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平成25年4月12日判決言渡同日原本交付裁判所書記官
平成23年(ワ)第8046号損害賠償請求事件(第1事件)
平成23年(ワ)第12978号売掛金請求事件(第2事件)
口頭弁論終結日平成25年1月18日
判決
東京都足立区<以下略>
第1事件原告(第2事件被告)株式会社クレイジー
(以下「原告」という。)
同訴訟代理人弁護士岩崎修
東京都江東区<以下略>
第1事件被告(第2事件原告)株式会社インタープランニング
(以下「被告」という。)
同訴訟代理人弁護士名古屋聡介
主文
1被告は,原告に対し,43万3400円及びこれに対する平成2
3年1月21日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2原告は,被告に対し,536万6550円及びこれに対する平成
23年3月1日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
3原告のその余の請求を棄却する。
4訴訟費用は,第1事件及び第2事件を通じてこれを100分し,
その99を原告の,その余を被告の負担とする。
5この判決は,第1項及び第2項に限り,仮に執行することができ
る。
事実及び理由
第1請求
1第1事件
被告は,原告に対し,2074万2150円及びこれに対する平成23年1
月21日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2第2事件
主文第2項同旨
第2事案の概要
1第1事件
第1事件は,原告が,①被告との間で,平成22年2月から同年6月にかけ
て,2回にわたり,キャディバッグ等の商品の売買契約を締結したが,被告は,
上記契約に係る商品の一部を,納入期限までに納品しなかったと主張し,債務
不履行に基づく損害賠償請求として,1074万2150円及びこれに対する
支払期限の後の日である平成23年1月21日から支払済みまで民法所定の年
5分の割合による遅延損害金の支払を求めるとともに,②被告が製造販売する
別紙被告商品目録記載のキャディバッグ(以下「被告商品」という。)等は,
原告の販売する別紙原告商品目録記載のキャディバッグ(以下「原告商品」と
いう。)等の商品形態を模倣したものであるから,被告が被告商品を販売する
行為は,不正競争防止法2条1項3号所定の不正競争又は原告に対する不法行
為に該当すると主張し,主位的には同法4条に基づき,予備的には民法709
条に基づき,損害賠償金1000万円及びこれに対する上記不正競争又は不法
行為の後の日である平成23年1月21日から支払済みまで民法所定の年5分
の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
2第2事件
第2事件は,ゴルフ用品の製造,小売等を業とする株式会社である被告が,
ゴルフ用品の製造,販売等を業とする株式会社である原告との間で,平成22
年6月から同年10月までの間に3回にわたりキャディバッグ等の売買契約を
締結した上,原告に対し,約定の期日までにこれらの商品を納入し,又は弁済
の提供を行ったが,原告が上記納入又は弁済提供に係る商品分の代金を支払わ
ないと主張し,上記各売買契約に基づき,上記商品の未払代金合計額である5
36万6550円及びこれに対する支払期限の後の日である平成23年3月1
日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求め
る事案である。
3前提事実(争いのない事実以外は,証拠等を末尾に記載する。)
(1)当事者等
ア原告は,ゴルフクラブシャフト及びゴルフ用品の製造,販売,修理,輸
出入等を業とする株式会社である。
イ被告は,ゴルフ用品の企画,生産,卸売,小売等を業とする株式会社で
ある。
(2)原告商品の販売等
ア原告は,平成21年頃から,原告商品を販売している(甲1,原告代表
者)。
イ原告商品は,被告が,原告の委託を受けて製造し,納入したものである。
(3)被告商品の販売等
被告は,平成22年頃から,被告商品を販売している(甲2,5)。
(4)売買契約
原告は,被告との間で,以下の内容の売買契約を各締結した(以下,それ
ぞれ「本件契約1」などという。)。
ア本件契約1(乙20の1・2)
(ア)発注日(契約日)平成22年2月17日
(イ)品名,数量及び商品単価
別紙一覧表(「契約」欄1のもの)記載のとおり。
(ウ)売買代金合計217万3500円(消費税込み)
発注時に合計金額の50%,納品後1週間以内に残額を各支払う。
(エ)納品時期平成22年5月下旬~6月上旬
本件契約1は,他の商品と併せて発注されており,以下,他の商品分を
併せた平成22年2月17日発注の契約全体(契約合計額930万300
0円)を「本件契約1の全体契約」ということがある。
イ本件契約2(乙6の1・2)
(ア)発注日(契約日)平成22年6月29日
(イ)品名,数量及び商品単価
別紙一覧表(「契約」欄2のもの)記載のとおり。
(ウ)売買代金合計451万5000円(消費税込み)
発注時に合計金額の50%,納品後1週間以内に残額を各支払う。
(エ)納品時期平成22年9月末~10月上旬
ウ本件契約3(乙7の1・2)
(ア)発注日(契約日)平成22年8月27日
(イ)品名,数量及び商品単価
別紙一覧表(「契約」欄3のもの)記載のとおり。
(ウ)売買代金合計630万円(消費税込み)
発注時に合計金額の50%,納品後1週間以内に残額を各支払う。
(エ)納品時期平成22年12月上旬~中旬
エ本件契約4(乙8の1・2)
(ア)発注日(契約日)平成22年10月25日
(イ)品名,数量及び商品単価
別紙一覧表(「契約」欄4のもの)記載のとおり。
(ウ)売買代金合計42万円(消費税込み)
納品後1週間以内に支払う。
(エ)納品時期平成22年12月中旬~12月下旬
(5)納品等
被告が,本件契約1ないし4に基づき原告に納入した商品数は,別紙一覧
表「納入数」欄記載のとおりである。
(6)代金の一部支払
原告は,本件契約2及び3の各契約日頃,本件契約2につき225万75
00円,本件契約3につき315万円を各支払ったが,本件契約2及び3の
代金から上記支払分を控除した残金及び本件契約4の代金を支払っていない。
(7)原告は,平成23年1月12日付け通知書(乙11)により,被告に対
し,本件契約1及び2に係る債務不履行に基づく損害合計1074万215
0円及び不正競争防止法に基づく損害1000万円を,上記通知書到達後1
週間以内に支払うよう請求し,上記通知書は,同月13日に被告に到達した
(甲3の1・2,乙11)。
4争点
(1)第1事件について
ア本件契約1に関する債務不履行の成否
イ本件契約2に関する債務不履行の成否
ウ債務不履行による損害額
