乙9~13を組み合わせて,乙1の板金引出具
において,乙9~13のようにな溶着可能なビットを把手と把手の間
にばねを介在させることは,当業者にとって容易に想到可能である。
そうすると,相違点2に係る本件発明2~4の構成は,セカンドレ
バー(操作レバー)を付勢する手段として,フレーム部材とチャック
アセンブリとの間にばねを介在させることに代えて,周知・慣用技術
のとおり対向する二つの把手(メインレバーとセカンドレバー)との
間に介在させることによって,当業者が容易に想到し得るものである。
(カ)本件発明3の進歩性
本件発明3は,本件発明2を引用したもので,「支持部」の構成に関
して,本件発明1に記載の支持部を,「シャフトを保持する貫通部が形
成されている」という発明特定事項により更に限定したものである。
しかるに,乙1発明においても,乙1発明のフレーム部材は,「チャ
ックアセンブリを保持するチャンバと孔」を備えているから,本件発明
3独自の相違点はない。
(キ)本件発明4の進歩性
本件発明4は,本件発明2が,「第1の操作手段のシャフトを支持す
る支持部」と,支持部が支持する対象を「シャフト」と特定しているの
に対して,本件発明4は「第1の操作手段を支持する支持部」とだけ記
載して,支持部が支持する対象を特定していない点,及び本件発明2が,
第1の操作手段を引き上げる第2の操作手段の操作方法を「手動操作に
より」と特定しているのに対して,本件発明4は,操作方法を特定して
いない点,において異なっており,それ以外の事項は,表現の相違はあ
っても本件発明2と全く同一である。
そうすると,本件発明4独自の相違点はない。
(ク)小括
以上より,本件発明2~4は,いずれも出願前に頒布された刊行物で
ある乙1に記載された発明に基づいて,同様に出願前に頒布された刊行
物に記載された同一の技術分野の周知・慣用技術を適用することにより,
当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条
2項に違反し,特許無効審判において無効とされるべきものである。
(原告の主張)
(ア)相違点の認定について
a本件発明2~4では,ばねは,メインレバーとセカンドレバーとの
間に介在させ,常時セカンドレバーを付勢している。
これに対し,乙1記載のくぼみ矯正装置では,オペレータの手によ
って可動ハンドル20を引き込み位置に移動させ,その後,オペレー
タが可動ハンドル20を開放すると,枢支ピン33により枢支された
可動ハンドル20は自然に現状復帰を果たすものである(甲17,1
8参照)。可動ハンドル20は,静止ハンドル14との間をバネ80
に抗しながらつぼめて金属外板130の引き出しを行うことがあって
も,可動ハンドル20自体はバネ80に付勢されてはいない。
b本件発明2~4における第2の操作手段は,シャフトの引き上げに
寄与する手段であり,支持部は第2の操作手段に設けられている。
これに対し,乙1記載のくぼみ矯正装置では,フレーム部材12は
シャフト(スライドロッド74)の引き上げに寄与する部材ではなく,
内部にスライドロッドを収容するためのものであって,そのために,
長手方向に中空な中空体として形成されているものである。
(イ)容易想到性について
本件2明細書によれば,本件発明2~4の解決課題は,「板金作業を
熟練を要することなく迅速かつ確実に行うことができ,しかも板金面の
平滑化を容易に達成できる板金用引出し具を提供すること」(【000
5】),「荒出し作業を終えた後に更に細部の引き出しを必要とする場
合,引き出し箇所が比較的小領域凹部である場合,あるいは引き出し箇
所が極めて特殊な場所である場合にも,細やかな(微妙な)力を加えな
がら板金面を引き出すのに便利な板金用引出し具を提供すること」
(【0006】)にあり,乙1~13には,本件発明2~4の解決課題
に関する事項はもとより,これを示唆する事項も見出し得ないものであ
り,一見,乙1~13との構成を共通している点があったとしても,乙
1~13記載の発明に基づいて,本件発明2~4が容易に推考できたも
のとはいえない。
本件発明2~4によれば,自動溶着機能付スタッド溶接機と組み合わ
せることでビットの溶着,引き出しを連続して行い(【0030】),
「①ビットの溶着,引き上げ,取り外しという一連の作業により板金面
の引き出し作業を行なえるため,板金作業を熟練を要することなく迅速
かつ確実にして効率よく行うことができ,しかも板金面の平滑化を容易
に達成できる。②シャフト先端部に設けたビットの先端を板金面に溶着
させた状態で第2の操作手段を手動操作することにより,引き出し箇所
(例えば,細部や比較的小領域の凹部や特殊な場所)に細やかな(微妙
な)力を加えながら引き出すことが可能である。」という効果がもたら
される(【0032】)。
本件発明2~4の効果は,乙1には記載がなく,また,そのような効
果は予測,期待ができない。
(ウ)まとめ
「支持」とは支え持つことを意味する。乙1~13は,いずれにも支
持部が「シャフトの先端部に配設し板金面に溶着可能なビットを備えた
第1の操作手段のシャフトを支持」あるいは「シャフトの先端部に配設
し板金面に溶着可能なビットを備えた第1の操作手段を支持」し,かつ
「第2の操作手段を,メインレバーと,セカンドレバーと,このメイン
レバーとセカンドレバーとの間に介在させたばねを含んで構成し,この
ばねによりセカンドレバーを付勢させ,メインレバーとセカンドレバー
間をばねに抗しながらつぼめて板金面の引き出しを行う」技術思想は示
されていないから,本件発明2~4は,乙1~13に基づいて当業者が
容易に発明をすることができたものではない。
したがって,乙1に乙2~13を組み合わせても本件発明2~4を想
到できるものではなく,しかも,乙1の先行技術に,乙2~13の先行
技術を組み合わせることの示唆,教示あるいは動機付けは皆無である。
よって,乙1~13の先行技術から当業者といえども本件発明2~4
を容易に想到するということはできない。
(3)損害額(争点3)
(原告の主張)
ア被告製品の販売個数
被告が平成13年3月から現在までの間に販売した被告製品の数量は,
少なくとも2000台を下らない。
イ原告の実施能力
原告は,被告製品の販売量に相当する需要があれば,これに応じて製造,
販売できる能力は十分にあった。被告が被告製品を販売する直前の平成1
0年3月から平成13年2月までの3年間で,原告は,原告製品を合計6
34台販売している。被告製品の販売が開始された後,原告製品の販売台
数は激減し,同年3月から現在までの販売台数は合計166台にとどまっ
ている。
ウ単位数量当たりの原告製品の利益の額
(ア)原告製品の1台あたりの平均販売価格は27万8212円である。
原材料費は,工具をセットするパネルを除いた本体部分が2万5178
円であり,年度,時期によってほとんど変動はない。
したがって,原告製品の1台あたりの粗利益は25万3035円であ
る。
(イ)原告の平成13年度から平成22年度までの10年間における年平
均販売費及び一般管理費は2億3542万8615円であった。
