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裁判例


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平成17年(行ケ)第10649号審決取消請求事件
平成18年6月20日口頭弁論終結
判決
原告アルコ・エレクトロニクス・リミテッド
訴訟代理人弁理士伊東忠彦
同湯原忠男
同大貫進介
同伊東忠重
被告特許庁長官中嶋誠
指定代理人山澤宏
同片岡栄一
同小池正彦
同大場義則
主文
1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
3この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間
を30日と定める。
事実及び理由
第1当事者の求めた裁判
1原告
(1)特許庁が不服2003-19607事件について平成17年4月8日にし
た審決を取り消す。
(2)訴訟費用は被告の負担とする。
2被告
主文1項及び2項と同旨
第2当事者間に争いのない事実
1特許庁における手続の経緯
原告は,平成10年5月1日(優先権主張:1997年5月6日,英国),
発明の名称を「複数中容量ディスク交換装置」とする特許出願(特願平10-
122557号,以下「本願」という。)をした。その後,原告は,本願に関
して,平成15年2月27日付けの拒絶理由通知を受けたので,同年6月4日
付けで本願に係る明細書を補正したが,同年7月2日付けの拒絶査定を受けた
ので,これを不服として,同年10月6日,審判を請求し,同日付けで本願に
係る明細書を補正し(以下「本件補正1」という。),更に同年11月4日付
けで本願に係る明細書を補正した(以下「本件補正2」といい,この補正後の
本願に係る明細書及び図面を「本願明細書」という。なお,本件補正1,2は,
特許請求の範囲に関しては,同一のものであるから,以下,両補正をまとめて
「本件補正」という。)。特許庁は,上記請求を不服2003-19607号
事件として審理した上,平成17年4月8日,本件補正を却下した上で,「本
件審判の請求は成り立たない。」との審決をし,その謄本は,同年4月26日,
原告に送達された。
2特許請求の範囲
(1)本件補正前の請求項1の記載は次のとおりである(以下,この発明を「本
願発明」という。)。
「【請求項1】筐体と,該筐体の外側及び内側へ摺動可能であり,夫々
の中容量ディスクを保持する座の円形列を与えるターンテーブルと,該タ
ーンテーブルの下に設けられ,該ターンテーブルの夫々の該座からディス
クを持ち上げ支持する回転支持体と該支持されたディスクを再生するレー
ザヘッドとからなる可動再生機構と,該レーザヘッドによる再生のために
該回転支持体に対して該ディスクを上から保持するよう移動可能な独立し
たホルダとからなり,該ターンテーブルによって与えられる該座は夫々の
ディスクを傾斜され重なる配置で保持するよう傾斜される,複数中容量デ
ィスク交換装置。」
(2)本件補正後の請求項1の記載は次のとおりである(以下,この発明を「本
願補正発明」という。下線部は,本件補正による補正箇所を示す。)。
「【請求項1】筐体と,該筐体の外側及び内側へ摺動可能であり,夫々
の中容量ディスクを保持する座の円形列を与えるターンテーブルと,該タ
ーンテーブルの下に設けられ,該ターンテーブルの夫々の該座からディス
クを持ち上げ支持する回転支持体と該支持されたディスクを再生するレー
ザヘッドとからなる可動再生機構と,該レーザヘッドによる再生のために
該回転支持体に対して該ディスクを上から保持するよう移動可能な独立し
たホルダとからなり,該ターンテーブルによって与えられる該座は夫々の
ディスクを傾斜され重なる配置で保持するよう傾斜され,該ホルダは,作
動位置と非作動位置との間で略垂直な軸に対して回動可能であり,該再生
機構の該回転支持体及びレーザヘッドは,上方の傾斜された作動位置と下
方の水平な非作動位置との間で略水平な軸に対して回動可能であり,該ホ
ルダ及び該再生機構の該移動は同期されており,該ホルダ及び該再生機構
の該移動は,該ホルダ及び再生機構の両方の移動のためのモータ駆動の共
通のカム部材を組み込んだ駆動機構によって生じ,該駆動機構はまた,該
カム部材を駆動すると共に該ターンテーブルを該筐体の外側及び内側へ摺
動させる,複数中容量ディスク交換装置。」
3審決の理由
別紙審決書の写しのとおりである。要するに,本願補正発明は,本願の優先
権主張日前に頒布された刊行物である特開平3-23553号公報(以下「引
用例」という。甲3)に記載された発明(以下「引用発明」という。)及び周
知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであって,特
許法29条2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができな
いから,本件補正は却下されるべきものであり,本願発明も,本願補正発明と
同様の理由により引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をする
ことができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けるこ
とができない,としたものである。
審決は,上記判断をするに当たり,引用発明の内容,本願補正発明と引用発
明との一致点・相違点を,それぞれ次のとおり認定するとともに,周知技術を
示すものとして,特開平6-4968号公報(甲4,審決における周知例1),
特開平6-314459号公報(甲5,審決における周知例2),特開平8-
339606号公報(甲6),実願平4-8620号(実開平5-59646
号)のCD-ROM(甲7),特開平3-296964号公報(甲8,審決に
おける周知例3)を例示した(以下,これらをまとめて「周知例」ということ
がある。)。
(引用発明)
「ベース14と,同一の半径位置に円形の複数のディスク載置平面11B
が設けられた回転テーブル11と,該回転テーブル11の下に設けられ,該
回転テーブルの夫々の該ディスク載置平面11Bからディスク12を持ち上
げ支持する回転軸16Aと該支持されたディスク12を再生する光ピックア
ップ17と,該回転軸16Aとでデイスク12を固定するクランパ18とか
らなり,該回転テーブル11のディスク載置平面11Bは夫々のディスク1
2を傾斜され重なる配置で保持するよう傾斜され,該ホルダは,作動位置と
非作動位置との間で昇降運動可能であり,該回転軸16A及び光ピックアッ
プ17は,上方の傾斜された作動位置と下方の非作動位置との間で昇降運動
可能である,オートチェンジャー装置」(判決注:審決書7頁12行及び2
