弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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       主   文
被告が原告に対し昭和三八年六月二七日付でなした原告の昭和三三年一月一日より
同年一二月三一日に至る事業年度以降の青色申告書提出承認を取消す旨の処分は、
これを取消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
       事   実
第一 当事者の求める裁判
一 請求の趣旨
主文と同旨
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
第二 当事者の主張
一 請求原因
1 原告は、自転車の卸売を業とする会社である。
2 原告は被告から青色申告書提出の承認を受けていたところ、被告は、原告に対
し、昭和三八年六月二七日付で「法人税法第二五条第八項第三号に掲げる事実に該
当する。」旨附記した通知書(甲第一号証)により、原告の昭和三三年一月一日よ
り同年一二月三一日に至る事業年度(以下、本件事業年度という。)以降の青色申
告書提出の承認を取消す旨の処分(以下、本件取消処分という。)をした。
3 そこで、原告は、昭和三八年七月二七日付で被告に対し異議申立をしたが、同
年一〇月二六日付で棄却され、さらに同年一一月二五日付で仙台国税局長に対し審
査請求をしたが、昭和四一年四月二二日付で棄却せられ、右棄却の裁決書謄本を同
年五月一五日に受領した。
4 しかし、本件取消処分には次の違法があるから、その取消を求める。
(一) 本件取消処分の通知書には、前記のような理由附記があるにとどまり、そ
の処分の基因となつた具体的事実の摘示がないから、理由不備である。
(二) 原告には、昭和四〇年法律第三四号による改正前の法人税法(以下、旧法
人税法という。)第二五条第八項第三号に該当する事実がない。
二 請求原因に対する答弁
 第1項ないし第3項は認める。第4項(一)は争う。同(二)は否認する。
三 被告の主張
1 本件取消処分は、理由附記について何ら違法はない。すなわち、旧法人税法第
二五条第九項後段には「前項の規定による承認の取消の通知をするときは、当該通
知の書面にその取消の基因となつた事実が同項各号のいずれに該当するかを附記し
なければならない」と規定されており、同項各号に該当する事実を附記しなければ
ならないとは定めておらず、取消の基因となつた具体的事実の摘示を要求していな
い。
2(一) 被告は、原告の昭和三六年一月一日より同年一二月三一日に至る事業年
度分法人税につき、原告所持の帳簿書類を調査したところ、原告が設立以来自転車
のタイヤ類を仕入れていた東京都千代田区<以下略>東全ゴム工業株式会社(以
下、訴外会社という。)からの買掛金残高と訴外会社の原告に対する請求金額との
間に著しい差異があるなどの事実が認められたため、訴外会社の所轄税務署に訴外
会社と原告との取引につき調査を嘱託するとともに、訴外会社に対しても原告との
取引内容について照会した。
(二) その結果、訴外会社においては、傘下特約店の販売活動を促進し、販路拡
張をはかる目的で、特約店に対し得意先に贈与する景品を購入する費用、得意先を
招待する費用に充てるため、景品代、歩戻金などの割戻しを行なつていたが、その
割戻額の算定基準については、訴外会社において購入商品の種類、数量に応じて定
めた算定基準表を作成し、これをあらかじめ特約店である原告に配付していただけ
でなく、訴外会社が毎月原告に送付する売上代金の請求書にも割戻金額を明示し、
これを前月残高から差引いて当月残高を算出し請求する方法をとつていた事実が判
明した。
(三) また、訴外会社では、原告に対する販売品種、数量に応じ算定基準に従つ
て計算した割戻金額を支出年月日の属する事業年度における損金として計上してお
り、その金額は次のとおりであることも認められた。
      支出年月日      景品代      歩戻金
(A) 昭和三三年三月二八日 五四六、四二〇円 三〇一、五七四円
(B) 昭和三四年三月九日 五七七、二五〇円 一九〇、九一四円
(C) 昭和三五年三月三一日 二六八、五〇〇円 三八、四四三円
(D) 昭和三六年三月三一日 五八〇、九〇〇円 九四、六八三円
(四) ところで、購入した商品等の仕入割戻金額の税務上の取扱いとしては、仕
入割戻額の算定基準が購入額または購入数量によつており、かつ、その算定基準が
契約その他の方法により明示されているため、仕入割戻しを受けるべき金額を確認
できるものについては、当該商品を購入した日の属する事業年度の総仕入高から控
