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平成17年(行ケ)第10341号 審決取消請求事件
平成17年11月22日判決言渡,平成17年11月1日口頭弁論終結
     判    決
 原 告 大日本インキ化学工業株式会社
 原 告 ケミテック株式会社
 原告訴訟引受人 北京華隆亜陽技術開発有限責任公司
 上記3名訴訟代理人弁理士 中島幹雄
 脱退原告 北京宏業亜陽蛍光材料廠(旧名称 北京市豊台区宏業塗装輔料廠)
 被 告 特許庁長官 中嶋誠
 指定代理人 唐木以知良,脇村善一,原田隆興,青木博文
     主    文
 原告ら及び原告訴訟引受人の請求を棄却する。
 訴訟費用は原告ら及び原告訴訟引受人の負担とする。
 この判決に対する上告及び上告受理の申立てのための付加期間を30日と定め
る。
     事実及び理由
第1 原告ら及び原告訴訟引受人の求めた裁判
 「特許庁が不服2002-20406号事件について平成16年7月15日にし
た審決を取り消す。」との判決。
第2 事案の概要
 本件は,拒絶査定に対する不服審判請求を不成立とした審決の取消しを求める事
案である。
 1 特許庁における手続の経緯
 (1) 原告ケミテック株式会社及び脱退原告は,平成7年10月16日,発明の名
称を「高輝度長残光性蓄光材料及びその製造方法」とする特許出願をした(甲
2)。
 (2) 原告ケミテック株式会社は,平成12年10月1日,伊藤忠商事株式会社に
対し,上記特許を受ける権利の持分を譲渡し,伊藤忠商事株式会社は,平成13年
7月5日,その旨を特許庁長官に届け出た(甲39,40)。
 (3) 伊藤忠商事株式会社及び脱退原告は,平成14年7月9日,明細書を補正
(以下「本件補正」という。)した(甲4)。
 (4) 伊藤忠商事株式会社及び脱退原告は,平成14年9月4日付けの拒絶査定を
受けたので,同年10月21日,拒絶査定に対する審判を請求した(不服2002
-20406号事件として係属,甲29)。
 (5) 伊藤忠商事株式会社は,平成15年1月15日,原告大日本インキ化学工業
株式会社及び原告ケミテック株式会社に対し,上記特許を受ける権利の持分を譲渡
し,上記原告らは,平成15年2月3日,その旨を特許庁長官に届け出た(甲3
1)。
 (6) 特許庁は,平成16年7月15日,「本件審判の請求は,成り立たない。」
との審決をし,同月26日,その謄本を原告ら及び脱退原告に送達した。
 (7) 脱退原告は,原告訴訟引受人に対し,上記特許を受ける権利の持分を譲渡
し,原告訴訟引受人は,平成17年4月6日,その旨を特許庁長官に届け出た。
 2 請求項1の記載(本件補正後のもの)
 一般式 MO・(n-x)〔aAl2O3(α)+(1-a)Al2O3
(γ)〕・xB2O3:Eu,Dy〔式中,Mはアルカリ土類金属を表し,aは
0.5≦a≦0.99であり,xは0.001≦x≦0.35,nは1≦n≦3で
ある。〕で表される組成式の原料を焼成して得られた焼成体からなる高輝度長残光
性蓄光材料。
 3 審決の理由の要旨
 審決の理由は,以下のとおりであるが,要するに,本件出願は,特許法36条4
項に規定する要件を満たしていないから,同法49条により拒絶をすべき旨の査定
をしなければならない,というものである。
 (1) 本件出願の経緯・請求項1に係る発明
 本件出願は,平成7年10月16日の出願であって,その請求項1に係る発明
(以下,「本願発明」という。)は,平成14年7月9日に補正された明細書の記
載からみて,その特許請求の範囲の請求項1に記載された下記事項により特定され
るものであり,任意のアルカリ土類金属を含むものである。
『一般式 MO・(n-x)〔aAl2O3(α)+(1-a)Al2O3
(γ)〕・xB2O3:Eu,Dy〔式中,Mはアルカリ土類金属を表し,aは0.