この間における原告の年平均全売上高は5億2513万8667円で
あり,うち原告製品の年平均売上高は461万8330円(10年間の
合計166台,年平均売上台数16.6台)であった。
販売費及び一般管理費のうち原告製品に要した額を,全体売上と原告
製品売上との比率で算定すると,以下のとおり年平均207万476円
である。
235,428,615(年平均販管費)×4,618,330(年平均原告製品売上高)
÷525,138,667(年平均全売上高)=2,070,476円(販管費のうち原告製
品に要した年平均額)
上記10年間における原告製品の年平均販売台数は16.6台である
から,1台あたりの販売費及び一般管理費は,以下のとおり12万47
27円である。
2,070,476÷16.6=124,727円
(ウ)原告製品の前記平均販売価格27万8212円から,平均原材料費
2万5312円,平均販売費及び一般管理費12万4727円を差し引
いて得られる1台あたりの平均利益は,12万8173円である。
278,212-(25,312+124,727)=128,173円
エ以上のとおり,原告製品の1台あたりの利益は,12万8173円であ
るから,特許法102条1項に基づく損害額は,以下のとおり2億563
4万6000円となる。
128,173×2000=256,346,000円
オ原告は,本訴においては,上記エの損害額の一部である金8000万円
の損害賠償を求める。
(被告の主張)
原告の主張は否認する。
第3当裁判所の判断
1被告製品が本件各発明の技術的範囲に属するかについて
以下,別紙原告イ号製品説明書及び原告ロ号製品説明書に沿って検討する。
(1)イ号製品の本件発明1の充足性(争点1-1)について
ア構成要件Aの充足性について
イ号製品は,シャフト12自体にねじ部が設けられておらず,ねじ部1
3Bが刻設されたシャフト装着部13とシャフト12は別部品であること
は当事者間に争いがない。
原告は,イ号製品においてはシャフト装着部13にねじ部13Bが形成
され,板金を引き出す作業を行うに際しては,シフト装着部13がシャフ
ト12と一体となっており,板金面を引き上げる引出具としての構成を具
備する旨主張する。原告の主張は,シャフト12とシャフト装着部13が
一体化して果たす機能に着目してシャフト12にねじ部が刻設されている
のと同視できると主張するものと解される。
しかし,構成要件Aは,「ねじ部が刻設されたシャフト」と記載されて
いるであって,シャフトの構成として特定されており,また,本件1明細
書中に「ねじ部が刻設されたシャフト」を原告が主張するように機能的に
解釈する根拠もない。そうすると,「ねじ部が刻設されたシャフト」は,
文言どおり,シャフト自体にねじ部が設けられた構成を意味するものと解
するのが相当であり,これを機能的に解釈する原告の主張は採用できない。
そうすると,イ号製品におけるシャフト12には,ねじ部が刻設されて
おらず,ねじ部13Bはシャフト12とは別部品であるシャフト装着部1
3に刻設されているから,イ号製品は構成要件Aの「ねじ部が刻設された
シャフト」を充足しない。
イ構成要件Bの充足性について
イ号製品における部材50には,シャフト12自体に設けられたねじ部
が螺合するものではなく,シャフト装着部13のねじ部13Bが螺合する
ものであることは当事者間に争いがない。したがって,イ号製品は,シャ
フト12のねじ部が螺合するものではなく,構成要件Bの「シャフトのね
じ部が螺合し前記第1の操作手段を回動自在に支持する支持部」を充足し
ない。
原告は,上記のような判断は,イ号製品による荒出し作業後の細部の引
き出しや,狭い(小さい)凹部の補修を行なう場合のメカニズム,その際
のシャフト12とシャフト装着部13の一体性を無視するものである旨主
張する。
この原告の主張も,構成要件Aについての主張と同様,構成要件Bの
「シャフトのねじ部が螺合し」とは,シャフトのねじ部が機能的にみて支
持部に螺合していればよいとするものと解される。
しかし,そのような機能的解釈が相当でないことは,構成要件Aで述べ
たのと同様である。構成要件Bの「シャフトのねじ部が螺合し」は,その
文言のとおり,シャフト自体に設けられたねじ部が螺合するものと解する
のが相当である。
イ号製品のねじ部13Bが刻設されたシャフト装着部13とシャフト1
2は独立した別部品であり,両者が固定又は一体化されているものではな
いから,「シャフトのねじ部が螺合し」とはいえず,イ号製品は構成要件
Bを充足するものではない。
ウ構成要件Cの充足性について
イ号製品は,引出補助具20を支承する脚体90を具備しているので
(この点は当事者間に争いがない。),引出補助具20が本件発明1の
「第2の操作手段」に相当すれば,イ号製品は構成要件Cを充足する。
そこで,引出補助具20が「第2の操作手段」に相当するか否か検討す
る。
「第2の操作手段」は,構成要件Bのとおり,「第1の操作手段のシャ
フトのねじ部が螺合し前記第1の操作手段を回動自在に支持する支持部を
備え,手動操作により前記第1の操作手段を引き上げる」ものである。
ここにいう「支持部」は,構成要件Bの文言によれば,シャフト自体に
設けられたねじ部が螺合する構成と解するのが相当であり,本件1明細書
中にこれに反する記載はない。
これに対し,イ号製品の引出補助具20は,シャフト12の長手方向に
移動可能なシャフト装着部13の外周に形成されたねじ部13Bが螺合す
る部材50に支持されるものである(別紙原告イ号製品説明書及び別紙被
告引出具説明書により,当事者間に争いがないものと認められる。)。イ
号製品は,その部材50にシャフト12自体のねじ部が直接螺合するもの
ではなく,シャフト装着部13の外周に形成されたねじ部13Bが螺合す
るものにすぎない。
そうすると,イ号製品は,「第1の操作手段のシャフトのねじ部が螺合
し・・・する支持部」を有するものではない。
以上のとおり,イ号製品の構成は,本件発明1の「第2の操作手段」と
相違しているから,構成要件Cを充足しない。
エ構成要件Dの充足性について
イ号製品は,上記ウのとおり,「第2の操作手段」を有しないから,構
成要件Dも充足しない。
また,構成要件Dの記載によれば,第2の操作手段は,「メインレバ
ー」,「セカンドレバー」,「メインレバーとセカンドレバーとを連結す
る連結アーム」の3つの部品を含む構成であり,連結アームが1個の独立
した構成とされている。この構成の具体例としては,本件1明細書【00
27】に,実施例として,「前記連結アーム60の上部側と下部側にはボ
ルト挿通孔61,62が穿設されている。前記連結アーム60の上部側は,
前記メインレバー30の溝部35Cに前記連結アーム60の上腕部を挿入
してボルト挿通孔35D,61にボルト37を挿通しナット38にて固定
される。一方,前記連結アーム60の下部側は,前記セカンドレバー40
の溝部44Cに前記連結アーム60の下腕部を挿入してボルト挿通孔44
D,62にボルト46を挿通しナット38にて取り付ける。」と記載され
