弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     本件を東京高等裁判所に差し戻す。
         理    由
 上告代理人植草宏一、同吉田正夫の上告理由一、二について
 原審が適法に確定した事実関係は、次のとおりである。(1) 本件土地は、上告
人の兄である亡Dの所有名義に登記されていたが、上告人の弟であり被上告人B1、
同B2、同B3、同B4、同B5の被相続人である亡Eが占有耕作していた。(2)
 Dは、昭和二四年、本件土地は登記名義どおり自己の所有に属する旨主張し、E
を相手取り、千葉地方裁判所木更津支部に対し、本件土地の明渡及び損害賠償の支
払を求める訴えを提起したところ(同庁昭和二四年(ワ)第九号)、同裁判所は、
昭和二七年一月一〇日、本件土地は真実はDの所有でなくEの所有に属するとの理
由を付し、Dの請求を棄却する判決を言い渡した。(3) Dは、右判決を不服とし
て東京高等裁判所に控訴したが(同庁昭和二七年(ネ)第三二号)、昭和二八年一
一月一九日、裁判所の和解勧試に基づき、(イ) Eは、本件土地がDの所有であ
ることを承認すること、(ロ) Dは、E及びその子孫に対し、本件土地を無償で
耕作する権利を与え、E及びその子孫をして右権利を失わしめるような一切の処分
をしないこと、(ハ) Dが死亡したときは、本件土地はE及びその相続人に対し
贈与すること、(ニ) D、E間には、本件以外の係争事件があるけれども、これ
らについても爾後互いに和協の道を講ずる意思を表明すること、(ホ) D、Eが
現に耕作している農地についての作業は相互に妨害しないこと、(ヘ) Dはその
余の請求を放棄すること、を条項とする裁判上の和解が成立した。(4) Eは昭和
三八年一二月一九日死亡し、妻である被上告人B1、子である被上告人B2、同B
3、同B4、同B5がその権利義務を承継し、Dは昭和四七年四月三〇日死亡し、
妻である被上告人B6、母である亡Fがその権利義務を承継し、更に、右Fは昭和
四九年一一月一九日死亡し、子である上告人のほか被上告人B1、同B6を除くそ
の余の被上告人らがその権利義務を承継した。
 右事実によれば、Dは、本件土地について登記名義どおりの所有権を主張して提
起した訴訟の第一審で敗訴し、その第二審で成立した裁判上の和解において、第一
審で真実の所有者であると認められたEから登記名義どおりの所有権の承認を受け
る代わりに、E及びその子孫に対して本件土地を無償で耕作する権利を与えて占有
耕作の現状を承認し、しかも、右権利を失わせるような一切の処分をしないことを
約定するとともに、Dが死亡したときは本件土地をE及びその相続人に贈与するこ
とを約定したものであつて、右のような贈与に至る経過、それが裁判上の和解でさ
れたという特殊な態様及び和解条項の内容等を総合すれば、本件の死因贈与は、贈
与者であるDにおいて自由には取り消すことができないものと解するのが相当であ
る。これと同旨の原審の判断は正当であつて、その過程に所論の違法はない。所論
引用の当裁判所の判例は、前記のような事情の存しない場合に関するものであつて、
本件とはその事案を異にするから、右のように解したからといつて右判例に反する
ものではない。論旨は、採用することができない。
 同三について
 原審は、上告人は、昭和四七年二月二五日、Dから本件土地を代金五〇万円で買
い受けたとの上告人の主張について判断するにあたり、DとEとの間の死因贈与が
Dにおいて自由に取り消し又は本件土地を他に売却等の処分をなしうるものとして
されたものとは認められないので、右主張は売買の事実につき判断を加えるまでも
なく失当であるとしている。
 しかしながら、死因贈与が贈与者において自由に取り消すことができないもので
あるかどうかと、贈与者が死因贈与の目的たる不動産を第三者に売り渡すことがで
きないかどうかとは、次元を異にする別個の問題であつて、死因贈与が自由に取り
消すことができないものであるからといつて、このことから直ちに、贈与者は死因
贈与の目的たる不動産を第三者に売り渡すことができないとか、父はこれを売り渡
しても当然に無効であるとはいえないから(受贈者と買主との関係はいわゆる二重
譲渡の場合における対抗問題によつて解決されることになる。)、原審が前記のよ
うな理由のみで売買に関する上告人の主張を排斥したことは正当でないといわなけ
ればならない。したがつて、原判決は、売買に関する民法の解釈適用を誤り、ひい
て審理不尽、理由不備の違法を犯したものといわなければならず、右違法が原判決
に影響を及ぼすことは明らかであるから、論旨は理由があり、原判決はこの点にお
いて破棄を免れない。
 よつて、Dと上告人との間の売買契約の有無及びその効力について更に審理を尽
くさせる必要があるから、本件を原審に差し戻すこととし、民訴法四〇七条一項に
従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    大   橋       進
            裁判官    木   下   忠   良
            裁判官    鹽   野   宜   慶
            裁判官    牧       圭   次

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