エ不正競争防止法2条1項3号所定の不正競争又は不法行為の成否
オ不正競争又は不法行為による損害額
(2)第2事件について
原告の支払うべき代金額
第3争点に関する当事者の主張
1争点(1)ア(本件契約1に関する債務不履行の成否)について
(原告の主張)
(1)被告は,本件契約1の対象商品(キャディバッグ合計90本)を納品
期限までに納入しなかったから,被告は,本件契約1の債務不履行責任を
負う。
(2)本件契約1の合意解約の主張については否認する。
被告従業員がキャディバッグ12本を無償で提供する旨の申し入れをし
たことがあることは認めるが,これは,商品の納入が遅れたことに対する
お詫びの趣旨でされたものにすぎず,原告には,未納分の商品の納入義務
等を免除する意思はなかった。原被告間に,合意解約を証する書面が存在
しないこと等は,本件契約1が合意解約された事実がないことを裏付けて
いる。
(被告の主張)
(1)原告の主張は争う。本件契約1は,下記(2)のとおり,平成22年8月
頃合意解約されており,本件契約1に係る債権債務関係も清算済みである
から,被告は,本件契約1に関し債務不履行責任を負わない。
(2)合意解約
被告は,平成22年2月16日,本件契約1の対象キャディバッグを含
む見積書を原告に交付し,同月17日,原告から発注を受けて,上記発注
に係る商品の製造をサンプラザ株式会社(以下「サンプラザ」という。)
に委託した。しかし,同年6月15日,サンプラザから原告指定倉庫に納
品されたキャディバッグの一部に形状不良等が発見されたことから,被告
は上記商品を原告指定倉庫から引き上げ,原告との協議の結果,同年7月
8日,本件契約1を解約した上,形状不良等のないと考えられるキャディ
バッグ12本を原告に無償提供することで,本件契約1を清算済みとする
ことを合意した。
本件契約1が合意解約されていることは,被告従業員の作成した経過報
告書(乙24)に今回の商品はキャンセルとなった旨記載されていること
や,平成22年6月29日付け請求書(乙27)において,同年2月16
日付け見積書(乙20の1)記載の本件契約1の全体契約合計金額930
万3000円から,本件契約1の対象キャディバッグ90本分の金額(2
17万3500円)を控除した額が記載されていること,平成22年8月
27日付けで作成された本件契約3に係る見積書(乙7の2)において,
キャディバッグ12本が全額値引き分として記載されていること,その後,
本件契約3及び4が問題なく締結されていることからも明らかである。
2争点(1)イ(本件契約2に関する債務不履行の成否)について
(原告の主張)
(1)被告は,本件契約2の対象商品のうち,別紙一覧表の「発注数」欄記
載の数量から「納入数」欄記載の数量を控除した数量(以下「本件未納
分」という。)を納入期日までに納入しなかった。これは,本件契約2に
関する被告の債務不履行に当たる。
(2)被告は,本件未納分のうち,別紙一覧表の「弁済提供主張分」欄記載
の数量の商品(以下「本件商品」という。)につき,弁済の提供があった
と主張するが,争う。
ア被告従業員は,その製造委託先から搬入を受けた本件契約2の対象商
品の一部を原告事務所に持参したが,原告が,注文した生地とは異なる
生地が使用されていること,縫製不良,形状の歪み等が存在することな
どを指摘したところ,これらの不具合の存在を認め,商品全部を持ち帰
ったものであり,上記商品の提供は本件契約2の本旨履行に当たらない。
イ本件商品は,被告自身が不良品と判断し,原告に納入しなかった商品
である。被告は,その後,本件商品の受領を原告に求めているが,被告
において不良品と判断した商品を,手直しすることもなく提供すること
が,本件契約2の本旨履行に当たらないことは明らかである。また,被
告は,平成24年9月12日,本件商品を納品しようとしているが,上
記商品は,納入期限から既に2年以上が経過した過去の商品であり,上
記時期における提供は本件契約2の弁済提供に当たらない。
(被告の主張)
(1)原告の主張は争う。被告は,本件未納分のうち,別紙一覧表の「弁済
提供主張分」欄記載の数量の商品(本件商品)につき,下記(2)のとおり
契約の本旨に従った現実の提供をしており,本件商品について被告に債務
不履行はない。
(2)弁済提供等
ア被告は,平成22年10月5日,本件契約2の対象商品の製造委託先
から,原告の指定倉庫に商品の納入を受けたが,被告従業員が商品各1
点につき原告の確認を受けたところ,その受領を拒絶された。そこで被
告は,同月7日,全商品を引き上げた上で,原告の了解を得た商品(別
紙一覧表の「納入数」欄記載の数量の商品)につき,順次納入を行った
ものであるが(乙18),納入されなかった商品のうち,本件商品は,
しみ,しわ,形状不良,きず,ほつれ等の汚損がなく,商品としての瑕
疵というべき点のないものであった。これは,公証人による事実実験の
結果(乙30)からも明らかである。
したがって,本件商品については,平成22年10月5日の原告指定
倉庫搬入時において,現実の提供がされているものである。
イ原告は,前記前提事実(7)の通知書から明らかなとおり,遅くとも平
成23年1月12日以降,本件商品の受領を拒絶しているところ,被告
は,同年2月7日及び同年3月8日,「回答書兼請求書」(乙14の
1)及びFAX文書(乙16)において,本件商品について納品できる
状態にあることを原告に通知しているのであるから,上記各通知は口頭
の提供に当たり,原告が受領拒絶の意思を明確に表示している以上,上
記通知は本件商品の弁済提供に当たる。
ウ被告は,平成24年9月3日,本件商品を納品したい旨を記載したF
AX文書(乙31)を送付し,かつ,同月12日,原告本社に本件商品
を持参したが,原告従業員により受領を拒絶された。上記持参は再度の
弁済提供に当たる。
エ原告が,本件契約3の残代金及び本件契約4の代金を支払うことなく,
被告に対し多額の損害賠償請求をしていることなどからすれば,原告に
代金支払の意思がないことは明らかである。商慣習に鑑み,上記状況下
において,被告が一方的に商品納入を強制されることはなく,被告が上
記アないしウのとおり本件商品の納品準備の完了及びその通知をしてい
ることをもって,被告には不安の抗弁権が成立し,債務不履行責任を免
れるというべきである。
3争点(1)ウ(債務不履行による損害額)について
(原告の主張)
(1)ア原告は,被告からの商品の納入を前提として販売戦略を調えていた
にもかかわらず,被告から本件契約1及び2に係る商品の納入がなされ
なかったことから,平成23年1月12日付け通知書(乙11)によっ
て損害賠償請求をしているのであって,上記通知書は,本件契約1,2
を解除する旨の意思表示を内包しており,その到達日である同月13日
付けで上記契約は解除された。したがって,原告は,本件契約1,2の
