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裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人らの負担とする。   
         理    由
 上告人兼上告代理人森徹の上告理由、上告人山口邦明の上告理由及び上告人土釜
惟次の上告理由について
 一 原審の適法に確定した事実関係等によれば、第八次選挙制度審議会は、平成
二年四月、衆議院議員の選挙制度につき、従来のいわゆる中選挙区制にはいくつか
の問題があったので、これを根本的に改めて、政策本位、政党本位の新たな選挙制
度を採用する必要があるとして、いわゆる小選挙区比例代表並立制を導入すること
などを内容とする答申をし、その後の追加答申等も踏まえて内閣が作成、提出した
公職選挙法の改正案が国会において審議された結果、同六年一月に至り、公職選挙
法の一部を改正する法律(平成六年法律第二号)が成立し、その後、右法律が同年
法律第一〇号及び第一〇四号によって改正され、これらにより衆議院議員の選挙制
度が従来の中選挙区単記投票制から小選挙区比例代表並立制に改められたものであ
る。右改正後の公職選挙法(以下「改正公選法」という。)は、衆議院議員の定数
を五〇〇人とし、そのうち、三〇〇人を小選挙区選出議員、二〇〇人を比例代表選
出議員とした(四条一項)上、各別にその選挙制度の仕組みを定め、総選挙につい
ては、投票は小選挙区選出議員及び比例代表選出議員ごとに一人一票とし、同時に
選挙を行うものとしている(三一条、三六条)。このうち小選挙区選出議員の選挙
(以下「小選挙区選挙」という。)については、全国に三〇〇の選挙区を設け、各
選挙区において一人の議員を選出し(一三条一項、別表第一)、投票用紙には候補
者一人の氏名を記載させ(四六条一項)、有効投票の最多数を得た者をもって当選
人とするものとしている(九五条一項)。また、比例代表選出議員の選挙(以下「
比例代表選挙」という。)については、全国に一一の選挙区を設け、各選挙区にお
いて所定数の議員を選出し(一三条二項、別表第二)、投票用紙には一の衆議院名
簿届出政党等の名称又は略称を記載させ(四六条二項)、得票数に応じて各政党等
の当選人の数を算出し、あらかじめ届け出た順位に従って右の数に相当する当該政
党等の名簿登載者(小選挙区選挙において当選人となった者を除く。)を当選人と
するものとしている(九五条の二第一項ないし第五項)。これに伴い、各選挙への
立候補の要件、手続、選挙運動の主体、手段等についても、改正が行われた。
 本件は、改正公選法の衆議院議員選挙の仕組みに関する規定が憲法に違反し無効
であるから、これに依拠してされた平成八年一〇月二〇日施行の衆議院議員総選挙
のうち東京都選挙区における比例代表選挙は無効であると主張して提起された選挙
無効訴訟である。
 二 代表民主制の下における選挙制度は、選挙された代表者を通じて、国民の利
害や意見が公正かつ効果的に国政の運営に反映されることを目標とし、他方、政治
における安定の要請をも考慮しながら、それぞれの国において、その国の実情に即
して具体的に決定されるべきものであり、そこに論理的に要請される一定不変の形
態が存在するわけではない。我が憲法もまた、右の理由から、国会の両議院の議員
の選挙について、およそ議員は全国民を代表するものでなければならないという制
約の下で、議員の定数、選挙区、投票の方法その他選挙に関する事項は法律で定め
るべきものとし(四三条、四七条)、両議院の議員の各選挙制度の仕組みの具体的
決定を原則として国会の広い裁量にゆだねているのである。このように、国会は、
その裁量により、衆議院議員及び参議院議員それぞれについて公正かつ効果的な代
表を選出するという目標を実現するために適切な選挙制度の仕組みを決定すること
ができるのであるから、国会が新たな選挙制度の仕組みを採用した場合には、その