5≦a≦0.99であり,xは0.001≦x≦0.35,nは1≦n≦3であ
る。〕で表される組成式の原料を焼成して得られた焼成体からなる高輝度長残光性
蓄光材料。』。
 (2) 拒絶査定の理由の概要
 本願明細書の発明の詳細な説明の欄には,Sr以外のアルカリ土類金属を用いた
場合に,Srを用いた実施例と同等の残光性蓄光材料としての効果を奏することに
ついて,具体的な説明がなされておらず,本願明細書の発明の詳細な説明の記載
は,当業者が本願発明を実施できる程度に明確かつ十分になされているとすること
ができないから,本件出願は,特許法36条4項に規定する要件を満たしておら
ず,拒絶をすべきものである。
 (3) 審決の判断
 本願明細書の発明の詳細な説明の欄には,残光性蓄光材料としての効果につい
て,アルカリ土類金属としてSrを用いた場合については具体的データに基づいた
説明がなされているものの,Sr以外を用いた場合については,具体的データに基
づく説明も,作用機構に基づく合理的な説明もなされていない。
 そして,本願の出願時に周知の技術を参照しても,〔aAl2O3(α)+(1
-a)Al2O3(γ)〕(ただし,aは0.5≦a≦0.99)で示される原料
を用いる本願発明において,Sr以外のアルカリ土類金属を用いた場合に,Srを
用いた場合と同等の効果を奏するとする根拠を見いだせない。
 したがって,本願明細書の発明の詳細な説明の記載は,当業者が本願発明の実施
をすることができる程度に明確かつ十分になされているとすることができないもの
である。
 (4) 審決のむすび
 以上のとおりであるから,本件出願は,特許法36条4項に規定する要件を満た
しておらず,同法49条により拒絶をすべき旨の査定をしなければならないもので
ある。
第3 当事者の主張の要点
 1 原告ら及び原告訴訟引受人(以下「原告ら」という。)主張の審決取消事由
 審決は,本願発明の要旨の認定を誤り,また,特許法36条4項に係る判断を誤
ったものである。
 (1) 取消事由1(本願発明の要旨の認定の誤り)
 審決は,「本願発明は,・・・任意のアルカリ土類金属を含むものである。」と
認定した。
 アルカリ土類金属は,一般に,Be及びRaを含む意味に用いられているが,蛍
光体の技術分野においては,アルカリ土類金属として,Sr,Mg,Ca及びBa
を用いることが周知の事項であり,また,本願明細書の発明の詳細な説明の欄に
は,アルカリ土類金属として,Sr,Mg,Ca及びBaの4種類のみを記載して
いて,Be及び放射性元素Raを除外している。
 したがって,審決が,「任意のアルカリ土類金属を含むものである」として,ア
ルカリ土類金属にBe及びRaを含めた認定をしたのは,誤りである。
 (2) 取消事由2(特許法36条4項に係る判断の誤り)
 審決は,「本願明細書の発明の詳細な説明の欄には,残光性蓄光材料としての効
果について,・・・Sr以外を用いた場合については,具体的データに基づく説明
も,作用機構に基づく合理的な説明もなされていない。」,「本願の出願時に周知
の技術を参照しても,・・・Sr以外のアルカリ土類金属を用いた場合に,Srを
用いた場合と同等の効果を奏するとする根拠を見いだせない。」として,「本願明
細書の発明の詳細な説明の記載は,当業者が本願発明の実施をすることができる程
度に明確かつ十分になされているとすることができないものである。」と判断し
た。
 ア 本願明細書の発明の詳細な説明の欄には,「Mはストロンチウムであり,M
の表す金属の一部分はカルシウム,バリウム,マグネシウムで置換することができ
る。」(段落【0011】)と記載され,また,実施例には,Sr以外のアルカリ
土類金属を用いた場合として,Srの一部をCaで置換した例(実施例6),Sr
の一部をBaで置換した例(実施例7),Srの一部をMgで置換した例(実施例
8)が示されている。
 このように,本願明細書の発明の詳細な説明の欄には,アルカリ土類金属とし
て,Srの一部をCa,Ba又はMgのいずれかで置換した例が示されている以
上,Sr以外のアルカリ土類金属を用いた場合についても説明がされているという
ことができるし,もともと,明細書の実施例には最良と思うものを記載することに
なっているところ,Sr,Mg,Ca及びBaは,同じアルカリ土類金属に属し,
物理的,化学的性質が類似するから,本願明細書の発明の詳細な説明の欄に,最良
の実施例である単独のSrの具体的データ等の記載がある以上,同様の効果を奏す
るSr以外のアルカリ土類金属についてまで具体的データ等を記載して説明しなけ
ればならない理由はない。
 イ 本願明細書の発明の詳細な説明の欄には,本願発明の高輝度長残光性蓄光材
料の製造方法が記載されている(段落【0020】)が,アルカリ土類金属化合物
として,Sr,Ca,Mg又はBaをそれぞれ単独で用いる場合とSr及びCa,
Sr及びMg,又はSr及びBaのそれぞれの混合物を用いる場合とで異なる限定
条件を付しているわけでないから,いずれの場合も,同じようにして高輝度長残光
