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平成25年4月19日判決言渡同日原本領収裁判所書記官
平成24年(ワ)第3162号意匠権侵害差止等請求事件
口頭弁論終結日平成25年2月6日
判決
千葉県船橋市<以下略>
原告株式会社ファイン
同訴訟代理人弁護士後藤健夫
同訴訟代理人弁理士吉田芳春
同補佐人弁理士吉田雅比呂
同堀越真弓
同一之瀬香子
大阪市<以下略>
被告株式会社マキノ
主文
1被告は,別紙被告製品目録記載の製品を製造し,販売し,輸入し,又は販売
の申出をしてはならない。
2被告は,別紙被告製品目録記載の製品を廃棄せよ。
3被告は,原告に対し,344万4160円及びこれに対する平成23年7月
7日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4原告のその余の請求を棄却する。
5訴訟費用はこれを4分し,その3を被告の負担とし,その1を原告の負担と
する。
6この判決は,第1項ないし第3項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1請求
1主文第1,2項に同旨
2被告は,原告に対し,725万7120円及びこれに対する平成23年7月
7日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要
1本件は,サンダルに関する意匠権(第1350689号。以下以下以下以下「「「「本件意匠本件意匠本件意匠本件意匠
権権権権」」」」というというというという。。。。)を有する原告が,被告による別紙被告製品目録記載の製品
((((以下以下以下以下「「「「被告製品被告製品被告製品被告製品」」」」というというというという。)。)。)。)の販売が本件意匠権を侵害すると主張して,
被告製品の販売等の差止めと,民法709条,意匠法39条1項に基づく損害
659万7120円及び弁護士等費用66万円の合計725万7120円及び
これに対する不法行為の終了した日である平成23年7月7日から支払済みま
で民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
2請求原因
(1)当事者
原告は家庭日用品の卸売り及び日用雑貨・アイデア商品の企画開発を主な
業務とする株式会社である。
被告は,スリッパ・サンダル・シューズの輸入及び販売・小売を主な業務
とする株式会社である。
(2)本件意匠権
原告は,以下の意匠権(本件意匠権)を有している。
登録番号第1350689号
出願日平成20年6月6日
登録年月日平成21年1月9日
意匠に係る物品サンダル
登録意匠別紙意匠公報記載のとおり((((以下以下以下以下「「「「本件意匠本件意匠本件意匠本件意匠」」」」といといといとい
うううう。)。)。)。)
(3)原告製品の製造販売
原告は,別紙原告製品目録記載のサンダル((((以下以下以下以下「「「「原告製品原告製品原告製品原告製品」」」」といといといとい
うううう。)。)。)。)を,平成20年11月27日から「NEWベランダサンダル」の名称
で製造・販売している(正確には,原告製品の名称は,「足爽快サンダル」,
「シャワーサンダル」,「NEWベランダサンダル」の順番で,名称変更さ
れて現在に至る。)。
(4)被告の行為
被告は,平成23年2月1日以降,被告製品を業として輸入し,販売して
いる。
(5)本件意匠と被告製品との対比
ア本件意匠の構成
本件意匠は部分意匠であって,意匠登録を受けようとする部分((((以下以下以下以下
「「「「当該部分当該部分当該部分当該部分」」」」というというというという。)。)。)。)は,サンダルの「サンダル台部分」である。そ
の構成は以下のとおりである。
(ア)基本的構成態様
A当該部分は,サンダル台と,前記サンダル台の前半分の両側端部に
接合され,つま先部分が開口した略半筒状の甲被部とからなるサンダ
ルの,サンダル台部分である。
Bサンダル台部分は,平面視及び底面視においては,略糸瓜形状であ
り,側面視においては,爪先からいったん下がって,土踏まず付近で
凹弧状から凸弧状に切り返され,踵に向かって徐々に厚くなる緩やか
な略波形状である。
(イ)具体的構成態様
Cサンダル台部分は,外周を形成する枠部材と,前記枠に固定され縦
横直交する縦リブ及び横リブとからなり,サンダル台部分には,表面
から底面に通じる複数の空隙部が存在する(爪先から踵への方向を
「縦」と定義する。以下,「当裁判所の判断」を含めて同じ。)。
D前記リブが直交する直交部分の表面側には,半球状突起部材が保持
されている。
E前記リブが直交する直交部分の底面側には,円板状部材が保持され
ている。
F前記円板状部材の上には,5つの三角錐状突起部材が放射状に配設
形成されている。
G前記円板状部材は,縦方向に16~17個,横方向に3~6個が,
縦横等しい所定の間隔をあけて配列されている。
H前記縦リブ及び横リブの幅は,前記半球状突起部材及び前記円板状
部材の半径以上直径未満に形成されている。
I前記枠部材は,底面のうち先端部付近,土踏まず付近及び後端部付
近を除き,横方向に17個の溝が形成されている。
イ被告製品の構成
被告製品はサンダルであり,本件意匠に係る物品「サンダル」と同一で
ある。サンダル台部分の用途及び機能も当該部分と同一であり,サンダル
全体の形態の中での位置,大きさ,範囲もほぼ同一である。被告製品の構
成は以下のとおりである。
(ア)基本的構成態様
a薄い青色のサンダルであり,サンダル台と,前記サンダル台の前半
分の両側端部に接合され,つま先部分が開口した略半筒状の甲被部と
を備える。
bサンダル台部分は,平面視及び底面視においては,略糸瓜形状であ
り,側面視においては,爪先からいったん下がって,土踏まず付近で
凹弧状から凸弧状に切り返され,踵に向かって徐々に厚くなる緩やか
な略波形状である。
