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平成24年10月24日判決言渡
平成24年(ネ)第4171号地位確認等請求控訴事件
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1控訴の趣旨
1原判決を取り消す。
2控訴人が,被控訴人に対し,被控訴人の十枚目力士としての権利を有する地
位にあることを確認する。
3被控訴人は,控訴人に対し,平成23年5月から毎月25日限り,月額10
3万6000円及びこれらに対するそれぞれ支払期日の翌日から支払済みまで
年5分の割合による金員を支払え。
4被控訴人は,控訴人に対し,平成23年から毎年8月末日及び12月末日限
り,103万6000円及びこれらに対するそれぞれ支払期日の翌日から支払
済みまで年5分の割合による金員を支払え。
5被控訴人は,控訴人に対し,平成23年5月から毎奇数月末日限り,16万
円及びこれらに対するそれぞれ支払期日の翌日から支払済みまで年5分の割合
による金員を支払え。
6被控訴人は,控訴人に対し,平成23年から毎年12月末日限り,24万円
及びこれらに対するそれぞれ支払期日の翌日から支払済みまで年5分の割合に
よる金員を支払え。
7被控訴人は,控訴人に対し,平成23年5月から毎年1月,5月及び9月の
末日限り,2万5000円及びこれらに対するそれぞれ支払期日の翌日から支
払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
8被控訴人は,控訴人に対し,2400万円及びこれに対する平成23年4月
14日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要
1控訴人は,力士の相撲競技の公開実施等の事業を行う財団法人である被控訴
人に所属し,平成23年4月14日時点で,十枚目力士の地位にあった者であ
る。本件は,被控訴人が,控訴人に対して,平成23年1月場所(以下「本件
場所」ともいう。)の取組において故意による無気力相撲を行ったことを理由
に,平成23年4月14日,被控訴人との間の契約関係を解除する旨の意思表
示(以下「本件解雇」という。)をしたので,控訴人が,被控訴人に対して,
控訴人は故意による無気力相撲を行っておらず本件解雇は無効であることなど
を理由に,十枚目力士の地位にあることの確認を請求するとともに,本件解雇
後の給与等の支払及び不法行為又は債務不履行に基づく慰謝料等の支払を請求
した事案である。
原審は,控訴人の請求のうち,給与等の将来請求に係る部分を却下し,その
余を棄却したので,控訴人は,これを不服として本件控訴を提起した。
2前提事実,争点及び当事者の主張は,当審における控訴人の補充主張を後記
3のとおり付加するほかは,原判決の「事実及び理由」中「第2事案の概要」
の2及び3に記載のとおりであるから(ただし,原判決3頁23行目の「原告」
の次に「(力士名・A)」を加え,14頁4行目から5行目にかけての「相撲
お技術」を「相撲技術」に改める。),これを引用する。
3当審における控訴人の補充主張
(1)控訴人が,B及びCとの間で,本件各取組において真剣勝負をせず各人の
勝敗を1勝1敗にする旨(以下「本件星の回し」という。)の合意をしたと
認めることはできないことについて
アDとBの証言の不一致
本件星の回しの合意を認めるための証拠は,DとBの各証言であるとこ
ろ,これらの証言には,次のような不一致があるので,信用することがで
きない。
(ア)本件星の回しの合意の成立の過程について
DとBの各証言は,本件星の回しを最初に持ちかけたのは誰か,控訴
人を本件星の回しに参加させようと提案したのは誰かにつき一致してい
ない。また,合意形成に至るまでの交渉経過につき,Dは,まずBとC
との間で故意による無気力相撲を行うことについて調整が難航し,その
後控訴人を参加させて3者で星の回しをすることとし,控訴人に本件星
の回しを提案した旨証言するのに対し,Bは,D,C及び控訴人の3者
で本件星の回しの話をまとめた上で,Dから本件星の回しを提案された
旨証言する。
(イ)本件取組に関するDとBの打合せについて
本件取組(本件場所7日目の取組)に関する取組前のDとBとの打合
せについて,Dは,互いに廻しを取る相撲をする旨の提案をした旨証言
するのに対し,Bは,対戦相手に当てにいく体の部位を頭にするか胸に