3行の「クランパ14」との記載は,いずれも「クランパ18」の誤記と認
められる。)
(一致点)
「筐体と,夫々の中容量ディスクを保持する座の円形列を与えるターンテ
ーブルと,該ターンテーブルの下に設けられ,該ターンテーブルの夫々の該
座からディスクを持ち上げ支持する回転支持体と該支持されたディスクを再
生するレーザヘッドとからなる可動再生機構と,該レーザヘッドによる再生
のために該回転支持体に対して該ディスクを上から保持するよう移動可能な
独立したホルダとからなり,該ターンテーブルによって与えられる該座は夫
々のディスクを傾斜され重なる配置で保持するよう傾斜され,該ホルダは,
作動位置と非作動位置との間で移動可能であり,該再生機構の該回転支持体
及びレーザヘッドは,上方の傾斜された作動位置と下方の非作動位置との間
で移動可能である,複数中容量ディスク交換装置」である点。
(相違点)
ターンテーブルが,本願補正発明では筐体の外側及び内側で摺動可能であ
るのに対して,引用発明ではこのことが特には示されていない点(以下「相
違点1」という。)。
ホルダ及び再生機構の具体的な移動動作に関して,本願発明ではホルダは
略垂直な軸に対して回動可能であり,再生機構の非作動位置を下方の水平な
姿勢としているのに対して,引用発明ではホルダは昇降運動可能であり,再
生機構の非作動位置での姿勢に関しては特には示されていない点(以下「相
違点2」という。)。
ホルダの移動,再生機構の移動,及びターンテーブルの筐体の外側及び内
側での摺動のための移動機構に関して,本願発明では,ホルダ及び再生機構
は移動は同期されており,ホルダ及び再生機構の両方の移動のためのモータ
駆動の共通のカム部材を組み込んだ駆動機構によって生じ,駆動機構はまた,
カム部材を駆動すると共にターンテーブルを筐体の外側及び内側へ摺動させ
るのに対して,引用発明ではこのことが特には示されていない点(以下「相
違点3」という。)。
第3原告主張の取消事由の要点
審決は,本願補正発明と引用発明との相違点2の認定を誤り,相違点2,3
の各判断を誤った結果,本願補正発明の進歩性(独立特許要件)の判断を誤り,
その結果,本願の請求項1に係る発明の要旨認定を誤ったものであるから,違
法として取り消されるべきである。なお,審決における引用発明の内容,本願
補正発明と引用発明との一致点,相違点1,3の各認定及び相違点1の判断に
ついては,争わない。
1相違点2の認定の誤り・相違点の看過
審決は,本願補正発明と引用発明との相違点2を認定するに際し,以下の点
を看過した。
(1)審決は,引用発明では「再生機構の非作動位置での姿勢に関しては特には
示されていない」と認定したが,誤りである。引用例(甲3)の第3図のと
おり,引用発明では,本願補正発明の再生機構に相当する回転軸16Aの非
作動位置の姿勢は,傾斜したものである。
(2)本願補正発明の再生機構は,「上方の傾斜された作動位置と下方の水平な
非作動位置のとの間で略水平な軸に対して回動可能であり」,その移動動作
は,下方の水平な位置から上方の傾斜された位置まで,直線的移動ではなく,
回動しながら起き上がるものであるところ,この点は引用例(甲3)には開
示ないし示唆されていないから,本願補正発明と引用発明とは,再生機構の
非作動位置での姿勢のみならず,再生機構が回動する点においても相違する。
審決は,再生機構の移動動作に関して,非作動位置での姿勢のみに着目し,
上記の相違点を看過したものである。
2相違点2の判断の誤り
(1)引用発明では,前記1(2)のとおり,本願補正発明の再生機構に相当する
回転軸16Aの非作動位置の姿勢は傾斜しており,これをわざわざ水平とす
ることは,当業者には容易でなく,そのようにする必要性もない。
また,本願補正発明と引用発明とは,前記1(1)のとおり,再生機構が回動
する点においても相違するところ,引用発明では,再生機構に相当する回転
軸16Aの非作動位置と作動位置との間の移動は直線的であり,これをわざ
わざ回動とすることは,当業者には容易でなく,そのようにする必要性もな
い。
(2)ア本願補正発明では,上方の作動位置にあり傾斜している回転支持体に対
してディスクを上から保持するホルダもやはり傾斜しているから,ホルダ
は,傾斜した姿勢のまま,水平方向に回動する移動動作を行う。
イ引用発明(甲3)では,本願補正発明のホルダに相当するクランパ18
は,昇降移動するものであって,回動するものではない。
ウ甲7に記載された発明では,本願補正発明のホルダに相当するクランパ
ー21は,その通常の進退移動方向が図1のX2―X2’方向であるから,
回動ではなく,直線移動するものである。
被告は,クランパー21が図1のZ方向に回動する旨主張する。しかし,
Z方向は,抜き取り動作の方向であって,通常の進退方向ではないし,Z
方向は,回転体22の半径方向ではなく,斜めの方向であり,また,クラ
ンパー21は,ディスクから離れるときにだけ,回転体22のY軸方向と
同方向に回動し,ディスクに近づくときには回動しない。この点,本願補
正発明のホルダは,作動位置から非作動位置へ移動する際も,非作動位置
から作動位置へ移動する際も,回動する。
エ甲8に記載された発明では,本願補正発明のホルダに相当するクランプ
機構14は傾斜しておらず,傾斜した姿勢のまま水平方向に回動するとい
う本願補正発明のホルダの特徴は開示されていない。
オ以上のとおり,ホルダが,傾斜した姿勢のまま,作動位置と非作動位置
との間で略垂直な軸に対して,水平方向に回動可能であるという本願補正
発明の特徴は,引用例(甲3)にも,審決が周知例とした甲7,8にも,
開示ないし示唆されていないのであって,周知でもなければ,当業者が設
計時に適宜変更なし得た事項でもない。
(3)甲7,8には,ホルダの水平方向回動と再生機構の回転上昇とを組合わせ
た移動動作は開示されていないから,本願補正発明における,ホルダの水平
方向回動と再生機構の回転上昇とを組合わせた複雑な移動動作は,周知の事
項でもなく,当業者が容易になし得た事項でもない。
3相違点3の判断の誤り
(1)本願補正発明では,ホルダと再生機構とターンテーブルの三者が同期して
連動するところ,この三者の同期連動については,審決が周知例とした甲8,
4,5のいずれにも開示されておらず,周知でもなければ,当業者が設計時
に適宜変更なし得た事項でもない。
また,上記三者のうちの二者の同期連動が,甲8,4又5に記載されてい
たとしても,これらはいずれも傾斜ディスク機構ではないので,これらを引
用発明と組合わせる契機がない。
(2)甲8,4,5は,いずれも二者の駆動を同一駆動源で行うことを示しては
いるが,三者を同一の駆動源で駆動することを示していないところ,引用例
は,クランパ18とスピンドルモータ16の駆動源については,開示も示唆