(イ)具体的構成態様
cサンダル台部分は,外周を形成する枠部材と,前記枠に固定され縦
横直交する縦リブ及び横リブとからなり,サンダル台部分には,表面
から底面に通じる複数の空隙部が存在する。
d前記リブが直交する直交部分の表面側には,半球状突起部材が保持
されている。
e前記リブが直交する直交部分の底面側には,円板状部材が保持され
ている。
f前記円板状部材の上には,5つの三角錐状突起部材が放射状に配設
されている。
g前記円板状部材は,縦方向に16~17個,横方向に3~6個が,
縦横等しい所定の間隔をあけて配列されている。
h前記縦リブ及び横リブの幅は,前記半球状突起部材及び前記円板状
部材の半径以上直径未満に形成されている。
ⅰ前記枠部材は,底面のうち先端部付近及び後端部付近を除き,横方
向に20個の溝が形成されている。
ウ両意匠の対比
両意匠を対比すると,基本的構成態様について,被告製品のa及びbは,
本件意匠のA及びBと,以下の差異点1を除き,それぞれ一致している。
次に,具体的構成態様について,被告製品のcないしhは,本件意匠の
CないしHと,それぞれ一致しており,差異点は以下の差異点2である。
差異点1:本件意匠は,色彩を捨象したモノクローム写真で表現された意
匠であるのに対し,被告製品は,うすい青色である点(基本的構成態様
A)。
差異点2:本件意匠では,前記枠部材の底面のうち土踏まず付近に溝が形
成されておらず,計17個の溝を有するのに対して,被告製品では,当
該土踏まず付近にも溝が形成され,計20個の溝が形成されている点
(具体的構成態様I)。
エ類否判断
(ア)差異点1について
本件意匠のように,色彩を捨象したモノクローム写真で表現された意
匠は,いわゆる色彩の限定のない意匠であると解される。従って,色彩
の違いは意匠の類否判断に影響を与えない。また,仮に,色彩を捨象し
たモノクローム写真で表現された意匠を,無模様かつ一色の意匠である
と解するとしても,被告製品の意匠は青色の一色であるため,同一の色
彩を有する。
さらに,本件意匠を灰色の「サンダル」におけるサンダル台部分の意
匠であると解釈したとしても,サンダルの属する履物の分野においては,
同一の形状の商品に各種色彩を施したりして商品にバリエーションを持
たせることは広く一般に行われており,上記両意匠の類否判断に及ぼす
影響は微弱である。
(イ)差異点2について
土踏まず付近を除き,ほぼ全面に及ぶ領域に形成されている17本の
溝に対して,他の領域の溝と等間隔で,3本分(式:20本-17本)
の溝を土踏まず付近に追加したとしても,サンダルの属する履物の分野
における態様としてはさほど特徴的なものではなく,上記両意匠の類否
判断に及ぼす影響は微弱である。
(ウ)以上のとおり,上記差異点1及び2は,いずれも両意匠の類否判断
に及ぼす影響は微弱であり,需要者に強い印象を与えることはないのに
対して,両意匠の共通点AないしHの全てによって需要者に与える印象
は圧倒的に強い。
したがって,被告製品のサンダル台部分の形態は,本件意匠の当該部
分の形態と類似する。
(エ)以上のとおり,被告製品の意匠は,意匠に係る物品が同一であり,
当該部分における用途及び機能が同一であり,当該部分の形態が類似で
あり,かつ,当該部分の位置,大きさ,範囲がほぼ同一であるため,本
件意匠と類似する。
(6)原告の損害
ア被告製品の譲渡数量
被告は,平成23年2月1日から同年7月7日までの間,被告製品を少
なくとも3万4360足販売した。
なお,原告は平成20年11月27日から現在まで原告製品を累計約1
7万足販売しているので,前記被告による被告製品の販売個数が,原告が
販売可能であった原告製品の個数を超えるものではないことは,明らかで
ある。
イ原告製品の単位数量当たりの利益の額
原告の原告製品の販売価格は470円(消費税込み493円)であり,
控除費用(原告製品の仕入金額,運送費等)は別紙「輸入仕入原価一覧
表」のとおり214円(消費税を含めると223円)であるため,原告製
品の単位数量あたりの利益の額は,販売価格・仕入価格とも消費税抜きで
256円である。販売価格・仕入価格とも消費税込みで計算すると270
円,仕入価格を消費税込み,販売価格を消費税抜きで計算すると247円
となる。
ウ寄与率
本件意匠は,意匠に係る物品「サンダル」のサンダル台部分の部分意匠
である。しかしながら,原告製品及び被告製品においては,サンダル台部
分と甲被部分とでは,サンダル台部分が極めて特徴的な形状を有し,需要
者の購入意欲を喚起し購入を動機づける部分となっている。
被告製品のサンダルの表面積は62140mm2
,サンダル台の表面積
は47890mm2
であるから,サンダル台が全体に占める割合は約7
7%である。
してみれば,本件意匠の被告製品に対する寄与率は少なくとも75%を
下らない。
エ損害額
前記アないしウによれば,意匠法39条1項に基づく原告の損害額は,
消費税込みで計算すれば714万3444円(270円×3万4360×
0.75)であるが,少なくとも消費税抜きで計算した659万7120
円(256円×3万4360×0.75)である。
オ本件訴えを遂行するための弁護士・弁理士費用は66万円が相当であり,
この66万円は被告の侵害行為と因果関係のある損害である。
カ前記エとオを合計すると,原告の損害額は,725万7120円である。
(7)よって,原告は,被告に対し,
ア意匠法37条1項に基づき,被告製品の製造,販売,輸入,又は販売の
申出の差止め
イ同法37条2項に基づき,被告製品の廃棄
ウ民法709条,意匠法39条1項に基づき,725万7120円及びこ
れに対する不法行為終了の日である平成23年7月7日から支払済みまで
民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払
を求める。
3請求原因に対する認否
(1)原告については不知,被告については認める。