するかを述べただけで,廻しを取るという話は出ていない旨証言する。
イDとBの通謀について
DとBは,被控訴人の特別調査委員会による調査がされている期間中や
証人尋問に先立って,お互いに連絡を取り合っていた。また,Bは,他の
力士,とりわけ警視庁が提供したメールに名前が出てこない力士の関与を
供述することにつき極めて消極的であったのに,平成23年3月31日に
被控訴人の特別調査委員から電話で本件星の回しについて尋ねられた際
には,簡単かつ積極的に控訴人の関与を認めたが,こうしたBの態度は不
自然であり,Dとの間の通謀が疑われる。さらに,DとBが被控訴人の特
別調査委員会からの聴取を拒絶し始めた時期も一致する。したがって,D
とBは通謀していると考えられるから,その各証言は信用することができ
ない。
ウDとBの平成23年3月30日以降の供述が従前の供述と一貫していな
いこと
DとBは,従前,被控訴人の特別調査委員会による事情聴取において,
Bの故意による無気力相撲としてCとの取組を指摘していたのに,控訴人
との取組は指摘していなかった。特に,Bは,被控訴人の特別調査委員会
の4回目の事情聴取(平成23年2月18日)において,本件場所でのC
との取組が以前のCとの故意による無気力相撲の代償である旨供述して
いた。しかしながら,Dは,被控訴人の特別調査委員会の7回目の事情聴
取(平成23年3月30日)において,本件星の回しに関する供述を始め,
Bも,平成23年3月31日になって,被控訴人の特別調査委員会に対し
本件星の回しに関する供述を始めた。このように,DとBの被控訴人の特
別調査委員会における従前の供述と平成23年3月30日以降の供述は
一貫していないから,その各証言は信用することができない。
エDとBの各証言の客観的状況,事実との不整合について
(ア)アイコンタクトによる合図が困難であること
Dは,支度部屋で故意による無気力相撲の仲介相手と話をする際,ア
イコンタクトで合図を行っており,相手がアイコンタクトに気付かなけ
れば,顔が合うまで待ち続けていた旨証言している。しかし,東西一方
の支度部屋はさほど広くないところ,十両土俵入り前の時間帯において,
十両力士だけで14人おり,各十両力士につき2,3人程度の付き人が
付いているのに加え,幕下力士も多数出入りしているから,大変混み合
っている。そうすると,アイコンタクトで合図をすることは困難である。
(イ)支度部屋裏通路における故意による無気力相撲の仲介が困難であ
ること
D及びBは,支度部屋裏通路において,故意による無気力相撲の仲介
のための面談をしていた旨証言し,特に,Bは,支度部屋裏通路で面会
する理由について,人目を気にしていることを挙げる。しかし,支度部
屋裏通路は,多数の関取,付き人その他の相撲関係者によって喫煙場所,
練習場所として利用されているから,Bの上記証言は,このような支度
部屋裏通路の客観的利用状況に整合しない。
(ウ)証言に係る事前の打合せの内容と実際の取組の状況の相違
Dは,本件取組の前に,Bに対し,廻しを取って相撲をする旨伝えた
旨証言しているのに,本件取組の実際の状況は,Bが突き押しを繰り出
していた。
(エ)したがって,D及びBの各証言は信用することができない。
オ本件場所2日目のBとCの取組前に控訴人を加えた3個の取組の勝敗に
つき合意することは不合理であること
本場所中の個々の力士の状況は日々の勝敗等によって変化するから,故
意による無気力相撲の合意は,その対象となる取組の前日までの個々の力
士の勝敗等の状況を前提にされるはずであるし,取組は前日の夕方に判明
し,個々の力士が翌々日以降の取組を認識することはできないから,あら
かじめ3者間で3個の取組の勝敗を合意しておくようなことをするとは考
えにくい。なお,本件場所における控訴人,B及びCの番付は近いが(控
訴人は東十両▲枚目,Cは東十両▲枚目,Bは東十両▲枚目),平成21
年から平成23年の本場所において,本件場所における控訴人,C及びB
と同じ番付の力士間における取組が3個とも存在したのは,同じ部屋の力
士が同時にこれらの番付にいたケースを除き,14場所中6場所にすぎな
かった。
カBとDに本件星の回しに関し虚偽の供述をする動機があること
控訴人の師匠はE親方である。E親方は,平成22年6月頃に発覚した
力士による野球賭博の問題において,野球賭博に関与した力士に対する調
査,処分などに主導的立場で関与していたところ,F部屋に所属する野球
賭博に関与した力士に,野球賭博に関与した他の力士の氏名などを供述さ