具体的に定めたところが、右の制約や法の下の平等などの憲法上の要請に反するた
め国会の右のような広い裁量権を考慮してもなおその限界を超えており、これを是
認することができない場合に、初めてこれが憲法に違反することになるものと解す
べきである(最高裁昭和四九年(行ツ)第七五号同五一年四月一四日大法廷判決・
民集三〇巻三号二二三頁、最高裁昭和五四年(行ツ)第六五号同五八年四月二七日
大法廷判決・民集三七巻三号三四五頁、最高裁昭和五六年(行ツ)第五七号同五八
年一一月七日大法廷判決・民集三七巻九号一二四三頁、最高裁昭和五九年(行ツ)
第三三九号同六〇年七月一七日大法廷判決・民集三九巻五号一一〇〇頁、最高裁平
成三年(行ツ)第一一一号同五年一月二〇日大法廷判決・民集四七巻一号六七頁、
最高裁平成六年(行ツ)第五九号同八年九月一一日大法廷判決・民集五〇巻八号二
二八三頁及び最高裁平成九年(行ツ)第一〇四号同一〇年九月二日大法廷判決・民
集五二巻六号一三七三頁参照)。
 三 右の見地に立って、上告理由について判断する。
 1 改正公選法八六条の二は、比例代表選挙における立候補につき、同条一項各
号所定の要件のいずれかを備えた政党その他の政治団体のみが団体の名称と共に順
位を付した候補者の名簿を届け出ることができるものとし、右の名簿の届出をした
政党その他の政治団体(衆議院名簿届出政党等)のうち小選挙区選挙において候補
者の届出をした政党その他の政治団体(候補者届出政党)はその届出に係る候補者
を同時に比例代表選挙の名簿登載者とすることができ、両選挙に重複して立候補す
る者については右名簿における当選人となるべき順位を同一のものとすることがで
きるという重複立候補制を採用している。重複立候補者は、小選挙区選挙において
当選人とされた場合には、比例代表選挙における当選人となることはできないが、
小選挙区選挙において当選人とされなかった場合には、名簿の順位に従って比例代
表選挙の当選人となることができ、後者の場合に、名簿において同一の順位とされ
た者の間における当選人となるべき順位は、小選挙区選挙における得票数の当該選
挙区における有効投票の最多数を得た者に係る得票数に対する割合の最も大きい者
から順次に定めるものとされている(同法九五条の二第三ないし第五項)。同法八
六条の二第一項各号所定の要件のうち一号、二号の要件は、同法八六条一項一号、
二号所定の候補者届出政党の要件と同一であるから、これらの要件を充足する政党
等に所属する者は小選挙区選挙及び比例代表選挙に重複して立候補することができ
るが、右政党等に所属しない者は、同法八六条の二第一項三号所定の要件を充足す
る政党その他の政治団体に所属するものにあっては比例代表選挙又は小選挙区選挙
のいずれかに、その他のものにあっては小選挙区選挙に立候補することができるに
とどまり、両方に重複して立候補することはできないものとされている。また、右
の名簿に登載することができる候補者の数は、各選挙区の定数を超えることができ
ないが、重複立候補者はこの計算上除外されるので、候補者届出政党の要件を充足
した政党等は、右定数を超える数の候補者を名簿に登載することができることとな
る(同条五項)。そして、衆議院名簿届出政党等のすることができる自動車、拡声
機、ポスターを用いた選挙運動や新聞広告、政見放送等の規模は、名簿登載者の数
に応じて定められている(同法一四一条三項、一四四条一項二号、一四九条二項、
一五〇条五項等)。さらに、候補者届出政党は、小選挙区選挙の選挙運動をするこ
とができるほか、衆議院名簿届出政党等でもある場合には、その小選挙区選挙に係
る選挙運動が同法の許す態様において比例代表選挙に係る選挙運動にわたることを
妨げないものとされている(同法一七八条の三第一項)。
 右のような改正公選法の規定をみると、立候補の機会において、候補者届出政党
に所属する候補者は重複立候補をすることが認められているのに対し、それ以外の
