弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人原田鹿太郎、同長谷川太一郎の上告理由第一点について。
 所論は、原判決が本件係争地の東側隣地では、被上告人が何故に工場設備に堪え
ないかにつき説明していないから、適法な理由を附しない違法があると主張するが、
原判決は「被控訴人は本件土地を含む土地約八〇坪に従前製パン工場(敷地実測七
〇坪)を所有し来つた……被控訴人が従来通り本件土地を含む全部の土地に一括し
て適宜相当の製パン工場を建設する目的で本件土地の返還の日を待つていた」趣旨
を判示しているのであつて、これと原判文全体の趣旨よりすれば、結局所論原判示
は、東側隣地だけでは、被上告人が意図する工場設備をなしえないことを認定判示
するものと解すべきである。従つて原判決には所論理由不備の違法はない。
 同第二点について。
 被上告人が原審口頭弁論において陳述した第一審判決事実摘示には、被上告人の
主張として本件賃貸借の期間が二年である旨の記載があること明らかである。従つ
て右期間は当事者双方の主張しないところであるとの所論は採るを得ない。そして
原審挙示の証拠によれば本件賃貸借の期間を二年とする原判示を肯認し得るから、
所論は結局証拠の採否事実認定を非難するに帰し適法の上告理由とならない。
 同第三点について。
 論旨の指摘する被上告人の原審における「控訴人は本件土地で喫茶店を開業して、
a町b丁目で製造したパンを販売すれば多大の利益を収め得るとの見込を以て云々」
との主張は、上告人の原審における「喫茶店名目にしただけである……最初からパ
ン製造に使用するため本件借地権の設定を受けた」(原判決控訴人主張第一(十一)
(十七))との趣旨の主張事実を自白したことにならないのはいうをまたない、所
論は理由がない。
 同第四点について。
 所論原判示には経験則に違背する違法があるとはいえない。又上告人の原審にお
ける「神戸市内では当時一時使用の目的の賃貸借の場合にはその旨の書面上の約定
をする慣習が行われた」との主張に対しては、原判決は「右慣習あることを確認す
るに足らず」との判断を加えていること明らかであるから、この点につき判断遺脱
の違法ありとの所論はいわれなきものである。
 同第五点乃至第八点について。
 所論はいづれも原審が適法になした、証拠の採否事実認定を非難するにとどまり
上告適法の理由とならない。
 同第九点について。
 所論の原判示にいう「会社代表者個人の資力も亦会社の実質上の資力を構成する」
との趣旨は、結局会社代表者個人の経済上の信用を利用することによつて、会社の
為に金融をはかりうるものと認むべしとするに外ならないものと解せられ、表現の
方法において必ずしも正確とはいえないとしても、右原判示に所論の違法ありとは
いえない。
 同第一〇点について。
 被上告人は原審で、本件土地は二年間の期限が到来した場合に無償で地上建物を
被上告人に譲渡して土地を明渡すという条件で上告人に賃貸したものであつて、そ
の地上建物の無償譲渡は、賃借人の賃貸人に対する賃貸借の対価の一つであると主
張していること記録上明らかであり、又本件建物無償譲渡の約束があつたとの原審
認定事実は原審挙示の証拠により肯認しうるから、原判決には被上告人の主張せざ
る事項を判断した違法はないし虚無の証拠を云為する所論も理由がない。
 同第一一点について。
 原判決は、本件における建物の無償譲渡を賃貸人が賃借人に土地の使用収益をな
さしめるのに対する賃借人の対価の一つであるから、これを本件賃貸借とは別個独
立の贈与契約であると解することは出来ないとして、上告人の贈与の取消を排斥し
たものであることは判文上明らかである。而して右判示にいわゆる賃借人の対価の
一つであるとは、係争建物の無償譲渡を以て、本件土地についての賃借権設定に対
する対価として約束されたものであるとする趣旨に解せられるから、右の無償譲渡
を賃貸借契約とは縁遠い附随の条項であつて、これを切り離して自由に取消し得べ
きものであるとの上告人の所論は、原審の右判示にそわない事実を主張するに帰し
採用できない。
 同第一二点について。
 本件無償譲渡契約当時、本件建物が建築されていなかつたとしても、その後本件
建物が建築された時において目的物は特定するものであるから、本件士地明渡期限
到来と同時に、約旨により被上告人にその所有権が移転したものと判示した原判決
には何等所論の違法はない。
 同第一三点について。
 原審認定の事実によれば、上告人の権利濫用の主張を排斥した原判示は相当と認
められるから、所論は採用の限りでない。
 上告代理人原田鹿太郎、同鈴木八郎の上告理由第一点について。
 (第一)の所論は、原判決の事実認定を非難するにとどまる。
 なお原判決認定事実によれば、所論原判示は肯認し得るから、所論は理由がない。
又(第二)の(一)乃至(三)の所論事実も原審挙示の証拠により、認められるか
ら所論は理由がない。
 同第二点について。
 (1) 原判決は結局、本件建物の構造が上告人主張の如きものであつたとして
も、その他の原審認定事実を綜合して、一時使用の目的の賃貸借であると認定した
ものであるから、原判決には判断遺脱の違法はない。又(2)所論の原判示事実も
原審挙示の証拠により肯認しうるから、原判決には所論の違法はない。
 同第三点について。
 所論は証拠の採否事実の認定を非難するにとどまる。
 なお原審挙示の証拠によれば原判示事実を肯認することができる。所論は理由が
ない。
 同第四点について。
 原判決が所論上告人の主張を排斥したことは判文上明らかであるから、判断遺脱
の違法はない。
 同第五点について。
 (一)乃至(四)の所論は、本件賃貸借が一時使用の目的を以て締結されたもの
とする原判決を非難するが、原判示事実によれば判示認定は相当であつて、違法で
はない。(五)の所論については、前示原田、長谷川代理人第九点に説明したとこ
ろと同一であつて所論は採用できない。(六)の所論は原判決の違法を主張するも
のでないから理由がない。(七)の所論(1)指摘の原判文は明白な誤記と認めら
れること判決理由の全文に照し明らかであるから、原判決破毀の理由とならない。
次に所論中建物の構造に関しては前示第二点(1)に説明したとおりであり、又借
地法第九条を引用して本件につき一時使用の賃貸借でないとする所論は独自の見解
で採用できない。其他の所論は事実認定を非難するにとどまり、上告適法の理由と
ならない。
 同第六点について。
 原判決は、本件賃貸借が一時使用のために締結されたものであること明かである
場合に該当する趣旨を判示しているものと解すべきであるから、所論は採用できな
い。
 同第七点について。
 所論は原審の事実認定を非難し、かつ原審の認定に沿わない事実を前提として独
自の見解に基き原判決の違法を主張するものであるから、採用できない。
 よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のと
おり判決する。
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    小   谷   勝   重
            裁判官    藤   田   八   郎
            裁判官    河   村   大   助
            裁判官    奥   野   健   一

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