弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
1原告らの訴えを却下する。
2訴訟費用は原告らの負担とする。
理由
第1請求の趣旨
堺市長は,株式会社P1が廃棄物の処理及び清掃に関する法律14条6項に基づ
いて平成17年2月28日に堺市長に対して行った産業廃棄物処分業許可申請に対
し,許可をしてはならない。
第2事案の概要
本件は,株式会社P1(以下「P1」という)が,平成17年2月28日に大。
阪府堺市α××××番及び同××××番(両土地を併せて,以下「本件土地」とい
う)に「P2(以下「本件リサイクルセンター」という)を設置して建設廃材。」。
の中間処理業を営むこととして,廃棄物の処理及び清掃に関する法律(以下「廃棄
物処理法」という)14条6項に基づいて,堺市長に対して行った産業廃棄物の。
処分業の許可申請(以下「本件申請」という)について,原告らが,堺市を被告。
として,本件土地に本件リサイクルセンターを設置することは廃棄物処理法及び都
市計画法に違反するなどと主張して,行政事件訴訟法37条の4第1項に基づき,
本件申請に対する許可処分(以下「本件許可処分」という)の差止めを求めた事。
案である。
1法令の定め等
()ア廃棄物処理法は,廃棄物の排出を抑制し,及び廃棄物の適正な分別,保1
管,収集,運搬,再生,処分等の処理をし,並びに生活環境を清潔にすることによ
,()。り生活環境の保全及び公衆衛生の向上を図ることを目的とする法律である1条
同法2条1項は,ごみ,粗大ごみ,燃え殻,汚泥,ふん尿,廃油,廃酸,廃アルカ
リ,動物の死体その他の汚物又は不要物であって,固形状又は液状のもの(放射性
物質及びこれによって汚染された物を除く)を廃棄物という旨規定し,さらに,。
同条4項は,事業活動に伴って生じた廃棄物のうち,燃え殻,汚泥,廃油,廃酸,
廃アルカリ,廃プラスチック類その他政令で定める廃棄物(1号)等を産業廃棄物
という旨規定し,同条2項は,産業廃棄物以外の廃棄物を一般廃棄物という旨規定
している。そして,廃棄物の処理及び清掃に関する法律施行令(以下「廃棄物処理
法施行令」という)2条は,廃棄物処理法2条4項1号にいう政令で定める廃棄。
物として,紙くず(建設業に係るもの(工作物の新築,改築又は除去に伴って生じ
たものに限る,パルプ,紙又は紙加工品の製造業,新聞業(新聞巻取紙を使用し。)
て印刷発行を行うものに限る,出版業(印刷出版を行うものに限る,製本業及。)。)
び印刷物加工業に係るもの並びにポリ塩化ビフェニルが塗布され,又は染み込んだ
ものに限る(1号,木くず(建設業に係るもの(工作物の新築,改築又は除去。))
に伴って生じたものに限る,木材又は木製品の製造業(家具の製造業を含む,。)。)
パルプ製造業及び輸入木材の卸売業に係るもの並びにポリ塩化ビフェニルが染み込
んだものに限る(2号,繊維くず(建設業に係るもの(工作物の新築,改築又。))
は除去に伴って生じたものに限る,繊維工業(衣服その他の繊維製品製造業を除。)
く)に係るもの及びポリ塩化ビフェニルが染み込んだものに限る(3号,ゴム。。))
くず(5号,金属くず(6号,ガラスくず,コンクリートくず(工作物の新築,))
。)(),,改築又は除去に伴って生じたものを除く及び陶磁器くず7号工作物の新築
()改築又は除去に伴って生じたコンクリートの破片その他これに類する不要物9号
などを挙げている。
イ廃棄物処理法14条6項は,産業廃棄物(特別管理産業廃棄物(同法2条5
項)を除く)の処分を業として行おうとする者は,当該業を行おうとする区域を。
管轄する都道府県知事(保健所を設置する市又は特別区にあっては,市長又は区長
(同法8条1項。以下同じ)の許可を受けなければならない旨規定しており,同)。
法14条10項は,都道府県知事は,同許可の申請が次の要件,すなわち,その事
業の用に供する施設及び申請者の能力がその事業を的確に,かつ,継続して行うに
足りるものとして環境省令で定める基準に適合するものであること(1号,申請)
者が同条5項2号イからヘまでのいずれにも該当しないこと(2号,の各要件に)
適合していると認めるときでなければ,同申請に対する許可をしてはならない旨規
定している。さらに,同許可には,生活環境の保全上必要な条件を付することがで
きる旨規定している(同法14条11項。)
廃棄物の処理及び清掃に関する法律施行規則(以下「廃棄物処理法施行規則」と
いう)10条の5は,廃棄物処理法14条10項1号の規定による環境省令で定。
める基準として,処分(埋立処分及び海洋投入処分を除く)を業として行う場合。
につき,以下のとおり定めている。
(ア)施設に係る基準(廃棄物処理法施行規則10条の5第1号イ)
a汚泥(特別管理産業廃棄物であるものを除く)の処分を業として行う場合。
には,当該汚泥の処分に適する脱水施設,乾燥施設,焼却施設その他の処理施設を
有すること(同号イ())1
b廃油(特別管理産業廃棄物であるものを除く)の処分を業として行う場合。
には,当該廃油の処分に適する油水分離施設,焼却施設その他の処理施設を有する
こと(同号イ())2
c廃酸又は廃アルカリ(特別管理産業廃棄物であるものを除く)の処分を業。
として行う場合には,当該廃酸又は廃アルカリの処分に適する中和施設その他の処
理施設を有すること(同号イ())3
d廃プラスチック類(特別管理産業廃棄物であるものを除く)の処分を業と。
して行う場合には,当該廃プラスチック類の処分に適する破砕施設,切断施設,溶
融施設,焼却施設その他の処理施設を有すること(同号イ())4
eゴムくずの処分を業として行う場合には,当該ゴムくずの処分に適する破砕
施設,切断施設,焼却施設その他の処理施設を有すること(同号イ())5
fその他の産業廃棄物の処分を業として行う場合には,その処分を業として行
おうとする産業廃棄物の種類に応じ,当該産業廃棄物の処分に適する処理施設を有
すること(同号イ())6
g保管施設を有する場合には,産業廃棄物が飛散し,流出し,及び地下に浸透
し,並びに悪臭が発散しないように必要な措置を講じた保管施設であること(同号
イ())7
(イ)申請者の能力に係る基準(廃棄物処理法施行規則10条の5第1号ロ)
a産業廃棄物の処分を的確に行うに足りる知識及び技能を有すること(同号ロ
())1
b産業廃棄物の処分を的確に,かつ,継続して行うに足りる経理的基礎を有す
ること(同号ロ())2
ウ廃棄物処理法15条1項は,産業廃棄物処理施設(廃プラスチック類処理施
設,産業廃棄物の最終処分場その他の産業廃棄物の処理施設で政令で定めるものを
いう)を設置しようとする者は,当該産業廃棄物処理施設を設置しようとする地。
を管轄する都道府県知事の許可を受けなければならない旨規定する。
廃棄物処理法施行令7条は,廃棄物処理法15条1項の規定による政令で定める
産業廃棄物の処理施設として,廃プラスチック類の破砕施設であって,1日当たり
の処理能力が5トンを超えるもの(7号,同施行令2条2号に掲げる廃棄物(事)
業活動に伴って生じたものに限る)又はがれき類の破砕施設であって,1日当た。
りの処理能力が5トンを超えるもの(8号の2)などを挙げている。
()大阪府は,生活環境の保全等に関し,府,市町村,事業者及び府民の責務2
を明らかにするとともに,府の施策を定めてこれを推進し,及び公害の防止のため
の規制を行い,もって府民が健康で豊かな生活を享受できる社会の実現に資するこ
(。とを目的とする大阪府生活環境の保全等に関する条例平成6年大阪府条例第6号
以下「大阪府条例」という)を制定している(乙3。なお,生活環境の保全等と。
は,公害を防止する等大気,水,土壌等を良好な状態に保持することにより人の健
康の保護及び生活環境の保全を図ることをいう(大阪府条例2条1号。)。)
大阪府条例は,物の破砕,選別その他の機械的処理又はたい積に伴い発生し,又
は飛散する物質を粉じんという旨規定し(17条2項,粉じんのうち,石綿その)
他の人の健康又は生活環境に係る被害を生ずるおそれがある物質で規則で定めるも
のを特定粉じんといい特定粉じん以外の粉じんを一般粉じんという旨規定する同,(
3項。その上で,同条例は,工場又は事業場に設置される施設でばい煙又は粉じ)
んを発生し,及び排出し,又は飛散させるもののうち,その施設から排出され,又
は飛散するばい煙等が大気の汚染の原因となるもので規則で定めるもの(大阪府生
活環境の保全等に関する条例施行規則(平成6年大阪府規則第81号。以下「大阪
府条例施行規則」という)5条,別表第3)につき,同施設において発生し,又。
は飛散するばい煙又は粉じんについて,規則で規制基準を定める旨規定し(17条
4項,18条,大阪府条例施行規則7条,別表第5において具体的な規制基準が)
(,。)。規定されているただし産業廃棄物の処理施設は別表第3に掲げられていない
また,大阪府条例83条は,知事は,工場又は事業場において発生する騒音又は
振動(以下この段落において「騒音等」という。)及び特定建設作業(建設工事とし
て行われる作業のうち,著しい騒音又は振動を発生する作業で規則で定めるものを
いう(同条例82条2項)に伴って発生する騒音等から住民の生活環境を保全す)。
るため当該騒音等を規制する必要があると認める地域(以下「規制地域」という。)
を指定することができる旨規定し,同条例84条は,工場又は事業場において発生
する騒音等の当該工場又は事業場の敷地の境界線における大きさの許容限度(規制
基準)は,規則で定める旨規定し,同条例85条は,規制地域内に設置されている
工場又は事業場で規則で定めるもの(以下「工場等」という)から騒音等を発生。
,。させる者は当該工場等に係る規制基準を遵守しなければならない旨規定している
そして,大阪府条例施行規則54条,別表第21において上記規制基準を規定して
いるさらに大阪府条例87条1項は規制地域内において工場等届出施設工。,,((
場又は事業場に設置される施設のうち,著しい騒音又は振動を発生する施設で規則
で定めるものをいう(同条例82条1項)が設置されていないものに限る)に届)。
出施設を設置しようとする者は,その届出施設の設置の工事の開始の日の30日前
までに,規則で定めるところにより,氏名又は名称及び住所並びに法人にあっては
その代表者の氏名(1号,工場等の名称及び所在地(2号,届出施設の種類及び))
(),(),(),能力ごとの数3号騒音等の防止の方法4号届出施設の使用の方法5号
その他規則で定める事項(6号)を知事に届け出なければならない旨規定し,同条
例87条2項は,同届出には,規則で定める書類を添付しなければならない旨規定
している。そして,大阪府条例施行規則51条は,大阪府条例82条1項の規則で
定める施設は別表第19に掲げる施設とする旨規定し,同別表は,騒音に係る届出
施設として,粉砕機(①土石用又は鉱物用の破砕機,摩砕機,ふるい及び分級機
(原動機の定格出力が7.5キロワット以上のものに限る。),②①以外の土石用
又は鉱物用の破砕機,摩砕機,ふるい及び分級機,③穀物用製粉機(ロール式の
ものであって,原動機の定格出力が7.5キロワット以上のものに限る。),④
③以外の食品加工用粉砕機,及び⑤その他の用に供する粉砕機(破砕機及び摩砕
機を含む。),を掲げ,振動に係る届出施設として,粉砕機(①土石用又は鉱物)
用の破砕機,摩砕機,ふるい及び分級機(原動機の定格出力が7.5キロワット以
上のものに限る。),②①以外の土石用又は鉱物用の破砕機,摩砕機,ふるい及
び分級機(原動機の定格出力が3.7キロワット以上のものに限る。),及び③そ
