弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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       主   文
特許庁が昭和四二年審判第七〇一号事件について昭和五三年四月一四日にした審決
を取消す。
訴訟費用は、被告の負担とする。
       事   実
第一 当事者の求めた裁判
 原告は、主文同旨の判決を求め、被告は、「原告の請求を棄却する。訴訟費用
は、原告の負担とする。」との判決を求めた。
第二 請求の原因
一 特許庁における手続の経緯
 被告は、登録第六九二七三五号商標(以下「本件商標」という。)の商標権者で
ある。本件商標は、別紙第一のとおりの構成よりなり、第三〇類「菓子、パン」を
指定商品として、昭和三九年六月二七日登録出願、昭和四〇年四月二八日出願公
告、同年一二月一四日設定の登録がされ、昭和五一年四月八日商標権の存続期間更
新の登録がされているものである。原告は、被告を被請求人として、昭和四二年九
月二五日、本件商標の登録無効の審判を請求したところ、特許庁昭和四二年審判第
七一〇一号事件として審理され、昭和五三年四月一四日右審判の請求は成り立たな
い旨の審決があり、その審決の謄本は同年五月二九日原告に送達された。
二 本件審決の理由の要点
 本件商標は、前項記載のとおりである。
 請求人(原告)の引用する登録第四七九八八四号商標(以下「引用A商標」とい
う。)は、別紙第二の(1)のとおりの構成よりなり、旧第四三類「餅」を指定商
品として、昭和三〇年六月一七日登録出願、昭和三一年四月二六日設定の登録がさ
れ、昭和五一年一月一八日商標権の存続期間更新の登録がされているものである。
同じく登録第五六一二九一号商標(以下「引用B商標」という。)は、別紙第二の
(2)のとおりの構成よりなり、旧第四三類「菓子及び麺麭の類(但し、餅を除
く。)」を指定商品として、昭和三四年八月一五日登録出願、昭和三五年一二月一
〇日設定の登録がされたものである。
 本件商標及び引用A商標、引用B商標は、別紙第一及び別紙第二の(1)(2)
のとおりの構成よりなるものであるから、本件商標と引用各商標は、全体構成が相
違するばかりでなく、両者の図形自体も互に異なるものとして看取されるから、
外観上類似するものということはできない。
 次に、これを称呼上よりみるに、本件商標は、これを構成する「どんがめ」の文
字部分から「ドンガメ」の称呼を生ずることが明らかである。しかしながら、該文
字の下部に描かれた図形部分は何を表わしたものかにわかに理解することができな
いものである。仮に該図形が兜蟹を表わしたものであるとしても、一般に親しまれ
た生物ではないばかりでなく、該図形は著しく図案化されたものであるから、本件
商標登録当時において、岡山県笠岡地方に永住する者はもちろんのこと、一般世人
もそれが兜蟹の図形であることは認識しえないものである。したがつて、本件商標
に接する取引者需要者は、図形の上部に表わされた「どんがめ」の文字から、「ど
んがめ」なるものを描いたものと考えるから、「ドンガメ」以外の称呼は生じえな
いし、笠岡地方に永住する者にとつても、それは「どんがめ」であるばかりでな
く、図形との関連においても、その称呼を限定的に表わしたとみられる「どんが
め」の文字があるに拘らず、殊更「カブトガニ」と称呼することはないとみるのが
取引の実情に沿うものといえる。
 他方、引用A商標は、これを構成する文字中その要部とみられる「カブトガニ
餅」の文字部分から、「カブトガニモチ」又はその指定商品「餅」との関係上
「餅」の部分を省略して単に「カブトガニ」の称呼を生ずることが明らかである。
しかしながら、図形部分は、輪廓を描いてなるものであつて、何を表わしたものか
にわかに理解し難いものであるから、これに接する取引者需要者は、該図形は「カ
ブトガニ餅」の文字との関係上「かぶとがに」を表わした図形であると理解し、ま