もしていないから,引用例に対して,甲8,4,5の駆動機構を組合わせる
契機がない。また,甲8,4,5はいずれも,ディスクが水平に配置された
ものであり,ディスクが傾斜されている引用発明と組合わせる契機がない。
(3)本願補正発明は,ターンテーブルの摺動,並びに傾斜したディスクに対す
るホルダの水平回動及び再生機構の上下回動の異なる3種の複雑な動きを単
一のモータにより駆動するという技術思想を初めて開示したものである。
被告が主張するように,三者を同一駆動源で駆動される点が仮に周知であ
ったのであれば,それを示す単一の公知文献を示すべきである。引用例(甲
3)は,本願補正発明のホルダ及び再生機構の回動やこれらの駆動を開示も
示唆もしておらず,ターンテーブルの摺動とホルダの水平回動と再生機構の
上下回動の3種の動作をすべて開示する公知文献は,存在しない。
(4)本願補正発明の特徴の一つである「ホルダ及び再生機構の移動は同期され
ている」点は,引用例にも,周知例にも記載されていない。甲8には,本願
補正発明の特徴の一つである「ホルダ及び再生機構の移動は同期されてい
る」点,すなわち,再生機構及びホルダが同時に自己同期式に夫々の作動位
置及び非作動位置に移動する点の開示はなく,他の周知例にも開示されてい
ない。
第4被告の反論の要点
審決の認定及び判断に誤りはなく,原告の主張は理由がない。
1相違点2の認定の誤り・相違点の看過について
(1)審決が,引用発明では「再生機構の非作動位置での姿勢に関して特には示
されていない」としたのは,引用例(甲3)には再生機構の非作動位置での
姿勢が水平であるものが記載されていないことを示したにすぎず,誤りとは
いえない。
(2)審決は,本願補正発明と引用発明との間で,再生機構が作動位置と非作動
位置の間で移動する点を,回動する点をも含め,一致点とし,再生機構の具
体的な移動動作を相違点としたものである。本願補正発明と引用発明とは,
作動位置での再生機構の姿勢が傾斜している点で一致するので,非作動位置
での具体的な姿勢が決定されれば,移動動作が具体的にどのようなものであ
るかは必然的に決定されるのであるから,本願補正発明の再生機構が回動す
る点を審決が看過したとはいえない。
2相違点2の判断の誤りについて
(1)再生機構は非作動位置では再生機能を果たすものでないから,どのような
姿勢を選択するかは,他の部材との干渉や装置の仕様等を考慮して,当業者
が設計時に適宜選択なし得たものであるところ,再生機構の非作動位置での
姿勢として水平な姿勢を選択すれば,再生機構の具体的な移動動作は,水平
な状態から傾斜した状態への移動であるから,その移動は必然的に回動動作
となる。
しかるところ,複数のディスクが載置されたターンテーブルが回転する,
いわゆるロータリー式のオートチェンジャ(甲4~6,8)において,再生
機構の作動位置とターンテーブル下方の非作動位置との間の移動動作を回動
とすることは,周知の事項である。そして,本願補正発明も,再生機構はタ
ーンテーブルの下方の非作動位置から作動位置への移動動作を行うものであ
り,加えて,回動範囲を変えれば作動位置で再生機構を傾斜させ得ることは,
当業者には明らかである。
してみれば,引用発明のような傾斜ディスク機構のロータリー式のオート
チェンジャに対して,上記周知の再生機構の移動動作に回動とするものを適
用することに,何ら阻害要因は見当たらない。
さらに,再生機構の回動範囲としては,ターンテーブルの回動動作の障害
とならない範囲でなるべく狭いものを選択すべきであるから,再生機構の非
作動位置は水平な姿勢となるものでもある。
(2)甲7の段落【0006】の記載に照らせば,クランパー21はZ方向に回
動するものである。また,デイスクを変えるため,Z方向に回動されたクラ
ンパー21は,新たなディスクを保持するため,ディスク進退位置にZ方向
とは逆方向に回動されるものである。
甲8記載のオートチェンジャは,傾斜ディスク機構のいわゆるロータリー
式のオートチェンジャではないが,ホルダの具体的な移動動作として回動さ
せ得ることが記載されている。そして,ホルダの移動動作にホルダの姿勢が
影響するものではないことを考えると,甲8記載のロータリー式のオートチ
ェンジャの傾斜しないホルダの移動動作を,引用発明の傾斜したホルダに適
用することに,何ら阻害要因は見当たらない。
そして,再生機構と同様にホルダも非作動位置では何ら機能を果たすもの
ではないことから,作動位置に正確に移動が可能であれば具体的にどのよう
な移動を選択するかは,ホルダとトレイ等との干渉や装置の仕様を考慮して
当業者が設計時に適宜選択なし得た事項であり,また,上述のようにホルダ
の具体的な移動動作として回動させることは周知な事項であるから,トレイ
等の他の部材との干渉や設計仕様を考慮してホルダの具体的な移動動作とし
て略垂直な軸に回動可能とすることは,当業者が容易になし得たとの審決の
判断に何ら誤りはない。
(3)審決における相違点2の認定に誤りがないことは,前記2のとおりであり,
引用発明においても,ホルダは作動位置と非作動位置との間で,また,再生
機構も作動位置と非作動位置との間で,それぞれ移動することによってディ
スクの保持を行うものであるから,ホルダと再生機構の組合せ動作を行うも
のであることは明らかであり,ホルダ及び再生機構の具体的な移動動作は上
記のとおりであるから,原告の主張は失当である。
3相違点3の判断の誤りについて
(1)本件補正後の請求項1には,「該ホルダ及び該再生機構の該移動は同期さ
れており」との記載があるのみで,ホルダと再生機構とターンテーブルとの
三者が同期連動するとの記載はない。また,三者が連動することは,本願明
細書には何ら記載がない。ホルダと再生機構は共同してディスクを保持する
ものであるから,ホルダと再生機構が連動するものであり,また,再生機構,
ホルダ,及びターンテーブルで駆動機構の兼用が行われるのであるから,三
者で同期されるものであるとしても,ターンテーブルの出し入れと再生機構
とホルダによるディスクの保持動作は,別の動作であり,両動作が連動する
必要性はないから,三者が同期連動するという原告の主張は,誤りである。
(2)駆動源の削減は,技術分野によらない一般的な技術課題であり,一つの駆
動源でなるべく多くの機能の駆動を行わせることは,周知の技術である。例
えば,甲8には,ホルダと再生機構の二者で兼用したものが,甲4,5には,
再生機構とターンテーブルの二者で兼用したものが,それぞれ記載されてい
る。これらは,駆動源を二者について兼用させるものであるところ,可能で
あれば他の機構においても兼用させるようにすれば,更に駆動源の削減が図
られることは明らかであるから,当業者であれば,設計時に更に他の機構の
駆動が可能か考慮するものである。
(3)甲4,5記載の各技術は,ホルダが固定され,移動されないものであり,
