弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
         理    由
 弁護人鍛治利一、同星清の上告趣意第一点について。
 原判決は、所論のごとく、被告人は昭和二一年九月ごろから昭和二二年八月ごろ
までの間七回にわたり同村の米の生産者A外六名からそれぞれその生産したうるち
精米合計五石六斗及びもち精米四斗を代金総計一三〇〇〇円で買受けたものと判示
し、所論のごとくその証拠として被告人の原審公判における判示と同趣旨の供述と
A、B、C、D、E、Fのそれぞれ提出した始末書と題する各書面及びGの提出し
た米穀売渡明細上申書と題する書面を通じて判示に照応する米の売渡事実の記載を
綜合してこれを認定したものである。従つて、右判示にA外六名とあるのは、その
挙示した書証の名義人たるA、B、C、D、E、F及びGの七名を指すものである
こと明白である。そして本件記録によれば右証拠として挙示した被告人の原審公判
廷における供述とは、原審第一回公判における被告人の本件記録第三六丁米穀買受
明細上申書の通り買受けたに相違ありませんとの供述を指すものであることも所論
のとおりである。そして、右上申書には、その買先として「H、I、J、K、L、
M、N、」の七名の記載があつてGなる氏名の記載がないことも所論のとおりであ
る。しかしGを除く前記各書証の名義人の表示として「O事P妻A」「Q事R妻B」
「S事D」「K事T妻C」「M事E」「N事UF」と記載せられてあるから右上申
書中の「L」とある以外は買先人が明瞭である点並びに本件精米中もち精米の買受
は右上申書中の買受先「L」とある分だけであつて、しかも、G提出の明細上申書
のみにもち米を売渡した旨の記載あつて他の始末書にはすべてうるち精米を売渡し
た旨の記載あるに過ぎない点等を参酌すれば前示上申書中に「L」とあるはGを指
すものであることを肯認し得られるから原判決が前示証拠によつて判示売主を認め
たのは所論のように採証の法則に違反した違法ありといえない。
 また、犯罪の日時は、主として犯行を特定する事項たるに過ぎないから、特にこ
れを認めた証拠を挙示せねばならぬものではなく、従つて、これに対する証拠上の
非難は採るを得ない。しかのみならず前記買受明細上申書中にはJ、K、Lより買
受けた分については買受年月日の記載がないこと所論のとおりであるがD名義の始
末書には昭和二二年二月中旬、K事T妻Cの始末書には、同年同月下旬、右Lと認
むべきGの上申書には、同二一年一二月下旬とそれぞれ記載され、また、所論N事
UFの始末書には、売渡年月日の記載はないが前記明細上申書中のNの年月日欄に
昭和二二年九月の記載が存するから原判決の説明したようにこれらの証拠を彼此綜
合すれば原判示の買受日時を肯認することもできるからこれらの点に対する所論も
当らない。論旨はすべて採るを得ない。
  同第二点について。
  しかし、刑の執行猶予を言渡すべきか否かは、刑の言渡を為すべき裁判所の任
意事項であるから、原審が諸般の事情を勘案してこれを言渡すを相当としなかつた
からと言つて違法なりと言うことはできない。論旨は、その理由がない。
  同第三点について。
  しかし、刑訴応急措置法第一二条第一項の規定は所論憲法第三七条第二項に基
き、所論証人の供述代用書についてもその証人に対する反対訊問の機会を被告人に
与えようとする趣旨の規定であつて、これを与へまいとする反対趣旨の規定ではな
い。されば同規定は被告人の意思に従い被告人の請求があるときは、その機会を与
うべく、被告人の請求がなければ被告人に書類の供述者又は作成者を訊問する機会
を与えなくともこれを証拠とすることを妨げない趣旨であつて、被告人が供述者又
は作成者に対し反対訊問をすることを欲するときは何時でもその機会を与えられた
き旨の請求をすることによりこれを為し得るのであるから何等所論の憲法規定に反
するものではない。(昭和二三年(れ)第二九四号同年七月二九日大法廷判決参照)
そして本件では原審において被告人並びに弁護人は所論始末書又は上申書について
その作成者の訊問請求をしなかつたのであるからこれが供述者又は作成者を訊問す
る機会を被告人に与えないで右書証を証拠としたからと言つて所論の違法があると
はいえない。本論旨もその理由がない。
  同第四点について。
  しかし、食糧管理法施行令第一〇条の二にいわゆる生産者とは、同条制定の趣
旨に照らし同条の適用については、名義上供出義務者たる生産者のみを言うもので
はなく、これと共に一家共同の仕事として実際上生産に従事する本人の妻のごとき
をも含むものと解するを相当とする。そして本件では所論P妻A同V妻Bの各始末
書には自分の家で獲つた米を売渡した旨の記載あり、また所論T妻Cの始末書には
自分で作つた米を闇売りした旨の記載が存するから、原判決がこれらの始末書の各
記載を被告人の同趣旨の供述と綜合して同人等を判示のごとく米の生産者と認定し
たからと言つて所論のように証拠によらず同人等を米の生産者なりと断定した違法
ありといえない。本論旨もその理由がない。
 よつて旧刑訴第四四六条に従い主文のとおり判決する。
 この判決は裁判官全員の一致した意見である。
 検察官 橋本乾三関与
  昭和二四年二月一〇日
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    斎   藤   悠   輔
            裁判官    沢   田   竹 治 郎
            裁判官    真   野       毅
            裁判官    岩   松   三   郎

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