性蓄光材料を製造することができるのである。そして,本願明細書の発明の詳細な
説明の欄には,単独のSrを用いて製造した場合とその効果を示す実施例,Sr及
びCa,Sr及びMg,又はSr及びBaのそれぞれの混合物を用いて製造した場
合とその効果を示す実施例が記載されているから,Sr以外のアルカリ土類金属を
用いて高輝度長残光性蓄光材料を製造した場合においても,Srと同様の効果があ
ることは明らかである。
 ウ 本願明細書の発明の詳細な説明の欄に,Srについてその効果を示す試験デ
ータが記載され,かつ,Srの一部がCa,Ba又はMgのいずれかで置換された
ものの効果を示す試験データが示されている以上,蛍光体の技術分野における周知
の技術からみて,Sr以外のアルカリ土類金属についてその効果を示すデータがな
くても,SrやSrの一部がCa,Ba又はMgのいずれかで置換されたものと同
様の効果があるであろうことは容易に類推することができる。
 エ したがって,審決が「本願明細書の発明の詳細な説明の記載は,当業者が本
願発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分になされているとすることが
できないものである。」と判断したのは,誤りである。
 2 被告の反論
 審決に,本願発明の要旨の認定の誤りはなく,また,特許法36条4項に係る判
断の誤りもない。
 (1) 取消事由1(本願発明の要旨の認定の誤り)に対して
 本願発明にいう「アルカリ土類金属」は,一般に,Be,Mg,Ca,Sr,B
a及びRaを示す技術用語として周知である。そして,蛍光体と本願発明の属する
蓄光材料は求められる残光性能が全く異なるから,両者は技術分野を異にするとこ
ろ,蓄光材料に関する技術分野において,「アルカリ土類金属」がMg,Ca,S
r及びBaを意味するとの技術常識があるわけではないし,本願明細書に,「アル
カリ土類金属」について,通常使用されている上記の意味以外のものとして定義付
けるような記載もない。
 そうすると,特許請求の範囲に「アルカリ土類金属」と記載されていれば,それ
は,「任意のアルカリ土類金属を含むもの」,具体的にはBe,Mg,Ca,S
r,Ba及びRaを意味すると解すべきである。
 したがって,審決が「任意のアルカリ土類金属を含むものである」と認定をした
ことに誤りはない。
 (2) 取消事由2(特許法36条4項に係る判断の誤り)に対して
 ア 本願明細書は,アルカリ土類金属であるMのうち,Mで表わされるSrの一
部分をCa,Ba又はMgに置換して結晶体の構造が得られる例を示したものであ
るが,これはSrを用いた例として示したにすぎないから,本願明細書の発明の詳
細な説明の欄に,Srの一部をCa,Ba又はMgのいずれかで置換した例が示さ
れているとしても,Sr以外のアルカリ土類金属を用いた場合についての説明がさ
れているということはできない。
 また,一般に,すべてのアルカリ土類金属の物理的,化学的性質が類似するとは
いえないし,仮にその物理的,化学的性質が類似するとしても,本願発明が属する
蓄光材料に関する技術分野において,アルカリ土類金属の物理的,化学的性質と残
光性能との関係が明らかにされているわけではなく,また,残光性能に関し,Sr
以外の任意のアルカリ土類金属が,Srと同様の効果を奏することが明らかにされ
ているわけでもない。そうであれば,本願明細書の発明の詳細な説明の欄に,単独
のSrの具体的データ等の記載があるとしても,Sr以外のアルカリ土類金属につ
いて,具体的データ等を記載する必要がないということはできない。
 イ Sr以外のアルカリ土類金属を用いて高輝度長残光性蓄光材料を製造するこ
とができるとしても,製造方法が同様に行えることとその蓄光材料としての効果の
予測可能性とは直接関係しないから,Sr以外のアルカリ土類金属を用いたものに
ついて,Srと同様の効果があるということはできない。
 ウ 上記アに述べたところから明らかなように,本願明細書の発明の詳細な説明
の欄に,Sr以外のアルカリ土類金属について,その効果を示すデータがない以
上,Srと同様の効果があると類推することはできない。
 エ したがって,審決が「本願明細書の発明の詳細な説明の記載は,当業者が本
願発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分になされているとすることが
できないものである。」と判断したことに誤りはない。
第4 当裁判所の判断
 1 取消事由1(本願発明の要旨の認定の誤り)について
 (1) アルカリ土金属又はアルカリ土類金属について,化学大辞典編集委員会編
「化学大辞典1」(共立出版株式会社昭和46年2月5日縮刷版第11刷発行,甲
27)には,「周期表第Ⅱ族の元素のうちベリリウム,マグネシウム,カルシウ
ム,ストロンチウム,バリウム,およびラジウムの総称。特にカルシウム以下の4
元素をさすこともある。」と記載され,また,平凡社の「大百科事典1」(198