の他の用に供する粉砕機(破砕機及び摩砕機を含む。原動機の定格出力が3.7キ
ロワット以上のものに限る。),を掲げている。)
()堺市は,循環型社会の形成に関し,基本理念を定め,市,事業者及び市民3
の責務を明らかにするとともに,循環型社会の形成に関する基本的施策を定め,こ
れを総合的かつ計画的に推進し,及び循環型社会の形成の推進上の支障となる廃棄
物の不適正な処理を防止するために必要な規制等を行うことにより,現在及び将来
の市民が安全で健康かつ快適な生活を営むことができる良好な環境を確保すること
を目的とする堺市循環型社会形成推進条例平成15年堺市条例第32号以下堺(。「
市条例」という)を制定している(甲8。。)
堺市条例は,廃棄物の処理のための施設を設置し,又は当該施設の維持管理をす
る者は,周辺地域の環境の保全について十分に配慮するよう努めなければならない
旨規定し(28条,産業廃棄物処理業の許可を受けて産業廃棄物処理業を行おう)
とする者等は,廃棄物の処理のための施設であって,規則で定めるもの(以下この
段落において「廃棄物処理施設」という)を設置しようとするときは,規則で定。
めるところにより,あらかじめ,廃棄物処理施設の設置の場所,廃棄物処理施設の
,,,種類廃棄物処理施設において処理する廃棄物の種類廃棄物処理施設の処理能力
環境の保全のための措置等を記載した事業計画書を市長に提出しなければならない
旨規定している(29条1項。そして,市長は,同事業計画書等の提出があった)
ときは,規則で定めるところにより,遅滞なくその旨を公告するとともに,当該事
業計画書等の写しを規則で定める期間一般の縦覧に供するものと規定し(堺市条例
31条,また,当該事業計画書の提出をした者(以下「事業計画書提出者」とい)
う)に対し,当該事業計画書について,周辺地域の環境の保全上の見地からの意。
見を書面により述べることができる旨規定する(32条1項。一方,事業計画書)
提出者は,当該事業計画書に関し,環境に影響を及ぼす範囲であると認められる地
域(以下「関係地域」という)内その他適当な場所において,閲覧場所を設け,。
(「」。)当該関係地域内に住所を有する者その他規則で定める者以下関係住民という
に対し,事業計画書の写しを上記期間が満了するまでの間,閲覧に供しなければな
(),,,,らず33条1項また上記期間内に関係地域内その他適当な場所において
関係住民に対し,事業計画書の記載事項を周知させるための説明会(以下単に「説
明会」という)を開催しなければならない旨規定する(条例34条1項。これに。)
対し,事業計画書について関係地域の環境の保全上の見地からの意見を有する関係
住民は,事業計画書提出者に対し,意見書を提出することができ(35条,この)
意見書の提出を受けた事業計画書提出者は,当該意見書の提出をした関係住民に対
し,当該意見書に記載された意見についての当該事業計画書提出者の見解を書面に
より示さなければならない旨規定する(36条。さらに,事業計画書提出者は,)
上記閲覧の結果や,説明会の開催の結果,上記関係住民からの意見書に記載された
関係住民の意見の要約及びこれに対して示された事業計画書提出者の見解の要約等
を記載した書類(以下「説明会等報告書」という)を市長に提出しなければなら。
ず(37条,説明会等報告書の提出を受けた市長は,事業計画書提出者に対し,)
説明会等報告書の内容を踏まえた上で,事業計画書について,周辺地域の環境の保
全上の見地からの意見を書面により述べるものとする旨規定している(38条1
項。)
2争いのない事実及び証拠により容易に認定できる事実等
()当事者等1
ア堺市長は,廃棄物処理法14条6項に基づく産業廃棄物の処分業の許可の権
限を有している。
イP1は,堺市を本店として産業廃棄物処理業等を業とする株式会社であり,
廃棄物処理法14条1項に基づく産業廃棄物運搬業の許可を有している(甲1,当
事者間に争いのない事実。)
P1は,本件土地に本件リサイクルセンターを設置して建設廃材の中間処理業を
,,,()。営むこととして平成17年2月28日堺市長に対し本件申請をした乙5
ウ原告らは,以下のとおり,本件土地の近隣に居住し,又は近隣において事業
を営むなどしている。なお,本件リサイクルセンターの所在地及びその近隣地域は
市街化調整区域とされている。
(ア)原告P3
原告P3は,本件土地北側に隣接する土地上の3階建て建物(以下「β建物」と
いう)に居住している(甲4,甲5。。)
(イ)原告株式会社P4(以下「原告会社」という)。
原告会社は,原告P3の妻を代表者とする株式会社であり,β建物の1階におい
て食品加工業を営んでいる(甲5,甲7。)
(ウ)原告P5
原告P5は,本件土地の北隣において,熱絶縁業を営むP6株式会社(以下「P
6」という)を経営している(甲4,甲9。。)
同所には,P6の社屋があり,1階が倉庫兼工場,2階が事務所となっており,
原告P5も同社屋で仕事を行っている(甲26。)
(エ)原告P7
原告P7は,本件土地南側に隣接する土地を所有し,同所に居住するとともに,
同所有土地の一部を畑として使用し,各種野菜等を栽培している。原告P7は,本
件土地と市道を隔てた南側土地の一部を所有し,これを自動車修理工場(P8)に
賃貸している(甲4,甲11の1,甲12。)
(オ)原告P9
原告P9は,本件土地の南西約50メートルの所に居住し,同所で食堂を経営し
ている(甲4,甲13。)
(カ)原告P10
原告P10は,本件土地と幅員約9.5メートルの府道γ線を隔てた西側土地を
,(「」。)。所有し同所において有限会社P11以下P11というを経営している
同所には,P11の工場及び事務所があり,原告P10も同所で仕事を行っている
(甲4,甲15,甲27。)
()本件リサイクルセンターの概要2
,,本件リサイクルセンターは建築現場又は工場から排出される産業廃棄物を選別
破砕するいわゆる中間処理施設であり,建築現場又は工場から排出される建設系及
,,,,,,び事業系廃棄物として廃プラスチック類紙くず木くず繊維くずゴムくず
金属くず,ガラスくず及び陶磁器くず並びにがれき類の8種類を受け入れてこれら
を選別した上,必要に応じて破砕し(廃プラスチック類,木くず,紙くず,繊維く
ず及びゴムくずの5種類に限る,リサイクル処理した後保管するものである。こ。)
れら処理されたものは,再生品引取先,適性処分先又は最終処分場に委託されて,
再利用又は最終処分がされる本件リサイクルセンターに設置される自動選別機振。(
)(「」。)(「」。)い機以下本件自動選別機という及び破砕機以下本件破砕機という
の処理能力は,その製造業者であるP12株式会社(以下「P12」という)の。
,,作成に係る処理能力計算書によれば前者が1日当たり600立方メートルであり
後者が1時間当たり3.35立方メートルである。後者については,重量に換算す
ると,それぞれ1日当たり,廃プラスチックは3.2トン,紙くずは2.7トン,
ゴムくずは13.9トン,木くずは4.8トン,繊維くずは3.2トンであるとさ
れている。
(甲2,乙5)
()本件申請に至る経緯3
アP1は,平成14年11月6日,本件土地及び本件土地上の既存の倉庫を買
い受け,これを取得した(甲17の1,2,甲18。)
イP1は,平成14年ころ,本件土地において産業廃棄物の処分業を行おうと
して,同許可申請に当たり,堺市産業廃棄物事務取扱要綱(当時)に基づく手続を
したが,同要綱に基づく行政指導として求められていた近隣住民(地元自治会)の
同意を得ることができず,同許可は得られなかった(乙4。)
ウP1は,本件土地上の既存の倉庫(延べ面積約444平方メートル)の建替
,,,えとして本件土地上に主要用途を倉庫業を営まない倉庫とする鉄骨造1階建て
延べ面積917.80平方メートルの建築物(以下「本件建物」という)を新築。
するとして,平成15年12月18日,建築確認申請をし,同月29日,被告の建
築主事から確認済証の交付を受けた(甲2,甲18。)
なお,本件土地は市街化調整区域に指定されており,一定の例外を除き新たな建
,,,,物の建築は許されないが同指定当時の既存建物が存する場合等には規模構造
設備が従前のものに比較して過大ではなく,かつ,周辺の土地利用の状況から見て
適切なものであれば,改築が認められており,本件建物についても,その用途を倉
庫にするとされていたことから,都市計画法の建築許可を要しない行為として,そ
の建替えが認められた(当事者間に争いのない事実。その後,本件建物の建築が)
始まったが,同建築工事の過程で,車両の重量スケールや倉庫内の棚が設置された
(甲3,甲24の1から3,弁論の全趣旨。)
,,,,エP1は平成16年6月25日被告に対し堺市条例29条1項に基づき
破砕・選別施設(リサイクルセンター)設置についての事業計画書を提出した(同
事業計画書に基づくP1の事業計画を,以下「本件修正前事業計画」という。同。)
事業計画書においては,本件建物北側に自動選別機,リサイクル選別ライン及び破
砕機等が設置されるとともに,本件建物中,同設置部分上の屋根は撤去され,これ
ら選別,破砕作業は屋外作業として行われることとされていた。
(甲19)
オP1は本件修正前事業計画に係る関係地域の自治会であるP13自治会会,(
長は原告P3)に対し,平成16年7月3日,堺市条例33条に定める説明会とは
みなさないとの同自治会との合意の下に,説明会(第1回説明会)を開催した。同
説明会には同自治会から53名の住民が参加し,本件修正前事業計画に対する反対
の意見が述べられた。その後,P1は,地元住民(P13自治会)を対象として,
同月29日(第2回説明会)と同年8月28日(第3回説明会)の2回にわたって
説明会を開催した。第2回説明会に出席した関係住民はなく,第3回説明会に出席
した関係住民は1名であった。P1は,同年10月12日,堺市長に対し,堺市条
例37条に基づく廃棄物処理施設設置説明会等報告書を提出した。
(甲21,当事者間に争いのない事実)
カ堺市長は,平成16年11月5日,P1に対し「堺市循環型社会形成推進,
条例第38条に規定する市長の意見について」と題する書面(甲22,以下「市長
意見書」という)によって,堺市条例38条に基づく市長の意見を述べた。堺市。
長は,市長意見書において,本件土地が民家に隣接していることから,敷地境界等
においてもコンクリート等透過損失の大きい材質で騒音防止対策を講じることや,
本件修正前事業計画中,選別ライン設置場所について,雨水対策並びに騒音及び粉
じん等の防止対策について,更に検討し,修正事業計画書に明記すること等を求め
るとともに,関係住民とは今後とも話合い等を重ねて円満な関係を構築するよう配
慮を求めた。
(甲22)
キP1は,市長意見書を受けて,平成16年11月16日,堺市長に対し,本
件修正前事業計画につき修正事業計画書を提出した(同修正事業計画書によって修
正された後のP1の事業計画を,以下「本件事業計画」という。。)
同修正事業計画書においては,新たに16立方メートルの貯水槽を設けるなどの
雨水対策を講じ,また,選別ライン設置場所上部の屋根のない部分については選別
ラインカバーで覆うとともに,機械の音源場所には遮音性の高い防音壁で囲み,さ
,,.らに高さ9メートルの防音壁を備えるなどしまた本件建物の内側から新たに1
5ミリメートルの鋼板を貼るなどの騒音対策を行うこととされた。
(甲3)
クP1は,平成17年2月28日,堺市長に対し,本件申請をした(乙5,本
件申請に係る産業廃棄物の処分業の内容を,以下「本件申請内容」という。。)