候補者は重複立候補の機会がないものとされているほか、衆議院名簿届出政党等の
行うことができる選挙運動の規模において、重複立候補者の数が名簿登載者の数の
制限の計算上除外される結果、候補者届出政党の要件を備えたものは、これを備え
ないものより規模の大きな選挙運動を行うことができるものとされているというこ
とができる。
 論旨は、右のような重複立候補制に係る改正公選法の規定は、重複立候補者が小
選挙区選挙で落選しても比例代表選挙で当選することができる点において、憲法前
文、四三条一項、一四条一項、一五条三項、四四条に違反し、また、重複立候補を
することができる者ないし候補者届出政党の要件を充足する政党等と重複立候補を
することができない者ないし右要件を充足しない政党等とを差別的に取り扱うもの
であり、選挙人の選挙権の十全な行使を侵害するものであって、憲法一五条一項、
三項、四四条、一四条一項、四七条、四三条一項に違反し、さらに、選挙の時点で
候補者名簿の順位が確定しないものであるから直接選挙といえず、憲法四三条一項、
一五条一項、三項に違反するなどというのである。
 2 【要旨第一】重複立候補制を採用し、小選挙区選挙において落選した者であ
っても比例代表選挙の名簿順位によっては同選挙において当選人となることができ
るものとしたことについては、小選挙区選挙において示された民意に照らせば、議
論があり得るところと思われる。しかしながら、前記のとおり、選挙制度の仕組み
を具体的に決定することは国会の広い裁量にゆだねられているところ、同時に行わ
れる二つの選挙に同一の候補者が重複して立候補することを認めるか否かは、右の
仕組みの一つとして、国会が裁量により決定することができる事項であるといわざ
るを得ない。改正公選法八七条は重複立候補を原則として禁止しているが、これは
憲法から必然的に導き出される原理ではなく、立法政策としてそのような選択がさ
れているものであり、改正公選法八六条の二第四項が政党本位の選挙を目指すとい
う観点からこれに例外を設けたこともまた、憲法の要請に反するとはいえない。重
複して立候補することを認める制度においては、一の選挙において当選人とされな
かった者が他の選挙において当選人とされることがあることは、当然の帰結である。
したがって、重複立候補制を採用したこと自体が憲法前文、四三条一項、一四条一
項、一五条三項、四四条に違反するとはいえない。
 もっとも、衆議院議員選挙において重複立候補をすることができる者は、改正公
選法八六条一項一号、二号所定の要件を充足する政党その他の政治団体に所属する
者に限られており、これに所属しない者は重複立候補をすることができないものと
されているところ、被選挙権又は立候補の自由が選挙権の自由な行使と表裏の関係
にある重要な基本的人権であることにかんがみれば、合理的な理由なく立候補の自
由を制限することは、憲法の要請に反するといわなければならない。しかしながら、
右のような候補者届出政党の要件は、国民の政治的意思を集約するための組織を有
し、継続的に相当な活動を行い、国民の支持を受けていると認められる政党等が、
小選挙区選挙において政策を掲げて争うにふさわしいものであるとの認識の下に、
第八次選挙制度審議会の答申にあるとおり、選挙制度を政策本位、政党本位のもの
とするために設けられたものと解されるのであり、政党の果たしている国政上の重
要な役割にかんがみれば、選挙制度を政策本位、政党本位のものとすることは、国
会の裁量の範囲に属することが明らかであるといわなければならない。したがって、
同じく政策本位、政党本位の選挙制度というべき比例代表選挙と小選挙区選挙とに
重複して立候補することができる者が候補者届出政党の要件と衆議院名簿届出政党
等の要件の両方を充足する政党等に所属する者に限定されていることには、相応の
合理性が認められるのであって、不当に立候補の自由や選挙権の行使を制限すると