せたが,供述したのと引換えにF部屋に所属する力士の処分は行わなかっ
た。こうしたことが原因で,E親方は多くの力士から反感を買っており,
BやDは,E親方に対する反感が原因で,F部屋に所属する控訴人による
故意による無気力相撲という虚偽の事実を供述したと考えられる。
キGの供述の信用性等について
Gは,被控訴人の特別調査委員会において,控訴人との間で故意による
無気力相撲を行った旨供述したが,その後,控訴人との間の取組のビデオ
を見てこれを否定した。故意による無気力相撲を行っていないのに行った
と誤解することは通常考えられないから,Gは,控訴人に関し,故意に虚
偽の供述をしたと考えられる。Gは,多くの故意による無気力相撲に関与
してきたが,この点については,BやDも同様であり,3者は近い仲にあ
るといえる。そうすると,BやDは,Gと通じ,同様な虚偽の証言をした
と考えられる。
(2)故意による無気力相撲の調査対象の恣意的な設定について
被控訴人における故意による無気力相撲の調査の対象は,平成21年1月
場所以降の取組であり,また,三役以上の力士については,早々に調査対象
から除外している。しかしながら,被控訴人における故意による無気力相撲
の調査委員会による報告書(乙1)には,「八百長問題については,かねて
からさまざまな指摘があったにもかかわらず,日本相撲協会として自浄作用
が働かず,今回の事態に至った。」とあるし,平成21年5月場所のH(本
件場所では大関)とIとの取組は,その決着が「空気投げ」,「念力投げ」
と評するほかないような不自然なものであった。このような事実からすると,
平成21年1月場所より前の場所や三役以上の力士についても,故意による
無気力相撲が行われた可能性が高いのに,これらを故意による無気力相撲の
調査の対象とせずに,三役より下の力士の平成21年1月場所以降の取組の
みを調査の対象としたのは恣意的である。控訴人は,こうした恣意的な調査
の結果,故意による無気力相撲を行ったとされたから,本件解雇は公平性を
欠き無効である。
第3当裁判所の判断
1当裁判所も,控訴人の被控訴人に対する請求のうち,給与等の将来請求に係
る部分は不適法であり,その余の請求は理由がないものと判断する。その理由
は,当審における控訴人の補充主張に対する判断を後記2のとおり付加するほ
かは,原判決の「事実及び理由」中「第3当裁判所の判断」に記載のとおり
であるから,これを引用する。
2当審における控訴人の補充主張に対する判断
(1)本件星の回しの合意が認められるか否かについて
アDとBの各証言の不一致について
控訴人は,①DとBの各証言は,本件星の回しを最初に持ちかけたの
は誰か,控訴人を本件星の回しに参加させようと提案したのは誰かにつき
一致しておらず,また,本件星の回しの合意の成立の過程につき,Dは,
BとCとの間で調整が難航した後で,控訴人を参加させて3者で星の回し
をすることとした旨証言しているのに対し,Bは,D,C及び控訴人の3
者で本件星の回しの話をまとめた上で,Dから本件星の回しを提案された
旨証言し,②本件取組に関する取組前のDとBの打合せの内容について,
Dは,互いに廻しを取る相撲をする旨の提案をした旨証言するのに対し,
Bは,対戦相手に当てにいく体の部位を頭にするか胸にするかを述べただ
けで,廻しを取るかどうかは述べていない旨証言しており,DとBの各証
言が一致しないから,DとBの各証言は信用することができない旨主張す
る(前記第2の3(1)ア)。
しかし,本件星の回しを最初に持ちかけた人物につき,Dは,本件場所
の2日目のBとCの取組における故意による無気力相撲に関し,最初にB
とCのいずれかから電話がかかってきた旨証言し,Bは,Dから話が持ち
込まれた旨証言し,控訴人を本件星の回しに参加させようと提案した人物
につき,Dは,BかCかDかわからない旨証言し,Bは,C,控訴人及び
Dの3人で決めたかもしれないし,Dかもしれない旨証言する(証人J,
証人K)。このように,DやBの証言に曖昧な点が多く必ずしも一致して
いないが,DやBは他にも故意による無気力相撲に関与していること(乙
3ないし5)などに鑑みると,本件星の回しに関する子細な点につき曖昧
で必ずしも一致しない証言をしても,その証言の主要部分に信用性がない
とはいえない。また,本件星の回しの合意の成立の過程に関するDとBの
各証言は,本件場所2日目の十両土俵入前に本件星の回しをすることの合
意が成立したこと,当初,BとCとの間でどちらが勝つのか調整がつかな