()原告らは,平成17年4月8日,当裁判所に対し,本件訴えを提起すると4
ともに,仮の差止めの申立てを行ったが(当裁判所平成17年(行ク)第14号仮
の差止め申立事件,当裁判所は,同年7月25日,同申立てを却下する旨の決定)
をした(裁判所に顕著な事実。)
2争点及び当事者の主張
()原告らは本件許可処分の差止めを求める原告適格を有するか(本案前の争1
点)
(原告らの主張)
堺市長が本件許可処分をし,本件リサイクルセンターが稼働すると,本件土地の
,,,近隣に居住し又は近隣において事業を営むなどしている原告らは以下のように
自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され,又は必然的に侵害されるお
それがあるから,堺市長が本件許可処分をしてはならない旨を命じるにつき法律上
の利益を有する。
ア原告P3,同P5,同P7,同P9及び同P10は,本件リサイクルセンタ
ーから排出される粉じん,騒音及び振動により,静穏で健康な生活を営む権利を不
当に侵害される。
イ原告会社は,本件リサイクルセンターから排出される粉じん等により,安全
かつ衛生的に営業活動を行う権利を不当に侵害される。
ウ本件リサイクルセンターから排出される粉じん等が,原告P5の経営するP
6における機械等の保守点検作業に災いする。
エP8は,本件リサイクルセンターから排出される粉じん等のために塗装作業
,,ができなくなるから原告P7の所有に係る土地から移転することは必然的であり
これによって原告P7は収入の一部を失う。
オ原告P9は,本件リサイクルセンターから排出される粉じん等により,生も
の食材を扱う食堂の経営に影響が出る。
カ原告P10の経営するP11は,本件リサイクルセンターから排出される
粉じん等により,鉄骨のさび止め作業ができなくなる。
(被告の主張)
原告らは,本件リサイクルセンターから排出される粉じん,振動及び騒音により
原告らの法律上の利益が害されると主張するが,粉じん等は産業廃棄物の処理施設
に特有の問題ではなく,一般の工場や事業所からも排出される。また,粉じん等の
問題は,廃棄物処分業の許可を差し止めることまでしなくても,当該施設について
,。施設設備上の防止対策を講じるなどして対処することができる性質のものである
本件事業計画及び本件申請内容においては,粉じん,騒音及び振動に関して,相
当の措置が講じられることになっており,振動及び騒音の予測値は,いずれも,大
阪府条例の基準を満たしている上,本件リサイクルセンターと原告らとの位置関係
や距離,原告らの立場等はそれぞれ異なる。
これらの事実に照らせば,原告らが堺市長が本件許可処分をしてはならない旨を
命じるにつき有する法律上の利益が具体的に明らかにされていないといわざるをえ
ない。
少なくとも,本件土地に隣接した場所で生活等をしていない原告P7以外の原告
らについては,原告適格は認められない。
()本件許可処分がされることにより重大な損害を生ずるおそれがある場合に2
当たるか(本案前の争点)
(原告らの主張)
堺市長が本件許可処分をし,本件リサイクルセンターが稼働すると,以下のとお
り,重大な損害が生じるおそれがある。
ア株式会社P14(以下「P14」という)が岸和田市δに設置して産業廃。
,,棄物の処分業を行っている中間処理施設の近隣では同施設から排出される粉じん
騒音及び振動による健康又は生活環境に係る被害が現実化している。同中間処理施
設は,建築現場又は工場から排出される廃プラスチック類,紙くず,木くず,繊維
くず,ゴムくず,金属くず,ガラスくず,コンクリート破片及びがれき類を受け入
れ,これらを選別し,破砕又はリサイクル処理した後保管するものであり,本件リ
サイクルセンターと同様の目的及び機能を有する中間処理施設である。本件リサイ
クルセンターが稼働すると,その近隣においても,P14の中間処理施設の場合と
同様,本件リサイクルセンターから排出される粉じん,騒音及び振動による健康又
は生活環境に係る重大な損害が生じるおそれがあるといえる。
イ被告は,本件リサイクルセンターには散水施設等を設置し,粉じんの発生が
見込まれる工程において散水をすることによって,粉じんの飛散が防止されると主
張する。しかし,産業廃棄物に異物を混入させると,リサイクルのための商品とし
ての価値を失うため,建築廃材から土などの汚れを除去するためにふるいをかける
際には,散水をすることができないから,その工程で粉じんが飛散することを防止
することができず,大量の粉じんが飛散することになる。また,本件リサイクルセ
ンターに運び込まれる産業廃棄物をトラックから処理前混合廃棄物置場に移す作業
及び産業廃棄物を同置場から仕分け場所に移す作業をする際にも,仕分けをするに
当たり散水することができないから,粉じんが飛散することになる。
また,選別ライン設置場所上部の屋根のない部分を選別ラインカバーで覆うこと
とされていても,同ラインカバーは選別ラインの上部を覆うにすぎず,選別ライン
全体を覆い隠すものではなく,選別ラインカバーが設置される高さと本件建物の屋
根の高さには約1.4メートルの差があって,選別ラインカバーと屋根との間に隙
間が生じるから,防塵対策として不十分であり,粉じんが同隙間から施設外に飛散
する。
以上のとおり,本件リサイクルセンターにおいては,P14の中間処理施設に比
しても,防塵対策として十分な措置が採られているということはできない。
さらに,本件リサイクルセンターに廃棄物を搬入するトラックの台数等を考慮す
れば,本件リサイクルセンターのトラックの出入口は開いたままの状態で作業が行
われるものと予想され,そうすると,出入口からも大量の粉じんが飛散する。
P14の中間処理施設の主な処理品目は鉄くずであるのに対し,本件リサイクル
センターの主な処理品目は建設廃材であることに照らせば,本件リサイクルセンタ
ーからはP14の中間処理施設を大きく上回る規模の粉じんが飛散するおそれがあ
る。
また,今後,本件リサイクルセンターに搬入される建設廃材の中に,アスベスト
を含んだものが増加することが予想され,アスベスト被害が周辺に及ぶ危険性があ
る。
ウP14の中間処理施設から排出される騒音は80デシベルを超えることもあ
り,大阪府条例84条及び同条例施行規則54条,別表第21の許容限度(55デ
シベル)を超えている。本件自動選別機及び本件破砕機は,P14の中間処理施設
に設置されているものの数倍の大きさ,処理能力を有するから,本件リサイクルセ
ンターから排出される騒音が,P14の中間処理施設のそれを下回ることはない。
,,被告の主張する振動予測値及び騒音予測値はそれ自体信用することができない上
本件自動選別機及び本件破砕機の操業のみを想定した数値であって,トラックやそ
の他の重機による振動及び騒音をしんしゃくしていない。
なお,本件リサイクルセンターには高さ9メートルの防音壁を設けるなどの防音
対策が講じられるとされていても,P14においても植栽を設け高さ5メートルな
いし6メートルの防音壁を設けているにもかかわらず全く防音被害が回復されてい
ないことからして,騒音被害を防ぐことができないことは明らかである。
エ後述のとおり,本件建物に選別ラインカバーを設置すると,P1は本件建物
内で産業廃棄物の処分業を行うことになり,都市計画法違反となるから,これを設
置せずに産業廃棄物の処分業が行われる可能性もある。この場合は,上記イ及びウ
で主張する以上の粉じん,騒音及び振動が本件リサイクルセンターから排出される
ことになる。
(被告の主張)
ア以下の各事実に照らせば,堺市長が本件許可処分をし,本件リサイクルセン
ターが稼働したとしても,重大な損害が生じるおそれがあるとは認められない。
(ア)本件リサイクルセンターが受け入れ,選別する廃棄物の中には,悪臭を生
ずるおそれのあるものはなく,また,本件リサイクルセンターでは廃棄物を焼却せ
ず,ダイオキシン等の有害悪臭物質を飛散することもないから,本件リサイクルセ
ンターから悪臭が生ずるおそれはない。建設系産業廃棄物中のアスベストが飛散す
る旨の原告らの主張も,主観的なおそれを述べるものにすぎない。
(イ)本件リサイクルセンターから発生する粉じんは,一般粉じん(大阪府条例
)。,,17条3項であるそして本件事業計画及び本件申請内容における工程のうち
家屋解体現場等から搬入された廃棄物を展開する工程においては,建屋内で作業を
行うものとされている上,散水設備が設置されることになっており,フォークスク
リーンによるふるい作業の工程においては,防塵シャワーによる散水がされること
になっており,ベルトコンベアへの積込部においては,集塵機による吸引がされる
ことになっており,ベルトコンベアでの作業工程においては,手作業による選別作
業であるとともに選別された廃棄物を入れるコンテナ部分は密閉状態とされること
になっており,破砕機による破砕処理の工程においては,がれき類は取り扱わない
とともに防塵シャワーによる散水がされることになっている。なお,防塵シャワー
による散水については,主として水道水を使用するとともに,廃棄物に触れた雨水
を貯留した上その貯留水をも併用して,発塵する前に霧状に廃棄物等に散水し,廃
棄物等にしみこませて湿潤化させるようにし,発塵を抑制しようとしているもので
あって,一般的な方法を採用しており,粉塵飛散の抑制機能に欠けるということも
できない。このように,粉じんの発生が見込まれる工程においては,防塵シャワー
等による散水がされたり,集じん機による吸引がされることになっており,相当の
防塵対策が採られている。これらの対策は,大阪府条例18条,同条例施行規則7
,(,,,条別表第5が規定する規制基準を満たしているなお同条例は破砕処理施設
工程については,一般粉じんの規制をしていない。。)
また,本件リサイクルセンター北側に設置される高さ9メートルの防音壁及び南
側に佇立する廃棄物の保管倉庫が,粉じんの周囲への飛散を防止する機能を有する
ことも見込まれる。
(ウ)本件リサイクルセンターにおける振動発生源は本件自動選別機であり,騒
音発生源は本件自動選別機,本件破砕機等であるが,これらが本件事業計画及び本
,,,件申請内容において担う作業の内容機械の種類扱う廃棄物の種類等に照らせば
それほど大きな振動又は騒音が発生するとは思われない。また,本件自動選別機を
振動源とする振動予測値は,本件土地に各隣接する地点において43デシベルない
し53デシベルであり,本件自動選別機,本件破砕機及び本件集じん機を含め,主
要な騒音発生源となると考えられる設備7点を音源対象とする騒音予測値も,本件
土地に各隣接する地点において50デシベルないし52デシベルであり,いずれも
大阪府条例84条及び同条例施行規則54条の許容限度を満たしている。
イ原告らは,P14が設置する中間処理施設の近隣では,同施設から排出され
る粉じん,騒音及び振動による健康又は生活環境に係る被害が現実化しており,本
件リサイクルセンターにおいても同様の被害が生じるおそれがあると主張する。し
かし,原告らが主張するような被害が現実化しているかどうかは知らないし,P1
以外の企業の設置する中間処理施設によって被害等が生じているからといって,本
件リサイクルセンターにおいても当然に同様の被害が生じるということはできず,
同主張には合理性がない。
()堺市長が本件許可処分をすべきでないことが廃棄物処理法の規定から明ら3
かであると認められ又は堺市長が本件許可処分をすることがその裁量権の範囲を超
え若しくはその濫用となると認められるときに当たるか(本案の争点)