(2)認める。
(3)不知。
(4)過去に販売していたことは認めるが,現在は販売を中止している。
(5)争う。
(6)被告が,平成23年2月1日から同年7月7日までの間に,被告製品を
3万4360足販売したことは認めるが,損害額については争う。
適正な損害賠償額は,被告製品の総販売金額約340万円の1%である3
万4000円までである。
4被告の抗弁
(1)公知意匠による新規性欠如
ア登録実用新案第3062345号公報(乙1)は,平成11年に出願さ
れたものである。この公報から,本件意匠の基本的形状である,台部分に
多数の小孔を設けることは,出願人の住所地である韓国などで古くから実
施されていたものであり,また,日本でも公知技術であったことが分かる。
イ意匠登録第1334220号公報(乙2)の登録意匠は,原告自身によ
る出願であり,サンダル台部分の形状は本件意匠とよく似ている。出願日
は,本件意匠の出願より約7か月前の平成19年10月16日である。公
報の発行日は本件意匠の出願の後であるが,乙2の出願は,出願時に新規
性喪失の例外規定の適用を申請していて,権利者自身が公知にしたことを
認めている。
よって,この公報自体は公知例ではないが,権利者自身の認めた行為は
公知例であるから,これにより,本件意匠は意匠法3条1項3号により無
効にされるべきものである。
原告が主張する本件意匠と乙2の意匠の差異点1につき,両サンダルの
外周形状や側面形状はいずれもサンダルとしては一般によく見られる極め
てありふれた形状であるため,このような相違点には観者は全く意識を向
けることはない。
差異点2につき,溝の形成位置はサンダルの平面側ではなく,人目に付
かない底面側であるから,このような小さな溝の有無などは観者に完全に
無視されてしまう。
差異点3につき,周辺部以外の中央の大部分ではリブの間隔は等間隔に
形成されており,かつ,その間隔の幅も両意匠でほぼ同じであるから,周
辺部で間隔が異なっていても,通常は見過ごされてしまう。
差異点4につき,観者の注意はリブの上に載った半球状突起に向かうた
め,リブの幅の大小にまでは観者の注意は届かない。
差異点5につき,突起の大きさが異なるのは周辺部の一部だけであり,
中央の大部分の物は単一の同じ大きさであり両意匠ともほぼ同じ大きさで
あるから,このような周辺部での小さな相違は観者に無視されてしまう。
差異点6につき,周辺部では突起が小さいためその形成位置も異なって
いるが,周辺以外の大部分では突起の形成位置は両意匠共に同じであり,
通常,観者がこの相違に気付くことはない。
差異点7につき,この相違はサンダルの底面という人目に付かない部分
でのものであるから,この有無が観者に大きな印象を与えることはない。
原告の取り上げる差異点は,意匠的に見れば,いずれも細部の微細な点
に関するものであり,使用時のサンダルとして全体観察した場合には,観
者の印象を大きく変えるものではなく,両意匠に混同が生じることは明ら
かであり,両意匠は類似する。
ウ意匠登録第1350667号公報(乙3),意匠登録第1350668
号公報(乙4)は,原告自身による出願である。サンダル台部分の形状は,
本件意匠とほぼ同じである。この2出願は,本件意匠の出願より約1か月
前の平成20年5月2日に同日出願されている。公報の発行日は本件意匠
の出願の後であるが,乙3,4の出願は写真撮影での出願であるから,出
願時には製品は完成していたことになる。時間が勝負というシューズ業界
で1か月間も製品を眠らせておくなどとは通常では全く考えられず,少な
くとも,その製品を持って取引業者を回るなどの営業活動を行っていたこ
とは当然に予測でき,その時点で,その製品が公知になっていた可能性は
極めて高い。原告による秘密保持の証明がない以上,これらの意匠は公知
例と判断でき,本件意匠は意匠法3条1項1号により無効にされるべきも
のである。
(2)販売することができない事情(市場占有率)
「穴の開いたサンダル」の平成23年当時の市場占有率は,アイリスオー
ヤマ株式会社((((以下以下以下以下「「「「アイリスオーヤマアイリスオーヤマアイリスオーヤマアイリスオーヤマ」」」」というというというという。)。)。)。)と原告とで占有率の
約9割を占め,これ以外の会社の占有率は約1割であった。アイリスオーヤ
マと原告の占有率は拮抗していて,その販売数量は共に70万~100万足
程度と推察される。
5抗弁に対する原告の反論
(1)公知意匠による新規性欠如について
ア乙1について
(ア)登録実用新案第3062345号公報(乙1)に開示されている意
匠((((以下以下以下以下「「「「乙乙乙乙1111意匠意匠意匠意匠」」」」というというというという。。。。))))の基本的構成態様は以下のとおりで
ある。
1a本件意匠の当該部分に相当する部分は,サンダル台と,前記サン
ダル台の前後方向中央の両側端部に接合され,両側から履けるよう正
面視半円状かつ側面視ロート状に開口した甲被部とからなるサンダル
の,サンダル台部分である。
1bサンダル台部分は,平面視及び底面視において略小判状であり,
側面視において直線状である。
(イ)本件意匠と乙1意匠を対比すると,少なくとも以下の差異点がある。
差異点1:本件意匠では,サンダル台の前半分の両側端部に略半筒状の
甲被部が接合されるように形成されているのに対し,乙1意匠では,
サンダル台の前後方向中央の両側端部に正面視半円状かつ側面視ロー
ト状の甲被部が接合されるように形成されている点(基本的構成態様
A)。
差異点2:平面視及び底面視におけるサンダル台の形状が,本件意匠は
略糸瓜形状であるのに対し,乙1意匠は略小判状である点(基本的構
成態様B)。
差異点3:側面視におけるサンダル台の形状が,本件意匠は略波形状で
あるのに対し,乙1意匠は直線状である点(基本的構成態様B)。
上記差異点1ないし3は,両意匠の骨格にかかわる基本的構成態様に