はいえず、これが国会の裁量権の限界を超えるものとは解されない。
 そして、行うことができる選挙運動の規模が候補者の数に応じて拡大されるとい
う制度は、衆議院名簿届出政党等の間に取扱い上の差異を設けるものではあるが、
選挙運動をいかなる者にいかなる態様で認めるかは、選挙制度の仕組みの一部を成
すものとして、国会がその裁量により決定することができるものというべきである。
一般に名簿登載者の数が多くなるほど選挙運動の必要性が増大するという面がある
ことは否定することができないところであり、重複立候補者の数を名簿登載者の数
の制限の計算上除外することにも合理性が認められるから、前記のような選挙運動
上の差異を生ずることは、合理的理由に基づくものであって、これをもって国会の
裁量の範囲を超えるとはいえない。これが選挙権の十全な行使を侵害するものでな
いことも、また明らかである。したがって、右のような差異を設けたことが憲法一
五条一項、三項、四四条、一四条一項、四七条、四三条一項に違反するとはいえな
い。
 また、【要旨第二】政党等にあらかじめ候補者の氏名及び当選人となるべき順位
を定めた名簿を届け出させた上、選挙人が政党等を選択して投票し、各政党等の得
票数の多寡に応じて当該名簿の順位に従って当選人を決定する方式は、投票の結果
すなわち選挙人の総意により当選人が決定される点において、選挙人が候補者個人
を直接選択して投票する方式と異なるところはない。複数の重複立候補者の比例代
表選挙における当選人となるべき順位が名簿において同一のものとされた場合には、
その者の間では当選人となるべき順位が小選挙区選挙の結果を待たないと確定しな
いことになるが、結局のところ当選人となるべき順位は投票の結果によって決定さ
れるのであるから、このことをもって比例代表選挙が直接選挙に当たらないという
ことはできず、憲法四三条一項、一五条一項、三項に違反するとはいえない。
 3 論旨はまた、改正公選法の一三条二項及び別表第二の定める南関東選挙区の
比例代表選挙の定数と同選挙区内の同条一項及び同法別表第一の定める小選挙区選
挙の定数との合計数が五五となるのに対し、同東海選挙区のそれは五七となり、こ
の合計数でみるならば、人口の多い南関東選挙区に人口の少ない東海選挙区より少
ない定数が配分されるという逆転現象が生じており、これが憲法一四条一項、一五
条一項、三項、四四条の各規定による投票価値の平等の要請に違反するとも主張す
る。
 しかしながら、所論のように選挙区割りを異にする二つの選挙の議員定数を一方
の選挙の選挙区ごとに合計して当該選挙区の人口と議員定数との比率の平等を問題
とすることには、合理性がないことが明らかであり、比例代表選挙の無効を求める
訴訟においては、小選挙区選挙の仕組みの憲法適合性を問題とすることはできない
というほかはない。そして、比例代表選挙についてみれば、投票価値の平等を損な
うところがあるとは認められず、その選挙区割りに憲法に違反するところがあると
はいえない。したがって、改正公選法の一三条二項及び別表第二の規定が憲法一四
条一項、一五条一項、三項、四四条に違反するとは認められない。
 4 以上と同旨の原審の判断は、正当として是認することができ、原判決が憲法
前文、一三条、一四条一項、一五条一項、三項、四三条一項、四四条、四七条等に
違反するとはいえず、所論の理由の食違いの違法もない。論旨は採用することがで
きない。
 よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 山口 繁 裁判官 小野幹雄 裁判官 千種秀夫 裁判官 河合
伸一 裁判官 遠藤光男 裁判官 井嶋一友 裁判官 福田 博 裁判官 藤井正
雄 裁判官 元原利文 裁判官 金谷利廣 裁判官 北川弘治 裁判官 亀山継夫
 裁判官 奥田昌道 裁判官 梶谷 玄)

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