ア本件リサイクルセンターは,廃棄物処理法施行規則10条の5第1号イが規
定する施設に係る基準等を満たすか否か
(原告らの主張)
上記()のとおり,本件リサイクルセンターから排出される粉じん,騒音及び振2
動によって,その周辺において,健康又は生活環境に係る重大な損害が生じること
になるから,上記施設に係る基準等を満たさない。
(被告の主張)
上記()のとおり,本件事業計画及び申請内容における防塵対策は相当であり,2
大きな振動又は騒音が発生することもないから,上記施設に係る基準又は大阪府条
例の一般粉塵に対する規制状況等に照らしても,本件許可をすべきでないことが法
令の規定から明らかであるなどということはいい難い。
イ本件事業計画及び本件申請内容に都市計画法上の違法があるか
(原告らの主張)
(ア)本件リサイクルセンターに設置される予定の選別ラインカバーは,本件建
物の構造体である外壁によって支えられており,屋根に他ならないから,選別ライ
ンは,本件建物内部にあるといわざるを得ない。そうすると,本件許可処分がされ
れば,P1は,本件建物内で産業廃棄物の処分業を行うことになり,本件建物を産
業廃棄物の処分業に用いることになる。しかし,P1が本件建物を倉庫以外の用途
に用いる場合,新たにその旨の許可を要する(都市計画法43条)から,本件事業
計画及び本件申請内容には都市計画法上の違法がある。
(イ)都市計画法は,都市の健全な発展と秩序ある整備を図ることを目的とする
法律であり,都市計画の基本理念を示す基本法である。その基本理念に照らせば,
同法は,廃棄物処理法の上位に位置すると解するのが合理的であり,少なくとも,
都市計画法が廃棄物処理法に劣後することはない。そうすると,本件申請に対して
許可するかどうかの判断に際して,廃棄物処理法の要件だけを吟味すれば良く,都
市計画法上の違法があるからといって不許可処分をすることはできないという被告
の主張は,都市計画法の理念を無視したものである。
(ウ)P1は,後にラインカバーを設置することを予定した仕様で本件建物を建
築し,また,産業廃棄物の処分業の許可を受けていないのに,そのための棚を本件
建物内に設置していた。これらの事実に照らせば,P1は,本件建物の建築段階か
ら本件建物を用いて産業廃棄物の処分業を行うことを意図していたと認められる。
P1が,このように産業廃棄物の処分業を行うことを予定して,その許可を受ける
前から多額の費用をかけて本件建物を建築したのは,被告がP1に対し,既存の建
物から用途を変更せずに本件建物を建築した上で,本件建物にラインカバーを設置
するという事業計画で産業廃棄物の処分業の許可を得るという,都市計画法の脱法
行為となるような方法を内諾していたからである。
このように,被告は,行政としての中立的立場を無視して,P1の脱法行為に積
極的に荷担してきたのであって,また,本件事業計画及び本件申請内容が都市計画
法に違反する以上,堺市長が本件許可処分をすることは許されない。
(被告の主張)
(ア)P1が本件リサイクルセンター所在地において建物内で産業廃棄物の処分
業を行うとすれば,それが都市計画法違反になり得ることは認めるが,本件事業計
画及び本件申請内容において,破砕,選別作業は本件建物内ですることにはなって
おらず,本件事業計画及び本件申請内容に都市計画法上の違法はない。
(イ)都市計画法に関わる問題は,廃棄物処理法に基づく産業廃棄物の処分業の
許可要件とは関連しない別個のものであり,本件申請に対して許可するかどうかを
判断するに当たって,都市計画法上の違法を考慮に入れることはできない。
(ウ)原告らが主張する,被告が行政としての中立的立場を無視して,P1の脱
法行為に積極的に荷担してきたという事実は否認する。
ウ本件リサイクルセンターが廃棄物処理法15条1項に規定する産業廃棄物処
理施設(以下単に「産業廃棄物処理施設」という)に当たり,その設置に堺市長。
の許可が必要であるか否か
(原告らの主張)
後記(ア)ないし(エ)の各事実に照らせば,本件リサイクルセンターは産業廃棄物
,,,処理施設に当たりその設置に堺市長の許可が必要であるにもかかわらずP1は
それを秘匿し,虚偽の事実を申告して本件申請を行っており,堺市長は,このよう
な申請に対して許可をすることは許されない。
(ア)本件リサイクルセンターの処理能力算出の基礎とされている容量重量換算
係数(廃棄物1立方メートル当たりのトン数。以下単に「係数」という)は妥当。
ではない。
P1は,本件申請において,廃プラスチックの係数を0.12とし,木くずの係
数を0.18として,本件リサイクルセンターの廃プラスチック及び木くずの処理
能力を算出し,いずれも5トン未満であるとしているが,P1が用いている係数の
各数値は平成8年に公表されたものであって,現在適正とされている数値よりも小
さい。大阪府が「建設工事等における産業廃棄物の処理に関する要綱」の手引きに
より現在基準にしている係数の値は,廃プラスチックが0.2,木くずが0.5で
あり,京都市が現在基準にしている係数の値は,廃プラスチックが0.2,木くず
が0.21であるが,これらの数値を用いて本件リサイクルセンターの1日当たり
の廃プラスチック及び木くずの処理能力を算出すると,いずれも5トンを超える。
P1が採用した各係数の数値は,P12作成に係る本件自動選別機及び本件破砕
機の処理能力計算書に基づいているところ,P12は,本件リサイクルセンターと
は別の施設において,廃プラスチックの係数を0.191,木くずの係数を0.2
49としている。このようなP12の取扱いに照らせば,本件リサイクルセンター
の処理能力算出の基礎として採用されている係数はいずれも,被告のいうところの
著しく不合理なものといえる。
被告は,産業廃棄物処理施設に当たるか否かは,著しく不合理なものといえない
限り,公称処理能力によって判断すると主張する。しかし,著しく不合理なものと
いえない限りという基準自体があいまいである上,被告の主張は,特定行政庁は許
可申請者の自主申告の内容に従えばよいというものであって,許可申請者が過小申
告することによって廃棄物処理法の規制を潜脱することを容認することになるか
ら,上記被告の主張は採用することができない。施設の処理能力を算出するに当た
っては,特定行政庁間で協議して定めた係数を用いるべきである。
(イ)産業廃棄物処理法15条並びに同法施行令7条7号及び8号の2の趣旨に
照らせば,破砕機によって破砕する廃プラスチック及び木くずだけでなく,選別ラ
イン上で選別され,破砕機によって破砕されない廃プラスチック及び木くずをも,
本件リサイクルセンターの処理能力を算出する基礎としなければならないというべ
きである。そして,P1は本件事業計画及び本件申請内容において,本件自動選別
機による処理は,当面,1日当たり150立方メートルとしているところ,これを
P1の採用する係数を用いて重量に換算したとしても,その処理量は1日当たり,
廃プラスチックが18トン,木くずが27トンとなる。したがって,本件リサイク
ルセンターは産業廃棄物処理施設に当たる。
(ウ)本件申請に係る産業廃棄物の処分業許可申請書添付の資料において,破砕
,「(,)」しないものとして混合廃棄物但しコンクリート塊及びアスファルトは除く
と記載され「破砕処理後置場」又は「廃棄物処理後置場」にがれき類の置場(コ,
ンテナ)が設置されることとなっていることなどに照らせば,P1は,本件許可処
分後,本件事業計画及び本件申請内容に反し,がれき類をも破砕することを予定し
ていると推測される。そして,がれき類の係数のP12の公表値は,0.417で
あり,これを用いて本件リサイクルセンターの処理能力を算出すると1日当たり5
トンを超える。
本件事業計画及び本件申請内容において,破砕機によって破砕され砂状になった
廃棄物は手作業で品目ごとに選別されることになっているが,この作業は機械を用
いなければ不可能であること,本件事業計画及び本件申請内容によれば,選別ライ
,,ンのベルトコンベアと本件破砕機は接続されていないことなどに照らせばP1は
本件事業計画及び本件申請内容では予定されていない大型の機械を本件許可処分後
に設置する予定であると推測される。
関係住民に対する本件リサイクルセンターの設置計画説明資料において,本件リ
サイクルセンターの稼働時間は,午前8時から午後6時までとされ,日曜祝日は事
情によっては営業するとされていることに照らせば,P1は,本件許可処分後,本
件申請内容において予定されている稼働時間を超えて,本件リサイクルセンターを
稼働するものと推測される。上記説明資料にあるように午前8時から午後6時まで
1日10時間稼働すれば,P1の採用する係数を用いても,木くずの1日当たりの
処理量は,5トンを超える。
本件リサイクルセンターにおける事業内容は,上記のように変更されるものと推
測され,そうすると,本件リサイクルセンターは,廃プラスチック,木くず又はが
れき類の破砕施設であって,1日の処理能力が5トンを超えるものであるといえる
から,産業廃棄物処理施設に当たる。
(被告の主張)
(ア)係数は,廃棄物処理法その他法令で定められているものではなく,また,
各種の関係団体等が様々な数値を発表しているのであり,特定行政庁が特定の数値
を用いるよう強制することはできない。廃棄物処理法は,産業廃棄物処理施設に該
当するか否かの判断に際しては,メーカーによる公称処理能力が著しく不合理なも
のと認められない限り,これを基準として判断するものとし,実際の施設の稼働,
営業の状況が法令の規制を潜脱している場合に,特定行政庁が指導又は処分してい
くことを予定しているというべきである。そして,本件リサイクルセンターの処理
能力算出の基礎となっている係数は特段不合理といえない。
原告らが現在大阪府が基準としていると主張する数値は,産業廃棄物の処理実績
の報告に際しての参考資料にすぎず,各業者が独自に重量換算基準を有している場
合にはそれによれば足りることとされており,なんらの拘束性もない。
(イ)産業廃棄物処理施設にあたるか否かは,廃棄物処理法施行令7条に列挙さ
れた施設について判断されるだけであり,原告らの主張は理由がない。
(ウ)本件申請に係る産業廃棄物の処分業許可申請書添付の資料における「混合
廃棄物(但し,コンクリート塊及びアスファルトは除く」との記載に係る原告ら)
の主張は,原告らの深読みというほかない。また「破砕処理置場」という記載は,
誤りで「廃棄物処理後置場」が正確であり,それは,選別処理後の廃棄物の置場,
と破砕処理後の廃棄物の置場という2つの意味を含む表記である。がれき類は選別
処理された後廃棄物処理後置場に保管される。本件事業計画及び本件申請内容にお
いて,がれき類は破砕処理の対象外とされている。
本件事業計画及び本件申請内容において,本件破砕機の稼働時間は,1日8時間
とされており,それが住民に対する説明と異なるからといって直ちに本件申請が虚
偽のものであるとは認められない。
第3当裁判所の判断
1争点()について1
()上記第2の2()ウ記載のとおり,原告らは本件土地の近隣に居住し,又は11
近隣において事業を営むなどしている個人又は法人であるが,このような原告らが
本件許可処分の差止めを求める原告適格を有するか否かにつき,以下検討する。
行政事件訴訟法37条の4第3項は,差止めの訴えは,行政庁が一定の処分又は
裁決をしてはならない旨を命ずるにつき法律上の利益を有する者に限り提起するこ
とができるものと規定するが,ここにいう法律上の利益を有する者とは,当該処分