4年(昭和59年)11月2日初版発行,乙1),同じく平凡社の「世界大百科事
典1」(1988年(昭和63年)3月15日発行,乙2)には,「周期表第Ⅱ族
(第ⅡA族)に属するベリリウムBe,マグネシウムMg,カルシウムCa,スト
ロンチウムSr,バリウムBa,ラジウムRaの6種の金属元素の総称。」と記載
されている。
 本願発明に係る請求項1の記載は,前記第2の2のとおりであるところ,アルカ
リ土類金属を表すMをSr,Mg,Ca及びBaに限定する旨の文言はなく,か
つ,これをSr,Mg,Ca及びBaに限定して理解しなければならないような特
段の事情があることも認められない。
 そうであれば,本願発明のアルカリ土類金属がSr,Mg,Ca及びBaに限定
されると解することはできない。
 (2) そして,念のために,本願明細書(甲2,4)の発明の詳細な説明の記載を
みると,これには,「(1)一般式 MO・(n-x)〔aAl2O3(α)+(1
-a)Al2O3(γ)〕・xB2O3:Eu,Dy〔式中,Mはアルカリ土類金属
を表し,aは0.5≦a≦0.99であり,xは0.001≦x≦0.35,nは
1≦n≦3である。〕で表される組成式の原料を焼成して得られた焼成体からなる
高輝度長残光性蓄光材料。」(段落【0010】),「本発明の高輝度長残光性蓄
光材料は,・・・Mはストロンチウムであり,Mの表す金属の一部分はカルシウ
ム,バリウム,マグネシウムで置換することができる。」(段落【0011】),
「更にMがストロンチウムである場合,このストロンチウムの一部分は,Mg,C
a,Baの少なくとも一つと置換してもよく,」(段落【0015】),「本発明
の高輝度長残光蓄光材料の原料としては,ストロンチウム,カルシウム,バリウム
あるいはマグネシウムの酸化物,又は加熱によりこれらの酸化物を生成できる塩類
を用いることができる。」(段落【0018】)との記載がある。これらの記載に
よれば,アルカリ土類金属を表すMは,何ら限定されるものではな
いが,ストロンチウム,カルシウム,バリウムあるいはマグネシウムの酸化物又は
加熱によりこれらの酸化物を生成できる塩類を用いることができ,ストロンチウム
を用いる場合には,そのストロンチウムの一部分をカルシウム,バリウム,マグネ
シウムで置換することができるというものである。
 そうであれば,本願明細書の発明の詳細な説明を参酌しても,本願発明のアルカ
リ土類金属がSr,Mg,Ca及びBaに限定されるとは認めることができない。
 (3) 以上のように,本願発明のアルカリ土類金属は,Sr,Mg,Ca及びBa
に限定されるものではないから,審決が「任意のアルカリ土類金属を含むものであ
る。」と認定したことに誤りはない。
 原告ら主張の取消事由1は,理由がない。
 2 取消事由2(特許法36条4項に係る判断の誤り)について
 (1) 本願明細書の発明の詳細な説明には,次のような記載がある。
 ア 請求項1の一般式であるMO・(n-x)〔aAl2O3(α)+(1-
a)Al2O3(γ)〕・xB2O3:Eu,DyにおけるM,x,n,aを次のと
おりとして,参考例及び実施例1ないし11の合計12種の蓄光材料を製造(参考
例と実施例3の製造方法は同一である。)したこと(段落【0023】ないし【0
040】)。
               M           x n a
  参考例   ストロンチウム            0.11 1 0.52
  実施例1  ストロンチウム            0.07 1 0.99
  実施例2  ストロンチウム            0.07 1 0.85
  実施例3  ストロンチウム            0.0051 0.63
  実施例4  ストロンチウム            0.35 1 0.91
  実施例5  ストロンチウム            0.08 2 0.70
  実施例6  ストロンチウム85%とカルシウム15%  0.25 1 0.75
  実施例7  ストロンチウム90%とバリウム10%   0.18 2 0.93
  実施例8  ストロンチウム85%とマグネシウム15% 0.05 1 0.75
       (ストロンチウム75%とマグネシウム25%)
  実施例9  ストロンチウム            0.20 3 0.82
  実施例10 ストロンチウム            0.07 1 0.85
  実施例11 ストロンチウム            0.07 1 0.99
 イ 「【0032】以上で造った・・・参考例及び本発明の蓄光材料(1)~
(7)の時間経過に対する輝度の低下について、硫化亜鉛燐光材料「ZnS:C
u」との対比試験結果を表2に示す。試験条件:参考例及び(1)~(7)及び
(ZnS:Cu)のサンプルを暗室中でそれぞれ0.2g取り、直径10mm×深
さ5mmのアルミニウム容器に入れ、温度24℃、湿度25%RHで、15W蛍光