ている。
これに対し,本件発明1の「セカンドレバー」に対応するイ号製品にお
ける操作レバー40は,グリップ30を兼ねる補助具本体60に連結され
ているから(別紙原告イ号製品説明書及び別紙被告引出補助具説明書によ
り,当事者間に争いがないものと認められる。),イ号製品は,本件発明
1の「連結アーム」に相当するような独立した1つの部品を備えていない。
以上のとおり,イ号製品は構成要件Dを充足しない。
オ構成要件Eの充足性について
イ号製品は,上記アのとおり,構成要件Aにより特定される「第1の操
作手段」を備えていないから,構成要件Eを充足しない。
カ構成要件Fの充足性について
構成要件Fのメインレバー,セカンドレバーは,板金面の引き出しに使
用されるレバーと解される(構成要件G参照)。そして,2つのレバーの
うち,圧縮コイルばねにより付勢されているレバーがセカンドレバーであ
る。イ号製品の操作レバー40は,板金面の引き出しに使用されるレバー
であり,圧縮コイルばね14により付勢されたものであるから(別紙原告
イ号製品説明書及び別紙被告引出補助具説明書により,当事者間に争いが
ないものと認められる。),セカンドレバーであるといえる。
しかし,イ号製品は,上記アのとおり,構成要件Aにより特定される
「シャフト」を備えていないから,構成要件Fを充足しない。
また,構成要件Fの「前記シャフトに圧縮コイルばねを巻装し」につい
て検討するに,ここで,圧縮コイルばねが巻装される対象は,その文言上
シャフトであり,シャフトに直接巻き付けられた構成を示すものと解する
のが自然であるし,本件1明細書の実施例におけるシャフトと圧縮ばねの
関係についての記載(【0023】【0028】【図1】【図3】)をみ
ても,これに反する記載は見いだせない。ところが,イ号製品においては,
圧縮コイルばね14は,直接には原告のいう支持部50(被告のいう装
着部本体352)に巻き付けられており,シャフト12に直接巻き付けら
れたものではない。
原告は,圧縮コイルばね14が,シャフト装着部13と支持部50とシ
ャフト12に装着されるものと主張し,「巻装し」を間接的な装着をも含
むものとして解釈することを前提とした主張をしているものと解されるが,
上記のとおり,その主張を採用することはできないから,原告の主張は理
由がない。
したがって,この点においても,イ号製品は構成要件Fを充足しない。
キ構成要件Gの充足性について
イ号製品における操作レバー40は,ばね14に抗しながら引き上げて
板金面の引き出しを行うものであることについては,被告もこれを争わな
い。被告は,イ号製品の操作レバー40が構成要件Gの「セカンドレバ
ー」に該当しないと主張するが,これがセカンドレバーに該当することは
上記カのとおりである。また,被告は,圧縮コイルばね14の介在箇所の
差異,ばねが付勢する対象が装着部13であることを主張するが,これら
はいずれも他の構成要件充足性の問題であって,構成要件Gの充足性判断
に影響するものではない。
以上によれば,イ号製品は構成要件Gを充足する。
ク構成要件Hの充足性
イ号製品は,引出具10と引出補助カセット2(引出補助具と脚体)を
組み合わせた板金引出装置であって板金用引出し具であるといえるから,
構成要件Hを充足する。
被告は,被告引出具と被告引出補助具とは全く別個の製品であり,2つ
が一体として板金用引出装置を構成するものではないと主張する。しかし,
被告は,被告引出具と被告引出補助具(脚体を含む)が同時に同一顧客に
販売されることがあることを否定しているわけではない(甲10参照)。
むしろ,引出具と引出補助具(脚体を含む)は一体となった場合に,被告
引出具と被告引出補助具を一体的に使用することによって,安定的な使用
が可能になるものと考えられるから(甲12【0064】参照),被告引
出具と被告引出補助具(脚体を含む)が同時に同一顧客に販売される場合
があるものと推認するのが相当である(被告がその実施品であると主張す
る甲12の発明においては,引出具を単独で使用する使用方法が示されて
いるが(【0040】【0041】等),そのような使用方法があるから
といって,上記推認が妨げられるものではない。)。そして,このような
同時販売の場合,被告引出具と被告引出補助具(脚体を含む)がたとえ形
式上は別個の製品として販売されているものであるとしても,構成要件充
足性の判断については,これを一体の製品として評価するのが相当である。
以上のとおり,被告の主張は採用できない。
ケ小括
以上のとおり,イ号製品は,構成要件G及びH以外の構成要件を充足し
ないから,本件発明1の技術的範囲に属しない。
(2)イ号製品の本件発明2の充足性(争点1-2)について
ア構成要件Iの充足性について
イ号製品は,シャフト12及びシャフトの先端部に板金面に溶着可能な
溶接チップ15を備えているから(別紙原告イ号製品説明書及び別紙被告
引出具説明書によれば,当事者間に争いがないものと認められる。),構
成要件Iを充足する。
これに対し,被告は,本件発明2におけるシャフトとは,発明の詳細な
説明の記載からは,ねじ部が刻設されたシャフトを意味すると解釈せざる
を得ない旨主張する。確かに,実施例についての説明では,シャフトにね
じ部が設けられた構成について説明されているが(本件2明細書【001
5】【0018】),構成要件Iの文言上はそのような限定は付されてい
ない。本件2明細書には,「シャフト先端部に設けたビットの先端を板金
面に溶着させた状態で第2の操作手段を手動操作することにより,引き出
し箇所(例えば,細部や比較的小領域の凹部や特殊な場所)に細やかな
(微妙な)力を加えながら引き出すことが可能である。」(【003
2】)との記載があるが,ねじ部が刻設されていないシャフトであっても,
このような効果を奏することができるのであるから,被告の主張は採用で
きない。
イ構成要件Jの充足性について
イ号製品のシャフト装着部13及び部材50は,引出補助具20に設け
られ,シャフト12を支持していることは明らかであるから(別紙原告イ
号製品説明書),引出補助具20は「シャフトを支持する支持部」を備え
ているということができる。また,引出補助具20は,手動操作によりシ
ャフト12を引き上げるものである(当事者間に争いがないものと認めら
れる。)。
以上のとおり,イ号製品の引出補助具20は第2の操作手段に相当する
ものといえるから,被告製品は構成要件Jを充足する。
これに対し,被告は,「支持部」とは,第1の操作手段のシャフトに刻
設されたねじ部と螺合することで,第1の操作手段を回動自在に支持する
部材であると解釈せざるを得ない旨主張するが,本件発明2においては,
シャフトにねじ部が刻設された構成に限定されないことは,上記アのとお
りであり,これと対応する支持部もシャフトのねじ部と螺合する構成に限
定されるものではないから,被告の主張は採用できない。
また,被告は,イ号製品においては,引出具のシャフトを回転させても,
引出具の先端に設けられた溶接チップ(23)は昇降せず,板金面の凹部