又は裁決により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され,又は必然的
に侵害されるおそれのある者をいうのであり,当該処分又は裁決を定めた行政法規
,,が不特定多数者の具体的利益を専ら一般的公益の中に吸収解消させるにとどめず
それが帰属する個々人の個別的利益としてもこれを保護すべきものとする趣旨を含
むと解される場合には,このような利益もここにいう法律上保護された利益に当た
り,当該処分又は裁決によりこれを侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある
,。者は当該処分又は裁決の差止め訴訟における原告適格を有するというべきである
そして,上記の法律上保護された利益の有無の判断については同法9条2項の規定
が準用される(同法37条の4第4項)ところ,同法9条2項は,処分又は裁決の
相手方以外の者について同条1項に規定する法律上の利益の有無を判断するに当た
っては,当該処分又は裁決の根拠となる法令の規定の文言のみによることなく,当
該法令の趣旨及び目的並びに当該処分において考慮されるべき利益の内容及び性質
を考慮するものとし,この場合において,当該法令の趣旨及び目的を考慮するに当
たっては,当該法令と目的を共通にする関係法令があるときはその趣旨及び目的を
もしんしゃくするものとし,当該利益の内容及び性質を考慮するに当たっては,当
該処分又は裁決がその根拠となる法令に違反してされた場合に害されることとなる
利益の内容及び性質並びにこれが害される態様及び程度をも勘案するものと規定し
ている。
()アそこで,産業廃棄物の処分業に対する法令の規制についてみるに,上記2
第2の1()ア記載のとおり,廃棄物処理法は,廃棄物の排出を抑制し,及び廃棄1
物の適正な分別,保管,収集,運搬,再生,処分等の処理をし,並びに生活環境を
清潔にすることにより,生活環境の保全及び公衆衛生の向上を図ることを目的とす
るものであり(1条,ごみ,粗大ごみ,燃え殻,汚泥,ふん尿,廃油,廃酸,廃)
アルカリ動物の死体その他の汚物又は不要物であって固形状又は液状のもの放,,(
射性物質及びこれによって汚染された物を除く)を廃棄物という旨規定し(2条。
),,,,,,1項このうち事業活動に伴って生じた廃棄物であって燃え殻汚泥廃油
廃酸,廃アルカリ,廃プラスチック類その他政令で定める廃棄物(1号)等を産業
廃棄物といい(同条4項,産業廃棄物以外の廃棄物を一般廃棄物というとしてい)
る(同条2項。)
そして,上記第2の1()イ記載のとおり,廃棄物処理法14条6項は,産業廃1
棄物(特別管理産業廃棄物(同法2条5項)を除く)の処分を業として行おうと。
する者は,当該業を行おうとする区域を管轄する都道府県知事の許可を受けなけれ
ばならない旨規定するとともに,同許可の要件として,同法14条10項は,同許
可の申請が次の要件,すなわち,その事業の用に供する施設及び申請者の能力がそ
の事業を的確に,かつ,継続して行うに足りるものとして環境省令で定める基準に
適合するものであること(1号,申請者が同条5項2号イからヘまでのいずれに)
も該当しないこと(2号,の各要件に適合していると認めるときでなければ,同)
,,,,申請に対する許可をしてはならない旨規定しさらに同条11項は同許可には
生活環境の保全上必要な条件を付することができる旨規定している。そして,廃棄
物処理法施行規則10条の5は,廃棄物処理法14条10項の規定による環境省令
で定める基準を定めており,同施行規則10条の5の第1号イにおいて,施設に係
る基準として,処分の対象となる各産業廃棄物の種類に応じて,それぞれその処分
に適する処理施設を有することを要件として掲げ,また,保管施設を有する場合に
は,産業廃棄物が飛散し,流出し,及び地下に浸透し,並びに悪臭が発散しないよ
うに必要な措置を講じた保管施設であることを要件としている(なお,後記()に4
おいて説示するような産業廃棄物の処理に対する法令の規制の趣旨,態様等からす
れば,同号イにいう処分に適する処理施設に該当するためには,当該処分に伴い生
ずる排ガス,排水,騒音及び振動により周囲の生活環境を損なわないものであるこ
とをも要するものと解される。さらに,廃棄物処理法施行規則10条の4は,廃。)
棄物処理法14条6項の規定により産業廃棄物の処分業の許可を受けようとする者
は所定の事項を記載した申請書を都道府県知事に提出しなければならない旨規定
し,同申請書の添付書類等として,事業の用に供する施設(保管の場所を含む)。
の構造を明らかにする平面図,立面図,断面図,構造図及び設計計算書並びに当該
施設の付近の見取図並びに最終処分場にあっては,周囲の地形,地質及び地下水の
状況を明らかにする書類及び図面(当該施設が廃棄物処理法15条1項の許可を受
けた施設である場合を除く)の添付を求めている(同施行規則10条の4第2項。
2号。)
イまた,廃棄物処理法は,産業廃棄物のうち,爆発性,毒性,感染性その他の
人の健康又は生活環境に係る被害を生ずるおそれがある性状を有するものとして政
令で定めるものを特別管理産業廃棄物とし(2条5項,特別管理産業廃棄物の処)
分を業として行おうとする者は都道府県知事の許可を得なければならないものとし
ており(14条の4第6項,廃棄物処理法施行規則10条の17は,特別管理産)
業廃棄物の処分を業として行う場合の施設に係る基準について,上記のような特別
管理産業廃棄物の性状にかんがみて,より厳しい要件を定めている。
ウ他方,廃棄物処理法15条1項,廃棄物処理法施行令7条は,処理の対象と
なる産業廃棄物の種類,処理の態様,処理能力等にかんがみ,処理施設のうち一定
範囲のものを産業廃棄物処理施設として規定した上,その設置を都道府県知事の許
可にかからせている。すなわち,第2の1()ウ記載のとおり,廃棄物処理法151
条は,産業廃棄物処理施設(廃プラスチック類処理施設,産業廃棄物の最終処分場
その他の産業廃棄物の処理施設で政令で定めるものをいう)を設置しようとする。
者は,当該産業廃棄物処理施設を設置しようとする地を管轄する都道府県知事の許
可を受けなければならないものとし(1項,同許可に係る申請書には,環境省令)
で定めるところにより,当該産業廃棄物処理施設を設置することが周辺地域の生活
環境に及ぼす影響についての調査の結果を記載した書類を添付しなければならない
ものとしている(3項。そして,同申請書には,産業廃棄物処理施設の位置,構)
造等の設置に関する計画(同条2項6号)に係る事項として,処理に伴い生ずる排
ガス及び排水の量及び処理方法(排出の方法(排出口の位置,排出先等を含む)。
を含む)や設計計算上達成することができる排ガスの性状,放流水の水質その他。
の生活環境への負荷に関する数値を記載すべきものとされ(廃棄物処理法施行規則
11条2項4号,5号,また,産業廃棄物処理施設の維持管理に関する計画(廃)
棄物処理法15条2項7号)に係る事項として,排ガスの性状,放流水の水質等に
ついて周辺地域の生活環境の保全のため達成することとした数値を記載すべきもの
とされている(廃棄物処理法施行規則11条3項1号。さらに,廃棄物処理法施)
行規則11条の2は,上記廃棄物処理法15条3項により添付を求められている書
類には,設置しようとする産業廃棄物処理施設の種類及び規模並びに処理する産業
廃棄物の種類を勘案し,当該産業廃棄物処理施設を設置することに伴い生ずる大気
汚染,水質汚濁,騒音,振動又は悪臭に係る事項のうち,周辺地域の生活環境に影
響を及ぼすおそれがあるものとして調査を行ったもの(以下「産業廃棄物処理施設
生活環境影響調査項目」という。同条1号,産業廃棄物処理施設生活環境影響調)
査項目の現況及びその把握の方法(同2号,当該産業廃棄物処理施設を設置する)
ことが周辺地域の生活環境に及ぼす影響の程度を予測するために把握した水象,気
象その他自然的条件及び人口,土地利用その他社会的条件の現況並びにその把握の
方法(同3号,当該産業廃棄物処理施設を設置することにより予測される産業廃)
棄物処理施設生活環境影響調査項目に係る変化の程度及び当該変化の及ぶ範囲並び
にその予測の方法(同4号,当該産業廃棄物処理施設を設置することが周辺地域)
の生活環境に及ぼす影響の程度を分析した結果(同5号,大気汚染,水質汚濁,)
騒音,振動又は悪臭のうち,これらに係る事項を産業廃棄物処理施設生活環境影響
調査項目に含めなかったもの及びその理由(同6号,及びその他当該産業廃棄物)
処理施設を設置することが周辺地域の生活環境に及ぼす影響についての調査に関し
て参考となる事項(同7号)を記載しなければならない旨規定している。
そして,廃棄物処理法15条に基づく産業廃棄物処理施設の設置許可申請に対す
る許可の基準として,同法15条の2は,当該産業廃棄物処理施設の設置に関する
計画が環境省令で定める技術上の基準に適合していること(同条1項1号,当該)
産業廃棄物処理施設の設置に関する計画及び維持管理に関する計画が当該産業廃棄
物処理施設に係る周辺地域の生活環境の保全及び環境省令で定める周辺の施設につ
いて適正な配慮がされたものであること(同2号)を要件としており,上記技術上
の基準として,産業廃棄物,産業廃棄物の処理に伴い生ずる排ガス及び排水,施設
において使用する薬剤等による腐食を防止するために必要な措置が講じられている
こと(廃棄物処理法施行規則12条3号,産業廃棄物の飛散及び流出並びに悪臭)
の発散を防止するために必要な構造のものであり,又は必要な設備が設けられてい
ること(同4号,著しい騒音及び振動を発生し,周囲の生活環境を損なわないも)
のであること(同5号,施設から排水を放流する場合は,その水質を生活環境保)
全上の支障が生じないものとするために必要な排水処理設備が設けられていること
(同6号,などがそれぞれ掲げられている。また,都道府県知事は,廃棄物処理)
法15条に基づく産業廃棄物処理施設の設置許可をする場合においては,あらかじ
め同法15条の2第1項2号に掲げる事項について,生活環境の保全に関し環境省
令で定める事項について専門的知識を有する者の意見を聴かなければならず(同条
3項,廃棄物処理法施行規則12条の3は,上記環境省令で定める事項は,廃棄)
物の処理並びに大気汚染,水質汚濁,騒音,振動及び悪臭に関する事項とするとし
ている。
このほか,産業廃棄物処理施設の設置者は,環境省令で定める技術上の基準等に
従って当該産業廃棄物処理施設の維持管理をしなければならないものとされ(廃棄
物処理法15条の2の2,廃棄物処理法施行規則12条の6は,上記規定による)
産業廃棄物処理施設のすべてに共通する維持管理の技術上の基準として,産業廃棄
物の飛散及び流出並びに悪臭の発散を防止するために必要な措置を講ずること(5
号,並びに,著しい騒音及び振動の発生により周囲の生活環境を損なわないよう)
に必要な措置を講ずること(7号)等を掲げている。
()さらに,上記第2の1()記載のとおり,大阪府においては,生活環境の保32
全等に関し,府,市町村,事業者及び府民の責務を明らかにするとともに,府の施
策を定めてこれを推進し,及び公害の防止のための規制を行い,もって府民が健康
で豊かな生活を享受できる社会の実現に資することを目的として,大阪府条例が制
定されており,大阪府条例において,工場又は事業場(工場等)において発生する
騒音又は振動(騒音等)から住民の生活環境を保全するため,知事は規制地域を指
定することができるものとし,規制地域内に設置されている工場等から騒音等を発