債務不履行に基づき,その履行利益の賠償を請求することができる。
イ被告の債務不履行がなければ,原告は,本件契約1及び2に係る商品
の各半数を他のゴルフ用品販売業者に販売(卸売)し,その余を直販店
又はインターネット販売により一般消費者に直接販売(小売)すること
ができた。上記のとおり卸売又は小売によって得べかりし金額は下記
(2)のとおりであり,その合計額である1074万2150円が,被告
の債務不履行により原告が被った損害となる。
(2)ア本件契約1に係る損害額
本件契約1の商品の未納数は90本であり,その卸売単価は4万87
50円,小売単価は7万5000円であるから,損害額は,下記計算式
のとおり556万8750円となる。
4万8750円×45本=219万3750円
7万5000円×45本=337万5000円
なお,仕入額(207万円)を控除した場合の損害額は349万87
50円となる。
イ本件契約2に係る損害額
(ア)キャディバッグについて
本件契約2に係る商品のうち,キャディバッグの未納数は合計94
本であり,その卸売単価は2万8800円,小売単価は4万8000
円であるから,その損害額は下記計算式のとおり合計360万960
0円となる。
2万8800円×47本=135万3600円
4万8000円×47本=225万6000円
なお,仕入額(136万3000円)を控除した場合の損害額は2
24万6600円となる。
(イ)ドライバーヘッドカバーについて
本件契約2に係る商品のうち,ドライバーヘッドカバーの未納数は
合計61個であり,その卸売単価は4800円,小売単価は8000
円であるから,その損害額は下記計算式のとおり合計39万2000
円となる。
4800円×30個=14万4000円
8000円×31個=24万8000円
なお,仕入額(15万8600円)を控除した場合の損害額は23
万3400円となる。
(ウ)フェアウェイウッドヘッドカバーについて
本件契約2に係る商品のうち,フェアウェイウッドヘッドカバーの
未納数は209個であり,その卸売単価は4200円,小売単価は7
000円であるから,その損害額は下記計算式のとおり合計117万
1800円となる。
4200円×104個=43万6800円
7000円×105個=73万5000円
なお,仕入額(41万8000円)を控除した場合の損害額は75
万3800円となる。
(被告の主張)
(1)原告の主張は争う。
(2)ア本件において,原告は被告に対し相当期間を定めた催告及び契約解
除の意思表示をしていないから,履行利益の損害賠償を請求する余地が
ない。
イ原告が本件商品の納入に向けた協議に一切応じず,納入済み商品の代
金も支払っていないことなどに鑑みれば,原告は,未払代金を踏み倒す
意図で代金支払を拒む一方,本件商品の納入を受けてもその転売が困難
であるとみて,損害賠償請求を選択したものと推測されるのであって,
原告に転売利益分の損害が生じたものとは認められない。
(3)上記(2)の点を措くとしても,まず,転売利益を損害として請求する場
合,少なくとも商品の仕入原価は控除する必要がある。また,卸売と小売
の割合に関する原告の主張は具体的立証を欠くものである上,原告が小売
を行う直営店は平成22年当時2店舗にすぎない一方,原告が卸売を行う
第三者提携販売店舗は450店舗であって,上記店舗比率に鑑み,小売と
卸売の比率が50対50であるとは考え難い。
仮に原告における販売比率が上記のとおりであるとしても,履行利益は
民法416条2項の特別損害に該当するものであり,被告は上記販売比率
等を認識しておらず,認識可能性もなかったから,被告は,上記損害分に
関し損害賠償義務を負わない。
4争点(1)エ(不正競争防止法2条1項3号所定の不正競争又は不法行為の
成否)について
(原告の主張)
(1)原告商品は,エナメル素材を使用し,バッグ全面に,ドクロ,炎など
のハードなデザインを赤,金色などの派手な色彩で施し,上部カバーの模
様を左右非対称としたものであって,上記デザインは他社で採用されたこ
とのない独自のものである。
(2)ア不正競争防止法2条1項3号の「模倣」には,いわゆるデッドコピ
ーのみならず,隷属的模倣も含まれるものと解されるところ,新規の模
様等の商品を開発し,製品化して市場においた先行者の成果物を,自ら
資金,労力,リスクを負うことなく模倣することは厳に禁止されるべき
であり,上記模倣に該当するか否かの判断に当たっては,主観的側面と
客観的側面の両者が考慮されるべきである。
イ被告は,原告商品の製造委託先であり,原告商品の形態を直接知る立
場にあったところ,被告代表者は原告商品のデザインに当初否定的であ
ったにもかかわらず,原告商品が顧客に好評を博し,かつ,高価格で販
売されていることを知るや,原告商品を模倣して利益を得ることを企て,
被告従業員からの,原告商品と似すぎている旨の進言等を無視し,被告
商品を製造販売した。被告は,前年度において人気を博した他メーカー
商品の模様,紋様を模倣することを繰り返しており,このような被告の
主観的側面は本件において重視されるべきである。
ウキャディバッグの類似性は,デザインのモチーフ,素材,色・色合い,
柄の配置等から判断されるべきところ,被告商品が原告商品の隷属的模
倣に当たることは,次の点から明らかである。
(ア)ゴルフ用品における黒又は白の下地に赤色又は金色の使用,炎,
十字架,ドクロ等のモチーフの使用は,悪役,ハード等のイメージか
ら敬遠されていたのであり,原告商品のデザインコンセプトは,その
以前には国内に存在しなかった原告独自のものである。被告は,以前
は,縁起の良さや可愛さをコンセプトとした商品を製造販売していた
にもかかわらず,被告商品において,突然,原告商品と同様のハード
なデザインコンセプトを採用している。
(イ)原告商品はエナメル素材を使用し,黒又は白を地色とし,赤の炎
の紋様と金色の柄を配置し,白又は黒で縁取りを施しているものであ
るが,被告商品において,エナメル素材を使用し,かつ,黒又は白を
地色とし,赤の炎の紋様の上に金色の模様を施し,白又は黒で縁取り
を施している点は,原告商品の色合い又は色遣いと完全に一致する。
(ウ)被告は,それまでキャディバッグに銀色の金属パーツを使用して
いたにもかかわらず,被告商品において,原告商品と同様の金色の金
属パーツを使用している。
(エ)以上のとおり,被告商品は,そのコンセプト,原色ともいうべき
色合い,胴部分全体の派手な模様,炎の図柄という点でほぼ一致して
おり,加えて,ロゴプレートも,「CRAZY」と「WINWIN
STYLE」という文字は異なるものの,原告商品のそれと形状,色
合いが同一である。
エ類似性の判断に当たっては,市場における混同の可能性も考慮される
べきところ,他商品と原告商品,被告商品を並べて見たところによれば,
一般消費者が,原告商品と被告商品を,一見して同じようなバッグと認
