弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

主文
被告人を懲役8年6か月に処する。
未決勾留日数中110日をその刑に算入する。
押収してある折りたたみ式ナイフ1本(平成21年押第20号の1)を没
収する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は,
第1平成21年5月2日午前1時22分ころ,岐阜県本巣市a番地A(当時50
歳)方1階北西側6畳間において,同人に対し,殺意をもって,右手に持った
折りたたみ式ナイフ(刃体の長さ約7.4センチメートル,刃体の幅約2.0
センチメートル,刃体の厚み約0.1センチメートル,平成21年押第20号
の1)で同人の側頸部,後頸部及び顔面等を数回切りつけ,さらに同人の胸部
,,,等を突き刺そうとしたが同人が大声で助けを求めたためその場から逃走し
同人に加療約3か月間を要する顔面,左・後頸部裂傷,左中指神経・腱断裂,
左環指神経・腱断裂等の傷害を負わせたにとどまり,殺害の目的を遂げなかっ

第2業務その他正当な理由による場合でないのに,上記日時場所において,上記
折りたたみ式ナイフ1本を携帯した
ものである。
(補足説明)
第1争点
本件の争点は,
1被告人が,折りたたみ式ナイフで,被害者の胸部等を突き刺そうとした
か否か
2被告人の殺意の強さの程度
である。
第2争点1について
1本件において,検察官は,被告人は,被害者を殺害する意図で,折りたたみ
式ナイフで3回ほど被害者の胸部等を突き刺そうとしたと主張し,一方で,弁
護人は,被害者の腹部を2回折りたたみ式ナイフを持った手で押したが,殺意
を持って突き刺そうとしたわけではなく,体勢を支えるためにしたものである
と主張する。
2被害者供述の信用性
そこでまず,被害者の供述の信用性を検討すると,被害者は,面積の狭いも
のが胸などに当たったなどと供述しており,このような供述は,真に経験した
ものでないと供述できないほどに迫真性がある。また,被告人自身も,手が被
害者の胸部付近に当たったこと自体は認めているところ,このような事実と被
害者の供述は一致している。
なお,弁護人は,被害者の供述は,被告人がナイフで突き刺そうとした際の
被害者の体勢や,被害者が手で防御をしていない点,ナイフの刃を見たと言っ
。,,ていない点が不自然であると主張するしかしまず被害者の体勢については
被告人が捜査段階の犯行再現(乙3添付の写真番号24)で示したように,実
際は被害者は横たわっているのに,立っているという感覚しかなかったと考え
れば,不自然な点はない。また,被害者は突然の犯行によりパニックになって
いたと考えられ,手で防御していないことや,ナイフの刃を見た記憶がないこ
とは何ら不自然ではない。
さらに,弁護人は,被害者の胸部等に傷跡は認められず,このことと被害者
の供述は整合しないと主張するが,被告人がナイフの刃を出したまま被害者の
胸部等を刺そうとしたが,1回目は刃の丸いところが被害者の身体に当たり,
ナイフが被害者の身体に当たるごとに序々にナイフの刃が折りたたまれていっ
たと考えれば,被害者の胸部等に傷跡がないことと,被害者の供述とは矛盾し
ない。
以上によれば,被害者の供述は信用できる。
3被告人の捜査段階における供述の信用性
,。被告人の捜査段階における供述は信用できる被害者の供述と整合している
また,被告人は,逮捕後,初期の段階で,殺意はないという自己の言い分を供
述しつつ,刺したという自己に不利益な事実を認めている。さらに被告人は,
捜査段階において,被害者を刺したと供述しているのであり,刺さったのかも
しれないというあいまいな形では供述していない。
以上によれば,被告人の捜査段階における供述は信用できる。
4被告人の公判廷における供述について
被告人は,公判廷において,体勢を支えるために,被害者の胸部等を押した
と供述しているが,バランスを崩した際に,ナイフを持った方の手でバランス
をとろうとするのは不自然であるし,体勢を立て直すのであるならば,被害者
の胸部に触れる際に,もっと力が入るはずである。
以上によれば,被告人の公判廷における供述は信用できない。
5結論
以上により,信用できる被害者の供述及び被告人の捜査段階における供述か
ら,被告人は,被害者を殺害する意図で,折りたたみ式ナイフで2,3回被害
者の胸部等を突き刺そうとしたことが認められる。
第3争点2について
1被告人は,折りたたみ式ナイフという人を死亡させるのに十分な鋭さを持っ
た刃物を凶器として用い,首や顔面といった人体の重要部分を狙って2回切り
つけ,逃げようとした被害者の背後から,被害者の首を狙って2回切りつけた
上で,さらに被害者の胸部等を2,3回突き刺そうとするなど,執ように行為
に及んでいる。また,被告人のこのような行為の結果,被害者の左頸部には,
長さ約17センチメートル,深さ約1センチメートルから約3.5センチメー
,,,トルにも及ぶ裂傷が被害者の顔面には鼻の中の軟骨にも及んでいる裂傷が
後頸部には,長さ約12センチメートル,深さ約1.5センチメートルの裂傷
,,,と長さ約15センチメートル深さ約3センチメートルの裂傷が生じており