再生機構が作動位置に移動されれば,デイスクの保持が可能なものであるか
ら,ターンテーブルの出し入れ動作とデイスクの保持動作とで駆動源の兼用
が行われたものとみることができる。また,ディスクの保持動作において,
ホルダを移動し,再生機構とホルダが連動するものにおいては,甲8のよう
に,再生機構とホルダの移動で駆動源の兼用が行われている。したがって,
ディスクの保持動作において,再生機構とホルダが連動する引用発明におい
て,ターンテーブルの出し入れ動作を可能とする際には,当然,三者で駆動
源を兼用させるものと考えられる。
(4)原告は,本願補正発明が傾斜ディスク機構であることを問題にする。しか
し,ホルダは,作動位置と非作動位置で同じ姿勢を保ったまま移動するもの
であるから,傾斜ディスク機構であることによってその姿勢が変わるとして
も,具体的な移動動作に影響するものではない。また,再生機構についても,
傾斜ディスク機構であることによって回動範囲が変わるとしても,具体的な
移動動作に影響するものでない。そして,ターンテーブルの出し入れの移動
動作に,傾斜ディスク機構であることが何ら影響しないことは明らかである。
したがって,引用発明に,甲8,4,5に示されるような技術を適用するこ
とを阻害する要因は何ら見当たらない。
第5当裁判所の判断
1相違点2の認定の誤り・相違点の看過について
(1)原告は,本願補正発明の再生機構に相当する,引用発明における回転軸1
6Aの非作動位置の姿勢は,明らかに傾斜したものであるから,引用発明で
は「再生機構の非作動位置での姿勢に関しては特には示されていない」との
審決の認定は,誤りである旨主張する。
ア本願補正発明における再生機構は,回転支持体とレーザヘッドから構成
されるものであり,引用発明における回転軸16Aと光ピックアップ17
からなるものが,これに相当することが認められる(争いがない。)。
イ引用例(甲3)には,再生機構に相当する回転軸16A及び光ピックア
ップ17の姿勢に関して,次の記載がある。
(ア)「上記トラバース21は1対のガイド軸19A,19Bと,そのガ
イド軸19A,19B上をスライド移動可能な光ピックアップ17より
なり,上記回転テーブル11の下面側からディスク載置平面11Bに対
して昇降運動可能なように上記ベース14に配設されている。……また,
スピンドルモータ16もトラバース21と同様に回転テーブル11の下
面側からディスク載置平面11Bに対して昇降運動可能なように上記ベ
ース14に配設されている。上記スピンドルモータ16,クランパ18
およびトラバース21は上記回転テーブル11がディスク交換のために
所定角度毎に回転する時,上記回転テーブル11の回転に支障のない箇
所まで後退しており,選択されたディスクに対して前進するように動作
される。上記トラバース21およびスピンドルモータ16とクランパ1
8はそれらを結ぶ直線が回転テーブル11の回転軸13に対して所定角
度だけ傾いた状態に配置されており,相対的に接近・離間するような直
線的な昇降運動を行なう。つまり,上記トラバース21およびスピンド
ルモータ16とクランパ18を結ぶ直線は回転テーブル11上に載置さ
れ選択されたディスクの回転軸中心に平行(同軸)の関係に設定されて
いる。」(3頁右下欄3行~4頁左上欄9行)
(イ)「ディスク選択の後,スピンドルモータ16の回転軸16Aや光ピ
ックアップ17を搭載したトラバース21を上昇させ,クランパ18を
下降させることにより,第4図に示すように回転テーブル11のディス
ク載置平面11Bからディスク12を持ち上げた状態でディスク12を
回転軸16Aに固定する。」(4頁左上欄14行~20行)
(ウ)「尚,上記実施例では,トラバース21およびスピンドルモータ1
6とクランパ18とを結ぶ直線が回転テーブル11の回転軸13に対し
て傾斜,つまり上記直線がディスクの回転軸中心に平行(同軸)とした
場合について説明したが,他に第5図に示すようにディスク再生時に隣
接するディスクとの間に充分なすきまを構成できるならば,ディスクは
水平状態で再生することも可能である。この場合,トラバース21およ
びスピンドルモータ16およびクランパ18は回転テーブル11の回転
軸13に対して平行で,回転テーブル11に載置したディスクの回転軸
中心に傾斜して配置される。」(4頁右上欄13行~左下欄5行)
引用例の(甲3)の上記(ア),(イ)の記載及び第3,4図によれば,引用
発明において,再生機構に相当する回転軸16A及び光ピックアップ17は,
作動位置の姿勢が,回転テーブル11の回転軸13に対して傾斜した(ディ
スクの回転軸中心に対して平行(同軸)となる)状態であって,クランパ1
8と相対的に接近・離間するように直線的昇降運動を行うものであることが
認められる。しかしながら,引用例(甲3)には,再生機構に相当する回転
軸16A及び光ピックアップ17の非作動状態時に関する記載はなく,第3
図に示される離間状態の姿勢(傾斜した状態)をもって,直ちに非作動位置
での唯一の姿勢を表したものとまではいえない。
このことは,引用例の(甲3)の上記(ウ)の記載及び第5図からも裏付け
られる。すなわち,第5図には,傾斜状態で載置されているディスクを,再
生時に水平する場合,すなわち再生機構の作動位置の姿勢を水平とする場合
が示されているが,傾斜状態で載置されているディスクを水平にする過程を
経る以上,再生機構についても,傾斜した状態における直線的昇降運動を経
た後,再生状態,すなわち水平姿勢の作動位置に移行するものであると認め
られる。そうすると,引用例(甲3)には,再生機構の姿勢を変えるための
手段が明示されていないものの,再生機構の作動位置の姿勢を水平とするこ
とが明示的に記載されているのであるから,非作動時の姿勢を水平とするこ
とも想定される範囲内であって,これが排除されているものとはいえない。
以上によれば,引用発明では再生機構の非作動位置の姿勢が傾斜したもの
であるとの原告の主張は,採用することができない。
(2)原告は,本願補正発明と引用発明とは,再生機構の非作動位置での姿勢の
みでなく,再生機構が回動するか否かという点においても相違する点を,審
決が看過した旨主張する。
本願明細書(甲2)における請求項1の「該再生機構の該回転支持体及び
レーザヘッドは,上方の傾斜された作動位置と下方の水平な非作動位置との
間で略水平な軸に対して回動可能であり」との記載によれば,本願補正発明
では,再生機構が回動するものであることが認められる。一方,引用例(甲
3)には,前記(1)のとおり,再生機構に相当する回転軸16A及び光ピック
アップ17の非作動位置での姿勢が明示されていないとしても,作動位置へ
の移動に「昇降運動」を伴うことは明らかであり,したがって,本願補正発
明と引用発明とは,再生機構の非作動位置での姿勢に加え,具体的な移動動