生させる者は当該工場等に係る騒音等の大きさの許容限度(規制基準)を遵守しな
ければならず,規制地域内において工場等に著しい騒音等を発生する施設を設置し
ようとする者はあらかじめ知事に届け出なければならないものとするなどしてい
る。
また,上記第2の1()記載のとおり,堺市においては,循環型社会の形成に関3
し,基本理念を定め,市,事業者及び市民の責務を明らかにするとともに,循環型
社会の形成に関する基本的施策を定め,これを総合的かつ計画的に推進し,及び循
環型社会の形成の推進上の支障となる廃棄物の不適正な処理を防止するために必要
な規制等を行うことにより,現在及び将来の市民が安全で健康かつ快適な生活を営
むことができる良好な環境を確保することを目的として,堺市条例が制定されてい
る。堺市条例は,廃棄物の処理のための施設を設置し,又は当該施設の維持管理を
する者は,周辺地域の環境の保全について十分に配慮するよう努めなければならな
いものとした上で(28条,産業廃棄物処理業を行おうとする者等は,廃棄物の)
処理のための施設であって,規則で定めるもの(廃棄物処理施設)を設置しようと
するときは,あらかじめ,廃棄物処理施設の設置場所,種類,処理する廃棄物の種
類,処理能力及び環境の保全のための措置等を記載した事業計画書を市長に提出し
なければならないものとし(29条1項,市長は,事業計画書の提出があったと)
きは,遅滞なくその旨を公告するとともに,当該事業計画書の写しを一般の縦覧に
(),,(),供し31条また当該事業計画書を提出した者事業計画書提出者に対し
当該事業計画書について,周辺地域の環境の保全上の見地からの意見を書面により
述べることができるものとし(32条1項,事業計画書提出者は,当該事業計画)
書に関し,環境に影響を及ぼす範囲であると認められる地域(関係地域)内その他
適当な場所において,当該関係地域内に住所を有する者その他規則で定める者(関
係住民)に対し,事業計画書の写しを閲覧に供しなければならず(33条1項,)
,,(),また関係住民に対し説明会を開催しなければならない34条1項ものとし
事業計画書について関係地域の環境の保全上の見地からの意見を有する関係住民
は,事業計画書提出者に対し,意見書を提出することができ(35条,この意見)
書の提出を受けた事業計画書提出者は,当該意見書の提出をした関係住民に対し,
当該意見書に記載された意見についての当該事業計画書提出者の見解を書面により
示さなければならないものとし(36条,また,事業計画書提出者は,上記閲覧)
の結果や,説明会の開催の結果,上記関係住民からの意見書に記載された関係住民
の意見の要約及びこれに対して示された事業計画書提出者の見解の要約等を記載し
た書類(説明会等報告書)を市長に提出しなければならず(37条,説明会等報)
告書の提出を受けた市長は,事業計画書提出者に対し,説明会等報告書の内容を踏
まえた上で,事業計画書について,周辺地域の環境の保全上の見地からの意見を書
面により述べるものとしている(38条1項。)
()上記のような産業廃棄物の処理に対する法令の規制に照らせば,廃棄物処4
理法は,産業廃棄物が適切な施設において適正に処理されない場合には,産業廃棄
物が飛散し,流出し,地下に浸透し,あるいは悪臭が発散して,当該施設の周辺地
,,域において生活する者の生命健康又は生活環境を害するおそれがあるのみならず
その処理に伴い生ずる排ガス,排水,騒音及び振動等により,当該施設の周辺地域
において生活する者の生命,健康又は生活環境を害するおそれがあることなどにか
んがみ,産業廃棄物の処分業を都道府県知事の許可制にした上でその許可要件とし
てその処分業の用に供する施設等に関する基準を定め,さらに,その施設が,当該
施設において処理される産業廃棄物の種類,処理の態様,処理能力等に照らして,
政令で定める産業廃棄物処理施設に該当するものについては,当該処理施設(産業
廃棄物処理施設)の設置をも都道府県知事の許可制とした上で,その許可要件とし
て当該処理施設の設置に関する計画に係る技術的基準を定めるとともに,当該処理
施設の設置に関する計画及び維持管理に関する計画が当該処理施設に係る周辺地域
の生活環境の保全及び環境省令で定める周辺の施設について適正な配慮がされたも
のであることをも要件とし,もって,生活環境の保全及び公衆衛生の向上を図るも
のとしているものと解される。そうであるとすれば,産業廃棄物の処分業の許可に
関する廃棄物処理法の規定は,当該許可に係る産業廃棄物の処分業の用に供する施
,,,設における産業廃棄物の処理により生じる産業廃棄物の飛散流出地下への浸透
悪臭の発散又は排ガス,排水,騒音,振動等によって,当該施設の周辺地域におい
て生活する者の生命,健康又は生活環境の被害が発生することを防止し,もって,
生活環境の保全及び公衆衛生の向上を図ることも,その趣旨及び目的とするものと
解される。
しかるところ,産業廃棄物の処理に対する法令の規制に違反して産業廃棄物の処
分業の許可がされた場合,当該許可に係る産業廃棄物の処分業の用に供する施設に
,,おいて産業廃棄物が適正に処理されないことにより生じる産業廃棄物の飛散流出
地下への浸透,悪臭の発散又は排ガス,排水,騒音,振動等による被害を直接的に
受けるのは,当該施設の周辺の一定範囲の地域において生活する者に限られ,その
被害の程度は,その者の生活の場所が当該施設に接近するにつれて増大するものと
考えられる。また,当該施設の周辺地域において生活する者が,当該地域において
生活し続けることにより上記の被害を反復,継続して受けた場合,その被害は,こ
れらの者の生命,健康や生活環境に係る著しい被害にも至りかねないものである。
そして,産業廃棄物の処分業に関する廃棄物処理法の規定は,その趣旨及び目的に
かんがみれば,当該許可に係る産業廃棄物の処分業の用に供する施設の周辺地域に
おいて生活する者に対し,違法な許可に係る産業廃棄物の処分業の用に供する施設
において産業廃棄物が適正に処理されないことにより生じる産業廃棄物の飛散,流
出,地下への浸透,悪臭の発散又は排ガス,排水,騒音,振動等によってこのよう
な生命,健康又は生活環境に係る著しい被害を受けないという具体的利益を保護し
ようとするものと解されるところ,上記のような被害の内容,性質,程度等に照ら
せば,この具体的利益は,一般的公益の中に吸収解消させることが困難なものとい
わざるを得ない。
以上のような産業廃棄物の処分業の許可に関する廃棄物処理法の規定の趣旨及び
目的,これらの規定が産業廃棄物の処分業の許可の制度を通して保護しようとして
いる利益の内容及び性質等を考慮すれば,同法は,これらの規定を通じて,廃棄物
の適正な処理をし,生活環境を清潔にすることにより,生活環境の保全及び公衆衛
生の向上を図るという公益的見地から産業廃棄物の処分業を規制するとともに,産
業廃棄物の処分業の用に供する施設の周辺において生活する者であって,当該施設
における産業廃棄物の処理により生じる産業廃棄物の飛散,流出,地下への浸透,
悪臭の発散又は排ガス,排水,騒音,振動等によって生命,健康又は生活環境に係
る著しい被害を直接的に受けるおそれのある個々の者に対して,そのような被害を
受けないという利益を個々人の個別的利益としても保護すべきものとする趣旨を含
むと解するのが相当である。したがって,産業廃棄物の処分業の用に供する施設の
周辺において生活する者であって,当該施設において産業廃棄物が適正に処理され
,,,,ない場合に生じる産業廃棄物の飛散流出地下への浸透悪臭の発散又は排ガス
排水,騒音,振動等により生命,健康又は生活環境に係る著しい被害を直接的に受
けるおそれのある者は,都道府県知事が廃棄物処理法14条6項に基づく許可をし
てはならない旨を命ずるにつき法律上の利益を有する者として,当該許可の差止め
の訴えにおける原告適格を有するものというべきである。
そして,上記のような著しい被害を直接的に受けるおそれがあるか否かについて
は,当該産業廃棄物の処分業の用に供する施設の種類,構造,規模等,当該処分業
に係る産業廃棄物の種類,量,処分の態様,周囲の地形,地質等を総合考慮の上,
社会通念に照らし,合理的に判断すべきである。
なお,以上説示したような産業廃棄物の処分業の許可に関する廃棄物処理法の規
定の趣旨及び目的,これらの規定が産業廃棄物の処分業の許可の制度を通して保護
しようとしている利益の内容及び性質等を考慮すれば,同法は,これらの規定を通
じて,産業廃棄物の処分業の用に供する施設の周辺において生活する者が当該施設
における産業廃棄物の処理により生じる産業廃棄物の飛散,流出,地下への浸透,
悪臭の発散又は排ガス,排水,騒音,振動等によって生命,健康又は生活環境に係
る著しい被害を受けないという利益に加えて,そのような者の所有権,営業上の利
益その他の財産上の権利,利益をも個々人の個別的利益として保護すべきものとす
る趣旨を含むものと解することはできないというべきである。
()以上を前提に,原告らが本件許可処分の差止めを求める原告適格を有する5
か否かを検討する。
ア原告会社を除くその余の原告ら(以下「原告ら5名」という)について。
(ア)上記第2の2()で認定したところに加え,証拠(甲2,甲3,甲19,2
乙5)によれば,本件リサイクルセンターについて,以下の事実が認められる。
a本件申請に係る産業廃棄物の処分業の用に供する施設である本件リサイクル
センターは,建築現場又は工場から排出される産業廃棄物を選別,破砕するいわゆ
る中間処理施設であり,建築現場又は工場から排出される建設系及び事業系廃棄物
として,廃プラスチック類,紙くず,木くず,繊維くず,ゴムくず,金属くず,ガ
ラスくず及び陶磁器くず並びにがれき類の8種類を受け入れてこれらを選別し,必
要に応じて破砕し(破砕する廃棄物は廃プラスチック類,木くず,紙くず,繊維く
ず及びゴムくずの5種類に限る,リサイクル処理した後保管するものである。こ。)
れら処理されたものは,再生品引取先,適性処分先又は最終処分場に委託されて,
再利用又は最終処分がされる。
b本件リサイクルセンターの敷地面積は約1880平方メートルであり,本件
建物は鉄骨造1階建てで,確認済証によれば延面積は917.80平方メートルと
されている。本件リサイクルセンターには,自動選別機(本件自動選別機)及び破
砕機(本件破砕機)等が設置されるものとされ,本件自動選別機及び本件破砕機の
処理能力は,その製造業者であるP12の作成に係る処理能力計算書によれば,前
者が1日当たり600立方メートルであり,後者が1時間当たり3.35立方メー
トルである。後者については,重量に換算すると,それぞれ1日当たり,廃プラス
.,.,.,.チックは32トン紙くずは27トンゴムくずは139トン木くずは4
8トン,繊維くずは3.2トンであるとされている(なお,原告らは,本件事業計
画及び本件申請内容において本件自動選別機及び本件破砕機の処理能力算出の基礎
とされている容量重量換算係数が不合理であるなどと主張するが,乙5ないし9に
照らしても,P12の作成に係る処理能力計算書において用いられている係数が著
しく不合理であると認めることはできない。。)
c本件リサイクルセンターは本件建物を利用した施設であるが,本件建物北側
に本件自動選別機やリサイクル選別ライン,本件破砕機,選別処理後置場が設置さ
れるとともに,本件建物中,同設置部分上の屋根は撤去されて(本件建物のうち上
部屋根が撤去される部分は約264.00平方メートルとされ,その余の653,
80平方メートルが倉庫部分とされている,これら選別・破砕作業は屋外作業と。)