の深さに応じてビットの位置を自由に調節できないから,最適な引き出し
加減を板金前にあらかじめセットできないと主張するが,被告の主張は,
上記の限定解釈を前提とするものであり,当該解釈は採用できないのであ
るから,被告の主張は採用できない。
ウ構成要件Kの充足性について
イ号製品は,引出補助具20を支承する脚体90を備えていることは被
告もこれを認めている。そして,上記イのとおり,引出補助具20は第2
の操作手段に相当するから,イ号製品は構成要件Kを充足する。
エ構成要件L~Nの充足性について
イ号製品のグリップ30を含む補助具本体60はメインレバーに相当し,
操作レバー40はセカンドレバーに相当し,両者の間にばね14が介在し,
(構成要件L充足),このばね14は操作レバー40を付勢し(構成要件
M充足),操作レバー40は,ばね14に抗しながら引き上げて板金面の
引き出しを行うから(構成要件N充足),イ号製品は構成要件L~Nを充
足する。
これに対し,被告は,構成要件Lについて,本件2明細書や図面の記載
から,「メインレバー」,「セカンドレバー」及びメインレバーとセカン
ドレバーとの間隔が変わらないように固定する「連結アーム」の3つの部
材が必要となる旨主張する。しかし,構成要件Lには,構成要件Dと異な
り,「連結レバー」との記載はなく,被告が指摘する本件2明細書【00
16】や各図面の記載も実施例に関する記載にすぎないから,被告の主張
を採用できない。被告は,メインレバーとセカンドレバーの間をつぼめる
ためには,メインレバーとセカンドレバーの間隔が変わらないように固定
されている必要があると主張する。しかし,メインレバーとセカンドレバ
ーの間をつぼめるために,連結アームの構成が必須のものであると解する
ことはできず,その他の構成であっても,メインレバーとセカンドレバー
の間をつぼめてシャフトを引き上げることができれば,「引き出し箇所…
に細やかな(微妙な)力を加えながら引き出す」(本件2明細書【003
2】)という効果を奏することができるものである。構成要件Lにおいて
「連結アーム」の構成が要求されていないことは,上記のとおり,その文
言上明らかであって,被告の主張は採用できない。
被告は,構成要件L充足性に関し,このほか,ばねが装着部(35)に
巻装され,補助具本体(31)の中空部(310)内面に形成された溝部
(315)との間に介在しており,グリップ30と操作レバー40の間に
存在していないと主張する。しかし,別紙原告イ号製品説明書及び別紙被
告引出補助具説明書によっても,圧縮コイルばね14は,グリップ30
(補助具本体(31))と操作レバー40(操作レバー(32))との間
に存在するものと認められるから,被告の主張は採用できない。
さらに,被告は,構成要件M充足性に関し,被告引出補助具のばね(3
6)が付勢しているのは装着部(35)であって,操作レバーではないと
主張するが,ばね(36)によって操作レバーが付勢されていることは,
別紙被告引出補助具説明書の【図3】(別紙原告イ号製品説明書では第5
図~第8図)によって明らかであり,被告の主張は採用できない。
オ構成要件Pの充足性について
上記(1)クのとおり,イ号製品は,引出具10と引出補助カセット2を
組み合わせた板金引出装置であって板金用引出し具であるといえるから,
構成要件Pを充足する。
被告引出具と被告引出補助具とが別個の製品であって1つの板金用引出
装置と評価できない,との被告の主張が採用できないことは,上記(1)ク
のとおりである。
カ小括
以上のとおり,イ号製品は,構成要件I~Pをすべて充足するから,本
件発明2の技術的範囲に属する。
(3)イ号製品の本件発明3の充足性(争点1-3)について
まず,構成要件Qについて検討するに,イ号製品のシャフト装着部13及
び部材50が支持部に当たることは上記(2)イのとおりである。
他方で,別紙原告イ号製品説明書によれば,イ号製品においてシャフトが
貫通するシャフト装着部13の内面は平滑であり,シャフトと相対的に摺動
自在な構成であると認められる(弁論の全趣旨)。そうすると,イ号製品の
貫通孔51がシャフト12を保持していると認め得る証拠はなく,イ号製品
が「シャフトを保持する貫通部」を備えるとは認められない。
以上のとおり,イ号製品は,構成要件Qを充足しないから,その余につい
て判断するまでもなく本件発明3の技術的範囲に属しない。
(4)イ号製品の本件発明4の充足性(争点1-4)について
本件発明4は,本件発明2の構成要件Jから,第2の操作手段が支持部を
備えること,第2の操作手段が「手動操作」により第1の手段を引き上げる
ことの特定を削除し,第2の操作手段について技術的事項の範囲が拡張され
ているから,上記(2)のとおり,イ号製品が本件発明2の構成要件を充足し,
その技術的範囲に属する以上,イ号製品は本件発明4の構成要件S~Zを充
足する。
以上のとおり,イ号製品は,構成要件S~Zをすべて充足するから,本件
発明4の技術的範囲に属する。
(5)ロ号製品の間接侵害の有無(争点1-5)について
ア本件発明1の間接侵害の有無について
別紙原告ロ号製品説明書はロ号製品を説明したものと認められる(弁論
の全趣旨)。
ロ号製品において,シャフト12が貫通するシャフト装着部13の内面
は平滑であって,本件発明1の第1の操作手段のシャフトに刻設されたね
じ部が螺合し,前記第1の操作手段を回動自在に支持する支持部を備えて
いないから,ロ号製品は,構成要件Bを充足しない。また,ロ号製品では,
シャフト12に圧縮コイルばね14を巻装して操作レバー40を付勢する
構成とはいえないから,構成要件Fを充足しない。
以上のとおり,ロ号製品は,本件発明1の板金用引出し具の生産に用い
るものとはいえないから,間接侵害は成立しない。
イ本件発明2の間接侵害の有無について
(ア)aロ号製品である引出補助具20のシャフト装着部13及び部材5
0は,「シャフトを支持する支持部」といえる。また,グリップ30
及び操作レバー40で構成される引出補助具20は,手動操作により
第1の操作手段を引き上げるものと認められるから,「手動操作によ
り第1の操作手段を引き上げる第2の操作手段」といえる。よって,
ロ号製品は,構成要件Jを充足する。
bロ号製品の脚体90は,構成要件Kの「第2の操作手段を支承する
脚体」といえる。よって,ロ号製品は構成要件Kを充足する。
cロ号製品の前記第2の操作手段を構成するグリップ30,操作レバ
ー40は,それぞれ「メインレバー」,「セカンドレバー」に当たり,
圧縮コイルばね14は,グリップ30と操作レバー40の間に介在し
ており,「メインレバーとセカンドレバーとの間に介在させたばね」
に当たる。よって,ロ号製品は構成要件Lを充足する。
dロ号製品は圧縮コイルばね14で操作レバー40を付勢させるもの
であり,「ばねによりセカンドレバーを付勢させ」ているものである
から,ロ号製品は構成要件Mを充足する。
eロ号製品はグリップ30と操作レバー40間を圧縮コイルばね14
に抗しながらつぼめて板金面の引き出しを行うものといえるから,
「メインレバーとセカンドレバー間をばねに抗しながらつぼめて板金