かったこと,本件星の回しの合意の形成に当たり,Dは支度部屋を行き来
し,支度部屋ないし支度部屋裏通路で各力士と面談したことという主要部
分において符合しているから(引用に係る原判決の「第3当裁判所の判
断」中の2(1)ウ及びエ),本件星の回しの合意の成立の過程に関するDと
Bの各証言が不一致であるとはいい難い。
したがって,控訴人の上記主張は,採用することができない。
イDとBの通謀について
控訴人は,DとBが,被控訴人の特別調査委員会による調査がされてい
る期間中や証人尋問に先立って,お互いに連絡を取り合っていたこと,B
が,他の力士の関与を供述することにつき極めて消極的であったのに,平
成23年3月31日に被控訴人の特別調査委員から電話で本件星の回し
について尋ねられた際には,簡単かつ積極的に控訴人の関与を認めたのは
不自然であること,DとBが被控訴人の特別調査委員会からの聴取を拒絶
し始めた時期が一致することからすると,DとBは通謀していると考えら
れるから,その証言は信用することができない旨主張する(前記第2の3
(1)イ)。
しかし,DとBが連絡を取り合っていたからといって,直ちにその証言
の信用性が失われるわけではない。また,Bは,平成23年3月31日に,
被控訴人の特別調査委員から電話による事情聴取を受け,従前発覚してい
なかった本件星の回しについて尋ねられているところ,そのやり取り(乙
3)からすると,本件星の回しを仲介したDが被控訴人の特別調査委員会
に本件星の回しについて供述したと考え,そうであれば秘匿することがで
きないと思って供述し始めたと考えられるから,本件星の回しに関する供
述を始めた経緯が不自然であるということはできず,Bが本件星の回しを
供述し始めたことにつき,DとBが通謀していたと認めることはできない。
したがって,控訴人の上記主張は,採用することができない。
ウDとBの平成23年3月30日以降の供述の従前の供述との一貫性につ
いて
控訴人は,DとBが,従前,被控訴人の特別調査委員会による事情聴取
において,Bの故意による無気力相撲としてCとの取組を指摘していたの
に,控訴人との取組は指摘せず,特に,Bは,被控訴人の特別調査委員会
の4回目の事情聴取(平成23年2月18日)において,本件場所でのC
との取組が以前のCとの故意による無気力相撲の代償である旨を供述し
ていたのに,Dは,被控訴人の特別調査委員会の7回目の事情聴取(平成
23年3月30日)において,本件星の回しに関する供述を始め,Bも,
平23年3月31日になって,本件星の回しに関する供述を始めており,
DとBの従前の供述と同月30日以降の供述は一貫していないから,その
証言も信用することはできない旨主張する(前記第2の3(1)ウ)。
しかし,DとBの従前の供述と平成23年3月30日以降の供述が一貫
していないからといって,DとBの証言が信用できないとはいえないこと
は,引用に係る原判決の「第3当裁判所の判断」中の2(2)に説示のと
おりである。
したがって,控訴人の上記主張は,採用することができない。
エDとBの各証言の客観的状況,事実との不整合について
控訴人は,Dが,支度部屋で故意による無気力相撲の仲介相手と話をす
る際,アイコンタクトで合図を行っており,相手がアイコンタクトに気付
かなければ,顔が合うまで待ち続けていた旨証言しているところ,支度部
屋は大変混み合っているから,アイコンタクトで合図をすることは困難で
あること,D及びBは,支度部屋裏通路において,故意による無気力相撲
の仲介のための面談をしていた旨証言し,特に,Bは,支度部屋裏通路で
面会する理由について,人目を気にしていることを挙げるところ,支度部
屋裏通路は,多数の関取,付き人その他の相撲関係者によって喫煙場所,
練習場所として利用されているから,D及びBの上記証言は,このような
支度部屋裏通路の客観的利用状況に整合しないこと,Dは,本件取組の前
に,Bに対し,廻しを取って相撲をする旨伝えた旨証言しているのに,本
件取組の実際の状況は,Bが突き押しを繰り出していたことなど,DとB
の各証言は客観的状況に符合しない点があるから信用することができない
旨主張する(前記第2の3(1)エ)。
しかし,支度部屋が混み合っていたからといって,力士が準備運動をす
る程度のスペースはあるから(証人J),アイコンタクトが困難であると
まではいえないし,支度部屋裏通路が多くの関係者に利用されていても,
人目を気にしながら他に知られたくない内容の会話をすることは可能であ