深い傷は骨にも達している。また,被告人は,犯行前日に被害者との間で警察
を呼ぶ騒ぎとなり,その後被害者と話し合いをしたいが,最悪の場合はナイフ
で被害者を傷つけることになるかもしれないと考えて被害者方を訪れ,被害者
方の窓ガラスを割って室内に入ろうとしたところ,被害者が携帯電話を耳に当
てているのを見て,被害者が警察を呼んだものと考え「てめえ,こんなこと,
までしやがって」と言った上で,別れるくらいなら他の男に取られないように
被害者を殺してしまおうと決意して本件犯行に及んだと認められる。このよう
な犯行の経緯は,被害者を殺そうとする動機として理解可能である。以上の事
実からすると,本件における被告人の殺意は,強いものであったことが強く推
認できる。
2弁護人は,もし強い殺意であるならば,包丁などを持ち出すはずであるなど
と主張しているが,被告人はもともとナイフを携帯していた上,あくまでも当
初は被害者と話し合うことが目的だったのであり,包丁を持ち出していないこ
とと強い殺意に矛盾はない。また,弁護人は,殺すつもりがあれば,心臓など
を突き刺すはずであるなどと主張しているが,被告人は,はじめに頸動脈の通
る首筋を狙ってナイフで切りつけており,行為態様と強い殺意は何ら矛盾しな
い。
3以上によれば,被告人に強い殺意があったと優に認められる。
(量刑の理由)
第1犯行に至る経緯等
被告人は,被害者と5年あまり交際してきたが,本件犯行前日である平成2
,,1年5月1日被害者と被告人の前妻との間の子どもの関係でトラブルとなり
警察を呼ばれ,その場で,被害者と別れるという話になった。しかし,別れる
というのは被告人の本心ではなく,被害者とよりを戻したかったことから,被
告人は,被害者に,メールや電話をしたが,被害者からの応答はなかった。そ
こで,被告人は,どうしても被害者と話をしたいと思い被害者方に行くことに
したが,最悪の場合は,本件ナイフで被害者を傷つけることになるかもしれな
いと考えていた。被告人は,被害者方付近で,しばらく逡巡していたが,無理
矢理被害者方に入ることにして,被害者方の窓ガラスを割って被害者方に入っ
た。すると,被害者が,携帯電話を耳に当てていたので,警察を呼んだものと
考えて,なぜ自分が被害者のことをこんなにも好きなことを知っていながら,
警察をまた呼ばれなければならないのか,被害者と別れるくらいなら他の男に
取られないように殺してしまおうと決意して本件犯行に及んだ。
第2本件の刑を決めるに当たって考慮した事情は,以下のとおりである。
1犯行態様
被告人は,強い殺意を持って,逃げようとする被害者を追いかけるように,
相当強い力で本件ナイフで被害者の首を3回,顔面を1回切り付けた上,さら
に,被害者の胸部等を突き刺そうとしたものである。このように,被告人の犯
行態様は,執ようできわめて危険で悪質である。
2結果
被害者は,本件犯行によって,判示のとおりの傷害を負った上,顔面に傷跡
が残り,指の可動域制限が残る可能性もある。このような傷害の結果により,
被害者は,日常生活にも多大な制約を受けており,また,被害者の子どもら周
囲の者の生活にも重大な悪影響を与えている。被害者の被った肉体的苦痛・精
神的苦痛,さらには周囲に与えた影響には多大なものがあり,結果はきわめて
重大である。
3動機
犯行前日のトラブルにおける被害者の言動が本件の一因となったことは否め
ないものの,トラブルの原因は被告人にもあるのであり,しかも,口論の域を
出ないものであった。それにもかかわらず,被告人は,本件ナイフという凶器
を使って本件犯行に及んだものであって,被害者の言動は,弁護人が主張する
ほどには重視できない。被害者と別れるくらいなら他の男に取られないように
被害者を殺してしまおうという犯行の動機は身勝手というほかない。
4被害者の感情
被害者は,5年あまり交際してきた被告人から上記のような被害を受けたも
のであって,被害者が被告人に対し,厳しい処罰を求めるのも当然であり,こ
の点は重視すべき事情である。
5被告人の反省
被告人は,被害者に傷害を負わせたことなどについては認め,今後,被害者
には近付かないと述べるなど反省の態度を示している。しかしながら,被害者
の心情に関する理解には,まだ乏しいところがあり,反省が十分であるとはい
えない。
6被害弁償
被告人側が被害者に対して100万円を被害弁償として支払ったことは認め
られるものの,これは被害者の治療費にも満たないものである上,今後の被害
弁償の見通しにも不確かな点があり,過大に重視できない。
7その他
前妻が出廷して,被告人の帰りを待つと述べていることや4人の子どもがい
ることなどは,被告人の更生にとって励みになるものといえる。また,被告人
には,前科前歴はない。この点は,被告人にとって酌むことができる事情とい
える。
第3結論
以上の有利不利な事情を考えて,主文のとおりの量刑とした。
(求刑懲役12年,没収)
平成21年10月9日
岐阜地方裁判所刑事部
裁判長裁判官宮本聡
裁判官石井寛
裁判官中山知

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