識し,混同することは明らかである。
(3)加えて,被告が平成23年から被告商品に付しているロゴプレートは,
中央の文字に違いがあるものの,形状,大きさ,色合いにおいて原告のロ
ゴプレートと全く同一である。
(4)したがって,被告商品を製造販売する行為は,不正競争防止法2条1
項3号所定の不正競争に該当する。
(5)仮に被告の行為が不正競争に該当しないとしても,被告は,原告が考
案した原告商品に類似する被告商品を販売し,顧客に混同を生じさせ,原
告の権利を侵害したものであるから,被告の行為は不法行為(民法709
条)に該当する(予備的主張)。
(被告の主張)
(1)原告の主張はいずれも争う。
(2)被告は,独自にデザインを起こして被告商品を製作したものであり,
下記(3)で具体的に主張するとおり,デザインも原告商品とは全く異なる
ものであって,被告商品は原告商品に依拠したものではない。そもそも,
被告商品は,縁起の良い鳳凰をデザインしたものであるのに対し,原告商
品はドクロ,十字架など不吉なイメージのものであり,両商品はデザイン
コンセプト,思想において全く異なるものである。
また,原告が独自の模様であると主張する炎のデザインは一般的なもの
であり,特徴や独自性に乏しい。加えて,被告商品は,9色の異なるバリ
エーションを用意した商品構成となっているところ,被告商品は,たまた
ま,黒又は白を地色とし,鳳凰に金色,炎に赤色という,誰でも思い付く
配色を採用したものであるにすぎない。
(3)原告商品と被告商品は,次のとおり実質的に同一ではない。
ア被告商品のポケット位置,ファスナー形状等は原告商品と異なるもの
であり,バッグとしての形状自体,原告商品と異なる型のものである。
イ原告商品の右側面には「CRAZY」のロゴが,左側面にはドクロが
表示されているのに対し,被告商品の左右側面には鳳凰が表示されてい
る。また,両商品の左右側面に表示されている炎の形状は異なっている
上,被告商品には,原告商品にない星形の飾りびょうが打たれている。
ウ原告商品の前面部には,取手部分に十字架,ショルダー部分に「CR
AZY」のロゴが表示されているのに対し,被告商品の取手部分に特徴
的な模様はなく,ショルダー部には「WINWIN」等の文字が記載
されており,被告商品のデザインは原告商品と全く異なるものである。
エ原告商品の背面部には原告のロゴ及び十字架が表示されているのに対
し,被告商品の背面部には鳳凰の尻尾及び被告のロゴが表示されている。
(4)以上のとおり,被告商品は原告商品の形態を模倣したものに当たらな
い。また,原告と被告のロゴプレートは,デザイン,印象ともに一見して
異なるものである。
したがって,被告に,不正競争防止法2条1項3号所定の不正競争に該
当する行為はなく,不法行為(民法709条)も成立しない。
5争点(1)オ(不正競争又は不法行為による損害額)について
(原告の主張)
被告は,被告商品の販売により,少なくとも1000万円の利益を得たも
のであり,同額が被告の不正競争行為によって原告が被った損害に当たり
(不正競争防止法5条2項),また,被告の不法行為により原告が受けた損
害に当たる。
(被告の主張)
原告の主張は争う。
6争点(2)(原告の支払うべき代金額)について
(被告の主張)
(1)争点(1)イに関する被告の主張のとおり,本件契約2に係る商品のうち,
別紙一覧表の「弁済提供主張分」欄記載の数量(本件商品)については弁
済提供が成立する。したがって,原告は,本件契約2の売買代金として,
被告に対し,納品が完了した商品の代金285万9780円及び弁済提供
分の商品の代金119万8470円(いずれも消費税込み)から既払金2
25万7500円を控除した180万0750円を支払うべき義務を負う。
(2)原告は,本件契約3の残代金315万円及び本件契約4の代金42万
円(いずれも消費税込み)も支払うべき義務を負うから,原告の支払うべ
き代金額は,これらの合計額である537万0750円となる。
(原告の主張)
本件契約3及び4の残代金額は認めるが,本件契約2に係る弁済提供の主
張は争う。争点(1)イに関する原告の主張のとおり,被告が弁済提供を主張
する商品は被告自身が不良品と判定した商品であり,このような商品の提供
は本件契約2の本旨履行に当たらない。
第4当裁判所の判断
1争点(1)ア(本件契約1に関する債務不履行の成否)について
(1)前記前提事実に加え,証拠(甲14,乙7の1・2,20の1・2,
21ないし27,証人A,証人B,原告代表者,被告代表者)及び弁論の
全趣旨によれば,本件契約1に関し,以下の事実が認められる。
ア本件契約1の締結日及び内容は前記前提事実(4)アのとおりであり,
上記契約の対象商品であるキャディバッグは,平成22年2月16日付
けで被告が原告宛てに作成し交付した,本件契約1の見積分を含む合計
金額930万3000円の御見積明細書(乙20の1)中に,「キャデ
ィバッグ追加注文分」として記載されているものである。
原告は,同月17日付け発注書(乙20の2)により,上記キャディ
バッグ等の製作を被告に発注した。
イ被告は,同日,上記発注に係るキャディバッグの製作を,同年5月末
から6月初旬までを納期として,サンプラザに発注した(乙21,2
2)。
ウ被告は,同年4月19日,原告に対し,前記アの平成22年2月16
日付け見積書に係る発注の前受金として,本件契約1の全体契約の発注
代金930万3000円の半額である465万1500円の支払を請求
し(乙23),原告は,同月22日,同額を支払った(乙26)。
エサンプラザは,同年6月15日,原告の指定倉庫に前記イの発注に係
るキャディバッグを納品したが,原告及び被告従業員による検品の結果,
上記キャディバッグの一部に破損,形状不良等の不具合等が発見された。
オ原被告各代表者間における協議の結果,上記不具合等に関し,まずは
2点につき,サンプラザに修理を依頼することとなり,同年7月5日,
サンプラザは修理した商品2点を納入したが,原告は,不具合の発見か
ら対応まで時間が掛かりすぎである,全商品の修理まで待てないなどの
意見を述べた。
カそこで被告は,同月9日,原告との間で協議を行い,サンプラザから
納入された商品のうち,状態の良いもの12点のみを原告に納入すると
ともに,サンプラザ担当者宛てに,「今回の商品はキャンセルとなりま
した。」などと記載した「経過報告」と題する書面(乙24)を送付し
た。
キ被告は,原告に対し,同年6月29日付けで,前記アに係る発注の後
払金(残金)として,247万8000円の支払を求める請求書を発出
し(乙27),原告は,同年7月30日,上記金額を被告に対し支払っ
た(乙26)。なお,上記請求書添付の明細書には,上記ア記載の見積
書(乙20の1)と異なり,本件契約1に係るキャディバッグに関する
記載はない。