る。また,乙8によれば,Bは,本件取組において,控訴人を1回突き放
しているものの,ほどなく控訴人に左の上手廻しを与えていることが認め
られるから,DのBに対する事前の伝言と実際の相撲内容が異なっている
とはいえない。
したがって,控訴人の上記主張は,採用することができない。
オあらかじめ3者で3個の取組の勝敗を合意することが不合理であるか否
かについて
控訴人は,故意による無気力相撲の合意は,その対象となる取組の前日
までの個々の力士の勝敗等の状況を前提にされるはずであるし,個々の力
士が翌々日以降の取組を認識することはできないから,あらかじめ3者間
で3個の取組の勝敗を合意しておくようなことをするとは考えにくい旨
主張する(前記第2の3(1)オ)。
しかし,Dは,3者で星を回し合うことが多い旨証言していることに照
らせば,3者で合意することが,故意による無気力相撲の形態として,し
ばしば行われることであるということができる。そして,本件場所の番付
は,控訴人が東十両▲枚目,Cが東十両▲枚目,Bが東十両▲枚目であり,
十両は28人しかおらず,同一の場所において15日の取組があるから,
近い番付(枚数)の十両力士同士はその場所中に高い確率で対戦すること
になるということができるところ(甲25,乙30),CとBとの間で,
本件場所の2日目の取組において故意による無気力相撲の調整をすること
ができなかったのであるから(証人J,証人K),控訴人を加えて3者で
故意による無気力相撲の合意をすることは,十分に合理性があるといえる。
なお,甲70の1~4によれば,本件場所における控訴人,C及びBと同
じ番付の力士間における取組が3個とも存在したのは,同じ部屋の力士が
同時にこれらの番付にいたケースを除き,平成21年から平成23年まで
の14場所中6場所であることが認められるが,これをもって3個の取組
が同一の場所で全てされる確率が低いとはいえない上,3者間で勝敗の合
意をしたものの,同一の場所で3個の取組全てがされなかった場合には,
その取組が次の場所以降にされた時に故意による無気力相撲を行い,次の
場所以降にその取組がされない場合には金銭を支払って精算がされること
もあるため(証人J,証人K),同一の場所で必ず3者間の3個の取組が
されるとは限らないことは,あらかじめ3者間で3個の取組の勝敗を合意
することを妨げる事情であるとはいえない。
したがって,控訴人の上記主張は,採用することができない。
カDとBが虚偽の証言をする動機について
控訴人は,控訴人の師匠であるE親方が,平成22年6月頃に発覚した
力士による野球賭博の問題において,野球賭博に関与した力士に対する調
査,処分などに主導的立場で関与し,F部屋に所属する野球賭博に関与し
た力士に,野球賭博に関与した他の力士の氏名などを供述させたが,供述
したのと引換えにF部屋に所属する力士の処分は行わなかったことなど
が原因で,多くの力士から反感を買っており,BやDは,E親方に対する
反感が原因で,F部屋に所属する控訴人による故意による無気力相撲とい
う虚偽の事実を供述したと考えられる旨主張する(前記第2の3(1)カ)。
しかし,引用に係る原判決の「第3当裁判所の判断」中の2(1)ウ,
エに説示のとおり,D及びBは,E親方に対して反感ないし恨みを持って
いたことを否定する旨の証言をしている。そして,控訴人はE親方の弟子
の1人にすぎず,控訴人が解雇されたりしてもE親方に大きな不利益が生
じるとはいい難いこと,D及びBも本件星の回しに関する自らの供述によ
って控訴人の解雇といった重大な結果が生ずることを認識しているはず
であり,虚偽の供述をしたことが発覚した場合には自らに重大な不利益が
及ぶことを考慮すると,D及びBに虚偽の証言をする動機があるとはいい
難い。
したがって,控訴人の上記主張は,採用することができない。
キGの供述の信用性等について
控訴人は,Gが,控訴人の故意による無気力相撲に関し,故意に虚偽の
供述をしているところ,多くの故意による無気力相撲に関与してきたBや
DはGと近い仲にあり,Gと通じて同様な虚偽の証言をしたと考えられる
旨主張する(前記第2の3(1)キ)。
しかし,故意による無気力相撲の対象となる取組が,BやDの各証言と
Gの供述とで異なるから,これらの間に関連性はなく,Gの供述が虚偽で
あることは,BやDの証言の信用性に影響しないというべきである。
また,乙6(被控訴人の特別調査委員によるGに対する平成23年4月
