弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     被告人を禁錮六月に処する。
     原審及び当審の訴訟費用は全部被告人の負担とする。
         理    由
 弁護人満園勝美の控訴理由は、末尾添付の同人作成の控訴趣意書記載のとおりで
あつて、これに対して当裁判所は左のごとく判断する。
 被告人は父A方で清酒三合位及びウイスキー一合位を飲み、自動三輪車を運転し
て帰路についた際、「酔つていると思つたが二〇分位で帰れるから大したことはな
い」と思つたというのであるが、この供述を他の証拠と照合して判断すると、酒に
酔つていて、正常な運転ができない虞があることを自覚しながらも、わずか二〇分
位で帰れるから事故をおこすことはないだろうと軽信したものと見るべきである。
道路交通取締法(昭和二二年法律第一三〇号)第七条第二項第三号に規定する無謀
操縦行為は、もとより故意犯であるが、その故意の内容は原判決のいうごとく「犯
人が正常な運転ができない虞があると判断すると否とにかかわらず、一般に正常な
運転ができない虞があると認められる程度に酒に酔つている、その酩酊の度合の認
識があることをもつて足る」とすべきではなく、所論のごとく「酒に酔つているた
めに正常な運転ができない虞があることを行為者において認識していなければなら
ない」のであるが、原判決は更に後段において、「被告人は乗車に際し今日は酔つ
ていると思つたが二〇分で帰れるから大したことはないと思つて運転したことは、
被告人が当時その酩酊の度合を十分に認識していたことを示すのみならず、むし
ろ、正常な運転ができない虞のあることを意識していたことがうかがわれる」と説
示しているのであるから、原判決は判示無謀操縦罪の故意の存在を認定するにつ
き、何等欠くる所はないというべきである。
 ところで、被告人は判示自動三輪車を運転して判示a橋上を進行中、折柄対向し
て来たBの運転する普通乗用自動車の右側面に自車の前部を衝突させて、同側面に
凹凸、亀裂を与えるなど、甚だしくこれを損壊した(原判示第二の事実)というの
であるが、この事実は原判決の挙示する照応証拠によつて優に証明することがで
き、原判決のこの点に関する事実の認定に誤あるものとするに由ない。そうして、
被告人は右事故を起したにかかわらず、そのまま運転を継続してその場を去つたこ
とが明らかであるから、被告人は右事実につき前示道路交通取締法第二八条第一
号、第二四条第一項の刑責に服さなければならないことは、いうまでもない。
 次に、被告人は右a橋を経て、約五分後、葛飾区b番地先にさしかかつた際、そ
の路上右側に設置してあつた街路灯に自車を衝突させ、把手を左方にとられて進行
したため、折柄自転車に乗つて対面して来たCに自車の前部を衝突させて、同人を
路上に転倒させ、因つて同人に対し約一ケ月間の加療を要する傷害を負わせた(原
判示第一の事実)というのであるが、この事実は原判決の挙示する照応証拠によつ
て優に証明することができるし、この事実の認定についても原判決に誤あるものと
いうことはできない。しかし、原判決がこの事故の発生した原因が、被告人の前示
酩酊運転にあるものと判断し、酩酊運転そのものが自動車運転者として事故の発生
を未然に防止すべき業務上の注意義務違反による過失の内容となるという見解の下
に、被告人の該所為は刑法第二一一条前段と道路交通取締法第二八条第一号、第七
条第一項(第二項第三号)とに該当するとし、もつて一個の行為にして二個の罪名
に触れる場合として被告人を処断したのは、実は、法律の解釈適用を誤つたものと
いわなくてはならないのである。
 <要旨>おもうに、前示道路交通取締法第七条第一項(第二項第三号)に違反する
ことによつて成立する罪は、酒に酔つて正常な運転ができない虞があるとき
は運転をしてはいけないという規範の遵守義務違反たるにすぎないのであつて、こ
の義務違反たるや、自動車運転をする者が、その運転という業務に従事中、事故の
発生を未然に防止すべく注意しなければならないとする義務の違反とは異質のもの
である。従つて、前者の義務違反が同時にまた後者の義務違反でもあるというがご
とき理のあるべきいわれはない。原判決は、酔が廻つて正常な運転ができなくなる
場合には予め休息して酔の醒めるのを待つて運転すべき義務に違反した旨を説示し
ているが、これは前者の義務違反を明らかにしただけであつて、これをもつて直ち
に、自動車運転者としての、事故の発生を未然に防止すべき業務上の注意義務違
反、すなわち運転者としての過失とするわけにはいかない。然らば、被告人は右C
に判示のごとき傷害を負わせるにつき、業務上の過失があつたかどうかを原判決の
挙示する照合証拠の外、当裁判所が検証した結果を検討して考量するに、判示場所
(葛飾区b番地先路上)はa橋の方から行くと、目測ではあるが直角とまではいか
なくとも、ほぼそれに近い程度の角度で左曲している(当裁判所の検証調書添付写
真2及び3参照)のであるから、被告人としては当然左折して進行するの措置に出
ずべきであつたのに、前方注視の義務を怠つたため、該道路が右のごとく左曲して
いることに気付かず、漫然直進したため、前方右側道路上に設置してあつた街路灯
に自車を衝突させてしまい、あわてて把手を左方に切つたため、折柄自転車に乗つ
て対向して来たCに自車の前部を衝突するに至らしめ、因つて、もつて同人を路上
に転倒させた上、判示傷害を負わしめたことを認めることができるのである。して
みれば、被告人は自動車運転者として事故の発生を未然に防止すべく、常に前方を
注視して道路の状況に応じ適当な措置を採るべき業務上の注意義務があつたにかか
わらず、この義務を懈怠した結果、原判示第一の事故をおこしたものというべきで
あるから、被告人はこの点につき、無謀操縦の罪とは別に、刑法上業務上過失致傷
罪の責任に服さなければならないのである。そこで、原判決がこの二つの罪をもつ
て刑法第五四条第一項前段の想像上数罪として処理し、重い後者の罪の刑によつて
被告人を処断したのは、前段説示のとおり、法律の解釈適用を誤つたものであり、
この誤は判決に影響を及ぼすことが明らかである。なお、記録にあらわれたすべて
の証拠によるも、被告人が原判示第一及び第二の各犯行当時心神耗弱者であつたと
する跡の見るべきものはない。
 右にいうごとく、原判決には刑訴法第三八〇条に規定する事由があるので、以上
に判断した以外の控訴理由についての判断を須いず、刑訴法第三九七条第一項に測
つて原判決を破棄し、同法第四〇〇条但書に従つて、更に判決する。
 すなわち、原判示事実の中、無謀操縦の点は道路交通取締法第二八条第一号、第
七条第一項(第二項第三号)、業務上過失傷害の点は刑法第二一一条前段、罰金等
臨時措置法第二条第三条、事故発生の場合に所定の措置を採らなかつた点は道路交
通取締沫第二八条第一号、第二四条第一項に夫々該当するところ、以上は刑法第四
五条前段の併合罪であるから、その各所定刑中自由刑を選択して同法第四七条第一
〇条により、最も重い業務上過失傷害罪の刑に法定の加重をし、同法第四七条但書
の制限刑期範囲内で被告人を禁錮六月に処すべく、原審及び当審における訴訟費用
は刑訴法第一八一条第一項に則つて、全部被告人をして負担させることとする。
 よつて、主文のごとく判決する。
 (裁判長判事 尾後貫荘太郎 判事 堀真道 判事 堀義次)

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