た、笠岡地方に永住する者にとつても同様に兜蟹を表わした図形であろうと理解
し、図形の称呼を限定的に表わしたとみられる親しみやすい「カブトガニ餅」の文
字が書されているに拘らず図形自体から称呼を抽出して「ドンガメ」と称呼するこ
とはないものとみるのが相当である。同様に、引用B商標の称呼も「カブトガニ」
以外の称呼は生じえないものである。
 そうであれば、本件商標の称呼は「ドンガメ」であり、引用A商標の称呼は「カ
ブトガニモチ」又は「カブトガニ」、引用B商標の称呼は「カブトガニ」であるか
ら、両者は、称呼においても非類似である。
 次に、観念上よりみるに、請求人は、「兜蟹」と「どんがめ」とが同一観念のも
のであることを立証するため、一九六六年五月二五日株式社中山書店発行の「動物
系統分類学」、昭和三七年九月一六日医学博士【A】著のパンフレツト「生きてい
る化石カブトガニ」、昭和四五年一二月九日、昭和五二年三月三一日発行の朝日新
聞その他を提出しているが、本件商標登録以前の発行にかかるものは前記【A】著
のパンフレツトのみであり、これだけでは本件商標登録の時点において、一般世人
はもちろんのこと、笠岡地方の住人にとつても、「どんがめ」の学名が「兜蟹」で
あることを直ちに理解しうるものと認めることはできない。したがつて、本件商標
は、これを構成する「どんがめ」の文字部分から、亀が鈍重な生物であるので、こ
れを漢字にあてはめて「鈍亀」なる亀の観念を想起するか、又は、「どんがめ」が
「団亀」すなわち「すつぽん」の異称であることを知る者にとつては「すつぽん」
の観念を生じるとしても、図形部分は一般には理解し難いものであるから、前記
「どんがめ」の文字部分との関係上「鈍亀」又は「すつぽん」を観念するとみるの
が相当である。
 他方、引用A商標は、「カブトガニ餅」の文字部分から兜状の甲羅をした蟹又は
これを象つた餅の観念を生ずるとしても、図形部分から直ちに兜蟹の観念は生じえ
ないとみるのが自然であり、同様に引用B商標は、兜状の甲羅をした蟹の観念を生
ずるとみるのが自然である。
 また、本件商標登録当時笠岡地方に永住する者は、兜蟹とは「どんがめ」をいう
ものであつて本件商標の「どんがめ」の文字部分から兜蟹を観念したとしても、引
用A、B商標の「カブトガニ」の文字部分からは、兜状の甲羅をした蟹の一種であ
ると理解し、兜蟹の観念は生じえないし、「どんがめ」の学名が兜蟹であることを
知つている本件商標の指定商品を取扱う極めて少数の取引者需要者においても、自
他商品の識別標識である商標として両商標に接した場合、方言としての「どんが
め」と学名としての「カブトガニ」の印象とでは自づから別異なものとして感得
し、観念においても彼此相紛れるおそれはないものといわなければならない。
 そうであれば、本件商標と引用A、B商標とは外観、称呼、観念のいずれの点よ
りみるも非類似の商標といえるから、たとえ、両者の指定商品が相抵触するもので
あるとしても、本件商標の設定登録は、商標法第四条第一項第一一号の規定に違反
するものではなく、本件審判請求は理由がない。
三 本件審決の取消理由
 引用A、B商標の各構成、各指定商品及び各設定登録の日、商標権存続期間更新
登録の日が審決認定のとおりであることは争わない。しかし、審決は、次の点にお
いて違法であるから、取消されるべきである。
1 本件商標と引用A、B商標とは外観において類似するのに、審決が外観上類似
しないとしたのは、判断を誤つたものである。
 本件商標と引用A、B商標は、いずれも図形と文字から成るが、各商標を全体と
して観察すると、文字部分よりも図形部分が主たる要素となつている。すなわち、
本件商標と引用A、B商標は、いずれも図形部分が圧倒的に看者の注意をひくのに
対し、文字部分はあくまで附従的又は附飾的なものと認められるから、両商標の類
否を判断するに際しては、これらの図形部分を要部として抽出して観察することが
必要である。しかして、本件商標は横向きに、引用A、B商標は縦向きに描かれて