して行われることとされ,同部分は選別ラインカバー(上部は大波鋼板)で覆われ
る構造となっている。なお,選別処理後置場(8箇所の仕切と床の接地面に係る部
分を除く)の床面積は120.12平方メートル,保管容量は42立方メートル。
(ただし,使用するコンテナによって変動する可能性がある)とされている。。
本件リサイクルセンターへの進入路及び本件建物の出入口はいずれもその西側
(府道γ線側)に設けられ,本件建物内の南東側に処理前混合廃棄物置場及び仕分
場所が設けられ,本件建物内の南西側に廃棄物処理後置場が設けられるものとされ
ている。なお,廃棄物処理後置場の床面積は54.72平方メートル(ただし,コ
。),。,ンテナ間等の部分を除く保管容量は144立方メートルとされているそして
雨水,汚水対策として,本件建物外部東南側に容量16立方メートルの貯水槽を設
置し,本件建物内に汚水ピットを設けて本件建物内から貯水槽へ自動吸引ポンプで
吸引するものとし,貯蔵された水は数回散水に使用するなどした後汚水処理業者に
引き取らせるものとされているほか,選別ラインカバー上部の降雨を樋を通して雨
水桝に流すものとされている。また,騒音防止対策として,本件建物外壁全周を石
膏ボード(12.5ミリメートル)及び遮音シート(高比重物質配合リサイクル塩
.).,ビ樹脂シート12ミリメートルを使用し角波鋼板06ミリメートルを施工し
本件建物内側より鋼板1.5ミリメートルを貼るものとされ,選別ライン設置場所
には高さ9メートルの防音壁を設置するものとされている。
d本件リサイクルセンターにおける産業廃棄物の処理(中間処理)の工程は,
概ね以下のとおりとされている。
(a)本件リサイクルセンターに搬入された産業廃棄物は,本件建物内において
散水しながら展開され,処理前混合廃棄物置場に保管される。
(b)上記保管された産業廃棄物は,自動選別機にかけるものと,かけないもの
とに選別され,自動選別機にかけないものについては,破砕が必要なものは破砕機
にかけられ,破砕が不要なものは廃棄物処理後置場に保管される。
(c)(b)で自動選別機にかけないものとされたものを除くその余の産業廃棄物
,,は防塵シャワーによる散水と集じん機の稼働する中で自動選別機にかけられた後
ベルトコンベア等で構成されるリサイクル選別ラインに載せられ,作業員の手作業
,,,,,,により①廃プラスチックゴムくず②紙くず繊維くず③がれきくず
④鉄くず,⑤非鉄金属,ガラス,陶磁器くず,⑥木くず,⑦選別残さに選
別され,これらは,各選別された産業廃棄物ごとに,選別処理後置場において保管
される。
(d)(c)で選別された産業廃棄物のうち,廃プラスチック,紙くず,木くず,
繊維くず及びゴムくずの5種類については,破砕機により破砕処理がされる。その
余の産業廃棄物については選別処理のみが行われる。
(e)(c)による選別,(d)による破砕処理が行われた産業廃棄物は,廃棄物処
理後置場において保管される。
e本件リサイクルセンターに設置される自動選別機(振い機)として,P12
製の○○(本件自動選別機)が予定されている。本件自動選別機は,デッキ及びフ
ォーク部分を振動させることにより投入された素材を選別するものであり,動力は
「.()」,「」。75kW×4/8P全閉外扇型振動数は930PCMとされている
f本件リサイクルセンターに設置される破砕機として,P12製の油圧式二軸
解砕機○○(本件破砕機)が予定されている。本件破砕機は,投入された素材を,
大型油圧モータによってそれぞれ独立して駆動する2本のロータにより,軟質物は
引き裂き,硬質物は圧縮破砕して解砕するものであり,動力は「30kW/45k
W400/440V(50/60Hz,回転数は「高速軸max.18.0)」
r.p.m「低速軸max.12.0r.p.m」とされている。」
gこのほか,自動選別機及びエプロンコンベヤ乗り継ぎ部において発生する粉
じんを集じんする機械として,P12製のバグフィルタ式集じん機(以下「本件集
じん機」という)が予定されている。本件集じん機の動力は「15kW排風機。
220V/60Hz,処理風量は「約120m/min排出粉塵予想値0.」
02g/Nm」とされている。
h本件事業計画において,本件リサイクルセンターにおける車両搬出入その他
の作業時間は午前8時から午後5時30分まで,処理機の稼働時間は午前8時から
午後5時までとされ,午後0時から午後1時まで処理機を停止するものとされ,ま
た,休日は祝祭日とされている。
(イ)原告ら5名が居住し,あるいは日中仕事を行っている場所と,本件リサイ
クルセンターが設置される本件土地との位置関係については,上記第2の2()ウ1
記載のとおりである。すなわち,原告P3,同P7及び同P9は本件土地の周辺地
域に居住するものであり,原告P3は本件土地の北側に隣接するβ建物に居住し,
原告P7は本件土地南側に隣接する土地を所有し,同所に居住するとともに,同所
有土地の一部を畑として使用し,各種野菜等を栽培しており,原告P9は,本件土
地の南西約50メートルの所に居住し,同所で食堂を経営している。また,原告P
5及び同P10は,本件土地の周辺地域に居住するものではないが,原告P5は本
件土地の北隣において熱絶縁業を営むP6を経営しており,同所にはP6の社屋が
あって,同原告も同社屋で仕事を行っており,また,原告P10は本件土地と幅員
9.5メートルの府道γ線を隔てた西側土地においてP11を経営しており,同所
にはP11の工場及び事務所があって,同原告も同所で仕事を行っている。
上記(ア)記載のような本件リサイクルセンターの規模,構造,本件リサイクルセ
ンターにおいて処分することが予定されている産業廃棄物の種類,量,本件リサイ
クルセンターにおいて行われるこれらの産業廃棄物の処理の方法,態様,処理の過
程で用いられる設備機器の種類,規模,能力等にかんがみれば,本件土地に隣接し
て居住し,又は事業に従事している原告P3,同P7及び同P5のみならず,本件
土地の南西約50メートルの所に居住している原告P9や,本件土地から幅員9.
5メートルの府道γ線を隔てた西側土地において事業に従事している原告P10に
ついても,本件申請に係る産業廃棄物の処分業の用に供する施設である本件リサイ
クルセンターにおいて産業廃棄物が適正に処理されない場合に生じる産業廃棄物の
飛散,流出,地下への浸透,悪臭の発散又は排ガス,排水,騒音及び振動等により
生命,健康又は生活環境に係る著しい被害を直接的に受けるおそれのある者に当た
ると認められるから,本件処分の差止めを求める原告適格を有するものと解するの
が相当である。
イ原告会社について
原告会社が本件土地に隣接するβ建物の1階において食品加工業を営む株式会社
であることは,上記第2の2()ウ(イ)記載のとおりであるが,産業廃棄物の処分1
業の許可に関する廃棄物処理法の規定が,産業廃棄物の処分業の用に供する施設の
周辺において生活する者が当該施設における産業廃棄物の処理により生じる産業廃
棄物の飛散,流出,地下への浸透,悪臭の発散又は排ガス,排水,騒音,振動等に
よって生命,健康又は生活環境に係る著しい被害を受けないという利益に加えて,
そのような者の所有権,営業上の利益その他の財産上の権利,利益をも個々人の個
別的利益として保護すべきものとする趣旨を含むものと解することはできないこと
は,上記()で説示したとおりであるから,原告会社について本件処分の差止めを4
求める原告適格を有すると認めることはできない。
したがって,原告会社による本件訴えは,原告適格を欠く不適法なものであり,
その余の点について判断するまでもなく,却下されるべきである。
2争点()について2
()行政事件訴訟法は,差止めの訴えは,行政庁が一定の処分又は裁決をすべ1
きでないにかかわらずこれがされようとしている場合において,一定の処分又は裁
決がされることにより重大な損害を生ずるおそれがある場合に限り,提起すること
ができるものとし(3条7項,37条の4第1項,ただし,その損害を避けるた)
,()。め他に適当な方法があるときはこの限りでないと規定している同項ただし書
平成16年法律第84号による行政事件訴訟法の改正により抗告訴訟の新たな訴訟
類型として同法3条7項所定の差止めの訴えが定められた趣旨は,処分又は裁決が
された後に当該処分の取消しの訴えを提起し,当該処分又は裁決について同法25
条に基づく執行停止を受けたとしても,それだけでは十分な権利利益の救済が得ら
れない場合があることにかんがみ,処分又は裁決の取消しの訴えによる事後救済に
加えて,行政庁が一定の処分又は裁決をすべきでないにかかわらずこれがされよう
としている場合において,事前の救済方法として,一定の要件の下で行政庁が当該
処分又は裁決をすることを事前に差し止める訴訟類型を新たに法定することによ
り,国民の権利利益の救済の実効性を高めることにあるものと解される。そして,
同法37条の4第1項が差止めの訴えは一定の処分又は裁決がされることにより重
大な損害を生ずるおそれがある場合に限り提起することができるものと規定した趣
旨は,差止めの訴えが,取消訴訟とは異なり,処分又は裁決がされる前に,行政庁
がその処分又は裁決をしてはならない旨を裁判所が命ずることを求める事前救済の
ための訴訟類型であることにかんがみ,事前救済を認めるにふさわしい救済の必要
性を差止めの訴えの適法要件として規定することにより,司法と行政の適切な役割
分担を踏まえつつ行政に対する司法審査の機能を強化し国民の権利利益の実効的な
救済を図ることにあると解される。これらの趣旨からすれば,同項にいう一定の処
分又は裁決がされることにより重大な損害を生ずるおそれがある場合とは,それを
避けるために事前救済としての当該処分又は裁決をしてはならないことを命ずる方
法による救済が必要な損害を生ずるおそれがある場合をいうものと解されるのであ
って,一定の処分又は裁決がされることにより損害を生ずるおそれがある場合であ
っても,当該損害がその処分又は裁決の取消しの訴えを提起して同法25条2項に
基づく執行停止を受けることにより避けることができるような性質,程度のもので
あるときは,同法37条の4第1項にいう一定の処分又は裁決がされることにより
重大な損害を生ずるおそれがある場合には該当しないものと解すべきである。
()上記の見地に立って,本件許可処分がされることにより重大な損害を生ず2
るおそれがある場合に当たるかを検討する。
ア確かに,原告ら5名が本件申請に係る産業廃棄物の処分業の用に供する施設
である本件リサイクルセンターにおいて産業廃棄物が適正に処理されない場合に生
じる産業廃棄物の飛散,流出,地下への浸透,悪臭の発散又は排ガス,排水,騒音
及び振動等により生命,健康又は生活環境に係る著しい被害を直接的に受けるおそ
れのある者に当たると認められることは,上記1()ア説示のとおりである。5
しかしながら,上記1()ア記載のとおり,本件リサイクルセンターにおいて処5
理することが予定されている産業廃棄物の種類は,廃プラスチック類,紙くず,木
くず,繊維くず,ゴムくず,金属くず,ガラスくず及び陶磁器くず並びにがれき類
の8種類であり,爆発性,毒性,感染性その他の人の健康又は生活環境に係る被害
を生ずるおそれがある性状を有するものとして政令で定める特別管理産業廃棄物は
含まれていない。また,その処理の形態もいわゆる中間処理であり,焼却処理等は
行われないものである。もっとも,本件リサイクルセンターは,自動選別機,リサ
イクル選別ライン及び破砕機の設置される本件建物北側部分上の屋根が約264.