灯の垂直下20cmの距離で15分間照射した。ついでトプコンBM-5輝度計
で、時間経過とともにそれぞれの輝度を測定する。」(判決注:同段落中,
「(2)~(7)」とあるのは,「(1)~(7)」の誤記と認める。)
 「【0035】
 【表2】
┌────┬──────────────────────────────┐
│時間経過│         輝  度(mcd/m
)│
│├───┬────────────────────┬─────┤
│ (分)│参考例│ 実施例(高輝度長残光性蓄光材料)│比 較 例│
│├───┼──┬──┬──┬──┬──┬──┬──┼─────┤
│││ 1│ 2│ 3│ 4│ 5│ 6│ 7│ZnS:Cu

│├───┼──┼──┼──┼──┼──┼──┼──┼─────┤
││n=1│n=1│n=1│n=1│n=1│n=2│n=1│n=2││
├────┼───┼──┼──┼──┼──┼──┼──┼──┼─────┤
│ 0.5│800│3500│5300│3200│2100│4850│3900│3500│210│
├────┼───┼──┼──┼──┼──┼──┼──┼──┼─────┤
│  30│17.4│75│115│69│45│174│108│94│6.5│
├────┼───┼──┼──┼──┼──┼──┼──┼──┼─────┤
│  60│9│20│60│37│22.7│68│46│52│0.3│
├────┼───┼──┼──┼──┼──┼──┼──┼──┼─────┤
│ 180│0.4│1.6│21│12.4│8.3│30.1│18│24││
├────┼───┼──┼──┼──┼──┼──┼──┼──┼─────┤
│ 600││0.4│3│2.1│0.7│4.2│2.1│3.9││
├────┼───┼──┼──┼──┼──┼──┼──┼──┼─────┤
│3000│││0.4│││0.8││0.8││
└────┴───┴──┴──┴──┴──┴──┴──┴──┴─────┘
【0036】表2から明らかなように、同じ条件で試験した結果は、比較例の硫化
亜鉛燐光材料の初期輝度に対して、本発明の高輝度長残光性蓄光材料の初期輝度
は、10倍以上有することがわかる。また残光時間についても、比較例の硫化亜鉛
燐光材料の残光時間が約1時間であるのに対して、本発明の高輝度長残光性蓄光材
料の残光時間は、約50時間を越えていることがわかる。」
 ウ 「【0037】実施例8 ・・・ストロンチウムの一部分としてマグネシウ
ムを使用しても優れた蓄光材料が得られた。
【0038】実施例9 ・・・この蓄光材料(10)は、発光ピーク波長450n
m、初期輝度4000、残光時間20時間以上の藍色に近い青色の優れたものが得
られた。
【0039】実施例10 ・・・この蓄光材料〔11〕の製造方法によりα-Al2
O3とγ-Al2O3の混合が十分に行えるとともに粉砕工程が一工程省け経済的で
あった。
【0040】実施例11 ・・・この蓄光材料〔12〕の製造方法によりα-Al2
O3とγ-Al2O3の混合が十分に行えるとともに粉砕工程が一工程省け経済的で
あった。」
 (2) 以上の記載によれば,本願明細書には,Srを単独で用いた例並びにそのS
rの一部をCaで置換した例(実施例6)及びBaで置換した例(実施例7)につ
いて,具体的データに基づく説明がされているということができる。しかしなが
ら,Srの一部をMgで置換した例(実施例8)については,「優れた蓄光材料が
得られた。」というだけで,具体的なデータが示されていないし,さらに,Sr以
外のアルカリ土類金属のみを用いた例については,具体的なデータが示されていな
い上,何の説明もされていない。したがって,本願明細書には,残光性蓄光材料と
しての効果に関し,アルカリ土類金属としてSrを単独で用いた場合並びにそのS
rの一部をCa又はBaで置換した場合を除いては,具体的データに基づく説明
も,作用機構に基づく説明もされていないといわざるを得ない。
 (3) そして,本願発明の蓄光材料は,「太陽光や蛍光灯、特に紫外線で励起して
そのエネルギーを吸収し、吸収したエネルギーを可視光に変換して、励起停止後も
光を徐々に放出しながら、長時間発光し続ける」(本願明細書の段落【001
1】)というものであるところ,SrとSr以外のアルカリ土類金属とでは,それ
ぞれ電子数が異なり,それを含む請求項1の一般式であるMO・(n-x)〔aA
l2O3(α)+(1-a)Al2O3(γ)〕・xB2O3:Eu,Dyの焼成体
の電子状態も異なるから,Sr以外のアルカリ土類金属を用いた場合に,Srを用
いた場合と同様の高輝度長残光性を示すということはできない。
 このことは,以下の述べるところからみても,明らかである。すなわち,本願発
明の発明特定事項である「高輝度長残光性」は,請求項1の記載からは,どの程度
の輝度及び残光性を意味するのか明らかでないが,本願明細書の発明の詳細な説明
には,「本発明が解決しようとする第1の課題は,長残光を有し,かつ輝度が高い