面の引出を行うことを特徴とする」ものである。よって,ロ号製品は
構成要件Nを充足する。
(イ)前記イ号製品についての構成要件I及びP充足性の判断並びに弁論
の全趣旨によれば,ロ号製品は,シャフトとシャフトの先端部に板金面
に溶着可能なビットを備えた第1の操作手段を備えた引出具と組み合わ
せることにより構成要件I及びPを充足し,本件発明2の技術的範囲に
属するものとなることが認められる。したがって,ロ号製品は本件発明
2の生産に用いる物といえる。
(ウ)そこで,「その物の生産にのみ用いる物」(特許法101条1号)
であるかについて検討するに,ロ号製品は,乙14号証の写真6にある
ようにワッシャ引出用フックを組み合わせて使用できるなど,板金引き
上げ用途以外の用途に用いられるものと認められるから,「その物の生
産にのみ用いる物」に当たらない。
(エ)このほか,原告は,間接侵害について,「その発明による課題の解
決に不可欠なもの」(特許法101条2号)であることを主張する趣旨
とも解する余地があるが,原告はロ号製品が本件発明2の課題解決に不
可欠なものであることについて何ら具体的に主張しないから,これを認
めることはできない。
ウ本件発明4の間接侵害の有無について
上記(4)のとおり,本件発明4は,本件発明2の構成要件Jから,第2
の操作手段が支持部を備えること及び第2の操作手段が「手動操作」によ
り第1の手段を引き上げることの特定を削除したものである。
本件発明2についての上記イの判断によれば,ロ号製品は,本件発明4
の構成要件T~Yを充足する。
そうすると,ロ号製品は,シャフトの先端部に配設し板金面に溶着可能
なビットを備えた第1の操作手段を備えた引出具と組み合わせることによ
り構成要件S及びZを充足し,本件発明4の技術的範囲に属するものとな
ることが認められる。
しかし,ロ号製品は,乙14号証の写真6にあるようにワッシャ引出用
フックを組み合わせて使用できるなど,板金引き上げ用途以外の用途に用
いられるものと認められるから,「その物の生産にのみ用いる物」に当た
らない。また,原告がロ号製品について,本件発明4の課題解決に不可欠
なものであることについて何ら具体的に主張しないことは,本件発明2と
同様である。
したがって,ロ号製品について間接侵害の成立を認めることはできない。
(6)まとめ
以上のとおり,イ号製品は本件発明2及び4の技術的範囲に属するが,ロ
号製品について本件発明2及び4の間接侵害は成立しない。
2本件発明2及び4に係る特許が特許無効審判により無効にされるべきもので
あるかについて
(1)記載要件違反の有無(争点2-1)について
アサポート要件違反の有無について
被告は,本件発明2及び4においては,特許請求の範囲の記載としては,
シャフトにねじ部が刻設されていることも,第2の操作手段の支持部がこ
れと螺合することで,第2の操作手段が第1の操作手段を回動自在に支持
することも記載されていないし,特に,本件発明4については,特許請求
の範囲において,「該第1の操作手段を支持する支持部と,」と記載され
ているのみで,支持部が第1の操作手段のいかなる部位を,いかなる方法
によって支持するのか,一切記載されていないから,上記以外の支持態様
まで本件発明2及び4の技術的範囲に含むとすれば,本件発明2及び4が
本件2明細書の発明の詳細な説明に記載されたものではない技術思想をも
含むことになるとして,平成6年改正前特許法36条5項1号に違反する
旨主張する。
被告の主張の趣旨は,本件2明細書には,シャフトにねじ部が刻設され,
第2の操作手段の支持部がこれと螺合することで,第2の操作手段が第1
の操作手段を回動自在に支持されている構成しか開示されていないのに,
特許請求の範囲には,支持手段について本件2明細書の記載の範囲を超え
る範囲の支持手段が記載されているとして,サポート要件に違反すると主
張するものと解される。
平成6年改正前特許法36条5項1号は,特許請求の範囲の記載につい
て,特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものである
ことを要件とし,発明の詳細な説明において開示された技術的事項と対比
して広すぎる独占権の付与を排除しているのであるから,サポート要件に
適合するか否かは,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを
対比することにより行うべきである。
そこで,特許請求の範囲の記載と本件2明細書の発明の詳細な説明の記
載とを対比するに,特許請求の範囲(本件発明2及び4に係るもの)の記
載は前提事実(3)ウのとおりである。そして,本件2明細書の発明の詳細
な説明には,①「操作用アームを閉成する力に抗するように作用するばね
が配設されていないため,細やかな(微妙な)力を加えながら引き出すこ
とには必ずしも適していなかった。」(【0004】),「細やかな(微
妙な)力を加えながら板金面を引き出すのに便利な板金用引出し具を提供
することにある。」(【0006】),②「第2の操作手段を,メインレ
バーと,セカンドレバーと,このメインレバーとセカンドレバーとの間に
介在させたばねを含んで構成し,このばねにより前記セカンドレバーを付
勢させ,前記メインレバーとセカンドレバー間を前記ばねに抗しながらつ
ぼめて板金面の引き出しを行うことを特徴とする板金用引出し具であ
る。」(【0009】),③「シャフト先端部に設けたビットの先端を板
金面に溶着させた状態で第2の操作手段を手動操作することにより,引き
出し箇所(例えば,細部や比較的小領域の凹部や特殊な場所)に細やかな
(微妙な)力を加えながら引き出すことが可能である。」(【003
2】)との記載がある。
これらの記載から,当業者であれば,①の課題を解決するために,少な
くとも②の解決手段を備え,③の効果を奏する発明を認識できるから,そ
のための構成として,シャフト又は第1の操作手段を支持する支持部につ
いて様々な構成を想定することができる。本件発明2及び4は,本件2明
細書の発明の詳細な説明から想定できる支持部について記載された発明で
あって,その記載により当業者が本件発明2及び4の課題を解決できると
認識できる範囲のものである。
そうすると,本件発明2及び4に係る特許請求の範囲の記載について,
平成6年改正前特許法36条5項1号(サポート要件)違反は認められな
い。
イ明確性要件違反の有無について
被告は,本件発明2及び4においては,特許請求の範囲の記載として,
いかなる支持態様であればいいのか不明確であり,特許を受けようとする
発明の構成に欠くことができない事項が記載されていない旨主張する。
しかしながら,本件発明2及び4に係る特許請求の範囲の記載によれば,
当業者は,「支持部」が第1の操作手段を支持する部分であることが理解
できるし,第1の操作手段,シャフト,支持部,第2の操作手段の関係も
理解できる。
そうすると,本件発明2及び4に係る特許請求の範囲の記載について,
平成6年改正前特許法36条5項2号(明確性要件)違反は認められない。