関するものである。つまり,両意匠はその骨格自体を異にし,その美感
に与える影響は絶大であるため,その他具体的構成態様等を論ずるまで
もなく,両意匠は類似しない。
イ乙2について
(ア)意匠登録第1334220号公報(乙2)に係る意匠登録が意匠法
4条2項の適用を受けたことは認めるが,同条は,公知となった意匠と
出願に係る意匠との同一性及び類似性を適用の要件としていないことか
らすれば,本来,被告は特許庁に対して当該意匠登録の閲覧請求をして,
どのような意匠が公知となっているかを確認した上で,その公知となっ
た意匠を証拠として提出すべきである。
(イ)乙2に係る登録意匠((((以下以下以下以下「「「「乙乙乙乙2222意匠意匠意匠意匠」」」」というというというという。)。)。)。)の構成は以下
のとおりである。
基本的構成態様
2a本件意匠の当該部分に相当する部分は,サンダル台と,前記サン
ダル台の前半分の両側端部に接合され,つま先部分が開口した略半筒
状の甲被部とからなるサンダルの,サンダル台部分である。
2bサンダル台部分は,平面視及び底面視においては,かかと側が窄
まった縦長略長円形状であり,側面視においては,土踏まず付近から
踵に向かって徐々に厚くなる略矩形状である。
具体的構成態様
2c-1サンダル台部分は,外周を形成する枠部材と,前記枠に固定
され縦横直交する縦リブ及び横リブとからなり,サンダル台部分には,
表面から底面に通じる複数の空隙部が存在する。
2c-2縦リブは,中央部に3本のみ等しい間隔で固定され,横リブ
は,縦リブ同士の間隔の約2倍の間隔をあけて等間隔に固定されてい
る。
2d-1表面側には,半球状突起部材が存在する。
2d-2前記半球状突起部材は,断面視において半円状から半長円状
まで,複数の形状からなる。
2d-3前記半球状突起部材は,縦横等しい所定の間隔をあけて配列
されると共に,棒状の結束部材によって縦横両隣の半球状突起部材と
結束されている。
2d-4前記半球状突起部材は前記リブが直交する直交部分の表面側
に保持されているもの,前記縦リブ又は横リブのいずれか一方の表面
側に保持されているもの及び前記縦リブ及び横リブのいずれにも保持
されず前記結束部材のみによって保持されているものの3種類が存在
する。
2e前記リブが直交する直交部分の底面側には,前記半球状突起部材
の裏側の略半球状の空洞が視認される。
2h前記リブは,薄板状であり,その薄板の側面が地面に垂直に接す
るように配置されておりリブの幅(薄板の厚み)は前記半球状突起部
材の半径未満に形成されている。
2i前記枠部材は,細長の薄板の長手方向の端部同士が連結し,短手
方向のうち表面側の端部は枠の内側にU字状にカールして形成されて
おり,底面側には,当該薄板の側面のみが現れるように形成されてい
る。
(ウ)両意匠の対比
両意匠を対比すると,乙2意匠の2a及び2c-1は,本件意匠のA
及びCとそれぞれ一致する。また,乙2意匠の2d-1は,本件意匠の
Dのうち,表面側に半球状突起部材が存在する点において一致する。
他方,両意匠は,少なくとも以下の差異点を有する。
差異点1:本件意匠は,平面視(及び底面視)略糸瓜形状であり,側面
視略波形状であるのに対し,乙2意匠は,平面視(及び底面視)かか
と側が窄まった縦長略長円形状であり,側面視略矩形状である点(基
本的構成態様B)。
差異点2:本件意匠では,前記枠部材の底面に溝が形成されているのに
対し,乙2意匠の底面には溝が形成されていない点(具体的構成態様
I)。
差異点3:本件意匠のリブは,縦横等しい所定の間隔をあけて配列され
ているのに対し,乙2意匠では,縦リブが中央部に3本のみ等しい間
隔で固定され,横リブが縦リブ同士の間隔の約2倍の間隔をあけて等
間隔に固定され,枠部材に対して縦横等しい間隔で配置されてはいな
い点(具体的構成態様C,E及びG)。
差異点4:本件意匠のリブの幅は,前記半球状突起部材の半径以上直径
未満に形成されているのに対し,乙2意匠のリブは,薄板状であり,
その幅は前記半球状突起部材の半径未満に形成されている点(具体的
構成態様H)。
差異点5:本件意匠の半球状突起部材は,単一の形状からなるのに対し,
乙2意匠の半球状突起部材は,複数の形状からなる点(具体的構成態
様D)。
差異点6:本件意匠の半球状突起部材は,リブが直交する直交部分の表
面側に保持されているのに対し,乙2意匠の半球状突起部材は,直交
部分の表面側に保持されているもの,前記縦リブ又は横リブのいずれ
か一方の表面側に保持されているもの及び前記縦リブ及び横リブのい
ずれにも保持されず前記結束部材のみによって保持されているものの
3種類が存在する点(具体的構成態様D)。
差異点7:本件意匠は,底面側に円板状部材を備えているのに対し,乙
2意匠は,円板状部材を備えておらず,底面側からみると前記半球状
突起部材の裏側の空洞が視認される点(具体的構成態様E)。
(エ)類否判断
上記のように,両意匠は,基本的構成態様及び具体的構成態様のそれ
ぞれの一部において一致する点があるものの,差異点1ないし7に列挙
されているとおり基本的構成態様及び具体的構成態様のほとんどが異
なっており,当該差異点1ないし7は当該一致点を遥かに凌駕するもの
である。
なお,意匠の類否の判断基準時は,使用時ではなく流通過程であり,
流通過程においては底面側も需要者が認識できる状態になっている。
よって,乙2意匠は,本件意匠と明らかに非類似である。
ウ乙3,4について
乙3,4の公報の発行日は本件意匠の出願より後である。乙3,4に係
る登録意匠が公然実施されていたか否かは,被告自身が立証すべき事項で
ある。したがって,被告による意匠無効の抗弁は認められない。
(2)販売することができない事情(市場占有率)について
ア需要者が,権利者の製品の代替品・競合品であるとして許容して購入し
得るか否かは,両製品に付与されたそれぞれの美感が同一性の範囲にある
か否かにより判断される。