蓄光材料を提供することにある。」(段落【0009】),「本発明の蓄光材料の
輝度はかなり高いので,夜に表示用として使用可能である。例えば,道路の表示,
広告,文房具,玩具,スポーツ用品などに使用すると,光を吸収して,暗中で吸収
したエネルギーを光の形で放出し,10時間以上連続的に発光する。」(段落【0
022】),「本発明の高輝度長残光性蓄光材料は,一般式で示される蓄光材料で
あり,これによって以下の優れた効果を奏するものである。①初期輝度が高く,し
かも長残光性を有するので,明るくしかも長時間発光状態を維持することができ,
したがって多くの用途に使用することができる。」(段落【0041】)との記載
があり,これらの記載によれば,「長残光性」とは,10時間以上の実用し得る輝
度を有することを意味し,「高輝度」とは,上記の長残光性を実現す
るのに十分高い初期輝度を有することを意味すると認められる。ところで,上記(1)
の記載によれば,参考例は,本件補正前の実施例1であり,その原料組成式が請求
項1の一般式を満足するものであって,その製造方法が実施例3と同一のものであ
るが,初期輝度は800mcd/㎡で,比較例の硫化亜鉛燐光材料の初期輝度に対して
4倍程度にとどまる上,600分(10時間)後には数値で表示できる程度の輝度
を有していないから,参考例は本願発明にいう上記の「高輝度長残光性」を満足す
るものではないところ,このことは,Srを用いた場合であっても,本願発明にい
う高輝度長残光性を示すわけではないことを意味するものであり,そうであれば,
Sr以外のアルカリ土類金属を用いた場合においても,本願発明にいう高輝度長残
光性を示すわけではないといわなければならない。
 (4) 原告らの主張について検討する。
 ア 原告らは,本願明細書の発明の詳細な説明の欄には,アルカリ土類金属とし
て,Srの一部をCa,Ba又はMgのいずれかで置換した例が示されている以
上,Sr以外のアルカリ土類金属を用いた場合についても説明がされているという
ことができるし,Sr,Mg,Ca及びBaは,同じアルカリ土類金属に属し,物
理的,化学的性質が類似するから,本願明細書の発明の詳細な説明の欄に,最良の
実施例である単独のSrの具体的データ等の記載がある以上,同様の効果を奏する
Sr以外のアルカリ土類金属についてまで具体的データ等を記載して説明しなけれ
ばならない理由はないと主張する。
 しかしながら,上記(2)のとおり,本願明細書には,Srの一部をCa又はBaで
置換した場合については,具体的データに基づく説明がされているということがで
きるが,このことをもって,それ以外のアルカリ土類金属を用いた場合についての
説明がされているということにはならない。
 また,上記(3)に判示したように,Sr以外のアルカリ土類金属を用いた場合にお
いて,Srを用いた場合と同様に高輝度長残光性を示すわけではないというべきで
あるから,漠然と,Sr,Mg,Ca及びBaが同じアルカリ土類金属に属するも
のとして物理的,化学的性質が類似するということだけで,Sr以外のアルカリ土
類金属について,具体的データ等を記載して説明する必要がないということはでき
ない。
 原告らの上記主張は,採用することができない。
 イ 原告らは,Sr,Ca,Mg又はBaをそれぞれ単独で用いる場合も,Sr
及びCa,Sr及びMg,又はSr及びBaのそれぞれの混合物を用いる場合も,
同じようにして高輝度長残光性蓄光材料を製造することができるのであって,本願
明細書の発明の詳細な説明の欄に,単独のSrを用いて製造した場合とその効果を
示す実施例,Sr及びCa,Sr及びMg,又はSr及びBaのそれぞれの混合物
を用いて製造した場合とその効果を示す実施例が記載されているから,Sr以外の
アルカリ土類金属を用いて高輝度長残光性蓄光材料を製造した場合においても,S
rと同様の効果があることは明らかであると主張する。
 確かに,請求項1の一般式の組成となるように原料を用意し,混合して焼成体を
製造することは,本願明細書の実施例の記載などを参照すれば可能であるというこ
とができる。しかし,このようにして焼成体を製造することができたとしても,そ
の焼成体が高輝度長残光性を示すかどうかについては,自明なことではない。上
記(3)のとおり,Srを用いた場合であっても,本願発明にいう高輝度長残光性を示
すわけではないのであるから,Sr以外のアルカリ土類金属を用いた場合には,な
おさら,本願発明にいう高輝度長残光性を示すということはできない。
 原告らの上記主張は,採用の限りでない。
 ウ 原告らは,蛍光体の技術分野における周知の技術からみて,Sr以外のアル
カリ土類金属についてその効果を示すデータがなくても,SrやSrの一部がC
a,Ba又はMgのいずれかで置換されたものと同様の効果があるであろうことは
容易に類推することができると主張し,甲9の2,10ないし28及び36を援用
する。
 (ア) 本願明細書に記載された従来技術について
 a 本願明細書には,次の記載がある。