いるものの、いずれも標準和名を「カブトガニ」と称し、地方によつては「どんが
め」などと呼ばれる剣尾目に属する節足動物の背面を図案化したものであることは
一目瞭然である。そして、他にこのような特徴を有する生物は存在しないこと、む
しろ本件商標の方が引用A、B商標よりも「カブトガニ」の実形に近似しているこ
となどを総合して考えると、本件商標と引用A、B商標とはその図形部分において
酷似しており、結局全体的構成も類似しており、これを離隔観察した場合には、両
者は外観上類似する。
2 本件商標と引用A、B商標とは、称呼において類似するのに、審決が称呼上類
似しないとしたのは、判断を誤つたものである。
 審決は、本件商標の称呼を「ドンガメ」であるとしているが、本件商標は「どん
がめ」の文字部分のほか、その下部に描かれた図形部分から成り立つ結合商標であ
るから、「どんがめ」の文字と右図形との関連においていかなる称呼が生じるかを
も判定すべきである。本件商標を観察した場合には、文字と図形が不可分的に結合
しているとはいえず、かつ、これを分離して観察することが不自然ではないから、
右図形部分を観察すると、「ドンガメ」以外の称呼が全く生じえないということは
できない。そして、本件商標と引用A、B商標とは、いずれもその図形部分が商標
の要部となつており、かつ、上述のとおり、その図形は、標準和名を「カブトガ
ニ」と称する剣尾目に属する節足動物の背面を図案化したものであることは一目瞭
然であり、他に右図形に示されたような特徴を有する生物は存在せず、むしろ本件
商標の方が引用A、B商標よりも「カブトガニ」の実形に近似している。したがつ
て、一般取引者需要者が本件商標に接した場合には、明らかに「カブトガニ」の図
形が強い印象を与えるものであるから、直感的にこれを「カブトガニ」と称呼する
ことも十分あることである。本件商標からは「ドンガメ」の称呼のほかに「カブト
ガニ」の称呼をも生ずることが少なくない。他方、引用A、B商標から「カブトガ
ニ」の称呼を生ずることは明らかであるから、両者は称呼上類似する。
3 本件商標と引用A、B商標とは、観念において類似するのに、審決が観念上類
似しないとしたのは、判断を誤つたものである。
 標準和名を「カブトガニ」と称する生物は、岡山地方に居住する者にとつてはも
とより、本件商標登録以前から、ほぼ全国的に周知の生物であつて、かつ、右生物
は、標準和名と同様に一般に「カブトガニ」と呼ばれているものである。しかし
て、本件商標と引用A、B商標の各図形部分はいずれも右「カブトガニ」なる生物
を図案化したものである。
 本件商標は、その図形部分との関連において観察すると、「ドンガメ」以外の観
念が全く生じえないということはできず、本件商標の図形は「カブトガニ」である
ことが容易に看取でき、かつ、「どんがめ」は岡山地方における「カブトガニ」の
方言であることもほぼ周知の事実といえるから、一般の取引者需要者が本件商標か
ら「ドンガメ」のほかに「カブトガニ」を観念することも自然である。
 観念の類似は知覚的要素を基礎として判断されるところ、本件商標については、
その図形がまさに「カブトガニ」を表わしているものであり、かつ、「ドンガメ」
と「カブトガニ」は同一生物に対する異なつた呼び名にすぎないことなどを総合す
ると、本件商標から「カブトガニ」の観念が生じる程度はきわめて大きい。
 他方、引用A、B商標がそれぞれ文字と図形とが相まつて「カブトガニモチ」又
は「カブトガニ」と観念されることは至極当然のことであつて、審決のように、こ
れを「兜状の甲羅をした蟹の一種であると理解し、兜蟹の観念は生じえない。」と
するのは、誤りである。
第三 被告の陳述
一 請求の原因一及び二の事実は、いずれも認める。
二 同三の主張は争う。審決には原告主張のような誤りはない。
1 (外観について)
 本件商標は、文字が図形の上部に配されており、視覚上、文字の部分も図形の部
分と同様に看者の注意をひく部分であるから、いずれも要部となすべきものであ