作においても相違するというべきである。
審決は,前記第2,3のとおり,本願補正発明と引用発明との一致点とし
て,「該ホルダは,作動位置と非作動位置との間で移動可能であ」ること,
「該再生機構の該回転支持体及びレーザヘッドは,上方の傾斜された作動位
置と下方の非作動位置との間で移動可能である」ことを認定し,相違点2と
して,「本願発明ではホルダは略垂直な軸に対して回動可能であり,再生機
構の非作動位置を下方の水平な姿勢としているのに対して,引用発明ではホ
ルダは昇降運動可能であり,再生機構の非作動位置での姿勢に関しては特に
は示されていない」ことを認定した。上記によれば,審決は,ホルダに関し
ては,作動位置と非作動位置との間で移動可能であることを一致点としつつ,
具体的な移動動作(略垂直な軸に対して回動可能であるか,昇降運動可能で
あるか)を相違点として認定していることが認められる。ところが,審決は,
再生機構に関しては,上方の傾斜された作動位置と下方の非作動位置との間
で移動可能であることを一致点としつつ,具体的な移動動作を相違として認
定していない。しかしながら,再生機構の作動位置と非作動位置との間にお
ける具体的な移動動作は,非作動位置での姿勢の具体的な認定を前提として
初めて決することができるものである。審決が,ホルダについて具体的な移
動動作を相違として認定しているのに対して再生機構についてそれをしてい
ないのは,ホルダについては非作動位置での姿勢が具体的に認定できるのに
対して,再生機構については,前記(1)において説示したとおり,非作動位置
での姿勢を一義的に認定できないからである。すなわち,審決が相違点2に
関して引用発明では「再生機構の非作動位置での姿勢に関しては特に示され
ていない」としたのは,非作動位置での姿勢が不明であることを示せば,作
動位置と非作動位置との間での具体的な移動動作が不明であることも明らか
であるためというべきである。したがって,審決の相違点2の認定に誤りが
あるとはいえない。
2相違点2の判断の誤りについて
(1)原告は,引用発明では,再生機構に相当する回転軸16Aの非作動位置は
明らかに傾斜しており,当業者が傾斜した非作動位置をわざわざ水平姿勢へ
と変化させることは容易ではなく,そのように変化させる必要性もなく,ま
た,非作動位置と作動位置との間の移動は明らかに直線的であり,当業者が
わざわざ回動移動に変化させることも容易ではなく,そのように変化させる
必要性もない旨主張する。
ア甲4には,次の記載がある。
「30はディスク演奏部であり,30aはロータリートレイ8に載置さ
れたディスク17を担持して回転するターンテーブル,30bはディス
ク17の信号を読み取る光ピックアップで,軸部30cはメカベース5
の支持部5bに,ディスク演奏部30が矢印H-I方向に回動自在なよ
うに取り付けられている。また,ピン30dは昇降ギヤ23のカム部2
3bと系合しており,昇降ギヤ23の回転によってディスク演奏部30
が矢印H-I方向に回動するようになっている。」(段落【003
5】)
「次に,ディスク17を演奏させるべく指令を出すと,図12,図13
に示すように図14(B)の状態から,まずモータ18がb方向に回転
するので昇降ギヤ23,制御ギヤ24もb方向に回転する。すると,昇
降ギヤ23のカム部23bによって系合しているディスク演奏部30の
ピン30dが移動し,ディスク演奏部30は矢印H方向に回動してター
ンテーブル30aとクランパー31との間にディスク17を担持す
る。」(段落【0056】)
イ甲5には,次の記載がある。
「ディスクトレイ2が出し入れされる奥行方向であるボックス本体1a
の後部には,光ディスク7a,7bを保持して回転動作させるための回
転駆動機構8と,この回転駆動機構8により回転駆動される光ディスク
7a,7bに対向されて当該光ディスク7a,7bよりの情報信号の読
出しを行うピックアップ装置である光学ピックアップ装置9とが配設さ
れている。このため,ディスクトレイ2の後部には略四角形をなす切欠
部2cが形成されていて,その切欠部2cには揺動部材10が挿脱可能
に配設されている。揺動部材10の後部両側部には軸部10b,10b
がそれぞれ突設されており,これら軸部10b,10bを切欠部2cの
両側部に回動自在に嵌合することにより,揺動部材10がベース部材5
に対して上下方向に揺動可能に構成されている。」(段落【003
1】)
「……これにより,傾斜摺動部37bの作用を介して揺動部材10が押
し上げられ,回転駆動機構8によって光ディスク7aがチャッキングさ
れると共に,その光ディスク7aの情報記録面に光学ピックアップ装置
9が臨むようになる(図3の状態)。」(段落【0089】)
ウ甲6には,次の記載がある。
「一方,図2に示すように,上記再生ユニット8には,図示しない光ピ
ックアップやターンテーブル9が装着されるともに,矢印X1方向側に
設けられた支軸8aにより,矢印R3-R4方向に回動可能とされてい
る。」(段落【0034】)
「……ギヤ回動体7の回動に伴ってカムユニット10を回動させること
ができ,この回動によって,立体カム溝10bに嵌合する従動突起8b
が上下動する。」(段落【0037】)
「上記において,切り欠き面10cと周面7fとが面しているときには,
上記の従動突起8bは立体カム溝10bの端面10b1側にあり,再生
ユニット8は前記下降位置にあるが,切り欠き面10dと周面7fとが
面しているときには,上記の従動突起8bが立体カム溝10bの端面1
0b2側にあり,再生ユニット8は前記上昇位置にある。」(段【00
38】)
エ甲8には,次の記載がある。
「また,再生機構(10)は,シャフト(16〉を回動中心軸として昇
降可能に支持されており,前記再生機構(10)が上昇されると,CD
用ターンテーブル(11)のCD載置面が孔(15)を介してCD載置
部(5)の上方に突出される。そして,前記再生機構(10)は,該シ
ャフト(16)の軸方向からの側面図の第2図に示す如く,CDの再生
状態時以外において,下降された状態にある。」(3頁右下欄5行~1
2行)
甲4~6,8の上記アないしエの各記載によれば,複数のディスクを載置
するターンテーブルが回転する,いわゆるロータリー式のオートチェンジャ
において,再生機構の作動位置と非作動位置との間の移動動作を略水平な軸
に対して回動するようにすることは,本願出願の優先権主張日当時,周知の
技術であったと認めるのが相当である。
確かに,甲4~6,8記載のものは,再生機構の作動位置が上方の水平姿
勢,非作動位置が下方の傾斜姿勢であるから,再生機構の作動位置が上方の
傾斜姿勢,非作動位置が下方の水平姿勢である本願補正発明とは,相違する。
しかしながら,これはディスクの載置状態の違い(傾き)によるものであ