そうすると,意匠法39条1項ただし書で考慮され得る「市場における
代替品・競合品」とは,「市場において,美感の面からみた代替品・競合
品」を意味し,この「美感の面からみた代替品・競合品」とは,登録意匠
と同一・類似に係る製品を意味すると解するのが相当である。
アイリスオーヤマを含む他社の製品は本件意匠と非類似であり,仮に類
似するとすれば本件意匠の侵害品であり市場における適法な代替品とはい
えないから,アイリスオーヤマを含む他社の「穴の開いたサンダル」は,
意匠法39条1項ただし書で考慮すべき原告製品の「市場における代替
品・競合品」たりえない。
イ原告製品がエチレン酢酸ビニルコポリマー(EVA)製であるのに対し,
アイリスオーヤマの製品は,材質として硬いポリ塩化ビニル(PVC)製
であり,「EVA製の穴の開いたサンダル」を購入しようとする需要者が
履き心地の悪い「PVC製のサンダル」を代替品・競合品として購入する
という推論は成り立ちえない。アイリスオーヤマの製品は原告製品とは市
場が異なり,デザイン以外の事情を考慮したとしても原告製品の「代替
品・競合品」たりえない。
ウ「穴の開いたサンダル」一般における市場では,原告は,PVC製の従
来製品を含め,累計150万足程度の「穴の開いたサンダル」を販売して
おり,他方,アイリスオーヤマは原告が「PVC製の穴の開いたサンダ
ル」の市場での販売量を縮小した後に,その市場に参入してきたので,平
成23年当時ではアイリスオーヤマより原告のほうが多く販売していた。
エ被告製品の譲渡数量の一部控除が認められた場合には,原告は,その控
除数量分については意匠法39条3項を主張する。その際の実施料率は,
5%で構わない。
第3当裁判所の判断
1原告が本件意匠権を有していること,被告が被告製品を業として販売してい
たことは争いがない。
2本件意匠と被告意匠の類否について
(1)意匠部分の用途,機能,位置等
A本件意匠は,意匠に係る物品「サンダル」におけるサンダル台部分の部
分意匠である。本件意匠のサンダル台部分の用途,機能は,使用者の足を
乗せる部分であって,突起部材によって使用者の足の裏を刺激するととも
に,空隙部によって通気性・通水性を向上させるものである(甲1の意匠
公報における【意匠に係る物品の説明】)。当該部分は,サンダル台の縦
方向の中央部から前方部の両側端部に接合され,つま先部分が開口した略
半筒状の甲被部とからなるサンダルの,サンダル台部分である。
a被告製品はサンダルであり,本件意匠に係る物品「サンダル」と同一で
あり,被告製品のサンダル台部分は,本件意匠の当該部分と同様の用途及
び機能を有する。被告製品のサンダル台部分の位置,大きさ,範囲等は本
件意匠とほぼ同一である((((以下以下以下以下,,,,被告製品被告製品被告製品被告製品ののののサンダルサンダルサンダルサンダル台部分台部分台部分台部分のののの意匠意匠意匠意匠をををを
「「「「被告意匠被告意匠被告意匠被告意匠」」」」というというというという。)。)。)。)。
以上を前提として,部分意匠の類否について判断する。
(2)本件意匠及び被告意匠の構成
ア本件意匠の構成
(ア)意匠部分の基本的構成態様
B平面視及び底面視においては,略糸瓜形状であり,側面視において
は,爪先からいったん下がって,土踏まず付近で凹弧状から凸弧状に
切り返され,踵に向かって徐々に厚くなる緩やかな略波形状である。
(イ)具体的構成態様
C外周を形成する枠部材と,枠部材に固定され縦横直交する縦リブ及
び横リブとからなり,表面から底面に通じる複数の空隙部が存在する。
D前記リブが直交する直交部分の表面側には,半球状突起部材が保持
されている。
E前記リブが直交する直交部分の底面側には,円板状部材が保持され
ている。
F前記円板状部材の上には,5つの三角形状の突起部材が放射状に配
設形成されている。
G前記円板状部材は,縦方向に6列形成され,各列の円板状部材の個
数は,中央の2列が17個(以下,個数については円板状が4分の1
円程度以上視認できるものの個数で数える。),親指側の2列が枠部
材側から数えて7個と10個,小指側の2列が枠部材側から数えて5
個と16個である。前記円板状部材は,横方向に17列配列され,各
列の円板状部材の個数は3個ないし6個である。これらの円板状部材
は,縦横等しいほぼ所定の間隔をあけて配列されている。
H前記縦リブ及び横リブの前記半球状突起部材及び前記円板状部材の
間の部分の幅は,それらの部材のほぼ半径程度以上直径未満に形成さ
れている。
I前記枠部材は,底面のうち先端部付近,土踏まず付近及び後端部付
近を除き,横方向に左右各17個の溝が形成されている。
イ被告意匠の構成
(ア)意匠部分の基本的構成態様
b青色であり,平面視及び底面視においては,略糸瓜形状であり,側
面視においては,爪先からいったん下がって,土踏まず付近で凹弧状
から凸弧状に切り返され,踵に向かって徐々に厚くなる緩やかな略波
形状である。
(イ)具体的構成態様
c外周を形成する枠部材と,前記枠に固定され縦横直交する縦リブ及
び横リブとからなり,表面から底面に通じる複数の空隙部が存在する。
d前記リブが直交する直交部分の表面側には,半球状突起部材が保持
されている。
e前記リブが直交する直交部分の底面側には,円板状部材が保持され
ている。
f前記円板状部材の上には,5つの三角形状の突起部材が放射状に配
設されている。
g前記円板状部材は,縦方向に6列形成され,各列の円板状部材の個
数は,中央の2列が16個と17個,親指側の2列が枠部材側から数
えて6個と12個,小指側の2列が8個と15個である。前記円板状
部材は,横方向に17列配列され,各列の円板状部材の個数は,2個
ないし6個である。これらの円板状部材は,縦横ほぼ等しい所定の間
隔をあけて配列されている。
h前記縦リブ及び横リブの,前記半球状突起部材及び前記円板状部材
の間の部分の幅は,それらの部材のほぼ半径以上直径未満に形成され