ク被告は,同年8月24日付けで,本件契約3に係る発注明細書(乙7
の2)を作成し,原告に交付したが,上記明細書には,「2009リミ
テッドモデル追加分」12本につき,その全額を値引きする旨の記載が
ある(乙7の2)。
(2)上記経緯に照らして検討すると,被告は,上記1(1)カ及びクのとおり,
原告との間の協議を受けて,商品12本を原告に無償で提供する一方,原
告は,上記キのとおり,被告に対し,平成22年7月30日,247万8
000円を支払っているのであり,上記金額は,平成22年2月16日付
け見積書に係る発注代金から前記(1)ウの前受金を控除した残金465万
1500円から,本件契約1の商品代金である217万3500円(前記
前提事実(4)ア(ウ))を控除した金額に一致することを指摘することがで
きる。そうすると,原告及び被告は,平成22年2月16日付け見積書記
載の商品代金から本件契約1に係る商品代金を控除した金額について清算
を行うことを了解し,支払を行っているものと認められる。
また,前記1(1)カのとおり原被告間で協議が行われた後,原告におい
ては本件契約1に係る商品の納入を被告に求めておらず,また,本件契約
2に関し問題が生じ,前記前提事実(7)のとおり通知書を発出するまでの
間,本件契約1に関する損害に関し,被告に賠償等を求めたこともない
(証人A,原告代表者)というのであり,他方,被告も,上記協議後,前
記(1)カのとおり,本件商品の製造委託先に,今回の商品はキャンセルと
なった旨の文書を発出しているというのであって,原告及び被告のこれら
の行動は,本件契約1に係る商品のうち,無償提供分12本を除いた残商
品についての契約関係が解消されたことを前提とするものと評価するのが
合理的である。
そうすると,上記(1)クでみた商品12本の無償提供は,原告自身,お
詫びの趣旨でされたものと主張するとおり,本件契約1を解約することに
よって原告に生じ得る損害に充てる趣旨でされたものとみるのが相当であ
る。
以上によれば,本件契約1は,平成22年7月9日における原被告間の
協議により合意解約されたものであり,かつ,上記クのキャディバッグ1
2本の提供により,上記解約に係る損害を清算する合意がされたものと認
められる。
この点,原告は,本件契約1の解約及び清算を合意したことはないと主
張するが,原告が上記クの商品12本を受領し,その後,前記前提事実
(7)の通知書発出までの約半年間,問題なく被告との取引を継続している
ことからすれば,不合理であって採用することができない。
(3)したがって,本件契約1に関し,被告に債務不履行があるものとは認
められない。
2争点(1)イ(本件契約2に関する債務不履行の成否)について
(1)証拠(甲3の1・2,4,13,14,乙6の1・2,14の1・2,
15ないし18,30,31ないし33,38,39,証人A,B,原告
代表者,被告代表者)によれば,本件契約2に関し,以下の事実が認めら
れる。
ア被告は,本件契約2に係る商品の製造を西海産業株式会社(以下「西
海産業」という。)に委託し,同社は,平成22年10月5日,上記商
品を,原告の指定する倉庫に搬入した(乙17)。
イ同日,原告従業員及び被告従業員が上記アのとおり搬入された商品の
確認を行ったところ,原告従業員から商品の一部につき,しわ,形状不
良等がある旨の指摘がなされた。そこで,同月7日,被告従業員は,商
品の検品を行い,一部の商品については原告に納入することとする一方,
その余の商品については,いったん引き上げることとした。
ウその後,被告は,同年11月末頃までにかけて,更に検品を行い,問
題ないものと判断した商品を,順次,原告に納入し,原告もこれを受領
した(乙18)。納入の可否の判断は,当時,被告従業員であったAが
中心となって行った。
被告が上記イ及びウのとおり原告に納入し,原告が受領した商品の総
数は,前記前提事実(5)(別紙一覧表「納入数」欄)記載のとおりであ
る。
エ前記前提事実(7)のとおり,原告は,平成23年1月12日付けで,
被告に対し,本件契約1及び2に係る商品の一部が未納であることに基
づく損害1074万2150円等の支払を求める内容証明郵便(乙1
1)を発出し,上記書面は,その頃被告に到達した。
オ被告は,同年2月7日付けで,未納となっている商品のうち,一部に
ついては補修時に傷が生じたことなどから納入を見合わせるが,その余
の商品については商慣習に照らし納入に問題がない商品であるから,そ
の受領及び代金の支払を求める旨の「回答書兼請求書」(乙14の1)
を原告に対し送付した。
カ被告は,平成24年8月,さいたま地方法務局所属の公証人亀井冨士
雄に未納となっているキャディバッグの品質点検(しみ,皺,形状不良
(歪み),きず,ほつれ等の汚損の有無の確認)等に関する事実実験公
正証書の作成を嘱託した。
そこで事実実験の対象となったキャディバッグは,被告において良品
とした66点とB品とした28点であるが,このうち良品とされる66
点は,ブラックの商品11点とホワイトの商品55点であり,甲6の1,
乙36(デザイン画)の本件契約2の対象商品と比較すると,別紙一覧
表の本件契約2の2010ローズデザインBK/RD11本及び2010ローズデザ
インWH/RD55本であると認められる。そして,これら66点について
は,いずれも公証人において,しみ・皺・形状不良(歪み)・きず・ほ
つれ等の汚損はとりたてて視認されないものと確認された。
同じく事実実験の対象となったドライバーヘッドカバーは,被告にお
いて良品とした24点とB品とした5点であるが,このうち良品とされ
る24点は,ブラックの商品5点とホワイトの商品19点であり,乙3
5の本件契約2の対象商品のデザイン画と対比すると,別紙一覧表の本
件契約2のドライバーヘッドカバー2010ローズデザインBK5本及びドラ
イバーヘッドカバー2010ローズデザインWH19本であると認められる。
そして,これら24点については,いずれも公証人において,しみ・
皺・形状不良(歪み)・きず・ほつれ等の汚損はとりたてて視認されな
いものと確認された。
同じく事実実験の対象となったフェアウェイウッドヘッドカバーは被
告において良品とした61点とB品とした8点であるが,このうち良品
とされる61点はブラックの商品18点とホワイトの商品43点であり,
乙36の本件契約2の対象商品のデザイン画と対比すると,別紙一覧表
の本件契約2のフェアウェイウッドヘッドカバー2010ローズデザインBK
及びフェアウェイウッドヘッドカバー2010ローズデザインWHであると認
められる。同公証人は,フェアウェイウッドヘッドカバーのうちブラッ
ク1点とホワイト1点の合計2点につき,ほつれ又はきずが確認される
としたが,その余のブラック17点,ホワイト42点の商品については,
しみ・皺・形状不良(歪み)・きず・ほつれ等の汚損はとりたてて視認
