弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主      文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は,原告の負担とする。
          事実及び理由
第1 請求
 被告が平成14年10月1日付で原告に対してした宅地建物取引業法18条1項の
登録を消除するとの処分はこれを取り消す。
第2 事案の概要
 本件は,宅地建物取引業法(以下「法」という。)18条1項所定の宅地建物取引
主任者登録を受けていた原告が,被告が原告に対し,法68条の2第1項1号によ
り同登録の登録消除処分をしたことは,法解釈に誤りがあり,憲法22条1項の職
業の自由を侵害する違法な処分であるとして,被告に対し,上記登録消除処分の
取消しを求めた事案である。
1 前提となる事実(証拠を摘示しない事実は,当事者間に争いがない。)
(1) 原告は,平成10年1月16日,被告より法18条1項所定の宅地建物取引主任
者(以下「取引主任者」という。)登録(以下「主任者登録」という。)を受けた(甲
1。以下「本件登録」という。)。
(2) 原告は,平成14年4月5日,大田原簡易裁判所において,同年1月30日,Aと
共謀の上,Bに対して暴行を加え,加療約1週間を要する傷害を負わせた(以下
「本件傷害事件」という。)として(甲4),傷害罪により,罰金10万円の判決(以
下「本件判決」という。)を受け,同月25日,本件判決が確定した。
(3) 被告は,平成14年10月1日,原告に対し,本件判決の確定が,法68条の2第
1項1号に該当することを理由として,本件登録について消除処分(以下「本件
消除処分」という。)をし,本件処分は,同月2日,原告に到達した(甲2)。
(4) 原告は,平成14年12月2日,被告に対し,本件消除処分に対する異議申立て
をしたが,被告は,平成15年1月28日,異議申立てを棄却するとの決定をし,
同決定書は,同月30日,原告に到達した。
2 争点
 本件消除処分は,憲法22条1項所定の職業選択の自由を侵害し,違法といえる
か。
(原告の主張)
  被告は,本件判決が確定したことにより法68条の2第1項1号に該当するとし
て,本件登録を消除した。しかし,法68条の2により本件登録が消除された場合
には,5年間,主任者登録ができず(法18条),その間,原告は,取引主任者と
しての業務を行うことができないのであって,法68条の2第1項1号に該当する
ためには,被処分者において,処分に相応する帰責事由と責任とが必要であ
る。
  原告は,本件傷害事件を犯したものの,被害者の傷害の程度が軽微なもので
あること,本件傷害事件の原因は,被害者が,原告からの借入金の返済につい
て不誠実な態度をとるなどしたことにあり,原告の業務に起因するものではなく,
本件傷害事件については,原告の情状を軽減する事情が存在する。
  したがって,被告が,上記事情を考慮することなく,本件消除処分をしたことは,
憲法22条1項が保障する職業選択の自由を侵害し,法の解釈を誤った違法な
処分であり,被告に対し,本件消除処分の取消しを求める。
(被告の主張)
  法68条の2第1項は,取引主任者に同項各号所定の欠格事由が生じた場合に
は,登録を消除すべきことを規定しており,被告は,登録を受けている取引主任
者が,法18条第1項5号の2に該当する場合には,当該登録を抹消すべく,覊
束されているのであって,当該取引主任者が,同号に該当するに至ったにもか
かわらず,具体的な情状などを考慮して,登録の消除を免除するという裁量の
余地はない。
  法68条の2第1項,18条1項5号の2は,いわゆる「地上げ」等と称される悪質
かつ強引な不動産取引が社会問題化したことにより,国民の貴重な財産である
不動産の取引において,暴力団等の悪質な業者を宅地建物取引業から排除
し,国民の権利・利益を守る目的で,取引主任者の登録基準を厳格化したもの
であって,十分に合理性があり,上記規定は,職業選択の自由を不当に侵害す
る違憲の規定と評価されるべきではなく,合憲の法律に従ってなした本件消除
処分も違法ではない。
第3 争点に対する判断
1 前記前提となる事実に証拠(甲1ないし4)及び弁論の全趣旨を総合すると,原告
は,平成14年4月5日,大田原簡易裁判所において,傷害罪(刑法204条)によ
り,罰金刑に処する本件判決を受け,同月25日,本件判決が確定し,その刑の執
行が終わったこと,被告が原告に対し,法68条の2第1項1号に該当することを理
由として本件消除処分を行ったことが認められる。
 上記認定事実によれば,原告が法68条の2第1項1号,18条1項5号の2所定
の「刑法204条の罪(傷害罪)を犯したことにより,罰金の刑に処せられ,その刑の
執行を終わ」った者に該当すると認められる。
2 原告は,法68条の2第1項1号を適用し,主任者登録を消除する際には,当該取
引主任者に相応の帰責事由や責任があることが必要であり,各種事情を総合考慮
した上で登録消除を行う必要があるとして,本件処分は違法であると主張する。
しかしながら,法68条の2第1項1号,18条1項5号の2は,登録消除の処分要
件を一義的に規定している上,法68条の2第1項4号が,登録消除の要件として,
単に取引主任者の禁止事務(法68条1項各号)の1つに該当するだけでなく,その
情状が特に重いことを規定していることと比較しても,法68条の2第1項1号は,そ
の文言上,当該取引主任者が犯した犯行に関する情状の程度を要件としていない
ことが明らかである。そうすると,法68条の2第1項1号,18条1項5号の2に基づ
く登録消除処分は,覊束行為にあたり,都道府県知事は,当該取引主任者が法1
8条1項5号の2に該当する事実の存否に限って判断することになるのであって,
同号所定の事実についてその事案の軽重及びその他の情状に関して裁量を行う
余地はないと解するのが相当である。
3ところで,取引主任者に関する登録行政庁である都道府県知事は,取引主任者に
対する監督関係に基づいて登録の消除を行うところ(法18条,68条の2),法68
条の2第1項の登録消除基準について,法18条1項5号の2が,暴力事犯等につ
いて,罰金刑以上の刑に処せられた者を欠格者とすることを新たに規定して,上記
登録消除基準を厳格化した目的は,暴力団等悪質な業者を宅地建物取引業から
排除し,取引主任者の資質の向上を図ることにより,いわゆる「地上げ」等の悪質
な不動産取引から国民の利益を保護することにある。そうすると,上記目的を実現
すべく,法68条の2第1項1号,18条1項5号の2が設けられた経緯に鑑みれば,
上記のとおり,これらの規定に基づく登録消除処分が覊束行為であるとの解釈に
基づいて,被告がした本件消除処分は,憲法22条1項所定の職業選択の自由を
侵害するものでないことは明らかである。
第4 以上によれば,原告の請求は理由がないからこれを棄却することとし,主文のとお
り判決する。
宇都宮地方裁判所第1民事部
裁判長裁判官岩   田       眞
裁判官松   永   栄   治
裁判官小   河   好   美

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