ている。
ⅰ前記枠部材は,底面のうち先端部付近及び後端部付近を除き,横方
向に左右20個又は21個の溝が形成されている。
(3)そうすると,本件意匠と被告意匠には,以下の差異点が認められる。
差異点1:本件意匠は,色彩を捨象したモノクローム写真で表現された意匠
であるのに対し,被告意匠は青色である点(基本的構成態様B)。
差異点2:本件意匠では,円板状部材の個数が,縦列において,中央の2列
が17個,親指側の2列が枠部材側から数えて7個と10個,小指側の2
列が枠部材側から数えて5個と16個,横列において3個ないし6個であ
るのに対し,被告意匠では,縦列において,中央の2列が16個と17個,
親指側の2列が枠部材側から数えて6個と12個,小指側の2列が8個と
15個,横列において2個ないし6個である点(具体的構成態様G)。
差異点3:本件意匠では,前記枠部材の底面のうち土踏まず付近に溝が形成
されておらず,左右各17個の溝を有するのに対して,被告意匠では,当
該土踏まず付近にも溝が形成され,左右20個又は21個の溝が形成され
ている点(具体的構成態様I)。
(4)上記差異点について検討する。
差異点1については,本件意匠は色を限定していない意匠と解されるから,
実質的な差異とはいえない。
差異点2(円板状部材の個数)については,縦列,横列の列数は同じであ
り,その列の内部における個数の相違にすぎず,かつ,個数の差異の程度も
小さなものにとどまるから,看者の注意を惹くほどの差異とはいえない。
差異点3(底面の溝の数及び土踏まず部分における溝の有無)も,定型的
な模様であって,看者の注意を惹くほどの差異とはいえない。
本件意匠と被告意匠を全体的に対比しても,上方向きに突出する複数の突
起部材を所定の間隔を開けて配設し,複数の空隙部を設けるという構成自体
は公知意匠と認められるから(乙1),看者の注意はリブと突起部材及び円
板状部材のデザインに向かうものと考えられるところ,そのリブと突起部分
及び円板状部材のデザインにおいて両者は類似の美感を与えるものであり,
公知意匠を踏まえて類否につき検討しても,両意匠は類似する。
3意匠無効の抗弁について
(1)被告は,本件意匠は乙1ないし4の公知意匠と類似し,意匠法3条1項
1号,3号,48条により無効となるべきものであるから,同法41条,特
許法104条の3により原告の権利行使は許されないという趣旨の主張をす
る。
そこで,本件意匠に無効事由があるか検討する。
(2)乙1について
ア登録実用新案第3062345号公報(乙1)は,平成11年10月8
日に国内において頒布された刊行物であり,そこに開示されている意匠
(乙1意匠。スリッパ全体の意匠)の本件意匠の当該部分に相当する部分
(乙1でいう「足底部材」)の意匠(乙1でいう「スリッパ」は本件意匠
でいう「サンダル」に,「足底部材」は「サンダル台」にそれぞれ相当す
るから,以下以下以下以下,,,,「「「「乙乙乙乙1111サンダルサンダルサンダルサンダル台部分台部分台部分台部分のののの意匠意匠意匠意匠」」」」というというというという。。。。)は以下のとお
りである。
(ア)意匠部分の用途,機能,位置等
1a乙1意匠に係る物品は「スリッパ」である。乙1意匠の足底部材
(本件意匠でいう「サンダル台」に相当する部分であるため,以下,
「サンダル台」という。)の用途,機能は,使用者の足を乗せる部分
であって,刺激用指圧突起によって使用者の足裏を刺激するとともに,
通水孔によって水を通水させるものである(乙1の【請求項1】等)。
本件意匠の当該部分に相当する部分は,サンダル台と,サンダル台の
前後方向中央の両側端部に接合され,両側から履けるよう正面視半円
状かつ側面視ロート状に開口した係合バンド(本件意匠でいう「甲被
部」に相当する。)とからなるスリッパの,サンダル台部分である。
(イ)意匠部分の基本的構成態様
1bサンダル台部分は,平面視及び底面視において略小判状であり,
側面視において直線状である。
(ウ)具体的構成態様
1cサンダル台部分は,外周を構成する枠部材と刺激用指圧突起及び
刺激用指圧隆起部とから構成され,サンダル台部分には,表面から底
面に通じる複数の通水孔が存在する。
1g刺激用指圧突起は縦方向に15個~16個,横方向に5個規則正
しく配列され,土踏まず部分に1個の楕円形の刺激用指圧隆起部が配
置されている。
1hサンダル台の両側面に,係合バンドを結合する結合孔を備える固
定部が形成されている。
イ本件意匠の当該部分の用途,機能,位置等,本件意匠の構成は,前記2
(1)及び2(2)ア(ア)のとおりである。
乙1意匠の物品「スリッパ」と本件意匠の物品「サンダル」とは同一又
は類似である。乙1意匠のサンダル台部分の用途及び機能は,本件意匠と
類似する。
本件意匠と乙1サンダル台部分の意匠には,少なくとも以下の差異点が
ある。
差異点1:平面視及び底面視におけるサンダル台の形状が,本件意匠は,
前方が広がり,後方が窄まった略糸瓜形状であるのに対し,乙1サンダ
ル台部分の意匠は,前後対称の略小判状である点(基本的構成態様B)。
差異点2:側面視におけるサンダル台の形状が,本件意匠は,爪先から
いったん下がって,土踏まず付近で凹弧状から凸弧状に切り返され,踵
に向かって徐々に厚くなる緩やかな略波形状であるのに対し,乙1サン
ダル台部分の意匠は直線状である点(基本的構成態様B)。
ウ類否判断
両意匠は,差異点1において,需要者に与える美感が一見して明らかに
異なる。この差異点1のほか差異点2及び具体的構成態様においても両意
匠は異なっており,両意匠は非類似である。
(3)乙2について
ア意匠登録第1334220号公報(乙2)は,本件意匠出願後の平成2
0年6月23日に発行された意匠公報である。乙2に係る意匠出願は平成
19年10月16日であり,出願者である原告は意匠法4条2項(意匠の
新規性の喪失の例外)の申請をしていることから,乙2の出願前6か月以