 「米国特許第3,294,699号明細書には二価ユウロピウムを賦活剤とする
ストロンチウムアルミネート(SrAl2O4:Eu)が開示されている。・・・し
かしながら,このような蛍光材料は残光性が殆どなく・・・燐光材料ないし蓄光材
料とは区別されている。」(段落【0004】)
 「英国特許第1,190,520号明細書には二価ユウロピウムで賦活した蛍光
材料,BaxSryCazEupAl12O19・・・が開示されている。・・・これら
の蛍光材料は,何れも紫外線か電子線などで励起して発光し,主としてブラウン管
に使用されている。」(段落【0005】)
 「また硼素含有SrAl2O4系発光材料としては,例えば,ヨーロッパ特許出願
公開番号第0094132号公報にSrAl2O4構造にフラックス剤として酸化硼
素を添加したものが記載されているが,・・・残光性に乏しい。」(段落【000
6】)
 「特開平7-11250に,SrAl2O4結晶体からなる蓄光材料の製造に際
し,フラックス剤として酸化硼素を添加しているが,その添加量は,1~10%に
限定されている。酸化硼素添加量の限定理由として,1重量%以下であるとフラッ
クス効果がなく,10重量%を越えると焼成物が固化し,その後の粉砕,分級作業
が困難となるからである。」(段落【0007】)
 「中国特許出願公開番号CN1053807Aには長残光性発光材料に関する発
明が開示されている。この長残光性発光材料は,一般式 m(Sr1-xEux)
O・nAl2O3・yB2O3〔但し,1≦m≦5,1≦n≦8,0.001≦y≦
0.35〕で表されるものである。」(段落【0008】)
 「先行技術に,例えば,ヨーロッパ特許出願公開番号第0094132号公報に
SrAl2O4構造にフラックス剤として酸化硼素を添加したものが記載され・・・
特開平7-11250に,SrAl2O4結晶体を造る時,フラックス剤として酸化
硼素を添加している」(段落【0017】)
 b 以上の記載によれば,本願明細書に記載された従来技術のうち,本願発明と
同じ蓄光材料に係るものは,SrAl2O4(特開平7-11250)及びm(S
r1-xEux)O・nAl2O3・yB2O3(中国特許出願公開番号CN1053
807A)であり,これらは,いずれも,アルカリ土類金属がSrであるにとどま
る。なお,上記のもの以外は,蛍光体に係るものであるところ,蛍光体は,光照射
をやめると直ちに発光が止むものであるのに対し,蓄光材料は,光照射をやめた後
もしばらく発光が続くものであって,両者は発光のメカニズムを異にするから,蛍
光体の技術についての知見を,そのまま蓄光材料に関する本願発明に適用すること
はできないというべきである。
 (イ) 甲9の2,10ないし28及び36について
 a 甲9の2,10ないし28及び36についてみるに,本願発明の特許出願時
に公知であったものは,甲9の2,10ないし13,24ないし28,36である
ところ,それぞれには,次のような記載がある。
 (a) 甲9の2(特開平7-11250号公報)には,蓄光性蛍光体の発明が記載
され,これは,MAl2O4で表される化合物で,Mは,カルシウム,ストロンチウ
ム,バリウムからなる群から選ばれる少なくとも1つ以上の金属元素からなる化合
物を母結晶にしたものであって(特許請求の範囲の請求項1),具体例として,S
rAl2O4:Eu,Sm,CaAl2O4:Eu,Nd,CaAl2O4:Eu,
Dy,SrAl2O4:Eu,Dy等多数があり,屋内外で主に夜間表示用として利
用可能なこと(段落【0001】)が記載されている。
 (b) 甲10(特開昭49-99610号公報)には,多発色性蛍光ガラスの発明
が記載され(特許請求の範囲(1)),美術的,工業的製品に応用することができるこ
と(2頁上左欄3,4行)が記載されている。
 (c) 甲11(特開昭59-128211号公報)には,蛍光体の発明が記載さ
れ,これは,一般式が(Me1-n,Eun)O・x(Al1-mBm)2O3(ただし,0<
n≦1,0.6≦x≦2,0<m≦0.5,MeはBa,SrおよびCaから選ば
れた少なくとも一種の元素)で表わされるものであって(特許請求の範囲),具体
例として,(Sr0.95Eu0.05)O・(Al0.95B0.05)2O3(実施例1,4),(Sr
0.95Eu0.05)O・(Al0.8B0.2)2O3(実施例2),(Sr0.95Eu0.05)O・1.1(A
l0.95B0.05)2O3(実施例3)が記載され,蛍光灯のような水銀蒸気放電灯や陰極線
管用の蛍光体に用いられること(2頁上右欄16ないし19行)が記載されてい
る。
 (d) 甲12(特開昭63-135482号公報)には,蛍光体の発明が記載さ
れ,これは,一般式がm(M,Eu)O・(1-n)Al2O3・nB2O3で表され,M
はマグネシウム(Mg),カルシウム(Ca),ストロンチウム(Sr),バリウ
ム(Ba),亜鉛(Zn)の少なくとも一種,かつ,0.11≦m≦0.85,0.