る。また、引用A、B商標は、いずれも文字が中央部分に配され、図形は文字の輪
廓としてあらわされているから、文字部分と図形部分はいずれも要部であるとして
も、ウエイトはむしろ文字部分にあるとするのが自然である。
 本件商標を横に向け、図形中の剣状の突起部分を下方にして、その図形部分のみ
と引用A、B商標の図形部分のみとを対比するも、下方に先細の剣状突起があるこ
と、輪廓の胴体部分の下方の両側に毛状突起物があること(本件商標は合計八本、
引用A、B商標はいずれも合計一二本)を除けば、両者は、視覚上も看者に対して
全く異なる印象を与えるものである。すなわち、本件商標は、頭髪をおかつぱにし
た人形の首のような形状であるのに対し、引用A、B商標中の図形の形状は、上部
がこぶ状にふくれあがり、飛翔する鳥の姿か、「えい」の一種を思わせるような輪
廓であるから、両者の全体の形状も、それが世人に与える視覚上のニユアンスも全
く異なるものであつて、これらの図形のみを時と所とを異にして離隔的に観察する
としても、両者は外観上明らかに区別されうるものである。
 実際の登録商標は、本件商標の場合は「どんがめ」の文字が横書きされ、かつ、
図形は文字部分の下に剣状の部分を右にして配されているので、文字部分との関係
上もこのような配置のもとにしか使用されえないことは明らかである。これに対
し、引用A、B商標についても、文字部分との関係上、剣状の部分を下方に配する
ようにした以外の使用方法はありえないことが明らかである。したがつて、本件商
標と引用A、B商標とは、その全体的な構成が全く異なるものであるから、両者の
外観を全体的に把握すれば、これらを離隔的に観察するとしても、看者は一見して
これらを識別しうるであろうことは経験則に照らし明らかなところであり、この点
に関する審決の判断に誤りはない。
 なお、原告は、本件商標と引用A、B商標は、いずれも「カブトガニ」を図案化
したものであることが明らかであると主張するが、本件商標の登録時点において
は、「カブトガニ」なる生物は到底世人一般に親しまれていた生物であるとはいえ
ないので、そのような事情のもとにおいては、世人は本件商標と引用A、B商標の
各図形から、これらが同一の範疇に属する生物であるとは到底認識することができ
ないものと考えられる。
2 (称呼について)
 もともと「カブトガニ」なる生物は、世間一般に知られて親しまれている生物で
はなく、本件商標の指定商品「菓子、パン」の取引者需要者の中で、その図形ある
いは写真をみてそれが何であるかを理解する者はほとんどない。特に、本件商標が
登録された昭和四〇年ころの時点においては、そうであつた。さらに、本件商標の
図形は図案化されたものであるから、このような商標が商品菓子に使用された場合
においては、その取引者需要者がこの図形より兜蟹を想起することは考えられず、
「どんがめ」の文字からその図形も「どんがめ」なる特殊の、ないしは想像上の動
物を描いたものと解するのが通例であろう。したがつて、一般には、本件商標の図
形から「カブトガニ」の称呼を生ずることはありえない。また、兜蟹の棲息地であ
る笠岡地方の人々にとつては、兜蟹は「どんがめ」という名称によつて認識されて
いるのであるから、図形との関連においても、その称呼を限定的に表わしたとみら
れる「どんがめ」の文字があるにかかわらず、殊更に、なじみの薄い名称である
「カブトガニ」の称呼は生ずる余地がないと解するのが取引の実情に沿うものであ
る。それは、「カブトガニ」を「ダンガメ」(広島)、「ヒガンガニ」(徳島、和
歌山)、「ハチガメ」(福岡、大分)、「ウンキユウ」(福岡)などと称し、本件
商標中の図形がそのようにいわれるものであることを理解する地方の人々にとつて
も同様であり、本件商標がその指定商品に使用されている場合に、これらの人々
は、これを「ダンガメ」「ヒガンガニ」「ハチガメ」「ウンキユウ」などとそれぞ
れの地方の方言にしたがつて呼ぶことはあろうが、殊更に「カブトガニ」の称呼に