ウ以上のとおり,本件発明2及び4に係る特許について,記載要件違反は
認められない。
(2)進歩性要件違反の有無(争点2-2)について
ア本件発明2について
(ア)乙1(本件発明2及び4に係る特許の出願前に頒布された刊行物で
ある。)によると,乙1発明は以下のとおりであると認められる。
乙1において,チャックアセンブリ(70)は図示されていないが,
特許請求の範囲2項(訳文11頁)の記載によれば,チャックアセンブ
リ(70)は,フレームに支持されるスライドロッド(74)とスライ
ドロッドの一端に取り付けられるチャック(72)を備えるものであり,
チャックは,チャック部材(76),ボルト係合タブ(88)及び外側
チャックスリーブ(92)とからる(訳文11頁)。さらに,チャッ
クは,円筒形チャック部材(76)を備えている(訳文5頁)。くぼみ
係合部材(100)は,すり割り付き(102)とテーパ状ねじ付き端
(104)とを有するボルトであり,チャックアセンブリに支持される
(訳文6頁)。ねじ付き端は,くぼみ係合端をくぼみ(132)と接続
させるためのくぼみ接触部の役割を果たす(訳文7頁)。
チャックアセンブリ(70)は,チャンバ(60)とフレーム部材
(12)を通過する孔(66)内でスライド可能に支持される(訳文5
頁)。
発明の要約(訳文3頁)に記載された引込みアセンブリは図示されて
いないが,特許請求の範囲4項(訳文12頁)に記載されたチャックア
センブリを移動させる手段を意味するものと解され,同項の記載によれ
ば,引込みアセンブリは,フレームに支持される静止ハンドル(14)
と,フレームに旋回可能に支持される可動ハンドル(20)と,可動ハ
ンドルを静止ハンドルに向かって旋回するとスライドロッドを引き込み
方向に移動させる手段とからるものと解される。スライドロッドを引
き込み方向に移動させる手段としては,特許請求の範囲1項(訳文11
頁)の「ベースプレートから離れる引き込み方向に移動するためのチャ
ックアセンブリ」との記載からみて,チャックアセンブリを含むものと
解される。
訳文9頁の「オペレータは静止ハンドル14と可動ハンドル20の把
持部16および22を合わせて強く把持するだけでよく」の記載からみ
て,ハンドルは手動操作されるものと認められる。
ハンドルが強く把持されると,従動子(116)(したがってチャッ
クアセンブリ(70))が,引き込み方向(82)に移動し,チャック
アセンブリの引き込み方向(82)への移動によって,くぼみ係合部材
(100)はベースプレート(54)方向に引っ張られる(訳文9頁)。
くぼみ係合部材(100)がくぼみ(132)の材料をくぼみが形成さ
れる前の位置まで持ち上げる結果,くぼみが矯正される(訳文10頁)。
特許請求の範囲1項(訳文11頁)によれば,「ベースプレートの一
方の側面でフレーム上にスライド可能に支持され,ベースプレートから
離れる引き込み方向に移動するためのチャックアセンブリと」とされ,
このベースプレートは「フレームに支持され,中間部を通って延出する
隙間開口を有する透明ベースプレートと」とされている。このベースプ
レートアセンブリ(40)は,フレーム(44)とベースプレート(5
4)とからるものと解される(訳文4頁,図1)。発明の要約(訳文
3頁)には,「フレーム,透明なベースプレート,チャックアセンブリ
および引き込みアセンブリが協働してくぼみ係合部材を引っ張る」とさ
れており,この記載及び図3からみて,ベースプレートアセンブリ(4
0)は,引き込みアセンブリを支承しているものと認められる。
コイルばね(80)は,スライドロッド(74)を中心にしてチャン
バ(60)内に設けられ,チャック部材(76)の上端(78)と肩部
(64)との間に延びている(訳文5頁)。フレーム部材(12)は,
下端(42)の先端部(62)から当該肩部(64)に延出するチャン
バ(60)を有する約管状の部材であるから(訳文5頁),コイルばね
は,フレーム部材とチャックアセンブリとの間に介在しているといえる。
可動ハンドル(20)がオペレータの手によって引き込み位置に移動
し,その後開放されるとすると,バネ(80)は可動ハンドル(20)
の移動によって引っ込み位置まで圧縮して,その後チャックアセンブリ
(70)を延長方向に移動させる力を印加する(訳文7頁)。
オペレータが静止ハンドル(14)と可動ハンドル(20)の把持部
(16及び22)を強く把持すると,チャックアセンブリ(70)の引
き込み方向(82)への移動によって,くぼみ係合部材(100)はベ
ースプレート(54)方向に引っ張られる。くぼみ係合部材がくぼみ
(132)とねじ係合すると,チャックアセンブリの上方移動により,
くぼみ132が形成された方向と略反対方向の力をくぼみに印加し,く
ぼみ部をベースプレート(54)に向かって持ち上げる(訳文9頁)。
乙1発明の装置は,自動車等の硬質外板のくぼみ矯正装置である(訳
文1頁)。
以上をまとめると,乙1発明の構成は,次のとおりである。
iチャックアセンブリ(70)と,該チャックアセンブリ(70)
の先端部に配設し金属外板(130)に係合可能なくぼみ係合部材
(100)を備えた第1の引っ張り部材と,
j該引っ張り部材のチャックアセンブリ(70)をスライド可能に支
持するフレーム部材(12)を備え,手動操作により前記引っ張り部
材を引き上げる引き込みアセンブリと,
k該引き込みアセンブリを支承するベースプレートアセンブリ(4
0)とを具備し,
l該引き込みアセンブリを,静止ハンドル(14)と,可動ハンドル
(20)と,フレーム部材(12)とチャックアセンブリ(70)と
の間に介在させたバネ(80)を含んで構成し,
mこのバネ(80)により,チャックアセンブリを介して前記可動ハ
ンドル(20)を付勢させ,
n前記静止ハンドル(14)と可動ハンドル(20)間を前記バネ
(80)に抗しながら可動ハンドル(20)を旋回して金属外板(1
30)のくぼみの引き出しを行う
p金属外板用のくぼみ矯正装置(10)。
また,次の構成を認定できる(以下,当該構成を便宜上「乙①発明」
という。)
sチャックアセンブリ(70)の先端部に配設し金属外板(130)
に係合可能なくぼみ係合部材(100)を備えた第1の引っ張り部材
と,
t該引っ張り部材をスライド可能に支持するフレーム部材(12)と,
u前記引っ張り部材の引き上げを行う引き込みアセンブリと,
v該引き込みアセンブリを支承するベースプレートアセンブリ(4
0)とを具備し,
w該引き込みアセンブリを,静止ハンドル(14)と,可動ハンドル
(20)と,フレーム部材(12)とチャックアセンブリ(70)と
の間に介在させたバネ(80)を含んで構成し,
xこのバネ(80)により,チャックアセンブリを介して前記可動ハ
ンドル(20)を付勢させ,
y前記静止ハンドル(14)と可動ハンドル(20)間を前記バネ
(80)に抗しながら旋回して金属外板(130)のくぼみの引き出
しを行う
z金属外板用のくぼみ矯正装置(10)。
(イ)本件発明2と乙1発明を対比すると,乙1発明の「チャックアセン