されないものと確認された。
亀井公証人は,上記の確認内容の公正証書(乙30)を作成し,その
正本を被告に交付した。
キ被告は,同月12日,上記公正証書においてしみ・皺・形状不良(歪
み)・きず・ほつれ等の汚損のないものとされた商品(キャディバック
66本,ドライバーヘッドカバー24本,フェアウェイウッドヘッドカ
バー59本)を原告本社に持参し,受領を求めたが,原告は受領を拒絶
した。
(2)ア以上の事実に照らして検討するに,被告が上記(1)アのとおり平成2
2年10月5日付けで原告の指定する倉庫に搬入した商品のうち,別紙
一覧表「弁済提供主張分」欄記載の数量の商品については,上記(1)カ
のとおり,公証人の実施した品質点検等に関する事実実験において,し
み,皺,形状不良,きず,ほつれ等の汚損が認められないものであり,
また,上記事実実験公正証書(乙30)添付の写真帳をみても,特段の
不具合箇所を見出すことができない。
イこの点に関し,原告は,上記商品の表面に歪みやほつれなどの不具合
が存在する上,上記商品は注文した生地と異なる生地で製造されたもの
であると主張する。しかし,そもそも,原告は,歪み,ほつれ等の不具
合の具体的内容(商品のどこに,どのような歪みやほつれが存在するの
か)を特定しておらず,その主張は具体性を欠き,また,裏付けも欠く
ものといわざるを得ない。また,証人Aは,上記カの事実実験公正証書
添付の写真帳(乙30)の大きさで写真を撮っても,上記不具合箇所は
見えないと思う旨証言しているところ(証人A35頁),上記写真帳中
には,至近距離から撮影したとみられる写真も含まれている上,上記公
証人が不具合として指摘するものの中には,相当の至近距離で見て初め
て視認可能であると思われるような汚損等も含まれているのであって,
上記商品において,仮に,このような写真や不具合確認によっても指摘
することのできないような汚損等があるとしても,商品として備えるべ
き品質を欠くものとは認められない。
また,生地の点については,原告は,当初,不具合の内容として指摘
しておらず(第1事件訴状,平成23年11月29日付け原告準備書
面),Aの最初の陳述書(甲4)においても,検品作業の主な対象は縫
製のゆがみやシワ等であり,生地については,「その他」として取り上
げられているにすぎない。また,同陳述書では,生地の変更について
「追加注文ですから『前回と同じ物』が前提ですので,全て返品でもお
かしくないのですが,その中でも良いものは納品を認めてもらったもの
があります。」とされており,原告において納品を認めない程度のもの
とは必ずしも理解していなかったことがうかがわれる。また,原告が生
地の変更を不具合として問題としているのは,白色の商品のみである
(甲13,証人A28頁,原告代表者9頁)ところ,この白色の商品に
ついては,生地の塗料等が変更されたにすぎないのか素材まで変更され
たのかは証拠上必ずしも明らかでない(原告代表者は甲13の10頁に
おいて,「同じ白のエナメル生地という事ですが,塗料や成分が変更さ
れているそうです。」と述べている。他方,被告は乙41の1で白色の
キャディバッグの素材が「ポリウレタン」であることを立証しているが,
発注明細書(乙6の2)では,素材が合成皮革(PUエナメル)とされ
ている。)。
以上に照らして検討すると,原告は,本件契約2に基づくキャディバ
ッグのうち,別紙一覧表「納入数」欄記載の数量の商品については,同
じ生地のものでありながら,これを受領しているのであるから,生地の
相違があったとしても,上記相違は商品として許容可能な程度のもので
あったことがうかがわれるのであって,その他の事情をも考慮すると,
この点をもって,上記商品が本件契約2の本旨に沿わないものであった
と認めることはできない。
ウ以上によれば,弁済提供主張分の商品については,本件契約2の本旨
に従った品質のものであると認められ,上記(1)アに係る商品の搬入は,
本件契約2に係る商品の弁済の提供(民法493条)に当たるものと認
められる。そして,上記(1)エないしキの経緯に鑑み,被告は,別紙一
覧表「弁済提供主張分」の商品につき,その後も弁済提供を継続してい
るものと評価されるから,上記商品に関し,被告は債務不履行責任を負
わない。
エ他方,別紙一覧表「発注数」記載の数量から同表「納入数」及び「弁
済提供主張分」各記載の数量を控除した商品(下記(ア)ないし(オ)のと
おり。以下「納入不能分」という。)については,被告は,所定の納期
にこれを納入していないのであり,被告は,納入不能分に関し,商品を
調達するための手段を講じておらず,これを製造委託先に再生産させる
ことも一般的ではないとのことであるから(証人B17頁),遅くとも
前記前提事実(7)の通知書が被告に到達した時点までには,納入不能分
については履行不能となったものと認められる。他方,原告が前記前提
事実(6)のとおり本件契約2の代金のうち半額を支払済みであること及
び残金については商品納入後の後払いの約定であったと認められること
(乙6の1)に照らすと,被告は,納入不能分について債務不履行責任
を負う。
(ア)キャディバッグ2010ローズデザインBK/RD8本
(イ)キャディバッグ2010ローズデザインWH/RD20本
(ウ)ドライバーヘッドカバー2010ローズデザインWH5本
(エ)フェアウェイウッドヘッドカバー2010ローズデザインBK3本
(オ)フェアウェイウッドヘッドカバー2010ローズデザインWH7本
3争点(1)ウ(債務不履行による損害額)について
(1)本件契約2に係る商品の発注が,以前発注した商品の追加としてされ
たものであるとされることも考慮すれば,納入不能分の商品が納入されて
いた場合,原告は,これを販売することができたものと認められる。ただ
し,代理店として原告の商品を取り扱う店舗数が450店舗に及ぶのに対
し(乙29),原告の直営店舗が,原告の主張によっても6店舗にとどま
ること(証人A,原告代表者),インターネット販売は自社サイトにおけ
るものであること(甲6の1)などを考慮すれば,原告が納入不能分の商
品を直営店又はインターネットで販売することができたと認めるに足りる
立証はなく,代理店に卸売販売することができたにとどまるものとして損
害額を算定するのが相当である。
(2)納入不能分の商品1点当たりの利益は,その卸売価格から仕入価格を
控除した金額(下記アないしウのとおり)を上回らない。
アキャディバッグ(前記2(2)エ(ア)及び(イ))
卸売価格は2万8800円,仕入価格は1万4500円である(甲8
の2,乙6の2)。
2万8800円(卸売価格)-1万4500円(仕入価格)=1万4
300円
イドライバーヘッドカバー(前記2(2)エ(ウ))
卸売価格は4800円,仕入価格は2600円である(甲9の1,乙
6の2(ドライバーヘッドカバー1本とフェアウェイウッドヘッドカバ