より取引することは考えられない。したがつて、本件商標からは、「カブトガニ」
の称呼は生じないとすべきものである。
3 (観念について)
 本件商標を構成する文字「どんがめ」は、もともとは「泥亀」「胴亀」に由来し
た「すつぽん」の異称であることは、三省堂発行新国語中辞典(乙第一号証の一な
いし三)あるいは岩波書店発行広辞宛(乙第二号証の一ないし三)によつても、明
らかなところである。たまたま笠岡地方においてのみ「カブトガニ」の方言として
「どんがめ」の語が使用されていることは事実であるが、それは、広島県では「ダ
ンガメ」、徳島県及び和歌山県では「ヒガンガニ」、福岡県では「ウンキユウ」
「ハチガメ」、大分県では「ウチワエビ」「カブリガニ」などと呼ばれており、
「どんがめ」もこれら数多くの方言と同様、岡山県の一地方で使用されている方言
の一つにすぎない。また、「カブトガニ」なる動物自体も、一般にきわめてなじみ
の薄いものであり、特に本件商標が登録された昭和四〇年ころにおいては、本件商
標の指定商品菓子類の取引者需要者間にあつて「カブトガニ」なる語により、剣尾
類に属する兜蟹を理解する者は、動物学者あるいは生物に興味を有する一部特殊な
人々を除いては、ほとんどいなかつたといつても過言ではない。このような事情の
もとにおいては、「どんがめ」の語により取引者需要者は「鈍重な亀」の意味を理
解するのが通例であり、たまたま辞書等によりそれが「団亀」あるいは「すつぽ
ん」の意味であることを解する者があるとしても、それが兜蟹であることを理解す
る者は、笠岡地方の者以外にはほとんどいなかつたとするのが実状に合致する。さ
らに、本件商標の図形も、一般世人にとつては何を表わすのか理解し難いものであ
るから、文字部分との関係において「鈍重な亀」又は「すつぽん」をカリカチユア
化した図形と解されるにとどまるのが通例であろう。ただ、笠岡地方の相当数の人
々は、それが「どんがめ」すなわち兜蟹を表わした図形であることを理解するであ
ろうし、また、「カブトガニ」の生息地の人々の一部の者も、それが「ヒガンガ
ニ」「ウンキユウ」などと呼ばれ、他所ではこれを「どんがめ」とも呼ぶところも
ある兜蟹であることを理解することもあろうが、これらの者も、特定の図形の称呼
を限定的に表わした本件商標との関係においては、これを「どんがめ」によつて理
解するものである。そうであれば、本件商標からは兜蟹の観念は生じない。
 次に、引用A、B商標にはいずれも「カブトガニ」の文字が記されているが、一
般には、剣尾類の兜蟹を理解する者はほとんどいないから、引用A商標からは、兜
状の甲羅をした蟹又はこれらを象つた餅の観念が、引用B商標からは、兜状の甲羅
をした蟹の観念が生ずるとするのが自然であつて、兜蟹の観念は生じない。ただ、
剣尾類の兜蟹を知る一部特殊の人々あるいは兜蟹の生息地の人々でその標準和名を
知る少数の人々には、引用A、B商標の文字と図形からして剣尾類の兜蟹を理解す
る者はあるであろうが、それは、指定商品「菓子、パン類」の一般取引者需要者か
らすれば、きわめて狭い範囲に限られている者にすぎない。
第四 証拠関係(省略)
       理   由
一 請求原因一及び二の事実は、当事者間に争いがない。そこで、原告主張の審決
取消事由の存否について判断する。
二 まず、観念の類否について考察する。
 成立に争いのない甲第七号証ないし第一一号証、第一三号証ないし第一五号証、
第一七号証ないし第一九号証、第二七号証ないし第三四号証及び弁論の全趣旨によ
れば、カブトガニは、剣尾類に属する海産の節足動物で、その形態の顕著な特徴は
後体部に「尾剣」を有する点にあり、これが他の生物にない独特の体形となつてい
ること、カブトガニは、日本では瀬戸内海、博多湾、有明海に棲息し、岡山県笠岡
市金浦湾は、カブトガニが瀬戸内海で最も盛んに繁殖するところで、昭和三年に
「カブトガニ繁殖地」として、国の天然記念物に指定されたこと、カブトガニに関
する文献は、すでに江戸時代末期には見られ、明治時代以降今日まで、その形の珍