001≦n≦0.90であるものであって(特許請求の範囲),具体例として,
0.4(Ba,Mg,Eu)O・0.9Al2O3・0.1B2O3(実施例1)等多数
があり,青色発光蛍光体に使用されること(1頁下右欄15ないし18行)が記載
されている。
 (e) 甲13(特開平5-194944号公報)には,蛍光体の発明が記載され,
これは,一般式:(M1-x-yEuxMny)O・aAl2O3・bGa2O3(式中,M
はMg,Ca,SrおよびBaから選ばれた少なくとも一種の元素,0.03≦x
≦0.10,0.01≦y/x≦0.15,1.5≦a≦4.5,b≦1.0)で
表される組成から成るものであって(特許請求の範囲の請求項1),具体例とし
て,(Ba0.439Mg0.50Eu0.06Mn0.001)O・2.5Al2O3・0.5Ga2O3(実施例1)
等多数があり,蛍光ランプに使用されること(段落【0007】)が記載されてい
る。
 (f) 甲24(特公昭56-52072号公報)には,アルミン酸塩蛍光体の発明
が記載され,これは,2価のEuと2価のMn共付活のAO-Al2O3系蛍光体に
おいて,AはZn,Mg,Sr,Li2,Rb2,Cs2の少なくとも1種からなるも
のであって(特許請求の範囲),具体例として,0.4ZnO・Al2O3:0.025Eu
(実施例1),ZnO・Al2O3:0.05Eu,0.18Mn(実施例2),0.15Mg
O・Al2O3:0.05Eu,0.15Mn(実施例3),0.1Cs2O・Al2O3:0.025E
u,0.05Mn(実施例4),0.7SrO,1.0MgO8Al2O3:0.10Eu,0.15M
n(実施例5),0.15SrO・Al2O3:0.025Eu,0.05Mn(実施例6)が記載
され,ゼロックス用蛍光体として有効であること(実施例4,6)が記載されてい
る。
 (g) 甲25(特公昭56-2116号公報)には,アルミン酸カルシウム系蛍光
体の発明が記載され,これは,CaO・xAl2O3,ここに0.65≦x≦1.7で示され
る母体をユーロピウム及びマンガンで共付活して成るものであって(特許請求の範
囲),具体例として,実施例1~4が記載され,ゼログラフィー用の蛍光ランプ,
一般照明用の低圧蛍光ランプ,高圧水銀ランプに使用されること(2頁4欄25~
29行)が記載されている。
 (h) 甲26(英国特許第1190520号)には,Ba0.97Eu0.03Al12O19な
どの化学式で表される7種の焼成体が記載され,q(%),r(%),r.l.o.,λ
max(nm)の数値が記載されている(3頁の表1)。
 (i) 甲27(化学大辞典編集委員会編「化学大辞典1」(共立出版株式会社昭和
46年2月5日縮刷版第11刷発行))には,アルカリ土金属についての一般的な
説明として,「周期表第Ⅱ族の元素のうちベリリウム,マグネシウム,カルシウ
ム,ストロンチウム,バリウム,およびラジウムの総称。特にカルシウム以下の4
元素をさすこともある。」と記載されている。
 (j) 甲28は,オーム社の蛍光体同学会編「蛍光体ハンドブック」(昭和62年
12月25日第1版第1冊発行)の「I編 蛍光体序説」のうち,「第1章 蛍光
体の研究の始まりと発展」と「第2章 蛍光体の発展史と現況」の一部であり,蛍
光体の発展の歴史と役割が示されている。
 (k) 甲36(米国特許5376303)には,蛍光体の発明が記載され,これ
は,MO・a(Al1-bBb)2O3:cRの組成式で示される蛍光体であって,0.5
≦a≦10.0,0.0001≦b≦0.5,0.0001≦c≦0.2,MOは
MgO,CaO,SrO及びZnOから成るグループから選ばれた少なくとも1種
の二価金属酸化物を表し,RはEu
2+
に加えて,Pr,Nd,Dy及びTmからなる
グループから選ばれた少なくとも1種の二価金属酸化物である,というものであっ
て(請求の範囲),「高い輝度と長い減衰特性を持つ長残光蛍光体を提供する」
(2欄16ないし19行)というものである。
 b 以上の記載によれば,上記甲号各証のうち,本願発明と同じ蓄光材料につい
て具体的な記載があるのは,甲9の2と甲36だけである。甲10は蛍光ガラス,
甲11ないし13,24及び25は蛍光ランプに用いる蛍光体(甲26は用途が不
明である。),甲27は辞典の「アルカリ土金属」の項目,甲28は主として蛍光
ランプに用いる蛍光体についてそれぞれ記載したものであるところ,上記(ア)bのと
おり,蛍光体と蓄光材料とでは発光のメカニズムを異にするから,これらの蛍光体
の技術についての知見を,そのまま蓄光材料に関する本願発明に適用することはで
きないというべきである。
 c そして,甲9の2及び36は,いずれも,アルカリ土類金属がMg,Ca又
はBaである場合に,これがSrである場合と同様の高輝度長残光性を有すること
を示すものではない。
 (ウ) したがって,発光体の技術分野における周知の技術からみて,Sr以外のア
ルカリ土類金属について,その効果を示すデータなしに,SrやSrの一部がC
a,Ba又はMgのいずれかで置換されたものと同様の効果があると類推すること
はできない。
 原告らの上記主張は,採用することができない。
 (5) 以上によれば,審決が「本願明細書の発明の詳細な説明の記載は,当業者が
本願発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分になされているとすること
ができないものである。」と判断したことに誤りはないというべきであるから,原
告ら主張の取消事由2は,理由がない。
第5 結論
 よって,原告らの主張する審決取消事由は,いずれも理由がないから,原告らの
請求は棄却されるべきである。
    知的財産高等裁判所第4部
        裁判長裁判官                     
                   塚   原   朋   一
           裁判官                     
                   髙   野   輝   久
           裁判官                     
                   佐   藤   達   文

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