ー2本のセットの仕入価格が6600円であるところ,下記ウのとおり
フェアウェイウッドヘッドカバー2本の仕入価格は4000円であるか
ら,2600円がドライバーヘッドカバーの仕入価格となる。))。
4800円(卸売価格)-2600円(仕入価格)=2200円
ウフェアウェイウッドヘッドカバー(前記2(2)エ(エ)及び(オ))
卸売価格は4200円,仕入価格は2000円である(甲10の1,
乙6の2)。
4200円(卸売価格)-2000円(仕入価格)=2200円
(3)したがって,次のとおり,合計43万3400円が,原告の得べかり
し利益として,被告の債務不履行によって原告が被った損害に当たる。
アキャディバッグ(前記2(2)エ(ア)及び(イ))
1万4300円×(8本+20本)=40万0400円
イドライバーヘッドカバー(前記2(2)エ(ウ))
2200円×5本=1万1000円
ウフェアウェイウッドヘッドカバー(前記2(2)エ(エ)及び(オ))
2200円×(3本+7本)=2万2000円
エ上記アないしウ合計額43万3400円
(4)なお,前記2(2)エのとおり,納入不能分は,遅くとも前記前提事実
(7)の通知書到達時(平成23年1月13日)までに履行不能となったも
のと認められ,原告は,上記通知書により,上記履行不能に基づく損害賠
償金を1週間以内に支払うよう被告に請求したものであるから,被告は,
上記通知書記載の履行期限の到来後である平成23年1月21日から支払
済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金を支払うべき義務を負
う。
4争点(1)エ(不正競争防止法2条1項3号所定の不正競争又は不法行為の
成否)について
(1)原告商品と被告商品は,いずれもキャディバッグであり,その形態は,
別紙原告目録及び被告目録各添付の写真のとおりである(甲1,2,11,
乙1ないし5)。なお,原告商品目録記載1の商品は白地に赤及び金,同
目録記載2の商品は黒地に赤及び金を基調とするが,その模様は両商品で
同一である。また,被告商品目録記載1の商品は白地に赤及び金,同目録
記載2の商品は黒地に赤及び金,同目録記載3の商品は黒地に赤及び銀を
基調とするが,その模様は各商品で同一である。
(2)不正競争防止法2条1項3号にいう「模倣」とは,他人の商品形態に
依拠して,これと実質的に同一の形態の商品を作り出すことをいい,双方
の商品を対比して観察したときに,形態が同一であるか又は実質的に同一
であるといえるほどに酷似していることを要するものと解される。
(3)そこで原告商品と被告商品を対比すると,両商品は,いずれも黒又は
白を地色とし,金色(又は銀色)で模様を描いている点や,左右面(なお,
ショルダーのある側〔前面〕に向かって左右をそれぞれ右面,左面という。
以下同じ。)の背景に赤色で炎のパターンを大きく描いている点で,一見
したところ,類似した印象を与えるものということができる。
しかし,原告商品は,その左面に金色に黒の縁取りで頭蓋骨が,右面に
金色で原告のロゴ(「CRAZY」)がそれぞれ大きく表示されており,
原告商品を見た際に,これらの模様が特に目を引くものであるということ
ができるところ,被告商品は,その左面に斜め上を向いた鳳凰が,右面に
斜め下を向いた鳳凰が,それぞれ銀色及び金色で大きく表示されているの
であって,最も目を引く模様のモチーフ自体において,両商品は異なるも
のということができる。これに加えて,原告商品は,背面において,金色
で十字架とロゴマークを表示しているのに対し,被告商品は赤及び金色
(又は銀色)で,鳳凰の尾と炎を表示し,周囲に星形の鋲を打っており,
背面から受ける印象も相当異なるものである。
これらの点を考慮すると,両商品を対比して観察した際に,形態が同一
ということはできず,また実質的に同一であるといえるほどに酷似してい
ると評価することもできないものというべきである。
したがって,被告商品は,原告商品の形態を模倣したものに当たらない。
(4)なお,原告は,被告が平成23年から採用したロゴマークプレートの
形態が,原告のロゴマークプレートの形態を模倣したものに当たるとも主
張する。しかし,不正競争防止法2条1項3号は,「他人の商品の形態…
を模倣した商品を譲渡し,貸し渡し,譲渡若しくは貸渡しのために展示し,
輸出し,又は輸入する行為」を不正競争行為と規定しているのであるから,
同号にいう「商品」とは,「譲渡し,貸し渡し,譲渡若しくは貸渡しのた
めに展示し,輸出し,又は輸入する」対象となるものであること,すなわ
ち,それ自体独立して譲渡等の対象となるものであることが必要であり,
商品の形態の一部分が独立した譲渡等の対象ではなく,販売の単位となる
商品の一部分を構成しているにすぎない場合には,当該一部分に商品の形
態上の特徴があって,その模倣が全体としての「商品の形態」の模倣と評
価し得るなどの特段の事情がない限り,当該一部分の形態をもって「商品
の形態」ということはできないと解される。そして,本件において,ロゴ
マークプレートは,キャディバッグ等に付して使用するものとして特定さ
れており,原告がロゴマークプレートを単体で販売しているなどの事情は
認められない。また,別紙原告商品目録添付写真10から明らかなとおり,
ロゴマークプレートが商品(キャディバッグ)全体に占める割合は小さく,
その形態により,商品(キャディバッグ)の形態が特徴付けられているも
のともいうことができない。
以上によれば,ロゴマークプレートは不正競争防止法2条1項3号にい
う「商品」に当たらず,また,ロゴマークプレートの形態を,全体として
の商品(キャディバッグ)の形態ということもできない。
また,原告のロゴマークプレートは,中心に「CRAZY」の文字を刻
印したものであるのに対し,被告のロゴマークプレートの形態は判然とし
ないものの,中心に「WINWINSTYLEDESIGNTEA
M」の文字を上下3行で刻印したものとみられるのであり,形態において
同一又は酷似しているとも認められない。
(5)したがって,被告には,不正競争防止法2条1項3号所定の不正競争
は認められず,その余の点について検討するまでもなく,原告の被告に対
する不正競争防止法4条に基づく損害賠償請求は理由がない。
(6)なお,原告は,被告の行為が不正競争防止法2条1項3号所定の不正
競争に該当しないとしても,不法行為(民法709条)に該当すると主張
するが,被告商品の形態が上記のとおり原告商品と実質的に原告商品と異
なるものであることを考慮すれば,原告の法的保護に値する利益が害され
たものとは認められない。
5小括
以上によれば,第1事件について,原告の請求は,被告に対し,43万3
400円及びこれに対する平成23年1月21日から支払済みまで年5分の