ブリ(70)」は本件発明2の「シャフト」に相当し,以下同様に,
「金属外板130」は「板金面」に,「スライド可能に支持」は「支
持」に,「フレーム部材(12)」は「支持部」に,「ベースプレート
アセンブリ(40)」は「脚体」に,「静止ハンドル(14)」は「メ
インレバー」に,「可動ハンドル(20)」は「セカンドレバー」に,
「金属外板用くぼみ矯正装置(10)」は「板金用引出し具」に相当す
る。また,乙1発明の「くぼみ係合部材」と本件発明2の「溶着可能な
ビット」は,いずれも「シャフトの先端部に配設し」た「板金面に係合
可能な係合部材」である。
そして,乙1発明の「第1の引っ張り部材」及び「引き込みアセンブ
リ」は,操作手段ということができるから,それぞれ「第1の操作手
段」及び「第2の操作手段」ということができ,「引き込みアセンブ
リ」は手動操作により「第1の引っ張り部材」を引き上げるものである。
また,引き込みアセンブリには「ばね(80)」が介在されており,第
2の操作手段がばねを含んで構成されている。さらに,このばね(8
0)はチャックアセンブリを介して可動ハンドルを付勢するものである
から,「ばねによりセカンドレバーを付勢させ」るものに相当する。そ
の結果,第1の引っ張り部材と引き込みアセンブリは,静止ハンドル
(14)と可動ハンドル(20)間を可動ハンドルが旋回することによ
りばねに抗しながらつぼめて板金面の引き出しを行うものである。
そうすると,両者において,以下の一致点と相違点があると認められ
る。
【一致点】
シャフトと,該シャフトの先端部に配設し板金面に係合可能な係合部
材を備えた第1の操作手段と,
該第1の操作手段のシャフトを支持する支持部を備え,手動操作によ
り前記第1の操作手段を引き上げる第2の操作手段と,
該第2の操作手段を支承する脚体とを具備し,
前記第2の操作手段を,メインレバーと,セカンドレバーと,ばねを
含んで構成し,このばねにより前記セカンドレバーを付勢させ,
前記メインレバーとセカンドレバー間を前記ばねに抗しながらつぼめ
て板金面の引き出しを行う板金用引出し具。
【相違点】
第1の操作手段の板金面に係合可能な係合部材が,本件発明2では
「板金面に溶着可能なビット」であるのに対して,乙1発明では「くぼ
み係合部材」である点(以下「本件相違点1」という。)
第2の操作手段のばねが,本件発明2では「メインレバーとセカンド
レバーの間に介在させ」ているのに対して,乙1発明ではそのように構
成されていない点(以下「本件相違点2」という。)
(ウ)これ対し,原告は,相違点として,乙1発明のバネ(80)は可動
ハンドル(20)を付勢していない点を挙げ,本件発明2の板金用引出
し具では,ばねは,メインレバーとセカンドレバー間に介在させ,「常
時」セカンドレバーを付勢している旨主張する。
しかしながら,本件発明2に係る特許請求の範囲には,「このばねに
より前記セカンドレバーを付勢させ」(構成要件M)と記載されている
のであって,ばねは常時セカンドレバーを付勢しているとの特定はない。
加えて,特許請求の範囲には,「前記メインレバーとセカンドレバー間
をばねに抗しながらつぼめて板金面の引き出しを行う」(構成要件N)
と記載されており,本件発明2における「ばね」の技術的意義が細やか
な(微妙な)力を加えながら板金面を引き出すことにあると解されるこ
と(本件2明細書【0004】【0006】【0029】【003
2】)を考慮すれば,ばねは板金作業時にセカンドレバーを付勢してい
れば足りると解される(ばねの付勢力を利用してセカンドレバーを原状
復帰させることまでを必須としていない。)。そして,乙1発明では,
可動ハンドル(20)は,静止ハンドル(14)との間をバネ(80)
に抗しながらつぼめて金属外板(130)の引き出しを行うのであるか
ら,ばね(80)は可動ハンドル(20)を付勢していると認められる。
また,原告は,相違点として,乙1発明の引き込みアセンブリ(第2
の操作手段)が第1引っ張り部材(第1の操作手段)を支持する支持部
を有していない点を挙げ,本件発明2における第2の操作手段は,シャ
フトの引き上げに寄与する手段であり,支持部は第2の操作手段に設け
られているのに対し,乙1に記載されているくぼみ矯正装置では,フレ
ーム部材(12)はシャフト(スライドロッド(74))の引き上げに
寄与する部材ではなく,内部にスライドロッドを収容するためのもので
あって,そのために,長手方向に中空な中空体として形成されている旨
主張する。
しかしながら,特許請求の範囲には,「第1の操作手段のシャフトを
支持する支持部を備え」(構成要件J)と記載されているにすぎないの
であって,「支持部が第1の操作手段の引き上げに寄与する手段」であ
るとは記載されていない。そして,乙1には,「チャックアセンブリ7
0は,チャンバ60とフレーム部材12を通過する孔66内でスライド
可能に支持される。」(訳文5頁)との記載があるから,チャック(7
2)とスライドロッド(74)からなるチャックアセンブリ(70)
(シャフト)は管状の部材(中空体)であるフレーム部材(12)内で
スライド可能に支持されている。また,フレーム部材(12)(本件発
明2における「第2の操作手段」の一部に相当)が従動部材(116)
を介してチャックアセンブリ(70)(本件発明2における「シャフ
ト」に相当)を支持する態様であることは明らかであるから,乙1発明
は「第1の操作手段を支持する支持部を備え」ていると認められる。
(エ)本件相違点1について
乙1には,乙1のくぼみ係合部材を有する装置の「外板130への唯
一の障害として残っているのは,くぼみ132の中心に位置する穴だけ
であるが,これは公知の表面修理技術と手順によって容易に修理するこ
とができる。」(訳文10頁)との記載がある。
したがって,乙1に接した当業者は,外板への穴の発生という技術上
の問題点があることを認識し,これを解決する方法を検討することが自
然であるといえる。
板金面に溶着可能な先端部を備えた板金用引出し具は乙2~8(本件
発明2及び4に係る特許の出願前に頒布された刊行物である。)に示さ
れているように,本件発明2に係る特許の出願前に周知の技術的事項と
いえる。
そして,例えば,乙3に開示されているように,板金面を引き出す手
段として,板金面の孔に係合部材(フック等)を係合させ引き出すこと,
又は,板金面にビットを溶着させて引き出すことは同等の手段といえる
から,乙1発明において,板金面に係合可能な「くぼみ係合部材」に代
えて,外板への穴の発生という技術上の問題点を回避するために,板金
面に「溶着可能なビット」を採用することは,容易に想到し得たといえ
る。
(オ)本件相違点2について
本件発明2では,第2の操作手段の一部であるメインレバーと第2の
操作手段の一部であるセカンドレバーとの間にばねを配置している。こ
れに対し,乙1発明では,チャックアセンブリ(70)(第1の操作手
段の一部)とフレーム(12)(第2の操作手段の一部)の間にバネ
(80)が配置されているから,バネ(80)の一方が第2の操作部材