って,回動する動作範囲の大きさ(角度)としては格別相違しないことから,
そのディスクの載置状態に応じて回動する開始位置を適宜変更すれば,上記
周知技術の再生機構においても,その作動位置を上方の傾斜姿勢とし,その
非作動位置を下方の水平姿勢とすることは,容易に認識できるところである。
引用発明は,ディスクの載置状態を傾斜させて,再生機構の作動位置を傾
斜姿勢とする点において,本願補正発明と共通しており,このような構成は,
甲7に記載されたコンパクトディスク搬送装置にも採用されている(第3
図)ところ,引用発明における再生機構の非作動位置の姿勢は具体的に認定
できないものである。しかしながら,上記に照らせば,仮に引用発明におい
て再生機構の非作動位置での姿勢が傾斜したものと認める余地があるとして
も,引用発明に上記周知の技術を適用して,再生機構を上方の傾斜された作
動位置と下方の水平な非作動位置との間で略水平な軸に対して回動可能な構
成とすることは,当業者であれば容易に想到できたことであるというべきで
ある。
原告の主張は採用することができない。
(2)ア原告は,ホルダが,傾斜した姿勢のまま,作動位置と非作動位置との間
で略垂直な軸に対して,水平方向に回動可能であるという本願補正発明の
特徴は,引用例(甲3)にも,審決が周知例とした甲7,8にも,開示な
いし示唆されていないのであって,周知でもなければ,当業者が設計時に
適宜変更なし得た事項でもない旨主張する。
イ甲7記載のコンパクトディスク搬送装置は,本願補正発明及び引用発明
と同じく,傾斜姿勢でディスクを上から保持するホルダ(クランパー2
1)を有するものであるところ,「次に,演奏が完了して次の曲に移る場
合に,別のディスクトレイ2に載置されたコンパクトディスク1が必要に
なると,クランパー21がZ方向に左回動し,そこで回転体22がクラン
パー21の進退動する位置に10枚のコンパクトディスク1の中から所望
するディスクトレイ2に載置されたコンパクトディスク1を運んで,上記
要領にて所望するコンパクトディスク1の演奏がなされることになる。」
(段落【0006】の後半部分)との記載に照らせば,ホルダ(クランパ
ー21)は,非作動時にZ方向(図1)に回動するものであって,また,
ディスク変更後に新たなディスク保持のために作動位置に回動する,即ち
Z方向矢印と逆方向(右方向)に回動することも明らかであるというべき
である。
原告は,当該クランパーの回動は傾斜したディスク面に沿った方向で,
水平方向の回動でない旨主張するが,本願明細書(甲2)に記載された本
願補正発明の実施例では,ディスクを保持する円形磁気ホルダ279はデ
ィスク面に沿った方向といえるもので,略垂直な軸に対して水平方向に回
動するのは正確にはホルダアーム270といえるところ,甲7のホルダ
(クランパー21)においても,ディスクを上から保持する部分は支持部
材を介して本体装置に配設されていることは容易に認識できることから,
それが略垂直な軸に対して水平方向に回動することを排除するものでない
ことは明らかである。要するに,甲7のホルダ(クランパー21)として,
本願明細書に記載された実施例のような回動するホルダの構成(ホルダア
ームを含めたもの)も,想定される範囲のものであることは容易に認識で
きるところといえる。
したがって,作動時に傾斜姿勢をとるホルダ(クランパー21)は,作
動位置と非作動位置との間で略垂直な軸に対して水平方向に回動するもの
と認められる。なお,甲7には,ホルダの非作動位置における姿勢につい
て明示の記載はないが,ホルダの移動動作に当たって非作動位置における
姿勢が特段の影響を及ぼすものとは認められず,また非作動位置ではホル
ダとしての保持機能を実行するものではないから,作動位置へ正確に移動
させることができるのであれば,非作動位置での姿勢及び移動動作として
どのような態様を選択するかは,当業者が設計時に適宜に選択し得る事項
というべきである。
ウ甲8に記載のオートチェンジャは,ディスクを水平載置するロータリー
式のオートチェンジャであるところ,ホルダの具体的な移動動作として,
ホルダが作動位置と非作動位置との間で同じ姿勢を保ったまま,略垂直な
軸に対して水平方向に回動するものである点において,本願補正発明と格
別相違するものではない。また,ホルダの移動動作に該ホルダの姿勢が特
段の影響を及ぼすものとも認められない。
エ上記イ及びウに照らせば,引用発明のホルダ(クランパ18)は,水平
方向に回動するものではないが,引用発明における傾斜姿勢のホルダを,
作動位置と非作動位置との間で略垂直な軸に対して水平方向に回動可能と
することは,当業者が容易に想到できたものというべきである。
(3)原告は,甲7,8には,ホルダの水平方向回動と再生機構の回転上昇とを
組合わせた移動動作は開示されていないから,本願補正発明における,ホル
ダの水平方向回動と再生機構の回転上昇とを組合わせた複雑な移動動作は,
周知な事項でもなく,当業者が容易になし得た事項でもない旨主張する。
甲8には,次の記載がある。
「再生機構(10)は,前記カム部材(42)が時計方向に回動すると,
上昇して再生位置に変位され,前記カム部材(42)が反時計方向に回動す
ると,下降して非再生位置に変位される。」(6頁左下欄11行~15行)
「クランプ機構(14)は,カム部材(42)が時計方向に回動すると,
時計方向に回動され,該カム部材(42)が反時計方向に回動すると,反時
計方向に回動される。」(6頁右下欄6行~9行)
「したがって,再生機構(10)とクランプ機構(14)とカバ一部材
(23)とは,連動して作動することになる。」(7頁左下欄3行~5行)
「カム部材(42)が時計方向に回転すると,まず,クランプ機構(1
4)が非クランプ位置からクランプ位置に変位され,その後,再生機構(1
0)が非再生位置から再生位置に変位される様に前記第1及び第2カム(4
3)及び(60)は関係付けて形成されている。その為,前記再生機構(1
0)の非再生位置から再生位置への変位が行われるときには,クランプ機構
(14)はクランプ位置に変位されており,チャッキング部材(20)がタ
ーンテーブル(11)の対向位置に変位されているので,前記再生機構(1
0)の再生位置への変位により確実にCDをCD用ターンテーブル(11)
上に圧着することが出来る。一方,カム部材(42)が反時計方向に回転す
ると,逆に,まず,再生機構(10)が再生位置から非再生位置に変位され,
その後,クランプ機構(14)がクランプ位置から非クランプ位置に変位さ
れる。すなわち,前記クランプ機構(14)の非クランプ位置への変位が行
われるとき,すでに再生機構(10)は非再生位置に変位されているので,
該再生機構(10)により前記クランプ機構(14)の非クランプ位置への
変位が妨げられることはない。また,レコード盤の再生を行う状態にするべ