割合の遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。
6争点(2)(原告の支払うべき代金額)について
(1)争点(1)イに関する当裁判所の判断でみたとおり,被告は,本件契約2
につき,別紙一覧表「弁済提供主張分」欄記載の数量につき,弁済提供を
したものと認められる。
(2)したがって,本件契約2について,被告は,別紙一覧表「納入数」欄
及び「弁済提供主張分」欄記載の数量の商品につき,売買代金を請求する
ことができる。なお,この点に関し,原告は,被告の債務不履行を理由と
して本件契約2を解除した旨主張する。確かに,前記2(2)エのとおり,
本件契約2のうち,納入不能分につき被告に債務不履行が認められる。し
かし,納入不能分は予定納入数のごく一部にとどまるものであり,本件契
約2が,その一部が履行不能であることによって,その全体の目的が達成
できなくなる性質のものとはいえないから,原告が,納入不能分における
債務不履行を理由として,被告から納入又は弁済提供を受けた部分も含め
て本件契約2を解除することはできず,原告がこれにより代金支払債務を
免れることはできない。
(3)以上によれば,本件契約2につき,原告が被告に対し支払うべき金額
は次のとおり179万6650円となる。
ア1万4500円×(81+11)本=133万4000円
イ1万4500円×(25+55)本=116万円
ウ2600円×(95+5)本=26万円
エ2600円×(76+19)本=24万7000円
オ2000円×(200+17)本=43万4000円
カ2000円×(171+42)本=42万6000円
アないしカ合計386万1000円(消費税込み405万4050
円)
既払金(前記前提事実(6))225万7500円
残額179万6550円
(4)本件契約3に係る売買代金630万円のうち既払金を控除した315
万円及び本件契約4に係る売買代金42万円を原告が支払っていないこと
は前記前提事実(6)のとおりである。
(5)以上によれば,被告は,原告に対し,本件契約2ないし4に係る未払
代金合計額である536万6550円及び各契約代金支払期限(前記第4
の2(1)ア,(2)ウのとおり,本件契約2については,平成22年10月5
日において未払代金相当額分の弁済の提供が認められるから,納品があっ
たものとして,その1週間後には支払期限が到来するものと解される。本
件契約3及び4については,弁論の全趣旨により,契約で定められた納品
期限である平成22年12月上旬~中旬,同月中旬~下旬には納品された
ものと認められ,その1週間後には支払期限が到来するものと解され
る。)の後の日である平成23年3月1日から支払済みまで商事法定利率
年6分の割合による遅延損害金の支払を求めることができる。
第5結論
したがって,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第29部
裁判長裁判官大須賀滋
裁判官小川雅敏
裁判官森川さつき
(別紙)
原告商品目録
クレイジー・リミテッドモデル(2009年製作)
1クレイジー・リミテッド・エディションホワイトアンドレッド
エナメル加工,ナイロン,ポリエステル製,9.5型,重量5キログラム
(添付写真1ないし6のとおり)
2クレイジー・リミテッド・エディションブラックアンドレッド
エナメル加工,ナイロン,ポリエステル製,9.5型,重量5キログラム
(添付写真7ないし9のとおり)
ロゴマークプレート
クレイジーキャディバッグに平成22年から使用
金地又は銀地,楕円形,円周の均一間隔による突起紋様,中央にロゴを刻印(添
付写真10のとおり)
(別紙)
被告商品目録
被告の製造販売する下記キャディバッグ

ウィンウィンスタイルリミテッド・エディションモデル(鳳凰シリーズ,合成
皮革,エナメルアップリケ,9.0型,重量4.6キログラム)のうち,下記1な
いし3の型番のもの。
1CB-102(添付写真1のとおり)
2CB-103(添付写真2のとおり)
3CB-107(添付写真3のとおり)
以上
ロゴマークプレート
平成23年製作ゴールドプレート(添付写真4のとおり)
(別紙)
一覧表
契約商品名発注数単価(消費
税抜き)
納入数弁済提供
主張分
1キャディバッグ2009スカルデ
ザインWH
30本2万3000円0本
1キャディバッグ2009スカルデ
ザインWH/RD
30本2万3000円0本
1キャディバッグ2009スカルデ
ザインBK
30本2万3000円0本
2キャディバッグ2010ローズデ
ザインBK/RD
100本1万4500円81本11本
2キャディバッグ2010ローズデ
ザインWH/RD
100本1万4500円25本55本
2ドライバーヘッドカバー2010
ローズデザインBK
100本2600円95本5本
2ドライバーヘッドカバー2010
ローズデザインWH
100本2600円76本19本
2フェアウェイウッドヘッドカ
バー2010ローズデザインBK
220本2000円200本17本
2フェアウェイウッドヘッドカ
バー2010ローズデザインWH
220本2000円171本42本
3キャディバッグ2010ローズ&
バタフライデザインBK
100本2万3000円100本
3キャディバッグ2010ローズ&
バタフライデザインWH
100本2万3000円100本
3ヘッドカバーセット2010クロ
スデザインBK
100セ
ット
6600円100セ
ット
3ヘッドカバーセット2010クロ
スデザインWH
100セ
ット
6600円100セ
ット
3フェアウェイウッドヘッドカ
バースペアBK
20本2000円20本
3フェアウェイウッドヘッドカ
バースペアWH
20本2000円20本
4アイアンカバー(ローズデザ
インBK)
100本2000円100本
4アイアンカバー(ローズデザ
インWH)
100本2000円100本

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採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

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〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
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71期修習生 72期修習生 求人
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ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
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