除するか、または総仕入高から控除しないで益金の額に算入するかいずれかの方法
によることとされている。
(五) しかるに、原告は、訴外会社からあらかじめ明示されていた割戻しに関す
る算定基準表または原告に送付のあつた訴外会社の売上代金請求書によつて、仕入
割戻額を計算し確認することができたにもかかわらず、本件事業年度以降の各事業
年度において訴外会社の前記売上割戻額に対応して原告の総仕入高から控除すべき
仕入割戻額を当該各事業年度の会計帳簿に益金として計上していない。したがつ
て、原告が景品代および歩戻金の割戻額を除外して取引の事実の一部を隠ぺいした
ことは明瞭であり、旧法人税法第二五条第八項第三号に該当する。
四 被告の主張に対する原告の答弁
1 第1項は争う。
2 第2項(一)のうち、原告が設立以来訴外会社から自転車のタイヤ類を仕入れ
ていたことは認める。
3 同(二)のうち、訴外会社において被告主張のような目的のもとに景品代、歩
戻金などの割戻しの制度があつたことは認めるが、その余は否認する。
 景品代、歩戻金などの割戻しは、販売品種、数量、価額、特約店との緊密度、特
約店の将来性、売上代金の回収状況等の諸要素を総合勘案して訴外会社の一方的な
算定基準によつてその額が決定されるものであり、しかも、その支払時期は特約店
が現実に得意先を招待したとき、また現実に得意先に景品を交付したときである。
4 同(三)は不知。
5 同(四)は争わない。
6 同(五)は否認する。原告は、その設立当初から経営内容がかんばしくなく、
訴外会社に対して買掛金の決済が遅滞し常に多額の債務を負担していたので、訴外
会社から景品代および歩戻金の割戻しがなされるものとは全然予想しておらず、ま
た訴外会社からも割戻金の支払通知がなかつたため、原告としては割戻額を会計帳
簿に計上のしようがなかつたものである。
第三 証拠(省略)
       理   由
一 請求原因第1項ないし第3項は当事者間に争いがない。
二 本件取消処分の通知書には、取消の理由として、「法人税法第二五条第八項第
三号に掲げる事実に該当する。」と附記されているだけである。
 旧法人税法第二五条第九項後段には、「………当該通知の書面にその取消の基因
となつた事実が同項(同条第八項)各号のいずれに該当するかを附記しなければな
らない。」と規定されている。右規定の文言だけからみると、青色申告承認取消処
分の通知書には、該当条項を附記するのみで足り、取消の基因となつた具体的事実
を摘示することまでは要求していないようにもみえる。しかしながら、法が同条項
において、承認の取消通知書に右のごとき附記をしなければならないとしたのは、
青色申告承認取消は納税者に対するいわば制裁処分として、青色申告制度の特典を
剥奪するものであるから、処分庁の判断の慎重、合理性を担保してその恣意を抑制
するとともに、取消の理由を相手方に知らせることによつて、その処分に不服のあ
る者が提起する争訟における攻撃の対象を明確に特定し、不服申立に便宜を与える
趣旨であると解される。したがつて、この目的からすれば、取消処分の通知書には
取消理由として単に該当の条項を記載するだけでなく、承認取消の基因となつた具
体的事実をも摘示することを要するものというべく、前記規定は右具体的事実が附
記されることを当然の前提としているものと解するのが相当である。とくに同条第
八項第三号該当の場合には、その取消事由がきわめて概括的で具体性にとぼしいか
ら、条項の附記だけでは、納税者に対し、どのような帳簿書類にどのような取引に
関して如何なる不実の記載があると認定したのかを知らしめることはほとんど不可
能であろう。これは前記法の趣旨に反することである。そして、右の意味における
取消の理由は、通知書の記載自体において明らかにされていることを必要とし、他
の事情から納税者がその理由を推知しうると否とにはかかわりがなく、また、後日
当該処分についての異議決定書もしくは審査裁決書に記載することによつてこれを
補完することも許されないと解すべきである。
 ところで、本件取消処分の通知書には、前記のごとく単に該当条項を記載するの
みで、その基因たる具体的事実が全く摘示されていない。したがつて、右通知書は
法の要求する理由の附記が不備であり、本件取消処分は違法であるといわねばなら
ない。
三 よつて、本件取消処分の取消を求める原告の請求は、その余の点を判断するま
でもなく、理由があるから、これを認容することとし、訴訟費用の負担につき民事
訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 佐藤繁 高升五十雄 鈴木正義)

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