内に,乙2意匠と同一又は類似の意匠を原告が公然実施又は公刊していた
ことが推認される。原告自身,訴訟前交渉においては,「出願前に販売・
広告された平成19年4月16日を公知の基準日とできる」ことを認めて
いた(甲13・2頁)。
したがって,乙2意匠は,本件意匠の出願前に公然実施された意匠と認
めるのが相当である。本件意匠の意匠公報において「意登133422
0」が参考文献として掲げられている(甲1)のも,同様の判断に基づく
ものと思われる。
イ乙2意匠(サンダル全体の意匠)の本件意匠の当該部分に相当する部分
(サンダル台部分)の意匠((((以下以下以下以下「「「「乙乙乙乙2222サンダルサンダルサンダルサンダル台部分台部分台部分台部分のののの意匠意匠意匠意匠」」」」といといといとい
うううう。)。)。)。)の構成は,以下のとおりと認められる。
(ア)意匠部分の用途,機能,位置等
2a乙2意匠に係る物品は「サンダル」であり,乙2意匠におけるサ
ンダル台部分は,本件意匠の当該部分と同様の用途及び機能を有する。
被告製品のサンダル台部分の位置,大きさ,範囲等は本件意匠とほぼ
同一である。乙2意匠における本件意匠の当該部分に相当する部分は,
サンダル台の縦方向の中央部から前方部の両側端部に接合され,つま
先部分が開口した略半筒状の甲被部とからなるサンダルの,サンダル
台部分である。
(イ)意匠部分の基本的構成態様
2bサンダル台部分は,平面視及び底面視においては,かかと側が窄
まった縦長略長円形状であり,側面視においては,土踏まず付近から
踵に向かって徐々に厚くなる略矩形状である。
(ウ)具体的構成態様
2c-1サンダル台部分は,外周を形成する枠部材と,前記枠に固定
され縦横直交する縦リブ及び横リブとからなり,サンダル台部分には,
表面から底面に通じる複数の空隙部が存在する。
2c-2縦リブは,中央部に3本のみ等しい間隔で固定され,横リブ
は,縦リブ同士の間隔の約2倍の間隔をあけて等間隔に固定されてお
り,前端及び後端のみは横リブが縦リブ同士とほぼ同間隔で配置され
ている。
2d-1表面側には,半球状突起部材が存在する。
2d-2前記半球状突起部材は,断面視において半円状から半長円状
まで,複数の形状からなる。
2d-3前記半球状突起部材は,縦横等しい所定の間隔をあけて配列
されると共に,リブが存在しない部分は棒状の結束部材によって縦横
両隣の半球状突起部材と結束されている。
2d-4前記半球状突起部材は前記リブが直交する直交部分の表面側
に保持されているもの,前記縦リブまたは横リブのいずれか一方の表
面側に保持されているもの及び前記縦リブ及び横リブのいずれにも保
持されず前記結束部材のみによって保持されているものの3種類が存
在する。
2e前記リブが直交する直交部分の底面側には,前記半球状突起部材
の裏側の略半球状の空洞が視認される。
2h前記リブは,薄板状であり,その薄板の側面が地面に垂直に接す
るように配置されておりリブの幅(薄板の厚み)は前記半球状突起部
材の半径未満に形成されている。
2i前記枠部材は,リブの細長の薄板の長手方向の端部が連結し,リ
ブの短手方向のうち表面側の端部は枠の形状に沿ってU字状にカール
して形成されており,底面側には,当該薄板の底面のみが現れるよう
に形成されている。
ウそうすると,乙2サンダル台部分の意匠と本件意匠には,以下の差異点
が認められる。
差異点1:本件意匠は,平面視(及び底面視)において,つま先側が広が
り,かかと側が窄まった略糸瓜形状であり,側面視において略波形状で
あるのに対し,乙2サンダル台部分の意匠は,平面視(及び底面視)に
おいて,かかと側が窄まった縦長略長円形状であり,側面視において,
土踏まず付近から踵に向かって徐々に厚くなる略矩形状である点(基本
的構成態様B)。
差異点2:本件意匠では,前記枠部材の底面に溝が形成されているのに対
し,乙2サンダル台部分の意匠の底面には溝が形成されていない点(具
体的構成態様I)。
差異点3:本件意匠のリブは,縦横等しい所定の間隔をあけて配列されて
いるのに対し,乙2サンダル台部分の意匠では,縦リブが中央部に3本
のみ等しい間隔で固定され,横リブが縦リブ同士の間隔の約2倍の間隔
をあけて等間隔に固定され,枠部材に対して縦横等しい間隔で配置され
てはいない点(具体的構成態様C,E及びG)。
差異点4:本件意匠のリブの幅は,前記半球状突起部材の半径以上直径未
満に形成されているのに対し,乙2サンダル台部分の意匠のリブは,薄
板状であり,その幅は前記半球状突起部材の半径未満に形成されている
点(具体的構成態様H)。
差異点5:本件意匠の半球状突起部材は,単一の形状からなるのに対し,
乙2サンダル台部分の意匠の半球状突起部材は,複数の形状からなる点
(具体的構成態様D)。
差異点6:本件意匠の半球状突起部材は,リブが直交する直交部分の表面
側に保持されているのに対し,乙2サンダル台部分の意匠の半球状突起
部材は,直交部分の表面側に保持されているもの,前記縦リブまたは横
リブのいずれか一方の表面側に保持されているもの及び前記縦リブ及び
横リブのいずれにも保持されず前記結束部材のみによって保持されてい
るもの3種類が存在する点(具体的構成態様D)。
差異点7:本件意匠は,底面側に円板状部材を備えているのに対し,乙2
サンダル台部分の意匠は,円板状部材を備えておらず,底面側からみる
と前記半球状突起部材の裏側の空洞が視認される点(具体的構成態様
E)。
(なお,差異点8として,本件意匠はモノクロームの意匠であるのに対し,
乙2意匠は全体が青透明の意匠であるが,前記のとおり,本件意匠は色を
特定しない意匠と解されるから,この差異点は実質的な差異とはいえな
い。)
エ差異点について検討する。
差異点1(サンダルの外周形状と側面形状の差異)は,看者の注意を惹
くほどの差異とはいえない。
差異点2(底面の溝の有無)も,看者の注意を惹くほどの差異とはいえ
ない。
