弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     本件を福岡高等裁判所に差し戻す。
         理    由
 上告代理人金井清吉の上告理由第一点一について
 原判決は、(1) 被上告人は、Dの長男として生れ、昭和二〇年に結婚したのち
は被上告人夫婦が主体となつてDと共に農業に従事してきたが、昭和三三年元旦に
本件各不動産の所有者であるDからいわゆる「お綱の譲り渡し」を受け、本件各不
動産の占有を取得した、(2) 右「お綱の譲り渡し」は、熊本県郡部で今でも慣習
として残つているところがあり、所有権を移転する面と家計の収支に関する権限を
譲渡する面とがあつて、その両面にわたつて多義的に用いられている、(3) 被上
告人は、右「お綱の譲り渡し」以後農業の経営とともに家計の収支一切を取りしき
り、農業協同組合に対する借入金等の名義をDから被上告人に変更し、同組合から
自己の一存で金融を得ていたほか、当初同組合からの信用を得るためその要望に応
じてD所有の山林の一部を被上告人名義に移転したりし、本件各不動産の所有権の
贈与を受けたと信じていた、(4) Dは、昭和四〇年三月一日死亡し、その子であ
る被上告人及び上告人らがDを相続した、以上の事実を認定したうえ、右事実関係
のもとでは、被上告人は、「お綱の譲り渡し」により、Dから家計の収支面の権限
にとどまらず、本件各不動産を含む財産の処分権限まで付与されていたと認められ
るものの、所有権の贈与を受けたものとまでは断じ難いが、前記のように本件各不
動産の所有権を取得したと信じたとしても無理からぬところがあるというべきであ
るとし、被上告人は本件各不動産を所有の意思をもつて占有を始めたものであり、
その占有の始め善意無過失であつたから、占有開始時より一〇年を経過した昭和四
三年一月一日本件各不動産を時効により取得したものと判断して、右時効取得を登
記原因とする被上告人の上告人らに対する本件各不動産の所有権移転登記手続の請
求を認容している。
 ところで、民法一八六条一項の規定は、占有者は所有の意思で占有するものと推
定しており、占有者の占有が自主占有にあたらないことを理由に取得時効の成立を
争う者は右占有が所有の意思のない占有にあたることについての立証責任を負うの
であるが(最高裁昭和五四年(オ)第一九号同年七月三一日第三小法廷判決・裁判
集民事一二七号三一七頁参照)、右の所有の意思は、占有者の内心の意思によつて
ではなく、占有取得の原因である権原又は占有に関する事情により外形的客観的に
定められるべきものであるから(最高裁昭和四五年(オ)第三一五号同年六月一八
日第一小法廷判決・裁判集民事九九号三七五頁、最高裁昭和四五年(オ)第二六五
号同四七年九月八日第二小法廷判決・民集二六巻七号一三四八頁参照)、占有者が
その性質上所有の意思のないものとされる権原に基づき占有を取得した事実が証明
されるか、又は占有者が占有中、真の所有者であれば通常はとらない態度を示し、
若しくは所有者であれば当然とるべき行動に出なかつたなど、外形的客観的にみて
占有者が他人の所有権を排斥して占有する意思を有していなかつたものと解される
事情が証明されるときは、占有者の内心の意思のいかんを問わず、その所有の意思
を否定し、時効による所有権取得の主張を排斥しなければならないものである。し
かるところ、原判決は、被上告人はDからいわゆる「お綱の譲り渡し」により本件
各不動産についての管理処分の権限を与えられるとともに右不動産の占有を取得し
たものであるが、Dが本件各不動産を被上告人に贈与したものとは断定し難いとい
うのであつて、もし右判示が積極的に贈与を否定した趣旨であるとすれば、右にい
う管理処分の権限は所有権に基づく権限ではなく、被上告人は、D所有の本件各不
動産につき、実質的にはDを家長とする一家の家計のためであるにせよ、法律的に
は同人のためにこれを管理処分する権限を付与されたにすぎないと解さざるをえな
いから、これによつて被上告人がDから取得した本件各不動産の占有は、その原因
である権原の性質からは、所有の意思のないものといわざるをえない。また、原判
決の右判示が単に贈与があつたとまで断定することはできないとの消極的判断を示
したにとどまり、積極的にこれを否定した趣旨ではないとすれば、占有取得の原因
である権原の性質によつて被上告人の所有の意思の有無を判定することはできない
が、この場合においても、Dと被上告人とが同居中の親子の関係にあることに加え
て、占有移転の理由が前記のようなものであることに照らすと、その場合における
被上告人による本件各不動産の占有に関し、それが所有の意思に基づくものではな
いと認めるべき外形的客観的な事情が存在しないかどうかについて特に慎重な検討
を必要とするというべきところ、被上告人がいわゆる「お綱の譲り渡し」を受けた
のち家計の収支を一任され、農業協同組合から自己の一存で金員を借り入れ、その
担保とする必要上D所有の山林の一部を自己の名義に変更したことがあるとの原判
決挙示の事実は、いずれも必ずしも所有権の移転を伴わない管理処分権の付与の事
実と矛盾するものではないから、被上告人の右占有の性質を判断する上において決
定的事情となるものではなく、かえつて、右「お綱の譲り渡し」後においても、本
件各不動産の所有権移転登記手続はおろか、農地法上の所有権移転許可申請手続さ
えも経由されていないことは、被上告人の自認するところであり、また、記録によ
れば、Dは右の「お綱の譲り渡し」後も本件各不動産の権利証及び自己の印鑑をみ
ずから所持していて被上告人に交付せず、被上告人もまた家庭内の不和を恐れてD
に対し右の権利証等の所在を尋ねることもなかつたことがうかがわれ、更に審理を
尽くせば右の事情が認定される可能性があつたものといわなければならないのであ
る。そして、これらの占有に関する事情が認定されれば、たとえ前記のような被上
告人の管理処分行為があつたとしても、被上告人は、本件各不動産の所有者であれ
ば当然とるべき態度、行動に出なかつたものであり、外形的客観的にみて本件各不
動産に対するDの所有権を排斥してまで占有する意思を有していなかつたものとし
て、その所有の意思を否定されることとなつて、被上告人の時効による所有権取得
の主張が排斥される可能性が十分に存するのである。しかるに原審は、前記のよう
な事実を認定したのみで、それ以上格別の理由を示すことなく、また、さきに指摘
した点等について審理を尽くさないまま、被上告人による本件各不動産の占有を所
有の意思によるそれであるとし、被上告人につき時効によるその所有権の取得を肯
定しているのであつて、原判決は、所有の意思に関する法令の解釈適用を誤り、ひ
いて審理不尽ないし理由不備の違法をおかしたものというべく、右の違法が判決の
結論に影響を及ぼすことは明らかである。論旨は右の趣旨をいう点において理由が
あり、原判決は破棄を免れない。そして、本件については、更に審理を尽くさせる
のが相当であるから、これを原審に差し戻すこととする。
 よつて、民訴法四〇七条一項に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判
決する。
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    中   村   治   朗
            裁判官    団   藤   重   光
            裁判官    藤   崎   萬   里
            裁判官    谷   口   正   孝
            裁判官    和   田   誠   一

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