ではなく第1の操作部材に関係付けられているものといえる。しかしな
がら,乙1発明における可動ハンドル(20)は,静止ハンドル(1
4)との間をバネ(80)に抗しながらつぼめて金属外板(130)の
引き出しを行うものであるから,バネ(80)の付勢力はチャックアセ
ンブリ(70)(第1の操作手段の一部)を介して可動ハンドル(2
0)(第2の操作部材の一部であるセカンドレバーに相当)に作用して
いることは明らかである。
この点について,乙1の訳文7頁には,「ハンドル20がバネ80の
作用によって延長位置まで旋回すると,可動ハンドル20の湾曲した上
面36と37と当接係合して保持されるようになっている。バネ80に
関して,バネ80がチャックアセンブリ70に対して力を伝達して,チ
ャックアセンブリ70をバイアスさせて延長方向とも呼ばれる第2の方
向83に移動させる。可動ハンドル20がオペレーターの手によって引
き込み位置に移動し,その後開放されるとすると,バネ80は可動ハン
ドル20の移動によって引っ込み位置まで圧縮して,その後チャックア
センブリ70を延長方向に移動させる力を印加し,バネ80の力によっ
て第1と第2の揚力面124,126を介してハンドル20の第1と第
2の歯部26,28に耐えさせるようにさせて,ハンドル20が図1の
実線で示されるような延長位置をとるようにする。」との記載があり,
また,訳文7~8頁には,「バネ80はチャックアセンブリ70が引き
込み方向82へ移動することで圧縮され,ハンドル20を開放すると,
バネ80によってチャックアセンブリ70が延長方向83に移動して,
ハンドル20を延長位置に戻す。」との記載がある。
このように,乙1発明において,可動ハンドルの動きはバネの動きと
連動するものとして記載されている。そうすると,このような記載に接
した当業者は,バネの技術的意義について,実質的には可動ハンドルに
付勢するバネとしてこれを理解するものであり,そのような可動ハンド
ルに付勢するバネとして,複数の構成が可能であることを理解できる。
そして,端的に付勢の対象とするバネに付勢するための構成として,静
止ハンドルと可動ハンドルの間にバネを介在させる構成も想起するもの
といえる。
そうした想定し得る複数の構成のうちで,チャックアセンブリ(7
0)(第1の操作手段の一部)とフレーム(12)(第2の操作手段の
一部)の間にバネ(80)を配置した場合と静止ハンドル(14)(第
2の操作手段の一部)と可動ハンドル(20)(第2の操作部材の一
部)との間にバネを配置した場合とを比較しても,力の伝達の点からみ
て,実質的な差異は見いだせない。
そして,例えば,乙9~11(本件発明2及び4に係る特許の出願前
に頒布された刊行物である。)には,対向するレバー(ハンドル)の間
にばねを配置し,このばねの付勢力に抗する手動操作によって,工具の
部材に押し出し,引き戻す動きを与える手工具が開示されている。この
ように,レバー(ハンドル)の間にバネを配置し,ばねの付勢力によっ
て,押し出し,引き戻しの動きを与える手工具は周知のものであったと
認められる。乙1発明のくぼみ係合部材もバネの付勢力に抗して対向す
るハンドル操作によって押し出し,引き戻す動きを与えられる手工具で
ある点で共通するものといえるから,本件相違点2に係る構成は,乙1
発明に上記の手工具におけるばねの配置構成を適用することにより,当
業者が容易に想到し得たものといえる。そして,乙1発明において,静
止ハンドル(14)とともに把持可能な可動ハンドル(20)をバネ
(80)に抗してチャックアセンブリ(70)(本件発明2にいうシャ
フト)を持ち上げる構成とすることについて阻害要因もない。
(カ)以上のとおり,本件発明2は,乙1発明及び周知の技術的事項に基
づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。また,本件
発明2について,その作用効果に顕著な効果があったともいい難い。
イ本件発明4について
本件発明4と乙①発明を対比すると,乙①発明の「チャックアセンブリ
(70)」は本件発明4の「シャフト」に相当し,以下同様に,「金属外
板130」は「板金面」に,「フレーム部材(12)」は「支持部」に,
「ベースプレートアセンブリ(40)」は「脚体」に,「静止ハンドル
(14)」は「メインレバー」に,「可動ハンドル(20)」は「セカン
ドレバー」に,「金属外板用くぼみ矯正装置(10)」は「板金用引出し
具」に相当する。また,乙①発明の「くぼみ係合部材」と本件発明4の
「溶着可能なビット」は,いずれも「板金面に係合可能な係合部材」であ
る。
そして,乙①発明の「第1の引っ張り部材」及び「引き込みアセンブ
リ」は,操作手段ということができるから,それぞれ「第1の操作手段」
及び「第2の操作手段」ということができ,「引き込みアセンブリ」は手
動操作により「第1の引っ張り部材」を引き上げるものである。また,引
き込みアセンブリには「ばね(80)」が介在されており,第2の操作手
段がばねを含んで構成されている。さらに,このばね(80)はチャック
アセンブリを介して可動ハンドルを付勢するものであるから,「ばねによ
りセカンドレバーを付勢させ」るものに相当する。その結果,第1の引っ
張り部材と引き込みアセンブリは,静止ハンドル(14)と可動ハンドル
(20)間を可動ハンドルが旋回することによりばねに抗しながらつぼめ
て板金面の引き出しを行うものである。
そうすると,両者において,「シャフトの先端部に配設し板金面に係合
可能な係合部材を備えた第1の操作手段と,該第1の操作手段を支持する
支持部と,前記第1の操作手段を引き上げる第2の操作手段と,該第2の
操作手段を支承する脚体とを具備し,前記第2の操作手段を,メインレバ
ーと,セカンドレバーと,ばねを含んで構成し,このばねにより前記セカ
ンドレバーを付勢させ,前記メインレバーとセカンドレバー間を前記ばね
に抗しながらつぼめて板金面の引き出しを行う板金用引出し具。」の点で
一致し,上記(2)(イ)に記載した相違点と同様な点で相違すると認められ
るから,上記アと同様に本件発明4は,乙①発明及び周知の技術的事項に
基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
したがって,本件発明4に係る特許も進歩性を欠くものとして無効とさ
れるべきものである。
ウまとめ
以上のとおり,本件発明2及び4に係る特許は,いずれも進歩性を欠く
ものとして無効とされるべきものである。
3結論
以上のとおり,イ号製品は,本件発明2及び4の技術的範囲に属するが,本
件発明2及び4に係る特許は無効とされるべきものであるから,本件発明2及
び4に係る特許を侵害するものではない。
よって,原告の請求は理由がないから,これを棄却することとし,主文のと
おり判決する。
東京地方裁判所民事第29部
裁判長裁判官大須賀滋
裁判官小川雅敏
裁判官西村康夫

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