差異点3~5(リブの間隔,突起部材の形状)は,両意匠に特徴的なリ
ブ及び突起部材の形状に関するものであるから,看者の注意を惹く差異と
認められる。特に,差異点4(リブの幅)及び差異点5(半球状突起部材
の大きさ)は,看者に与える美感に大きな影響を与えるものと認められる。
差異点6(半球状突起部材の保持方法)については,半球状突起部材の
大きさ(差異点5)は看者の注意を惹くものの,その保持方法は看者の注
意を惹くほどの差異とはいえない。
差異点7(底面側の円盤状部材の有無)については,サンダルの需要者
は流通過程において底面にも注目すると考えられるところ,底面から見れ
ば差異点7は看者の注意を惹く差異と認められる。
以上を踏まえ,乙2サンダル台部分の意匠と本件意匠を全体的に対比す
ると,上方向きに突出する複数の突起部材を所定の間隔をあけて配設し,
複数の空隙部を設けるという構成自体は公知意匠であるから(乙1),看
者の注意はリブと突起部材のデザインに向かうものであり,そこに上記差
異点3ないし5,7が存在する以上,両意匠の需要者に与える美感は異な
り,両意匠は非類似とみるのが相当である。
オしたがって,乙2サンダル台部分の意匠が公知であったとしても,本件
意匠が意匠法3条1項3号によって無効となることはない。
(4)乙3,4はいずれも本件意匠出願後の平成21年2月9日に発行された
意匠公報であり,乙3,4に係る意匠が本件意匠出願前に公然実施されたと
いうのであれば被告において立証すべきところ,そのように認めるに足りる
証拠はない。
(5)以上によれば,本件意匠出願時点における公知意匠は乙1と乙2であり,
これらと本件意匠は非類似であるから,本件意匠に新規性違反の無効事由が
あるとはいえない。
(6)したがって,被告による被告製品の販売は,原告の本件意匠権を侵害す
るものと認められる。
4損害について
(1)被告製品の譲渡数量
被告が,平成23年2月1日から同年7月7日までの間に被告製品3万4
360足を販売したことは争いがない。
(2)原告製品の単位数量当たりの利益の額
ア平成23年当時,原告がEVA製の穴開きサンダルである原告製品を販
売していたことは争いがないから,原告は,意匠法39条1項により,被
告製品の販売数量に原告製品の単位数量当たりの利益の額及び寄与率を乗
じた額をもって,原告の受けた損害の額とすることができる。
イ原告製品の1足当たりの原告の利益は,甲16ないし22,24によれ
ば,販売額が消費税込みで493円(消費税抜き470円),輸入取引費
用及び変動経費が消費税を含め223円(消費税抜き214円)であるか
ら(別紙「輸入仕入原価一覧表」参照),1足あたりの限界利益は270
円と認められる。販売価格・仕入価格とも,現実に消費税を含めた価格で
金員が支払われているのであれば,消費税込み価格をもって販売価格・仕
入価格と認めるのが相当である。
(3)本件意匠は部分意匠であり,サンダル全体に占める当該部分の割合は約
77%であるから(甲23,弁論の全趣旨),本件意匠の寄与率は75%と
認める。
(4)そうすると,原告の得べかりし利益は,3万4360足×270円×7
5%=695万7900円となる。
(5)原告の市場占有率について
乙5ないし14,弁論の全趣旨によれば,平成23年当時,「穴の開いた
サンダル」の市場は,原告とアイリスオーヤマとで市場の約9割,それ以外
の業者が約1割であり,原告とアイリスオーヤマの市場占有率はほぼ拮抗し
ていたと認めるのが相当である。
そうすると,原告の市場占有率は約45%というべきであり,被告による
被告製品の販売がなかったとしても,原告が競合品である原告製品を販売で
きたのは,被告の譲渡数量の45%にとどまるものというべきである。
すなわち,3万4360足の55%である1万8898足(382万68
45円相当)については,「譲渡数量の一部に相当する数量を意匠権者が販
売することができないとする事情」が認められるというべきである。
原告は,本件意匠の類似品でなければ競合品に当たらないとか,EVA製
サンダルでなければ競合品に当たらないとか主張するが,そのように競合品
を限定すべきとは解されない。
(6)以上によれば,原告の損害は,695万7900円から382万684
5円を控除した,313万1055円と推定される。
(7)意匠法39条1項と3項の重畳適用の可否について
原告は,市場占有率による被告製品の販売数量の一部控除が認められた場
合には,その控除数量分については意匠法39条3項を重畳適用すべきであ
ると主張する。
しかし,原告の損害は,上記意匠法39条1項による損害額の算定により
評価し尽くされているものというべきであり,これとは別個に3項による損
害の塡補を認めるべき合理的理由を見出し難い。
(8)以上によれば,意匠法39条1項による原告の損害は,313万105
5円と推定される。
(9)被告の不法行為と相当因果関係のある弁護士等費用として,上記損害の
10%である31万3105円を認める。
(10)そうすると,原告の損害は合計344万4160円となる。
5以上によれば,原告の請求は,
(1)意匠法37条1項に基づき,被告製品の製造,販売,輸入,又は販売の
申出の差止め
(2)同法37条2項に基づき,被告製品の廃棄
(3)民法709条,意匠法39条1項に基づき,344万4160円及びこ
れに対する不法行為終了の日である平成23年7月7日から支払済みまで民
法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払
を求める限度で理由があるが,その余は理由がない。
よって,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第29部
裁判長裁判官大須賀滋
裁判官小川雅敏
裁判官西村康夫

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