00平方メートルにわたって撤去され,本件申請に係る産業廃棄物の処分の中核部
分を成す選別及び破砕作業が当該部分においていわゆる屋外作業として行われるこ
ととされていることも,上記1()ア記載のとおりであるが,同記載のとおり,同5
部分は選別ラインカバー(上部は大波鋼板)で覆われる構造となっている上,粉じ
ん対策として,搬入された産業廃棄物の処理前保管作業及び自動選別機による選別
作業等を散水しながら行うものとされるとともに集じん機が設置されるものとさ
れ,雨水,汚水対策として,本件建物外部東南側に容量16立方メートルの貯水槽
が設置され,本件建物内に汚水ピットを設けて本件建物内から貯水槽へ自動吸引ポ
ンプで吸引するとともに,選別ラインカバー上部の降雨を樋を通して雨水桝に流す
ものとされ,騒音対策として,本件建物外壁全周を石膏ボード及び遮音シートを使
用し,角波鋼板を施工し,本件建物内側より鋼板を貼るものとされ,選別ライン設
置場所には高さ9メートルの防音壁を設置するものとされている。のみならず,本
件自動選別機を振動源とする振動予測値は,本件土地に各隣接する地点において4
3デシベルないし53デシベルであるとされ,本件自動選別機,本件破砕機及び本
件集じん機を含め,主要な騒音発生源となると考えられる設備7点を音源対象とす
る騒音予測値も,本件土地に各隣接する地点において50デシベルないし52デシ
ベルであるとされており(甲2,3,乙5,これらは,いずれも,大阪府条例8)
4条,大阪府条例施行規則54条,別表第21の定める振動及び騒音の昼間に係る
規制基準を下回るものである(乙3。)
イ以上説示したような本件リサイクルセンターの構造,設備,本件リサイクル
センターにおいて処分することが予定されている産業廃棄物の種類,量,本件リサ
イクルセンターにおいて行われるこれら産業廃棄物の処理の方法,態様,処理の過
程で用いられる設備機器の種類,能力等に加えて,本件リサイクルセンターにおけ
る産業廃棄物の処理により生じる産業廃棄物の粉じんの飛散,汚水の流出や地下へ
の浸透,騒音及び振動等に起因する生命,健康又は生活環境に係る被害は,本件リ
サイクルセンターの周辺地域において生活し続け,これを反復,継続して受けるに
従って,その程度及び態様が徐々に増大,深刻化等する性質のものであることにも
かんがみると,本件リサイクルセンターに搬入される産業廃棄物の排出事業者とし
て建設解体業者が想定されていること(乙5,選別ラインカバーと屋根ないし外)
壁との間に間隙が生じるものとされていることや本件リサイクルセンターと原告ら
5名の住居又は事業場との位置関係,想定される風向(甲35)等をしんしゃくし
てもなお,本件許可処分がされ,本件リサイクルセンターにおいて産業廃棄物の処
理が開始されることによって直ちに原告ら5名が産業廃棄物の飛散,流出,地下へ
の浸透,悪臭の発散又は排ガス,排水,騒音及び振動等により生命,健康又は生活
環境に係る著しい被害を受けるような事態は容易に想定し難いものというべきであ
り,本件許可処分がされることにより原告ら5名に生ずるおそれのある損害は,本
件許可処分の取消しの訴えを提起して行政事件訴訟法25条2項に基づく執行停止
を受けることにより避けることができるような性質,程度のものであるといわざる
を得ない。
ウなお,原告らは,本件建物に選別ラインカバーを設置すると,P1は本件建
物内で産業廃棄物の処分業を行うことになり,都市計画法違反となるから,これを
設置せずに産業廃棄物の処分業が行われる可能性があり,この場合には,本件事業
計画及び本件申請内容を前提とした場合に想定される以上の粉じん,騒音及び振動
が本件リサイクルセンターから排出されることになるといった趣旨の主張をする。
しかしながら,産業廃棄物の処分業の許可の差止めの訴えの要件として行政事件
訴訟法37条1項にいう処分がされることにより重大な損害を生ずるおそれがある
場合に当たるか否かを判断するに当たっては,特段の事情のない限り,その申請書
並びに添付の書類及び図面に記載されたところによるべきであるから,原告らの上
記主張はその前提を欠くものというべきである(なお,前記認定事実によれば,本
件リサイクルセンターの所在地及びその近隣地域は市街化調整区域とされていると
ころ,都市計画法43条第1項によれば,市街化調整区域のうち開発許可を受けた
開発区域以外の区域内においては,都道府県知事の許可を受けなければ,建築物を
改築し又はその用途を変更して同法29条1項2号若しくは3号に規定する建築物
以外の建築物としてはならないものとされており,産業廃棄物の処分業の用に供す
る施設である建築物は,同項2号又は3号に規定する建築物のいずれにも該当せず
(同項3号,都市計画法施行令21条,廃棄物処理法8条1項参照,都市計画法)
43条1項ただし書にも該当しない。しかるところ,前記認定事実によれば,本件
建物は,その用途を倉庫とすることにより,同条1項の許可を得ることなく,その
建替えが認められたものであるが,本件事業計画及び本件申請内容による限り,本
件建物(延面積917.80平方メートル)が上部屋根が撤去される部分(約26
4.00平方メートル)とその余の建屋部分(653,80平方メートル)に区分
され,屋根が撤去される部分に自動選別機やリサイクル選別ライン,破砕機が設置
されて産業廃棄物の処分の中核部分を成す選別及び破砕作業が当該部分においてい
わゆる屋外作業として行われるものとされ,他方,本件建物のその余の部分(建屋
),部分は主として処理前混合廃棄物置場及び廃棄物処理後置場とされることにより
本件建物のうち上部屋根の設置された建屋部分の用途が倉庫であるかのような体裁
が作出されているものの,当該建屋部分は処理前及び処理後の産業廃棄物を一時的
に保管するための場所にすぎず,選別,破砕作業のための場所(屋根が撤去される
部分)と機能的にみて不可分一体の関係にあるということができるのであって,本
件リサイクルセンターの中間処理施設としての性格,機能にもかんがみると,社会
通念上,本件建物は,屋根が撤去される部分をも含めて,その全体が産業廃棄物の
処分業の用に供する施設である建築物とみるのが素直なように思われ,屋根が撤去
される部分に上部が大波鋼板の選別ラインカバーが設置されるとすれば,その外観
に照らしても,本件建物の全体が産業廃棄物の処分業の用に供する施設である建築
物とみざるを得ないのではないかと思われる。仮にそうであるとすれば,本件建物
は,都市計画法43条1項の規定に違反して同項の許可を受けないで建築物を改築
し又はその用途を変更して同法29条1項2号若しくは3号に規定する建築物以外
の建築物としたものということになって,同法81条に基づく監督処分等の対象に
なり得る余地がある。もっとも,そうであるとしても,産業廃棄物の処分業の許可
の差止めの訴えの要件として行政事件訴訟法37条1項にいう処分がされることに
より重大な損害を生ずるおそれがある場合に当たるか否かを判断するに当たって上
記の事情をしんしゃくすることができないことは,上記のとおりである。。)
また,原告らは,本件自動選別機及び本件破砕機の処理能力に加えて,本件事業
計画及び本件申請内容に照らすと,P1は,本件許可処分後,本件事業計画及び本
件申請内容では予定されていない大型の機械を設置し,本件申請内容において予定
されている稼働時間を超えて稼働することなどが推測されるのであって,本件リサ
イクルセンターは産業廃棄物処理施設に該当するなどといった趣旨の主張をする。
しかしながら,前記のとおり,廃棄物処理法は,産業廃棄物の処分業を都道府県
知事の許可制にした上でその許可要件としてその処分業の用に供する施設等に関す
る基準を定めるとともに,それとは別に,その施設が,当該施設において処理され
る産業廃棄物の種類,処理の態様,処理能力等に照らして,政令で定める産業廃棄
物処理施設に該当するものについては,当該処理施設(産業廃棄物処理施設)の設
置をも都道府県知事の許可制とした上で,その許可要件として当該処理施設の設置
に関する計画に係る技術的基準等を定めているのであって,このような同法におけ
る規制の仕組みにもかんがみると,産業廃棄物の処分業の許可の差止めの訴えの要
件として行政事件訴訟法37条1項にいう処分がされることにより重大な損害を生
ずるおそれがある場合に当たるか否かを判断するに当たっては,特段の事情のない
限り,その申請書並びに添付の書類及び図面に記載されたところによるべきであっ
て,原告らが主張するような上記事情をしんしゃくすることはできないものという
べきである。
さらに,原告らは,同P5,同P7,同P9及び同P10について,その営む営
業上の損害が生じる旨の主張もするところであるが,前記1()において説示した4
ところに照らすと,上記のような営業上の損害が仮に生じるとしても,産業廃棄物
の処分業の許可の差止めの訴えの要件として行政事件訴訟法37条1項にいう処分
がされることにより重大な損害を生ずるおそれがある場合に当たるか否かを判断す
るに当たっては,これをしんしゃくすることはできないものというべきである。
エ以上によれば,原告ら5名に係る本件訴えは,行政事件訴訟法37条の4第
1項にいう一定の処分又は裁決がされることにより重大な損害を生ずるおそれがあ
る場合の要件を欠く不適法な訴えであるから,その余の点について判断するまでも
なく,却下されるべきである。
3結論
よって,原告らの本件訴えは不適法であるから,これを却下することとし,主文
のとおり判決する。
平成18年2月22日
大阪地方裁判所第2民事部
裁判長裁判官西川知一郎
裁判官田中健治
裁判官森田亮

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