奇なため、あるいは遠く古生代から生き続けた生物として「生きた化石」といわれ
るため、おびただしい部数にのぼるカブトガニに関する文献が刊行されているこ
と、そして、おそくとも昭和三〇年代には、一般の読者を対象とする各種の百科事
典類にカブトガニの図形や写真が掲載され、その説明がされていること、昭和三〇
年代に全国各地の高等学校において使用された生物の教科書中には、カブトガニの
図形もしくは写真が掲載され、その説明がされていること、本件商標についての設
定の登録がされた直後ではあるが、昭和四一年には、笠岡市の中学校で「カブトガ
ニ研究クラブ」が結成されたところ、それがNHKテレビに採り上げられて、「あ
すは君たちのもの-生きている化石を守る」というカブトガニの番組が放映され、
その番組にちなんで詩人サトウハチロウーが「生きている化石をまもる」というカ
ブトガニの詩をうたつていること、岡山県笠岡地方では昔からカブトガニのことを
方言で「どんがめ」と呼んでいること、以上の事実を認めることができる。
 右事実に徴すれば、本件商標についての商標権の設定登録の日(昭和四〇年一二
月一四日)ないし商標法第一八条第二項、第四一条第一項の各規定と本件商標の出
願公告日(同年四月二八日)とから推認される商標登録をすべき旨の査定の日の当
時においては、カブトガニは、岡山県笠岡地方にとどまらず、ほぼ全国的に知られ
た生物であつたと認めることができる。
 ところで、本件商標の図形がカブトガニの背面を図案化したものであることは、
それが後体部に尾剣を有するなどカブトガニの独特の体形を現わしていることから
容易に理解できるところであり、しかも、右図形部分は、その大きさ及び位置から
みて本件商標において強く看者の注意をひくものであるから、指定商品「菓子、パ
ン」の取引者需要者が本件商標からカブトガニを観念することはきわめて自然とい
うべきである。したがつて、本件商標からカブトガニの観念を生ずる。本件商標の
文字部分「どんがめ」は前記のとおり岡山県笠岡地方におけるカブトガニの方言で
あるが、このことは、本件商標からカブトガニの観念を生ずることをさらに強める
ことにはなつても、これを妨げる事由にはならない。
 他方、引用A、B商標についても、その図形がカブトガニを図案化したものであ
ることは、前述したところに徴し容易に理解できるものであり、その文字部分「カ
ブトガニモチ」あるいは「カブトガニ」と相まつて、引用A、B商標からカブトガ
ニの観念を生ずることは明らかというべきである。
 被告は、本件商標の登録当時においては、カブトガニは岡山県笠岡地方において
は周知の生物であるとしても、全国的には未だ一般に知られた生物ではないとの主
張を前提として、本件商標からも引用A、B商標からも、カブトガニの観念は生じ
ないと主張するが、これを採りえないことは前述したところから明らかである。ま
た、被告は、「どんがめ」は「すつぽん」の異称であり、あるいは一般世人は「ど
んがめ」から「鈍重な亀」の意味を理解すると主張するが、そのようなことがある
としても、本件商標の図形部分からカブトガニの観念を生ずるとの前記認定を左右
するものではない。
 右のとおりである以上、本件商標と引用A、B商標とは観念において類似する商
標であり、両者を観念においても非類似とした審決は、その余の点について判断す
るまでもなく、類否の判断を誤つたものであつて、違法であるから、取消されるべ
きものである。
三 よつて、本件審決の違法を理由にその取消を求める原告の本訴請求を正当とし
て認容することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法第七条及び民事訴訟法
第八九条の規定を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 荒木秀一 杉山伸顕 清野寛甫)
<12172-001>

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