8日付け事情聴取報告書)によれば,平成23年2月3日から同年3月3
0日にかけてGに対し被控訴人の特別調査委員会により9回にわたる事
情聴取が行われたこと,Gは,故意による無気力相撲を行った力士として,
控訴人を含む17名の力士の名を挙げたこと,控訴人とは少なくとも1度
故意による無気力相撲を行った記憶がある旨供述したこと,調査対象とさ
れた平成21年1月場所以降に控訴人との間で3回の取組があり,平成2
2年3月場所と平成22年5月場所の取組についてDVDで確認したと
ころ,いずれも真剣勝負なので,平成21年11月場所に故意による無気
力相撲を行ったと思う旨供述したこと,その後,同場所の取組についても
DVDで確認したところ,真剣勝負であると供述したことが認められる。
このように,調査の対象が平成21年1月場所以降に限定され,Gの故意
による無気力相撲の相手方として調査の対象になる力士も17名に上る
から,Gは,控訴人との間の故意による無気力相撲に関し,平成21年1
月場所より前のものをそれ以降のものと思ったりするなどの記憶違いを
することもあり得るし,DVDで確認した都度故意による無気力相撲を否
定しているから,故意に虚偽の供述をしたとは考えられない。
したがって,控訴人の上記主張は,採用することができない。
(2)故意による無気力相撲の調査対象の恣意的な設定について
控訴人は,被控訴人における故意による無気力相撲の特別調査委員会によ
る報告書に「八百長問題については,かねてからさまざまな指摘があった」
旨指摘されていることや平成21年5月場所のH(本件場所当時では大関)
とIの取組は故意による無気力相撲と考えられることからすると,平成21
年1月場所より前の場所や三役以上の力士についても,故意による無気力相
撲が行われた可能性が高いのに,故意による無気力相撲の調査の対象を,平
成21年1月場所以降の取組とし,また,三役以上の力士については,早々
に調査対象から除外したことは,恣意的であり,控訴人は,こうした恣意的
な調査の結果,故意による無気力相撲を行ったとされたから,本件解雇は公
平性を欠き無効である旨主張する(前記第2の3(2))。
しかし,乙32(被控訴人の特別調査委員であった弁護士村上泰の平成2
4年8月30日付け陳述書)によれば,被控訴人の故意による無気力相撲の
特別調査委員会が設置されたきっかけは,平成22年に生じた力士による野
球賭博の問題に関して,警視庁が力士らの携帯電話を押収し,その内容を解
析した結果,平成22年3月場所と平成22年5月場所において,故意によ
る無気力相撲が行われていたことを疑わせるメールが発見されたことである
こと,被控訴人の特別調査委員会は,平成23年2月2日から同年5月18
日までの間設置され,従前,被控訴人と関係のない弁護士などで構成された
こと,被控訴人の特別調査委員会が力士に対して事情聴取をしたところ,そ
れ以前の場所においても故意による無気力相撲が行われていたことが判明し
たこと,故意による無気力相撲を認定するためにはその取組を特定する必要
があるところ,過去に遡るほど記憶が不鮮明になり取組の特定も困難になる
ので,被控訴人の特別調査委員会は,平21年1月場所以降の取組を対象
とすることとしたことが認められる。そうすると,故意による無気力相撲の
調査の対象を平成21年1月場所以降の取組としたことは,被控訴人による
恣意的な措置であるとは認められない。
また,控訴人が指摘する平成21年5月場所のHとIの取組が,故意によ
る無気力相撲であることを認めるに足りる証拠はないし,被控訴人が,無気
力相撲の調査対象から三役以上の力士を除外したことを認めるに足りる証拠
もない。
したがって,控訴人の上記主張は,採用することができない。
3結論
よって,控訴人の被控訴人に対する請求のうち,給与等の将来請求に係る部
分は不適法として却下し,その余の請求は理由がないから棄却すべきであり,
これと同旨の原判決は相当であって,控訴人の本件控訴は理由がないから棄却
することとして,主文のとおり判決する。
東京高等裁判所第15民事部
裁判長裁判官井上繁規
裁判官笠井勝彦
裁判官宮永忠明

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採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
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