く,クランプ機構(14)を非クランプ位置に変位させると,カバ一部材
(23)は再生位置にあるCD載置部(5)の孔(15)を覆う状態になり,
一方,CDの再生を行う状態にするべく,前記クランプ機構(14)をクラ
ンプ位置に変位させると,前記カバー部材(23)は前記孔(15)から外
れた状態になる。」(7頁左下欄10行~右下欄18行)
甲8の上記記載によれば,ホルダに相当するクランプ機構14の水平方向
回動と再生機構10の回転上昇とを組み合わせた移動動作が開示されている
ことは明らかであるから,原告の主張は失当である。
(4)以上によれば,引用例(甲3)には,前記1(1)で説示したとおり,再生
機構の非作動位置やクランパの非作動位置に関する記載はないが,引用発明
がディスクを交換して再生する装置である以上,クランパ(ホルダ)及び再
生機構には,それぞれ作動位置及び非作動位置が存在し,かつ,再生に当た
って,クランパ(ホルダ)及び再生機構が,作動位置と非作動位置との間で,
それぞれ連動して移動し,ディスクの保持動作及び再生動作を行うことは自
明な技術事項といえるから,引用発明も,クランパ(ホルダ)の移動と再生
機構の移動とを組み合わせた移動動作を行うものであることは明らかである。
加えて,上記(3)のとおり,ホルダの水平方向回動と再生機構の回転上昇と
を組み合わせた移動動作は本願の優先権主張日前既に知られていた技術であ
り,前記(1),(2)で説示したとおり,引用発明において,その再生機構を上
方の傾斜された作動位置と下方の水平な非作動位置との間で略水平な軸に対
して回動可能とすること,及びその傾斜姿勢のホルダ(クランパ)を作動位
置と非作動位置との間で略垂直な軸に対して水平方向に回動可能とすること
は,それぞれ容易想到であることを総合的に勘案すると,本願補正発明の相
違点2に係る構成は,当業者が容易に想到できたものというべきである。し
たがって,審決の判断に誤りがあるとはいえない。
3相違点3の判断の誤りについて
(1)原告は,相違点3に関する本願補正発明の特徴はホルダ,再生機構,ター
ンテーブルの三者が同期して連動する点にあって,甲8,4,5のいずれに
も開示はなく,周知でもなく,当業者が設計時に適宜変更なし得た事項でも
ない旨主張する。
しかし,本願明細書の請求項1の「該ホルダ及び該再生機構の該移動は同
期されており,該ホルダ及び該再生機構の該移動は,該ホルダ及び再生機構
の両方の移動のためのモータ駆動の共通のカム部材を組み込んだ駆動機構に
よって生じ,該駆動機構はまた,該カム部材を駆動すると共に該ターンテー
ブルを該筐体の外側及び内側へ摺動させる」との記載によれば,ターンテー
ブルは,「ホルダ及び再生機構の両方の移動のためのモータ駆動の共通のカ
ム部材を組み込んだ駆動機構」によって,「該カム部材を駆動すると共に」,
「筐体の外側及び内側へ摺動」されるものであり,「駆動機構」がホルダ及
び再生機構の移動とターンテーブルの摺動に兼用されるものであることが認
められるが,「ホルダ及び再生機構の移動」に加え「ターンテーブルを摺動
させる」ことについてまで,同期して連動することが示されているとはいえ
ない。
したがって,原告の上記主張は,特許請求の範囲の記載に基づかないもの
であって,採用することができない。
(2)原告は,甲8,4,5は,いずれも二者の駆動を同一駆動機構で行うこと
を示してはいるが,三者を同一の駆動機構で駆動することを示していないと
ころ,引用例は,クランパ18とスピンドルモータ16の駆動機構について
は,開示も示唆もしていないから,引用例に対して,甲8,4,5の駆動機
構を組合わせる契機がなく,さらに,甲8,4,5はいずれも,ディスクが
水平に配置されたものであり,ディスクが傾斜されている引用例と組合わせ
る契機がない旨主張する。
ア(ア)甲4には,次の記載がある。
「【請求項1】複数枚のディスクが載置可能で,該ディスクと共に
回転自在なロータリートレイと,上記ロータリートレイを回転させるロ
ータリートレイ駆動手段と,上記ロータリートレイ及び上記ロータリー
トレイ駆動手段を支持し,上記ディスクを筺体から突出させるディスク
着脱位置と上記ディスクを筺体内に収納するディスク収納位置との間を
前後方向に移動自在なトレイベースと,上記ディスクを担持し上記ディ
スクを演奏する再生位置と非再生位置との間を移動するディスク演奏部
と,上記ディスク演奏部の上記再生位置と非再生位置との間の移動と,
上記ディスク演奏部の上記非再生位置での上記トレイベースの上記前後
方向の移動及び上記ディスク演奏部の上記再生位置での上記トレイベー
スの上記前後方向の移動を,ある範囲で歯部を欠落させた欠歯歯車を有
した構成で動力伝達を切り換えながら1個のモータで行うトレイベース
移動手段」(【特許請求の範囲】)
「本発明は,上記従来の問題点に鑑み,モータ及びその駆動系の数を
増やすことなく,ディスクを演奏したままの状態で別のディスクの交換
又は取り出しが可能な,部品点数が少なく,小型化が実現でき,且つ動
作の安定したディスクローディング装置を提供することを目的としてな
されたものである。」(段落【0021】)
(イ)甲5には,次の記載がある。
「【請求項1】ピックアップ装置方向に出し入れ可能に配されたデ
ィスクトレイに,複数のディスクを周方向に収納可能なターンテーブル
を回転可能に取付けてなるディスクプレーヤ装置において,上記ディス
クトレイの出し入れ動作と,この出し入れ動作に連動して上記ピックア
ップ装置にディスクチャッキング動作をさせる第1の動作機構と,…
…」(【特許請求の範囲】)
「本発明は,このような従来の課題等に鑑みてなされたものであり,
2個のモータで従来の3個のモータを使用した場合と略同様の効果を得
ることができ,モータの制御系を簡単な構造とすることができて,組立
時の作業性を向上させて製造コストのダウンを図ることができると共に,
再生中に余分な振動をピックアップ装置に与えるおそれのないディスク
プレーヤ装置を提供することにより,上記課題を解決することを目的と
している。」(段落【0009】)
(ウ)甲6には,次の記載がある。
「【請求項1】記録ディスクを載置する複数のディスク載置面が設け
られたディスク保持テーブルと,該ディスク保持テーブルを回動可能に
支持するとともにディスク保持テーブル上にディスクを載置可能なトレ
イ全開位置とトレイ全閉位置との間を往復動する搬送トレイと,該搬送
トレイがトレイ全閉位置にあるときにディスク保持テーブル上のディス
クを再生可能とする上昇位置とディスク保持テーブルの回動を妨害しな
い下降位置との間を移動する再生ユニットとが設けられているディスク
再生装置において,搬送トレイ駆動手段と再生ユニット駆動手段とを同
一の駆動源により駆動する……」(2頁1欄【特許請求の範囲】)
「【作用】請求項1記載の構成によれば,搬送トレイの駆動と再生ユ
ニットの駆動を同一の駆動源を用いて行うとともに,搬送トレイと再生
ユニットとの駆動を切り替える瞬間を検出することにより,搬送トレイ
の駆動から再生ユニットの駆動に変わるときには,搬送トレイがトレイ
全閉位置にあることを示し,また再生ユニットの駆動から搬送トレイの
駆動に変わるときには,再生ユニットが下降位置にあることを示すこと
になる。」(段落【0025】)
「従って,搬送トレイの駆動から再生ユニットの駆動へ(その逆も含
む)の駆動の切替えが円滑に行われるとともに,上記2つの状態を検出
するために,1つのセンサーで済むので,構成が簡単になり機構の簡略
化と部品点数の削減が可能となる。」(段落【0026】)
甲4~6の上記(ア)ないし(ウ)の記載によれば,駆動機構を含めた部品
点数の削減を目的として,二者の駆動を同一駆動機構で行い,その二者の
駆動対象を再生機構の駆動とターンテーブルの摺動とするものが,周知の
技術であることが理解できる。
イ甲8の前記2(3)で引用した記載によれば,甲8には,ホルダに相当する
クランプ機構14の駆動(回動動作)と再生機構10の駆動(回動動作)
との二者の駆動が,モータ駆動の共通のカム部材42によりシーケンスと
して同期して連動すること,すなわち同一の駆動機構で行われることが開
示されており,更に,上記の二者の駆動に,CD載置部5の孔15を覆う
ためのカバー部材23の駆動を加えた三者の駆動が,モータ駆動の共通の
カム部材42によりシーケンスとして同期して連動すること,すなわち同
一の駆動機構で行われる技術思想も併せて開示されているということがで
きる。
ウホルダの駆動と再生機構の駆動とは,ディスクを交換して再生する一般
的なディスク装置において,ディスクを再生するために必ず連動して発生
する動作であることは明らかであり,いわば再生系周りの一連動作といえ
る。また,甲4~6に記載されているように,摺動機能(ローディング機
構)を有するターンテーブルを備えたディスク装置において,その駆動動
作として,再生系周りの一連動作及びターンテーブルの摺動動作(ローデ
ィング動作)が存在することは自明な事項であるところ,両者の各動作の
関連を考慮すると,必ずしも両者の動作が連動して発生する動作ではない
ことも明らかである。
エ本願補正発明と同様の傾斜ディスク機構を採用したオートチェンジャ装
置である引用発明も,複数の駆動要素を有するものであることは明らかで
あるところ,それらを駆動する駆動機構(駆動源)の削減を図ることは,
上記アで説示したように,当該技術分野に限らず,複数の駆動要素を使用
する技術分野において広く一般的な技術課題である。そして,傾斜ディス
ク機構のオートチェンジャ装置である引用発明においてターンテーブルを
摺動可能とすることは,審決の相違点1についての判断に示されるとおり
容易想到であるところ(原告もこの点を争うものではない。),そのター
ンテーブルの摺動機能を採用する際に併せて駆動機構(駆動源)の削減を
図ることも当然に考慮される技術事項であって,格別な創意工夫を必要と
するものではない。なぜなら,摺動機能(ローディング機構)を有するタ
ーンテーブルを備えた周知のディスク装置(甲4~6)は水平ディスク機
構であるところ,それが引用発明のように傾斜ディスク機構である場合に
は,スペース面の物理的影響(傾斜構造のため,よりスペースを必要とす
る)が考えられる以外,ターンテーブルの摺動動作とホルダ及び再生機構
の駆動動作(移動)とは,互いに非作動時に生じるものであって,ターン
テーブルの摺動動作とホルダ及び再生機能の駆動動作(移動)とが,互い
に互いの動作を阻害するものではなく,また,周知のディスク装置(甲4
~6)と比して新たに別個の駆動機構を設けるものでもないことから,駆
動機構(駆動源)の削減も当然に考慮される技術事項であることが容易に
認識される。
オ以上によれば,引用発明及び甲4~6,8に示されるような周知技術に
基づいて,本願補正発明の相違点3に係る構成は,当業者が容易に想到し
得たものというべきであり,原告の主張は採用することができない。
(3)原告は,本願補正発明が,ターンテーブルの摺動,並びに傾斜したディス
クに対するホルダの水平回動及び再生機構の上下回動の異なる3種の複雑な
動きを単一のモータにより駆動するという技術思想を初めて開示したもので
あるところ,これら3種の動作を全て開示している公知文献は存在しない旨
主張する。
しかしながら,本願補正発明の相違点3に係る構成が,当業者が容易に想
到することができたものであることは,上記のとおりであり,相違点3の判
断に際して,3種の動作をすべて開示している公知文献を掲げる必要がある
ものではない。原告の上記主張は採用することができない。
(4)原告は,本願補正発明の特徴の一つである「ホルダ及び再生機構の移動は
同期されている」点は,引用例にも,周知例にも記載されておらず,甲8に
も,再生機構及びホルダが同時に自己同期式に夫々の作動位置及び非作動位
置に移動する点の開示はない旨主張する。
しかしながら,本願明細書における請求項1の「該ホルダ及び該再生機構
の該移動は同期されており」との記載から,直ちに,同時に自己同期式に移
動することまでは認められない。原告の上記主張は特許請求の範囲の記載に
基づかないものであって,採用することができない。
なお,甲8に,「ホルダ及び再生機構の移動は同期されている」点が記載
されていることは,前記(2)で説示したとおりである。
4上記1ないし3で検討したとおり,本願補正発明に関する審決の判断に誤り
はないので,審決が,本件補正を却下し,本願の請求項1に係る発明の要旨と
して,本願発明を認定し,その進歩性を否定したことにも誤りはない。
5結論
以上によれば,原告主張の取消事由は理由がなく,その他,審決に,これを
取り消すべき誤りがあるとは認められない。
よって,原告の本訴請求は理由がないから,これを棄却することとし,主文
のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第3部
三村量一裁判長裁判官
古閑裕二裁判官
嶋末和秀裁判官

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激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
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ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
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